※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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暇だったんで、たまにはお昼投稿。
今回は三日目に至る幕間みたいな話なので少し短め。というわけで本編どうぞ


異常気象

 迷宮での滞在も二日目の午後ともなれば皆も多少は慣れる。

 基本的にやることがないので暇なのだが、思い思いのことをするなどして時間を潰していた。

 その一つが、白兎が行っているそれである。

 

「ほら、二人共! 気を緩めないでください! 少しでも気を緩めたらご飯抜きですよ!」

 

「ってことはもう駄目なんじゃ──ぐあーーーっ!?」

 

「な、なんで僕ちゃんがこんな目に──おおうっ!?」

 

 魔人の娘である白兎は、その小さな見た目に似合わず強い。

 日光を抜いて彼女がやっていることは、主にガイの友人であるクーベロの指導だ。

 ちょっと前までは藤吉郎に戦わせてアドバイスを送ったりしていたのだが、そんな時に現れたのが影の楔という魔物討伐隊の幹部、スケアクロウ。

 彼はクーベロを襲おうとしたところで白兎に捕まり、その修業の為に利用されていた。

 クーベロの相手としてスケアクロウを戦わせ、それを横で白兎がアドバイスする。それだけならまだしも、白兎も身体が鈍らないようにと、2対1で攻撃を防いでみるように言われたのだ。

 無論、手加減はしているが、それでも白兎の剣は重く、速い。彼らは並のレベルではない人間の戦士だが、それでも相対するのは厳しい。

 だが、それでこそ良い修行になるのだ。と、ふざけた理論を白兎が唱えるため、クーベロとスケアクロウは何故か死地に陥っていた。

 

「ひいいっ!? もう駄目だ……僕ちゃん、ここで死ぬ……」

 

「あ、諦めるな! こんなところで死んでたまるかよ! 俺もお前も、この戦いを生き延びるって約束しただろ!? ──10分くらい前に!」

 

「! そ、そうだ……僕ちゃんはこの戦いを生き残って、成り上がるという野望が……」

 

「ここで死んだらその野望だって叶えられねぇだろ!? 諦めんなよ! 俺達が協力すればやれる! 生き残れるんだ!」

 

 戦闘の最中、クーベロがスケアクロウを激励し、立ち上がるように手を差し伸べる。

 そこには、同じ苦難を味わった者だけで育まれた、確かな絆があった。

 

「っ……ああ、そうだな。僕ちゃん、まだ諦めねぇ! まだ死ぬと決まった訳じゃねぇ!」

 

「そうだ! 俺達は、まだ生き残れる……!」

 

 そうして2人は協力し、その窮地を脱するために力を込めた。しかし、

 

「──あ、手が滑りました」

 

「ぎゃああああああっ!?」

 

「す、スケアクローーーーウ!?」

 

 白兎が発生させた斬撃が、スケアクロウに直撃し、クーベロの叫びが迷宮内に木霊する。

 あれ死んだんじゃね? と誰もが思い、イヴなどは何とも言えない目でそれを見る。溜息付きで、

 

「何やってるんですか……もう夕飯が出来るので戻ってきてください」

 

「もうそんな時間ですか。早いですね。ほら、二人共ご飯ですよ」

 

「す、スケアクロウ……あんまり思い出もないし、特に性格とか好みとかも知らないけど、いいヤツだった……」

 

 クーベロがその場で嘆きながら、すたすたと焚き火の前に戻ろうとする。が、すぐに起き上がる影があった。

 

「か、勝手に殺すんじゃないってのよぉ!?」

 

「あれ、普通に生きてる……?」

 

「ギリギリで変わり身の術を使ったみたいですね。さすがは忍者。次はもっと速くしても大丈夫そうです」

 

「お、お願いだからほんと、それは勘弁……」

 

 白兎が忍者相手に楽しそうというか、かなりはりきっている様子だが、スケアクロウの顔は青褪めている。白兎の実力を感じ取り、なおかつ襲撃しようとした負い目があるためか、白兎相手に強く出ることも出来ず、ただただ従っていた。

 

「さすがは魔人の娘。容赦ないな。やっぱり、今のうちに殺るべきだ」

 

「それはさせませんし、しても有益にはなりませんよ。そもそも、半分は人間の血が入っていることを理解してますか?」

 

「ふん……」

 

 それを見て、焚き火近くの地面に刺さったままのカオスと、その近くに置かれた日光がちょっとしたやり取りを交わす。

 やはりカオスなどは未だに魔人側勢力とも言える白兎一行に気を許していないようで、口数も少なく、それでいてツンケンしていた。

 だが白兎に気にした様子はない。それどころか、冷静な様子で顎に手を当てて、

 

「ガイさんと斬り結ぶ分には構いませんけど、殺されるのは困ります。私、これでも最近はやることが多くて」

 

「いやいや……白兎さん。そういう問題じゃないですよ?」

 

「殺人宣言されても、特に怒るようなことはない、か。ふふ、さすがはあの魔人の娘だね」

 

 ズレている感性の白兎にイヴがいつもの様に呆れ、Cはそれに意味深な笑みを浮かべる。まだ二日目だが、何となく集団の立ち位置も確立し始めていた。

 そして何気にその会話を耳にするスケアクロウは、1人で怯えきっている。

 

「ま、魔人の娘とか……そりゃ勝てる訳ねぇ……というかよぉ、めちゃくちゃやべー情報じゃねぇか……どうすんだ……?」

 

「あ、バラしたらさすがに斬るしかないので、その辺りは気をつけてくださいね」

 

「……やっぱり僕ちゃん、生き残れないのでは?」

 

 白兎の何気ない一言に己の死期を悟り始めるスケアクロウ。ものすごい情報をゲットしたのはいいが、それを活かせる日は来そうにない。

 そもそもこの面子から逃れることすら出来そうにないのだ。

 だが一つだけ希望があるとすれば、

 

「……あれ? でもこのままついていけば、僕ちゃん、魔人の下で良い思いが出来るのでは……?」

 

「いや、それは……」

 

 イヴがそれを耳にして言い淀む。正直、今の時代の人間としては恵まれているとは思うが、それはそれとして、全くの苦労がないかと言えば、イヴとしては思うところがある。

 故に言い淀んだが、スケアクロウにはその思いは届かない。やめといた方がいいとは思うが、

 

「……ゲッヘッヘ……そうと決まれば、影の楔なんて抜けて、こっちのご機嫌を取りまくれば……」

 

「……全部聞こえてますけどね」

 

 白兎は耳がいいので、何かに気を取られている時でもなければ、幾ら小声だろうとその音を拾ってしまう。

 スケアクロウの下心を耳にした白兎だが、だからといって溜息を吐くくらいで、具体的な行動は取らない。別にこのくらい、怒ることでもないからだ。

 むしろ逞しい人間は嫌いではない。スケアクロウは少しアレな部分もあるが、それでもその生きるために何でもするという精神はこの時代では評価されるべきものだ。

 それに、全く生かす理由がないとも言い切れない。

 その師とやらの話をどこかで聞いてみたいものだった。もしかしたら、面白い縁があるのかもしれない。

 

「はい、白兎さん」

 

「イヴさん、ありがとうございます」

 

 白兎はイヴから夕食の載ったお皿を受け取ると、それはそれとして別の部分に意識を向けた。

 それは背後にある大きな扉の向こう側。そこで未だに禁呪を習得しているであろう友人の事だ。

 ……だんだんと気が……いえ、これは魔力でしょうか。それが大きくなっているような……。

 そもそもここに着いた時から思ったが、この扉の奥から感じられる魔力は、白兎ですら背筋に冷たいものが走るような何かである。

 ガイが強くなるなら、と見送ったが、心配であることには変わりないし、ガイであろうその力の塊が大きくなるにつれて、別の懸念も湧いてくる。

 ……もしかしたら、ガイさんは本当に……。

 本当にいつか、己の父を倒し、そして魔王を倒すかもしれない。

 届くはずのないそのガイの目標だが、その可能性もあるかもしれないと思わされる自分に白兎は驚き、それを振り払うように夕食を口に運び始めた。

 もし本当にそうなった時、自分はどうすればいいのか、その答えを先送りにして。

 

 

 

 

 

「ああ、くそっ、火がこっちにまで……!」

 

「おいお前達! この辺りはもうだめだ! 離れるぞ!」

 

「熱っ!? くっ、なんだってんだ、急に山火事なんて……!」

 

 人間の隠れ里を襲うアッティラ軍の魔物兵達は、包囲網を形成する北東側の部隊を中心に、次々と移動を余儀なくされていた。

 突如として発生した大規模な山火事。それによって二日目の戦線は混乱し、侵攻することは出来なかった。

 一日や二日で山火事が鎮火することはないので、それによる対策に頭を悩ませるのは、本陣にいる魔物大将軍、アッティラに他ならない。

 あいも変わらず、ガルティアが延々と食事をする司令部で、アッティラは苛ついた様子で声を上げた。

 

「くっ……大分時間を食ったし、このままでは侵攻を早める他ない……もたもたしていたら、山火事がこの一帯を覆ってしまい、侵攻はままならなくなる……」

 

「人間連中も死ぬだろうから良いんじゃないのか?」

 

「い、いえ、それは……」

 

 それでは困る、と大っぴらには言えない。

 軍勢を預かる将として、上司である魔人に、人間を苦しめたいから勝ち方を選んでいると言うのは、さすがに少し問題がある。

 確かにガルティアが言う通り、このまま放置していればどの道隠れ里を潰すことが出来なくもないだろうが、それだとアッティラが楽しめない。

 自らその苦しみ様を見て、実行するのが楽しいのだ。自然災害に知らないところで蹴散らされるなど、興醒めもいいところである。

 

「……レオンハルト様から頼まれた仕事もありますし、一応はこの足で人里に踏み込まねばなと……」

 

「ふぅん。そうか。好きにしたらいいんじゃねぇか?」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

 迷った末にあることを思い出し、アッティラはそれを言い訳に使った。

 それは1人の人間を探すこと。この里にいるらしい“ガイ”という人間のことだ。

 レオンハルトからの条件の一つとして、その人間を探し出すことが求められた。

 無論、アッティラは人里に攻め込むためなら、とその条件を呑んだし、もっと言うなら、別に達成せずとも構わないと思っている。

 たかだか人間1人、いませんでしたと報告すればいいだけの話だ。

 故にこの時まで、アッティラはその任務のことを忘れていた。全員殺せばいいと思っていたのだ。

 だがこれを言い訳にして、人里に強引に踏み込む口実にしておこうとアッティラは考えた。

 しかしとはいえだ。山火事の件が解決した訳ではない。

 防衛側に有利な事には変わりないため、こちらとしてはそろそろ本格的な攻勢に出るしかないのだ。

 故にアッティラは決める。深く、息を吐き下ろして、

 

「明日は、私も出るか……」

 

 そのことを決めた。

 本当であれば、もう少しじっくりと攻めていき、もっと人間の苦しみ様が見られる段階で前線に出ていって絶望させてみたかったのだが、この際、背に腹は代えられない。

 愉しむためにはこの段階から出て行くしかないのだ。

 故に三日目の戦闘では、己が出ることを決め、そしてそう決めたことで僅かな安堵も得る。

 一度決めてしまえばなんてことはない。山火事如きで、自分達の本気の進撃を止めることなど出来ない筈なのだから。

 

「それにしても……天気が悪いな。山火事といい……少し前までは何ともなかったというのに……」

 

 外の天気を感じ取って、アッティラは溜息をもう一度吐く。どうせなら雪ではなく、雨でも降って火を消してほしいものだった。

 

 

 

 

 

「あ、カイゼル様! 雪ですわ!」

 

「あ、ほんとですね──って、カイゼル様がいるから、ここに届く前に溶けて無くなっちゃいますね……」

 

「ああ!? 仕方ねぇだろ!! 俺様はいつだって燃えてるんだからな!」

 

 空から降り始めたその雪を見て、丘の上にいるカイゼルと火炎書士、そしてキャロルははしゃぎだす。

 季節外れ──という訳でもない。今は冬だし、山の上だ。雪が降ってもおかしくはない。

 しかしカイゼルという存在がいるために、ここ最近は熱かったり、霧を起こしたり、山火事を起こしてしまったりと、周辺地域に住む者達にかなり迷惑を掛けている気がしたのだが、ここにきての雪である。

 

「しかし、異常気象もいいところですね……」

 

「全くですわ! 誰かは知りませんけど、少しは自重してほしいですの! ええ、誰かは知りませんけど!」

 

「誰か知ってんな……?」

 

 カイゼルが疑念の目をキャロルに向けるが、キャロルは知りませんの、と口を硬く閉ざしてしまった。

 こういう場合、絶対に喋らないし、絶対に喋らないということはカイゼルの父親が関わっている可能性が高い。

 使徒は主の命令が最優先であるし、そうでなくともキャロルはレオンハルトの使徒の中でも1、2を争う忠臣である。

 聞き出すことは出来ないし、そもそもあまり興味もない。というか、

 

「ちょっとは俺様のせいもあるかもしれんか……1割くらい……」

 

「どれだけ少なく見積もっても、3割くらいはあるのでは……?」

 

 うるさい、と火炎書士を黙らせる。そんなことはない。少し燃えてるからといって差別しないでほしいものだ。原因なのは山火事と霧くらいのものだろう。

 空の黒雲が雷を鳴らしているのを鬱陶しく思いながら、自分のところには降ってこない。厳密に言えば届かない雪を見て、カイゼルは突如として気づく。

 

「! もしかすると……ルイゼルの奴のせいか!?」

 

「いやいや……ルイゼル様は冷えてますけど、別に雪を降らす能力とかありませんし……」

 

「氷くらいですわよね」

 

 火炎書士とキャロルに即座に否定されるが、それすらもカイゼルは否定する。

 

「いや、俺様がルイゼルの気配を間違えるはずがねぇ! 絶対俺様に近づいてきてやがる! くそっ、今度は俺様の邪魔をするつもりか!? くっ、なんて奴だ……」

 

「えぇ……本当ですか……? いまいち信用しきれないんですけど……」

 

「そうだとしたらどうするつもりですの?」

 

 キャロルがそれを否定はせずに、どうするつもりかを問うてくるので、カイゼルは答えた。少し迷った末に、

 

「……よし! こうなったら、俺様から介入してやるか!!」

 

「あ、ちょっと、まさか──!?」

 

 火炎書士が慌てるのを余所に、カイゼルは己の腰元にある刀に手をかける。

 それはカイゼルの得物である業物の刀だ。その名を、キャロルが説明する。

 

「炎刀“閻魔”ですわね! レオンハルト様の刀剣コレクションの一つの! ルイゼル様の氷剣“ヘカテー”と対になっているんですのよ!」

 

「誰に説明してるんですかキャロルさん……って、そうじゃなくて、まさか戦いに参加する気ですか!? さすがに駄目ですよ! それは!」

 

 火炎書士がこれまで以上に、断固としてそれをやめるように言ってくるが、カイゼルは落ち着いた様子で答えた。

 

「落ち着けよ火炎書士。それとキャロル、今はもう親父のじゃなくて俺様の剣だ。ルイゼルの剣もな」

 

 親父が趣味としてコツコツ集めていた刀剣コレクション。カイゼルとルイゼルはその中でもかなりの名刀、名剣を貰っていた。父親からのプレゼントの中では気に入っている方だが、今はそれはいい。重要なのはこれからやることだ。

 

「別に俺様がやったとバレなければ問題ねぇんだ。幸いにも、今は山火事が起きて、どいつもこいつもパニクってるからな。姿を見せさえしなければ大丈夫だろ?」

 

「それは……そうかもしれませんが、そもそも戦いに参加してどうするんです?」

 

 もっともな質問が火炎書士から飛んでくる。

 故にカイゼルは、マスクの下で口元を歪ませ、こう答えた。

 

「俺様直々に、少し試してやるだけだ。俺様の──“使徒候補”の実力をな」




次回から三日目。色んな奴らがドタバタ戦闘します。

あと、別に新作書き始めたからって心配しないでね? こっちがメインだから。息抜きで書いただけでモチベ下がってるとかもないから。
まあ興味があったら覗いてみてください。よう実知ってる人は
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