※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

338 / 411
殲滅

 衝撃に地が裂け、空を割った。

 走る極太の光、その一線は魔物から放たれる物である。

 

「どうしたゴミ人間! 逃げるだけか!?」

 

「っ……!」

 

 ロランはその声を無視して回避に専念した。

 魔物大将軍アッティラの身体の至るところにある砲塔。そこにエネルギーが溜まる攻撃の予兆を見てその射線から離れるように横っ飛び。

 数瞬後には先程までロランがいた場所、そしてその後方を光線が破壊していた。そして、

 

「くっ……里が……!」

 

 巨大な熱を持った光線は里を燃やし、爆散させる。

 受けることが不可能であるため、躱すことが必定であり、そうなると里が破壊されるのは当然の結果だ。

 無論ロランもそれを覚悟していたが、こうも簡単にポンポンと壊されれば面白くはない。

 ……参るね……! せっかく建物にもトラップを仕掛けておいたのにさ……! 

 この戦闘が始まるに当たって戦場に配置した幾つかの罠。

 それらはこの里にも仕掛けられていた。

 だがそれらもアッティラの砲撃によって建物ごと破壊される。

 アッティラの火力の前には小細工など意味を為さないと、それを見せつけられているかのようだ。

 それに火力も問題だが、問題なのは火力以外にもある。それは、

 

「──逃さんっ!」

 

「!」

 

 里の中を逃げるように移動し、遠距離攻撃と奇襲──ヒットアンドアウェイで戦闘を続けるロランに対し、アッティラは距離を詰めようと背中と足から光を発射する。

 それによって起こるのは……高速移動だ。

 

「ふん! 人間にしてはすばしっこいようだが……この私の速さにはついてこれないようだな!!」

 

「ぐっ……!」

 

 アッティラが光を移動手段に使うと、一瞬でアッティラがこちらを逃すまいと大回りに回り込んでくる。

 足と背中の砲塔で半ば浮いたように移動するアッティラの最高速度はロランを大きく上回る。

 肉薄し、拳で殴りつけようと腕を振りかぶってくるが、それをロランは勝っている小回りで何とか躱して短剣を投げる。

 

「遅い遅い遅いッ!! 蟻のような遅さだなクソ人間! そんなものがこの私に当たるとでも思っているのかああああああぁぁぁッ!!」

 

「一々うるさいね……!」

 

 大声を上げながらアッティラは光の出力を上げて短剣を回避する。

 そうしてアッティラがロランから見て右に移動したところで、ロランはまだ無事な建物に向かっても短剣を投げ入れる。

 するとその直後に爆発が起こる。

 

「むぐっ……!?」

 

「かかったね……!」

 

 爆風を受けて僅かに身じろぐアッティラを見て、ロランは即座に反転。

 両手に剣を持って機動力が僅かに落ちたアッティラと距離を詰める。

 ……狙うは奴の身体の中心にあるコアだ……! 

 魔物大将軍の本体。それは身体の中心に見える人間の顔のようなものである。

 祖先が残した情報によると、魔物大将軍がそこ以外を傷つけられても時間を掛けて徐々に再生することが出来るが、身体の真ん中にあるコアを壊すことで再生もさせずに殺すことが出来るという。

 故にロランも狙うのはそこしかない。そこを突けば倒せるのだ。

 長期戦になればこちらの不利でしかない。アッティラが暴れており、命令もあって魔物兵は手出しをしてこないが、アッティラが危なくなれば彼らも何をしてくるか分からない。

 ──だから早々にケリをつける。

 短剣を一瞬で、ぷちハニー付きのそれに入れ替えてそれを放とうとする。

 

「──アサルトモーメント」

 

「!」

 

 一瞬。

 アッティラの視界から己を見失わせることに成功する。

 その隙にロランは巨体の背後からアッティラのコアに向かって、

 

 ──獲ったッ……!! 

 

 剣を振り下ろす。

 そして、

 

「──ッ!!」

 

 己ごと、アッティラを至近距離での爆発に巻き込んだ。

 全身を叩き、包み込む熱風。

 気を失いかねないその激痛に、ロランは吹き飛ばされてもがきながらも──気絶しなかった。

 ……これしき、で……! 倒れてたまるか……っ!! 

 偉大な祖先は嘘か真か、“死”すらも乗り越えたという。

 祖先を必要以上に敬ったこともないし、なんなら疎ましく思ってはいた。

 だが己がその子孫であるなら……この程度で死ぬことなどありえない。

 死ぬのはこの魔物が死んだのを見届けてからだ。死んでないうちは死んでたまるか。

 だからロランは爆発に全身を焼かれ、吹き飛び、離れた場所に転がされながらも瞳を開いた。

 

「ッ、はぁ……うぐ……どう、だ……?」

 

 手をついてゆっくりと立ち上がろうとする。

 そして爆炎に包まれた巨体を見た。

 倒すことが出来たのか、とロランは爆炎に包まれたアッティラの影を注視し続ける。

 ──だが、

 

「……()()()()()……」

 

「……!」

 

 声が届いた。

 爆炎の中から聞き覚えのある魔物の声が。

 ロランは歯を食いしばり、戦闘を継続し、とどめを刺すべく立ち上がろうとする。

 だがその前に、

 

「……ああ……そうだ……」

 

「ぐっ……!」

 

 爆炎の中からアッティラが何かを呟く。

 ようやくロランもその全身を視認する。

 そして気づく。

 アッティラは傷つき、かなりのダメージを負ってはいるが──コアは無傷だった。

 

 

 

 

 炎の中で、アッティラは独り言を口にする。

 

「ああ……奴は……あの人間は強かったな……ふふ、ああそうだ……あれは今まで戦ってきた人間でも最強だった……こちらの攻撃を容易に躱し……ただの剣でこの身体に傷をつける。危うくコアも破壊されかけた……」

 

 だが、とアッティラは爆破の余波で出来た炎の中をゆっくりと歩いてくる。

 

「……それに比べて、これは何だ? ただの爆発……たかが爆発ではないか」

 

 ゆっくりと、アッティラはロランの方に歩いてくる。

 ロランはまだ立てない。ぷちハニーの爆発を至近距離で受けたのだ。

 死なず、気絶しないだけでも人外の所業である。

 

「これが貴様の必殺技……奥の手だと言うのか? ……だとしたら笑わせる」

 

 だが眼の前の相手は──正真正銘の人外だった。

 魔物大将軍。その中でも最強と称されるアッティラの強さは……それこそ、魔人と遜色ない。

 

「くくく……ははははは……! 私は今まで、何に怯えていたのだ……! こんなもので……! この程度の人間が……! 私を倒せる筈はないのに……!」

 

 だから人間では──勝てない。

 勝てないのが道理なのだ。

 

「っ……!」

 

 アッティラが近づいてくるのを見て、ロランは這いずりながら別の方向へと向かう。

 それがアッティラの眼に映り、

 

「……どこへ行くつもりだ?」

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 アッティラが静かな声色で問いかける。

 先程までの怒りっぷりが嘘のように思える。

 しかし嘘ではないことをロランは感じ取っていた。

 

「勝てると思ったから勝負を挑んできたのだろう? なあ? その程度の力で……ああ、そうだとも。人間如きの……ゴミクズのような力で……!」

 

 アッティラは踏み込む足に力を込め、その場を振動させる。声にも怒りの色が見て取れた。

 その怒りは彼が身に纏う魔の気配と、全身の光を色濃くする。

 ──里が振動した。

 

「周りの魔物も……他の大将軍も……魔人も……魔王様でさえも……ッ! この私が、人間に負けたと……人間に劣っているのだと……そう、こんなゴミクズのような人間に──」

 

「ッ……!」

 

 アッティラがその場から退避しようとするロランを強く睨みつける。

 視線だけで生物を殺せそうな眼差しだった。

 怒気に敵意と殺気に恨み。今だけではなく、過去から生み出された全ての負の感情を幾つも混ぜ合わせ、アッティラは全身の力を増幅させる。

 ロランの顔。それで思い出す過去の忌まわしい記憶。

 多くの魔物に陰口を叩かれ、他の魔物大将軍からは露骨に見下され、魔人からは弱い奴だと鼻白まれ、魔王様からは興味を持たれなくなった。

 その全ては、この人間の所為で、

 

「どいつもこいつも……この私がッ……! この程度の人間に恐れ、劣っているのだと抜かしやがったのかァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ……!!!」

 

「っっっ──!」

 

 アッティラの怒りが光となって爆発する。

 轟音と共に周囲に幾つもの光の熱線が発射される。

 その被害は里の至るところを撃ち抜き、爆散させ、その破片すらも全て破壊する。

 故に、背後に控えている者達も例外ではない。

 

「あ、アッティラ様! おやめくだ──がぁああああああああッ!?」

 

「ひぃぃぃっ!? 魔物隊長!?」

 

 アッティラの熱線が兵に当たることを危惧した魔物隊長が声を上げ──即座に熱線に貫かれる。

 一瞬で瀕死状態となって倒れた魔物隊長と余波を受けて怯える魔物兵らに、アッティラは強い殺気を向けた。

 

「貴様らも……貴様らもォォォォォッッ!! この私を馬鹿にしているんだなァァァァァァッ──!!」

 

「ち、違いま──ぎゃあああああああああああああっっっ!!!」

 

「や、やめてくれ──うがああああああああああああっっっ!!!」

 

「に、逃げろ……逃げないと殺される……!」

 

「こ、これが噂に聞くアッティラ様の癇癪か!?」

 

「い、いや……普段はこんな激しくねぇって──ぐぐあああああああああああああああっっっ!!!」

 

「ひ……あ……あぁ……!」

 

 次々と魔物兵が熱線の餌食になっていく。

 アッティラは大事にしている筈の部下を殺戮しながらも気にすることもなく、普段とは全く違う様子で吠えるような怒声を上げた。

 

「私は魔物大将軍最強のアッティラ様だぞッッ!! 私を馬鹿にする奴らの一体どれだけが私に勝てるッッ!? どいつもこいつも、こちらが気を使っていれば調子に乗りやがってェェェェ!! 馬鹿にする奴らは全員殺してやる……!!! 殲滅ッ! 殲滅だァァァァァァァッッ!!」

 

「っ……くっ……!?」

 

 周囲に無座別に放たれる熱線。

 そのうち1つがロランを狙ったため、ロランは転がりながらもそれを避ける。

 そしてようやく、この魔物の異名の所以を悟った。

 

「無茶苦茶な……“殲滅”とは、よく言ったものだね……くっ!」

 

 そう、これがアッティラの“殲滅“たる所以。

 彼が滅ぼすのは人類文明だけではない。

 彼が一度、その力を全力で発揮すれば──その一帯を、焦土に変えてしまう。

 そうして幾つもの国を──味方の魔物兵ごと殲滅してきたのだ。

 いつしか人間に負け、魔王にも厳命され、その在り方を見失っていたが、アッティラの全力の戦闘とはこういうものである。

 ──全方位を常に砲撃する無差別爆撃。

 全身の砲門はそのために。

 光の熱線はより遠くまで生き物を貫けるように。

 敵も味方も関係ない。

 アッティラを中心に、半径4.6キロにある物は全てアッティラの殲滅対象だ。

 その全てを破壊し尽くすまで、彼は止まらない。

 唯一、他に止める方法があるとすれば──

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!! 全てェェェェッ!! 全て殲滅だァァァァァァァッッ!!!」

 

 ──彼を倒すことだけである。

 

 

 

 

 

 空を行き交う炎を纏う黒と、冷気を纏う白は激しく喧嘩を行っていた。

 

「──オラオラオラァッ!! お前の攻撃なんて分かりきってるんだよルイゼルゥ! んなチンケな氷がこの俺様に通用するかぁ!!」

 

「──それはこっちの台詞よぉ!! あなたの単調な攻撃なんて当たる訳ないじゃなぁい!! もうちょっと繊細に能力を使いなさいなカイゼル!! ──こんな風にねぇ!!」

 

 炎を操ることが出来、出力重視で巨大な炎を飛ばしまくるカイゼルに対し、ルイゼルは氷を繊細なコントロールで操り、的確にカイゼルを四方八方から追い詰めようとする。

 それは彼女の母もやるような氷のレーザーだが、避けにくいように彼女は相手を一度だけ追いかける誘導弾としている。

 生まれつき空を飛べる両者にとって、直線的な攻撃は避けられやすいことを知っている。

 故にルイゼルは力を工夫する。氷を繊細かつ自在にコントロールすることで兄との戦闘への答えとした。

 

「ほぉら! 避けてみなさいっ!!」

 

「避けねぇよバーカ!!」

 

「!」

 

 対するカイゼルは己の炎を増幅させた。

 様々な方向から迫ってくる氷のレーザーを、自分の全身に巨大な炎を纏わせることで即席の鎧とした。

 そしてレーザーを防御したカイゼルはそのまま刀を持っていない方、左の拳を振り被り、

 

「獄炎──“インフェルノ”ッ!!」

 

「……! もー! 相変わらず無駄な火力ねぇ……!」

 

 ルイゼルはその攻撃の予兆を感じ取って、既に避ける機動を取る。

 その直後、ルイゼルの予想通りに巨大な炎が直線に走った。

 それはルイゼルを何十人も覆い隠せるような大きすぎる炎。

 これがカイゼルにとっての答え。

 火力で範囲を広げ、そのまま相手を押し潰す戦い。

 速度や技のコントロールで負けても構わない。

 相手を上回る火力で倒してしまえばいい。

 剣の腕でも勝っているのだから接近戦で戦っても構わない。

 とにかく一撃を当てて一発で伸してしまうことが、カイゼルの戦闘だった。

 

「ほんと、無駄にでかいのよねぇ! カイゼルの炎!」

 

「クハハハハ! おいおい褒めるなよ!! 好きになっても知らねぇぞ! もう好きだけどなァ!!」

 

「褒めてないんだけどぉ! むしろ今のを避けられるルイゼルちゃんマジアイドルよねぇ!!」

 

「妹系アイドルとしてなら認めてやるぜぇ!?」

 

「い・や・よ!! そんなの流行らないわ!!」

 

「そういう問題ですか……?」

 

「どっちも頑張れですのー!」

 

 彼らから下に位置する崖の上から火炎書士が呟くようにツッコミを入れる。

 呑気に両方を応援しているキャロルにはもはやツッコまず、周囲の状況や2人のことだけを注視していた。

 すると崖の上に登ってくる人影があった。それは、

 

「──はぁ……やっと追いついたわ」

 

「おや? 誰ですの?」

 

「! び、びっくりした……え、えーっと、カラー……ってあれ? おんなじような気配……って、まさか……」

 

 白いストレートの髪のカラーを見て2人が頭に疑問符を浮かべる。

 気だるげな様子のそのカラーはその言葉を聞いてある程度聞きたいことを察したようで、頷きを入れた。

 

「ええ、想像通りよ。私はミストラル。上のわがままお嬢様の使徒になった可哀想なカラー。……ということで使徒の先輩方、お手柔らかによろしくね」

 

「ああ、やっぱり……」

 

「ルイゼル様の使徒ですのね! それは是非よろしくしてあげないといけませんわ! 歓迎しますのよ!」

 

 火炎書士が後でどう説明するべきかと頭を抱え、キャロルは能天気に先輩風を吹かせている。

 そんな使徒3人の初顔合わせの場に、更に空から飛んでくる者がいた。

 

「へいへーい。そんな憂鬱そうな表情浮かべてどうしたの火炎ちゃん。もっと元気出していこーぜ!! ほら、今日もいい天気~♪」

 

「いやだってこれ……後でハウゼル様やサイゼル様に説明しないといけないよ? それを考えるとちょっとキツくて……って、ユキちゃんもいつの間に」

 

「イエース。みんなのキチガイ系アイドル、ユキちゃんですよ? ──ということで歌います! あ~♪ どいつもこいつも四日市~♪ 朝から晩までペペロンチーノ~♪ カブトムシを食せよ食せ~♪ いきなりクワガタ寝取られた! はいっ、カブトムシカブトムシ~♪ カブトムシカブトムシ~週刊少年備前長船兼光~♪ しゃっくり、へいっ!」

 

「へいっ──じゃないよ……なにその変な歌……あたまおかしくなるよ……」

 

「カラーの森からここに来るまでずーっと作曲と作詞に付き合わされた私に対する感想は?」

 

「お疲れ様です……」

 

「歌詞が深いですわね! わたくしは好きですわ! へいっ!」

 

「さすがキャロルちゃん、わかってるぅ~、へいっ!」

 

「うん……いつものユキちゃんって感じ。もうなんでもいいやってなっちゃう」

 

 ついにツッコミを放棄した火炎書士が、はぁ、と一息つく。隣ではミストラルに遅れてやってきたサイゼルの使徒、ユキがキャロルと共に続きを歌っていた。

 そして一応常識人のような気がするミストラルの方は上を見て指差し、

 

「──それで、どうするの? あれ。放置?」

 

「ルイゼル様とカイゼル様の喧嘩は……う~ん……何かきっかけがないと止まらないんですよねぇ……」

 

「クケケケケ。そうそう。他の魔人とか兄妹が現れて止めるとかねっ! へいっ!」

 

「一番手っ取り早いのは近くにいるガルティア様を呼ぶことくらいですわ」

 

 

 使徒四人がうーん、と喧嘩を止める方法について話し合うが、特に良い方法が浮かばない。

 一番良さそうなのがガルティアを呼ぶことくらいだが、それにしても時間が掛かる。

 出来れば早めに止めたいのが火炎書士の本音だった。他の使徒は割とどうにかなると思っている節があるため、そこまで焦ってる様子はない。

 そうこうしている間にも上空では喧嘩が行われており、

 

「あ、そういうことなら一応来るらしいけれど……」

 

「──え? 来るって……すみません。一体誰が……?」

 

「私の元部下で私の主のお兄さん」

 

「へ? ──あっ」

 

 火炎書士はそれを聞いて一瞬、意味がわからずに呆けてしまったが、直ぐに気づく。

 そもそもカラーの森であれば関係する人物は限られているのだ。その中で、ミストラルの主、ルイゼルの兄と言うと、

 

「──アルベルト様も来てるんですか……!」

 

 

 

 

 

「いい加減諦めるんだなルイゼル!」

 

「っ……! 諦めるわけないでしょ!」

 

 炎刀・閻魔と氷剣・ヘカテーの刃が合わさり、それぞれ熱気と冷気をぶつけ合う。

 しかし剣技に於いてはカイゼルが一枚も二枚も上手である。

 魔法であればルイゼルの方がカイゼルの何倍も優秀であるのだが、それでも今現在はカイゼルの方が有利である。

 普段であれば互角なのだが──今は環境がカイゼルの味方をしている。

 

「つってもよぉ……これだけ有利だとちょっと弱い者いじめしてるみたいで良くねぇよなぁ?」

 

「!」

 

 カイゼルが腕を上げて下から炎を吹き出させる。

 それは眼下に広がる森。今なお轟々と燃え広がり続ける山火事を利用したものだ。

 

「おらよ」

 

「んもう! 面倒なのよぉ!」

 

 ルイゼルが冷気でカイゼルが操る炎の鞭を防御しようとする。

 しかしカイゼルの火力に、周囲にある炎を合わせられたら流石に防ぐことは難しいため、防ぐのは程々に炎の鞭を飛び回ることで避ける。

 しかしこのままではジリ貧には違いない。そのためルイゼルは目を細め、僅かに圧力を強くする。

 

「……はぁ……こうなったらルイゼルちゃんも本気出すしかないかな~?」

 

「アァ!? んだとぉ……さすがにそこまで付き合ってる暇はねーぞ……」

 

 カイゼルが視線を背後。その山の谷間にある人間の集落を見ながら言う。

 そこでは──カイゼルが使徒候補として見定めた人間が魔物大将軍と戦っている筈だった。

 そしてその気配は……段々と薄まってきている。

 あまり時間はない。ルイゼルの本気を出せば、勝つにしても負けるにしても時間が掛かる。

 それをよく理解しているカイゼルは、だからこそ一度大技でルイゼルを妨害することにした。

 

「“豪炎刃”──ッ!!」

 

「行くわよぉ……イッツ・ショータイム──」

 

 カイゼルが刀を振り下ろし、炎の斬撃を飛ばす。

 そしてほぼ同時に、ルイゼルが魔法を発動した。

 手元にマイクが現われ、その準備が整う。

 そうして2人がとうとう本気でぶつかりかける──その瞬間、

 

「──2人共……そこまでだ」

 

「何ィ!? って──」

 

「何よぉ!? 邪魔しないで──って、あらぁ……」

 

 カイゼルの炎。それとルイゼルの魔法を間に入って止めた者がいた。

 それは人形でありながら、流動した身体で宙にたゆたう存在であり、彼らの父親にも似た鋭い眼光を持つ筋肉質な男カラーの姿。

 その名をカイゼルとルイゼルは呼んだ。前者は驚きの表情で、

 

「アルベルトの兄貴!?」

 

「アルベルト兄様……そういえば来てるの忘れてたわ……」

 

「……カイゼル……それにルイゼルも……テメェら……あれだけ言ったのに好き勝手しやがって……! パパやママ達になんて言うつもりだ……!?」

 

 レオンハルトの子供達。その中で長男であり、子供達最強とまで称される魔人のアルベルトが2人に向かって強烈な眼差しで凄む。

 その身体から放たれる圧力を伴った気はカイゼルとルイゼルを萎縮させるには十分なもので、

 

「ま、待ってくれアルベルトの兄貴! 俺様はただ、ルイゼルに対抗して使徒を作ろうとしてだけだ! ──うぉあ!?」

 

「な──!? ルイゼルちゃんの所為にしないでくれる!? それはほら……アイドルになるためには必要なことだったし~……なんていうか、ルイゼルちゃんから溢れ出すアイドル力がそうしろって──きゃあっ!?」

 

 宙に浮かんだまま後退っていた2人は突如としてアルベルトの腕に首元を掴まれて引っ張られる。

 それは正真正銘、アルベルトの手だ。

 ただ身体を霧状にして腕だけをそれぞれ2人の近くまで飛ばし、実体化させてそのまま引っ張っただけ。

 単にそれだけなら魔人である2人なら逃げることも容易いが、アルベルトは徒手空拳を得意とすることから、単純に腕力も相当なもので、

 

「挙句の果てにこんな場所で喧嘩なんてしやがって……! いつも他人に迷惑を掛けるなと言っているだろう! そんなにオレと喧嘩がしてぇか!?」

 

「ひ、ひぃ!? や、やめてくれ兄貴! ママとパパには謝るからよぉ!」

 

「ちょっ、やめっ……なんでルイゼルちゃんまで……! お、女の子をぶっちゃ駄目よ兄様? ほら、こんなに可愛い妹を殴る気? 殴るならそこの燃えてる馬鹿だけにして、ね?」

 

 腕に掴まれたまま、恐怖したルイゼルがお願いするようなポーズでそんなことを言う。

 するとカイゼルはギロリとルイゼルを見て、

 

「あぁ!? テメェ、幾ら何でもそれはねぇぞ! 可愛い妹だからって何でもかんでも許されると思うなよゴラァ!! 殴られるなら両方だろふざけんな!」

 

「だってアルベルト兄様の拳骨、めちゃくちゃ痛いじゃない! 嫌よ! ほら、カイゼルこそルイゼルちゃんが好きなら代わりに殴られて! 私の代わりになって2回殴られて!」

 

「殴られてたまるか! そうなったら代わりに俺様が殴ってやる!」

 

「はぁぁぁぁ!? 最低最低! 可愛い妹を殴る気なのぉ!? 変態の癖に生意気よ! ベッドの下の薄い本、氷漬けにしてハンティさんにチクるわよ!?」

 

「て、テメェ! なんて恐ろしいことを考えやがる……さすがの俺様もそれにはドン引きだぞ……! い、いやいや、それにあれは違ぇ。あれは……そうだ。シュヴァインの豚野郎とライブラの奴が俺様のベッドの下に隠しておいてくれって頼まれたんだ。ふー……ムッツリスケベな弟共を持つと苦労するぜ……」

 

「カイゼルはオープン過ぎるんだけどぉ? というか、シュヴァイン君はともかく、ライブラ君は厨二病真っ盛りだと思ったらもうそんなことに興味があるのぉ?」

 

「へっ、馬鹿めルイゼル。男の成長は早ぇんだよ。あいつはああ見えて、俺様以上の変態だ。そう……ええっと、そう、確かあいつはロリコンのホモだ。その上巨乳フェチだ。──どうだ、救えねぇだろ」

 

「絶対嘘じゃないのよ! ロリコンのホモってなんなのよ! 救えないのはカイゼルでしょうが!」

 

「……はぁ、その辺にしておけ」

 

 と、2人の言い争いを見て、怒りが少し削がれたのかアルベルトが溜息をつきながら2人を止める。

 上下関係とは不思議なもので、アルベルトがそう言うと二人共若干不満そうではあるが、言い争いを止めて大人しくなった。

 それを見計らってアルベルトは言う。眼下の燃える山。そして人里を見下ろしながら、

 

「……とりあえず、ここでは何だ。一度帰るぞ」

 

「え……いや、ちょっと俺様の使徒が──」

 

「あ、はーい。ルイゼルちゃんは用事終わったし、帰るのさんせーい」

 

「あっ、てめっ、ずるいぞ」

 

 再び言い争いをし始める2人に呆れつつアルベルトは言う。カイゼルに向かって、

 

「……お前の使徒については、また今度にすればいいだろう。オレも、作るな、とまでは言わん」

 

「……チッ、しょうがねぇな……帰るか」

 

「そうねぇ。帰るってなったらお腹空いてきちゃったわ」

 

 不服そうだがカイゼルも了承し、これでルイゼル共々連れ帰ることに成功したも同然である。

 まあ了承しなくとも、無理やり連れて帰るつもりではあったが。

 何しろだ。地上の今の状況は、

 ……少し、嫌な気配がするからな……。

 父に頼まれたこと以外にも、何やら凄まじい気配が様々な場所から感じる。

 アルベルトはそのどれもに興味はあるが……さすがに弟や妹がいる場所で戦ってみたいとまでは思わない。

 守りきれない可能性があるからな、と、

 

「……降りるぞ」

 

「へいへーい……」

 

「はーい」

 

 そうしてアルベルトは一度、崖の上の使徒達と合流することにした。




徐々にガイ編終了に向かっていきます。お次はアベル。そろそろ主人公が動きますよって。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。