本編どうぞ
隠れ里の案内を終え、酒場で飲みすぎて眠りこけてしまったクーベロを置いて、ガイは寝床として案内された宿場で床についた。
次の日からは、さっそく魔物討伐隊としての仕事が始まる。
二日酔い気味のクーベロに案内されて隊の皆が集まる広場に集合すると、そのまま部隊の一つに割り振られて魔物討伐へと出かけた。
どうやら今日は遠くへ遠征するのではなく、同時期に入った幾人かの新人の教育も兼ねて、近場の森で魔物を狩っていくらしい。
新人は自分くらいなのではないかと思ったが、これだけ大規模な魔物討伐隊ともなると、入ってくる新人も数十人はいた。クーベロの話だと、半分でも生き残ってくれれば御の字だとは言うが、それでも驚異的な数字だ。
冒険者や魔物討伐隊になった新人の、7割は数ヶ月以内に死ぬというのがこの業界での通説だ。
実際に、前にいたところでもそんなものであったし、ここでもそうは変わらないだろう。魔物との戦いは命懸けで、訓練とは違う。
殺し合いの場の空気に慣れることは思ったより難しい。実戦においても訓練をさせてもらえるのであれば多少は生存率も上がるだろうが、実戦では相手は待ってはくれない。相手が魔物であれば尚更だし、魔物に支配されている外に出るのだ。逃げ隠れするのならばともかく、積極的に戦おうというのなら死ぬ確率が高くなるのが道理である。
故に今回の魔物狩りにおいても、新入りを中心に死人は出るだろうな、と、ある種達観した評価を内心で言葉にする。多くの者達の考え、その中には、自分も含まれているのだろうとも。しかし、
「おっ、やっぱやるなぁ、ガイ」
「……それほどでもない」
と、慣れた手つきで剣を振るい、魔物を斬り裂くと、それを見ていたクーベロから褒められた。
だが、以前までのような絶句であったり、怖れるような眼では見られていない──そもそも手を抜いているからだ。
『……つまんねぇな。雑魚相手に時間掛けるとか……はぁー……』
もうひとりのガイも、退屈そうな声を内心で出す。癪ではあるが、同感ではあった。
しかし、こうでもしないと目立ってしまう。以前のように、実力を見せてしまえばちょっとした尊敬の念を抱かれ、ちやほやされることもあるだろうが、それ以上に怖れや、嫉妬の類が大きくなるであろうことは理解している。
そうなればまた同じことの繰り返しだ。嫉妬に狂った誰かが、自分に憎しみを抱いて殺しにくる。
そして新入りであり、人との交流が苦手で不気味な自分に味方する者はおらず、自分は放逐される。以前のような皆殺しは、正直自分が──正確にはもうひとりのガイが理由でもあるのだが、面倒な揉め事を避けるには、実力を隠してしまうのが手っ取り早いのだ。
だが、それでも周りに比べて、出来るほうになってしまう。これ以上力を出してしまえば、明らかに目立ってしまうだろう。
「ははっ、やっぱ新入りとは動きが違うな。頼りにさせてもらうぜ──っと」
と言いながらも、クーベロは手に持った巨大な大剣で、魔物を叩き切ってしまう。それを見てガイは僅かに目を細めた。
「……助力の必要は無さそうだがな」
「まあ、こっちも伊達に歳を重ねてる訳じゃねえからな。ただの力自慢だが、“怪力”の名に恥じない働きはさせてもらうぜ」
確かに、なかなかのパワーだ、とガイは内心でクーベロへの評価を上げる。
ただの力自慢だとは茶化してはいるが、その動きは熟練者のものであり、微塵の隙も油断もない。勿論、ガイからすれば問題にならない程度の強さではあるが、それでもそこらの隊員よりは明らかに強い。
『……というかこのゴリラ、明らかにそこの分隊長よりも強いだろ。なんでこいつが分隊長じゃねぇんだ?』
もうひとりのガイも、同様の事を思ったらしい。内心で頷く。明らかに自分とクーベロが所属する分隊の分隊長より、クーベロの方が強い。
だがまあ、事情があるのだろうと、ガイは詮索することはしなかった。もしかしたら向こうの方が古株なのかもしれないし、指揮が上手いのかもしれない。何も強いだけが、リーダーの素質というわけではないのだ。
と、そんなことを思いながら戦闘をしていると、聞き覚えのある声が飛んできた。
「──やあ、順調かい?」
「! ロラン隊長!」
その声に、分隊長が反応し、同様に他の隊員も声の方向に顔を向ける。
すると部隊の横から迫ってきていた魔物を、ちょうど男が剣で一刀両断したところであった。それを見て、クーベロが隣で口笛を吹かす。
「ひゅ~、さすがは隊長。相変わらず、末恐ろしいくらいの剣の冴えですね」
「ははは、君のその力も、相変わらず大したものだと思うよ。──そっちの新人の実力も」
「!」
と、不意にクーベロとの会話の中に、自分も引きずり込まれる。ロラン。この鋼の騎士団の隊長を務める男の声によって。
その視線は僅かに鋭い。こちらに一挙手一投足を見て、興味を抱いているようだ。
……強いな。
昨日も見たばかりだが、こうして近づいてみると分かる。確かに、他の隊員とはレベルが違う。
ガイが今まで見てきた人間──いや、魔物を合わせても、これほどの実力者は見たことがない。
魔人は例外。しかし、自分の育て親でもあった酒場の女主人や、師でもあるミストラルよりも確実に強い。
それだけに、僅かに興味が湧くのと同時に、危惧を覚える。
強者は強者を見抜く。自分が手を抜いていることを見抜いてしまったかと危機感を覚えながらガイは口を開いた。
「……大したものでは……多少、慣れているだけです」
「そうかい? その割には、余裕そうだったけど……副隊長、君はどう思う?」
「──さて、そうだね」
「む……」
続いて、林の奥から魔女帽子を被った白い長髪の美少女──未来視の魔女、Cがやってきた。
その登場にガイが眉を僅かに顰めたのは、その登場が神出鬼没だったからだ。
隊長が気づいた時には自分も気づいていたが、問題はそこじゃない。両方とも、ここまで近づかれてようやくその気配を察知出来た、ということがおかしい。
何か怪しげな魔法でも使っているのだろうか。そのことに驚異を覚える前に、興味を覚えてしまうのは魔法使いとしての性だろうか。そんな自問自答をしつつも、ガイは未来視の魔女の言葉を聞く。
「実力は一級品。頭も悪くなく、度胸もある。新入りの中では当たりでしょう。一廉の器があります」
「なるほど。君が言うならそうなんだろうね。──とはいえ、人に当たり外れをつけるのはよくないよ。他の新人達にも失礼だ」
「はい、失礼致しました」
隊長のロランの言葉を受けて、未来視の魔女は丁寧に謝罪を行う──が、ガイは何故かそれに違和感を覚えてしまう。
隊長に向かっての謝罪が、
だが気の所為かもしれない。その冷たい表情が素なのか、本当の素顔なのかもしれない。
会ったばかりで本当の素顔も何も分かるはずがないだろうとは、自分でも思う。しかし──
「……ふふ」
「……っ……」
──何故か。
彼女は、こちらをじっと見つめ、微笑んでいた。
それは昨日にも、初めて見た時にも浮かべていた、“喜悦”といった表情。
だが誰かが彼女の表情を見た時──あるいは、自分が見た次の瞬間には、その表情が消えている。
じっと見られ続けていることには変わりないが、その表情を見た、あるいは幻視したために、ガイはその慇懃な態度が、胡散臭く感じてしまっていた。
『ミステリアスでいい女だな。よし、抱こう』
──抱かない。くっ、やめろ。身体の制御を奪おうとするな。
こんなところでいきなり騒ぎを起こして、また放浪したいのかと内心で声を荒げていると、
「……どうかしたのかい? 少し、表情が険しくなっているけど……?」
「! い、いえ、なんでもないです……」
「ははは! まぁまぁ隊長。いきなり隊長と会って話しかけられたりすりゃあ、誰だってビビりますよ。自重してくださいや」
「そうかい? そんなことはないと思うけど……皆、同じ人間じゃないか」
「いやー、隊長の強さは人間じゃありませんって。なあ、ガイ」
「……そうですね」
『俺がその気になれば二秒で殺せるな』
うるさい。そんな訳があるか。さすがに、最低でも
だが隊長はそんなことを考えているとは知らず──そして、クーベロの言葉とこちらの同意にも釈然としない様子で息を吐くと、
「ふぅ……まあ、いつものことではあるけど、僕の扱いはいつもこんな感じでね。過剰に持ち上げられているというか……頼りにされているのは嬉しいことではあるけど、僕だって普通の人間だからね。ガイ君も他の新人達も、よければ普通に接してくれると嬉しい」
その言葉に、ほとんどの者が苦笑いを返す。やんわりとした否定だった。
そしてその状況に、ガイは僅かに同情する。似た経験があるだけに、やはりこの男も、人よりも優れるがゆえの悪意を受け、孤独を感じているのだと。
ちょっとした親近感が湧いてしまうのと同時に、やはり自分の考えは正しいのだと、多少の切なさを感じながら改めて理解する。己が人の輪の中で普通に過ごすためには、己を隠し通すしかないのだと。
だからというわけではないが、ガイは隊長ロランの言葉に小さく頷き、
「…………」
「…………」
未来視の魔女からの視線を受けて居心地の悪さを感じていた。
轟々と雪塵が吹き荒れる大陸北方。
人が全く近寄らぬその豪雪地帯は今──
「はぁ……はぁ……ぐっ……!」
──目で捉えることの出来ない相手によって、余計に足を踏み入れることの叶わない聖域となっていた。
足が埋もれてしまうほどの雪の上で肩を押さえながら荒い息を吐くのは、赤い軍服を身につけた中年の男だ。
彼の名はリー。泣く子も黙る魔人レオンハルトの使徒であり、主の命令を忠実かつ速やかに実行する優秀な仕事人である。
使徒の中でも上から数えた方が早い圧倒的な実力を持ち、並の人間や魔物からすれば人の形をしているだけの化け物の一角。人類を脅かす強者の一人。
だが今の彼は、進むことも出来ずにその場に立ち止まることしか出来ていない。目で捉えられない相手に対し、戦闘を行うことも出来ないし、そもそも戦えたとしても勝ち目がない。
リーの主であるレオンハルトも、戦えとは言わないだろう。それだけ無理のある相手だ。秩序を重んじる部分からいっても、リーが如何に任務の為とはいえ、眼の前の相手と事を起こすのはあまりよろしくない。
それはリーにも分かっていた。
だがしかし、せめてその理由くらいは持ち帰らなければ、使徒としての面目が立たない。
故にリーは不興を買うことも承知で、口を開いた。上空を見上げ、
「……何故、私の邪魔をするのか……お聞かせ願いたい……!」
と、言う。彼の者の名を敬称を付けて、
「魔人──メガラス様……!」
「…………」
その言葉に反応したのか、不意に吹き荒れていた風が僅かに弱まる。
元々吹き荒れていた吹雪が、彼のその飛ぶ速度によって、更に荒々しくなっていた証左だ。
豪雪地帯において、その真っ白な装甲を持つ身体は、一種のカモフラージュのようにもなり、立ち止まっていても姿は捉えづらい。
だがその存在感を、同じ魔物の類ならば見逃すはずはない。
最速の魔人────メガラス。
ホルスの魔人であり、リーがこの先に進むことが出来ていない理由が彼だ。
魔人であるメガラスに、如何に魔人であるレオンハルトの任務の最中とはいえ、逆らうことは出来ない。魔物界は縦社会。彼が使徒である限り、魔人には逆らえないし、実力の上から見ても逆らえない。
魔人級の実力を持つ使徒ではあるが、さすがのリーもメガラスには敵わない。
だからだろうか。メガラスもリーに戦闘の意志がないことを感じ取って立ち止まった。
それを見たリーは更に言葉を続ける。上空にいる最速の魔人に対し、
「私は今、レオンハルト様の勅命を受けてこの場所にいる……! それを何故──」
と、リーが問いかけようとした時だ。魔人の中でも最も重い口が開いた。
「──
「なっ……!?」
メガラスの言葉は、完全なる拒絶。
魔人らしいといえば魔人らしいが、リーからすれば驚愕に値する。
こういっては何だが──魔人レオンハルトの命を受けたと言えば、大概の魔人は黙るか、従順になる。
それほどにリーの主の威光は、魔物界では絶大である。
彼がかつての戦乱の時代のように、伝説を塗り替えなくなって久しいが、ほとんどの魔人はレオンハルトという魔人の強さを知っている。
あるいは知らずとも、感じ取る。彼の本気の戦いを見たことがない新参の魔人達は、それでもなおこちらを上回る実力に畏怖する。
だが眼の前のメガラスという魔人に、その気配はない。
断固として譲らないという硬い意志を感じる。
本気で、自分の主と──魔人レオンハルトと事を荒立てるつもりなのか。
あるいは、レオンハルトと事を荒立てる必要があるような──何か大事なモノがあるのか。
それはリーには分からない。分かるのは、メガラスが全く恐れておらず、場合によってはレオンハルトと衝突を起こしても構わないと覚悟しているということだ。
そんなメガラスの言葉をリーは聞いた。
「……レオンハルトに伝えろ」
一切の無駄のない簡潔な言葉を、吹雪の中からリーに向かって飛ばす。
吹雪の音が激しく耳を鳴らしたとしても、魔人の力ある言葉には敵わない。
魔人とは地上に生きる全ての生き物にとっての災害であり、その言葉は実行力を、力を伴う。
魔人がやると言えば、必ずそれは起こる。魔人の言葉はただの言葉ではない。謂わば災害予報。
もし彼らがどこどこで暴れると意志を持って言えば、その場所には惨劇が襲う。止められるのは同じ災害か、災害の上に立つ世界の支配者だけだ。
そんな脅しにも似た言葉を、リーは聞いた。
「ここは、この一帯は……俺の管轄の筈だ」
メガラスの言葉は真実だ。
大陸最北。大陸中の至るところに存在する人間牧場の中で、最も北にあるのがメガラスの管理する人間牧場である。
「この先に……この地に、手を出すな」
さもなくば、と、
「
「……!」
その言葉の意味は、深い、裏にある意味はリーには分からない。
別にメガラスの危惧するような、この一帯で何かをしようとしている訳ではないが、それを伝えるにはリーでは力不足だった。
だがメガラスもその気配を感じ取ったのか、脅しを掛けた最後にこう言い残す。
「……話がしたいのなら、レオンハルトを連れてこい」
「……承りました。その言葉、主に伝えます」
「…………」
実直なリーの、これまた簡潔な言葉を受け取ると、メガラスはその場から立ち去る。
一瞬にしてその場からいなくなった最速の魔人。後に残されたのは、手に持った手紙を、とある人物に渡すことが出来ず、悔しさで表情を僅かに歪めるリーだけだった。
「──という次第です……」
「……なるほどな」
と、魔人レオンハルトは、執務室にて使徒の報告を聞いて頷いた。
「そうか、あのメガラスが……」
「なーんか、また面倒事の気配がするね。こんなことなら、やっぱりあたしがぱぱっと行った方が良かった?」
傍らのソファーで休憩中なのか、腰を落ち着けてもたれ掛かっているハンティがそう言う。
するとリーもまた、表情に影を落とし、
「……面目次第も御座いません」
「あ、いや、別に責めてる訳じゃないけどね。どう考えても不運というか、イレギュラーだし、それ」
ハンティが行けば一瞬で終わることだったと、そう言ってしまったのが微妙にリーを落ち込ませることになるとハンティも気がついたのだろう。軽い謝罪とフォローを行う。
実際、レオンハルトとしても特に責めるつもりはなかった。リーは高い実力と忠誠心を持つが、魔人相手となると荷が重い。致し方ないことだろう。
「さすがは始祖様。ナチュラルに傷心して帰ってきたリーさんの傷を躊躇なく抉るとか……それでこそ、カラーにその人ありと謳われるバーバリアンですね……!」
「……ペ~ル~? 殴るよ?」
「あ痛っ!? 殴ってから言わないでくださいよう!?」
相変わらず人を──というか、始祖であるハンティを誂うのが好きなペールが懲りずにハンティを笑顔で野蛮人呼ばわりし、速攻で肩を殴られている。ペールが肩を押さえながら、
「もう……最近は遠慮が全くなくなりましたよね……なんでこれで、お子様に人気があるんでしょう……?」
「む……それは私も聞きたいところですな。任務を失敗したばかりで恐縮ですが、何かコツがあるのでしたら、私にも教えて頂けると助かります」
ペールとリーのそんな言葉に、ハンティは、はぁ、と何ともいえない溜息を吐くと、少し考えた上で、
「……さあ? 正直、気に入られてる気はしないんだけどね。どっちかっていうと、子供特有の悪戯に巻き込まれてるというか……じゃれつかれてるだけな気はするけどさ」
「それがズルいんですよう! 私なんて遊びましょうって言っても何故か引かれることが多いんですから! 特にカイゼル様! こんなにもエッチなお姉さんが遊んであげるっていうのに、何が不満なんですか!? 普通ならちょっとエッチな悪戯をするものだと相場が決まってるのに!」
「あたしはあんたの頭が心配になるんだけど……子供に何を期待してるのさ」
と、そこまで言ったところでハンティが思い出したかのように表情を変え、
「──あっ、そういえば教育に悪いからって、ハウゼルがカイゼルに、ペールにはあんまり近づかないようにって伝えてたような……?」
「は、はぁ!? そんな!? それは横暴です! 断固として抗議しますよう! ハウゼル様だって実はエロエロの癖に!」
「いや知らんし……」
「ペール様。これは致し方ないかと……」
ハンティとリーの素っ気ない言葉を聞いて、ペールが腕を組み、ぷんぷんと不満そうに頬を膨らましている。その会話のやり取りを見聞きしたレオンハルトは、
「……だがルイゼルの方には気に入られているだろう」
「……まぁそれはいいんですけどね。女の子ですし、おませさんなのでお洋服とかお洒落の話とかするんですよう。最近だと、マニキュアとかに興味があるみたいですねぇ」
それを聞いて、レオンハルトが納得したように、それでいてガッカリと、ハンティも僅かに顔をしかめる。特にハンティの方が、
「成長速度的にはおませって言うのも判断に困るけど……それより、ルイゼルは魔法の才能があるんだから、もうちょっと研究室の方にも来て欲しいんだけどね」
「ナチュラルにゴリラ思考するのやめてもらっていいですかね? 普通、女の子なら魔法とかの戦いの技術よりも、お洒落とかの方が大事ですよう」
「いや、でも魔人だし……」
「ぶっちゃけ、そっちの方は放っといても成長すると思いますよう? それこそ、魔人ですし」
ペールとハンティがレオンハルトの子供達についての教育について語る。すると横からリーも、
「しかしそれで言うなら、アルベルト様は日に日に立派になっていきますな……暇を見つけては黙々と鍛錬を続けていますし……この間も、模擬戦を頼まれましてな……ふ、ふふ、ゆくゆくはカイゼル様も立派な男児となり、この私を顎で扱き使うのでしょうなあ……!」
と、将来、自分が主の子供に仕える未来を想像して勝手にテンションが上がっていくリー。先程の失敗に対する反省は何処に行ったのか。忠誠心が高いが、それが行き過ぎて子供達に付き従うことを最近は夢見ている。
時折──呼ばれ方はどうしよう、爺とかであれば最高なのだが……と真剣に首をひねっているリーを見ると、色々と崩壊してる気がしなくもない。
だが将来を期待しているのは誰もが同じで、
「まあ、カイゼルとルイゼルも……特にカイゼルだけど、よく不意打ちしてくるからね。あれは将来が期待出来るよ」
「どっちもやんちゃですからね~。最近は新しい弟や妹が出来て、更に張り切ってるみたいですし」
「逃げる時など、飛び回って空中に逃げてしまうので、捕まえるのが一苦労しますな……」
三者がそれぞれ次男と次女の思うところを口にする。
どの言葉にも納得しつつも、レオンハルトは窓の外を見て、
「……まあ今は、キャロルが相手しているから特に問題は起こらないだろう。子供達に一番に気に入られてるのがあいつだからな……」
「あー……キャロル先輩、ほんと子供には懐かれますよね」
「よくよく考えたら子供みたいな行動してたりするし、当たり前なんじゃない?」
「ハンティ様……さすがにそれは……最近は昔に比べたら落ち着いていますよ。そう、昔に比べれば──」
と、リーがその昔──自身が魔物将軍、魔物大将軍時代を思い出したのか、苦笑混じりに言う。ぶっちゃけレオンハルトから見れば、今のキャロルとリーはそれほどノリは変わらないような気もするが、と、
「……まあいい。その件については一旦保留だ。折を見て、俺が直接メガラスのところに行く。確かに、あいつの管轄内を通るのに報告をしなかった俺の落ち度でもあるからな。だからリーに責任はなく、よって特に処罰もない」
「……寛大な処置に感謝します」
リーがその言葉に深々と頭を下げる。
これでその話は終わりだ。使徒に任せることも出来ないことであるし。
と、だがその言が気になったのか、ペールが、
「……というか、ただ通るだけなのになんでそんな目くじら立てるんですかね?」
「ああ、あそこには──」
と、レオンハルトは思わず答えかけて、
「……あそこには?」
「……いや、今のは忘れろ。俺が言うべきことではなかった」
「……? はい」
ペールが釈然としない様子で、しかし主の言葉なので頷きを返す。
それを聞いてハンティが小さく、
「……ああ、そうか。そういえばあそこは……」
「あそこは……?」
と、ペールがハンティの言葉を拾って問い返す。しかし、
「……ああ、なるほどね」
「……って、レオンハルト様も始祖様もなんなんですか!? その意味深な感じは!? 忘れようとしてたのに、気になりますよう!」
一人で勝手に納得してしまったハンティにペールは憤慨する。
しかし、幾つかの情報から推察出来たハンティは別としても、その事情を、必要もないのに勝手に教えるのはあまりよろしくはない。
レオンハルトはかつて、その当人と交わしたやり取りと、それとはまた別の、今の主とのやり取りを思い出す。
『……俺が管理する牧場は、この場所にしてほしい』
『くくく……
レオンハルトは、当人からの頼みと得た知識から推察出来る上に、今の主からその事情を教えられている。元々知っていたことではあるが、教えられたということは、知っていたとしても構わないということだ。
されど、かつての自分と似たような──いや、それ以上に気高い願いを、他人に不必要に教える気にはならない。
だがしかし、誤解を解く必要はあるだろう。
……奴の“古巣”に手を出すつもりはない、と。俺の口から言う必要があるか……。
時が来れば、多少の関わりは持つことも辞さないが、今は少なくともそのつもりはない。豪雪地帯に足を踏み入れるのは別件であるのだ。
しかし、子供達のこともそうだが、こうしてる今も進行している計画などを考えると、また少し時が空いてしまうかもしれない。
だが魔人にとってはそれも一瞬の事だ。レオンハルトはやるべきことを済ませるべく、再び使徒達に指示を出すことにした。
ちなみに、クーベロは今39歳でレベル40くらい。ロランは年齢32歳で、レベル62です。ガイは二十歳を越えたくらいで、それ以上。未来視の魔女も、何気に60以上はあります。魔物討伐隊の並の隊員は10から20程度で、鋼の騎士団は15から25程度。分隊長クラスは30台。そう考えるとやべー集団。この時代の戦士は死にやすい分、生き残ってる奴らは少ないけどそれなりに強いです。まあ魔人一体で余裕で壊滅するんですけどね!(白目)