「さあさあ! 愉しい愉しい朝が来たぞ! 気持ちのいい朝の空気だ!」
破壊をもたらす両腕を振り上げ、空気を目一杯吸い込んで深呼吸。快活な振る舞いで自ら魔軍の陣頭指揮を執っているのは、魔物大将軍アッティラだ。
彼は随分と機嫌の良い様子で、朗らかに副官の魔物将軍らの前に立つと、やはり爽やかに声を掛けた。
「さあどうだ!? お前達、朝飯はちゃんと食べたか!? 顔は洗ったか!?」
「はっ! 準備は万全であります!」
「うむうむ、良いことだ! 朝飯を食べないと元気が出ないからな! 私など、今日はガルティア様よろしく二回もおかわりしてしまったぞ!」
ははは、と笑っていいのか分からない冗談を聞かされ、しかし大将軍の言葉に軽い笑いをせねばと魔物将軍の声が響く。
ガルティアであればおかわりが二回で済むはずもない。いや、正確には二回で済むかもしれないが、一回の量が桁違いであるため、同じではない。
それに現在、ガルティアが滞陣しているこの軍にとって兵站の問題は現在進行系の深刻なものであるため、そもそも笑えない。兵站担当の者達で算出したところ、輸送をしないのであれば一週間で食料が尽きてしまうという結果が出て、魔物将軍らは戦々恐々としているのだ。
帰りは近くの牧場に寄って食料を受け取りながら帰還する手筈が整っているため問題はないが、それでも本来は一ヶ月以上はゆうに賄えるであろう食料を一週間にまで落としてしまうとは、魔人ガルティア、恐るべしである。
冗談でも何でも無く、人里にガルティアを敵の味方として送り込んで兵糧攻めにしてしまった方があっさりと攻め落とせるのではないかと思ってしまうほどだ。かつての戦乱の時代や国狩りにおいても、ガルティアの軍は人間から食料を奪っていくためかなり恐れられたそうだが、この食事量なら納得である。
アッティラの方も昨日までは同じように頭を悩ませていたが、今日は起きてから完全に気にしていないか、割り切っている様子ではある。人狩りの時もそうだが、アッティラはこういう時の機嫌がすこぶる良いのだ。
「食後の休憩も取ったな! う~む、やはりいい朝だ! 今日は少し気温も高い気もするが──」
と、少し間を置いて、アッティラは告げた。彼らの前で、
「──人間を破壊するにはいい朝だ」
「はっ! いつでもいけます!」
アッティラ軍の陣営は魔物兵20万。魔物隊長1000体に、魔物将軍が10名の10個軍。
そのうちの10万が広範囲に包囲網を形成しており、残りの6万は後方支援に回している。
まず攻め込むのは2個軍の4万だ。これだけでもおおよそ1千人と思われる戦力を潰すには十分過ぎるものである。やられることはないだろうが、アッティラは人間を完膚なきまでに滅ぼすことを至上としている。一人足りとも逃すことはせず、生き残った者は捕らえ、苦しみを味わわせた上で皆殺しにしてしまうだろう。
幾ら野良とはいえ一万人以上の人間を殺すことは、魔王の命令がある以上は良くないことではあるが、そのためにアッティラは自らの牧場で人間達に無理矢理、通常以上の交配を行わせて増やしてはいる。許可も取ってあるし、何も問題はない。全ての憂いを取り除いたアッティラは、大きく息を吸って右腕を前に振り抜いた。
「さあ──奴らの文明を破壊せよ!!」
朝露に濡れる森の中、彼らは静かに声を響かせた。
「さて、準備は整ったかな?」
「はい。全住民の避難は完了。里、及び森の中に残っているのは我々、騎士団の人員のみです」
「侵攻が予想される森の各所に隊長考案の各種トラップも設置済みです」
その隊長、ロランの声に分隊長は淀みなく答えた。魔物討伐隊として行動している時の良い緊張感を保っており、ロランはそれに頷いてひとまずは満足する。
「よし、それでいい。後は敵が攻めてくるのを待って、戦うだけだね」
「は。しかし、その……」
分隊長が不安な表情を見せたことに、やはり完全にいつも通りとはいかないか、と諦めにも似た思いを口の中だけで吐き出しつつ、ロランは代わりに別の言葉を告げる。
「……まあ、不安なのは理解するけど、今からは切り替えるようにね。何しろ、君は分隊長なんだから」
「……はい。すみません」
と、謝られ、ロランは嘆息する。やはり士気はいつもより低いな、と。
とはいえ致し方ないことでもある。幾らロランが敵の頭を取ることを目標に、森林地帯でのゲリラ戦を展開することにしたといっても、敵の戦力は二十万。ざっと、こちらの二百倍の戦力だ。
こちらの兵数と同じ数の魔物隊長がいると考えても、戦いは絶望的過ぎるだろう。
だが敵の侵攻速度やその他諸々を考えると、やはり戦えないことはない。
「とりあえずは夜まで持ちこたえてみようか。夜になればこちらが有利となる。夜襲の手筈は整っているし、それに、だ。天運はあるようだしね」
「……? 何を──あっ」
その時、頭に疑問符を浮かべていたはずの分隊長や周囲の隊員達が気づく。
自分達がいる森の中。その周囲に、徐々に霧が立ち込めはじめていることに、
「これは、霧……! 確かにこれは……」
「うん。こちらにとっては追い風だね。視界は悪くなるけど、向こうの方が敵数が多いことで同士討ちの可能性も高まるし、何より、こちらには地の利がある。訓練に幾度となく使ったこの森は、君達にとって庭のようなものだろう?」
それだけの訓練と戦闘を、君達はこなしてきたはずだとロランは言う。
微々たるものではあるが、これによって彼らの目にも一時的な希望が宿る。
それを後押しするように、ロランは全身を黒で統一した影のような装束と装備を翻し、懐から短剣を取り出しながら告げた。
「これだけ霧が深いと……僕も非常に
「っ! なるほど……」
その刃の煌めきとロランの冷たい表情に、分隊長が喉を鳴らす。
こういう強い言葉と頼もしさを見せることは、実を言うとロランの趣味という訳ではないのだが、士気を鼓舞する上では重要なことだ。
英雄のような存在が味方に一人でもいれば、大多数の者達は戦意を保つことが出来る。
もっとも、自分は英雄には程遠い存在ではあるだろうが、とロランは自嘲してみせる。
暗殺者は闇に紛れるもの。名を高める必要も、自分の手柄を誇る必要もない。本来であれば、先日行ったような一騎打ちもロランとしては避けたいところだった。
そもそも戦う必要もない。自分にとっては“闇討ち”こそが最上である。
こういった英雄のような振る舞いは、きっと“彼”のような存在にこそ似合うのだろう。
偉大な先祖のような英雄には結局成れないだろうと思いつつも、この在り方が性に合うと、自分をさらけ出せたことに彼には感謝を覚える。
その彼のためにも、
「──行くぞ。大将軍の一角、ここで討つ」
「おお……!」
ロランは自分なりのやり方で、貢献してみせようと牙を剥いた。
魔物大将軍アッティラ率いる魔軍と鋼の騎士団の戦端が開始された明朝。
同じく森の中の小高い崖の上に、二つの人影があった。
「よーし、始まった始まった。まずはこの辺りで見物するぞ、火炎書士」
「はぁー……まぁ、見るだけならいいですかね……よし! ここで見学しましょうカイゼル様! 持たされたお弁当もありますしね!」
「おう。切り替え早いなお前」
丘の上でどっしりと胡座をかいた魔人、カイゼルの横に、火炎書士もちょこんと膝を折って座る。
態々ピクニック用のシートを地面に敷きながら、持ってきていた弁当を開いて地面に置くと、カイゼルがそれを見て声を上げた。
「おお! 見ろよ火炎書士! 俺様の好物ばっかり入ってやがるぜ!? これ食って良いんだよな!? 駄目と言っても俺様は食うぜ!?」
「そういえば急だったのもあってお弁当は料理長の特製でしたね。ハウゼル様ではなく」
「ああ、ママが作ると俺の苦手なもんも入れやがるからな……苦手を克服してほしいとか言ってよぉ……」
「意外と躾に厳しいですからね、ハウゼル様は」
そうなんだよ、とカイゼルは火炎書士の言葉にうんざりしたように頷く。
ともあれ彼としても無碍には出来ないのか、そのことで怒っているような様子はなく、炎も殆ど吹き出すことはない。
彼は自分の好物ばかりが入った弁当を手に取りながら、
「ママは勉強とかの時間をサボるの絶対許さねぇからな。そういう意味では親父の方が気楽だ。親父は厳しいが、やりたいことをやればいいとは言うからな」
「レオンハルト様は好き嫌いが意外と多いそうですからね。城での食事も、自分の苦手なものは極力出さないように命令しているとか」
「何ぃ!? そうだったのか!? くそっ、親父の奴、なんてズルい真似を……! 俺様も次からそうしてやる!」
まぁ料理長がそれを聞いているかどうかは微妙なところではある、と火炎書士はその言葉を飲み込み、ついでに朝ごはんとなる弁当のおかずも咀嚼して飲み込んだ。急な出立だったというのに、カイゼルの分だけでなく、火炎書士の分まで渡してくれるのだから、料理長は良い人だと思う。人間ではないと思うけど。
同時に、横のカイゼルの弁当を見て、
「それにしても……茶色いですねぇ……」
「ああ!? 別にいいだろうが! 男なら肉食ってなんぼだろ!!」
カイゼルの好物ばかりが入った弁当というのは、やはり茶色い、と率直な感想を火炎書士が口にする。
ステーキやハンバーグ、唐揚げなど、とにかく肉類や揚げ物、脂っこいものが多いのだ。女性である火炎書士として色々と気になる弁当であるが、
……あ、よく見たらそれとなく野菜も入ってる……。
さすがは料理長と言うべきか、巧妙に野菜なども弁当に混じっている。揚げ物にしたり、付け合せで入っていたり、分量が少なめなので、分かりにくいが、一応の栄養バランスは考えられているのだろう。
この分だと、一見普通に見える他の料理にも何かしらの工夫がされているに違いない。
そして、まあ確かに、このメニューだと色々と気になるというか、ハウゼル様も献立を考えるよなぁ、と納得してしまいながら、遠くの魔物の群れを見て、
「やっぱり、勝てそうになさそうですねぇ……」
「まぁ、普通の弱っちい人間には酷だろうな。とはいえ、少しはやれる奴もいんだろ。そいつを見つけるぞ……んぐ、このハンバーグ、美味ぇな……!」
好物を食べて頬を緩めているカイゼルは、見た目としてはもう立派な大人だが、火炎書士には子供にしか見えない。普段付けているマスクも今はずらしているし、やはり似ているなぁ、と思いながら弁当を食べ進めて観戦を行うのだが、
「それにしても霧がうざってぇな!! 何なんだよこれは! 急に出てきやがって! 見えにくいだろうが!!」
「……いやまぁ……」
「はっ!? まさか、アルベルトの兄貴が来たのか!? それならしょうがねぇが……?」
「……多分ですけど、カイゼル様の所為のような気が……」
気候にはそれほど詳しくないが、本で読んだことがある。カイゼルがいることで空気を熱しているため、周囲の冷えた空気と混ざり合っておかしなことになっているのだろう。
この間も山の上で雪を溶かすほどに燃え盛っていたし、多少、気候に影響を与えても不思議ではない。
そして知らずとも人間側に味方している辺り、カイゼルの思惑通りになっている気がして火炎書士は嘆息する。
……天然なのにこの性質……やっぱりお二方の子だなぁ……。
そして主の片割れにも似ている気がしなくもない。結構馬鹿というか直情的だし。
ともあれ戦闘も始まったようで、カイゼルは霧に文句をつけながらも必死に観戦しようとしている。カイゼルが注目しているその人間側の勢力は確か、
……鋼の騎士団、でしたっけ。お手並み拝見といったところですかね。
自分的にはあまり興味はないが、カイゼルが言うので一応注目しておく。今の人間の最大戦力の戦いぶりを。
曇天の空の下。響く雷鳴の下にあるその禍々しい城は現在の世界の中心──魔王城。
だが普段のそこは静かなものだ。
人間どころか魔物ですら迂闊には近づかないため、賑やかさとは縁遠い場所である。
詰めている魔軍の兵ですら、常に緊張感を持って過ごしている場所である。
だが今その場所は、今までにないほどにざわついていた。
「お、お……おい……見ろよ、あれ……」
一体の魔物兵は震える声と身体を必死に抑えながら声を絞り出す。
遠巻きに見ているだけだというのに、その光景には恐ろしいものを感じざるを得ない。
その理由はもう一体の魔物兵が口にした。同じく震える声で、
「あ、ああ……し、四天王の方々が、揃い踏みだ……!」
そう。彼らの視線の先。魔王城の城門までの道を歩いている四つの影がある。
身長や体型、性別や元の種族など、何もかもがバラバラな彼らは、現在の世界における支配者達である魔人。
だがその魔人の中でも更に上位。他の生物を寄せ付けないどころか、同じ魔人であっても隔絶した強大な実力を持ち、その称号は、常に最強の者達が集う。
現在、GL期に於いてその席に着くのは四名。
偉大なる種族の王女。女王然とした威容を放っている白金の女竜──魔人カミーラ。
森の守護者たる夜の王。静かで悠然とした気を纏っている女公主──魔人ケッセルリンク。
かつては暴竜とも恐れられた堅牢な老躯。現魔王、ジルの信奉者──魔人ノス。
最古の魔人にして最弱だった者。強さだけを求め続ける異形の獣──魔人ケイブリス。
彼らは魔人の中でもその強さを魔王によって認められた四体の怪物──“魔人四天王”である。
「す、すげぇ……全員揃ってやがる……!?」
「世界でも滅ぼしにいくつもりかよ……!」
普段は大陸各地に与えられた己の領域にて城を持ち、大規模人間牧場の責任者としての任を与えられながら君臨している彼らが一堂に会するというのは、非常に珍しい。
戦争の多かった時代であればいざ知らず、今となっては百年に一度会えば良い方である。
現魔王であるジルは配下である魔人にそれほど興味がなく、干渉が少ないためか、招集を掛けられることもない。
そして何かがあったとしても、その強大さから動くことはない。仮に強い人間が現れたとしても、魔軍を派遣すれば大抵の問題は片がつく上、手こずるようであっても魔物大将軍か、魔人の配下である使徒。究極、魔人が出張ってしまえばどのような相手でも死ぬ。
人間が束になっても敵わない魔人を、数体同時に相手をしても勝ちかねない彼らが動く事態などない。彼らが暴れれば、その地域は滅ぶ。
まるで自然災害にでも見舞われたかのように、その地域を人の住めない土地にしてしまうことも不可能ではない。人類にとって魔人は災害に等しく、運悪く遭遇すれば過ぎ去ることを待つか、一目散にそこから逃げるしかない。四天王ともなればその力は極まっており、相手に一切の抵抗を許さないだろう。
滅多に干渉してこない魔王を除けば、彼らは大陸各地に領地を持つ王のような存在である。彼らの上位には魔人を統率する“魔人筆頭”と、魔軍全体を采配する”魔軍参謀“の二つしかなく、またそれらは誕生してから今まで同じ人物がその名を冠しているため、実質一人しかいない。
そして今日、彼らはその一人に呼ばれてやって来たのだ。
「──よく来たな」
「!」
開かれた城門の先で待っていたのは、彼らの想像通り、金髪灼眼の美丈夫。
他者を畏怖させる強大な気を纏っている最強の魔人──レオンハルト。
魔人筆頭であり魔軍参謀である彼の出迎えにより、その場には魔軍の最高幹部ともいえる者達が一堂に会する。
先程までは偶然居合わせたとはいえ、声の一つも交わすことのなかった四名は、彼に会ってようやく口を開いた。最初に声を発したのは、背後に使徒を連れた状態のプラチナドラゴンの魔人で、
「レオンハルト……四天王を全員、態々集めて何のつもりだ……?」
その表情は不機嫌そのもの。
何しろカミーラは他の四天王を嫌っている。
ケッセルリンクは気に食わないし、ノスは生意気で殺したくなる。ケイブリスは醜い。上級魔人の中でもカミーラが居合わせても不快とならないのはレオンハルトくらいのものだ。
カミーラは横目で他の四天王を軽く睨みながら言うが、それに真っ先に反応するのはやはり、彼女を軽んじてる人物だった。
「相変わらずよく噛み付いてくる……そんなにも過去の栄光に縋りたいか? カミーラよ」
「っ、ノス、貴様……! 今直ぐ死にたいか……!?」
ノスの発言にカミーラの目が見開かれ、黄金の瞳が獣の如く凶相を作る。
同じ元ドラゴンという経歴があっても、カミーラとノスの仲は最悪と言っていい。ノスはカミーラの過去を知っている上、戦闘狂という質から容易に喧嘩を売ってしまうし、カミーラもプライドは高く、そのような挑発には暴力で応える。
だがそれを見て嘆息する者がいた。
「……毎度ながら飽きないな。少しは落ち着いていられないのかね?」
半ば呆れるような雰囲気で言うのはケッセルリンク。彼女もカミーラとは相性が悪いが、ケッセルリンクの方は自制が利く。そもそも彼女の方はそこまでカミーラのことを嫌っている訳ではないため、ノスのような露骨な挑発は行わないし、喧嘩は大体カミーラの方が売るものだ。
故に彼女は見飽きた光景に、今回は関わらないようにと澄ました態度を取りつつ、さり気なく想い人との距離を詰めて隣へと行く。
その間にもう一名の魔人四天王も声を発した。
「……おいノス! てめぇ、なに、カ、カカカカミーラさんに喧嘩売ってやがる!! やるなら俺様は、カ、カカカミーラさんに加勢するぞおらあ!!」
「ケイブリス……貴様……」
カミーラのことを名前できちんと呼べずとも、強気な態度でノスに牙を剥く魔人ケイブリス。
その態度にノスが忌々しいと言わんばかりの低い声を滲ませるが、その態度こそがケイブリスの強さの証明だった。
そう、彼は今や四天王最強の呼び声も名高い強大な魔人。ノスとの実力差はまだそれほど離れていないとはいえ、ケイブリスにとって、もはやノスは格下なのだ。
とはいえ普段の彼なら、実力がまだそれほど離れてない四天王級の魔人に喧嘩を売るようなことはしないはずだが、想い人であるカミーラのことであるため、彼にしては勇気を出して怒声を放った。
だがノスが竜の瞳をケイブリスに向けると、
「お……お? 本当にやるのかてめぇ……? …………言っとくが、ここは魔王様のお城だからなぁ!? こんなとこで戦うなんざ魔人の風上にも置けねぇって分かってんだろうなぁ? だから止めたほうがいいなって俺様は思います!」
「…………」
「…………」
これには喧嘩腰であったノスやカミーラも黙り込む。
やはり強くなったとは言え、リスはリス。ケイブリスのその性格は変わっていない。
ノス相手にタイマンで優勢だったとしても、優勢程度ではケイブリスは勝負をしない。
1%でも負ける可能性があるなら尻込みするのがケイブリスだ。同じ四天王相手にタイマンをするなどありえないことである。
カミーラと一緒なら、とちょっとはやる気を見せたのだが、そのカミーラもいつの間にか戦うような雰囲気では無くなっているし、ノスの凶相を見てケイブリスも腰が引けてしまった。
だがそんなケイブリスの様子にも効果はあるもので、
「……ふん、興が削がれたわ」
ノスがその闘気を引っ込める。
ケイブリスの情けない姿を見て、久方振りの闘争に沸き立つ血も冷え込んでしまったのだ。
「お……おう。それでいいんだ。無駄に争うことなんてねぇ。……ですよね、カ、カカカミーラさん!!」
「……話しかけるな。気分が悪い」
「う……」
ノスが引っ込んだことでほっと安堵の息を吐いたケイブリスが、親しみを込めてカミーラに声を掛けるも、そっけない態度を取られてしまい、黙るしかなくなる。
どうにかして仲良くなりたいケイブリスだが、未だカミーラからは相手にされていない。贈り物をこまめに送っていたりするが、あまり効果も出ておらず、ケイブリスはやはりまだ強さが足りないのかと特訓に精を出す日々を送っている。
そんないつも通りでありながら、魔物からすればヒヤヒヤして気絶しかねないやり取りの中で、とうとうレオンハルトも口を開いた。
「……まあ、元気が有り余っているようで何よりだ。これから告げる任務を考えるとな」
「に、任務ですか? それは一体なんでしょうレオンハルト様! 僕は出来ることならやりますよ! 用事があったような気もしますけど!」
任務、という言葉に嫌な予感がしたため、予防線を張りながらも元気よく忠義を示してみせるケイブリス。異形の巨体が縮こまり、ペコペコとレオンハルトに向かって頭を下げている姿は、見ようによっては滑稽だった。
ともあれ、強い奴に逆らわないことでここまで生き残ってきたケイブリスなのだから仕方ない。
それを分かっていながらも、レオンハルトはケイブリスも含めて皆に告げた。
「……つい先日、奈落への調査に向かわせた魔物大将軍イヴァンが……任務中に、
「へ?」
「…………ほう」
ケイブリスが間の抜けた声を上げる中、ノスが興味を覗かせる声を漏らす。
ケッセルリンクは予め知っていたため、特に驚くこともなくそれを聞いており、カミーラもあまり興味がないため黙っている。
「イヴァンを殺した怪物は現在、地上へとゆっくりと向かっているらしい。……そこでお前達に任務を与える」
だが次のレオンハルトの言葉には、皆一様に驚くしかなかった。
「────
レオンハルトからの緊急クエスト、元魔王アベルの討伐。ということで、ここからはガイ編終了までほぼずっと戦闘&戦闘って感じになりそう。戦闘じゃない回も挟みたいけども、多分無理なやつ。