※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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暴露

『──ちっ、たったこれっぽっちかよ。これなら強盗でもした方がマシだな』

 

『盗みと比べるな。これでも、討伐隊としてなら随分と恵まれている』

 

 分かってる、という素っ気ない続く言葉を内心で聞いて、ガイは溜息を漏らした。

 大規模な魔物討伐隊、鋼の騎士団に所属してから数ヶ月が経過し、ガイは建物の外に出ながら小袋を懐にしまう。

 中身はジャラジャラと鳴っている。硬貨。つまりは金銭だ。

 魔物討伐隊としての報酬の分け前について、もうひとりのガイは愚痴を吐いていたのだ。

 だが、表のガイは特にそうは思わない。言ったとおり、魔物討伐隊としてなら恵まれた方であるからだ。

 名が知られた討伐隊とはいえ、千人近くも所属しているなら、分け前は少なくなるかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。盗みと比べればそりゃあ少ないが、そもそも盗みと比べること自体が間違っている。

 大体どこの魔物討伐隊も、食料か金銭を報酬としているが、ここは基本的に金銭のみ。それを使って、隠れ里の中で必要なものを購入する形らしいが、規模の小さい場所であるならともかく、幸いにもここは物資も蓄えがあるらしく、大体の物は買うことが出来る。

 実際、金の方が持ち運びも便利なのだからそうするべきなのだが、現実問題として、食料が少ない地域などではそれを売り買いする者達もかなりの高額を吹っかけてきたり、そもそも自分達の分がなくなるからと売ってくれなかったりもする。

 そういう意味では、食料を自ら手に入れて自分達で直接分け合うことにも意味があるのだが、そういうのはこれだけ発展していれば必要ないらしい。

 いわゆる、“経済”というやつだろうか。生憎と、ミストラルの家に住んでいた時に軽く用語は聞いたが、どういうものかはわかっていない。日々の生活や物流がうんたらかんたら言っていた気がするが、正直あまり理解出来なかったし、何やら夢物語を聞かされているみたいで実感も湧かなかった。

 お金が必要だと、知識ではなく実感として感じ得たのも、一人で旅に出てからだ。人間の社会では金がいる。そんな当たり前のことを知って、初めて前に所属していた魔物討伐隊で報酬を貰った時は嬉しかったものだ。

 だが今となってはそんな感慨もない。むしろ、これから次の報酬が手に入るまで、どういう風に使って、節約していこうか、などという考えばかりが巡ってしまう。自覚すると少しばかり悲しくなるような考えだ。報酬をもっと沢山貰えれば、こうやって考えを巡らせる必要はないのだろう。

 そういう意味では、もうひとりの自分が身体の実権を握っていた時代の方が、裕福ではあった。欲しいものがあれば奪い取る生活というのは、他人の事を考えない場合と、報復されるリスクを考えなければ、効率が良い。勿論、ガイはその自分の行いを蛇蝎の如く嫌っているが。

 しかし一応は懐が温まったため、鋼の騎士団が拠点としている建物を出て、店を訪ねることにする。すると頭の中で、

 

『あん? 作るのか?』

 

『……ああ。今日はこれから仕事もある。久し振りに、休憩の時にでも使おうかとな』

 

 もうひとりの声に答えながら、てきぱきと店主に向かって食材を注文していく。

 そうしてガイはあらかたの食材を買い終え、一度自分の部屋に戻ってそれらを一部置いていくと、再び外に出て今日の仕事場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「……ガイ。お前、何してるんだ?」

 

 夜間における見張り任務の最中。ガイはクーベロのそんな訝しむような声を受けて振り向かずに答えた。

 

「見て分からないか? ──食事を作っている」

 

 ガイは簡潔にそう口にするが、人によっては素っ気なく感じるであろうその態度にも、クーベロは特に気にした様子もなく、未だ釈然としていない様子で、

 

「……いや、それはわかんだけどよ……正直、店行って食った方が良くねぇか? もうすぐで交代だぜ?」

 

「腹が減った時に食べなければ、次にいつ食べれるか分からないぞ」

 

「シビアかつ真っ当な意見をありがとよ。ここが隠れ里の外周部で、基本的に魔物は来ないような安全な場所でなければ全面的に同意だ」

 

 夜中でも酒場なんかは開いてるしな、と付け加えて肩を竦めるクーベロ。彼との会話はいつもこのような感じだ。

 鋼の騎士団に入ってしばらく経つが、その中で仲良くなれたのはクーベロだけだった。

 目立たないように努めたガイの努力の甲斐あって、比較的強い新人くらいの評価で収まったガイはしかし、持ち前のコミュニケーション能力の低さと根暗さ、素っ気なさなども相まって、仕事以外で話しかけてくる人は少ない──いわゆる孤高(ぼっち)のポジションを確立していた。

 だがクーベロだけは最初に世話役として選ばれ、先輩として同じ部隊にいるからか、普通に任務が無い日でも話しかけて、食事や酒に誘ってくれたりする。

 ガイも、別に一人であることは気にならなくなってきたため、別段誘いに応じる必要はないのだが、不思議とクーベロとはウマが合った。

 クーベロは普通の荒くれ者の中年といった感じだが、その言葉や性格には、嫉妬や憎しみといった負の感情が殆ど感じられない。本当に気のいい奴だった。

 加えて話上手であり、ガイの口下手さにも特に淀みなくやり取りを続けてくれる。

 そして鋼の騎士団の中でもかなりの実力を持っていて、戦いの時にも頼りになる。クーベロがいる時は、後ろや他の実力が劣る隊員を気にせずに済む。心を許せる唯一の戦友だ。

 

「というか、自分で作ったってろくなもん出来ねぇだろ? 店で食った方が美味いぜ。絶対」

 

 クーベロの方も、最初の頃より気安くなってくれている──が、その発言は頂けなかった。

 

「……なら試してみるか? 食べてみろ」

 

「えー、マジかよ……って、まあいいけどよ。こちとら悪食には慣れてるからな。そいじゃあ一口……」

 

 ガイが鍋の蓋を開け、用意していた皿に食事をよそい、クーベロへと差し出す。その見た目や香りに、まずクーベロは驚いた。

 

「香りは悪くないな……ってか、なんだこれ。店に出るもんみたいだが……まさか、マジで美味いのか?」

 

「いいから食べてみろ。話はそれからだ」

 

「お、おう……」

 

 と、クーベロはスプーンを使って、中にはいった具材を一口。

 すると途端に声を上げた。

 

「う、美味ぇええええええ!? なんだこれ!? お前、料理人だったのかよ!?」

 

「一応見張り任務中だ。大声を出すな……いくら、私の料理が美味かったとしてもな」

 

 注意の声を飛ばしながらも、意外とまんざらでもなさそうにガイが口端を歪める。その間にもクーベロの手は止まらず、

 

「いや悪い。驚いて大声あげちまった……にしても美味ぇなこりゃ。なんなんだこれ……ぶっちゃけテキトーに具材入れて煮込んでるようにしか見えねぇのに……」

 

「テキトーではなく、()()()。きちんと味の調和を考えている」

 

『この筋肉ゴリラは分かってないな。何が店で食った方が美味いだ。俺様が作った方が美味いに決まってるってのによ』

 

 内心の言葉に、そこまで決めつけはしないが、ある程度賛同する。店の料理にも後れを取らないと自負しているのだ。

 クーベロはあっという間に差し出した料理を平らげ、

 

「いや、確かに凄いな、これは……ガイお前、料理人でもやってたのか? 今直ぐ店を開いてもこれならやっていけるぜ」

 

 その言葉に悪い気はしないながらも、ガイは少し昔を思い出した微妙な気持ちになる。酒場で奴隷であった頃や、カラーの家でペットとして飼われていた頃を思い出し、

 

「……まあ、そんなところだ。料理は作り慣れている。ようやくここの生活に慣れたからな。久し振りに作ってみようと思ったんだ」

 

 普段よりも饒舌に、ガイは語る。戦闘以外では数少ない特技のようなものだ。

 ここのところはご無沙汰だったが、以前はよく作っていた。もうひとりのガイですらも、強盗で食材を奪った時などに作っていたくらいである。

 だが、ガイとしてはあまり満足のいく出来ではない。というのも、カラーの森で食べていた食材に比べれば、圧倒的に質が落ちるからだ。

 それでも色々と工夫して美味しくしてみたが、それでもやはり届かない。

 根本的に、人が手に入れることの出来る食材では、カラーが手に入れていた食材には敵わないのだろう。質の良いものは貴重で、店にすら並ばないとも聞いている。

 ガイとしては、牧場時代の餌を食べていた経験もあるので、どれだけ不味かろうとも食べることは出来るが、上を知った後だとやはり首をひねってしまう。贅沢な舌になったことを喜ぶべきか嘆くべきか。

 だがまあ久し振りに作ったのだからこんなものだろうとさっさと食事に手を付けていると、

 

「──ガイ。少しいいかな?」

 

「っ……!?」

 

「うおっ!? って、副隊長っすか……あんま驚かさないでくださいよ」

 

 突然声と共に、暗闇からその姿を現したのは、鋼の騎士団の副隊長である未来視の魔女だ。

 相変わらずの神出鬼没ぶり。気配をこちらに全く悟らせない彼女は、ガイにとって得体の知れない相手である。

 そうでなくとも、ここのところじっと見られているのもあって、ガイは苦手な相手であった。

 その感情の読めない、それでいて観察されているような視線が、どうも好きになれないのである。

 だからこそ、クーベロに対応を任せて無視してしまいたかったが、そうはいかないようだった。

 

「すまないが、クーベロ。席を外してほしい。ガイと二人きりで話したいことがあるんだ」

 

「は、はぁ……それは構いませんが、二人きりで……?」

 

 と、見張り任務中であるにも関わらず、そんなことを提案する魔女にクーベロが首をひねる。しかし、

 

「あ──はは~ん、()()()()()()()()()?」

 

 突如、思考が何処に行き着いたのか、なにやらいやらしい笑みを浮かべるクーベロ。絶対にそうじゃないであろう勘違いをしていることが手にとるように解る。故にやめてくれと懇願しそうになるが、

 

「そいじゃあまあ、俺は門の方に戻ってるんで終わったら呼んでください。それとも……もう帰った方がいいっすかね?」

 

「──いや、それには及ばないよ。すぐに済む……とは言わないが、それほど時間は掛からないから」

 

「へーい、了解でーす」

 

 と、クーベロが立ち上がり、そのまま外周部を辿って隠れ里の入口にあたる門の方へと向かおうとする。

 だがその前に、ガイに向かって振り返ると、

 

「…………ニッ!」

 

「…………」

 

 いい笑顔を浮かべて、サムズアップを置いていった。

 正直イラッとしたので、追いかけて一発ぶん殴ろうかと迷ったが、副隊長が用事があると言った手前、追いかけることも出来やしない。こういう時こそ、自分の口下手さが嫌になる。何か適当に言い訳をつけて回避したいのに、それもままならない。

 

「……それで、用事とは?」

 

 だからガイは周囲に人の気配がなくなったのを読み取り、二人きりになってからさっさと用件を尋ねた。

 それが終われば、この気味の悪い相手からも解放されるだろうと。

 そんな思惑を知る由もない魔女は、こちらを見ていつも通り淡々と口を開く。

 

「──では、率直に言いましょうか」

 

 ああ。何でもいいから早く終わらせてくれ、とガイは内心、投げやり気味にその言葉を待つ。

 だがその冷静な表情は、魔女の一言で──凍りつくこととなった。

 

「──ガイ。あなたは少し前に、西の方で活動していた盗賊ですね?」

 

「────」

 

 息が止まる。

 ──何故そのことを。

 ──どうして知っている? 

 ガイの内心で起きた強い疑問の言葉がそれだ。

 そして魔女は、今まで見てきたものと違い、感情が僅かに見える薄い笑みを浮かべると、言葉を続けた。

 

「強盗、強姦、殺人……色々と罪を犯してきたそうですね……ふむ、どうやら色々あったようで──おや、何故それを? と、疑問に思っていますね?」

 

 更に言い当てられる。それすらもお見通しなのかと驚愕し、未だに声が出せない──出すべき言葉が見当たらないガイは、ただ未来視の魔女の言葉を聞くだけだった。

 ……まさか、未来視……!? 

 いや、しかし、未来を読んだところで分かるはずも──

 

「まあ、そうですね。未来視ではありません。私は未来視が専門ではありますが……心読み。いわゆる“読心”も嗜んでおりましてね。あなたが黒い感情を抱いていて、それをかつて実行していたことは、ここしばらく観察していて分かりました」

 

「こ、心読み……だと……!?」

 

 初めて聞く言葉だが、何を意味するかは分かる。だからこそ、ガイは信じられない、信じたくないような気持ちだった。

 

「驚くのも無理はないでしょう。私のようなものは世界広しと言えど、そう多くはない。このようにして露見してしまうなど、普通はないでしょうから」

 

 運が悪かったですね、と魔女は何の気なしにそんなことを言う。

 だがガイの内心は荒れ狂っていた。

 ……どうする……? 

 悪事が暴かれた。暴かれてしまった。

 せっかくここで平和にやっていけると思っていた矢先にだ。

 彼女はここの副隊長。彼女が周りの隊員や、隊長に告げ口をしようものなら、ガイの居場所はまたなくなってしまう。

 だからだろうか。その心の中の声は、いつも以上にクリアに聞こえた。

 

『あー……バレちまったな……さて、どうする?』

 

 と、もうひとりのガイは言う。何を? とは聞かない。ガイもその先の言葉は分かっていた。

 

『────()()()?』

 

『…………』

 

 その、普段であれば一蹴すべき提案を、ガイは何も言うこともなく受け止め、そして動じることも無かった。

 他ならぬガイ自身が、それを考えたからだ。

 ──ここで魔女を殺し、口封じを図ることを。

 

『なら、俺に任せろ』

 

 もうひとりがそんなことを言う。頼もしい言葉だ。

 

『俺もここのところ、こいつの視線にはうんざりしてたところだしな……この状況だとヤれそうにないのが残念だが……殺っちまうのが手っ取り早い』

 

 同意する。この状況だとそんな時間はない。

 そもそもこの二人きりの状況で魔女だけがいなくなれば、クーベロや他の者も確実に怪しむ。

 完璧に証拠を隠滅し、上手い言い訳を考えついたとしても、罪から逃れるには難しい。

 だがそうするしか、自分が平和に生きる道はない。

 もう嫉妬され、憎しみを受け、虐げられるような生活はたくさんだ。

 自分はここで生きていくと、今度こそ決めたのだ。

 

「……そうか。知ってしまったか……」

 

「ええ、知ってしまいました」

 

 未来視の魔女が改めて頷く。飄々とした様子で、あっさりと。

 だからガイは、懐の剣に手を伸ばそうとする。

 知ってしまったのなら、殺るしかないのかもしれない。不可抗力、という言葉が頭に浮かぶ。

 そうしてガイは、初めて自分の意志で、黒い感情に身を任せようとし──

 

「────ですが、誰にも言いません」

 

「…………は?」

 

 しかし──魔女から告げられたその言葉に、黒い想いを霧散させざるを得なかった。

 

「な、にを……言って……?」

 

「ですから、誰にも言いません。貴方の過去に興味はありませんからね」

 

 そう言って小さく笑い、未来視の魔女はその場から立ち去ろうとする。

 だがそれを、戸惑う声でガイは引き止めた。

 

「ま、待て……! なら何故──」

 

「重要なのは、過去よりも未来です。私は今後の貴方に期待をしている」

 

 だから誰にも何も言わない。その罪を黙っている。約束する。

 そう小さく笑って告げると、未来視の魔女は、何故そのことを態々言いに来たのかという、ガイの一番の疑問には答えずに、再び森の暗闇の中に消えていった。

 

「…………何だったんだ…………?」

 

『…………分からねぇ…………』

 

 ガイの呟きに答える言葉は内心にしか無く、その心からの言葉だけが森の中に木霊した。

 

 

 

 

 

「……なんなのさ、アンタ……」

 

「……そんなこと言われてもな……正直、困る」

 

 部屋の中で木霊したのは、使徒であるハンティの呆れるような声と、その主である魔人レオンハルトのバツの悪そうな声だった。

 だがその声に割って入るものがいる。

 赤に近い紫色の髪を持つ小柄で肌の色が少し焼けた美女の声だ。角や翼を持つ人間でない彼女はニヤリとした笑顔で、

 

「あら、レオンハルトの子種がそれだけ優秀だったというだけの話よ。別に驚くほどのことではないわ」

 

 そう言って彼女は自分の露出したお腹を愛おしそうに擦る。そんな姿を見て、ハンティは何とも言えない表情で目を細めた。

 

「……いや、にしても頻発しすぎでしょ。魔人って当たる確率低いんじゃなかったの? しかも、悪魔のあんたまでとか……」

 

「今までの努力が実を結んだだけ、とも取れるわ。そもそも、あれだけ毎日やって、孕んだのが9人なのだからむしろ少ないじゃない?」

 

「まあそれは……」

 

 レオンハルトの使い魔であり、ハンティの数少ない友人。元カラー女王で第四階級悪魔のインデックスが薄い目の笑顔でそう言う。

 ハンティも半ば一理あるとその言を認めるが、心の内ではあまり納得はいっていない。

 だがそれを言い出せないのは、一応はめでたいことであるためだ。

 新たな命を祝福しないわけにはいかない。自分の主の節操の無さは恐れ入るが、それは確かである。

 しかもそれが親友の子だというのなら、さすがのハンティも空気を読むのだった。

 口の中でもごもごと言葉を呑み込んだりしていると、インデックスが続けて、今度はからかうような口調で、

 

「……というか、貴方はそろそろいい相手でも見つけたらどうなの? ゴリラでも番を見つけるものなのに、ほんと貴方ときたら……」

 

「……あー、あー、聞こえない聞こえなーい。あたしはそういうのはいいからー」

 

「はぁ……」

 

 耳を塞いであーあーと聞こえない振りをするハンティにインデックスが呆れを意味する息を吐いた。額に軽く手を当て、半目をハンティに向ける。

 

「……考え方を変えないと駄目ね。こういう考え方はどう? 恋人ではなく、子供を作るための相手を探すの。もっと原始的な雄と雌の番よ。元ドラゴンなら分かるでしょう? 良い感じの雄との子孫を作るためなら、ちょっとはハードルが低く──」

 

「──ならない。……というか、子孫なら似たようなのがいるし……」

 

「血を引いてる訳じゃないでしょう、カラーは」

 

 インデックスの説得にもハンティはバッサリと拒否する。ここまでいくと男性に全く興味がなさそうというか、女性としてどうなのかと思わざるを得ない。

 しかし、ハンティとしても複雑な想いはあるはずだ。

 面倒見は良い方で、子供も割と好きな方なのは分かっている。子供の相手をすることだってあるのだ。

 だが、ハンティには根深い何かがあるのだろう。そうしようとしない訳が。

 それを薄々と感じつつも、インデックスは言い出せずに息を漏らすだけだ。さすがにそこの解決方法は、ハンティ自身の心の問題であるため、踏み込みにくいというか、ただ言葉だけで踏み込んでも解決しないであろうという読みがある。

 

「というか、あたしよりレオンハルトだよ。こっちは沢山作ってるんだから別にあたしは必要ないでしょ」

 

「…………そういうものでもないとは思うがな……」

 

 レオンハルトが遠慮気味に意見を口にする。

 彼としても、思うところはあるだろうが、それ以上に子供のことで考えるべきことがあったりする上、ハンティにも子供の世話をたまに頼んでいるため、あまり強くは言えない。

 そもそもハンティに対しては言わなくても構わないという節さえある。それはレオンハルトにもきちんとした理由があるのだが、インデックスには知り得ないことだった。

 

「……そういえば、前に悪魔界に行きたいって言ってたけど、そっちはどうするのかしら?」

 

 インデックスが答えを半ば分かっている問いを投げる。確認の質問だった。そしてレオンハルトはその予想通りに、

 

「……今は子供のこともある。もう少し後になるな。あと数年もすれば、俺も──」

 

「……あと数年? 何かあるの?」

 

 耳に聞こえた単語に単純な疑問を返す。しかしレオンハルトは少し間を置いて、

 

「……いや、何でもないが……だが、そうだな。もう少し経てば子供達も成長するし、俺も一通りの用事が済んで手が空くだろう。行くのはそうなってからだな」

 

 レオンハルトの答えに、なるほど、と頷きを返す。するとそれを聞いていたハンティが、

 

「行く時はあたしも連れていきなよ。愉しそうだしさ」

 

「……考えておく」

 

「なら私も悪魔界に注意喚起しておくわ。──カラーゴリラ来訪注意報を」

 

「……雷撃」

 

「――甘いわね。ツッコミとはいえ、その程度の魔法はもう私でも躱せるわ」

 

「へぇ……?」

 

 第四階級の悪魔となったインデックスの実力は、地上だとかなり高い。ハンティのツッコミ用に力を抑えた雷撃なら躱すことも受けることも容易だ。

 だが背後から、

 

「……一応、インデックスは身重だ。軽い魔法とはいえ、気をつけろよ」

 

「あっ、と。ごめん。素で忘れてた」

 

「別にいいわ。レオンハルトと私の子なら、赤ん坊であっても雷撃くらいなら耐えるはずよ」

 

「冗談に聞こえないのが恐ろしいねぇ……ふふ」

 

「恐ろしいなら最後に笑い声は響かないと思うんだが?」

 

「生まれてもないのに目をつけられるとは……我が子ながら過酷な運命を背負ってるわね……許しなさい、我が息子、もしくは娘。ママの友人はとんでもないバトルジャンキーなのよ……──あ、動いたわ」

 

「……まさか、恐怖で震えてるのか……?」

 

「そ、そんなわけないでしょうが!?」

 

「あ、また……」

 

 ハンティの声に反応してお腹が動いたことで、インデックスがしばらくそのネタで弄り続ける。

 レオンハルトはそのやり取りに微妙な表情を浮かべながらも、机の上にある手紙を一度引き出しの中にしまう。

 その差出人には──“ますぞゑ”と書かれていた。




後1、2話でハニホンにあったガイ君の人生導入部は終了です。そこからはオリジナルというかまあいつもの独自展開というかそんな感じで。
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