──GL533年。
大陸北部の荒野に聳え立つのは、細長い岩山を細工したかのような巨大な建造物だ。
青い鉱石か何かで作られたその遺跡は、一体いつから存在するのか。どんな材質で作られているのか。誰がどんな目的で作ったのか。何もかもが分からない。
ただその古代の遺跡は、人間の冒険者にとっては食い扶持の一つとして知られていた。
主要となるのは地下の迷宮部分であり、そこは多くの魔物が住処としている他、金と食料などを求めて冒険者達がうろつく場所である。
だがそこが、別の意味で重要な場所であることに気づいているのは僅かしかいない。
地下1階。その一角の目立たない場所に、それは存在する。
4つの台座と謎の扉。それは何も知らなければ、ただそこにあるだけでなんの意味も持たないものだ。
しかし、4つの黄金像という鍵を手に入れることでその扉は開かれ、ある場所への道を繋げる。
そのある場所を知る者、あるいは何が起こるかを知り得た者、あるいは奇跡的な偶然でそれらを知り得た者。
過去、その誰もが扉の先に挑み、何事かを成して帰ってきた。
決して歴史に刻まれることのない、秘匿されたその場所。辿り着くのは並大抵のことではない。
だが、人の身でそこに辿り着いた者達がこの暗黒時代に存在した。
彼らはこの日、遂に4つの黄金像を手に入れて古代の遺跡に挑んだ。
前日に綿密な打ち合わせを行い、それぞれの夜を過ごし、最後となるかもしれない一日を迎えた。
しかし後悔はない。彼らは誰もが魔人を倒すために人を捨てた者達だ。
その力の強大さを実感した彼らは、何としてでも魔人を倒すための何かを掴まなければならない。
例えそれが魔人による罠の可能性があろうとも、彼らにはそこを目指すしかないのである。
懸念はあった。しかし、
「あの魔人の言葉に嘘はないように思えた。あの魔人は……多分だけど、僕達人間が力を手に入れることを望んでいる。敵となり得る存在を求めている……そんな気がするんだ」
「ブリティシュ……お前……」
「……貴方がそう言うのならそうなのでしょう。貴方の勘は、よく当たりますからね」
──ブリティシュのこの言葉が決定打となった。
彼のこういった重要な事に対する勘はよく当たる。窮地をこの勘に助けられ、今まで何度も死線を潜り抜けてきた仲間達はよく理解していた。
故に最も警戒していたカオスも、その言葉を聞いて最終的には納得した。
確かに、誰もが思うことではあった。あの魔人──レオンハルトは、どこか不可解な行動、言動であったと。
少数でも人間に良い思いをさせたり、自分達を見逃した上に、黄金像も約束通り渡してくるなど、どう考えても敵対関係にある魔人の行動としてはあり得ない。
だからこそ、この黄金像は罠である可能性を考えたのだがその可能性は低いと考えられた。
何故なら、自分達を害するのであればこんな回りくどいことをする必要はないからだ。
あれだけの力があるのであれば、正面から叩き潰してしまえばいい。ましてや、実際に相対して殺す機会は幾らでもあったのだ。
魔人の言葉が信用に足らないとはいえ、ただ単純に嘘という風には確かに思えなかった。
そもそも黄金像を自分達が見つけたのは完全に偶然で、しかも使用用途の手掛かりを記した壁画も、古い遺跡から見つけたものだ。罠だとしても大掛かりすぎる。
結論として、黄金像とあの扉、そこに力が手に入る何かがある可能性は高いと判断した。
警戒はするべきだが、向かわない訳にはいかない。何があるかを確かめるためにも、ブリティシュら一行は、古代遺跡への突入を決行した。
遺跡の探索は熾烈を極める。まず最初に、遺跡に突入する直前で現れたのが、
「──ほほほほほっ! あんた達の好きにはさせないよ!」
「ちっ、出やがったな、ヒステリー魔女が」
突然の魔法を躱し、聞こえてきた高い声にカオスが吐き捨てる。
岩肌の影から姿を表したのは、やや年を食った女魔法使い──エイナとその一味だ。
側近として二人の魔法使い、年若い女魔法使いであるメイと、青年のシンを従え、更には前衛として三人の剣士を加えた彼女は、稀代の魔法使いを自称する高飛車だが、それなりに知られた冒険者だ。
以前、ホ・ラガとブリティシュに惚れて夜這いを仕掛けたが、そのことで酷い仕打ちを受けたとして一行を目の敵にしており、行く先々で邪魔をしてくる連中──ブリティシュらにとっては、控えめにいっても迷惑な存在だった。
「黄金像だか何だか知らないけど、あたしをコケにしたあんた達……特にホ・ラガ、あんたは許さないよ! 白色破壊光線!」
ホ・ラガへの恨みつらみ、その復讐を謳いながら彼女は高威力の魔法を放つ。しかし、
「バリア!」
その魔法は、カフェのバリアによって容易に防がれてしまう。
おおよそ全ての攻撃を防いできたカフェのバリアの硬度は知られたものであり、それなりの魔法使いの魔法くらいはどれだけ撃たれようと破れることはない。
魔法の実力でも完全に負けている──だというのに、エイナは部下に命令しながら五人に襲いかかった。
それを受けて、五人も本気を出す。今までは手加減して、適当に追い払っていたが、今日この日だけは冗談が通じない。
例え同じ人間だろうと、彼らの目的を邪魔する奴らは薙ぎ倒していかなくてはならない。
その覚悟を秘めた彼らの心を、エイナ達は見抜くことが出来なかった。
「ぎゃあっ!!」
「ぐえっ!!」
「く、そ……!」
「ほい、終わりだ。まったく……クズはこの世のためにも殺しちまうに限るな」
カオスが向かってきた三人の剣士を、手に持った短刀で瞬く間に片付けてしまう。そうしてカフェのところに直ぐに戻ると、残る戦闘を二人で観戦する。だが、
「っ……ぁ……?」
「…………」
側近の魔法使い、メイが何が起こったか分からないと言わんばかりに表情を歪めて呻き声を漏らす。
戦闘は一瞬の事だった。メイが魔法を詠唱して放つ──その直後に、ブリティシュは彼女の懐に潜り込み、心臓に剣を突き立てていた。
何が起きたのか、己が死んだことすら理解出来ずにメイは瞳を閉じて、身体から力を抜く。
それを受け止め、優しく地面に横たえるブリティシュ。その表情は真剣なものであったが、どこか哀しみを感じているようでもあった。
亡骸にお辞儀をして、仲間のところに戻るブリティシュ。その間にも、また決着が着いていた。
「おおお! ファイアーレーザー!」
青年の魔法使い、シンが両手から魔法光を発生させて、何度も魔法を放つ。
だがその対峙している相手、日光はそれを紙一重のところで躱して距離を詰めた。
「しっ──!」
「っ、かはっ……!」
一閃。日光が目にも留まらぬ速さでシンを刀で打ち捨てる。
しかし他の者達の様に返り血を浴びることはなかった。何故なら、
「峰打ちです。殺してはいません。……殺すほどでもありませんから」
彼女は何かを思った表情で倒れたシンを放置すると、踵を返して残心。鞘へと刀を収めながら仲間のところに戻っていく。
そして最後の決着も、
「悪いがエイナ。君では二つの意味で、私の相手にはならない。それは分かっているはずだと思うが?」
「っ……うるさい! あたしをコケにしやがって……! 何も言わずに逃げたブリティシュもだが、あんたは最低だった! 湯に入って消毒までして、挙句の果てに吐いた言葉が“汚いから乗らないで下さい”だ! あの屈辱をあたしは忘れちゃいないよ!」
「女性に興味がないだけなのだがね……どうしてもやるつもりかい?」
「あんただけは何があっても殺す! そのためだけにここまで来たんだよっ!!」
因縁の相手を睨みつけ、魔力を集中させるエイナ。
宙に浮き、自分の周囲にバリアを張るエイナは、間違いなく熟練の魔法使いである。そのことは誰が見ても明白だ。
だが、
「そうか……」
ホ・ラガはため息を一つ吐く。そこには緊張や相対する上での強い感情は見当たらない。
ただただ面倒だと感じている様子で、ホ・ラガは無造作に魔力を集中させてエイナに向かった。
その刹那、エイナが魔法を放つ一瞬の隙に割り込み、ホ・ラガは氷の魔法でバリアを貫通させ、その氷柱を以てしてエイナの身体を貫いていた。
「そ、んな……嘘……」
心臓を貫かれたエイナが、地面へと倒れる。それを下に見て、ホ・ラガは言った。
「二つの意味で相手にはならないと、私は言いましたよね? 貴女の魔法は私に通用しない。そのことをもっとよく理解するべきでしたね……」
そうしてホ・ラガは踵を返す。しかしそこに、
「くっ、くそ……、よくもマスターを……!」
苦しそうにしながらも立ち上がるシンの姿があった。それを見て、カオスが顔を顰める。
「おい、日光。また殺さなかったのかよ」
「…………殺す必要を感じませんでしたから。ですが、立ち上がったのなら──」
再び日光が刀を構えようとする。だがそこに割り込むようにして、ホ・ラガが告げた。
「──いや、私が行く。皆はここで待っていてくれ」
「えっ?」
「……ああ、そういう……」
「言わんこっちゃねぇ……ホ・ラガ好みの美形を生かすとこうなるだろうが! 可哀想に……慈悲を与えるならまだ殺してやった方がマシだろうが……」
カオスが表情を青褪めさせ、他の面子も何ともいえない表情となる。
その間にも、ホ・ラガはシンを連れて遠くの岩陰に引っ込むと、
「君も冒険者であれば分かっているはずだ。殺し合いをしにきたのであれば、何をされても文句は言えない。殺されようとも、物資を奪われようとも、性的に犯されようとも、捕虜に文句を言う資格は存在しない。──そうだね?」
「な、なんだと……? っ、お、おい貴様! 何をする! 何故服を脱がし──ひぃっ!? な、何を押し当てている!?」
「何って、
「……っ!? や、やめろ! 俺に触れるな! 抱えるな! 離せ! やめっ──」
「うむ、離してあげよう。別の場所が繋がるかわりに……」
「は、離せ────!! 離してくれえええええええええ──!!!」
岩陰からシンの絶叫が聞こえ、そしてしばらくして大声が聞こえなくなった。
そのことに、ブリティシュやカオスは戦慄し、カフェや日光も何とも言えない表情で休憩の準備をする。どのみち、終わるまでは動けないからだ。
故に何時も通りお茶の準備をカフェが行い、皆にお茶を配り始めて一服した頃──ホ・ラガは酷くすっきりした様子で戻ってきた。
「──ああ、待たせたね」
「本当にまったわい。ったく……どうせなら、あの若い女の方が残ってれば儂も出来たんじゃが……」
「そういうこと言わないの。もう……はい、ホ・ラガ」
「ああ、ありがとう」
カオスの発言に呆れるカフェからお茶を受け取るホ・ラガ。
怖ろしいことが起きた後ではあるが、その場はこれから死地に向かうかもしれないというのに、とても穏やかな雰囲気が漂っていた。
それは誰もが心の中で、これがゆっくりとお茶を飲める最後の機会だと予感しているからかもしれない。
扉の先に何があって、何が起ころうとも──例え無事に帰って来ようとも、自分達にゆっくりとしている時間は無くなる。
もし魔人を倒すための力を手に入れたら、その先に待つのは“戦い”だ。
これまで以上に激しく、どうしようもない程に戦い続けることになるだろう。皆が無事であれる保証もない。皆がこうやって、ゆっくりと穏やかな表情でお茶を飲める保証もない。
この暗黒時代。人にとっては生き地獄。明日がどうなるかさえも見渡せない暗い闇の世界において、僅かながらでもゆっくりと休める保証があるのは恵まれていることではあった。
それは人を捨てた彼らにとって、かけがえのない時間だ。
カオスが馬鹿な事を言い、カフェが誂われ、日光が窘めて、ホ・ラガが何かを冷静に指摘し、ブリティシュが苦笑交じりに声を掛ける──人を取り戻すことの出来るかけがえのないひと時であった。
だが、この古代の遺跡に入った後は、真に人を捨てることになるかもしれない。
その保証さえも捨てることになると誰もが薄々と理解し、故に噛みしめるように最後の休憩をお茶と共に味わう。
その最後の一杯を、誰もが惜しむように、最後の一滴まで飲み干すと、示し合わせたように彼らは立ち上がった。
「──行こう」
ブリティシュの決意に満ちた一声に、皆も決意に満ちた声で頷く。
ただ一人、悩む者がいながらも、それには気づかず、あるいは気づこうとせずに──彼らは最後の旅となるかもしれない古代の遺跡へと挑んだ。
遺跡の中は、濁りきった匂いで充満していた。
その中を、五人は無言で進んでいく。
扉の場所は既に調べ終わっている。地下一階の目立たない一角。故にその場所へはあっさりと辿り着いた。
「……ついに、か」
誰の言葉か、息を呑むような音が連続する。
そこにあるのは、4つの台座と、異様に巨大な扉。
かつて古い遺跡の壁画で見たのと全く同じ構図のそれだ。
「黄金像を──」
「……僕が正面を守る。皆は黄金像を置いていってくれ」
ブリティシュが扉の正面に盾を構えて移動し、皆に黄金像を手渡す。
ひまわり型。盆栽型。言わ猿型。そして──ひょうたん型。
最後の黄金像を台座の上に置くと、皆は自然と武器を構えた。
その直後、僅かに嫌な感じがした。
「……? おい、何も起きねぇぞ──」
「そんな……っ、後ろっ!」
「え──うぉあああっ!?」
皆の間から一瞬、空気が弛緩仕掛けた時、カフェが周囲を見渡してそれに気づく。背後に現れた存在に。
「──がぁ、があああ……!」
「っ、なんだこいつは……!?」
そこにいたのは、今まで見たことのない怪物だった。
透明のセロハンを薄く壁に印刷したような不気味かつ無骨な人に似た形をした存在。人間の四倍以上はある巨大な影。
魔物とは違う異様な気配を漂わせる怪物と対峙し、五人の緊張は最高潮に達した。
「扉は開かない……だとすれば……番人か!?」
「おそらくはそうだろう! 何にしても、まずは──」
「っ、とりあえず倒すぞ!」
「行きます……!」
「き、気をつけて! おそらくさっきのは、酸か何かよ!」
五人が武器を構えて戦闘態勢に入る。
扉を守る巨大かつ異様な番人。五人は遂に、それとの戦闘に入った。
──その瞬間、別の場所で別の巨大な存在はそれを察知した。
「! ──ほう? 久し振りに到達する者達が現れたか……」
ここではない何処かの異様な空間。そこにいる存在は、何百年、あるいは千年振りとなる訪問者の存在に興味を示した。
その直後、空間に現れるのは輝く存在、黄金の髪を持つ美しい少女だ。
「……申し上げます、プランナー様。例の扉に人間達が──」
「知っている。──が、人間か。ふむ、面白い。人間が到達するとは……」
「はい。世は魔物が席巻しておりますれば……人において、そのような存在は貴重かと」
薄い笑みを常に携える女は、通常、下の者に見せる──どこか悪辣なものとは違い、心から眼の前の存在に対して敬い、畏怖し、恍惚した様子で慇懃に接している。
「ふむ、これも私の作り上げたバランスが優れていることの証明か」
「はい。仰る通りかと……」
だがそれを何とも思わずに、ヒトデに似た形のその存在は興味と共に自らを讃える。輝く少女もそれに同調する。続いて少女は柔和な笑みのまま、
「如何なさいますか?」
「扉を潜るようであれば直接ここに通せ。人間であれば……ふふ、どのような願いを口にするかは大体予想がつく。ちょうど、もう少しバランスを整えたいと思っていたところだ。その人間らが愚か過ぎなければ、それが叶うだろう」
「畏まりました。天界を経由せず、直接御身の前へと繋げます」
「うむ、そのようにせよ。女神ALICEよ」
「はい。承りました。では──」
最後まで丁寧に一礼し、女神はその場から消える。
その場にただ一柱となった空間で三超神、プランナーは神の扉の前で戦う五人の人間を覗くことにした。
おおよそ、神が一個人を観察するようなことはなく、基本は俯瞰で全体を視ているのみだが、こういった場合は別であった。
「神の失敗作……ふふ、それを倒すほどの人間か。馬鹿のローベン・パーンが作ったにしては中々面白いこともあるものだな。もっとも、バランスを調整している私の功績に違いないが……」
プランナーは、神の失敗作とはいえ、それを倒してみせるほどの人間の存在に喜ぶ。
きっと長い冒険の果てに、死力を振り絞ってここまで辿り着こうとしているのだろう。
ならばそれを達成した対価を与えてやるのは当然だし、おまけとして特典をつけてやるのも良いだろう。
それが例え、望まないものだとしても、とても喜んでくれるに違いないと、プランナーは彼らを出迎えることにした。
辿り着くのは4人。1人を犠牲にし、神の扉を潜って眼の前に辿り着いた矮小な人間達に、プランナーは告げる。
「──よくぞここまで辿り着いた。勇敢なる冒険者たちよ」
「っ……お前、は……?」
「私は天上に座する者。天上より世界を見守る者」
息を呑む四人に、プランナーはあくまでも善良なる神として彼らに告げる。
「汝ら──ここまで辿り着いた褒美として願いを告げるがよい。どのような願いでも叶えてやろう」
内心では、愉快ともいえる感情が渦巻く中、プランナーは願いを問いかけた。
──扉の先は、不思議な異空間だった。
神の失敗作を、ブリティシュが酷い怪我を負いながらも倒し、彼の“行ってくれ”という願いに苦渋の決断をしてその先へと進んだ彼らは、その神々しい声を聞いた。
「汝ら──ここまで辿り着いた褒美として願いを告げるがよい。どのような願いでも叶えてやろう」
それは、明らかに──神。
そしてその言葉は、自分達の旅が、間違っていないことの証明だ。
願いを叶える。神と思わしき存在の力があれば、それはきっと、どんなことでも叶うのだろう。
かつて目の当たりにした強大な魔人を越える存在感を放つ眼の前の何かであれば、本当に叶うのだと誰もが確信出来た。
だからこそ、彼らは願いを告げる。
「……儂は──魔人や魔王を殺す力を」
最初に願いを告げたのは盗賊カオス。
魔人にかけがえのない恋人を殺された恨みを持つ彼は、迷うこと無く魔人を殺す力を欲する。
「……私も、魔人と魔王を倒す力を」
次に願いを告げたのは侍日光。
カオスほどではないにしろ、魔人に対する憎しみを持つ彼女も、冷静な頭で願いを改めて考え、魔人を倒す力を欲した。
「……なら私は、魔人と戦うため──全ての知識を」
そして魔法使いホ・ラガ。
彼は更に深く考え、全ての知識を欲する。そうすれば、魔人を倒す方法を他に知ることが出来る他、あらゆることの役に立つと考えたからだ。
魔人に恨みはない。されど、ブリティシュの必死の願いを耳にした彼は、それを果たそうと全力を尽くすことをとうに決めていた。
「了承した。さあ──汝も、願いを告げるがよい」
「……私、は……」
最後に残ったのは、神官カフェ・アートフル。
彼女は神に願いを問いかけられ、俯く。
「カフェ……?」
「……? おい、お前も早く願いを……」
様子がおかしいカフェに、日光やカオスが訝しむ。
しかしその言葉は届いていない。今、彼女の頭にあるのは、先ほどの出来事も含めた、今までの苦痛の思い出だ。
『やーい、チビ! ちんちくりん! ブス!』
『日光さんは美人だよなぁ……でもあっちのは……』
『あの五人の実力は一級品だよな。……一人、子供みたいなのがいるけど』
『この眼鏡ちび! 生意気だよ!』
彼女は子供の頃から、その子供っぽい容姿を弄られてきた。
自分でも、己がずんぐりむっくりで、日光やホ・ラガのように美しい容姿でないことは自覚している。
しかし、それで傷つかないこととは別問題だ。
『カフェ……今、君の力を必要としているのは僕じゃない。彼らなんだ。それは分かるだろ……?』
つい先ほどのこと。ブリティシュは酷い怪我を負い、他の四人に、残るといったカフェに、先へ行くことを促した。
その様子は悲痛なものであったが、同時に、何かを危惧するような不安を抱えていることに、カフェは気づいていた。
しかしとうとう、側にいることも含めて、彼の心の内を知ることは出来なかった。
……もしわたしが……普通の可愛い女の子だったら……貴方の側にいて、貴方の考えを知ることが出来たの……? もしわたしが、日光さんみたいに綺麗だったら……。
同じ目的で旅をする仲間、日光。彼女の美しさは男性のみならず、女性でも見惚れるほどであった。
それだけに、カフェは行く先々でその容姿を比べられ、辛い思いをしてきた。
だが、仲間達はそれを気にしてはいない。むしろ、そのように貶められる時は必ず自分の為に怒ってくれた。
日光も、
『気にすることはありませんよ、カフェ。私はカフェのことを可愛いと思います』
気にすることはない、時には褒めるような言葉と共に慰めてくれた。
そこには一切の悪意がない。純粋に、仲間を慰める優しい言葉だった。
だがカフェの心は、その度に小さな棘で傷ついていった。
空元気の様な笑みで誤魔化しながら、傷ついていることを悟られないように強がった。
そんなつまらないことを問題にしちゃいけない。
皆、魔人を倒すために真剣に戦っているのだ。
あの魔人と相対した時も、怯えて使い物にならない自分とは違って、皆は戦う意志を持ち続けていた。
自分だけが、役立たずだった。
……そう、よ。わたしなんて……力を手に入れたところで、どうせ敵いっこない……。
他の皆なら戦うことが出来るだろう。強い意志と覚悟を持っているから。
だけど自分は結局──ブリティシュについていくために、彼への恋心という不純な動機と覚悟で旅をしていたに過ぎない。
同じような目的にホ・ラガはいるが、彼は違う。彼は、ブリティシュの願いを叶えるためなら、ブリティシュすら見捨てられる。
自分には出来ない。覚悟が不十分な自分には。
だから──
「おい、カフェ! 早く願いを──」
「──私は……」
告げる。己の願いを。神に向かって、
「私は──美しさが欲しい……! 誰もが羨むような、絶世の美女になりたいっ!」
「カフェ……!?」
「っ、カフェ……お前、何を……?」
「……カフェ……君は……」
その願いを口にし、三人は思わぬ言葉に驚く。
突然の事だったからだ。魔人を倒すために集まった自分達。
その中で彼女だけが──私欲を、己の欲を果たす願いを口にしたから。
それが許せないという話ではない。そういうことを口にするとは思ってもいなかったから。
だからこそ、彼らは初めて耳にした彼女の願いを、その慟哭に近い叫びを聞いて、彼女の涙を眼にして、ようやくそれに気づく。
大切な仲間の悩みに、今まで気に留めようともしなかった真実に。
だが、その隔たりを解消する暇を、神は与えない。
「──ふふ……了承した。その願い叶えてやろう」
そこで初めて感情らしきものを見せた神は、彼らに向かって何かをする。
異空間の中で、彼らの身体が発光した。
「っ、ぐ、ああああああああ!?」
「こ、れは……あああああっ!?」
「ぐ、うぐっ! 何かが流れ込んでっ……これは……!?」
「っ……これ、で……ようや、く……っ!」
四人はそれぞれ、願いに沿ったものを与えられる。
そのために身体の中をかき回されるような痛みを受けて絶叫する二者や、頭の中に流れ込んでくる膨大な知識に酷い痛みを訴えるホ・ラガ。
そして涙を落としながらも、身勝手な願いに対する思いに痛みも忘れて感じ入るカフェ。
四人の身体は光り輝き、それぞれ世界のどこかに転移されながら、その願いを叶えられる。
「魔人や魔王を倒す力──」
それは、神が予想した願いの本命。
魔人と魔王を倒せる力。それを求めた者を、世界のバランスを整えるために利用する。
その形を、黒の剣と白の刀に変えて、世界へ産み落とす。
自己意識を持たせたまま、かの無敵結界を斬り裂き、魔王とその眷属に絶大な効果を発揮する武器とする。
一つは──魔剣カオス。
一つは──聖刀日光。
勇者とは違う、人が魔を倒すための唯一の方法を産み落とし、神は別の方にも注力する。
「全ての知識を──」
それは変わり種の願い。
この世のありとあらゆる知識を得ようとする、愚かな人間らしい傲慢な願い。
だがその願いは確かに叶える。
この世のありとあらゆる知識──直視し難い真実、絶望の知識も含めて全てを与える。
そして、
「誰もが羨む美貌──」
それは、神でさえ予想し得ない願い。
愚かな人間の極み。願いを叶えられる絶好の機会を、そのようなくだらない願いでふいにしてしまう最悪の答え。
だが、その愚かすぎて予想することさえ叶わなかった願いを、神は喜ぶ。
故に願いは正確に叶えられる。
世界でも最高の、誰もが羨み、誰からもその滾った欲望を向けられ、もはや中身の尊厳も何もかもを顧みなくなるような至高の美貌を。
「汝らの願い──三超神、プランナーがたしかに叶えたぞ」
それらの願いを、出来るだけ長く味わえる様に、おまけの不老不死を加えて叶えてみせる。
全ての願いを叶え終わると、その場にはただ一柱の存在だけが残った。
──かくして、彼らの人間としての長い旅は終わりを告げた。
「儂は……人でなくなったのか……? 魔人を殺す力ってのは、こういう──」
「魔人を倒す力とは、こういうことでしたか……」
「これが、私……これで、私も……ようやく彼の元に……!」
世界のどこかで人を捨てた二振りは、今はまだ、その苦しみを認識することはない。
美貌を得た彼女も、今はまだ、手に入れた物を喜ぶ余裕があった。
その一方で、
「これが……この世の、真実だというのか……? あれも、これも……ああ、
地面に膝を突き、頭を掻き毟りながら絶叫する男。
全ての知識を得た彼は、一足早い絶望を味わっていた。
想像しうる中でも最悪の──否、想像以上の悪夢。
何をどうしてもどうにもならない。それが現実だと知った彼の嘆きの叫びは虚しく響いた。
そして──
「っ、はぁ、はぁ……ホ・ラガ……カフェ……カオス……日光……皆、一体どこへ行ったんだ……?」
荒野をただ一人、歩く者がいる。
扉が閉じられ、黄金像もどこかへと消えてしまった。
どれだけ待ち続けても扉の先へと向かった彼らは戻ってこない。
彼はただ一人、消えた仲間を探して彷徨い歩く。
それは、彼が人の人生を全うして死ぬことが出来るということだ。
しかし、
「……許さ、ない……復讐、してやる……ッ!」
その影を追いかける男が一人。
己すら犠牲にする禁呪を携えた男によって、彼はまた別の運命に囚われることになる。
暗い洞窟でただ一人、孤独に生き続けるしかない──そんな運命に。
その一方で、
「──今日は記念すべき日だな。少々、不謹慎ではあるが……」
紅い城を根城とする魔人は、そのテラスから吹き抜ける風に、嫌なものが混ざっていることに苦笑する。
誰もが気の所為だと断じる程度の予感。それこそがこの世に、魔人を害するものが生まれた証明に他ならない。
だがそれが生まれたことは、これから起こる多くの出来事の布石となるものだ。
その手始めとして、百年後。彼が期待する存在が現れる。
「……クク、まるで“あの時”と同じだ」
それはかつて、己と斬りあった最強の人間の存在を予感した時と同じだ。
胸に受けた傷が疼く。既に完治して傷跡も残っていないが、深手を受けた時の記憶は今でもはっきりと思い出せる。
だが今度はまた違う。今度は、
「……随分と、愉しみにしておられるようで」
「……お前か。いやなに、相当の強者だからな、嫌でも身体が喜んじまうだけだ」
「左様でありますか」
そこに現れたのは、異常に長い白い髪を持つ魔女。
彼女は魔人の要請を受けて、百年を待たずに再び邂逅した。
その理由は、
「……しかし良いのですかな?」
「何がだ」
「いえ、私は私であのお方の為に悪巧みをしますが……レオンハルト殿は、出来れば止めておいた方がよいかと」
「……ハッ、それはつまり──」
告げる。魔女が、ええ、と首を縦に振り、
「はっきり言っておきます──
「…………」
未来視の魔女から告げられた言葉──予言を耳にして、魔人は一度表情を消す。だが直ぐに苦笑し、
「……それで?」
「ええ。貴方も理解しているでしょう? 如何に貴方が最強の魔人とはいえ……かのお方の強さは尋常ではない。私も視えた時は幻を見たかと疑いましたが、幻ではない。かのお方は、
真に迫った言葉を、未来視の魔女は口にする。それは忠告に似たものだ。
「魔王を追い詰めるほどのお方、それに勝てるほど、貴方は強くないでしょう? 無論、良いところまでは行くでしょうが……」
「……そっちこそいいのか? 俺と戦ったらその後の戦いに支障が出るだろう?」
「いえ、問題ありませんよ。かのお方は貴方を倒してなお、その足で魔王を追い詰めますからね。多少苦しいでしょうがそれは揺らぎません」
それはある意味、魔人にとっては愉しみに水を差すような予言に思えた。
しかし魔人は、それを聞いてなお、笑みを深めた。
「結構なことだ。俺を圧倒するほどの化け物……ククク、唆るじゃねぇか」
「……死ぬことは考えないので?」
「俺が死ぬとでも?」
「いえ、そうは視えませんが。勝てないと言われてなお、挑もうとする神経が理解出来ず……もっとも、だからこそそれを告げることが出来る訳ですが」
未来視の魔女は同じ様に苦笑しながら肩を竦める。しょうがないお方だと言うように、
「私としては、あの方が魔人となり、その先まで行ってしまえばいい。その過程に紆余曲折があろうとも、そう修正出来るだけの道筋は既に視えている」
「……随分と悪辣だな。俺が言えた事じゃないが、奴はそれを望んでいないだろう。悪いとは思わないのか?」
魔人が呆れるように言う。未来を視て、それを操作しようとする──望まない未来であってもだ。
だからこそ、畏敬の念を抱く相手に恐れ多くはないのかという意味を込めて告げる。しかし、
「……勘違いしているようですな」
「あ? それはどういう意味だ?」
簡単な事です、と、魔女は説明する。
「私は、世界の未来を案じている。終わりを引き延ばそうと足掻いている。そのためならば、私自身が外道に堕ちることに躊躇いはない。あの方にしても同じです。例えあの方がそれを望まずとも、世界の未来は、あの方によって引き延ばされる。そういう運命にある。私はそれをより確実にし、横道に逸れないように見張るのみです。あの方ではなく、世界を優先して」
「……なるほどな」
とんでもない覚悟だ、と魔人はそれを感じ取る。この人間でしかない存在は、かなり特殊な精神をしているのだと。
「それで、次に会うのはお前でいいのか? 聞きそびれたが、お前はただの人間の筈だ。百年後に無事な筈はないだろう?」
そして疑問を告げる。それは彼女という存在の在り方を問うものだ。
魔女はそれを聞いて笑みを浮かべた。息を入れ、
「──ご心配なく。百年後であっても、
「……随分な魔法の様だな。そんなことをするくらいなら──」
「ええ、まあ。不老不死になるための方法を研究したこともありましたがね。しかし、最初の私はそれを見つけることは出来ず、代わりに精神と知識を受け継ぐ方法を見つけました。まあ新しい魂に移した方が“色々”と好都合ですしね。言うまでもなく禁呪ですが……使命を果たすためには便利であると言わざるを得ません」
「……精神と知識を受け継ぐ、か。だが才能までは受け継げないだろう。そこはどうしてる?」
「そりゃあ産んで増やして、適応する子を探すしかないでしょう。ある程度の才能があれば支障は出ない。幸いにも、誰といつ子供を作れば、それが生み出せるかは視えますので問題はないですね」
ただ、とそれをなんとも思っていない様子で魔女は言った。
「受け継ぐのはある程度成長してからとなるため、それまでの人格と融合して多少、歪になるのは避けられません。故に完全に同じという訳でもない。かくいう私も、子供の頃の人格と記憶が残っているおかげで、少々混乱してしまうことがありますよ。……私は何者なのだと」
自嘲するような笑みで魔女は言う。己の掌を見つめているその姿が、己の存在に苦悩しているようにも見えた。
魔人はそれを視界に収め、
「……なるほどな、よく分かった」
鋭い目つきを更に細めながらも、頷くだけに留めた。
その気持ちは大いに理解出来ることだが、それを口にすることは決してない。
答えをとうの昔に出した身としては、多少のアドバイスをしたい気持ちはあるが、目的よりも優先されるものではない。
だからこそ、魔人は別の言葉を選んで紡いだ。具体的なものとして、
「なら、次に会うのはまた別の魔女か」
「同じ様に接して貰って構いません。男かもしれませんがね。……私としても、今の所は男の身を欲している様なので」
「女になるのは嫌か」
「さて……答えに困りますね。今の私は女性。最初の私は男性で、最終的に視た姿も男性。身体に精神が引っ張られ、女性としての人格が残っているとはいえ、未だ私は男性の身を好んでいるようです。──女性では生き辛い上、女性を愛するには男性の方が都合が良いですから」
「……女が好きということか」
「いえ、どちらでも。私、男性での性交も女性での性交も経験しておりますので。子を孕ませたことも、産んだことも数多くあります。故に性的趣向は多少、倒錯しておりますれば。……ただ、女性の方が愛らしい者が多いので、そちらの方が好ましい。男性相手に愉しもうにも……容姿には煩いようで。毛深い男性やワイルドな男らしい男というのが苦手なのですよ。どちらかというと、美しさがある中性的な相手であれば──」
と、そこまで言ったところで魔女は魔人の顔を見てハッとする。そして顎に手を当てて感心するように、
「ふむ、しかし貴方であれば私も女性での性交をするのも吝かではありません。どうですかな? 少々、私とおセックスなど──」
「ムカつくから殺してもいいか?」
「……お言葉ですが、死姦はあまり趣味がいいとは思えませんな。ですがそれが要望だというなら少々お待ちを。入れ替えの後であれば、殺して頂いても構いませんとも」
「本気で言ってるなら今直ぐ出ていってくれるか? それと、
「ええ、ええ、勿論冗談ですとも。そう答えてくることは視えていましたので、ここで止めておこうと思っておりました。軽快な会話をご堪能頂けましたかな?」
「やっぱ止めだ。今直ぐこき使ってやる。下の街で唐揚げでも貰ってこい。お前の予知を乱してやる」
「それも視えていましたので既に拝借しておきました。──どうぞ、お納めください」
「…………」
そう言って、どこから取り出したのか、唐揚げを出してみせた魔女に、魔人はうんざりとする。
一応、唐揚げを受け取りながら、
「……お前、ウザいな」
「そういう直接的な罵倒が一番傷つきますな……視えているせいで心の傷まで二倍です」
ようやくやり返すことが出来た魔人は多少、気持ちを回復させて唐揚げをつまんで食べる。
さすがは自分の街なだけあって、唐揚げの味は良いものだ、と思っていると、魔女が真面目な表情に戻り、
「──まあ、そういう訳でして、私は今までの私によって過去を。未来視によって未来を知っています。それは、おそらく貴方が持つ知識に劣るものではないと思いますが、如何でしょう?」
「ふん……俺がそれを持つとは限らないがな」
「ええ、承知しております。それくらい、知識が豊富だということで捉えておりますよ。まあ、改めて確認が取れたようで実りはありました。貴方が、世界を──」
「──その先は口にするな」
魔人が鋭い声で魔女の言葉を差し止める。すると魔女も間を置いて、
「畏まりました。ではまあ、そういうことでお願い致します」
「ああ、また何かあれば呼びつける。出迎えは必要か?」
「お気遣いなく」
そう言いながら魔女は手すりの縁に足を掛けて跳び乗った。その上で器用に身体を魔人の方に向けると、
「──では、また。いずれ貴方と共に、あの方の元で轡を並べるのを楽しみにしていますよ」
「……ああ、そうだな」
最後にそうやり取りし、魔女は手すりから飛び降りて、城から去っていった。
視界から消えてしばらくすれば、やはり気配は消えている。下を見るまでもない。
思ったよりも癖のある奴だと魔人が思っていると、
「──レオンハルト」
「……ハンティか」
今度はそれと入れ替わるように、彼の使徒であるハンティがやって来た。
そのタイミングは、まるで魔女がハンティがやってくるタイミングを視ていた様でため息をつきたくなる。
だがそれを堪えて魔人──レオンハルトはその報告を聞いた。それは予想通りとなる、
「……終わったよ。例の扉に入っていった。その先はどうか知らないけど」
「いや、それでいい。長きに渡る監視任務、ご苦労だったな」
「本当にね。ぶっちゃけ、これっきりにして欲しいくらいには」
さすがの長期任務なだけあって、レオンハルトも労いの言葉を掛けると、ハンティも両腕を上げて伸びをする。
かなりの拘束時間だったのもあって、自由になった解放感は凄いだろう。ある意味で羨ましく思いつつも、レオンハルトは告げた。
「しばらく休暇をやる。特に仕事も与えないから好きにしろ」
「あー、休暇、休暇かぁ……それじゃあ、あんたとライゼンにはしばらく付き合って貰おうかな? 鈍った身体を動かすためにも」
ニヤリ、と歯を見せて腕まくりをするハンティにレオンハルトは考える。
付き合うのは吝かではないが、この分だと時間も掛かりそうだと思い、
「……俺はまだしばらくは忙しい。ライゼンは暇だろうからライゼンを連れてけ」
「ふぅん……ま、あんたは一月に一回は付き合って貰うし、それをちょっと増やすくらいでいいとして……ライゼンはどこ?」
「中庭で焼き肉中だ」
「いつも通りってことね。──じゃあちょっと殴ってくる」
そう言った直後、ハンティがレオンハルトの前から消え、中庭の方から轟音が鳴る。次に珍しく怒ったような声色で、“き、貴様ア──!? 俺の肉に何をする!? 今日という今日は許さんぞ、ハンティ! ”というドラゴンの言葉と、“やる気になってくれて嬉しい限りだよ! ”という嬉しそうなハンティの声が聞こえる。長期任務の直後だというのにアクティブ過ぎるな、と呆れを通り越して感心してしまう。
「だがこれで──」
そう、ようやく成った。
魔人を倒す武器の誕生。それが成った記念すべき日だ。
その事実を思い、レオンハルトは口元に笑みを浮かべる。
同時に、それ以外の連中のことを思い、確認に行くのもありだと思考する。
特にその中心たる人物については、ともすれば利用出来なくもない。
あれだけの逸材であれば、迎えてみたくもある。
故にレオンハルトは未来についての期待に胸を膨らませながら、室内へと戻っていった。
これより百年後に現れる──“二重人格の男”に期待をして。
こうしてGL期の真っ只中において、絶望に諍おうと駆け抜けた五人の冒険者の旅は、一つの区切りをつけた。
だが、彼らの旅は終わったわけではない。
むしろここからが始まりといえる。
長い旅の果てに、魔人を倒しうる武器を生み出すに至った最強の五人。
そんな彼らのことを、後世の人間はこう呼ぶ──“エターナルヒーロー”と。
これにてエターナルヒーロー編は終了。次回から小話を挟んでからガイ君の話になります。
微妙に省略してる前半のエターナルヒーローの話は、鬼畜王ランスの公式設定資料集の小説を読んで頂ければな、と思います。その辺りの部分を、知らない人たちのためにもと簡潔に書いてはいますので。そのまま書くのは駄目なのでちょっと工夫をする感じ