魔人の血を分けた忠実なる下僕である使徒。
その使徒達が定期的で任意で集まる親睦会がレオンハルトシティのあるお店で、今日も開かれていた。そしてその主催者は当然──
「わたくしですわーー!」
扉を優雅かつ豪快に開け放ち、得意気な表情で特徴的すぎる挨拶を放ったのは魔人レオンハルトの使徒──キャロル。
魔人の使徒達の親睦会やお茶会などを定期的に開く、自称魔物界一の完璧使徒である。
「あ、やっと来た」
「もうキャロルさん遅いですよ~」
そのキャロルを室内で出迎えるユキと火炎書士。
魔人ラ・サイゼルとラ・ハウゼルの使徒をそれぞれやっている2人がお茶菓子を摘んでいた。
「あら、もう始めてますのね」
「はい。先にクッキーもお紅茶も頂いちゃってます」
「クケケ。先にロッキーとお線香も頂いちゃってます。バリバリ。お線香の香り良い匂いですわ~」
「もーまたユキちゃんってば。そんなものないでしょ。というかお線香は分かるけどロッキーってなに?」
「んー知らんけど、多分1400年後くらいには生まれてきそうじゃね?」
「なにそれ……」
「ユキさんは未来視が出来ますのね。覚えておきますわ! メモメモ……」
「真に受けてる!? もうユキちゃん!」
「ごめんて」
3人の会話に場が賑やかになる。そうしてキャロルが席についたところで、亜麻色の髪のメイドが1人、紅茶をティーカップに注いだ。その少女もまた使徒──魔人ケッセルリンクの使徒であるシャロンだった。
「うふふ、キャロルさんがいらっしゃると一気に賑やかになりますね」
「それほどでもありませんわシャロンさん。これくらいの人望、レオンハルト様の使徒であれば当然ですの!」
「ふふ、そうですね。……それで、今日は新しいレオンハルト様の使徒を紹介してくださると聞きましたが……その方はどちらに?」
「それは勿論わたくしの後ろに──」
毎回出される招待状。その文面に書かれた今回の会のお題目をシャロンが口にすれば、キャロルが胸を張って背後にいるその人物を紹介する──誰もいないその空間を誰もが見て。
「いなくね?」
「いませんね……」
「……………………」
ユキと火炎書士がツッコミを入れる。それを聞いたキャロルが背後を振り返って無言となった。そして、ややあってそれに気づくと──
「いませんわーーーー!!?」
「あ、ちょっとキャロルちゃん!」
声を上げて走り出す。その速さは火炎書士の言葉も届かない。部屋を出ていってしまった。
だがその直後に、また別の人物が部屋に入ってくる。
「……なんかキャロルが走り去っていったけど何かあった?」
「あ、ハンティさん。それが……新しい使徒の方がいないから探しにいったみたいで……」
「ああ。それなら1人は連れて来たよ」
「え?」
ハンティが親指で指し示す先、背後から入ってくるその人物に誰もが目を向けた。
それと同時に、含み笑いが聞こえてくる。
「くっくっく……とうとうこの私が公の場に姿を現す時が来たか……さあ刮目するがいい……! この偉大なる天才付与師にして魔法研究者。美少女の──」
「あ、ガウガウさん」
「ガウガウじゃん。おひさー」
「ガウガウ様、ですね」
「そう。その名はガウガウ・ケスチナ──って、気軽に挨拶するんじゃないっ! 私のせっかくの登場シーンが台無しだろっ!」
白衣を翻して現れたその新たな使徒の姿に、誰もが声を出した。
とはいえ驚きは少ない。レオンハルトの城に出入りする使徒からすれば、その少女は見覚えのありすぎる存在だったからだ。
レオンハルトの影響を強く受けたのか、目が真っ赤になり、なぜか髪の色にところどころ白いメッシュのようなものが入って艶が出た以外はその背丈も顔立ちも声もただのガウガウでしかない。格好も多少は変わっているが白衣はいつもと変わらないし、右目にモノクルを掛けてより研究者らしい格好になった以外はやはりガウガウでしかない。ガウガウがおめかしをしてきたといった印象だ。
とはいえ彼女を見たことがない者もいた。レオンハルトの城に出入りしている訳ではない。さりとて使徒同士ではそれなりに話す仲である全裸の男女が、ガウガウを見てフランクに声を入れる。
「へぇ、レオンハルトの新しい使徒か。いいじゃん。つるぺたでさ」
「ふーん。ま、よろしくねー。私はアトランタ。こっちの馬鹿はジュノー。レキシントン様の使徒よ」
「げっ……ジュノーにアトランタ。あんた達まで来てたんだ」
「そりゃ来るわよ。誘われてたんだから」
「まあ用事もあったしね」
その2人の声に真っ先に反応したのはガウガウではなくハンティだった。露骨に嫌そうな表情になるハンティにアトランタもジュノーも気にした様子もなく涼しい顔でシャロンの淹れた紅茶に舌鼓を打っている。相変わらず全裸のままで。それを見てガウガウは少し引き気味になった。
「おおう……さすがは使徒。魔物界にいて長いし、慣れたものだと思っていたがいきなり来るとびびるな……」
「全く服を着ないのはこの2人くらいだから安心していいよ」
「そりゃ俺の身体は美、そのものだからね。隠す方が失礼だろ?」
「服なんて着なくていいじゃない。こっちの方が涼しいし、あんたも脱いだら? 胸も小さいし、着ても着てなくてもあんま変わらな──」
「なんだって?」
「痛っ! いたたたたっ! ちょ、やめなさいよっ! あんたのゴリラ並の力で掴まれたら千切れっ……!」
「あれ……なんか既視感が。なんか仲良くなれそうだな……」
「ガウガウさんもよく怒られてますもんね」
ハンティをからかったアトランタの耳がハンティに掴まれて痛みに藻掻き苦しむ。その様を見てガウガウは親近感を湧かせた。さもありなんと火炎書士が納得する。
そしてまた騒がしくなったところで──部屋の扉が開いた。
「お待たせしましたわ! レオンハルト様の新しい使徒を連れて来ましてよ!」
「あれ? レオンハルト様の新しい使徒って1人だけじゃ……?」
「ふーん。よく分からないけど2人もいたんだ。それで今度の使徒は──」
と、キャロルが新しい使徒を連れて部屋に入室してくると再び視線がそちらを向く。
キャロルの背後。そこから進み出てきたのは、10本の尾を持つ狐の妖怪──JAPANの着物に半端に身を包み、胸の半分以上が露わになっている美女だった。
「わーお……」
「火炎ちゃん。驚きすぎて反応が外人みたいになってますよ?」
火炎書士が、ユキがつい冷静にツッコんでしまう程の新しいリアクションを取るのも無理はなかった。
その開けた着物の胸元から見える胸の大きさはあまりにも大きく、今にも零れ落ちそうなほどに実っていた。レオンハルトの城に出入りしていれば巨乳は数多くみるが、それでも見たことのない大きさである。
「こちらがレオンハルト様の新しい使徒の1人であるお町さんですわ! お町さん、こちらは使徒の皆さんですのよ」
「うむ……よろしく頼む」
キャロルに紹介され、ぺこりと頭を下げるお町は意外と素直だった。──その際にも胸の大事なところが見えてしまうのではないかと思う程だったが、不思議と零れ落ちることはない。ただ長く深い谷間が見えるだけだった。それを見て各々が感想を口にする。
「それにしても……大きいですね……」
「うちのへっぽこご主人様が貧乳に見えてくるくらい?」
「ふーん。こっちは巨乳好きのレオンハルトらしいわね。ねえジュノー。あんたなんか巨乳嫌いだからたまらないんじゃない? って……ジュノー?」
だがそこで、1人だけ無言となっている者にアトランタが気づいた。同じレキシントンの使徒として、しかし巨乳嫌いを知っているためからかおうとしたその相手──ジュノーが、白目を剥いている。
「なん……て……こ、と……だ……」
そうして白目を剥いたジュノーは、泡を吹きながらゆっくりと背中から倒れていった。
「ジュノーーーーーーーー!?」
「あれ? 死んでる? 心臓動いてないんだけど……」
「え、うそ!? 巨乳見ただけで!?」
「ケケケケケケケ! 名付けて密室爆乳殺人事件! 死因は……乳です! ケケケケケ!」
「ミステリーですわー!?」
「言ってる場合じゃないよ!?」
「とりあえず心臓マッサージでもしましょうか」
「シャロン……あんた呆れるくらい冷静だね……」
シャロンの提案でジュノーの蘇生が始まると、幸いにもすぐに心臓が動き出し、息を吹き返した。
「うっ……」
「目が覚めそうだな」
「ちょっとジュノー! あんた、巨乳を見たくらいで何死んでるのよ! 同じ使徒として恥ずかしいじゃない!」
「死んだ……? ……そうだ……俺は何か、とてつもなく醜いものを見た気がする……悍ましすぎる何かを……」
「……………………」
「待った、お町。今攻撃したらホントに死ぬから。雷抑えて」
「仕方ない……とりあえず治療の魔導具でも付けといてやるか……」
意識を取り戻したジュノーの言葉に、お町が静かに怒りを募らせて雷雲が溜まっていたが、ハンティが慌ててそれを止める。ガウガウも呆れながら治癒効果のある魔導具をジュノーに付けてやった。
そうしてもう少しだけ意識をはっきりさせると、ジュノーは目の前にいるハンティとガウガウを見た。
「ん……そこにいるのはハンティに……確か、ガウガウだっけ……落ち着くな……その貧乳を見てると落ち着く……なんて貧乳なんだ……貧乳すぎる……」
「──死ね!」
「──誰が貧乳だ!」
「ぐぼっ!? ~~~~~っ!!」
倒れているジュノーの頭と股間をハンティとガウガウがそれぞれ蹴り飛ばす。
そうしてしばらく痛みに悶絶したジュノーは……やがてゆっくりと動かなくなった。
「ジュノーーーーーーーー!?」
「また死んだ!? ハンティの人でなし!」
「あんたも蹴ってたでしょうが!」
「ケケケケケケケケ! 名付けて密室貧乳煽り殺人事件! 動機は……貧乳です! ケケケケケ!」
「サスペンスですわー!?」
「だから言ってる場合じゃないよ!?」
「とりあえず医者を呼びましょうか」
「お主……冷静だの」
「それほどでも」
再びジュノーを生き返らせようと奔走する使徒達。そんな中、再び扉が開いた。
「……? (この状況は一体……?)」
そーっと中を覗くようにしてやってきたのはレオンハルトの新しい3人の使徒。その最後の1人であるミシェーラ。
ある一件が発覚し、主に怒られていたため少し遅れてやってきたミシェーラは部屋の中が騒がしいことに気づくと、その様子をおそるおそる窺った。そして考える。この、何やらよく分からない状況のことを。
(これは……もしやドッキリ? ミシェーラを手荒く歓迎するためのドッキリでは?)
そして理解する。何故か全裸の男が1人死にかけている状況。こんなものは、ドッキリでしかありえないと。
(それならミシェーラが取り得る選択肢は……そのドッキリを出来るだけ面白いものとすること! 普通に引っかかる振りをするだけでは普通すぎて面白くありません! 察するにこれはあのジュノーという人が主軸のちょっとした事件の設定。それならミシェーラはより深みのある設定で登場すれば……)
と、ミシェーラは思考し、そして実行した。扉を勢いよく、蹴り破るようにして開け放つ。そして台詞を口にした。
「うっ……」
「あ……目を覚ましました」
「はぁ……ほんと、馬鹿じゃないの? こんなことで何度も死にかけて、レキシントン様が知ったら大笑いされて──」
「見つけた! ジュノー! じっちゃんの仇! 死ねーーーーーー!」
「ぐおおおおおっ!?」
「ジュノーーーーーーーー!?」
「え、だ、誰ですかーー!?」
「ミシェーラ!? あんた何してんの!?」
「止めないでくださいハンティ様! そいつはじっちゃんの仇なんです!」
「じっちゃんの仇って……あんたの爺ちゃんまだぴんぴんしてるでしょーが!」
「ケケケケケケケ! 名付けて──」
「もういいってユキちゃん!」
「ハプニングですわー!?」
「賑やかじゃの……」
「とりあえず止めましょうか」
──その後、ジュノーは誤解を解いたミシェーラの治癒魔法によって一命を取り留めた。
──そしてその日の夜。
「──と、そんな感じで親睦会は賑やかでしたわ!」
「……………………そうか」
帰ってきたキャロル達からの報告を耳にした俺は長い沈黙の後に息を吐くと右手で額を揉みほぐしながら思う。──使徒、増やさない方が良かったのか……? と。
だがすぐに内心で頭を振る。まあ悪いのは概ねジュノーだろう。それと巡り合せが悪かっただけだ。後はミシェーラもだな……。
「……ミシェーラ。深く考え実行するのは良いが、その前に確認を取れ」
「うう……ごめんなさい、レオンハルト様ぁ……」
執務室の床に正座し、首から『私は悪いことをしました』というキャロルが作って掛けていった板をぶら下げて、涙目となって謝るミシェーラに呆れを感じる。
キャロル主催の使徒同士の親睦会のこともそうだが、それよりも問題なのはついさっき判明したミシェーラのとある勘違いのことだ。
──それは少し前のこと。
『──お前達3人を、使徒にすることに決めた』
『え……?』
『……それは……』
『……ほ、本当ですか?』
俺はその判断を3人に伝えた。
使徒を誰にするかという試しも含めた結果として、全員を引き上げてやることにした。ミシェーラの問いに俺は頷く。
『落とす理由がなかったからな。資質と確かな実力があり、覚悟と信頼がある。それなら問題はない』
『あー……でも力とか落ちるんじゃ……?』
『たかが3人使徒を増やしたところでそれほど力は落ちん。10人20人と増やすなら考えなければならないだろうがな』
使徒を増やせば支配力は落ちるが、そもそも自由意志を与えてる以上それはどうでもいいことだし、使徒の力が落ちるのも使徒の実力を考えるなら問題はない。元より見どころのある者しか選んでいないのだ。むしろちょうどいいくらいだろう。それに自分自身の力に関してもだ。
『あるいは……もし使徒を増やして力が落ちたなら、その分修行をして強くなればいいだけの話だ』
そう──全く問題がない。
使徒を作ることは俺にとってはメリットしか存在しないのだ。
むしろ大勢の使徒を持ちながらこれだけの力を持つという他の魔人や魔物に対するアピールにもなる。ガイと引き分け、俺の力を疑う一部の魔人への牽制にもなるだろう。行き届く目も増える。デメリットになりえることも自力でメリットに変えてしまえばいい。
『当然お前達にも助けてもらう。俺の力は魔人の中でも飛び抜けているが、それでも個人の力で出来ることには限りがあるからな。使徒になったからには存分に働いてもらうぞ?』
『っ……! 勿論です!』
『……我は、レオンハルトと共に行けるなら何でもしよう……』
『……んー、まあ、適当に? 恩の分くらいは働いてやってもいいよ』
三者三様の答え。だが、気持ちは伝わっている。
『なら血の契約を始めるぞ──』
俺は椅子から立ち上がり、3人に近づいていく。
そうして3人は──俺の使徒になった。
姿が多少変化し、力が上昇する。それを見届けた俺は3人を見た。
『これでお前達3人は俺の使徒となった』
そう告げると、膝を突いて忠誠を誓ってくる3人が顔を上げた。
『ああ……これで我も、髪の一片から血の一滴に至るまでレオンハルトの物……』
『ああ。お前の望み通り、お前は俺の物となった』
一心に愛情を向けてくるお町に応えてやる。
『うへへへへ……これで私も永遠の命を──じゃなかった。はっ。レオンハルト様に忠誠を誓います』
『……ああ。まあ……期待している』
微塵も忠誠を感じない。ただ目的のための契約といった感じでバレバレのおべっかを使ってくるガウガウに頷く。
まあ目的は俺も理解しているし構わない。ガウガウの目的。そしてその力は俺にとっても有用なものだ。問題ない。
『レオンハルト様……感謝します! ミシェーラはこれより、レオンハルト様の剣となり、立ち塞がる一切の障害を斬り捨ててみせましょう!』
『ああ。期待している』
そして騎士のような忠誠を誓ってくるミシェーラに言葉を掛けてやる。元々忠誠心は高かったが、更にその思いは強まったようだった。どうやら喜びに満ち溢れているようで、口から言葉が次々と溢れ出る。
『ああ……このミシェーラ。今まで剣を振り、己を鍛えてきた甲斐がありました……! 試験でデートのサポートを命じられた時はどうなるかと思いましたが……ミシェーラは上手くこなしてみせましたよ……! レオンハルト様……!』
『ああ。よくやったな……………………ん?』
『え?』
その時、俺は聞き捨てならない言葉を聞いて固まる。自分が言った言葉を理解していない様子のミシェーラも同様に。
沈黙が部屋の中に降りた──そこへ、ノックの音が響く。
『失礼します。レオンハルト様、今お時間大丈夫ですか?』
『お、イヴ! 見ろ我が助手よ! この偉大なるガウガウ様は人間をやめ、永遠の命を得たぞ──っ!』
『はぁ……それはそれは。おめでとうございます。この城にいる限りは永遠の命を得たも同然だと思いますけど……』
『はーっはっはっは! これで私は無敵だー! 今ならハンティすら恐れるに足らず!』
『はぁ……そうですか。あ、ミシェーラさんにお町さんも使徒になったんですね。おめでとうございます』
『うむ……天に昇るような心地だ』
『あ、イヴちゃん』
部屋を尋ねてきたのはガウガウやハンティの助手を務め、白兎の友人でもあるイブだった。
お町と出会った時も一緒にいた友人でもあり、牧場出身という縁もあってミシェーラとも友人でもある。
そして書類仕事が苦手なガウガウやハンティに代わってそれを行う有能な秘書でもあり、意外にも俺と関わることも多いその少女の登場を誰もが歓迎した。──そこで、俺はイヴに頼み事をする。
『……ちょうどいい。イヴ、ミシェーラの心を読んでくれ』
『え? あ……はい。もしかして、ミシェーラが何かやらかしましたか?』
『な、何を言うんですかイヴちゃん! 私は何もやらかしてませんよ! この通り、きちんと試験を通過して使徒になったんです!』
『……まあ、その試験のことでな。ちょっと気になる発言があったんだ』
『はぁ……分かりました。それでは──』
──と、イヴがミシェーラへと近づき、意識を向ければその心の中は丸裸となる。
そうして判明した事実は……俺の頭を悩ませるに十分なものだった。
『ミシェーラ……』
『え? え? あ、あの、レオンハルト様……み、ミシェーラ何か悪いことを……?』
──そして俺はその勘違いを知った。
それからは一旦話を聞いて、整理するためにミシェーラを使徒同士の親睦会とやらに送り出した後、戻ってきたミシェーラに反省を促した。きちんと誤解を解いた上で。
「うう……ごめんなさいレオンハルト様……」
「…………」
そうして今に至る。
悪気はなかったのだろう。涙目になりながら謝るミシェーラを見下ろし、ため息が漏れる。
……しかしカミーラへの好意か……どうすればいいんだ?
そして俺は何度も考えたその勘違いをどう対処するかを悩む。誤解を解けば傷は浅く済みそうではあるが、それをすれば信用も下がるしせっかくカミーラを修行に連れていくのに良い口実になりそうだったのが全部台無しだ。
……そう考えれば……むしろこのままの方がいいのか?
騙すことになるという罪悪感さえ飲み込んでしまえば、この状況は酷く都合が良いものだ。どういう訳なのかカミーラの方も満更でもないらしいし、このまま勘違いを続けてもらった方が良い気もしてくる。
あるいは嘘を真実にしてしまうかだが……カミーラ、か。また何とも言えない相手ではあるな……。
俺は悩んだ末に、深いため息と共にその憂鬱な気分を飲み込む。そうしてミシェーラに告げた。
「……顔を上げろミシェーラ」
「うっ……でも……」
「いいから上げろ。そして聞け。お前は確かに独断で勝手な行動をした。だが、その行動には誤解を招くような言動をした俺にも責任がある。──よって、今回は不問とする」
「! そ、それはいけません! 騎士は信賞必罰! ミシェーラは悪いことをしたのですからきちんと裁かれないと……!」
「なら後で軽い罰を与える。だが、それは使徒や与えられた役割から解くようなことではない。お前にはこれからも俺の使徒として働いてもらう。お前の才能、そして忠義は認めているからな。反省して次に活かしてくれるならそれでいい」
「……! れ、レオンハルト様……!」
こちらを見上げて、感動したように打ち震えるミシェーラ。……どうにも先程までの印象と違い、どこかぽんこつのような、出来ない子のような印象を受けてしまうがそれも構わないだろう。才能は確かだし、バカな子ほど可愛いとも言う。思えば最初の頃のキャロルにも苦労したな……。
「……わかりました! このミシェーラ! 今回の一件を深く反省して受け止め、次に活かします!」
「ああ。そうしてくれ。期待している」
「はいっ!」
そうして元気のいい返事を聞いて頷く。まるで犬のような奴だ。許されたと分かった瞬間、満開の花のような笑顔を浮かべていた。
ともあれこれでミシェーラの件は解決でいいだろう。カミーラのことは自分でどうにかするか……後、ミシェーラが今後勘違いであったことを口にする可能性を考えて後でそれとなく嘘じゃないことを吹き込んでおこう。この場で言うのは問題があるので言わないが。ミシェーラは嘘がつけない性格のようなのでそれを理解した上での運用が必要そうだ。
そして、他の使徒については──
「それにしても……人間の使徒は見た目がほぼ変わらないと思っていたが私はまあまあ変わったな。別に私にこういう趣向やイメージは持ち合わせていないし、これはレオンハルトの影響か? ──なあレオンハルト。お前、実は真の姿が白髪だったりしないか? もしくは白髪赤目フェチか? 服装もちょっとだけ可愛くなってるし、変態なのか?」
「…………」
遠慮のない言葉をぶつけてくるガウガウに、俺は何とも言えなくなる。肯定も否定もしづらい。
俺はそれを聞かなかったことにする──が、すると今度は横からもう1人が抱きついてきた。
「……お町。どうかしたか?」
「どうということもない……ただこうしたくなっただけだ……」
「…………」
今まで通りの9本の尾に、1本の白い尾が増えて十尾となったお町がぎゅうぎゅうと抱きついてくる。……そして、地味に胸がちょっと大きくなっていて少し困る。そういう気分は完全にコントロール出来るため発情する事こそないが、気持ちいいことは否定出来ない。
「はーはっはっはっ! おいメイド達! レオンハルト様の使徒であるガウガウ様の命令だ! 料理と酒をたらふく持って来い! これからは誰の言うことも聞かずに好きなものを食べるぞ! サボりも文句は言わせないからな! それと、今後私を呼ぶ時は──偉大なるガウガウ様、と呼ぶよーに! なーっはっはっは!」
「…………」
そして視界の中でソファーに腰掛け、いつの間にか呼び出したメイドに大仰に振る舞って調子に乗りまくっているガウガウを見てまたしても何とも言えない気分になる。こいつは……なんというか自由すぎるな。そして呆れるほどに小物だ。……いや、逆に大物だな。俺の目の前でこの振る舞いが出来る辺り、呆れを通りこして感心してしまう。
だがこのまま調子に乗ってもらっても困るので、今すぐハンティ辺りを呼んでお灸をすえてもらうか……などと考えていると先に動いた者がいた。
「はいはい。言うこと聞かなくていいですからね。先生も調子に乗らないでください」
「なっ……!? おい何をするんだ助手! ガウガウ様の命令だぞ! 私イズ使徒! 魔物界で上下の関係は絶対だろーっ! お前も私の言うことを聞くんだ!」
「いつもハンティ先生に逆らってた人の言うこととは思えませんね……そんなこと言うなら、ハンティ先生に隠してるガウガウ先生の秘密、暴露しちゃいますよ?」
「うぐっ!? そ、それは……だ、駄目だ! それが知れたらハンティはきっと火を吹くように怒るぞ……! 竜のように……いや、ゴリラのように……!」
「なら少しは抑えてください。何も喜ぶなとは言いませんから」
「うっ……くっ、し、仕方ない……この場では抑えてやろう……」
「はい。ありがとうございます」
ガウガウの助手の立場でありながら、ガウガウを見事諌めてしまうイヴ。慣れているのだろう。淡々とガウガウを制すると──今度はこちらにも向き直った。
「それとお町さんも。そうやって所構わず抱きついていたらレオンハルト様も仕事になりません。むしろ困らせてしまいますよ?」
「む、むぅ……しかし……」
「これから幾らでも時間はあるんですし、色々と働いてくれた方がレオンハルト様も喜ぶと思いますよ。そうですよね? レオンハルト様?」
「ん……ああ、そうだな」
「むう……」
「ほらほら。お町さん、今度料理でも覚えたいって言ってたじゃないですか。後で付き合ってあげますから行きましょう」
「……分かった。なら後で……付き合ってもらうぞ?」
「はい。約束です」
そして今度は俺に抱きついて離れないお町を、俺から引き剥がすことに成功する。お町とも友人ということもあってこちらも慣れているようだった。──そして更に、お町を引き剥がした後はそれをじっと見ていたミシェーラをじっと見返して……。
「…………ミシェーラさんも、変なことしちゃ駄目ですよ? 後、その考えは間違いですのでぜっっったいに実行しないでください」
「な……また心を読みました!?」
「読みたくなくても読めちゃうんですよ……ミシェーラさん、思念がちょっと強すぎて漏れ聞こえてくるんです」
「……ならそれは仕方ないとして、ミシェーラの考えが間違ってるとイヴちゃんは言うんですか?」
「はい。思いっきり間違ってます」
「な、何を根拠に」
「後で教えますから今は何もしないでください。そうしないと白兎さんに言いつけますよ? 今後ミシェーラさんからの挑戦は一切受け付けないようにって」
「──それは駄目です! ミシェーラは絶対に白兎さんに勝つ予定ですから!」
「なら今は言うこと聞いてください。聞いてくれたら今度勝負の場をセッティングしてあげますから」
「……それなら仕方ないですね。仕方ないので言うことを聞いてあげます」
「はい。そうしてください。……あ、それとレオンハルト様。こちら今期の研究で使った費用の報告書。それと有用だと判断した研究の報告書です」
「……ああ、分かった。後で目を通しておこう」
「お願いします。……さて、次は白兎さんのところに行って……」
ミシェーラにも言うことを聞かせ、ついでに持ってきたのだろう書類をこちらに提出し、次の予定を小声で呟くイヴ。
それを見て、思う。もしかして、こいつが1番有能なんじゃないかと。
そして思った時にはつい言葉にしていた。
「……………………イヴ」
「……はい? 何でしょうかレオンハルト様」
「──お前、俺の使徒にならないか?」
「…………え」
イヴが言葉に詰まる中、俺は思った──イヴが1番有能で、俺が求めている人材なのではないかと……。
その後しばらくイヴを使徒にしようと説得を重ねたが、結局色々な理由で断られたので諦めることにした。
だが今後使徒をまた作りたくなった時はイヴを第一候補にしておこうと心に決める。あるいは、他の誰かの使徒に推薦するのも悪くないかもしれない──そんなことを思った一日だった。
──この日、レオンハルトの使徒が3人増え7人となった。
使徒、増えました。これで7人なので予定より増えてしまいましたが新キャラは1人だけなので賑やかさはあまり変わらないかなって。登場回数が増えるだけなので。今後は増えるとしても残り1人です。原作での最大人数である8人以上にはなんとなくしたくないので。でも今のところ増える予定はないです。使徒達のプロフィールはまたそのうち。
次回は性技指導その2です。お楽しみに。
良ければ感想よろしくねー。