魔物界最大の都市、レオンハルトシティ。その中心にある紅魔城に住む9割は女性である。
もっと言うなら、メイドである。
レオンハルトが大陸中から千年以上かけて集めた(諸説あり)絶世の美少女達。メイドとして働き、彼に身も心も捧げる二百人以上の下級使徒。
永久保護魔法の効果で何百年、あるいは千年以上生きている彼女達は、この世界においては選ばれた者達だといえる。
長年生きており、下級使徒となろうとも、所詮は人間。人間は本来、苦しめられる運命にある生き物である。
魔物に苦しめられ、その遊び道具として生きて、死ぬ。実際にそのような時代となった現在において、レオンハルトの庇護下にあるメイドというのは、圧倒的な勝ち組だ。
安全が保たれた城の中で、快適かつ優雅な暮らしを行える。メイドとしての仕事はあるが、それも無理のない範囲で行われるものであり、強制というわけでもない。
加えて、ぶっちゃけるなら魔物界で一、二を争う金髪イケメンに寵愛されるおまけ付きだ。おまけというより圧倒的メインなのだが、これも別に強制ではない。敢えて言うなら、希望制である。
だが、全くの苦労がないという訳でもない。特に、管理職に就いているメイドなどはそれなりに気を揉む事が多いのであった。
「──ええっと……ここは、こう、で。ここにシフトを入れて、と」
メイドが、机の上に紙を置いて事務作業をしている。輝くような黄金の髪を持つ彼女は、この城のメイドを取り仕切る役目を持つ副メイド長の一人──エクレアだ。
昔は新人として、先輩の個性に揉まれたのも遠い昔の話。今では十数人のメイドに指示を出す立派な管理職として働いていた。
というのも、彼女は元王女であり人を使うことには慣れている。リーダーシップを発揮出来る上、問題解決能力も高く、こういった事務作業も完璧にこなせるので、この人事は当然のものであった。
昔よりも仕事は増えたが、やりがいはある。それに、ご主人様の為を想うと、これくらい幾らでもこなしてみせる。いや、みせたいと思っていた。
故に基本的に仕事に苦労はない。同僚は皆良い人だし、付き合ってて苦はない。
だが、唯一微妙に気を使うものがある。それが、
「……そろそろシフトを決めてしまわないといけませんわね……」
それは、メイド達のシフトだ。
それもただのシフトではない。──夜のシフトである。
自分達が仕えるご主人様を、お慰めするための重要な仕事。ぶっちゃけ仕事というか、半分はプライベートというか、ただの順番決めではあるのだが、彼女達にとっては何よりも重要なものである。
だからこそ、偏ったりするのは避けなければならない。皆平等に愛するのがご主人様の望みだ。誰かが悲しむことをよしとしないので、この辺りには気を遣わなければならない。
もっとも、一日で朝と風呂、夜という三回の出番があり、それぞれ10人程度、特に夜は2、30人くらいなら愛してみせる御方なので、正直人数の割には出番はかなり多い。一月に一度、必ず自分達のために取られる休日では、一日中相手をしてくれるのである。
一月あれば、200人以上いるメイドが、最低でも必ず5回は肌を重ねる。週に一回以上は必ず相手をしてくれるし、満遍なく愛されているという自覚がある。
冷静に考えると、ご主人様の身体はどうなっているのか。大丈夫なのかと心配になったりするが、大丈夫そうな上、そういうところが素敵だと思ってしまうため、基本的には変わらない。
そういうわけで、気を使うとは言ってもそこまで問題があるわけでもない。皆、充分過ぎるほどには抱かれてるのだから。
しかし、充分以上、機会があれば幾らでも抱かれたい。癒やしてあげたい。慰めてあげたいと想う人物は、それこそメイド達の総意であり誰しもが願うことであるため、シフトは多めに入れてほしいと全員が希望を出す。
というか、それ以外の日中なんかでも機会があれば手を出してほしいと願っている。ご主人様は真面目なので、それこそ休日でもない限りは、基本的に日中にお愉しみすることはない。朝と風呂、夜という三回の時間を必ず守る。例外は、短い休憩時間中くらいだ。
しかしメイドの方は、彼が皆の為にも役目を真面目にこなしているということを理解しつつも、もう少し肩の力を抜いてほしいとも思っている。
だからこそ、メイド達はわざと男性の情欲を煽るような露出が高い、或いはあざとさを全面的に押し出したような衣装を身に纏い、仕事中に出会ったらそれとなく胸の谷間を強調して見せたり、ご主人様がムラムラするように、そしていつ襲われてもいいようにと色々と工夫をしているのである。中には行き過ぎて、とんでもない痴女になっているメイドもいる気がするが、基本的には問題ない。何故なら、
……まあ、城内はほぼ女性ですし、レオンハルト様を慕う者ばかりですから問題はないですわね……。
そう、いやらしくても問題ない。どうせ相手はご主人様だけだし、城内に住む殆どの女性はご主人様を慕っているので一般的な配慮を行う必要はない。
ここは魔物界。その中の魔人の城。人間の国のように公序良俗を気にする必要はないのだ。
それでも男性が城内を行き交っているのであれば、それなりに気にする必要はあるが、城内を出歩く男性は使徒のリーや、一部の料理人を除けば皆無であり、来客にさえ気をつけていれば何も問題はないのである。
エクレアも例外ではないので、当初来た頃と比べて可愛いメイド服を身に着けている。個人的に露出は控えめにしているが、胸元だけは屈んだ時などにきちんと見えるようにとペールやメイド長さんが計算してくれたので気を使っているし、幸いにも事務仕事というレオンハルトと関われる絶好のチャンスがあるので、そういう時はそれとなく、胸を押し付けたり──
「……こほん。さて、ちょっと聞いてまわりましょうか……」
頭の中がピンク色になってきたところで、自分を戒めるために咳払いをする。周りの目を気にする必要はないとはいえ、一人で悶々としているところを見られるのは些か恥ずかしいものだ。
エクレアは椅子から立ち上がり、紙を手に持ったまま部屋を出ていく。向かうのは、同じ副メイド長がいるであろう先々だった。
副メイド長。メイド長を務めるメイド長さんの下に位置し、8つの班に分かれてメイド達を指揮する立場であり、誰が言い出したのか、遊びで八大冥土、という呼称があったりするらしい。9人いるが。
だがその個性は、一般メイドと比べても中々に癖がある気もする。いや、そもそも一般メイドですら色々と個性溢れる面々なので大差ないかもしれないが、一番の古株や、あの料理長の娘などを見ているとそんな気がしてくる。
これから訪ねる面々も、それなりに濃いものだ。例えば、
「──だぁぁぁぁ!! このメイド! お前、メイドの癖に遠慮無さすぎだろう!? この偉大なるガウガウ様に向かって……!」
「いや、ガウガウ女史のことは魔法研究の先達として大いに尊敬しているが、それとこれとは話は別だろう。同じ研究者として部屋が散らかりやすいという気持ちは分かるが、メイドとしては看過出来ない。そこをどいて貰おう」
──噂をすれば。
エクレアは、とある部屋の前で何やら言い争いをしている二人を見つけた。
一人はガウガウ・ケスチナ。見た目は子供っぽいが、魔法史に残る天才であり、つい先日もとんでもない物を作り上げたとかで話題になった。
そしてもう一人は、長い艶のある黒髪を靡かせたクールな印象のメイドであった。彼女はガウガウに向かって冷静に、
「部屋を片付けさせてもらおう。もしくは……そうだな。この間のブラックアイ。あれの細かい理論について、色々とご教授してくださると……」
「どう考えてもそっちがメインじゃないか! くそっ……なら待ってろ! 後で適当にレポートを書いてきてやる! 後は勝手にしてくれ!」
「フフ……感謝する。ガウガウ女史」
眼鏡の奥で目を細めて微笑を浮かべた彼女の名は──アイシャ。
副メイド長の一人であり、女性としては長身、左目の下にある黒子や大人っぽい雰囲気と、ほんの僅かに焼けたような色の肌が特徴的の、とんでもない色気を持ったメイドである。
その胸元にあるそれは、メイドの中では同じ副メイド長である紅月をも僅かに越えて一位の膨らみを誇る。
まあこの城のメイドであれば、その多くが該当するのだが、胸が大きくてスタイルも良いし、かなりの美人だ。
人間時代は、とんでもなくモテたのではないかと噂の人物だが、真相は定かではない。本人の弁では、“研究ばかりしていたから、男を相手にする暇はなかった”とのことで、NC期ではそれなりに知られた魔法研究者だったらしい。専門は魔法科学。何でも、人工的に人間を作ろうとしていたマッドな人だったらしく、それなりにヤバい実験もしてきたのだという。故に、同じ研究者としてガウガウを尊敬していたりするが、ガウガウからは嫌われている。何でも、昔仲違いして別れた従姉妹に似ているらしい。
ともあれ、彼女はその昔、あの魔王ナイチサに囚われてレオンハルトに下賜されたという。メイド同士での身の上話は、仲良くなると自然に話に上がるため、エクレアもその辺りの事情は本人から聞いている。普通にエクレアよりも先輩であるため、昔は世話になったものだ。そう思いながらも、エクレアは部屋に戻っていったガウガウを満足そうに見送るアイシャに近づいた。
「アイシャさん」
「ん……ああ、エクレア女史か。何か用かな?」
「ええまあ。シフトのことで少し」
端的に用件を口にする。しかし、
「ああ、それならいつも通りそちらに任せるよ」
と、アイシャはシフトについて書かれた紙を一瞥しながらも、特に意見を口にせずにこちらに任せると言い切る。
毎度のことではあるが、余裕のある振る舞いにエクレアは息を入れ、
「相変わらず、話が早くて助かりますわ。ですが……たまには意見を口にしてもよろしいと思いますけど……」
「それはそうかもしれないが、構わないだろう。いつがいいとか、あれこれ言ったところで極端に偏ることはない。シフトを管理している君やメイド長も、そういった不平は望まないし、何よりもご主人様が望まない。そうだろう?」
「……まあ、そうですが……」
そう言われれば頷くしかない。確かに、自分達はご主人様に多く愛されることを望んではいるが、それに加えて、同じメイドとして生きる皆を大切に思っているのだ。
それは相手も同じだと、そういうことだ。信頼していると言外に示しつつ、アイシャは、
「まあいつだろうと、ご主人様に愛されることに変わりはない。なら、いつ抱かれるかを考えるより、必ず訪れるその時に備え、その時にどれだけ悦ばせることが出来るかを考えた方が、有意義だとは思わないか……?」
「それは……そうですね」
ふふ、だろう? と意味深に笑みを浮かべ、その豊満なバストを腕で持ち上げるように寄せながら流し目を送るアイシャの問いに頷く。それと、
……それにしても、相変わらず……色気が。
いつも思うが、やはり女性から見てもアイシャは、なんかエロい。
しかもエロいと言っても、いつも暴走してるベアトとはなんか違う。あっちはエロいとは言っても、ベアト自身が痴女でエロいことを考えているだけな気がするが、アイシャの方は滲み出てくるようなエロさを感じられる。
知的な印象を感じさせる眼鏡の奥の瞳に、情欲の炎が隠されているようで、淫靡な雰囲気が漂っている。正に、大人の女性の色気という感じだ。本人がスタイル抜群の美女であるため、雰囲気だけでなく、肉体的にもエロいので、女性が見てもなんだかドキドキしてくる。自分が言うのも何だが、本当に男性からアプローチを掛けられたことがないのかと疑ってしまうほどだ。
「……とりあえず、そういうことであれば期待に応えられるように努力致しますわ」
「ふふ、君も昔に比べて成長したようで何よりだ。一緒になった時はよろしく頼むよ、エクレア女史」
「……ええ、こちらこそ」
メイドの間で言う、一緒になった時、というのは当然、夜伽などの時の話だ。10人、20人、あるいは全員という場合もあるので、複数人で一緒にというのは日常茶飯事であり、別段、特筆すべきことではない。
それよりも、昔のことなどを出される方が問題で、
「後、成長は止まってますから」
「永久保護魔法の効果があるからな。しかし、それはそれで少し残念なこともある。効果外であれば、彼に揉まれすぎて、更に成長することもあり得るのだが……」
「いやまあ、小さい子達は確かに喜びそうですけど……相対的にはプラスなのでは? というか、アイシャさんはもうそれ以上大きくならずとも……」
メイド一の爆乳が何を言っているのかと半目になる。それ以上大きくなったら、一部のメイドがあまりの格差に真顔になりそうだ。特にリムとか。
しかしまあ、レオンハルトは巨乳好きなので、ちょっと分からなくもないとエクレアは思っていると、
「そうとは限らない。最近だと、私以上の者もいるようだしな」
「え? ああ……お町さん……」
一瞬、何を言っているのかと思ったが、メイド以外にそういえば、アイシャを越える胸の持ち主がいたことを思い出す。当然、彼女もレオンハルトの女ではあるので、メイドではないが仲間のようなものだ。それ故に、
「ちょっと前までは私と紅月の2トップだったのだがな。今では上がいるし、私も負けないように頑張らねばならないだろう?」
「……ですわね。悦んでいただける分には喜ばしいことですし……」
アイシャの言葉に同意する。レオンハルトはそういうことで贔屓をしたり、扱いを変えるような方ではないのでそういった心配はない。彼が悦ぶのであればそれでいいのだ。
しかしまあ、せっかくなので経験の差を見せつけてやるのも一興だということ。お互いに競い合えば、それはそれでレオンハルトも悦ぶし、お互いの技術も上がる。
実際古株のメイドほど、その技術は高い。レオンハルトの趣向や、感じるポイントも理解しているので、技術も相まって性的趣向をくすぐることに長けている。
技術指南役を務めてる使徒のペールから教わり、受け継がれるものだ。一番の古株であるリムやメイド長さんなどは、なんだかんだで凄いテクニックがある。
新人の子以外は、割りと極まっている節もあるが、新人は新人で、初々しさが妙にツボをついていったりするので油断ならなかったりする。最近だと、魔人姉妹の方々などが、無意識ではあるだろうが、そういった感じで興奮を助長しているらしいと噂で聞いた。
「では、わたくしは次の方を訪ねてきますので」
「ああ。私も、そろそろ仕事に戻るとしよう」
ともあれ、問題がないのであれば次に行くのみだ。
聞くことは聞いたので雑談はそこそこに、エクレアはアイシャと別れて次の場所に向かう。
次は──
「……!」
と、エクレアは城の玄関に向かっている途中で、視界に映ったものに気づく。
それは目的の人物達と、それ以外の者達。今彼女達に声を掛けるわけにはいかない状況だ。
故にエクレアは、歩幅を狭めながら自然に歩きつつも、それを待つ。頭を下げる準備をしつつも、おそらくは別の場所に通されるだろうと思いながら観察することにした。
「──ようこそお運び下さいました、アッティラ閣下」
「うむ。レオンハルト様は──」
「既に部屋でお待ち頂いております。案内致しますのでこちらへどうぞ」
「頼む。お前達、ゆくぞ」
「はっ!」
玄関先にいたのは、自分達メイドとは似ても似つかない、巨大な魔物だった。
大型の魔物。全体的に丸いシルエットを持つ彼らは、魔軍の重鎮たる魔物将軍達である。
だが先頭を行くのは、その魔物将軍を更に一回り大きくしたような魔物だ。黄色い魔物将軍とは違い、暗い青色と、球体の中に人の顔のようなものを浮かべる魔物。
それを、エクレアは知っている。魔物界にいれば、知っていて当然の相手だ。
魔軍を指揮する七体の魔物大将軍の内の一体だろう。確か、アッティラと言う魔物大将軍だ。
他のメイドと比べて、事務仕事を手伝うこともあるエクレアは一応の知識がある。
……何でも、国狩りの際に多大な貢献をして、魔物大将軍の中でも一番の影響力があるとか。
魔王ナイチサが治めるNCという前時代から、魔王ジルが治めるGL期に代わる際に起こった大事件として、魔王ジルの国狩りがある。
全ての人類国家を破壊し、その文明を崩壊させて、魔物の支配下に置こうという政策だ。その結果、人類は人間牧場という施設に収容、奴隷化、家畜化されることとなる。
その時期においては、自分達の主人であるレオンハルトを始め、全ての魔人に使徒、魔軍が全力で人類圏を攻め滅ぼしたため、この城でも色々と忙しい時期だった。
自分達が下級使徒になったのもそのちょうど時期だ。人間という立場が低くなると見たレオンハルトの対策。自分達を守るためのものだ。
そして、その国狩りにおいて一際活躍したのが、視界に映る魔物大将軍アッティラだ。
この城にも度々訪れ、レオンハルトと顔を合わせている。
しかし本人はとても無口で、何を考えているか分からない。分かっているのは、国狩りの際に容赦のない殺戮と破壊を繰り返し、今現在でも冷徹過ぎるほどに淡々と人間牧場の指揮を執っているということ。
そこに複雑な思いを覚えないといえば嘘になるが、レオンハルトのメイドに、下級使徒になった時点で色々と割り切ってはいる。故に気にしないようにしながらそれを見送り、それとは別にメイドの方を見た。
「将軍方もどうぞ♪ レオンハルト様がお待ちですからね♪」
「……うむ」
接客を担当している金髪のメイドを見る。髪を後ろで二つ結びにし、ニコニコと愛想のいい笑顔を浮かべている彼女は、副メイド長の一人であるセレスだ。
ツリ目で気の強そうに見える、しかしかなりの美人で、やはりスタイルも抜群の美少女。そんな彼女に微笑まれた魔物将軍が一瞬、そのたわわに実った胸元に目が行ったのを、エクレアや、おそらく彼女も見逃さなかった。
だが特に何を言うでも、何が起きるでもない。エクレアはこの後のことを考えて息を吐きながら、セレスはニコニコと立っているだけである。
しかし暫くして、その場から魔物大将軍や魔物将軍がいなくなり、その場にメイドしかいなくなると、セレスはその笑顔を途端に崩した。
「……キモいキモいキモい! 最悪……! あの魔物将軍、あたしの胸をいやらしい目で見てたし……! ほんと、ぶっ飛ばしてやりたいわ!」
「……はぁ、気持ちは分からなくもないですが、少し落ち着いたらどうですの?」
歩幅を通常のものに戻して近づき声を掛ける。他のメイド達とも挨拶を交わしつつ、演技上手なセレスに更に近づくと、彼女もこちらに気づいた。
「だって、キモいもんはキモいでしょ!? まったく、人間も魔物も男ってのは昔っから変わらないわね! 胸ばっかり見るんだから! 気づかれてないとか思ってるのか知んないけどバレバレだってのよ! ほんと、幾らあたしが可愛いからって……タダで見せてやるほどあたしは安い女じゃないの! 今度から金取ってやろうかしら!」
急に目をキッと鋭くして、先程の魔物将軍や男に対する不満を口にする彼女は、とてもではないが先程までニコニコと笑顔で接客していた人物とは思えない。
これでも昔は踊り子だったらしいが、裏ではやはりこんな感じで愚痴っていたのだろうな、と想像させてくれる。そういった不満みたいなものは、この城にいるメイドであれば割りと理解出来るものが多いのだが、彼女の場合はかなり熱いというか、文句が絶えないものだ。
しかし他のメイド、セレスの部下であるメイドから声が上がる。それは、
「でもセレスさんって、レオンハルト様にはどうしてるんだったっけ? ──はい、どうぞ!」
「はい、セレスさんがレオンハルト様を前にした時のモノマネ、行きます! ──“ご主人様ぁ♪ 好きぃ、好き好きぃ、しゅきぃ、大好きぃ♪ ねぇ、チューしてぇ……♪ おっぱい揉みながらベロチューしてくれないとやだぁ……むちゅ、ちゅううう、れろれろれろぉ♪ ”」
「っ~~~……! は、はははっ倒すわよあんたらっ!?」
セレスが顔を真っ赤にしながら部下に怒る。ごめんなさーい、とそんな反省してないだろうメイド達が謝る。どうでもいいが、接客担当のメイド達だけあって、モノマネとかそういう芸達者な子達が多いなぁ、と感心させられる。今のモノマネも、大分セレスの声に似せてたし、割りと言いそうというか、言ってるのでちょっと笑いそうになってしまった。笑ったらチョップされるので笑わないが。
しかし目敏いセレスには見破られたのか、目を細められ、
「……エクレア。ひょっとして、あんたまで笑うの我慢してたりしないわよね?」
「……いえ別に。ただ、楽しそうだなと思っただけで──」
「“やぁん♪ レオンハルト様ってばおっぱい好きぃ♪ もっと乳首弄ってぇ♪ あたし、レオンハルト様に乳首弄られるの好きなのぉ♪ ”」
「“ご主人様かっこよすぎぃ♪ レオンハルト様ぁ、あたしのご主人様ぁ♪ 早くオマ○コしてぇ♪ あたしのここ、レオンハルト様のこと想いすぎてもうきゅんきゅんしちゃってるのぉ♪」
「く、くく、ちょっとあなた達、やめ……っ」
「こらあああああ──!? だから止めろつってんでしょうが!?」
「あーん、ごめんなさーい♪」
「反省してまーす♪」
くねくねしながらセレスのモノマネをしていたメイド達が舌を出しながら謝り、そして逃げていく。セレスの方も手に拳を作って追いかけようとしたが、逃げ足の速さを見て一度は諦める。後で折檻はするだろうが。
「くっ……あの子達、後で絶対泣かす……!」
「変わりませんわねぇ……」
「あんたはあんたで、なに染み染みとしてんのよ! 同じ副メイド長が舐められてるんだから怒りなさいよ!」
舐められてるというか、あれはあれで純粋な愛情表現。つまり慕われているのだろうとエクレアは分析する。踊り子だったが、人の役に立ちたくて神官になるようなセレスだ。それだけに彼女は人が良く、かなり面倒見が良くて、特に後輩からは慕われているし、先輩からも弄りやすくて面白いと評判なのだ。
レオンハルトが好きすぎてあんな感じになる者は幾らでもいるが、そのギャップが一番大きいのはセレスだろうし、からかわれるのも無理はないかもしれない。
もっとも、自分があんな風に弄られたらたまったものではないが、他人事なので笑ってみていられる。そう思いながら、
「まあとりあえず、シフトのことについて聞きに来たのですけど、今は大丈夫かしら?」
「……あんたも、随分と動じなくなったわね……別にいいけど」
ジト目をこちらに向けてくるが無視する。誰のせいかと言われれば、セレスも含めた個性のある周囲の者達のせいだ。
「何か希望はありますか?」
「……ちょっとそれ貸して」
はい、と仮シフトが書かれた紙を手渡す。すると、セレスはそれを食い入るように見て、
「ちょっとここ! ここは前の日にしてほしいんだけど!?」
案の定、変更してほしいと言われた。なのでエクレアは責務を果たすため、
「……一応聞きますけど、どうしてですか?」
「そんなこと決まってるでしょ!? あたしは、3日に一回は最低でもレオンハルト様に抱かれないと調子が出ないの! だから前の日にして!」
「と、言われましても……」
いつものことではあるが、結構全員が均等に間が開かないようにしてるので、調整というのは結構難しい。
なので、やるとしたら──
「……でしたら、この3日目を夜。この3日目から数えて4日目の朝ならどうです? これならほぼ中3日ですわ」
「ん、朝……」
その提案にセレスが考え込む。割りと美味しいのは間違いないはずだ。
というのも、朝という時間帯は、意外と人気がある。夜に比べて時間的余裕がそこまでないのが気になるが、それでも朝一のレオンハルトのそれは、中々に魅力的なのだ。量もすごかったりするし。
なので、十中八九了承するだろうと待っていると、
「……それでいいわ」
「はい、分かりました」
譲歩成功。とはいえ、入れ替えた分だけ調整が必要だが、それはそれで何とかなりそうではある。後は、
「夜には渡そうかと思いますが……起きてますか?」
「あー……ごめん。多分寝てるわね。だって明日は……」
「……まあ、そうですわよね」
そりゃあそうか、と夜にはもう寝てるというセレスに理解を示す。
というのも、明日はレオンハルトの休日だからだ。
一月に一度の、自分達の為だけの休日。それは一日中レオンハルトとイチャイチャすることの出来る一日。
だからこそ、前日は早めに休むメイドが多い。夜の当番でもない限りは、かなり早い時間に床につくのだ。
「まあそういうことでしたら、折を見て明日のどこかで部屋に置いておくか……もしくは明後日の朝一にでも渡しますわ」
「……そうね。それでお願い。いつも悪いわね」
「これも仕事ですから全然大丈夫です。サボったりしたら、ご主人様に申し訳が立ちませんから」
「ん、それもそうよね。ありがと。それじゃあ仕事に戻るわ」
最後に、身内にだけ見せる柔らかい笑みを浮かべて短いお礼を告げると、セレスは仕事へと戻っていった。
……とりあえずは、こんなところですか。
一応、聞いて置かなければならないところは聞いて回ったし、後は正シフトを完成させてメイド長さんに確認してもらい、その後で他の副メイド長に渡す。
最後に副メイド長が自分の班のメイド達に通達すれば終わりだ。
シフト表は割りと一日仕事というか、結構長いこと掛かるので、エクレア担当の仕事の中では結構キツいものだ。
だがこういった疲れも、ご主人様と触れあえば癒やされる。
しかも明日は休日だし、それを思えば今から楽しみになってくる。他のメイドも、今日は明日を待ち望んで仕事に励んでいることだろうと、エクレアは執務用の部屋に戻っていった。
えー、一応えっちぃ話が完成しましたので、一応報告しておきます。
『魔軍参謀の性活』→https://syosetu.org/novel/193487/
1周年記念ということで、真面目に書いてみましたが、オチ無しのただの息抜き用エロ回で、読まなくても問題ないような話はこっちに投稿しようかな、と思います。なお、性癖不一致の責任は取れません。ぶっちゃけ隠してた方がエロい可能性もありますが、その辺は自分でもちょっと判断付かないので、皆様がご判断下さい。
本編の方は、次回からガイ君の話に入ります。というわけでお楽しみに