──その少年が住み着いて、数年の月日が経った。
「すぅー……ふーっ……」
家の中で床に座り、魔力を練る訓練を慣れた様子で行っている少年がいる。
歳の頃は15を越えた頃だろうか、既に子供ではなく、男としての顔つきとなったその少年は、毎朝の日課を終えると、背後から声が掛けられる。
「おはよう、ガイ」
「! おはようございます、ミストラルさん」
と、その少年──ガイに声を掛けてきたのは、カラーの女性、ミストラルだ。
彼女は数年前からガイを家の中で飼い、気まぐれから魔法の師をやっていたりするそれなりに凄腕の魔法使いであり、カラーの女王の側近も務めている。
少し面倒くさがりな部分もあるが、身寄りのないガイにとっては恩人であり、もう殆ど家族同然の様に思っていた。
「直ぐに朝ご飯を作るので待っていてください」
「ん、ありがと」
ミストラルの方も、極自然にガイと接する。数年も経てば彼女の方も慣れたものであり、ガイが家の中を漁っていたとしても気にも留めない。朝飯の用意をするガイから視線を切り、読みかけの本を開きながら食事が出来上がるのを待つ。
そんなガイの後ろ姿に、ミストラルはいつもの様に声を掛けた。
「今日は遅くなるから、昼も夜も先に食べて構わないわ」
「分かりました。なら、掃除も洗濯も勝手にやっておきますね」
「お願い。後、分かってるとは思うけど──」
「洗濯物を干す際は、家の裏側に。そしてバレないように」
「……分かってるならいいわ」
何度も言いつけた事であるためか、先んじて言われ、ミストラルは問題無さそうだと話を終える。いつもならまた別の話を続けるか、本を読むことに集中するかするのだが、日常であるため、それは時々によって違う。
だが今日はそのどちらでもなく、ふと思ったことがあった。それは、
……あの連中、随分前から来なくなったわね……。
本当にふと、気まぐれにそれを思う。別にそこまで気にしてる訳ではないし、来なくなってミストラルとしてはせいせいするのだが、ちょっと前まではガイが寂しそうだったのが頂けない。
何でもあの白兎という少女と友達になったらしいが、それから何があったのか、家を訪ねてくることは殆どなくなった。今でもたまに手紙などは来るが、それもここ最近は無くなっている。あの化け物連中と一緒にいるため、問題ないとは思うのだが、
……ここ最近は人間の襲撃も増えてきているし……まさかやられたとか?
と、何となく思ってみるも、あの面子的にそれはないな、とその考えをかき消す。単純に、何か事情があると考えた方が良い。
そんなことに思考を割いていると、
「──出来ました」
「っと……それなら頂きましょうか」
朝ご飯が完成し、ガイが皿を運んでテーブルに並べてくれる。取り留めのない考え事の時間はここまでだ。朝ご飯を食べて、時折ガイと会話をしつつも、頭の中は仕事の事を考える。先程も少し思考したが、
……最近は警備のしがいがある日も続いているし、気を引き締めるべきね。
と、今日の仕事について考える。里を守る責任者とも言えるミストラルには、この里に住む大勢のカラーの命が懸かっている。
それに、ここに住むガイの命もだ。それを思うと手は抜けないと思い、
……いつの間にか、自然とガイのことも考えているわね……。
ガイの事についても家族に近い感覚で考えてしまっている自分に苦笑し、ガイに首を傾げられるも、何でもない、と言って彼女は仕事へ向かう準備を進めた。
野良で生きる人間には、幾つかの種類がある。
一つは、隠れ里などに住む普通の人々。
彼らは野良で生きながらも、生存率は決して高くない。というのも、大規模な隠れ里や、警備の戦士が常駐していないような場所は、人狩りの格好の餌食となる上、食い扶持を稼ぐのも中々に厳しいものがあるからだ。
畑を持たないものでは、毎日の食事を得るだけでも命懸け。摂れなければ餓死だが、そうでなくても人狩りによって殺されるし、人間相手にも弱いので、生き残るだけでも至難だ。
それよりも、多少は良い生活を送れるのは、冒険者や魔物討伐隊といった戦う力を持った人々だ。
戦う力がある、というのはこの世界において何よりも重要だと言っても過言ではない。身を守り、他者を傷つけ、何かを得ることが出来る。
冒険者はダンジョンに潜り、貴重なアイテムや食料、資源などを得ることが出来るし、魔物討伐隊も同様だ。大きな隠れ里を拠点にし、警備の任務を請け負うこともあるし、その報酬で生活することも出来る。外を闊歩する魔軍から物資を奪うことだって不可能じゃない。あまり大きな事を起こせば、更に大きな軍が派遣されてくることがあるが、逆に言えばやりすぎなければ問題ないのだ。
だが、そういう冒険者や魔物討伐隊といった者達は、戦う力を持った者達の中でも勝ち組である。
中には、戦う力が少し弱かったり、もしくは元々そういう性根であったり、奪うことに味をしめた連中もいる。
良い人間もいれば、悪い人間もいるのが道理。そんな彼らが、冒険者や魔物討伐隊くずれの盗賊だ。
しかし、だからといって弱い訳ではない。並の人間に比べれば彼らとて、魔物と同じ様に思えるだろう。
実際、この時代で戦って生き残ることの出来る人物というのは、それなりにレベルの高い連中であり、魔物との一対一であれば勝ってしまうこともあるし、生き残る術に長けて、汚い手も平気で使う彼らを蹴散らすのは、それこそ相当に実力の差が無ければ難しいだろう。
「へへへ、おら行くぞ野郎ども!」
「おお!」
「カラーをとっ捕まえろ!」
──そして、カラーであってもそれは同じことだった。
「報告! 東側、南側から人間が攻めて来ています!」
「くっ……性懲りもなくまた……! 遊撃隊に指示を送れ! 何とか防衛ライン手前で食い止めるぞ!」
「私達も出るぞ! 弓の準備が出来た者から私に続け!」
「はい!」
「下手すれば、女王様に助けてもらう必要があるかもね……」
見張り台に立つカラーの里防衛隊のカラーや、哨戒を行っていたカラー達の報告の声が連続し、それを指揮するカラーの声も連続して響く。
それはここ数日でよく見られる光景であった。
カラーを襲う人間。それは何百年前から続く事であり、かつては立場が逆転したこともあったが、おおよそ全ての時代において、カラーとは人間に虐げられる存在である。
カラーの額にあるクリスタルは魔力が凝縮された結晶体であり、強力なマジックアイテムの媒体などの魔法に関連する物であれば様々な用途が望める“資源”であり、それは人間が地獄を見るこの時代でも変わらない。
盗賊の目的はそのクリスタル。それと、カラーそのものだ。
そもそも冒険者くずれの盗賊達は、人間を捕まえては奴隷にして売り飛ばすことで日々の糧を稼ぐこともある。それを仲介する商会もあれば、買い手も少なくない。
見目麗しいカラーともなれば、高い金を出して買う者も多い。単純に需要があるし、最悪、飽きてもクリスタルを抜けば資源にも金にもなるという都合の良い種族だ。
そのクリスタルなどの用途が知られてからというもの、カラーは人間との交流を完全に絶ち、また規模の狭い森の奥の集落に隠れ潜むようにして暮らすようになった。幸いにも支援者がいたおかげで残った集落はそれなりに繁栄しているが、時折、彼らの目を盗むようにして人間が襲撃を掛けてくることは避けられない。
カラーの里、ペンシルカウには戦士の数もそれほど多くはないため、幾ら魔法力が高く、弓に長けているとはいえ、日頃から魔物が闊歩する外で生きている人間にとって、それは魔物ほどの脅威に映らず、恐怖にも値しない。
強いて言うならカラーの女王だけが扱う呪いなどが恐れられているが、それも突発的な奇襲の連続には使いにくいものだ。
「──貴方達は東側に向かって。南側は私が行くわ」
「了解です! ミストラル隊長!」
故に普段からの防衛力が物を言う。女王の呪いも、支援者による協力も、普段から当てにしてはならないものだ。
──とはいえ、こうも襲撃が続くと、さすがにキツいわね……。
防衛隊の隊長を務めるミストラルは、内心だけでそう思う。部下の何名かもそういった不安は抱いているだろう。
士気に関わってくるため、そういった弱音を口にすることはないが、懸念は共有している。何とか、女王か支援者の到着を待って、反撃に出たいところだが、
「とりあえず、今は何とか耐えるしかないわね……」
誰かに聞こえないように小声でそう呟いて、ミストラルは盗賊を倒すために戦場へと向かった。
──だがその頃。西の森の茂みの中では、
「……よし、そろそろいいか」
「本隊が東や南に引き付けられてる内に、手薄になった西から襲撃を掛けるぞ」
「へい……!」
それは戦いが始まってからこっそりと西側で息を潜めて隠れていた盗賊の一部隊であった。
数はそれほど多くはないが、彼らは手薄になった場所を突破し、そのまま中で暴れて混乱を起こす手筈となっている。
上手く行けば東や南も突破することが出来るだろうし、少し暴れてカラーを攫えば、それはそれで収穫になる。例え追い返されたとしても何かしらの収穫がなければ今の世で生き延びていくことは出来ない。
故に生きるためには、あらゆる手を尽くすのだ。同じ人間に手を出すことにも罪悪感など湧かないし、ましてやカラーともなればただの美味しい餌のようなものだ。躊躇う理由はない。
「行くぞ……!」
「おお……!」
そして盗賊達は息を潜めつつも一気に駆け抜け、西側から里に襲撃を掛けた。
──あとどれくらい、この日々が続くのだろうか?
平和な日々を過ごす少年、ガイにとって、その問いかけは毎日の様に脳裏に過ってしまう問答だった。
かつて地獄を見たガイだからこそ、平和であってもそのことを考えてしまう。
弱き者はただ食い物にされるだけの世界。それを恐れるが故に、弱さから脱却しようと強さを求めてもいる。
実際、数年前と比べれば、魔法もそれなりに使えるようになったし、剣はまだまだぎこちないが、多少は強くなっただろうことは確かだ。
しかしそれらを続けてなお、自分の中にある弱さへの懸念や、今の様な平和な生活を続けられるという自信は湧いてこない。
いつまでもここで暮らすことは出来ない。薄々と、ガイが感じていることだった。
いつかはここを出ていく日がやってくるだろう。それがいつになるかはまだ分からないが、自分が人間で、ここにいるのがカラーである以上は、留まり続けることは難しい。
だからガイは自分一人で生きていける力を得ようとしている。それが出来ているかはまだ怪しいが。
……僕は、これからどうやって生きていくんだろうか……。
ガイは唯一人、家主のいない家の中で自分に問いかける。
少し前までは時折話しかけてきていた右側の声も、最近は落ち着いており、全く聞こえない。消えてしまったのだろうかと疑うほどだ。
しかしそうではないことは、自分が誰よりも知っている。自分の中に、自分とは別の自分がいる感覚が確かにあるからだ。それを人に伝えることは難しいし、出来たとしても怖くて明かしたくはないが、それでもその──“いる感覚”というのは確かなものだ。
だが、問いかけたところで答えは返ってこない。自分の考えが正しいのかどうかの答えを得たいと無意識に思ってしまったことだが、声が聞こえずに煩わしくない反面、いるのに返事を返してこないのは、居留守を使われているようで不愉快でもある。
あるいは、最近は訪ねてこなくなった友人がいれば、少しは相談出来たのかもしれない。勇気がいることではあるが、他の者に比べれば話しやすいのも確かだ。
「僕は……本当に、ここにいてもいいんだろうか……?」
ここにいれば、また以前と同じ様に、周りの人が傷つき、亡くなってしまう。
そんな不安に満ちた想像を、トラウマを、ガイは未だに払拭出来ていないのだった。
だからこそ、一人でいることを考えてしまう。
一人ではいたくないが、そうした方がいいのではないかと。
そしてだからこそ、もしもの為に、一人で生きることの出来るように力をつける。
仮にそうせずに済んだとしても、その力で、同じ様な悲劇を起こさないようにするために。
だからガイは──
「……ん……なんだろう……?」
その時だ。
不意に、外から騒々しい音が響き、ガイは思考を中断させた。
何やら声も聞こえる。それも、何やら切羽詰まったような声だ。
「っ……何が……?」
その音に、外から伝わってくる空気に、ガイは覚えがあった。
嫌な予感がする。汗が滲む。息が乱れる。それは、何かが消える時に感じる──修羅場の予感だ。
「はぁ……はぁ……」
息を乱しながらも、ガイは確認をしようと震える身体を抑えながら、窓へと近づく。
するとそこから見えたのは、
「──きゃああああああ!!」
「っ……!」
近づくと、外の声や音もはっきりと聞き取れた。
と、同時にガイは外の様子が普段と違うことをはっきりと確信する。今のカラーの里は、日常のものではない。
「に、人間が入ってきたわ! 戦えない者は逃げて!」
「何でこんなところに……!?」
「す、直ぐに兵士を呼ばないと──きゃあっ!?」
集落の外れの方だけに、カラーの数は少ないが、それでも外はパニックになっている。
そんな中で、冷静に対処しようとしたカラーの一人が、何かを受けて地面に倒れた。
ガイはそれがおそらく、魔法のものであることに気づき、それが飛んできた方向に自然と目を向けた。するとそこには、
「逃がさねぇよ! 兵士もまだ呼ばせねぇ!」
「へへへ、まずは一匹ゲットだ」
「ひ、ひぃっ……!?」
そこにいたのは、ニヤつくような下卑た表情を浮かべた人間の男達だ。
誰も彼もが剣や槍などの得物を手にしており、中には赤い血が滴っているものすらある。
魔法を放ったのは、その中の一人だった。明らかに盗賊といった風貌の彼らは、負傷したカラーに近づいていく。
「どうします、隊長?」
「まだ村の外れか……へへへ、ちょっとくらい味見でもしていくか?」
「さっすが隊長! 分かってますねぇ!」
それは、明らかにそういった事を目的としている会話だった。
カラーを狙って襲撃を掛けた盗賊団。彼らの正体は明らかにそれだ。
捕まったカラーがどうなるかなんてことは、火を見るより明らか。それを理解してしまっているのか、カラーも顔を青褪めさせる。
「い、嫌ぁ!! 助けて!!」
「騒ぐんじゃねぇよ!」
「まぁ、ヤるならちょっとくらい反応があったほうが愉しいけどな」
「ちげぇねぇ! がはははは!」
それは、強い者が弱い者を虐げる光景。
かつてガイも体験し、目撃した光景と同じものだ。
それを見てしまった時、ガイの心臓は激しく脈打った。
「うっ……あ、あぁ……あぁっ……!」
激しい痛みを感じ、膝を床に突き、胸を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
それだけではない。激しい頭痛を感じてガイは立っていられなくなってしまっていた。
……嫌だ……嫌だ……! こんなのはもう、嫌だ……!
朦朧する意識の中で思うのは、トラウマ。
蘇った光景と、同じ事が起きようとしている現実の否定。
こんなものは見たくない。起きてほしくない。周りの人が死ぬのは嫌だ。
激しい思いが痛いほどに胸を締め付け、ガイの呼吸を激しくする。
──なら、どうするかは理解ってるだろう……?
「……っ……!!」
そんな時だ。
その声は、弱りきったガイの心の隙間を潜り抜けるようにして、意識の中に入り込んできた。
──
「っ……ふざけるな……! そんなことは……僕は……!」
──なら、このまま奪われ続けるだけか? 弱いままでいるのか? 指を咥えて見てるか?
「……! そ、れは……っ」
悪意を持つもう一つの自分の声が頭の中に響き、意識を侵食していく。
弱者のままでいるのか。これを放置するのかと、もう一人の自分は問いかけ、そしてもう一人の自分を否定する。
──弱いお前はいらない……! すっこんでろ……!
「い……や……やめ────」
意識が闇に埋め尽くされるのを感じる。
それは後から生まれたが、確かにもう一人の自分。つまらないことを気にして弱者であり続ける自分を否定し、混沌に満ちた世界に適応するために生まれたもう一つの人格。
彼はようやく、この世に顕現する。
──ふはは……安心しろ……俺がやってやる……! お前よりも、俺の方が俺の身体を上手く使える……!
──っ……ぁ……。
表のガイが抱えるトラウマ。そのショックで意識を失うのと同時に、彼の身体は
──それは盗賊達が今まさに、捕らえたカラーに暴行を加えようとしていた時だった。
「……あ? ねぇ、隊長……あれ……?」
「んあ? 何だ? 兵士でも来やがったか──って……」
一人の盗賊がそれに気づき、部隊を率いていた隊長や他の者達も同じ方向を見て気づく。
「…………」
「……人間のガキか?」
それは、右側だけ長い前髪で目元を隠している一人の少年だった。
集落の外れに立つ一軒家から出てきたところであり、身なりはそれなりに整い、その右手には剣が握られている。
カラーの里に人間。それも子供。
剣を持っていることよりもそのことを不思議に思いつつも、盗賊達は子供が近づいてきたことを無警戒に眺める。
「おいおい、なんだてめぇ? 迷子か?」
「おい止まれよ。ここはガキの来るところじゃねぇぞ?」
「そうそう。俺達はこれから大人の時間を過ごすんだからな!」
「ガキは家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろよ! ぎゃはははは!」
「さもないと、怪我しちゃうぜ~?」
「…………」
盗賊達が武器を片手に軽く脅しを掛ける。
しかしそれを聞いても少年は浅く下を向きながらも止まらない。そのことに訝しんでいる隊長。
そんな中、苛ついた盗賊がとうとう声を上げ、
「おい、てめぇ! なんのつもりだ!?」
「──ああ、なるほどな」
しかし不意に、隊長が納得したように頷き、笑みを浮かべる。それを聞いた傍らの盗賊が、
「なるほどな……って、兄貴? 何か分かったんですかい?」
「カラーってのは人間がいねぇとガキを産めねぇ。だからどっかから人間を捕まえて、奴隷にしてんじゃねぇかって話を噂で聞いたことがある」
「……ということは……あのガキはここの奴隷?」
「そんなところだろうよ。奴隷になった奴の末路なんて知れてるし、お前らもよく分かってるだろ? 見たところ傷は少ねぇが、拷問を受けて頭がイカレちまったか……全くビビってねぇのは、もう恐怖を感じる心もねぇのさ」
くくく、と可笑しそうに笑う盗賊の隊長を見て、他の盗賊も納得し、笑みを浮かべる。
「そんならやっちまいますかい?」
「ああ。可哀想に。同じ人間として心が痛むねぇ。このまま生き地獄を味わわせるのもなんだ。お前ら、介錯してやれ」
「了解です、兄貴!」
そんなことは露とも思ってない表情で盗賊達が子供を眺める。三名の盗賊が集団の輪から外れて子供に近づいていき、他の者達は下卑た笑みで見据える。これから始まる凄惨な処刑ショーを期待しているのだ。
近づいた盗賊達も、自分達の役割は分かっている。子供に近づき、軽く武器を見せびらかせながら、
「へへへ……おいガキ。これから親切なお兄さん達が、お前をあの世に送って──」
「──
「へ──?」
瞬間。起こった事に対して、直ぐ様理解出来た者は、当事者も含めて誰もいなかった。
一人の盗賊が子供の肩に触れようとした時──その盗賊の頭部は、あっけなく宙に飛んだ。
そしてその首が地面に落ちる前に、他の二人も首を断ち切られ、あっけなくその命を終える。
誰も彼もが間抜け面で、自分が殺されたなどとは夢にも思わない表情で死んでいった。
そして、それを見ていた盗賊達も、眼の前で起きたことに呆然と立ち尽くす中、ただ一人、少年は人を斬った感触に右目を輝かせて笑みを浮かべた。
「……ふ、ははは! さすがは俺様だ。こんな汚い親父なんて敵じゃねぇ……!」
その嬉しそうな声に、ようやく盗賊達は我に返った。
「て、てめぇ!? ガキ! 自分が何やったか分かってんのか!?」
「チッ……馬鹿共が、油断しやがって……おいお前ら、そのガキを殺せ! ガキだろうと俺達の邪魔をする奴は生かしておかねぇ!」
「おお! 言われずともぶっ殺してやるぜ!」
と、盗賊達は怒りの声をあげ、その場の隊長の命令を受けて少年に向かっていく。
「ガキがよぉ! 粋がってんじゃねぇぞ馬鹿が!!」
「うるせぇ雑魚。弱い癖に粋がるお前らの方が馬鹿だろうが」
「なんだと──」
あっさりと、言い返しながらも盗賊の一人を斬り捨てた少年は、口元にニヤついた笑みを浮かべっぱなしのまま剣を振るう。それを見て他の盗賊が、
「っ……! こ、このガキ……! またやりやがった……!」
「ただのガキじゃねぇ……!? なんだこいつは!?」
ようやく、子供の強さが普通ではないことに気づく盗賊達。
しかし少年はもう、止まることはなかった。
「あぁ……これだこれ……! この身体を動かして好き勝手振る舞い、弱者を踏み潰すこの感覚……これが最高なんだ……! これが、俺が真に求めていた強さで……強者の生き方そのものだ……!」
彼は、初めて身体を動かす感覚と、初めて剣を振って人を斬り殺す感覚を同時に感じて高揚する。
今まで抑えつけられていた負の感情。発散出来なかった黒い意志が強く奔出し、盗賊達に狙いを定める。
その子供とは思えない殺気を感じて、盗賊達も冷や汗を流す。しかし数の利は未だこちらにあることから、彼らは歯を食いしばり、
「こ、の……舐めてんじゃねぇぞ!! てめぇら! やっちまえ!」
「う、おおおおお!!」
盗賊達が、今度は隊長も含めて全員で子供に襲いかかる。
しかし少年の笑みは絶えることはない。
「ふはははは! 幾らでも掛かってこい! 全員ぶっ殺してわんわんの餌にしてやらぁ──!!」
剣を構え、盗賊達を相手する。
そこからは少年が行う──盗賊達の処刑ショーだった。
今まで練習では出すことは出来なかった、彼の剣の冴えは、完全に盗賊達を凌駕しており、複数人に囲まれても負けることはない。
剣の才能の覚醒。持つ者と持たざる者の、残酷な差がこの光景には表れていた。
「な、何……あの子……?」
それを見ていたカラーは、初めて見るその少年に助けられながらも、その光景に畏怖を覚えてしまう。
ただの子供が、剣一本で盗賊達を相手に大立ち回りを演じ、次々と盗賊達を屠っていく光景は、それだけ衝撃的なものだった。
「く、くそっ!? なんなんだお前はよぉ──!?」
「俺は俺だッ! 俺はガイ!
その名を自ら口にし、とうとうガイは盗賊の隊長すらその剣で突き殺し、その場を完全に制圧する。
村の西から侵入した盗賊二十数名の死体が地面に散らばり、その中心でガイは己の勝利に笑い声を上げた。
「──はははははははははッ! どうだッ!! 見たかッ!? 俺が最強だ!! 俺こそが強者だ──」
と、その内気そうな見た目にそぐわない自信に満ち溢れた表情と高笑いを上げた直後。
不意にガイの声は止まり、そのまま胸を押さえてしまう。それを見ていたカラーなどは、どこか怪我をしたのかと心配するが、
「だ、大丈夫!?」
「ぐっ……く、くそ……お前……! まだ暴れるか……ッ! やめろ……まだ、俺にはやりたいことが──」
ガイは、立ち上がり近寄ってきたカラーではなく、何処かに声を向けると、憎々しげな表情を最後に浮かべて、そのまま気絶してしまった。
「ど、どうしよう……! 一応、助けてくれたんだし、助けないと……!」
そして気絶したガイはその場にいたカラーに抱えられ、そのまま里の中へと運ばれていった。
レオンハルト「……許してください。お願いします」
スラル&ジル「「駄目」」
レオンハルト「」
次回は、とうとうガイ君の旅立ち。そして長男も登場かな?
もう書けてるんで明日投稿します