──魔人レオンハルトの居城である紅魔城の夜。
その寝室では、今日も戦いが繰り広げられていた。
「やっ♡ あっ、あっ……♡ レオンハルト、様ぁ……♡」
巨大かつ豪奢なベッドの上。魔人レオンハルトの下で、女が喘いでいた。
桃色の髪に華奢で可愛らしい身体のその美少女の名はミシェーラ・姫原。
先日、己の使徒になったばかりのミシェーラをレオンハルトは見下ろしていた。己の魔剣を突き立てて振るう。自分の身体の下で、腕の中で、少女が甘く切ない声を漏らしながら可愛らしい姿を見せているところに嗜虐心と官能を刺激され、確かに興奮しながらも同時にそれを冷静に見ていた。
……そろそろか。
レオンハルトはミシェーラの身体をその手で撫でながらそう思う。白くてすべすべの肌。小ぶりな胸と細い腰回り。小ぶりだがしっかりとした柔らかさを持つ臀部を撫で、太腿もなぞっていく。
そうして触れる度に、身体をビクッと跳ねさせているミシェーラと己の身体の差を比べると、ミシェーラはやはり小さい。だがその小柄な身体で、懸命に己の魔剣を受け止めている。そのいじらしさを可愛く感じる。
結果、魔剣は主の興奮と鞘から齎される快感によってよりやる気を見せる。今なら動かしても痛いどころか、ただ気持ちいいだけだろう。そう判断したところで、レオンハルトは激しく魔剣を突き動かした。
「はっ、あああ゛♡ あああああぁぁ……♡ レオンハルト、さま、レオンハルトさま……♡」
瞬間、何度も達したかのようにミシェーラが震える。
「気持ちいいか? ミシェーラ」
「はぁ……ああ、は、はいぃ……♡ こんな、ミシェーラ、初めてなのにぃ……♡ ああぁ……♡」
目がとろんと蕩け、背中を何度も弓なりに逸らしているミシェーラは、生まれてきて初めて感じる快感に夢中になる。
だがそれはミシェーラが特別素質があるからではない。媚薬を使った訳でもなければ、調教をした結果という訳でもない。
「大丈夫だ」
「あっ♡ ああ……♡」
安心させるように言葉を送る。それと共に、レオンハルトはミシェーラの身体を正面から抱きしめた。
己の鍛え上げた男の身体と、ミシェーラの華奢な女の子らしい身体が密着する。腕の中に、身体の下にすっぽりと覆い隠すように抱きしめて互いの肌の感触と体温を感じさせると、ミシェーラが更に嬉しそうに身震いした。
「れ、レオンハルトさまぁ……♡」
ミシェーラの手が背中に回される。
そして自ら快感を求めて腰を揺らしていた。懸命に、すり寄るようにして。
「んんっ♡」
顔を寄せ、ミシェーラの唇に己の唇を合わせる。
始めは軽くソフトに。徐々に啄むようにして。求めてきた小さな舌と口内の感触を己の舌で蹂躙してやれば、ミシェーラが鞘をきゅうきゅうと締めてくる。
「いくぞ」
「あっ──あっ♡ あっ♡ あっ♡ ああっ♡ あああああ゛あ……♡」
それを合図にまた魔剣を振るいまくる。
もはや何をしても快感に繋がるほどに蕩けさせたミシェーラの身体と心に、的確に求めている動きと言葉をくれてやる。
「好きだぞ。ミシェーラ」
「っ、はっ♡ はいぃ……♡ み、ミシェーラも……大好きです……♡ っ、うあぁ……♡」
耳元で好意を囁き、敢えて強引に魔剣を押し込めばミシェーラは更に悦んだ。
その心理。そして身体の反応をレオンハルトは手に取るように理解している。
ミシェーラは今、幸せの絶頂にいる。
それは好意を寄せる相手と初めて夜を共にしているから──というだけではない。
勿論それもあるが、これだけ蕩けているのはレオンハルトが己の持つテクニックを存分に発揮した結果だ。
1年で女と身体を重ねない日は殆ど存在せず、1日に何度も行うことも珍しくない。そんな日々を千年以上行ってきたレオンハルトは百戦錬磨。膨大な経験を持つ。元から上手であった行為も、より洗練されていた。
故に初めての相手であっても──いや、初めての相手だからこそ手抜きはしない。
相手がそういう気分になれる日に。そういう気分ではない日を避け、夜は2人きりで誘い、会話をするところから始めムードを作った。その上で念入りに前戯や愛撫を行った後に始める。
そこからも幾つものテクニックを織り交ぜ、相手の弱点を責め続け──そうすることで初めての対戦であっても相手をここまで幸せにすることが出来るのだ。
無論、それはまだ本気ではない。全力ではない。全力でやってしまえば相手が壊れてしまう。魔人が全力でその衝動をぶつけるには相手側に慣れが必要なのだ。そこを慮っており、それも含めて本気で相手を幸せにしている。
だがそれでも──そこらの人間が与えられる快感の量は軽く超えている。
「あぁ……ぁ……っ……♡ れ、おん……っ……ぁ……はる、と……しゃまぁ……♡」
よってカーテンの隙間から光が差し込む頃には……瞳に焦点が合っていない、性感に蕩けきって気を失わせるミシェーラの姿があった。
眠っていても快感の残り香で時折身体をびくっと跳ねさせる。それほどに愛され、意識のない状態でさえ幸せの最中にいるミシェーラを横で見下ろし、時折その髪や頭を撫でてやりながらレオンハルトは息を入れた。
(……今日も良かったな)
素直にそう思う。自分に好意を寄せる相手との行為はレオンハルトにとって確かに満たされるものだ。
もっとも、性欲という意味では完全に満足しているかといえば嘘になるが、そこは加減する必要があるから仕方ない。魔人であり3桁を優に超えるハーレムの主であるレオンハルトの魔剣は、ほんの数回程度じゃ萎えることはないのだ。
だが問題はない。衝動はコントロール出来るし、いつでも解消出来る。仕事を終えた後にでもまた楽しめばいい。それを思えば、仕事にも精が出るが──
「憂鬱だな……」
──そこでふと、そんな呟きが口から漏れてしまう。
あまりない事だった。魔人となって2000年以上。ずっとその職務を遂行してきたが、その役目をやりたくない。行きたくないと思うのは本当に珍しい。
叶うならばこのまま城に籠もってゆっくりと読書でもして過ごしたい。あるいは女と過ごすか、子供と過ごすか。ただ惰眠を貪るでもいい──そんな怠惰な人間のようなことを考えてしまう。
だがそうはいかないからままならないものだ。魔人という何にも憚ることのない大陸の絶対強者であっても……魔王の命令だけには逆らえない。
「──ご主人様」
「……ああ」
だから俺はベッドから身を起こした。仕事の準備を行うために、ノックして入室してきたメイド長さんの呼び掛けに答える。
「……まさかもう時間か?」
「いえ。ですが予定より早くに到着しそうなのでご報告に参りました」
「そうか」
ため息が漏れそうになるのを堪えて立ち上がる。
ミシェーラには悪いが、起きるまで待ってはやれないらしい。俺は寝室の隣に備わってる浴室へと向かいながらこれから来る指導の相手──魔人ガイのことを思った。
「お前は下手だな……」
ガイが魔人になってしばらく。
ある日、魔王ジルから静かに言われたのはそんな言葉だった。
寝所を共にし、「好きにやってみろ」とやり方を任されて望み通り好きにやった後、一息ついたところでのその言葉に、ガイは少なからずショックを受けた。
ガイはセックスが好きだ。女が好きだ。魔王相手というのは思うところはあるが、それは変わらない。どうせしなければならないなら開き直って快感に流されてしまったほうがいい。いつまでもぐずぐずとしているもう1人の人格とは違うと、魔人としての生を受け入れてジルというとんでもない極上の美女とのセックスにも意気揚々と臨んでいた。
──が、そこで突きつけられた「下手くそ」という言葉はガイの男としての尊厳を傷つけるのに十分なものだった。
これがそこらの女相手であれば分からせてやるところだが、相手は魔王。そんなことは出来ないと本能から従ってしまう。怒りを覚えてもそれを魔王相手に発散は出来ない。嫌でも頷かざるを得ない。
「レオンハルトにでも習ってみるんだな……」
そして更には別の男の名前を出され、その男に上手なやり方を学ぶようにまで言われてしまう始末だ。しかも相手はあの魔人レオンハルト。魔人になる前に戦って追い詰められた化け物で、女魔人を襲うのも邪魔してきたいけ好かない奴。そんな相手に、セックスを習えとジルは言う。
はっきり言って嫌過ぎる命令だが、従う他ない。魔王からの命令は絶対だ。それは理解していた。命令されて数日後にはレオンハルトにも通達され、その数日後にはもう予定が組まれていてこの日に街まで来いと命令までされてしまった。
正直それも無視したかったが、やはりジルの命令には逆らえないと結局行く羽目になる――が、何も自分である必要はないと、ガイはもう1人のガイに主導権を渡した。逆らえない命令への、せめてもの抵抗として。
(だからお前がやれ。俺は嫌だ)
(勝手なことを……)
そして──もう1人のガイは主導権を渡されて荒野を歩いていた。
ジルとの行為の際は毎回人格を代えていた。エロいのが好きな方の人格がやればいいと違いの利害も一致していたのもあって。
とはいえ性技の指導などこちらのガイも御免被るものだが──
「……どうでもよい、か」
だが、そう。今のガイにはどうでもよかった。
魔人になってしまった以上、やるべきことを見失った今のガイにはもう何もかもがどうでもいい。だからこそ、何もかもを受け身で考えていた。
もう1人のガイがやれと言うなら、魔王がそうしろと言うならばやる他ない。逆らったところで無意味だからと自分を納得させていた。
『……なあガイ』
「……なんだ?」
『…………いや、やっぱいい』
「…………そうか」
そして己の帯剣として未だ居続ける魔剣カオスもまた、大人しくしている。
今のように何かを口にしようとして──やめる。何かを言いかけて口にしない。そんなことを時折行うが、未だその先を聞けたことはない。
おそらくカオスもまた己のような諦観を抱いているのだろうとガイは推測していた。それを口にしたところでどうにもならないだろうと分かっている。だからこそ、無意味だとしてその先を口にはしない。
結果としてガイもカオスも、魔人としての生を漫然と送っていた。この生がこの先、永久に繰り返されるのだと思うと気が滅入るが、それもまた慣れていくのだろう。
あるいは楽しめるようにもなるのかもしれない。そんなことを思い、それを嫌だと思う自分とそれでもいいと思う自分もいてガイは少しの間自分の思考に悩む。
だが数秒後にはそれも考えても仕方がないと思考を放棄した。そしてやるべきことを機械的にこなすため身体を動かす。魔人になってからのこちらのガイの動きは概ねこれの繰り返しだった。
『おい、ガイ。見えてきたぞ』
「……あれか」
そして足を動かして歩き続けることしばらく──カオスの声に視線を前に向ける。
それまで下を向いていたことには気づかなかったが、それもどうでもよいことだ。ガイはカオスの声を受けて見えてきた巨大な街に目を細くした。
「レオンハルトの住まう城のある……街か」
『ああ。相変わらずデカい街だな』
「……来たことがあるのか?」
『ん……まあ、な。あんまり思い出したくないが』
カオスの何気ない言葉に質問するが、その微妙な返事にガイはそれ以上を聞くことはしない。もしかしたらその時もレオンハルトに敗北したのかもしれないなとそんなことを思いながらも見えてきた街に近づいていくと──
「──お待ちしておりました。魔人ガイ様」
「!」
街から少し離れた場所で待ち構えていたその赤い軍服姿の顎髭を蓄えたダンディな中年男性──右目に眼帯を付けた魔族と思われる気配の人物の出迎えに、ガイは立ち止まった。こちらに向かって腰を折る相手にガイは問いかける。
「……お前は?」
「はっ。魔人レオンハルト様の使徒、リーと申します。本日はガイ様がお越しになると聞いて僭越ながら出迎えと案内の命を受けた次第で」
「……使徒、か」
魔人の使徒。知識としては知っているその存在の出迎えに、ガイは何となくその言葉を呟く。
魔人が他の生物と血の契約を行うことで作ることの出来る使徒という存在もまた、人間からすれば脅威であり害悪な存在だ。魔人の忠実なる下僕であり、魔人には劣るものの人間を優に超える強さを持つ使徒にもまた人間は苦しめられている。見た目の上では人間に近いのもたちが悪いかもしれない。そんなことを思いながらも、実直な様子のリーという使徒の案内にガイは普通に応じることにする。
「……ならすぐに案内してくれ」
「はい。勿論です」
ついて来てくださいと言うリーの後ろに言われた通りについて行く。
そうして街の中に入ったのだが……そこで見た光景に、ガイは純粋に驚いた。
「……! これが……魔物の街なのか……?」
行き交う魔物の多さ。舗装された歩きやすい道。建ち並ぶお店の数々。そこから漂ってくる食欲を唆る香り。整った景観の良さ。
それはあらゆる部分で、人間の住む街とは隔絶した場所だった。こんなのが、野蛮で残酷な魔物の街なのかとガイは衝撃を受ける。
だがその勘違いはすぐに訂正された。
「いえ。魔物の街はここ以外にも幾つか存在しますが、この街程発展した街は他に存在しません。ここだけのものです」
「……そう、なのか」
「はい。この街はレオンハルト様の軍に所属する将兵のみが住むことの許された街。数十万の魔物がこの街で生活を営んでいます」
前を行くリーからの説明にガイは他の街もこうでないことにホッとし、同時に唯一とはいえ魔物がこれほどの文明を築き、人間より遥かに良い生活を送っていることに何とも言い難い気分に襲われた。
人間にも隠れ里というものがあるが、この街に比べれば隠れ里など精々村といったところだ。あるいは巣穴と揶揄されても否定はしきれない。それほどに差を感じた。
そして、その街の支配者があの魔人レオンハルトであり彼が住まう城もまたこの街の中心に存在する。ガイはそれを目にした。
「……あれがレオンハルトの城か」
「はい。紅魔城と言います」
「……あそこに向かうのか?」
「いえ。レオンハルト様は別の場所でお待ちです」
そして、てっきり城へと向かうと思っていたガイの予想は外れる。どうやら別の場所に向かうらしい。
(まさかそういうお店でもあるのか?)
心の中でもう1人のガイがそう口にするが、表のガイもまた同じ気持ちだった。指導をすると聞いてどういう風にするのかと思ったが、もしかしたら魔物でも抱かされるのかもしれないとガイは覚悟する。女の子モンスター……見目が良いものであればいいが、と男として普通の思いを懐きながらリーの後に続いた。
「……おい。あれってリー様と……もしかして……」
「バカ、見るなよ……プライベートなんだろ……」
「…………」
道行く魔物兵からの視線に居心地が悪くなりながらもしばらく歩いて行く。すると──また違った雰囲気の通りに辿り着いた。
「……ここは……」
「娼館街です。主に女の子モンスターが営む娼館。人間を雇っている高級娼館などが軒を並べています」
「……やはり、そういうことか……」
女の子のシルエットが彩られた看板や客引きと思われる女の子モンスターや魔物兵がいるその通りを見渡し、ガイは己の予想が当たったことに軽く息を吐く。やはり気分が乗らない。人間とするのも女の子モンスターとするのもどっちも嫌だった。
「ではこの中へどうぞ。レオンハルト様がVIPルームにてお待ちです」
「……ああ」
しかしガイは付いていくしかない。レオンハルトが待っているという最高級のお店──その一際大きな建物に足を踏み入れ、その中のVIPルームとやらにガイは入室する。
「……来たか。少し早かったな」
「…………ああ」
そして中に入れば──そこには目的の相手。魔人レオンハルトがそこにいた。
高級そうな赤いソファーに腰掛け、こちらに視線を送ったレオンハルトは、ガイに座るように視線だけで促す。心の中でもう1人のガイが文句を言っていたが、それを無視してガイは従った。その正面に座ったところで、レオンハルトは口を開く。彼もまた、息を入れて。
「……久し振りだな。どうだ? 魔人としての生活には慣れたか?」
「……さあ、な……」
「……そうか。どうやらまだ慣れてはいないようだな。が、それも仕方ない」
軽いやり取り。前置きでそんなことを問いかけてくるレオンハルトに曖昧に返せばその鋭い視線が意味深にこちらを射抜いてくる。何か思うところはあるのだろうが、それを慮ってやる必要はないとガイは無愛想を貫いた。必要以上に仲良くする必要はないと、あえてこちらから話を進める。
「……ここに来たのは、魔王の、ジル様の命令だからだ。その役目をこなしに来た」
「ああ、そうだな。甚だ遺憾ではあるものの、魔王様の命令は絶対。否応はなく、その命令は遂行するしかない。たとえ、目の前の男のセックスを上達させろという命令であってもな」
レオンハルトがそう言って鼻を鳴らす。
当然と言えば当然だが、レオンハルトもまたこの命令には不満を持っているようだった。ガイもその点に関しては気持ちが分かるし同意する。なんでこんなことをしなければならないのか──思いとしてはそれに尽きる。
「……遂行出来るのか?」
「それはお前次第だな。幾ら俺の教えが的確でも生徒の覚えが悪ければどうしようもないかもしれない」
「……教える側の能力が劣っている、という可能性もあるとは思うが……」
「それはない。俺は以前にも同じ命令を言い渡されてそれを遂行している」
「…………そうなのか」
それはまた何とも言えない情報を聞かされてしまった、とガイはげんなりする。もしかしたら魔王城で一言だけ挨拶してきたあの金髪の、アイゼルとかいう魔人のことかもしれない。互いに名乗って挨拶をし、こちらが魔王に呼び出されるとさっさと退散したら「……ジル様に気に入られているようで」と去り際にそんなことを言われた。羨ましい、というよりは若干哀れんでいるのを感じたので、もしかしたら同じことをしたことがあるのかもしれない。
「……ならさっさと始めてくれ。私は……どうすればいいんだ?」
「ああ。とりあえず女を呼んである。ここの娼婦だ」
「娼婦……それは……女の子モンスターか?」
「いや、人間だ。ここの娼婦は全員が人間。それも性技に長けたエキスパートが揃っているのが売りでな。魔物将軍や俺の配下である人間の下級使徒など一定の地位を持つ者しか入ることは出来ない。それだけに、女も極上の者が揃っている」
「……そうなのか」
「ああ。感謝しろ。お前のために今日は貸し切りにしてやったんだ」
と、言われても困る。女の子モンスターでなくて良かったという思いと、人間を抱くのかという思いの2つがあってやはり微妙な気分だった。
しかもそれを目の前の男に見られながら行うと思うと憂鬱でしょうがない。今すぐ帰りたくなるし、死にたくなる。
『……けっ。相変わらず人間を働かせておるのか』
「待遇は良くしてるつもりだ。特に優秀な人間にはな。……さて、そろそろ女が来る筈だが……少し遅いな。リー、確認して来い」
「はっ」
カオスの毒づく言葉にもレオンハルトは淀みなく返す。
そんな中で、娼婦の女性が来ないことが気になり、レオンハルトは使徒に確認に行かせる。何をするにしても女がいないことには始まらない。
それからしばらく待ち続ける。……何となく気まずい。性行為の前の待合というのも相まって居心地が悪かった。
だが始まってもそれは変わらないだろう。ならば今のうちに覚悟を決めておこうとそう思っていると──部屋の扉が突然開け放たれ、1人の少女が飛び込んできた。
「──おっまたせー! 性魔館のNo.1嬢のアプリちゃんでーすっ! よろしくねー!」
「……………………」
「……………………」
──と……そうして部屋に入ってきたのは、天真爛漫で、どこか娼館には似つかわしくない筈の華奢な美少女だった。
(ほぉ……ちょっと小さいが中々の可愛い子ちゃんだな。これなら代わってやっても……ぐふふ)
内心のガイの声に苛つきながらも半ば同意する。その少女の容姿は、確かに少し幼く見えた。身長は140センチ台で胸も小さい。白みがかった金髪のナチュラルなショートカットが可愛らしく、ハート型の髪飾りも少し幼く見える。服装は不思議なデザインのパーカーにニーソックス。パーカーの上の部分から少し胸元がチラ見えしている。もしかしたらパーカーの下には何も着ていないのかもしれない。
総じて幼く見えるが、それでも不思議とこの場に似合っていると思ってしまうのは彼女の醸し出す不思議な色気のせいだった。体つきもあどけない顔立ちも振る舞いもこの性的な空間には似つかわしくない筈なのに、どこか慣れているようにも感じられる。No.1だと言っていたが、やはりテクニックは凄まじいのかもしれない。あるいは人間ではないのかとも思う。彼女の醸し出す妖しい色気は魔の者に近いものを感じられた。
そしてその少女はこちらが無言でいると首を傾げる。頭に疑問符を浮かべるように。
「……? レオンハルト様ー? どうしたのー?」
「……………………」
「……? おい、レオンハルト……」
そして声を掛けたそのアプリという少女を見て、なぜかレオンハルトが無言となった。それも長いこと。その振る舞いに驚いたものの、すぐに気を取り直したこちらと違って、レオンハルトはアプリを見て真顔になっていた。まるで突然の不意打ちに思考がフリーズし、それを何とか処理でもするかのように。数秒間、無言となったレオンハルトは、それからようやく言葉を発した。落ち着くように努めた声色で。
「…………ああ……なんで、お前がここに……?」
「んーっと、今日は女の子とエッチしたかったから遊びに来ててねー。それでお店の女の子全員気絶しちゃったから責任取って代わりにやって来ました!」
「…………リー。説明しろ」
「は、はい。それがその通りでして……確認のため待機室へ向かったところ、全員が失神しておりました……そこにアプリさ──アプリ嬢がおりまして、事情を説明したところ自分が代わりにすると……」
「接待してるっていうからそれなら責任を取ろうと思ってきたアプリちゃんでーす! よっろしくー!」
難しい顔をするレオンハルトとは対照的に、アプリという少女は元気いっぱいに笑顔を振りまいてくる。……よく分からないが、どうやら知り合いのようだ。何か問題があるのだろうかと思い、ガイは尋ねる。
「……何か問題があるのか?」
「んー? NG無しだよ? 即尺ぶっかけごっくんも全部ありだし、道具も使用オッケー! コスプレもシチュエーションプレイも対応してるしー。お尻も大丈夫だしー。──あ、でも過度に暴力的なのはNGかな。軽い首絞めくらいなら別にいいよ!」
「そ、そうか……」
どうやら相当慣れているらしい。少し引き気味になりながらも、喉を鳴らしてしまう。こんなあどけない元気いっぱいの少女が、そういった行為の数々に慣れているとは……興味が惹かれないといえば嘘になる。
それにここまで経験豊富な相手であれば確かに上手になるかもしれないと納得もするが……どうやらレオンハルトの方は納得していないようだった。
「……いや、待て。それは……認められないな」
「えー。でも接待なんでしょ? だったら私にお任せだよっ! 50分もあれば天国にご招待!」
「接待じゃない。教導だ」
「性教育もアプリにお任せ! 初めてで自信が持てない子もー、彼女との身体の相性に悩んでる子もー、性癖に悩んでる子もー、これから男優を目指す子も、全部教えちゃうよ!」
「…………とにかく駄目だ」
「えー! やだやだ! エッチしたーい! エッチさせてよー!」
レオンハルトの拒否に元気いっぱいに。そして途中からは子供のように駄々をこねる少女に、レオンハルトは頭を抱えていた。言っている内容が全然子供らしくないが……。
「……そういうことは好きな相手とだな……」
「一目惚れだからいいよねっ!」
「…………彼氏がいるんじゃなかったのか?」
「彼氏じゃなくてセフレだよ。それに彼氏だとしても1人に絞る必要ないもーん。好きな人がいっぱいいるならハーレムもありだよね!」
「……………………だとしてもこいつは駄目だ」
「えーなんでー!?」
「こいつ自身が乗り気じゃないからだ。同意がない行為は許すことは出来ない。──なあ、ガイ。そうだよな?」
と、そう言ってアプリが練習相手になるのを諦めさせようとするレオンハルトは、最終的にこちらに圧をかけることで同意のない行為は出来ないと反論を封じようとしてきた。
『……おい、ガイ。もしかしてあの子……』
「……ああ。確証はないが……」
そしてそのやり取りを見て、思い当たるものがあったのだろう。カオスがひそひそと囁いてくるのに頷く。もしかしたらそういうことなのかもしれない。思えば、妹や弟がいるとも聞いているし、似てないこともない。
もしそういうことであれば、ガイもさすがに抵抗を感じる。だからレオンハルトに乗って断ろうかと、そう思ったところで──アプリは近寄ってきた。
「え~? そんなことないよね?」
「!」
無防備にこちらの隣に腰掛け、見上げてくるアプリに何故か緊張する。その小さくて白い手が、こちらの太腿を撫でた。
「ガイだっけ? ガイもわたしとエッチしたいよねー……?」
「っ……!」
そして雰囲気が変わる。アプリの目が妖しく細められ、先程の元気さを全面に押し出した声ではなく、静かで少し低い声。それでもまだ可愛らしさも残る声が耳に届き、脳を揺さぶってきた。背筋がぞくっとする。隣に座られ、太腿をくっつけてきた。太腿を軽く撫でられる。それだけで身体が一気に熱くなり、血の巡りが良くなる。
そしてその血液はガイの身体の一部分に集まった。自身の意志、理性を軽く突破し、否応なく準備をさせられる。
「ほら……もうおっきくなってるー♡ しかも結構大きいねー♡ えっろーい♡」
「く……何を……!」
耳元に口を近づけてきて、小さい声で囁かれるとそれだけで身体に快感が走った。つい表情を歪ませる。
そんなこちらの反応を見て、アプリはくすりと笑った。そうして更に耳元に、更に口を近づけてきて──触れるギリギリの部分まで。脳に直接声を送るようにして、アプリは囁く。
「ね? エッチしたいでしょ? 気持ちいいよー……♡ そのでっかいのでわたしのナカに挿れて掻き回したらすっごく気持ちいいよ……♡ やわやわでどこまでも入るのにきつきつのぷに穴がー……きゅうきゅうに締め付けてきてー……♡ 男の子はみーんな、挿れたらすぐに出しちゃうんだー……♡ でも気持ち良すぎてすぐ復活して、そのまま腰振っちゃうの……♡ 」
「ぐ……っ……!」
「想像しちゃった? でもその想像、やろうと思ったらすぐに現実に出来ちゃうんだよー♡ だから……ね? しよ?」
可愛らしい声と共に息遣いが耳元を──いや、もはや脳をくすぐってくる。
性衝動が身体の内側でグツグツと煮えたぎっているのが自分でも分かる。これまで生きてきてこれほど発情したことはない程に。
そしてこの衝動を、頷くだけで発散出来るという。幸せが約束された行為が、そこにある。
それを思い、ガイの鋼の理性ですら溶け落ちそうになっていた。それどころか、もう1人のガイが表に出て行こうと暴れ狂っている。「ぐがが、もう辛抱たまらん! ヤらせろー!」と。そんな声で煩い。ある意味その声があるからギリギリのところで踏みとどまっているとも言えるが。そして、そうして我慢している内に。
「やめろ。ガイを発情させるな」
レオンハルトがいつの間にか立ち上がり、アプリの脇の下を後ろから持ち上げてガイから引き離していた。するとアプリが先程までの色っぽい表情から年相応の表情へと変化させた。
「あーん。もうちょっとだったのにー」
「だから止めたんだ。とにかく、ガイは諦めろ」
「えー、絶対あのデカチン気持ちいいのにー……見えないところでするならいい?」
「駄目」
「ぶー……」
そのままレオンハルトがソファに腰掛け、アプリもそのままレオンハルトの膝に座らされる──が、アプリは頬を膨らませて不満そうだった。
ガイとしては助かったような惜しかったような……アプリが離れたことでようやく正気を取り戻したかのような心地だった。
「……何なんだ、その子は」
「……白兎と会っているんだったな。なら話すが、娘だ」
「はーい。アプリでーす! よろしくねー、ガイ!」
「……やはりそうか」
「他言はするな。話す機会もなかったから言うのが遅くなったが、今日はそれを注意するつもりでもあった」
「……ああ、分かっている。話すつもりはない」
──それに話す相手もいないからな。
ガイは元気よくこちらに向けて挨拶をするアプリを見て、微妙な気持ちになる。そのアプリがどうというより……白兎のことを思い出したからだ。
だがそれを聞くことは出来ない。会いたいとも思わないからだ。どんな顔をして会えばいいかも分からない。だからこそ、次にレオンハルトが話すまでガイは無言であり続けた。
「……ならいい。とにかく、アプリのせいで少しアクシデントは起きたが指導は行う。代わりの相手を用意するから少し待っててくれ」
「……ああ、分かった」
「あ、それじゃあ待ってる間フェラでもしてあげよっか?」
「駄目に決まってるだろ。なぜそれがいけると思った」
「挿入なしならいいかと思って! じゃあ私が座学してあげるよ! 女の子の身体とセックス講座! それならいいよね!?」
「……実技無しならな」
「大丈夫だってー。ちょっと互いに裸になるくらいはするかもだけどさー」
「…………リー。アプリが変なことをしないように見張ってろ。変なことをしたらすぐに連れ戻せ。いいな?」
「はっ……了解しました」
「ぶー……しょうがないにゃあ……それじゃ真面目に座学だけねー」
『この子、エッチ好きすぎでしょ……』
「そういう風に生まれたからね!」
ぐっと意味の分からないことを言って親指を立てるアプリに呆れながらもガイは何故か、レオンハルトが別の女性を連れてくる間、アプリから座学を受けることになる。
それが妙に分かりやすく、為になるものであったのがまた驚きだったが……ガイの心は先程からささくれ立っていた。──かつての友人のことで。
──紅魔城の一室。
鏡を見ることなく、白髪を2つに束ねた1人の少女がそこにいた。
「よし、準備出来ました」
身だしなみを整え終えたその少女──白兎は椅子から立ち上がる。
それを見ていた刀が、白兎へ声をかけた。
『……行くのですか?』
「はい。ちょうど街に来ているらしいので」
『…………』
白兎の帯剣となっている聖刀・日光が憂う様子を見せる。
そしてそれを、鋭敏な感覚で白兎は察した。
「大丈夫ですよ。生憎と魔人の相手には慣れてますし」
白兎は言う。いつものように、微笑を浮かべて。
「ちょっと友達と遊びに行くくらい──訳ありません」
そして腰に日光を差し、白兎は部屋を出て街へと向かっていった。
セラクロラスとの子、アプリちゃんは性技LV3。モデルはドーナドーナのポルノちゃんです。見た目だけ。
次回はこの続きですのでお楽しみに。ついでに活動報告で使徒も載せておきますのでよろしく→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=294971&uid=206423
良ければ感想よろしくねー。