※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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悪魔界の異端児

 ──GL6XX年。

 

 世界が魔物の天下になって600年余りが過ぎた。

 人類が国を興し、独立して生きていた時代も遠い昔。人間は家畜。魔物に虐げられ、あるいは逃げ隠れながら生きることが常識とされている。

 それが魔王ジルの時代だ。世界のどこにも魔王の敷いた理から逃れられる場所はない。

 

 ──否、僅かばかり存在した。

 

 大陸の支配者である魔王と魔人。彼らは確かに世界を支配する絶対強者である。

 地上に住む人間や数多の異種族が束になっても敵わない存在であることは間違いない。

 だが……それはあくまで地上の話。

 それ以外の場所に目を向ければ、魔王の支配下にない場所も存在した。

 

「あー、今日も疲れたぜ」

 

「よう。お疲れじゃねぇか。今日はどうしたんだ?」

 

 そう──例えばそれは、常に薄暗い地下のような場所。

 正確には空間。日が出ることがない常夜の空間でありながら、不思議と光に照らされたかのような明るさも同居するその不思議な土地。

 ゆえにそこを住処にする生き物もまた不思議な生物であった。

 

「それが聞いてくれよ。久し振りに地上に出て人間と契約を結んだんだけどよ。その願いが『殺してくれ』だったんだ」

 

「……良かったじゃねぇか。すぐに魂回収出来たんだろ?」

 

「良くねぇよ……まさかそんな暗い願いを言い渡されるとは思ってなかったしな。おかげでこっちまで暗い気分になっちまった」

 

「そりゃご愁傷さまだな。最近の人間はそういう絶望した奴ばっかだから結構そういうのあるって聞くぜ」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。なんか600年くらい前から魔王が人間を死ぬほど苦しめるようになったらしいぜ」

 

「へー……そうだったのか。じゃあ魂集めも捗らないわけだ」

 

「いや、そんなこともないらしい。絶望しまくってるおかげでむしろ魂回収効率が高まったって前にレペルタン様が言ってた」

 

「ほー、そりゃ良いが……俺はあんま陰鬱なのは好きじゃないからなぁ」

 

「仕事が捗るだけマシだろ。それくらい我慢しろよ」

 

 角と羽の生えた人間にも似た者と獣に似た頭部と角を持つ者。異なる特徴を持った2体の生物が雑談に興じながらその土地を歩く。

 彼らの会話にはどれも人間や魔物の間では聞き慣れない単語が飛び交っていた。

 また別の場所でも──

 

「はぁー、やっと今日のお勤め終了や。今日は誰も通りかからんかったなぁ」

 

「終わったか? それならこれから一杯行こや」

 

「お、それならワシ、綺麗なねーちゃんいる店知っとるからせっかくやしそこ行こうや」

 

「ええな。よっしゃ、それならぱぱっと空間移動しよか。座標どこや?」

 

 黄色い体皮を持つ魔物の如き外見の2体の生物が癖のある口調で会話を行っている。

 だがその2体は彼らが持つ特有の能力によって一瞬でその場から消えていってしまった。人間や魔物にはありえないその能力で。

 また別の場所では──

 

「おいお前」

 

「っ、な、何でしょうか?」

 

「ちょっとヤらせてくれよ。お前、俺より下だろ? 何階級だ?」

 

「……はい。第拾壱階級です」

 

「やっぱりか。だったら問題ないよな?」

 

「ええ……何なりとご命令ください──あっ!」

 

「へへ……ずっとヤりたかったんだ……! やっと階級が上がったからな、もう我慢出来ねぇ……! ここでヤらせてもらうぜ……!」

 

 触手を持つ異形の生物が、可愛らしい人間の女性に似た生物をその場で襲い始める。彼らの会話には階級という単語が出てくるだけでなく、襲われた女性の方は一切の抵抗を行わずに耐えるように異形の触手に纏わりつかれていた。

 更に別の場所。街の外れの路地では──

 

「た、頼む……! 見逃してくれ……!」

 

「えっと、それは……どうでしょうか? ガゲちゃん?」

 

「ググガゲゴゴ……!!」

 

「あ……む、無理みたいです……」

 

「お、お願いします! い……今まで集めた魂の分、回収して……ば、倍にして返しますから!」

 

「ゴゴグゴォ!!」

 

「すみません……ガゲちゃんが『絶対無理。はぐれ悪魔、死すべし』って言ってるので殺します。すみません……」

 

「ひっ……た、頼む、どうか……!」

 

「すみません……早くしないとこの後の会合に遅れてしまうので……すみません」

 

「待っ──」

 

「すみません──さようなら」

 

 鬼にも似た巨大な人型の生物が、人間の少女にも似た生物とその傍らにいる黒い影が濃縮して出来たような流動性のある異形の生物に向けて必死に命乞いを行うが──それも虚しく、気がつけば鬼にも似た巨大な人型の生物は真っ二つになって絶命していた。

 

「はぁ……やっと終わった……早く帰らないと……また怒られちゃう」

 

「ガガギゴ」

 

「うん……そうだね……はぁ……早く会いたいなぁ……」

 

 そして死んだ生物は死体が残ることはなく塵になって消えていく。それを為した生物もまた影になってその場からいなくなるとその場に静寂が訪れた。

 

 ──だが、その彼らの誰もが同じ種族であった。

 

 その名は──悪魔。

 地上とは別の空間にあるこの悪魔界を住処にする生物である。

 その姿は人間に近い者から魔物に近い者まで様々。中には更に異形に近い者まで存在していた。

 彼らの任務は魂を集めることであり、そのために死んだ人間から魂を回収したり、人間の呼びかけに応え、願いを叶える代わりに死後に魂を貰う契約を結ぶなどの様々な活動を行っている。

 聖なる物が苦手で普段は目立った行動を取らず極めて保守的な生き物であるが、人間や魔物と比べても平均的に強い力を持ち、上級悪魔であればかの魔人に匹敵、あるいは上回ると称される力を持っていた。

 ゆえにこの悪魔界は地上に住む生物にとっては格上の怪物たちが跋扈する地獄のような場所であり、普通なら立ち入ろうとも思わない。立ち入ったとしても目立たないように行動するのが普通であり、そうして生き残った稀な人間によれば悪魔界は危険で恐ろしい場所だが、時に地上では手に入らないような宝や経験を得られる場所だと語られていた。

 

 ゆえに一方。別の場所では──

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ────!!」

 

 立ち塞がる大勢の異形の悪魔たちをその手に持った2本の大剣や鋭い爪で蹴散らす異形の魔物の姿があった。

 

「つ、強い……!」

 

「なんだあの魔物……!」

 

 悪魔たちは自分たちを蹴散らすその魔物たちに腰が引けてしまう。

 

「……魔物ぉ?」

 

 だが、悪魔たちは知らなかった。

 その場にいる彼らはただの魔物ではない──魔人であることを。

 

「俺様をただの魔物扱いすんじゃねぇよ! 俺様は──ケイブリス! 魔人ケイブリス様だ!」

 

 そしてただの魔人でもない。

 魔人の中でも強者として認められる魔人四天王のその一角。

 名だたる魔人の中でも最強に最も近いと言われる魔人ケイブリスであることを、悪魔たちは知らなかった。

 ゆえに襲いかかった悪魔たちはその暴威に沈むことになる。

 まさかこれほどの強者がこの地に訪れるとは思いもよらなかった。適当に遊んで食い物にでもしようとしていた悪魔たちは、その最期に自分たちを倒した魔人の強者らしい振る舞いを見て──

 

「……そしてこっちが! 最強の魔人にして世界最強の剣士! 魔人筆頭であり魔軍参謀であらせられる魔人レオンハルト様だぁ! ──そういうわけでささ、どうぞレオンハルト様! この道は僕が掃除しておきましたよ! ぺこぺこ」

 

「……ああ」

 

 ……そしてすぐに裏切られた。自分たちを蹴散らしたその魔人ケイブリスは、もう一体の魔人が通路から姿を現すとその巨体を丸めて頭を下げ、とてつもないへりくだりを見せていた。

 

「まさかこんな奴に、やられるとは……うっ」

 

 その通路の門番悪魔たちの上役で責任者をしていた第五階級の悪魔はそうして気を失った。

 彼を最後にこの場にいた悪魔たちは全滅する。そうして障害のなくなった道を魔人レオンハルトの一行は再び行き始めた。

 

「……ちょっと。あたしの分が残ってないじゃない」

 

「……いや同胞よ。先程反対側の通路にいたデカい悪魔を殴っていなかったか?」

 

「あの一体だけだよ。それに大きい割にはあんまり強くなかったし、正直物足りないね」

 

「……そうか……」

 

 その一行の先頭を行くケイブリスやレオンハルトの後方。そこでぼそっと不満を口にした使徒ハンティの言葉をダイヤモンドドラゴンのライゼン(人間態)が拾い、その返答に呆れる。

 一行を背後から襲った悪魔を倒しておきながらまだまだ物足りないと言うハンティは立派なドラゴン脳──いや、ハンティ脳だった。

 ライゼンは最近、レオンハルトの子供たちの間で戦闘狂とか物理で解決することをゴリラとかを飛び越して「ハンティ」と言うことを思い出して何とも言えない気分になる。

 時代が変われば流行りも変わるものだが、まさかハンティが内輪のノリとは言えゴリラと同様のスラングとして使われるようになるとは思いもしなかった。

 

「さすがハンティさん……今日もハンティしてますねー……」

 

「本当よね。ハンティするのはもう少し抑えてほしいところだわ」

 

 と、早速そのスラングを使ったのはしゅたっとその場に降り立ったレオンハルトとメイド長さんの娘であるミコトとレオンハルトに付き従う悪魔のインデックスだった。

 ミコトは眠そうに、インデックスはいつも通りからかうようにひそひそとそう言えばハンティが振り返る。

 

「……そこの2人。何か言いたいことがあるなら聞くけど?」

 

「なんでもないわよ。ね、ミコト」

 

「ん……何でもありませんー」

 

「……ま、いいけど。それよかミコト。その手に持ってるの何?」

 

「んー……そこに隠れてた悪魔の首……取っときましたー……」

 

 2人の陰口を追求することをやめたハンティが代わりにミコトの持っているうねうねとしたボールのようなものが何なのか問いかけるとミコトがそれを持ち上げながら答える。悪魔の首だと。

 それを聞いたハンティはやや呆れるようにしながらも感心した。

 

「さすがだけど……それまだ生きてるし、捨てといたら?」

 

「ん、トドメ刺さなくていいですかー……?」

 

「良いよ。目的は殺すことじゃないからね」

 

「分かりましたー……」

 

 そう言うとミコトは近くにあった看板の上に悪魔の首を置く。

 それを見たインデックスが近くのハンティに声を掛けた。

 

「ミコトは優秀だけど変わってるわね」

 

「そりゃレオンハルトの……下級使徒の中だとトップクラスに強いからね。変わってるのはまあ大体皆そうだから良いとして……というかインデックス。話通ってるんじゃないの? さっきからめちゃくちゃ悪魔襲ってきてるけど」

 

 レオンハルトの子供、と言おうとしてケイブリスがいることを思い出したハンティは言葉を言い換えながらインデックスに質問した。

 その質問にインデックスは軽く思案顔になり、

 

「……話は通したわ。その上でこの対応ということは……むしろ気を使ってくれてるんじゃないかしら」

 

「気を使ってる? どういうこと?」

 

「挨拶兼修行ってことは言ってあるからそのために悪魔をけしかけてくれてるんじゃないかってことよ。ご丁寧に程々の強さの悪魔ばかりだし」

 

 インデックスは背後で転がっている悪魔たちの群れに視線を送りながら言う。そこに転がっている悪魔の階級は大体第九から第五階級の悪魔たちであり、下はそれなりに数が揃っていて責任者として第五階級や第六階級の悪魔を配置するなどやけにしっかりとしている。

 全員が第四階級悪魔であるインデックスよりも下であり、いざとなったら言うことを聞かせられる辺りも作為的なものを感じていた。

 

「……なるほどね。そりゃ気を使ってるわけだ」

 

「ええ。だから向こうも今、私たちを歓迎する準備でもしているんじゃないかしら」

 

 ハンティの頷きにインデックスはこの領地の主やその上司のことを思いながら内心で呟く。

 

 ──これも私の息子……ライブラのためなんでしょうね、と。

 

 

 

 

 

 ──悪魔界南方にある土地、デザイアは地上から悪魔界に続く廃棄迷宮の奥から続く先から近い場所にある地方都市だ。

 

 荒廃した荒野と崖が組み合わさり、亀裂が入っている谷のような地形に建てられたその街はかつての人間の街よりも発展している。

 しかし自分の街ほどではないな、と客観的に間違いない感想をレオンハルトは抱いていた。

 

「──お待ちしておりました。ささ、どうぞこちらに……」

 

「ああ」

 

 だがそのことをあえてこの街の住人や、これから会う相手に言うこともない。

 やるべきことはあくまでも挨拶なのだ。修行はついでに過ぎない。

 そのためケイブリスは一旦ライゼンとハンティを付けた上で街やその外れで時間を潰すように告げ、崖の上の屋敷には自分とインデックス、そしてミコトだけを連れてやってきた。

 インデックスは悪魔として紹介してもらうために。ミコトは1人でほっぽり出すのが不安なのと、本人の希望もあって同席させることにした。

 そうして屋敷にやって来れば案内役の悪魔に導かれ、部屋まで案内される。悪魔サイズとも言うべき大きめの扉を悪魔が開くと、俺はそこで初めてインデックスの上司である悪魔たちと対面する。

 

「おや、もう来たようだね」

 

「……そのようですね」

 

「ひっ……」

 

「…………」

 

 応接室にも似たその部屋に入るなり、目に入った相手は4体。

 一体は白い髪をツインテールに結った赤い目の少女でこちらを落ち着いたような、そして畏まったような様子で控えている。

 一体は真っ黒な、まるで闇そのもので出来ているような体長3メートルほどの人型。全身を鎧で包み、頭部には髑髏を模した兜を身に付け、更には身の丈ほどある大剣を床に置いたままピクリとも動かず佇んでいる男とも女とも分からない相手。

 そしてその陰に隠れるようにして前髪をぱっつんにした紫色の髪の少女がいた。シスター服にも似た肩から足元までを覆い隠す真っ黒で無地の衣服を着ており、その様子はどこかおどおどとしているだけでなくこちらを見た瞬間怯えるように隠れてしまった。

 その少女に思わず目を鋭くしてしまうが、最後の一体。真ん中に立つ長身の女性型の悪魔。黒と白だけで構成された衣服と肌と髪。見目は悪くないものの纏う雰囲気がこの中で最も色濃く、どこか不気味な印象を抱かせる存在を無視は出来ない。

 

「ほう、これはこれは……中々の存在感だねぇ」

 

 その悪魔はこちらを視界に収めるなり、真っ直ぐとこちらを覗き込むように見つめながらニヤニヤと何が面白いのか笑ってみせた。

 

「……そういうそちらこそ大した存在感のようだが?」

 

「ほう。加えて洞察力も中々……さすがは魔人の中でも名高い魔人レオンハルトだ。君のその名声はこの遠い悪魔界にも届いているよ」

 

「それは結構なことだな。それより……そろそろ名乗ってもらえるか」

 

 名前も知らなければ話をするにも不都合がある。そういう意味を込めて口にすれば相手もまた頷いた。

 

「これは失礼。私はレペルタン。第壱階級悪魔でこちらのフィオリやそちらのインデックスの上司だよ。普段は三魔子、プロキーネ様の側近をさせてもらっている」

 

 そう言ってレペルタンと名乗った悪魔は丁寧に礼をした上でそのまま他の悪魔もまた紹介した。フィオリ、と呼ばれた悪魔が会釈する。

 

「第参階級悪魔のフィオリ・ミルフィオリよ。このデザイアの領主をしているわ」

 

「……魔人レオンハルトだ。普段家の者が世話になっている」

 

「それを言うならこちらこそ世話になっている、と言うべきかしらね」

 

 フィオリ・ミルフィオリの名前は事前にインデックスから聞いていたためそれほど気がかりではない。

 だが残りの2体──レペルタンともう1体の方は別だった。

 

「そちらは?」

 

「ああ。こちらはリアン。それとガゲ、だったかな? ほら、君たちも挨拶したまえよ」

 

「えっ……い、いや、私は……い、いいです……す、すみません……」

 

 続く挨拶が来なかったため紹介してもらうように視線を送りながら言ってみるとレペルタンはそれを促してくれた。

 だがそのリアンと呼ばれた少女はよほどの引っ込み思案なのか挨拶することすら拒否しようとした。そのためか、レペルタンが更に言葉を追加する。

 

「挨拶しておかないでいいのかい? ライブラくんの父親には是非挨拶しておきたいと事前にかなり意気込んでいた気がしたのだが……」

 

「そ、それは……その……」

 

「ここで挨拶しておかなければ次に挨拶出来るのはいつになることやら……」

 

「う、うぅ……」

 

「まあ君が挨拶しないと言うならそれでも構わないがね。ただ今後の仕事に支障が出るかもしれないが……」

 

「……わ、わかりました……」

 

 レペルタンの再三の促しが効いたのか、決心するようにおずおずと前に出てくるリアンという少女。がちがちに硬くなりながらこちらを見上げてくるその様子はどうも不憫になりそうなほどに緊張しているのが丸わかりだった。

 

「り……リアン、です……その……ご、ご子息の……ライブラ様の、お付きをしています……あ、こっちは私の友達のガゲちゃんです……」

 

「…………ガギ」

 

「……なんてー?」

 

 背後からミコトがツッコミを入れる。

 それほどに小さい声だったし、もう1体に関してはなんて言ってるかも分からない。一応前者に関しては何とか聞き取れたものの、後者は言葉が分からないのでどうしようもなかった。

 

「あ……ガゲちゃんも、よろしくお願いしますって言ってます……」

 

「……そうか」

 

 更に小さい声で補足される。……正直色んな意味で不安でしかない。

 

「さて、挨拶が終わったところだ。歓談でもして親交を温めあおうじゃないか。……ああ、そうだ。私からの贈り物はどうだったかな? そこそこ強くて痛い目を見せても問題のない悪魔をそれなりに配置しておいたのだが……気に入ってくれたかね?」

 

「……ああ。そうだな。それについては感謝する」

 

「それなら気を使ったかいがあるねぇ。ではまたこの後も適当な悪魔と戦ってみるかい?」

 

「……それもいいが……その前に聞きたいことがある」

 

「おや、何かな?」

 

 自分の中に生じた疑念と確信。

 それを見定めるために、俺は目の前の悪魔に問いかけた。

 

「俺の息子に近づいて……何が目的だ?」

 

「え……?」

 

 魔剣を空間から取り出し、その切っ先を目の前の悪魔に向ける。

 するとその悪魔──リアンは戸惑ったような表情をこちらに向けてきた。

 

「……おやおや、これは穏やかじゃないねぇ。一体どういうつもりかな?」

 

「その言葉をそっくりそのまま返させてもらう。どういうつもりだ?」

 

「ふむ。リアンのことが気に入らないのかな? 大事な息子に、女悪魔を近づけることが気に入らない。あるいは頼りないと?」

 

「そうじゃない。むしろその逆だ」

 

 あくまでも白々しく質問をはぐらかそうとする悪魔に俺は言ってやる。

 俺が感じた疑念と確信。その正体を。

 

「息子に──第壱階級悪魔を付けるとは、どういうつもりだ?」

 

「! ……ほう?」

 

 俺がそう言えばレペルタンは目を見開いて驚いてみせた。隣で事の推移を見守っていたフィオリもまた同様に。

 そして俺に剣を向けられながら全く動揺していないリアンもまた、俺を見上げて純粋に驚いているようだった。

 

「な、なんで……」

 

「ふふふ……なるほど。なるほどねぇ……いやはや、流石と言うべきか。最強と言われるだけはある……いつから気づいていたのかな?」

 

「最初見たときから力の大きさには気づいていた。お前やそこのガゲとかいう不気味な影に隠れていたがな」

 

 俺はそう確信に至った理由をレペルタンに問いかけられたため説明する。

 悪魔の強さ。力は階級によって大きく左右されるものだが、たとえそうでなくとも下位の悪魔は上位の悪魔に絶対服従という厳しい掟が悪魔界には存在する。

 だからこそ、先程のやり取りはやや不自然だったのだ。俺から見た力量と合わせて、それは疑念を確信に至らせるだけのものがあった。

 

「だが確信したのはお前たちのやり取りだ。挨拶をしろと命令をしたのにも関わらず、それを拒否した上、その際に階級を名乗らなかったからな」

 

「ふむ……だが純粋な悪魔であればともかく、それだけでは普通は気づけない。単に私がそういう風に言えと命令した可能性もあるからねぇ。つまり、君は自分の力量を見定める目に自信があり、そして実際にそれだけ目利きに長けているわけだ。なるほど──あのネプラカスがやられるわけだねぇ」

 

 俺が以前に叩き潰したネプラカスの名前を出しながらこちらを褒めるような態度を見せるレペルタン。

 だがその反応を俺は信用しない。以前の件もあって俺は悪魔を警戒しているし、信用もしていないのだ。

 だからこそ1度挨拶として見定めておく必要があった。息子のためにも、この周囲にいる悪魔たちがどんな思惑を持っているかを知っておく必要があると。

 

「答えろ。おまえは息子に近づいて……何をするつもりだ? ネプラカスのように利用するつもりか?」

 

「わ、私は……そんな……その……」

 

 強く意思を込めて再度問いかけるもリアンは戸惑いを見せるのみで意味ある言葉を中々発しない。

 それを見かねてか再びレペルタンが助け舟を出すように割って入ってきた。

 

「ふむ。確かにリアンは第壱階級悪魔で、この私よりも強い悪魔界一の剣士であることは確かだが……些か誤解をしているようだねぇ。私も、そしてリアンも、君の息子を利用しようだなんて考えてはいないのだがねぇ」

 

「なら何のためにライブラに近づいた」

 

「ふふふ……それはだねぇ──」

 

「え、えっと……それは──」

 

 真の目的を看破するために俺は再度問いかける。場合によってはここで一当てしていく必要もある。敵地で、しかも第壱階級悪魔の2体が相手ともなればさすがに苦戦するだろうが……もしこいつらが息子を何らかの陰謀に巻き込もうとしているのならこちらにも覚悟がある。

 少なくともそれを見せつける必要があった。そのため、万が一そうなった時のための備えは用意してある。

 

「──あ、あのー……ちょっといいですか……?」

 

 そうして2体の悪魔からの返答を待ちつつ覚悟を決めていたそんな時──背後からおそるおそる女性型悪魔が声を掛けてきた。

 

「……何かしら梨夢。今は見ての通り取り込み中よ」

 

「それは十分承知なんですけど……その、ライブラ様がお戻りになったのでご報告をと……」

 

「ええっ……!?」

 

「ほう……!」

 

 フィオリが梨夢と呼んだ悪魔が、その報告──ライブラが帰ってきたという報告を告げた瞬間、部屋の中にいた2体の第壱階級悪魔がそれぞれ大きな反応を見せる。

 リアンの方は顔に手を当て、ちょっと焦ったように顔を赤くし、レペルタンの方は口端を大きく吊り上げていた。

 それはどうにも、俺の思った反応と違っていて訝しむ。そして、ほんの僅かに逡巡し、1つの答えを思いついた。

 ……まさか……。

 

「──父上! 母上!」

 

「!」

 

「あ」

 

 そして俺がその答えを思いついた瞬間、莉夢の背後から凛々しい声が飛んでくる。

 その顔、容姿、声、気配。その全てを感じ取って俺は、息子であるライブラと約一年ぶりに対面することになった。

 

 

 

 

 

 ──その少年は生まれついて他と違っていた。

 

 と言っても他者と違うのは他の兄や姉、周りにいる者たちも同じだったので特に疑問には思わなかった。魔人と悪魔のハーフである少年は確かに他者とは違った特別だが、彼の兄や姉には本来出来るはずのない魔人同士の子供や魔人と人間のハーフ、魔人と聖女の子モンスターの子供など様々なルーツを持っている者ばかりな上、家にいるメイドや下級使徒たちも揃いも揃って特殊な事情であったり変な個性を持つ者ばかりだった。

 なので少年は他と違っていることなど気にならず、特にこじれることのない幼少期を過ごした。母が教育に厳し目だったので多少勉強に比重を置いていたし、将来は父親のような良い男になるようにと様々な習い事をしていたが、特に不満はなかった。

 とはいえ少年も遊びたい盛りなので時に言いつけを破ることもある。特に少年の兄の内の1人は脱走の常習犯であったため、少年に良くないことを教えていた。城下町や街の外の話なんかを聞いていると自分も見てみたいと思うのは自然なこと。ちょうど良いことにその兄や姉と同じく飛ぶことも出来たので隙を見て外に出るのは意外と難しくなかった。

 

『ほう……これが魔人と悪魔の子供か……面白い』

 

 ──だが、それが間違いだった。

 

 街の外を軽く見て回って帰るつもりだった少年は、しかしその道中。目の前に現れた怪物に囚われてしまった。

 その怪物の名前はネプラカスと言い、少年の母と同じ悪魔であった。

 人間の老人のような姿で近づき、少年を捕らえたネプラカスは少年を興味深そうに観察しながら悪魔らしい凶悪な笑顔を浮かべる。

 

『これは実験のしがいがありそうだ……クク、小僧よ。これから我ら悪魔の為に、存分に利用させてもらうぞ……』

 

 悪魔は悪魔らしく、少年を実験材料に使うと口にした。

 少年は抵抗しようとしたが身体が竦み、そしてそもそも圧倒的な力の前に為す術を持たなかった。

 少年は絶望し、恐怖した。悪魔とはこんなに恐ろしいものなのかと。こんなに悪いものなのかと。

 こんなことなら言いつけを破って外になんて出なければよかったと自嘲し、心の中で父や母に謝った。

 そうして少年の人生はそこでめちゃくちゃになるところだった。

 

『おい、お前……俺の息子になにをしてる』

 

 ──だが、そうはならなかった。

 

 恐怖し、絶望し、後悔する少年の前に、少年の父親が現れた。

 少年の父親は囚われていた少年を一瞬にして救い出す。そして同じくやってきた父親の使徒である黒髪のカラー……少年の母親の友人であるその人に抱えられた。

 そしてそこからは、戦いが始まった。少年の父親と凶悪な悪魔による壮絶な戦いだ。

 その戦いが始まった時、少年は父親を心配した。少年は父親が強いということは聞いていたし知っていたが、それでも父が戦っているところはまだ見たことはなかった。

 それだけに本当の姿に戻った凶悪な悪魔を前に負けてしまうのではと、そう心配したのだ。

 

 ──だが、その心配は無用だった。

 

『よくもやってくれたな……』

 

 気がつけば、その凶悪な悪魔は地面に転がっていた。

 全身から血を流し、ボロボロの状態で、掠れた声を出している。

 そしてその異形の頭部を踏みつけているのは少年の父親であった。

 

『なあ、おい。随分と舐めた真似してくれたよな? 悪魔風情がこの俺の周囲でこそこそと嗅ぎ回りやがって……それだけなら見逃してやったもののまさか俺の息子に手を出そうとするなんてなあ……!』

 

『ガッ……うぐ……!』

 

 少年の父は、少年が普段見たことのない荒々しい口調と態度で悪魔の顔を何度も踏みつけていた。その手に持った剣でいつでもトドメをさせるようにして逃さないようにしつつ何度もだ。

 

『魔人程度なら何とかなるとでも思ったか? 思ったんだろうなぁ? そうじゃなきゃこんなフザけた真似はしねぇよな?』

 

『や、ヤメロ……!』

 

『──なら徹底的に分からせねぇとなぁ……!』

 

『グ──ガアアアアアアッ!!』

 

 父はそう言ってその剣で悪魔の目を刺した。そして執拗に剣を動かして苦痛を与える。

 悪魔が悲鳴を上げてもやめることはしない。悪魔に怒りを、そして報いと恐怖を与えて上下関係を徹底的に叩き込もうとしていた。

 

『地上はお前の庭じゃないんだよ。ここは魔物の世界なんだ。人んちの庭で堂々と歩いてんじゃねぇよ』

 

 それは少年が見る父親の初めての姿だった。親ではなく──魔人としての姿だ。

 少年はそこで初めて、父が多くの魔物や人間から畏敬や畏怖を集め、そして恐れられているかを理解した。

 

『いいか? これからは陰に隠れながら生きろ。ドブネズミのように薄暗い場所で、こそこそと俺に見つからないように恐怖し、俺に怯えながら生を全うしろ』

 

『ッ……! き、貴様……!』

 

 父は悪魔に対して、今後は自分たちに近づかないように命じていた。危害を加えないこと。魔物の邪魔をしないこと。そもそも地上に出ないこと。

 そういった様々な命令を行ってみせた──近くに来ていた少年も知る父親の下級使徒。姉の友人であるその少女から何かを聞いた上で。

 

『……! な、何故……真の名を……!?』

 

『クク、さてな。だがお前たち悪魔の弱点は分かってる。こうやって真の名を知られたら絶対服従しなきゃならない。そうしなきゃおまえたち悪魔は灰になって消えちまうわけだ』

 

『ッ……!』

 

『だからもう分かるよな? 俺の命令に従わなきゃ殺す……そんなことすらする必要もないことが』

 

 父は強さだけじゃない。策略にも優れていた。

 悪魔の真の名を看破させた上で、命令する。そうすることで絶対に命令を守らせる。

 先程は恐怖と力の差を分からせた上で支配するのかと思っていたが、悪魔を信用はしない。守らざるを得ないようにして安全を確保した。

 

『分かったならさっさと薄汚い地下に帰って自分の失態を上司にでも報告するんだな。ま、そうなったお前もどうなるか知れたもんじゃないだろうが』

 

『ッ……ク、ソ……!』

 

 そうして少年の父によって完全に封じられたそのネプラカスという悪魔は悪魔界へと帰っていった。

 少年は無事に保護され、父と共に城に帰ることになったが……当然、その際には父と母からお叱りを受けた。

 それはもちろん不甲斐なく、悲しいものであったが……少年は自分を戒めながらも、その時からある目標を立てるようになった。

 

『母上。余は……父上のようになりたい』

 

 その目標とは──父のように強く賢く威厳ある存在になること。

 凶悪な悪魔を一蹴し、知略に長けて様々な施策を実行に移し、多くの魔物、人間からも敬われる父という存在の凄さに少年は気づいた。

 その父という存在があるからこそ自分も、そして悪魔でありながら魔人と結ばれた母も無事でいられるのだとそう気づいた。

 魔物の社会は完全な実力主義。力が強い者が上に立つように、悪魔の社会は階級社会であり階級が高い者が下位を支配する。

 少年は前者に憧れ、後者を唾棄すべきものだと断じた。話を聞いていてそう思った。

 だから少年は父のようになるために、まずは人助け──悪魔助けを行う……悪魔を知るところから始めた。

 悪魔の血を持つ自分だけが悪魔の社会をどうにか出来るのではないかとそう考えた。

 悪魔も母や母の上司、周囲の悪魔のように悪い悪魔ばかりじゃない。その上、ちゃんと魔物や人間のように考える力を持っている。

 だからこそ自分も悪魔として変えられるはず──そう、1体の魔人でありながら多くの魔物を変える父のように。

 父のように知識を蓄え、政治や謀略を学び、力を付け、そして他者に敬われるカリスマを得れば為し得ないことはないと少年は夢を見た。

 それからは勉強に訓練も人一倍に頑張った。知識を身に付け、力を身に付け、母に言われるように容姿にも気に配って良い男であるように努めた。

 

 そうして母と共に悪魔界にも訪れ、上位の悪魔に許された結果、そこで悪魔として問題を解決したり、また新たなことを学んだりと活動するようになった。

 

 悪魔界は危険なところであるため制限付きではあるものの、そうして少年は──ライブラは父のような強くて誇りある悪魔を目指すようになった。

 

「父上! 母上!」

 

 そして今日は悪魔界で働く自分を見に父と母たちが来ると聞いてライブラは急いで上司であるフィオリの屋敷へと駆けつけた。

 

「お久しぶりです! 父上! 母上!」

 

「あら、ライブラ。久し振りね。元気にしてた?」

 

「はい! もちろんです!」

 

 部屋に入って父と母の姿を見かけるなり、ライブラは思わず上司である悪魔や自分の付き人を務めてくれている悪魔がいることを忘れて駆け寄った。

 そうして溢れんばかりの喜びを見せたのだが──

 

「また……強くなったようだな。ライブラ」

 

「! はい、父上! 父上の言いつけ通り、余は修行を欠かしておりませんぞ!」

 

「そうか……それは良いことだが……」

 

 ライブラを見るなり、どこか何とも言えない顔を浮かべる父──レオンハルトにライブラは首を傾げた。

 

「? どうかしたのですか? 父上」

 

「……いや、何でもない。それより……俺たちに挨拶するのも良いが、この場にはお前の上司である悪魔もいる。そちらに挨拶するのが先じゃないのか?」

 

「! す、すみません! 失念していました! レペルタン様、それにフィオリ様も申し訳ありません……」

 

「いや……構わないよ。両親との久し振りの再会だ。是非こう……もっと喜んでくれたまえ」

 

「……レペルタン様がこう言うのだから報告は少し遅れても構わないわ。気にしないでちょうだい」

 

「はい……寛大な心遣いに感謝します」

 

 ライブラは父の注意を受け、上司の悪魔たちに謝罪する──が、その一連のやり取りの中でもどこか様子がおかしいことにライブラだけが気づいていなかった。

 だがそれも致し方ないことだった。ライブラにとってはコンプレックスであり、そのためこの場にいる面子は気を使ってあまり言わないが……ライブラの容姿には些か問題があった。

 

「ら、らららライブラ様! あの、その……!」

 

「おお、リアン。お前もいたか。気づかずに済まなかったな」

 

「い、いいいいいえ! 私はその……影が薄いので……か、影の中に隠れています! すみません!」

 

 その容姿は、第壱階級悪魔ですら身を隠してしまう程のものだ。

 

「久し振りー……ライブラ」

 

「ミコト姉上! 姉上も来ていたんですね!」

 

「んー……暇だったから」

 

「ふはは、またご冗談を。姉上はいつもお忙しいではないですか。──どこぞの愚兄共と違って」

 

「皆も来たがってたよ……可愛いライブラに会いたいってー……」

 

 そして、その問題点をいとも容易く姉であるミコトが口にすると、途端にライブラは眉を立てた。

 

「姉上! 余は可愛くありません! 訂正してください!」

 

「……なんで? 可愛いのに」

 

「何でも何も可愛くないからです! 余は……そう! 男の中の男! それを目指しているのですから!」

 

 ライブラは真剣な表情でそう言って自らの着ている黒いコートを翻す。

 だがその容姿は──ミコトの言うように、非常に可憐さに満ちていた。身長は僅か138センチ。長く艶のある黒髪をポニーテールに束ね、少しツリ目気味のぱっちりした目。長い睫毛に赤ちゃんのようなもちもちの白い肌。あどけないのに凛々しさも感じさせる顔立ちは女の子と10人中10人が見紛う程。

 声もまた女性が少年の声を出しているかのようなボーイッシュさを思わせる。

 

 つまり彼女──否、少年ライブラは少年でありながら女の子のような凄まじく可憐な容姿を持っていた。

 

(ふふ、ふふふふふ……今日もライブラくんは可愛いねぇ……あんなに自信満々に胸を反らして……その下に隠された少年乳首を思うと昂ぶってしょうがないねぇ……誘っているのかな? その下のポークビッツと合わせてお姉さんが食べてしまいたいねぇ……!)

 

(う、うわ───!! 今日もライブラ様かっわいい──────!! もうダメです、私、見てられません……ガゲちゃん……代わりに見といて……後、隣の変態ショタコン悪魔が何かしでかさないように見といてください……私が守らないとライブラ様は変態に全身を舐めしゃぶられて穢れてしまいます……ライブラ様には一生綺麗なままでいてもらわないと……)

 

 ──そしてそれは特殊な趣味の女性から大ウケだった。

 

 第壱階級悪魔である2人はそれぞれ悶えていた。1人はブツブツと小さい声で変態的なことを呟きながら。もう1人は影の中で顔を押さえて勝手な使命感で燃えている。

 

「…………インデックス。おまえ、この状況を知っていたのか?」

 

「私の口から話すのは憚られたから……それにフィオリ様から黙っているようにって言われて……」

 

「レオンハルト様に直接この状況を見て理解してもらった方がよいかと思いまして……」

 

「…………そうか」

 

 そして悪魔2人が悶えていて何やら変態的なことを口走っているのを魔人の驚異的な聴力で耳にしたレオンハルトはげんなりする。

 まさか自分の息子に悪魔2人が近づいた理由がそんなバカバカしいことだとは思わなかった。確かにライブラは息子にしては可愛すぎる容姿を持っていることは当然親として分かっているし、城内でも娘扱いされたり、最早男の娘だと言われたり、男だと分かっているのに可愛いからカイゼルなどは頭を時折地面や壁に叩きつけていたりするレベルではあるのだが……とはいえ悪魔まで魅了する程とは思わなかった。

 

「ライブラ。服がちょっと汚れてるわよ」

 

「っ、す、すみません母上……先程ちょっと戦闘で汚れてしまって……」

 

「気をつけなさい。良い男になるなら身だしなみを疎かにしては駄目よ」

 

「わ、分かっています。ちゃんと毎日髪の手入れも肌のケアも母上の言いつけ通り行っていますから」

 

「それくらいは当然ね。後は……そうね。この長ズボンはどうしたの?」

 

「え、えっとそれは……その、売ってあったので買いました。なんか父上みたいだなって思ってかっこよくて……」

 

「悪くはないわね。でも今のライブラにはまだショートパンツかスカートが似合うと思うわよ」

 

「う……で、ですが母上。丈の短いズボンはともかく、スカートはどちらかと言えば女性の履くものでは……?」

 

「あら、知らないの? スカートは元々男性の伝統的な衣装なのよ」

 

「そ、そうなのですか!?」

 

「そうよ。ね? レオンハルト」

 

「そうなのですか?」

 

「む……まあ……そうだな」

 

「ほらね。レオンハルトが言うなら間違いないわよ」

 

「そ……そうですね! 父上が言うのであれば……ではスカートは今後も継続して履くことにします!」

 

 ……若干母親のせいでもあるような気もしたが、レオンハルトは何も言わなかった。

 教育の方はある程度インデックスに任せているし、おかげで子供の中でもかなり良い子に育っているので文句の付けようがない。

 ただちょっと……環境は問題かもしれないとそう思った。利用される心配はなさそうだが、と。

 

「……ライブラ。久し振りに帰ってこないか? 久し振りに付きっきりで稽古を付けてやるぞ」

 

「! そ、それは本当ですか父上!?」

 

「ああ。最近は時間が出来たからな」

 

「そ、そうですか……そ、それならあの、勉強とか、後はお食事とかも連れてって欲しいです……後は、お風呂とかも……」

 

「……ああ。構わないぞ」

 

「! あ、ありがとうございます! え、えへへぇ……やったぁ……」

 

「…………」

 

 レオンハルトはそのライブラの自身に懐いているが故の振る舞いを見て、内心で思った。

 ……ライブラ。男らしくなりたいならその腕を前にやって小声で喜ぶのはやめたほうがいいと思うぞ……。

 

「……さて、レオンハルトくん。我々の疑いも晴れたところで折り入って頼みがあるのだが……ライブラくんのチ……いや、お風呂の時にチン……写真を取ってきて貰えないかね? 必要とあらば大抵の願いは叶えさせてもらうんだがねぇ……」

 

「あ、あの……すみません……ライブラ様に付いて行ってもいいですか……? すみません……お家に邪魔させてもらって護衛しますので……すみません……そ、それでちょっとだけライブラ様の私物を頂ければいいと思うんですけど……すみません……その代わりに殺したい人とかいれば請け負いますから……すみません、いいですか?」

 

「…………駄目だ」

 

「そんなぁっ!」

 

「……下着姿は駄目かい?」

 

「いいわけあるか」

 

 2体の第壱階級悪魔が変態的な頼みを囁いてきたのを聞いて、レオンハルトは毅然と言い返し、そして思った。

 ……とりあえずは大丈夫そうだが……今度またイヴ連れてきて真の名で服従させたほうがいいか……? 

 

 ──そんなわけで最初の悪魔界の挨拶は無事に終わった。

 

 

 

 

 

 ──一方、街の方では。

 

「でさー。この間は……」

 

「うそー。マジー? 私なんて……」

 

「…………」

 

 街を何となく観光していた魔人ケイブリスは道を歩く女の悪魔と触手塗れのとんでもない異形が並んで歩いているのを見て思った。

 

(俺様を見ても何も騒がないし驚かない……なんか、意外と居心地いいかもしれねぇな……)

 

 強いやつが多そうなこと以外は割と悪魔界にいても違和感がない自分を思い、ケイブリスは悪魔界の空を見上げた。




というわけでお久しぶりです。またちょっとずつ更新。悪魔界の話は触りだけ。というかここから悪魔会の話をがっつりやるとまたとんでもないことになるので抑えていきます。次からはGL期を終わらせるためにジル様とガイとバークスハムと魔王戦争とそんな感じで続いていきますのでお楽しみに。
次回はとりあえずジル様かガイかな。

感想良ければよろしくねー。
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