──GL6XX年。
紅い城の中にある研究室。様々な魔法具などの機器が置かれているその場所は、日夜、魔法の研究に勤しんでいる者達の聖地である。
今現在、このレオンハルトシティや紅魔城の中で用いられる魔法具の全ては、ここで出来上がったと言っても過言ではない。概ね事実なのだ。
「くっくっく……ここをこうして、最後にこの術式を組み込めば──」
そんな魔法研究室で、今宵も新しい発明品が産声を上げようとしていた。
部屋の中心でひっそりと明かりを点けて何やら魔法陣を書いているのは、ボサボサの長い緑髪に、子供のような見た目をした一見すると可愛らしい少女だ。
だがそんな彼女こそが、この魔法研究室の室長にして、歴史に残ってもおかしくないほどの発明品を量産している魔法研究者にして付与師──ガウガウ・ケスチナ、その人である。
目の下に隈を作り、怪しい笑みを浮かべている万年引きこもりがちでサボり魔なバツイチ。自分の興味ある事でしか動かず、普段はものぐさで、子供っぽくよく同僚や弟子に怒られている大人げない人物だが、その天才振りだけは自称ではなく真実である。
何しろ、あの悪名高い魔人レッドアイ──史上初の魔法生命体を作り上げたのも彼女なのだ。その善し悪しはどうあれ、偉業であることは事実である。
そしてそんなガウガウが同僚や弟子たちが寝静まった夜中に、一人で作り上げようとしている発明は、またしても怪しい物だった。
乱雑に魔法具が散乱する机の上、そこのぽっかり空いたスペースに置かれているのは、黒い球体。金属製なのか、光を反射して黒い光沢を描いているその球体に、ガウガウは魔力を込めながら口元に笑みを作る。
「これが完成すれば、あれもこれも……私を悩ませている諸問題が一気に解決する……」
くくく、と昔からの癖なのか、独り言を呟きながら怪しい笑いを響かせるガウガウ。研究している時や、何かが完成した時はだいたいこのような感じで、テンションが高い。それだけ技術的に凄い物が生み出されようとしている、ということでもあるのだが、周囲から見れば、遊んでないで早く寝なさい、と言われてしまうような光景だ。
事実、ガウガウの世話係に任命されたメイドや、城全体を管理するメイド長さんなどにはよく注意されている。
しかしそれを掻い潜ってなお、一人でこの発明を完成させる必要が、ガウガウにはあった。
「さあ、起動しろ──」
故に、ガウガウは最後の術式を書き終わり、ありったけの魔力を込めると、それを起動させる。魔法光が部屋を明るくし、部屋の窓から光が漏れる。それほどの光量を発生させながらも、その黒い球体がふわりと浮いて、やがて光を収めながら動き始めた時、とうとうガウガウは完成したと喜びの声を上げた。
「くくく、はーっはっはっは! 遂に! 遂に完成したぞ! この私の偉大なる発明品が……!」
それを満足そうに見上げながら、ガウガウはほくそ笑む。
早速、後で試運転をしなければ、と朝日が昇りつつある外の光を感じながら、一度、気絶するように眠りについた。
昼下がりの中庭。昼食を終えて一服していたレオンハルトは、ハンティや他の居合わせた者達と共にその報告を聞いて眉をひそめた。それは、
「……新しい発明品だと?」
「そうだ! 昨晩、とうとう完成した私の新魔法具! そのお披露目を、今ここでさせて貰おう!」
椅子にも座らずにテンション高く腕を組みながら高笑いをしているのは、この城の居候であるガウガウ・ケスチナ。彼女の妙なテンションの高さは研究を終えた後ならいつもの事だが、今日は一段と高いような気がして訝しむ。特にハンティが、
「また夜中にこそこそと作業して……というか、なーんか碌なものじゃない気がしてくるんだけど……」
「……奇遇だな。俺もそんな気がしてる」
「あ、あの……ちょっとくらい付き合ってあげるのも……ど、どうでしょう?」
と、最後にレオンハルトの傍らで告げたのは、ガウガウの世話係のメイドであり、今日の配膳を担当していたカラーの少女、クライア・カラーだ。
彼女はレオンハルトとハンティの何とも言えない表情を見て、やんわりとそんな提案をする。基本的に謙虚で優しい彼女なので、ガウガウ相手でもその包容力を発揮しているのだろう。
しかしその件のガウガウの横から、一人の少女のため息が聞こえた。疲れ切った表情で、
「……いえ、まぁ、碌でもないものには違いないと思いますけどね。ですが凄いものには違いないので、気持ちは分かりますが、御二方も確認しておいた方がよいかと……後から何か起こった時の為にも」
最後の言葉を小声で告げたのは、ガウガウよりは背が高く、しかし他の者達よりかは頭一個分以上は低い華奢な少女、イヴだ。
セミロングの桃色の髪を、今は後ろで束ねた彼女は、いつものゴスロリ風の衣装の上に白衣を羽織っている。普段はレオンハルトの娘である白兎のお付き兼お友達といった立場で動くことの多い彼女だが、一応表向きの立場の一つに、レオンハルトの下級使徒で、ハンティとガウガウの研究を手伝っている助手、愛弟子という立場を持つ。そのせいか、苦労人感が表情から滲み出るようになってしまった彼女は、半目でテンションの高いガウガウに視線を向けていた。
それを見たハンティが、
「ああ、イヴはガウガウの研究に付き合わされたんだね……ご苦労さま。こういう時のガウガウは頭がアレだから苦労したでしょ?」
「……ええ、まぁ……」
目を逸らし、歯切れの悪い返事を返すイヴ。その意味が分からずにハンティは首を傾げたが、レオンハルトは何となく理解したので微妙な表情になった。
頭がアレ具合で言うなら、ハンティも似たようなものだろうと、そう思っているに違いない。故に歯切れが悪くなったのだろう。
娘の友達として色んなことに付き合っているだけではなく、この二人に付き合ってもいるのだから心労が溜まっていくのは想像に難くない。今度、イヴに休暇でもやろうとレオンハルトは心に決める。常識人は自分くらいしかいないな、と呆れながら、
「……なら、さっそく見せて貰おうか。その発明品とやらを」
「ふむ、また何か作ったのか。それは見ものだな」
と、言って上から声をあげたのは、中庭に住み着く巨大なドラゴン、ライゼン。
基本的に焼き肉しているか、メイドの話し相手になっているか、ハンティに突発的に殴られているかしている彼は、中庭にいることが多いので、会話も大体のところは聞き及んでいる。そのため、発明品のお披露目が行われると聞いて視線をガウガウの方に向けてきた。
そうしてそれなりの人数に注目を浴びたガウガウは、更に笑みを深くすると、
「くくく……! いいだろう、そんなに見たいなら見せてやる! この天才美少女魔法研究者にして歴史上最高の付与師である私の、久方ぶりの自信作を!」
バッ、と手を振り上げ、懐から取り出したのは謎の黒い球体だった。
それを掲げてガウガウは高らかに言う。
「見るがいい! これこそが、付与師の概念を変える至高の魔法具──“ブラックアイ”だ!!」
『──イエス・マスター』
「……!」
──ブラックアイ。魔法具の名をガウガウがそう告げた瞬間、黒い球体が機械的な声を発したことで、一同は露骨に嫌そうな顔をする。
というのも、その名前や形状から、ガウガウが作った奴を連想させるからであり、もしやまたしても似たようなものを作ったのかと危惧したからだ。
「……ガウガウ。お前……それは大丈夫なやつなのか?」
「今直ぐ壊した方が世のためな気がするんだけど……」
レオンハルトやハンティがそう提案する。しかしガウガウは首を傾げ、
「む、なんでだ?」
「いや、それ……すっごい既視感というか……ぶっちゃけて言うと──レッドアイの色違いに見えるんだけど?」
ハンティが率直に告げる。その黒い光沢で覆われた球体は、名前も相まってあの悪名高い魔人レッドアイの二の舞になるんじゃないかと想像させる発明品だった。
またしても喋る辺りも、やはり魔法生物を作ったのだろうと頭を抱えたくなる。レッドアイが二体になると考えたら洒落にならない。今直ぐ破壊した方が世の中のためだ。
だがそれを聞いてガウガウはようやく合点がいったと頷くと、首を振り、
「いやいや、確かに名前も似せているし、思考も出来るが、今回のはあれほど危険なものではない。寄生能力はないし、魔力を高めるような思考を組んでもいないからな。とっても安全かつ忠実な子だ」
「どうだか……じゃあ、何が出来るの?」
疑いの眼を向けながら問うと、説明しよう、とガウガウが咳払いを一つ。そしてその場の者達に向けて、
「このブラックアイは、私専用の戦闘補助を目的とした魔道具だ」
「……戦闘補助?」
「……武器ということか」
レオンハルトが端的に言う。するとガウガウは我が意を得たりとばかりに頷いた。
「端的に言えばそういうことだ。これは私の魔法を補助するための杖のようなものであり、同時に身を護るための防具でもある。自ら考えて思考することで、私の意識外、反応の外にある攻撃も防いでくれる上、攻撃の際も──」
「……先生。その辺りは実際にお見せした方が分かりやすいのでは?」
「む……そうだな。良いことを言ったぞ、助手。では見せよう。──ブラックアイ! 戦闘モード!」
『イエス、マスターガウガウ』
説明の途中にあげたイヴの提案により、ガウガウがブラックアイを宙に投げる。すると機械的な音声と共にブラックアイが空中へと浮き、そして徐々に形を変えていく。
それらが大きくなり、ガウガウを覆っていくのを見て、皆は目を剥いた。
「これは……」
「……へぇ?」
「ふむ……面白そうだな」
「凄いです……!」
レオンハルトが驚き、ハンティが口元から興味の色を浮かべる。ライゼンも感嘆し、クライアが瞳をキラキラさせて称賛した。
周囲で仕事をしながら見ていたメイド達も、中庭に突如として現れた存在に驚きの声を上げた。
それほどに、異質な存在だった。
レオンハルト達の目の前、ガウガウが居た場所には黒い人型の何かが立っている。
それは10メートルほどの大きさを持ち、黒い装甲を持つ巨人だ。
しかし明らかに人ではない。通常の生命体とは違う──言うなれば、金属製の身体を持つそれは、鎧にも似ていた。
誰もがそれを形容する言葉を持たない。何故なら、それを示す単語は存在しないからだ。
だが、ある単語を知っている者であれば、それが何の様だと比喩することが出来るだろう。
それは、まるで──“ロボット”。
あるいは、何百年か後に現れるとある存在に似ていた。
だからこそ、レオンハルトは色んな意味で驚いて頭を抱えた。あまりにもオーパーツ過ぎると。
人間で言う頭部である部分、その眼のところには長方形の黒い空洞があり、赤い光が一つだけ灯っていた。一つ目と言うべきだろうか。
ともかく、そんな凄まじいものの中にいるであろうガウガウの声が響いて、その状態のことを説明する。
「これこそが、ブラックアイの真骨頂である戦闘形態! 私をあらゆる攻撃から守り、あらゆる相手をこの拳や搭載された魔法具で粉砕する──私の最強の発明品だ!」
はーはっはっは! と高笑いを始めるガウガウ。やはりテンションが高いままで、己を天才だという自画自賛が止まらないが、それを否定することは出来ない。
実際に、今まで誰も見たことのないようなとんでもない代物を作り上げたのだから。
故に碌でもないものだろうとテンションを下げていたハンティなども、瞳に興味の光を灯しながら、
「……搭載された魔法具ってことは、幾つかの魔法具を組み合わせたってこと?」
「あっ、はい。何でも、先生が作った魔法具を融合させて、ブラックアイの中に収納してるらしく……その制御をブラックアイが統括するようにしてるらしいです。……恥ずかしながら、私にはまだその理論が良く分からず……」
「ああ、魔法を組み合わせて実験した時に出来たアレか。あたしも色々と関わったけど、あれ、確かにややこしいからね。魔法具でも複合、融合出来るのは知らなかったけど……まあ理論的には可能か……ふふ」
「あっ、始祖様が……」
「いつもの目になったな……ふぅ、いつになったら若い同胞の様な振る舞いが収まるのやら……」
クライアとライゼンがハンティの変化に気づく。ガウガウの新しい発明品に目を輝かせているが、あれは研究者としてではなく、戦闘狂として期待しているのだろう。
だがその気持ちも分からなくもない。確かに興味深いものであることは確かで、皆でそれを見上げる。
「さしずめ、黒い巨人か。かつて我々の時代にいた巨人族に似ている。生き物という感じはしないがな」
「巨人族か……魔軍にももういないな。デカントはいるが……」
以前なら、元巨人族であればいたのだが、今はもう絶滅してしまっているため、ライゼンの例を理解出来る者は少ない。
しかしそれともまた違うガウガウの魔法具に、ライゼンも何気に興味があるようだった。
注目を集めているのを感じているガウガウは、魔法具の中から得意気な声を漏らすと、
「ふふん。どうだ、凄いだろう。この私の天才っぷりに恐れ入ったか」
「……確かに凄いけど、結局のところ、どれくらい強いの?」
「対魔人戦を想定しているからな! まあ無敵結界の突破は難しいが……でも魔人とも長時間戦闘を継続出来るように設計している! つまりだ──」
と、ガウガウはブラックアイを動かして、ハンティを見下ろしながら溜めを作ると、
「──これからはハンティに殴られようが魔法を受けようが、私を止めることは不可能ということ! この中にいれば安心してサボタージュを満喫出来るのだ!」
「…………」
「いや、そうじゃないだろ……」
「えっと……中で食事とかお飲み物はどうするんですか?」
クライアも微妙にズレた質問をする。確かに気になるが。
その質問を聞いていたガウガウは、よくぞ聞いてくれた、と腕を組む。そして何かを発動し、
「あ、何か出てきました!」
「……また触手か」
ブラックアイの背中の部分から、黒い触手のようなものが伸びてきたかと思うと、その触手がテーブルにあったお菓子と飲み物を持っていってしまう。そのまま触手は背中に引っ込み、
「ふはははは! こうすれば中にいながら食事を取ることも可能なのだよ! おまけに、中はこう見えて快適! スペースに余裕もあるし、空調管理も完璧で、誰にも邪魔されずに睡眠が取れるように防音の魔道具、衝撃緩和の魔道具も組み込んである! ブラックアイは正に理想の引きこもり専用魔道具なのだ!」
『イエス、オフコース』
グッと親指を立てて見せるブラックアイ。これはガウガウが動かしてるのか、ブラックアイが自分でやっているのか分からないが、微妙に気が抜けてしまうことには変わりない。
しかしハンティは違うようで、
「……へぇ、じゃあ全力で殴ったりしてもいいってこと?」
「ふふん、やりたければやってみるがいい! このブラックアイの戦闘力に跪くことになるだろうがな!」
「……それじゃあ遠慮なく──」
と、ハンティが手に拳を作ると、無造作にそれを振り上げ、
「──ッ!」
金属を殴りつける鈍い音が、中庭に鳴り響いた。
同時にそのハンティの凄まじい膂力を示すかのような衝撃波が発生する。一応危ないので、中庭にいたメイド達がライゼンの影に隠れたり、クライアなどは近くにいたレオンハルトの背後に隠れたりする。イヴなども咄嗟にその場から離れた。
そして同時に、それを目撃していた者達は予想を裏切られて驚愕する。
使徒最強と名高いハンティの一撃。魔人級の強さを持つ彼女の攻撃を防ぐことが出来る者は限られている。
対するガウガウは城の中でもそれほど強い者ではない。天才には違いないが、直接的な戦闘力はそこまで高くないというのが皆の認識だ。
それは魔法具を使っていても変わらない。だが、
「──くくく、はーっはっはっは! ハンティ! その程度か!?」
「! ……へぇ……!」
ハンティが殴りつけたのは、ブラックアイの掌。
攻撃を察知したブラックアイが手を広げてハンティの拳を受け止めたのだ。
そして、その掌は無傷。傷一つない光沢があるのみで、その黒い装甲は攻撃を受ける前と何も変わっていないことが分かる。
それを見たハンティの口元が先程までよりも更に吊り上げられる。骨のある獲物を見つけた時のようなその愉しげな表情に、レオンハルトはため息を入れて告げる。
「……お前達、分かってはいると思うが……中庭や屋敷を壊すなよ?」
「──屋敷の方はもう結界張ってるから大丈夫だよ」
「……そうか」
レオンハルトの視線の先、確かに屋敷の方には薄い膜のような結界が張られている。
別に結界を張ればいいってものでもないのだが、いつものこと過ぎて怒るよりも前に呆れが勝る。あまり人の事は言えないが。
そんなことを思っていると、ハンティは手に魔力を集め、
「──黒色破壊光線!」
一般的に、最高威力の魔法を放つことでその答えとした。
だがガウガウの方も、ブラックアイを動かす。その拳を振り上げ、
「無駄無駄ぁ! ブラックアイ! 防御しろ!」
『イエス。マスターガウガウ。──ディフェンス』
黒色破壊光線に対して拳を当てて、そのまま打ち消してしまう。
するとハンティはとうとう我慢できずに、
「あははっ! やるじゃん! ほら、今度はそっちから来なよ!」
「ふははははっ! いいだろう! なぁに心配するな! 多少の怪我なら私の魔法具で治してやる! ──ブラックアイ! ラッシュだ!」
『イエス。マスターガウガウ』
ガウガウに呼びかけられてブラックアイが動きを見せる。
その動きは、ブラックアイの巨体では想像出来ない速さだった。
「っ! 意外と速いね!」
「当然だ! 速度! 装甲! そしてパワー! その全てを兼ね備えているのがブラックアイなのだよ!」
ハンティもその動きに一瞬驚きを見せる。足場を踏みしめたと思ったら、一瞬で目の前まで迫ってきたブラックアイの拳を紙一重で躱しながらその動きを純粋に褒めた。
未だに椅子に座りながら見ているレオンハルトも、
「……確かに、それなりの強さはありそうだな。ハンティとやりあえるなら、魔人と戦っても……」
その言葉は事実であり、同時にガウガウの目的を孕んでいるものであった。
随分と時間は掛かったが、最低限でも魔人級の実力があれば、ガウガウの目的であるレッドアイ相手でもそれなりにやれる可能性はある。
だが、懸念すべき事柄もある。レッドアイがこのブラックアイと対峙した時に何を思うか。あるいは、失敗した時にどうなるかを考えると、慎重を期す方がいいのは間違いない。
だがそれは、ガウガウも理解していることだろう。これを作ったからといって、すぐにレッドアイに挑みにいくほど短慮ではない。
そもそも戦闘力は最低条件みたいなものだと考えると、これからの研究が本番だといえる。
個人的には、このブラックアイのような発明にも興味があるが──
「──あははは! やるじゃないガウガウ! これならもっと強くやっても良さそうだね!」
「っと! くっ、このブラックアイと素手で殴り合うとは……! このカラーゴリラめ! かくなる上は──」
と、だんだんとギアの上がってきたハンティに押され始めたガウガウはブラックアイを一度下がらせる。
その上で額に魔力が収束され、
「さあ、行くぞ! 我が発明に恐れ慄け! 黒色破壊光線、充填!」
『マジックパワー。チャージ』
「……一体なにを──」
ハンティが訝しんだ直後、しかし魔力の高まりを見てハンティは警戒して笑みを深める。
故に魔法を受け止める構えを見せたところで、ガウガウは叫ぶように声を上げた。
「放て! ブラックアイ、レーザァァァァっ!!」
『──!』
「っ……!」
瞬間、ブラックアイの目に当たる部分から、黒色の光線が解き放たれた。
それは黒色破壊光線に似ていたが、それよりも遥かに巨大で、収束された魔力がバチバチと音を立てているという見るからに危険なもの。
それを見て、レオンハルトはその威力に感心すると同時に、ひょっとしたらハンティでもキツイか? と内心で心配する。威力的には、ライゼンの通常ブレスよりも下回るか、もしくは同等程度だが、人間の魔道具でそれだけの威力を出せるのは異常である。ライゼンのブレスは人間の魔法使いが使う並の黒色破壊光線で換算すると、おおよそ十倍程度の威力があり、人間や魔物程度は簡単に消し飛ばしてしまう危ないものだ。
だが逆に言えば、ハンティはそれくらいで死ぬことはないと分かっているため、安心して見ていられる。心配は杞憂だったな、とレオンハルトが紅茶を口に含む中、光線がハンティに直撃し、轟音と光の飛沫が発生した。ブラックアイの中にいるガウガウが笑みを浮かべ、
「はーはっはっは! ハンティ、恐るるに足らず! これは私の時代が来たのではないか!? いや、来ている! 確実に私の時代が来ているぞ! 私は無敵だぁー!!」
まあ、そんな訳ないのだが高笑いして喜んでいるガウガウに水を差すのもアレなのでレオンハルトは無言で眺める。しかし、あのブラックアイ、どれくらい硬いのか。ちょっと斬ってみたいな……と、地味に内心で期待していると、
「──だぁれが、恐るるに足らずだって……?」
「ひっ……! は、ハンティ!?」
煙が晴れるのを待たずに、煙から一瞬で出てきて瞬間移動したのか、ブラックアイの頭上にハンティが現れる。
先程の光線を受けて傷を負ってはいるが、戦闘に支障はないようで、その口元には凄惨な笑みを浮かべていた。ガウガウが、思わずブラックアイごと怯んで、
「お前、化け物かなにかか!? 黒色破壊光線の十倍の威力だぞ!? 死ななくても倒れるだろ、普通! なんで普通に立ち上がって向かってきてるんだ、このバーサーカーめ!!」
「くふふ……いやぁ、あれくらいなら普段から受けてるからさぁ……ああ、でも結構いい威力だったよ……おかげで頭の中、結構スッキリしたからね……あはは、はははは! それじゃあ、もっと愉しもうかぁ!!」
ガシッ、とハンティの手がブラックアイの頭部を掴む。ブラックアイの手がガウガウと連動していやいやポーズになり、
「い、いや……今のレーザーは奥の手で、威力がバカ高い代わりにこれを放つと、しばらくは機能が低下するから魔力が溜まるまではちょっと──って、ひぃっ!?」
ガウガウが喋ってる最中に、ブラックアイの頭部をハンティがガンガンと殴ってきたので、ガウガウが怯えた声を出す。だがハンティは止めることなく拳を振り上げ、
「機能低下しても戦えるでしょ? いやー、良かった良かった。ガウガウがこれだけ強くなったんなら……いつでも手加減抜きでボコれるってことだもんね?」
「え、や、それはやめ──ひぃぃ!?」
今度はブラックアイをハンティが力任せに地面に倒し、首に跨ってマウントポジションを取ると、そのままボコボコとブラックアイの頭部を殴り始めた。
中にいるガウガウは怯え始め、
「お、おいやめろ! いくらなんでもそんなにボコボコと殴られると……! くっ、ブラックアイ! どうにか──」
『デンジャー。デンジャー。ビースト。フィアー……』
「お、おいブラックアイ!? なにやってるんだ!?」
「……まさか怯えてるのか?」
遠くから見ているレオンハルトもその事態に思わず顔が引き攣る。地面に倒されたブラックアイは、おそらく己の視界の目の前で狂気的な笑みを浮かべてボコボコと殴ってくる相手を見て目の部分がギョロギョロと挙動不審になっている。
そして、
『ソーリー……ソーリー……』
「……遂に謝り始めたぞ」
「そ、それくらい始祖様が怖かったんですかね……?」
「ううむ……さすがはハンティ……よもや魔道具までもを戦意喪失させるとは……」
「ぶ、ブラックアイ……お前、結構怖がりなのか……?」
ガウガウまで怯えを忘れてブラックアイの様子に困惑する。そしてさしものハンティも、
「…………はぁ、わかったわかった。もういいよ」
ブラックアイの上からどいて地面へと降り立つ。随分と冷めてしまった様子で、ハンティは肩を竦めると、
「さすがに戦意喪失して怯えてる相手を殴る趣味はないからね」
「あれ、ハンティがまともに見える……」
「気の所為だろ」
「そこを慮れるなら、毎回寝てる時や食事中にいきなり殴ってくるのは止めて欲しいのだが……」
「え? だってライゼンはドラゴンなんだから別にいいでしょ? あたしよりも強いし。ドラゴンの時代だと常識だったじゃん」
「…………」
『の、ノー……ノー、バトル……ナット、バトル……』
「お、おいハンティ! お前のせいでブラックアイが戦闘恐怖症みたいになってるんだが!? くそっ、なんてことをしてくれる!」
「……そろそろ仕事に戻るか……」
「あ、はい……」
戦闘用に作られた魔道具が戦闘に恐怖するようになるという凄まじい出オチを見たレオンハルトは、中庭で騒ぎ続ける奴らを放置して、クライアを連れて仕事に戻ることにした。
何気にもう一周年やね。一年でこれだけ書けたのは毎度ながら皆様のおかげです。いやほんと
というわけで今後とも頑張っていきたいところ。