ガイ達が魔法の里に到着し、白兎達と再会した次の日。
彼らは魔女の案内で早速、魔法の里の地下にある書庫迷宮の攻略を開始した。
「は~……地下にこんな迷宮があるとは、たまげたな……」
その迷宮の感想を率直に、魔物を倒し終わって武器を収めながらクーベロが表す。
見上げる視線は周囲の本棚。大量の本が詰まっているそれらの列だ。
どこを見ても本がまず目に入るその迷宮は、確かに他の者達にとっても珍しいものである。
「本が沢山ありますね! これ、全部魔法の本なんですか!?」
「いえ、そうじゃないみたいですね、白兎さん。普通の本もあるみたいですよ」
「きき!」
文字を読むことが出来ない白兎がそう問うと、慣れているのかすぐにイヴが周囲を見て答える。すると続けて補足が横からきた。
「ふふ、ここにあるのはこの魔法の里が出来てから収集した本の数々。その中には魔法の本だけでなく、学術書から伝記、小説、絵本など、様々な種類の本だね」
気に入ったものがあれば持っていっても構わないよ、とそう口端を薄く歪めるような笑みで告げたのはこの里の長であるCだ。
彼女が禁書とやらがある最深部までの案内役。ゆえに彼女が先頭を行き、皆を導いている。
そしてこの書庫の持ち主でもある彼女の許可を得たことで、何となく道すがらに本を片手に取ってみる一行だが、
「本ねぇ。俺、本ってあんま読んだことねぇんだが……って、なんだこれ?」
クーベロが手にとった本を開いて、頭に疑問符を浮かべる。別の本を手にとったイヴが、その疑問の意味を答えた。
「これは……これでは、読めないですね。文字が今のものとは違います」
「今のものとは……ってことは、昔の文字なのかよ!?」
クーベロが驚き、昔という言葉に反応した白兎の得物、聖刀日光が本を見て、
「……相当昔のようですね。少なくとも、私の生きていた時代と今の文字は変わりないようです」
「古代文字って奴か? って、それよりも──」
日光の言葉にかつての冒険者時代の癖からか、同じく周囲を観察して答える魔剣カオスは、周囲の本などよりも個人的に気になっていることを言おうとして、しかしその言葉を先に持ち主であるガイが発した。それは、
「……なぜ、白兎達まで……」
「それ! ほんとそれ! なんでお前らまで付いてきてるん!?」
「時間差ツッコミですか。あまり遅いと効果が薄いので、もう少し早く言うべきでしょう」
「きき……」
イヴの言葉を聞いて、肩に乗る藤吉郎が“ツッコミ評論家みたいになってる……”と、イヴのことをそう表すが、長い付き合いの白兎と、心が読めるイヴ以外には伝わらない。
だがその代わりに答えとなる言葉を白兎が口にした。首を傾げ、
「……? 普通、友人と久し振りに再会したらダンジョンの一つや二つくらい同行しますよね? 一緒に冒険してみたかったですし」
「いやいやいや、お前さん魔人の子じゃろう!! そんでこれ! 魔人を殺すための冒険なんだが、それでいいのか!?」
魔人を倒すための戦力強化──ガイが強くなるための冒険に同行してくる白兎一行に、敵だという認識を未だ持ちながら、正気かと問う。
一方でガイの方は疑問は抱いているが、付いてきている事自体に不満はないようで、それを静観していた。
すると白兎は昨日と同じ言葉で、
「……昨日も言いましたが、別に魔人自体にどうこうって言うのは特にないので。殺せるかどうかはさておき、パパと親交のある魔人さえ無事ならそれで構いません」
薄情──とは一概に言い切れない言葉を皆に聞こえるように告げる。
魔人に仲間意識というものがあるかどうかは、この場にいる者達には分からない。が、少なくとも魔人の血が混じっている白兎にとって、同族というものに拘りは別にないようだった。
藤吉郎などは、きー、と鳴きながら、やはりイヴにしか分からない言葉で、“同族意識くらいは無くはないっすけど、そうであっても魔人同士の殺し合いとか日常茶飯事っすからね! 自分の主も、昔はよく──”と、使徒としての意見と、軽い体験談を聞かせてみせる。イヴにしか伝わらないが、イヴだけは微妙に見識を広めており、なるほど……、と僅かに感心の声を上げていた。
他の皆も白兎の言葉に、そういうものか、と程度の差はあれ納得する。カオスなどは理解はしても、未だ拒否反応があるようだったが、肝心のガイが不満を漏らすどころか、受け入れる姿勢を取っているため、唸ることしかできない。カオス一人では何も出来ないのだ。
「そんなことより……この魔女の里はどれくらい昔からあったんですか? かなり風化してるようにも見えますけど」
「おそらく、千年以上は前じゃないですかね。城や“先生”の蔵書に、同じ文字で書かれた本があるのを見たことがあります」
白兎の質問に、イヴが自身の見解を口にする。すると魔女は笑みを深くして、帽子の縁を掴んで目元を隠すと、
「ふふふ……まあ、そんなところだとも。古代文字はかつて、人類圏を支配したJAPANの藤原家が台頭する以前に使われていた文字だ。つまり、少なくともそれよりも古い歴史があると、今は答えておこうか」
「引っかかる答えですね……」
魔女の煙りに巻くような答えにイヴが胡乱な視線を魔女に向ける。
白兎やイヴにとっては、その時代を知らないので読めはしないものの、知っていることであるため、そこまで驚きはない。
だが、ガイ一行にしてみればそれは失われた歴史の一端であった。クーベロやガイが口々に、
「そういや、隊長からちょろっとだけ聞いたことがあるな……なんでも、大昔は人間が世界の半分を生活圏にしていたとかなんとか……あれ、やっぱ本当の話なのか?」
「……俄には信じられない話だ」
そう言うと、僅かに世代が離れているカオスや日光も、
「……ふん。つまり、結局は魔人が今の人間を地獄に落とし、今なお苦しめてるってことじゃろ」
「…………そういう時代も、あったんでしょうね」
かつて世界を旅した偉大なる冒険者である二人も、生まれたのは僅か百年前に過ぎない。
人類史や世界史からすれば、彼らの活躍でさえもほんの少し前の出来事なのだ。
それに、その頃と今は何も変わっていない。百年経とうが、世界は地獄のまま一向に変わらない。
故に彼らはかつてあったという、人類の多くが国というものに属して生きていた時代に想いを馳せる。
だがそれも、その頃を知る魔女に言わせれば、
「……ふふ、とはいえ、記録を見る限りは、当時もそれなりの苦労をしていたようだがね。戦乱の時代、と言うべきかな。戦争が絶えなかった時代らしいが……」
「……それでも今よりはマシじゃろ」
「さて……こればっかりは、当時を知る人間にでも聞いてみないと分からないだろうがね」
暗に、自分では窺いしれない、と苦笑して肩を竦めてみせる魔女。
それについての記録も、ここの書庫には存在するのだが、彼らにそれを知る術はない。白兎やイヴでさえも、その頃の知識は、聞きかじった程度のものだ。
藤原家征伐戦争や、死滅戦争といった有名であるらしい戦争についても、起こった主な出来事や大まかな概要くらいなら知っているが、詳しく知るのはやはり当時を生きた存在だけだろう。本当の意味で彼らにはそれを知ることは出来ない。
何気に、この中で唯一古代文字が読める藤吉郎が、イヴの肩の上で古代の本を見て、ふむふむ、と唸ったり、“懐かしいっすね。この頃はザビエル様もどったんばったんと大はしゃぎで──あ、ここの記述、間違ってるっす”などと懐かしみ、間違っている記述を見つけたりとしているが、やはり彼の言葉は古代文字以上に理解するのが難しいため、真相を明らかにするのは厳しかった。
イヴだけが精々、眉を顰めているくらいである。断片的に見える心の声に、興味深いものが見えるため、先程から何とも言えない表情を続けていた。
「──と、そうしているうちに……着いたよ」
「お……」
「っ……これは……」
魔女が足を止めると、他の者達も立ち止まる。
そしてそこにあった大きめの扉を見上げ、そして中から感じる嫌な空気にまともな者ほど気分を悪くした。
「明らかにヤバそうな気配がしますね! 大丈夫ですかイヴさん! 藤吉郎!」
「なんでそんなに嬉しそうなんですか……私は、ちょっとキツいですね……こういう精神的な負荷にはあまり強くないですから……知っての通り、効きすぎるので……」
「きき!」
顔を青くして軽く額を手で押さえるイヴ。精神感応系の特殊な力を持つイヴは、この手の精神負荷も必要以上に読み取ることが出来るので、この手のものは苦手だった。
白兎や藤吉郎は割と平気そうである。やはり魔人に連なる者達はそれなりに耐性がある。近づいただけでどうにはなりはしないだろう。
「ふふ、耐性がないものはこれ以上は近づかない方がいいだろうね。私でも、禁呪を目にするのは気分を害するくらいだ」
「うぷっ……気持ち悪い……ほんとに、こんなところに入んのか、ガイ……」
魔女は言わずもがなだが、禁呪どころか魔法や瘴気に全くの耐性がないクーベロは、蹲ることこそなかったが、口元を押さえて気分悪そうにする。
だがやはりガイの方は、
「……何ともないが……」
「儂のいた遺跡と似てるが……また別物じゃな」
「では、そちらの方にも耐性があるようですね」
普段どおりの様子でケロッとしているガイに、カオスと日光が見解を話す。魔女の見立通り、ガイにはこの手の精神汚染に耐性があるようだった。
「……だが、どうすればいいんだ? 禁呪の習得など……」
「なに、普通の魔法と変わらないさ。封印を解くから中に入って、適当に呪文を覚えてくればいい。その辺りは教える必要はないだろう?」
「そうだが……」
そう言って軽く腕を振り、扉に刻まれていた魔法陣を消してしまう魔女。
ガイは魔法の習得の際のやり方や気をつけるべきことなどは、カラーの里で魔法の師匠であるミストラルに叩き込まれている。今更意識することもなく、魔法を覚えることは難しいことではない。
とはいえ、今までと勝手が違うため、二の足を踏んでしまう。特に内心では、
『なんかヤバそうだな……おい、やっぱ止めて帰らないか?』
ヤバそうな気配を感じて渋っているもうひとりのガイの声が届く。
気持ちは分かるが、ここまで来て帰る訳にはいかないというのもある。
だが自分の身の安全が大事なのも確かなので、魔女の言う通り、ダメそうだったら直ぐに止めて帰ろうと思いながら、ガイは皆を置いて扉の先に進んだ。
するとそこにあったのは──
「……? なんだ……薄暗くてよく──」
『おい、あそこになんかあるぞ!』
今までも決して明るい方ではなかったが、そこは更に薄暗い。
故にガイは最初、それに気づくことが出来ず、もうひとりの声でそれに気づいた。
部屋の、おそらく中央。そこにある見台に、一冊の本が置いてあった。
「どう見てもこれだな……」
『気持ち悪いデザインだな……』
軽くげんなりとしながらも近づく。見台に置かれていた一冊の本は、普通の本には見えない禍々しいデザインをしていた。
ごわごわとした装丁で、何かの皮や毛が使われているのだろうか。生々しい触感で、瘴気を放っているその本は、部屋の外に届いていた瘴気の発生源に間違いなく、一目でヤバい代物だと分かるものだ。
たとえ魔法の素人だろうと、これを見れば直ぐに踵を返して立ち去るだろう。それが賢明だ。
だというのに、ガイはそれに近づいてしまっている。不思議なことに平気ではあるのだが、さすがに本に触れてみれば、
「っ……なるほど……凄い力を感じるな……」
『大丈夫……か? ははは、さすがは俺だ。それに、これなら──』
もうひとりの言葉に同意せざるを得ない。感じたものは同じだったからだ。
この禁呪の力があれば、魔人にも届きえるのではないかと、そう思わせてしまうほどの魔力を、本や呪文自体からも感じられる。
ゆっくりと本を開いてみると、呪文は幾つか記されているようであった。
つまり、それだけの数の禁呪が存在するということである。捲って幾つか確認していると、
『ん? なんか剣技まで載ってないか?』
「……本当だな。これは……いや、魔法剣技……?」
中には、禁呪と謳いながらも、剣の必殺技のようなことが書かれているページもある。
どうやら禁呪を使用した上で、使うことを想定したもののようだ。
それを見るに、この禁呪を開発した──もしくは発見し、使用したか、とにかくこれを書いた人物は、ガイのような魔法剣士であったことが分かる。
「禁技──“ラグナロク”、か……」
『禁呪“ハルマゲドン”……“アポカリプス”……“ディエスイレ”……どれもヤバそうなことしか書いてないな。本当にこんなのが魔法で出来んのか?』
確かに、ここまで来てなんだが、微妙に疑わしくなってきた。
それも、記載されている禁呪についての説明が滅茶苦茶過ぎて、いまいち信用しきれない。
極め尽くせば、地上にいる全ての生物を滅することも不可能ではないとか、魔王に匹敵する身体能力を得るとか、色んなことが書いてあるのだが、幾ら禁呪とはいえ、魔法でこんなことが出来れば何も苦労はしないような気もしてしまう。
しかもこの本の著者は、どうにもこの禁呪とやらを使用したことがないか、もしくは極めてはいないのか、どれも曖昧な表現に留まっていることが、胡散臭さを加速させている。
だからだろう。ガイは甘く見ていた。
軽く呪文を読み進め、その一説を呟き、魔力を集中してみると──
「っ……く……あっ……!?」
『あ? 何をお前いきなり──あ痛たたたたたたたっ!! なんだ、これっ……! おいやめろ馬鹿!! 頭痛い! いや、全身痛い!』
瞬間、その負荷が──分かれて来た。
禁呪を使った際の代償。精神が崩壊してしまうほどの負荷。
それは不完全な形で、ガイに襲いかかる。
使用者一人の精神を崩壊させる禁呪の負荷は、二つの精神を持つ者には完全に作用せず、その負荷を軽減した。
完全にない訳ではない。
軽減ではあるが、それは内側にいる方が僅かに比率として多めに負荷が掛かってしまう。
だが、それでもその精神への痛みは、十分、実用に耐えるうものであり、
「……この、力は……!」
ガイの力を──文字通り、
前時代、NC期の愉快な方々と簡易的な功績(?)一覧
ガウガウ「魔王を倒すために史上初の最凶魔法生物を作ったけど、魔人になっちゃった☆」
パイアール「姉さん救う研究の為に人類率いて魔人倒したけど、魔人になれたから人類とかどうでもいい」
ザビエル「主に命令されたので人類圏支配する勢力を滅ぼしにいったけど、レオンハルトが嫌いだったからレオンハルト潰そうとして、ヤベー侍にやられた。あの頃の我、マジ蒙昧」
藤原石丸「夢があったからそのためだけに人類支配して魔軍と戦争して魔人斬り殺して、最強の魔人に手傷を負わせたけど、剣の頂にちょっと届いたし是非もないな!」
ナイチサ「余の正義を証明するために悪行しまくって人類の半分殺したりしてみた。なんかヤバい勇者来たけど一応勝って概ね満足」
クエタプノ「人類救うために魔王に喧嘩売ったら千回くらい殺されたけど重傷は負わせたけど、誇れることじゃない。倒せないとかマジ僕軟弱。ついでに魔物大将軍三体殺した」
バルカ&ヴラド「勇者に殺された」
コウウ「俺は勇者一回殺した」
レオンハルト「最初はヤバい時代かと思ったけど、今思うと上司と敵に恵まれてて良い時代だった。最近の若い者(人間)はなってない」
良い時代だな(白目)