※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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カラーの里で一泊

「──それで、貴方達は一体何なのかしら……?」

 

 カラーの女王の側近、ミストラル・カラーはガイの慰めも手伝い気を取り直すと、改めてその不法侵入者一行に向かって問いかけた。

 すると彼らはやはり順番に、

 

「通りすがりの冒険者、白兎です。これから英雄になる予定です。因みに、こちらは私のお友達、通りすがりの猿の藤吉郎」

 

「きー!」

 

「……通りすがりの冒険者のお付きのイヴです。色々とすいません……」

 

「通りすがりの不死鳥の戯骸だ。まあ、よろしくな」

 

「……我は通りすがりの……九尾の妖怪だ。名はお町と言う」

 

「私は通りすがりの……そうね……甘いもの好きのベゼルアイよ。この名乗り方が流行ってるみたいだから一応便乗しておくわ」

 

「…………」

 

 その六人──そもそも人じゃなさそうな面子を訝しむように観察するミストラル。

 どう見ても怪しいし、微妙に胡散臭い。冒険者とは言うが、まともそうな人間がイヴと名乗った魔法使いくらいしかいないのだ。

 

「……色々とツッコミたいところはあるけど一先ず置いておくことにするわ……。私はこの家の主で、このペンシルカウの防衛隊隊長を務めてるミストラル・カラーよ。こっちは、ペットのガイ。というか、名乗ったのかしら?」

 

「あ、はい。通りすがりのガイです」

 

「妙な影響受けてるんじゃないわよ」

 

「す、すみません」

 

 何故かガイまでこの怪しい奴らに影響を受けて名乗ったので、ピシャリと注意しておく。すると今度は相手の方から、

 

「ええっと……ほんと、色々と申し訳ないのですけど……ちょっとお願いさせて頂いてもよろしいですか?」

 

「……イヴ、だったかしら? お願いってさっきのこと?」

 

 申し訳無さそうに謝りながら進み出てきた小柄な桃色髪の少女──イブに向かって問う。

 一応普通の人間に見えるが……何となく、少し嫌な感じもする。

 というのも、一筋縄ではいかない雰囲気が隠れているような気がしたのだ。

 

「はい。私達を一晩、泊めて頂けないかと……」

 

「……貴方達のような怪しい連中を?」

 

「耳が痛いですが、その通りです。ですが、そちら様やこの里の迷惑になることは決してしないとお約束します」

 

 丁寧かつ、柔和な笑みを浮かべてそう言うイヴ。そこでようやくミストラルは気づく。

 何となく一筋縄じゃいかなそうと感じたのは、どうにも女王のような、交渉事などに長けたような頭が回る者を思わせるからだ。

 きっと、彼女がこの一行の交渉役なのだろう。旅をするに当たって、そういった役割も重要だ。

 だが、ミストラルはそれを聞いても、溜息しか出てこなかった。視界の中に、相手の苦労が垣間見えたから。

 

「……後ろ、見たほうがいいわよ」

 

「……えっ?」

 

 イヴがこちらの言葉に従って背後を見る。そこでは、

 

「将棋盤と駒がありますね。せっかくですし勝負しましょう、お町さん」

 

「我はそこまで得意ではないのだが……まあ良かろう」

 

「ふふん、私は強いですよ」

 

「ききー!」

 

「どうした、藤吉郎……って、おお、もうお菓子無くなったのか」

 

「私も、ホットケーキのおかわりを所望するわ。後、シロップと蜂蜜とバターを貰える?」

 

「そういえば私も対局のお供にお菓子とお茶が欲しいです」

 

「え、あ、はい……それじゃ作ってきます……」

 

「──なに好き勝手やってんですか貴方達は!?」

 

 フリーダム過ぎる背後の状況に気づいたイヴが吠える。一筋縄じゃいかなそうな雰囲気は消えた。

 というか、

 

「なんですかイヴさん? ──あ、イヴさんもおかわり欲しいんですね」

 

「イヴは何気に食いしん坊だよな」

 

「何? 火起こしからしないと駄目なの? 時間も掛かるし、戯骸の上に鉄板置いて焼きましょう。そのほうが早く焼けるわ」

 

「俺でやんのか? 別にいいけどよ……火力調整が難しいんだよなぁ」

 

「え、えっと、じゃあ……また焼きますか?」

 

「ええ、私の分も──って、そうじゃありません!!」

 

 イヴが全力でツッコんでいるのをミストラルは半目で呆れながら見る。何と言うか、苦労人っぷりが滲み出ていて哀愁が漂っている気がした。

 

「貴方……苦労してるのね」

 

「──ええ、まあ。私、家出少女ですから」

 

「白兎さんには言ってないでしょうが今の!? 絶対私への同情ですよ!!」

 

 自分で言うんだ……、と皆が若干同情の視線を向ける。

 そんなことをしている間に、ガイがイヴに向かっておずおずと、

 

「あ、あの……ホットケーキ、一枚目焼けたので……良かったらお先にどうぞ」

 

「見て下さいよ! 私、こんな初対面の少年からすら憐れまれてるんですけど!?」

 

「さすがはイヴさんですね。凄いです」

 

「ききききき!」

 

「なに笑ってんですか藤吉郎! ぶっ殺しますよ!?」

 

「きぃっ!?」

 

「……ホットケーキ食べていい?」

 

「ベゼルアイさんはもう清々しいくらいに甘いもののことしか頭にありませんね!?」

 

「……そんなことないわ。ちょっと、そこのミストラルちゃんと口調が被ってるなぁ……とか」

 

「──とか、じゃありませんよ! 滅茶苦茶どうでもいいですから!!」

 

「ちゃん付けされた……」

 

「貴方は貴方で、もっと他に気にするべきことがあるでしょう!?」

 

 心底忙しそうというか、自分すら巻き込んでツッコミを入れてくるイヴに感心する。他に気にするべきことがあるだろ、と言われ、ミストラルは正直に答えた。

 

「いえ……ここまでくると、逆に面白くなってきたわ」

 

「面白いで済ましちゃうんですか……」

 

「一番面白いのは貴方よ。友達になりたいくらいだわ」

 

「──貴方まで私をおもちゃにする気ですか!?」

 

 ぜぇぜぇと肩で息をするイヴ。そろそろ限界だろうか。もっと退屈を紛らわすために見ていたい気もするが、

 

「……まあ、一晩くらいなら泊めても構わないわ」

 

「え、えぇ……? この流れで許可するんですか……? 正直私が言うのもなんですが、追い出した方がいいですよ?」

 

「貴方、どっちの味方なのよ……」

 

 泊めてもらうための交渉で出てきたイヴが、何故か追い出した方がいい、と言ってしまう珍事にミストラルは困惑する。イヴの方も何が何やら分からなくなってるような気もするが、とりあえず答えとして、

 

「というか、追い出すにも追い出せないでしょうし……」

 

「……コメントに困りますね。否定は出来ませんけど」

 

 そうだろう、とイヴの回答にミストラルは納得する。

 明らかに怪しい不法侵入者達。当然、追い出すことは真っ先に考えたものの、

 ……これ、全員私より強いわよね……。

 そう。そもそも、物理的に追い出すことが難しい。

 ミストラルは、そこそこ自分の強さに自信はあるし、そんじょそこらの人間には負けないという自負がある。

 だが、目の前にいる者達──そもそも人間じゃない者達も、人間も皆、明らかに自分より強い気配がするのだ。

 騒ぎを起こして無理矢理ここにいれなくすることも出来なくもないが、そんなことをすれば、ガイを飼っていることもバレてしまうため、出来れば大きな騒ぎにはしたくない。

 となると、相手がこちらに危害を加えないことを信じて、一晩泊めてしまった方がいい。何となく、そんな雰囲気は感じないし、時間はもう夜。時間的にはそれほど長く居させる訳ではないし、明日になったらさっさと出ていって貰えばいいだけだ。

 個人的にはその素性とかが大いに気になるが、好奇心はにゃんにゃんを殺す、とも言うし、素性の詮索は止めておいた方がいい気がした。

 特にあの白兎という少女。使徒が探していたりするし、周囲に連れている者達もヤバそうな連中。それに白兎自身がこの中で一番底知れない気配を感じることを考えると、知ってはならないことを知ってしまいそうで怖い。

 それこそ、禁忌に触れてしまったりすれば、死もあり得るような気がする。さすがにまだ死にたくはない。

 とはいえ、相手もそう簡単に秘密を口にしたりはしないだろうし、大丈夫だろう。なので泊めることを覚悟すると、ミストラルは目尻を押さえた上で軽く息を吐き、

 

「……まぁ、構わないわ。ただ、ベッドはないわよ? 毛布があるくらいだから、その辺は期待しないで」

 

「! ありがとうございます! ですが、その辺りは抜かりはありません! せっかくの家出ですし、夜更かしする覚悟は出来てます!」

 

「いや、気持ちが分かりますが寝ましょうよ、白兎さん……」

 

 そんなこんなで、怪しい奴らを泊めることになってしまった。

 

 

 

 

 

 ガイは初対面の彼らに驚き、落ち着かない時間を過ごしていた。

 ミストラルが仕事に出かけた後、家でおやつを作って食べ終わり、一人で勉強をしていた時に急に現れた一行。

 

『今日はここで寝泊まりさせてもらいましょう』

 

『いやいやいや……不法侵入はさすがにどうかと思いますよ、白兎さん……』

 

『つーか、人いるじゃねぇか』

 

『カラーの里なのに人間の男の子がいるのね』

 

『ふむ……奴隷か何かかの……?』

 

『うきっ!』

 

 そんな彼らを、不思議とガイは迎え入れてしまった。

 迎え入れるしかなかったとも言えるが。

 ……凄く、濃い人達だ……。

 今まで会った人達の中でも特段に濃い者達。

 そもそも人間なのかどうかすら分からない者達だ。

 しかし害意は感じない。

 存在感は凄いが、それは怖いものではなかったのだ。

 だが、かといって馴れ馴れしく話かけることも難しい相手だった。

 だからガイはおやつを作り、それが終わったら再び一人で勉強を続けることにした。

 一泊すればここを出ていくと言うし、彼らがここにいるのは短い時間だけだ。耐える、というと変だが、この時間さえ過ぎ去れば日常に戻ることになる。

 それまで大人しくしていようとも。

 だが、

 

「おや、魔法の勉強ですか」

 

「っ……!」

 

 少し離れた場所にある机で本を開いて勉強を始めると、白兎という少女が話しかけてきた。

 何故か殆ど目を開かないで過ごしている謎の少女だ。刀、という武器を常に持ってもいる。

 年頃は一見すると近いように見えるが、どこか年上のような雰囲気も感じられ、一体何歳なのかが分からない。

 色々と不気味とも言えるが、とはいえ、話しかけられれば無視することは出来ない。

 

「……魔法を、覚えたくて……」

 

「ふむ。そういうことならイヴさんにアドバイスしてもらうといいでしょう」

 

「いや、アドバイスも何も座学はそれほど言うこともないのですが……本に書かれてる内容が分からないというならともかく、そういう風でもないみたいですし……」

 

 と、白兎の後ろからイヴという少女までやってきた。微妙に呆れ気味の様子で、先程からも他の面子に注意して回っていたところから、かなり苦労している様子が見受けられる。

 

「……それよりも、ガイ君、でしたか。貴方……」

 

「……? な、何ですか?」

 

 そのイヴが不意に、表情を真面目なものに変えてガイを見る。かなり距離が近く、肩を触れられていたため、ガイは何となしに緊張してしまう。一体何だろうと疑問を感じていると、

 

「……いえ、やっぱり何でもありません。先程はホットケーキを振る舞ってくださってありがとうございますね」

 

「あ、はい。それは別に……材料も僕自身も、ミストラルさんのものですし……」

 

「それでも作ってくださったのはガイ君ですから、お礼を言うのは当然のことですよ」

 

 と、肩から手を離し、距離を取ったイヴが笑みを浮かべてお礼を言う。

 結局何だったんだろう、と不思議に思うが、聞き返すことも出来ないのでガイは勉強に戻ろうとして、

 

「どうして魔法を習っているんですか?」

 

「……えっ?」

 

 と、今度は白兎の方から質問が来た。思わぬ質問に声を漏らす。

 その質問を頭で理解し、その答えも当然存在するので頭の中にはっきりと現れる。しかしガイは、

 

「……出来ることを増やしたいと思ったからです」

 

 嘘ではないが、自分の中の本当の答えを避けて回答した。

 実際質問の答えとしては微妙なところだ。じゃあ、何故出来ることを増やしたいのか、とそう続けて問いかけられてしまいかねないもの。

 だがそこまで考えは回らず、ガイは誤魔化そうとし、後からそのことに気づいた。

 しかし白兎は、

 

「……なるほど。出来ることを増やそうとするのは良いことですね」

 

「あ……」

 

 と、追求することはなく、微笑を浮かべてその答えを褒めてみせた。

 何やら大人のような対応をされて、ガイは途端に自分が答えを誤魔化そうとしたことが何故か恥ずかしく思ってしまう。

 しかし少し離れているとはいえ、色んな人がいるこの場で口にすることは、それこそ恥ずかしいような気がした。

 

「……僕、そろそろ寝ます」

 

「おや、もう寝るんですか?」

 

 白兎が軽く首を傾げながら訪ねてくる。しかしガイは本を仕舞いながらも、

 

「……明日も早いですから」

 

 そう告げて自分の寝床のある奥の部屋に向かった。

 今から寝とかないと時間が無くなってしまうと、またしても嘘ではないが誤魔化すような言葉を作って。

 

 

 

 

 

「じゃあ、私も寝るわ。貴方達はこの居間を使って好きに寝てちょうだい。毛布はそこの棚に置いてあるのを使って」

 

「分かりました。オールする気満々ですけど、ありがとうございます」

 

「だから寝ましょうよ、白兎さん……」

 

「……何でもいいけど、あんまり騒がないでちょうだいね……」

 

「さすがに外は真っ暗だの」

 

「火でも点けてやろうか?」

 

「キャンプファイアーしましょう!」

 

「うきー!」

 

「火事を起こす気ですか!?」

 

「騒ぐなって言ってるのだけど!?」

 

 夜もかなり更けてきた真夜中。ガイは既に寝床へ向かっており、ミストラルが残った面子の不安さにイヴと共にツッコミを入れて頭を抱える。それを見たイヴが横を向いて迫真の表情で、

 

「……ミストラルさん。そのツッコミの切れ味……貴方、中々良いストッパーですね。どうでしょう、このまま寝ないで私と苦労を分かち合いませんか?」

 

「──今直ぐ寝ることにするわ」

 

「後生です! 後生ですから! この面子だと真面目な人が私しかいないんです!」

 

「今日は自分にスリープの魔法を掛けて寝ることにするわ。絶対に途中で起きないようにね」

 

「それはそれでどうなんでしょうか……?」

 

 それじゃあ、とイヴの必死の引き止め虚しく、ミストラルも寝室に向かったところで、イヴは大きく溜息を吐く。

 居間にはこれで自分達、家出してきた一行だけになった。貴重なツッコミ用の人材もとい、胃痛を分散するための人柱になれそうな相手が消えたことを残念に思いつつ、しかし、それはそれで話さねばならないことを話せる、と思いもする。

 近くで聞き耳を立てていないことを、白兎と共にそれぞれの能力で確認を取りながら、

 

「まったく……いきなりペンシルカウに忍び込んで寝泊まりするなんて……何度も言いますがむちゃくちゃですよ……」

 

「ふふん、しかしまだ追手は来てません。灯台下暗しというやつです」

 

「ききー!」

 

 白兎とその肩に乗った藤吉郎が自慢気に胸を張る。イヴが半目を向け、戯骸が煙管から炎を吐き出しながら、

 

「ハハッ、まあ確かに、レオンハルトの影響が大きいここに隠れてるなんて思いもしないかもな」

 

「とはいえ、直ぐに見つかる気もするが……あのハンティもどうせ探しておるのだろうしな……」

 

 お町が真面目な表情でそう言った。するとイヴが息を吐きながらも気を取り直して、

 

「……先生は今、極秘任務の最中ですし、他の使徒の方々も最近は忙しいと聞いてます。レオンハルト様も本体は魔王城に缶詰めらしいので、多少は時間はあるかと思いますけど……それよりも、これだけの人数を巻き込んでしまっていることが私としては何とも言えないんですが……」

 

「全員、私のお友達ですから」

 

 当然の様に言う白兎を見てると、ツッコむ気が失せてくるから困る。そう心の中で思ったイヴは、ようやくおやつを食べ終えて一息ついている同行者に目を向けた。

 

「……まあ、私や藤吉郎、そして戯骸さんはともかく……お町さんとベゼルアイさんはなんで来たんですか?」

 

「……友の頼み事は無碍には出来ん。正直、レオンハルトの迷惑になることはしたくないのだが……心配なのもあってこちらに同行することにした」

 

 お町は憂いを帯びた表情でそう言った。どちらかというと、白兎の友達とはいえレオンハルト寄りの筈だが、何かあった時の為についてくることにしたらしい。

 その心配はありがたいが、出来れば白兎を止めてほしかったとも思う。イヴはそう思いながらももう一方に視線を向け、

 

「それで、ベゼルアイさんは……」

 

「強引に誘われたわ」

 

「……白兎さん?」

 

 ジト目を白兎に向ける。いつの間にか横に倒したお町の尾を背もたれにしていた白兎は当たり前のように、

 

「強引ではないです。ただ、事前に家まで行って、街のお菓子食べ放題券を差し出したら快くついてきてくれました」

 

「だからしょうがないのよ」

 

「えぇ……」

 

 ベゼルアイの甘いもの好きにイヴは困惑するしかない。そんなことで釣られないでほしいものだ。

 イヴが頭を抱えていると今度は興味深そうな表情でお町がベゼルアイに、

 

「魔物の産みの親、聖女の子モンスターか……よもや街に住んでいたとは、初めて知ったぞ」

 

「あら、結構昔から家を貰ってそこに住んでるわよ。魔物も沢山住んでるし、お菓子も美味しいし、拠点にするには丁度いいのよね。城にもたまに行ってるし。同じ聖女の子モンスターのセラクロラスなんかもたまに現れるわ。だからそれほど珍しくはないわよ」

 

「……そうか」

 

 お町はベゼルアイの言葉を聞いて納得する。何気にベゼルアイはレオンハルトと千年以上の付き合いのため、比較的新参なお町や他の者達が知らなくても無理はないのだ。

 とはいえ、戯骸などは例外らしく、

 

「俺は知ってたぜ。家が近所だからな」

 

「ええ、お隣さんね。反対側のお隣さんのジーク君と一緒に仲良くさせて貰ってるわ」

 

「お隣さんって……ああ、そういえば皆さんは一番街にお住まいでしたね……」

 

 レオンハルトシティの一番街と言えば、高級住宅街であり、最低でも魔物将軍が住むような屋敷や邸宅がある一角だ。

 そのため特殊な立場のベゼルアイや戯骸なども住んでいるらしい。魔人の別荘もあるため、彼らがお隣さんであっても不思議ではないのだろう。イヴは納得したが、

 

「……はぁ……それじゃ、それはいいですけど……白兎さん?」

 

「何ですか?」

 

 改めて白兎を見やる。夜更かしの準備でもしているのか、城から持ってきたお菓子や娯楽品を並べている辺り、相変わらず緊張感が無くて困る。お泊まり会ではないのだが、

 

「……家出の理由……はともかく、これだけの人数を連れてきて何をするつもりですか?」

 

「まあ、それは確かに気になってたがなぁ……」

 

 戯骸が同調する。家出の理由は自分や藤吉郎だけではあるが、一応知っているのでいいとしても、態々これだけの面子を集めた理由はいまいち分かっていない。

 計画的に家出をしたが、街を出る際に外で待ち合わせをした時には、白兎は戯骸にお町、ベゼルアイを一緒に連れてきており、イヴは藤吉郎と共に驚いたものだ。

 故に白兎に問いたいのは、その理由。白兎の事だから、何かしらの狙いがあるのだろう。こう見えて結構用意周到なのが白兎なのだ。

 今度は何を企んでいるのか、イヴは内心で訝しみながら答えを待った。すると白兎は、不敵な笑みと共にその赤い瞳を開いてみせ、

 

「──冒険には仲間が必要ですからね」

 

「……はい?」

 

 気が抜けるようなことを言われたようで、イヴは思わず聞き返してしまう。しかしどういう意味かと改めて言葉にする前に白兎は皆に向かって、

 

「そろそろ私も、一端の剣士として名を上げようかと思いまして」

 

「名を上げる……?」

 

 お町の疑問の声に、白兎は頷いた。

 

「そうです。これまで何度か旅をさせてもらっていましたが……どれもパッとしない結果に終わり、何かを達成することが出来ていません」

 

「ああ、まぁ……いつも途中で帰りますからね。あんまり長い外出は……その……」

 

 イヴが得心しながらも言葉を濁す。白兎が日頃から気にしていることだったからだ。

 外に出て自由に旅をしてみたいという白兎だが、それが真の意味で叶ったことは一度もない。

 というのも、白兎の父親の言いつけのせいだ。

 ……ああ、なるほど。そういうことですか……。

 それを思い出し、イヴはようやく全てに合点がいく。家出の理由と繋がることだった。

 確かに、認めさせるためにはこういうことも必要かもしれないが、言いつけの理由も理解出来るため、イヴとしては何とも複雑な気持ちになる。

 そうしていると白兎もイヴの言葉に同意し、刀を握る手に力を込めた。

 

「はい。あまり長く外に出ることは許されてませんし、外に出る時も監視が付いてたりします。なので今回は、それを無視して色々と自由に冒険をしようかと」

 

「別にいいけど、具体的には何をするの?」

 

「ベゼルアイさんはあっさりですね……」

 

 あっさりと了承するベゼルアイを横目で見つつ、気が抜けそうになりながらもその問いの答えを待つ。白兎は、はい、とまた頷き、

 

「とりあえず、伝説のお宝でもゲットしようかと」

 

「伝説のお宝か……高い目標を立てるのはいいが、当てでもあるのか?」

 

「あります」

 

「あるんですか……」

 

 戯骸の問いにもあっさりと答えた白兎に、もはや白兎を止めることは不可能だな、と諦めが入るイヴ。そんなイヴの心も知らず、白兎は少し楽しそうに、

 

「つい先日、父上の部屋に忍び込んでとっておきの宝の情報を見つけてきましたので、それを取りに行きます」

 

「それはまた、とんでもなくヤバそうね」

 

 ベゼルアイの言う通り、魔人レオンハルトが持っていた宝の情報とか、何気にヤバいものが見つかってもおかしくないような気がしてくるから困る。

 

「ききー!」

 

「……“それは、どんな宝なんですかい? ”と、藤吉郎が言ってます」

 

「ふふん、それはですね──」

 

 藤吉郎の言葉を通訳して代わりに質問するイヴ。ぶっちゃけあまり通訳したくなかったが、よく考えるとその情報を知っておいた方が何にしても役に立つと思い、やはり通訳した。自分がしなくても戯骸が通訳出来る上、白兎も大体は何を言っているかが分かるため、隠しても意味がないことでもある。

 それに白兎の方も、宝の情報を皆に言いたくて言いたくてしょうがなかったのか、今日一番の得意気な表情を見せる。ドヤ顔とも言っていい。白兎は、そんなドヤ顔でこう続けた。

 

「何でも──()()()()()()()()()()()()()()

 

「聖刀……つまり、刀ですか」

 

「そうです。そろそろ私も、父上のように伝説の武器の一つや二つは手に入れておかないと箔が付きません」

 

「……まあ、それくらいなら……」

 

 と、イヴはその名前を聞いて思考し、何となくそれくらいならいいかもしれないとも思う。

 とんでもなく危険な事を言い出すならともかく、伝説の武器を手に入れたいというくらいなら可愛いものだと感じてしまうのだ。

 実際、レオンハルトがたまに迷宮に出かけて武器などをコレクションにするために持ち帰ってくることもあるため、その情報にもそれなりに信憑性がある。

 おそらくは、迷宮に潜るだけ、というのもいい。これが地獄とか悪魔界に行こう、みたいな話なら全然変わってくるというか、一般人的には全力で止めるところだが、さすがのイヴも迷宮くらいであれば慣れたものだし、それを手に入れて白兎が満足するならそれに越したことはないのだ。

 

「というわけで、明日から始まる冒険の最初の目標として、それを手に入れに行きましょう」

 

「しょうがないですね……」

 

「きき!」

 

「ハハッ、面白そうだな」

 

「強引だの……」

 

「それに随分と楽しそうね」

 

 皆が口々に笑みや苦笑を浮かべながら頷く。最初の目標とか言っているのが不安でしょうがないが、イヴも現実逃避気味に頷いた。

 いざとなったら泣きついてでも止めることにしよう。一般人なので止められる気はしないが、とイヴはいつもの事すぎてこれくらいでは痛まなくなってきた胃を擦った。

 

「──というわけでお泊まり会の定番だというコイバナとやらをしましょう」

 

「唐突に何なんですか……というか、意味分かってます? この面子だと無理でしょう……」

 

 ちょっとだけ真面目な話が終わった途端、脈絡無しに白兎がそんなことを言い出した。

 恋バナ。いわゆる恋愛トークだが、この面子にそんなものを期待するのは無理だろうと、我ながら悲しいことを言ってみるが、

 

「ききっ」

 

「え? そんなことない? 昔、いい感じになった相手との話をしてやろう──って、それ相手もさるぼぼじゃないですか。猿同士の恋愛話なんて聞きたくないですよ」

 

「おお。恋バナなら得意だぜ。経験なら誰にも負けねぇ」

 

「男同士の話はもっと聞きたくないんですけど!?」

 

「……ふむ、それなら我の話をしてやろう。この間、レオンハルトと──」

 

「娘の前で親の恋愛話はNG!!」

 

「恋バナは無理だけど、どんな子を産んできたかなら話せるわ」

 

「ベゼルアイさんのそれはもっと生々しいじゃないですか! それも駄目ですっ!」

 

「イヴさんは我儘ですね……」

 

「誰のために注意してるか分かってますかねぇ!?」

 

 イヴはまるで、自分のノリが悪いみたいな風に視線を向けてくる白兎にもツッコミつつ、このままでは朝までツッコミ続けることになり胃が持たないので、どうにかして寝る雰囲気にもっていけないかを思考することにした。




ミストラルさんよりもイヴちゃんの方が苦労人レベルが高かったのでダメージは少なかったやつ。次回はまたガイ君のターン。
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