「はぁ、ふぅ……」
無人の草原を行く一体の影があった。
青い改造軍服を着た金髪ツインテールの少女。
魔人レオンハルトの使徒キャロルである。
彼女は親愛なる主、レオンハルトの命令に従い、その背に背負った麻袋を必死に町まで運んでいる最中だった。
そしてようやく、
「着きましたわ――!」
人間の町へと辿り着いた。
眼前にはそれなりの高さがある建物、外側には町を囲むように外壁が築かれている。
キャロルはここに来るまでの苦労を思い出した。
村を抜け出す際はまだ良かった。魔物兵は襲撃者の対応で浮足立っており、とてもではないがこちらを気にしたりする余裕はなかった。レオンハルトの発言も効果的だったのだろう。キャロルが麻袋を持っていても事情を知っている魔物兵は納得した様子でこちらを見送っていた。
ただ、途中魔物兵らがひそひそと小声でレオンハルトのことを「ソロ」だの「早撃ち」だの噂していたのはどういうことだろうか。よく聞こえなかったもののレオンハルト様ファンクラブの会長として今度調査しなければと頭に記憶しておく。レオンハルトのことは使徒であるキャロルにとって何よりも優先されるべきものだし、自分でも優先したいと思う。
そして、それだけに心配なこともあるが――
「――――!」
「――あら」
気がつけばこちらの声が聞こえたのか背負った麻袋からくぐもった声が聞こえた。
おそらく出してほしいのだろう。キャロルはその要望に応えるために、麻袋を地面に置くと縛っている紐を解いて口を開けた。
すると中から人間の姉妹が、
「うーん……気持ち悪い……」
「うぇぇ……」
口元を手で押さえながら出てきた。顔は少し青くなっている。それを見てキャロルは「ああ」と二人の様子を察した。
だが、勘違いかもしれない。一応二人に確認を取ろうと口を開くと、
「酔ってますの?」
「あ、当たり前でしょ……あんなに揺らして、うぷっ」
やはりそういうことらしい。
確かに麻袋を運ぶ際、上口からぶら下げるように持っていた為、道中結構揺れていたかもしれない。それに思い返してみると途中何度も今のようにえずいていた気もする。
……軟弱ですわねぇ。
キャロルは人間の弱さに半ば呆れる。自分ならばその程度で酔うことなどないだろう。そういった揺れを味わったことがないのが癪だが、完璧な使徒である自分が酔って吐き気を催すことなどあるはずがない。
……帰ったら魔物兵に頼んで試しに揺らしてもらいましょうか。
頭の中に予定を一つ入れておく。未経験、というのは完璧を自称する自分にとっては中々に屈辱的だ。人に経験の有無を聞かれて答えられないというのも恥ずかしい。特にレオンハルトに聞かれて失望されるのは嫌だし、もし七星に経験があったら自分は負けたことになる。
細かいことだが重要なことだ。レオンハルトが今後どんな要求をしてもそれに応えられるように備える。完璧使徒とはそうでなくてはならない。
考えていると早く主に戻りたいという思いが強くなる。だが、まずは主の命令を遂行してからだ。
「……しょうがないですわね。町に入ったら水を取ってきますわ」
「ううっ……お願い……」
「…………」
最早それを我慢して口数が少なくなってしまった姉妹を見てキャロルは息を吐く。
レオンハルトの命令は二人を無事に町まで送り届けること。今のままでは完全に無事とは言い難い。万全な状態で送り出してこそそれを完全にこなしたことになる。人間二人がどうなろうとキャロルにとっては構わないが、レオンハルトが望むならしょうがない。それにレオンハルトは元人間。やはり他の生物よりは扱いは良くするべきだろう。
そんなことを考えながらキャロルは町の入り口へ向かって足を踏み出すと、
「……キャロルさん」
「……何ですの?」
不意に声を掛けられる。また何かあったのだろうかと反応した。
すると気持ち悪そうにしながらも、
「色々とありがとうね……」
「!」
と、何でもないことのように軽くお礼を言った。
事実、大したことではないのだろう。一言そう口にすると妹の手を繋ぎながらゆっくりと歩みを再開し町へと向かっていく。
それを追いかけながらキャロルは少し考えてしまう。
……人間に感謝されるのも、初めての経験ですわね……。
一応魔物であるキャロルにとって人間は下等種族でしかないはずだが、少なくとも悪い気はしない。故に少し複雑ではある。
しかしこれもレオンハルトの使徒である自分にとってこれからも経験していくかもしれないことなのだ。だからこれもレオンハルトの影響なのだろう。そう考えると喜ばしいことである。
そしてキャロルは不意に村で戦っているであろうレオンハルトの事を思い呟いた。
「レオンハルト様、今頃、どうしてるんでしょうか……」
戦いは続いていた。
戦場である村は既に村としての体をなしていなかった。
おおよそ全ての民家が縦に、横に、斜めに、あるいは細切れになり崩れ落ちている。周囲の木々は根こそぎ伐採されたように切り落とされており、魔軍が運び込んだ資材も既に原型を留めていない。
そんな中、まともな形を保っているのはこの惨状を引き起こした魔人、レオンハルトと。
「はぁ、はぁ……!」
それに相対するハンティ・カラーの二人だけだった。
息も絶え絶えな様相のハンティにレオンハルトが笑う。
「まだ勝ちを捨てないのは立派だな」
「っ……く」
ハンティは震える足でもう何度目かになるレオンハルトの斬撃を回避した。もはや周辺に障害物は存在しない。斬撃が空を斬り、風が吹く。
……どう、すれば……。
ハンティは焦点の合わなくなってきた視界で相手の動きを見定め、熱に浮かされたように重くなった身体を必死に動かす。
徐々にこちらの動きを向こうが見切りはじめた結果。全身のいたるところに細かい切り傷を負わされている。身体に芯はなく、強く力を入れなければ今すぐにでも立てなくなる。
確実に動きが鈍くなっているのを自覚していた。
そんな自分に対して相手は動きが悪くなるどころか、どんどん良くなっているようにも見える。
瞬間移動への対処も初めは何十回に一回しか成功していなかったが、今では数回に一回は危ない攻撃がこちらに飛んでくる。
既に圧倒的な力を持つ存在が徐々に成長してこちらとの差をどんどん広げていく。
当初の作戦であった持久戦もこの様子ならどちらにせよ失敗していたかもしれない。
動きも思考も止めることができない。そんな中、レオンハルトが口を開いた。
「そろそろわかったぜ――」
「――!」
ハンティはその言葉の瞬間、斬撃を避けようとして瞬間移動を使った。使ってしまった。
――今、なんて言った――?
今、相手から放たれた言葉は何だ。
わかった、と言ったのか。なら、その言葉が意味するのは。
「っ……!」
突如、ハンティの身体に怖気が走った。時が止まった空間で立ち尽くす。それはとある疑問の所為。
斬撃を躱して――どこへ行けばいい?
今の言葉が本当であるのならば。瞬間移動を解いた瞬間に訪れるのは紛れもない自分の――死。
ハンティは自分の判断が信じられなくなり、迷った。
そして、
「――――」
ややあって瞬間移動を解いた。その瞬間――
「見えたぞ……!」
「――っ」
ハンティはその行動を見ていた。
レオンハルトが瞬間移動直前まで振るっていた剣を返すように、今度は逆袈裟に振るう。
視界が遅く、ゆっくりに感じられる中、宙に刃が滑り、
「――ぁ」
ハンティの身に衝撃が走った。
村の中の音が止んだ。
あらゆる物が斬撃の餌食になり地面に転がる中、唯一立つのは――魔人レオンハルト。
その視界の先。地面に転がるのは腹に大きな傷を負ったハンティ・カラー。しかし、彼女の身体は分かたれてはいない、
それを見てレオンハルトは息を吐く。
……終わったか。
終わってしまった、と思う。
レオンハルトは最後の一撃、その瞬間にハンティが取った行動が見えていた。
こちらの斬撃に対し、ぎりぎりのところで――いや、正確に言うなら既に斬撃が腹を通過する瞬間に――反応したハンティはそれを何とか躱したのだろう。
ひょっとすれば瞬間移動を使ったのかもしれない。だが、結局は、
……俺の勝ちか……。
そこで残念な気持ちを覚えてしまうのは無論、負ける方がいいというわけではない。魔人四天王として、魔軍参謀として。そして何よりも魔王の配下として。自分が負けることは許されないし、そのつもりもない。
この口惜しさと言うべき感情は、楽しかった戦いが終わってしまったことにより生じた結果だ。
相手の息はまだある。しかしもう立ち上がれないだろう、致命傷だ。
このまま放っておいてもあるいはハンティ・カラーであるならば生き残る可能性は高い。だが、少なくとも今はもう戦えない。
出来ればもう少し楽しみたかった。ダメージを負わされたのは魔人を除けば本当に二百年近くなかった。それほどの相手だ。瞬間移動も素晴らしかった。動きが読めたとはいえそれは完全ではない。半分は勘に近いものがあった。
しかしそれでも当たった。その結果は自分が勝ち取った結果。偶然でも勘でも実力でもそれは変わらない自分の勝利だ。
熱くなっていた気分が徐々に冷静に冷めていく。それを感じながらレオンハルトは背を向けた。
「悪いこと、したな……」
そう呟いた時、レオンハルトの耳に音が聞こえた。
背を向きかけた状態でレオンハルトは視界の隅にそれを見た。立ち上がる彼女の姿。
――戦いはまだ終わっていなかった。
ハンティは薄れゆく意識の中で、それを解放した。
自分にとっての業。その象徴とも呼べる姿を。
――額にあるクリスタルが縦に開いた。
――その瞳は吊り上がり獣の如く変化した。
――爪はより鋭利になり。
――全身に鱗が浮き上がった。
ヒューマンカラーではありえないその醜い姿は、本来この時代に存在しえないはずのもの。
……使う、からね……!
それは誰に対してのものなのかは分からない。しかしそうしなければいけない気がした。
身体が動く。そして立ち上がる。
ハンティは今の姿となってから、初めてその真の力を引き出した。
その姿を初めて、目の前の魔人に晒した。
――ドラゴンカラーとしての真の姿を。
「これは……!」
レオンハルトはそれを目撃した。
視界の中、確かに戦闘不能にしたはずの相手が立ち上がっている。
そしてその姿はつい先程とはまるで異なっていた。
……これが、ドラゴンカラー。いや、ハンティ・カラーの真の姿……!
全身に鱗、爪が鋭く伸び、額のクリスタルは第三の目のように見開かれ、その顔は凶相と化している。
人の形をしながらもドラゴンとしての姿を持ったどちらともつかない歪な存在。しかもその結果、あることがハンティの身体に起きていた。
それを見てレオンハルトは驚愕し、笑みを浮かべた。
……傷が一時的に塞がってやがる……!
先程こちらが負わせた傷を鱗が覆い隠している。その傷は無くなったわけではなく、今も鱗の間に赤い線が見えているものの結果的に止血されていた。
人間ではありえないその醜い姿に、しかしレオンハルトは、
「最っ高に唆るじゃねぇか……!」
それを称賛した。再び身体に熱いものが宿る。
まだ相手は立っている。未だ向こうの不利であることは変わらない。体力が回復したわけでも疲労がなくなったわけでもない。精々傷が塞がっただけ。状況は好転していない。
だが、まだ戦える。まだ楽しめる。
自分とやり合ってここまで持ち堪え、しかしそこでは終わらせないというのだ。
レオンハルトは嬉しくなり、相手に呼びかけたくなった。それを躊躇しない。
「まだ戦うんだな……?」
自分の敗北はないだろう。そこは変わらない。
「まだ楽しんでいいんだな……?」
「ぐ、ぐぅう……!」
真の姿を晒し、凶暴化したハンティが未だこちらを睨む。戦意はまだある。その意思はまだ死んでない。
それなら、
「ああ、ああ! そうだ! もっとやり合おうぜ……!」
……ここからは待ったなしだ……!!
レオンハルトはその身を前方に躍らせた。ハンティがそれを迎え撃つ。
戦場に二つの影が交差した。
村が再び戦場と化した。
見晴らしの良くなった村の広場の中心で、レオンハルトはハンティにその剣を振り下ろす。
魔剣オル=フェイル。その斬れ味とレオンハルト自身の剣技が組み合わさった斬撃は常に必殺のそれに近い。生身であるなら容赦なく両断してしまうほどのその斬撃は、しかし生身に防御された。
レオンハルトはその結果を齎したものを見る。それは自分にとっても縁があるもの。
「ドラゴン種の爪か……!」
オル=フェイルの刃がハンティの鋭利になった爪に防がれる。これの強度をレオンハルトはよく知っている。
始まりはとあるドラゴン魔人。その次はネフライトドラゴンの使徒、七星。
そして自分と同じ魔人四天王であるプラチナドラゴンの魔人――カミーラ。
今挙げた全員とレオンハルトは戦い、そしてその鋭い爪に自慢の剣を防がれたのだ。今と同じように。
……そうそう、この爪が厄介なんだよなぁ!!
このドラゴン種の爪の強靭さに、レオンハルトは悔しさと喜びを覚える。
悔しさは何度やってもこの爪を斬ることは出来なかったという思い。しかしそれは同時にいつまでも打ち合ってられるということに他ならない。
ドラゴン種とやるのは身体能力、肉体の強度は勿論、しぶとさも相まってとても楽しい濃密な時間を過ごせるのだ。
特にカミーラは最高だった。カミーラの強さは中毒になりそうなほどに唆る。思い出したら滾ってくる。帰ったらカミーラとやり合うか――
「ガぁッ――!」
「っ……おっと!」
少し上の空になってしまったか、相手はその隙を見逃さず爪を振ってきた。それを見て、まるで咎められているように感じてしまうレオンハルト。
「嫉妬すんなよ。心配しなくてもお前もちゃんと可愛がってやる」
「……ッ!」
ハンティの動きが激しくなった。その動作には勢いがあり、何となくだが怒りが窺える。
……ふむ、今のは俺が悪いな。
さすがに決闘の最中に別の相手のことを考えるなど失礼にもほどがある。自分でもそれをやられたら怒る。今目の前にいるのは自分なのだ。最中は目の前の相手に集中すべきだろう。
ならば、とレオンハルトは力を入れる。相手の膂力はかなり強くなっているようだが、それでもこちらの方が勝っているようだ。速さも同様だ。それならば以前と同じ連撃で崩せるだろうとレオンハルトは上下からの二連撃を放つ。
しかし、
「――――」
「っ……! テメ――」
直後、レオンハルトは防御を選択した。攻撃を行ったはずの自分が、なぜ今は防御をさせられたのか。
それは先程と同様でありながら、凶暴化したハンティではもう使うことが出来ないと、勝手に思い込んでしまった手段であった。
目の前から一瞬で消え去り、別の場所に現れるその魔法は――
「――まだ瞬間移動を使うのか……!」
すでにレオンハルトが見切ったはずの魔法だった。
ハンティ・カラーは騒ぎ立つ心を必死に制御していた。
……落ち着け、落ち着かないと……!
ドラゴンカラーとしての真の姿を見せたこと。それには複雑な思いがある。しかしそれでもこんなところで終わるわけにはいかない。故に仕方のないことではあるが。
ドラゴン種としての血が騒ぐのだ。
目の前の強者を、本能の赴くままに喰らってしまえ、と。
しかし、それはできない。膂力も速度も向こうの方が上であるし、耐久力もおそらくそうだろう。少しだけ差が縮まり、近接距離でも多少戦えるようになったとはいえ、力任せの戦いは通用しない。
なら、やることは決まっている。
ドラゴン種としての力を振るいながらも頭は冷静に。ドラゴン種としての考えを素直に実行する。
そうしてハンティは瞬間移動を使った。
視線の先、レオンハルトが剣を振り上げて次の行動に移ろうとしている。
次に起こすのは回避であって回避じゃない。
攻撃だ。
位置はそこまで変えず、最小限攻撃を躱せる距離に移動し、そのまま足を振るう。
……くらっときな!
「――ッ!!」
瞬間移動を解いた瞬間。向こうの攻撃があらぬ方向に向かって振るわれる。それはおそらく相手の予想が外れた結果。そしてのその結果にレオンハルトが一瞬驚いたように目を丸くし、そしてすぐに笑みに変化した。
「やるじゃねぇか……!」
打撃をレオンハルトの腹にぶち込んだ。
爪先に手応えを感じたと同時、レオンハルトの身体がくの字に折れ曲がろうとして、しかし踏みとどまる。ハンティはそれに内心で沸いた。
……やっと一発目!
魔法以外ではようやく攻撃がちゃんと当たった。その事実に喜びもするが、それよりも、やっと、という思いの方が強い。
後、何発当てれば目の前の魔人を倒せるのか。それを考えると嫌気が差してくる。
それなら今は稼ぎ時だ。レオンハルトはそのダメージか、もしくは予想が外れた驚きの所為なのか、身体を怯ませている。
動きはない。
ハンティは動きを激しいものにした。瞬間移動を連続で発動させながら、
「――オォッ――!!」
打撃を連続で叩き込んだ。
レオンハルトはその戦闘に手応えを感じ始めていた。
眼前ではドラゴンカラーとしての姿を解放したハンティがその爪を、拳を、足を連続的に振るっている。そしてそれに押されてしまっている。
それは何故か。理由はある。それは、
……動きの始点だけを狙い始めたのか。
それを冷静にレオンハルトは分析する。
相手は瞬間移動を再度使い始めてきた。しかしそれは先程までの防御や回避に使うような消極的な使い方じゃない。
あくまでも攻撃。攻撃を当てるためにこちらの動きの始点だけを見切っている。
それも徹底的なインファイトでだ。
「――ッ」
「――――!」
今もこちらの剣を振る、腕を先に抑えられた。その力はさっきまでとは格段に強くなっている。速さも同じだ。
だがそれだけではこちらの攻撃を受け止めることはできない。
しかしそれが力を入れる瞬間に止められればどうだろう。
剣を振ろうと腕に力を込めて、それが発揮されるまでには必ずズレが生じる。それは肉体の構造上、強い力で動こうとすれば必ず起きうることだ。
その隙間だけを瞬間移動で見切って狙い打つ。
剣を振ろうと力を込めるとその出掛かりが潰される。そもそも剣を振らせない。
剣が押されてこちらはその手を引き戻すしかない。
だが、再度力を込めるとそこも潰される。
レオンハルトは思う。瞬間移動というのは攻撃でこそ活きるものだ、と。
なにせこちらからはその始点が見えない。動いた瞬間に反応しようとするが、それも本当のギリギリのところで、しかもその出掛かりを潰されるのであればこちらは動けない。
更にはドラゴンカラーとしての力を解放したのが原因か、向こうの動きが急に変化している。動きの癖が変わったと言うべきか。
これではまた振り出しだ。もう一度瞬間移動の癖を完全に読み切らなければならない。読み切ったとしてこのパターンから抜け出さなくてはならない。
……なるほどなぁ……。
レオンハルトは内心、感嘆の思いをハンティに抱く。これは世界中でただ一人。瞬間移動を使えるハンティにしか出来ない戦闘方法だ。
まさかこのような封じ方があるとは考えもしなかった。なるほど、動き始めを捉えてそれを叩く。これならどれだけ速かろうが意味がない。その力が完全に発揮されないからだ。
何故なら動きというのは0から徐々に上がっていくもの。100パーセント力を発揮するにはどんな達人でも一瞬のラグが存在する。
それが人間としての限界だ。
それを理解し、レオンハルトは内心息を吐く。
……どうするか……。
攻撃は最大の防御。それを地でいく相手への対処を思案する。
再度敵の動きの癖を見抜くのか。それとも――また一歩先に進むか。
「――ク」
笑みが思わず零れてしまう。あまりにも馬鹿馬鹿しい問いだったから。
そしてレオンハルトは迷わずそれを選択した。
何故なら自分は人間じゃない――魔人なのだ。
故にレオンハルトは動きを止めなかった。変えたのは自分の内側だけ。肉体の動きを意識することに全力を注ぐ。
笑うしかない。
この状況を正面から打倒出来るようになること。それは、
――自分のさらなる成長に他ならないから。