魔人というのは世界に24体までしか存在出来ないこの世の支配者層だ。
魔人の上には魔王。そして下には使徒や多くの魔物が存在するが、魔人の数は常に限られている。
そのため魔人同士で交友する相手というのは常に同じ顔ぶれになりがちだった。
「どうでしょうレオンハルト様、お味の方は……」
「ああ、悪くないな」
「それは良かった。こちらの茶葉は西の方で採れた珍しいものでしてね。他の方々にもおすすめしている物なんです」
「ふむ……確かに、中々に芳醇な味と香りですね」
「以前ケッセルリンク様にも気に入って頂いた一品です」
意匠や材質にも拘った家具や調度品に囲まれたその場所は、目の前にいる魔人ジークの別荘の一室だ。
そこに招かれた俺と隣にいる魔人アイゼル──今日はこの3人でのお茶会。ジークに誘われて集まった魔人同士のプライベートな時間に興じていた。ジークは度々こういった集まりを開いており、魔人と親交を深めようとしているらしい。自分やアイゼル。あるいはケッセルリンクなどはその常連であり、参加するのはこれでもう何度目だったか。
ジークは毎回その魔人の好みであったり、あるいは人選もしっかりと選んでいるため、居心地の良さは保証されている。
例えばこの場には今アイゼルがいるが、アイゼルがいる時にはケッセルリンクや、時折ケッセルリンク主催のお茶会の方に招かれるハウゼルなどは呼ばないし、逆もまた然り。魔人同士の相性なども考えた上で交流を行おうと会を開いている。
「そういえばアイゼル。最近はまたよく人狩りを行っているようだな」
「ご存知でしたか。これはお恥ずかしい」
「また人を試しているのか?」
「ええ。しかし最近は良い輝きを見せる人間が少なくて、徒労に終わることも多いですがね」
「野良の人間も最近は大人しいみたいですね。一時、活動が盛んな時期がありましたが最近は強い人間が現れたという報告も聞きませんし」
「人間とは元よりそういうものだ。数が多く、多種多様な成長を見せるがその輝きにはムラがあるもの。人の輝きが見たいのなら長い目で見ることだ、アイゼル」
「はい。ご教授いただき感謝します」
さながらそれは貴族の集まりのようだった。魔人同士の集まりであるため、ある意味貴族のようなものであるのは間違いないのだが……人間の貴族ではなくあくまで魔人なので時折、人間視点では物騒な会話も差し込まれることはある。
人間が下等な生物であるというのは程度の差はあれ魔人の共通する価値観であるため、人間を話題に挙げればどうしたって人にとっては不快な、上位者からの言葉になるだろう。
とはいえそこで逆らったり怒りを見せるような気概のある人間は希少だし、いてもすぐに死んでしまう。どれだけ気概があろうと人間と魔人の絶望的な力の差は変わらないのだ。
……まあ中にはその魔人や、あるいは魔王に力を届かせる者も稀に現れはするがな。
そう思い、1人の男の姿を思い浮かべた。そうして紅茶をまた一口含むと──その時、部屋に1つの大きな気配がやって来た。
「よォ、ジーク。邪魔するぜ」
「おや……」
遠慮することなく、勝手知ったる我が家のように土足で部屋に上がり込んできたのは魔人レイだった。
お茶会に呼ばれていないであろうそのレイの登場に軽くアイゼルが反応する。そしてジークが応対するも、俺はあえて反応せずにカップを傾けることにした。
「レイ。ノックもなく部屋に入るのは感心しませんよ。それに、今日はお茶会で私がホストです。客人を喜ばせる責任がありますので、あまり勝手な真似はよしていただけると……」
「チッ……分かってンよ。気を揉まなくてもここで仕掛ける気はねェ。今日はちょっと話に来ただけだからな」
ジークの注意にレイは舌打ちをしながらも去るつもりはないのか、近くにあった椅子を持ってきてテーブルに近づけるとその椅子にどかっと無遠慮に座る。それを見てアイゼルが肩を竦め、ジークが更に息を吐いた。
しかしそれでも構わず紅茶を楽しんでいると、レイの前髪に隠れた眼光がこちらを射抜いていた。
「ようレオンハルト」
「……何の用だ、レイ。俺は今、紅茶を楽しんでいるところなんだ。用件があるならさっさと言え」
「ハッ……相変わらずスカした野郎だな。その面を見てると仕掛けたくもなるが……安心しろよ。今日の狙いはお前じゃねェ」
レイの挑発染みた言葉に付き合わず目線も合わせないまま先の言葉を待つ。喧嘩を買ったり、更に言葉をぶつけてもいいが、この場はジークの別荘でジーク主催のお茶会だ。
ゆえに穏便に済ませてやるために不要な言葉を慎んでいるとやがてレイが用件を口にした。
「ガイの野郎の居場所、お前なら知ってンだろ? それを教えろ」
「……ガイ? ガイに用があるのですか? レイ」
「ああ。あの野郎をぶっ飛ばしてやろうと思ったんだが、魔王城にも奴が管理してる牧場の方にもいなかったんでな。こうして魔人筆頭サマに態々聞きに来たってワケだ」
ガイの名前を聞いてアイゼルが代わりに問いかけるとレイはその理由を説明した。居場所が分からなかったから聞きに来たと。
だがその説明だけでは不十分だ。それは俺だけでなくジークも思ったのだろう。疑問を口にする。
「ガイ様ですか。しかしレイ。以前はガイ様に興味がなくなったと、そう言っていませんでしたか?」
「そうですね。ペテン野郎だの何だの言っていた覚えがありますが……」
「……一段上のペテン野郎だったってだけの話だ。この間、あの野郎に不意打ちされてな……!」
そう言って、レイはその時のことでも思い出したのだろう。怒りに呼応してレイの周囲でバチバチと電気が弾ける。
……そして俺もまた思い出した。そう言えば以前、悪ガイが酒に酔った勢いで話していたことを。確か、そう、こんな感じだったか。
『誰かと思えば……またテメェか』
『む……お前は……』
──魔王城でガイとレイは偶然出くわしたその時の話だ。
『チッ、またジルの姉御にでも呼ばれてたのか? ……まァいい。ほら、どけよ。腰抜け野郎』
──以前喧嘩を買われなかった時のことを思い出し、レイはおそらくガイに道を譲るように荒っぽく口にしたのだろう。
『…………ああ。分かった』
『フン……』
──そしてガイはレイの言う通り、道を開けた。
レイはそれを見て気に入らないと思いつつも鼻を鳴らしてガイの譲った道を歩き、背を向けたのだろう。
その瞬間、ガイの口元がニヤリと歪んだのに気づくはずもない。
『──黒色破壊光線!』
「あ……? なッッッ!!?」
突然の背後からの最上級魔法にレイは完全に不意を突かれて吹き飛ぶ。
すぐにそれが魔法。それもガイが放ったものであることは分かっただろうが、それが想像以上の威力であったことからレイは魔王城の廊下を転がり、そして怒りと共に立ち上がろうとして──
『ッ……テメェ……! 不意打ちとはやってくれンじゃ──』
『黒色破壊光線!』
『ぐおおおおお!?』
──再び魔法によって吹き飛ばされる。レイが晒した隙を容赦なく突くように、ガイは魔法を連発した。
『白色破壊光線! ジャクタイン! 雷神雷光! ストップ! 絶対零度! 粘着地面! ゼットン!』
『ごっ! うがっ! て、てめぇっ! ふざけ──』
「うるせー! 貴様こそこの間はよくもやってくれたな! 黒色破壊光線!」
『ぐ、ぐあああああっ!』
──度重なる魔法の連続。それも不意を突かれた上での最上級魔法の連発にレイは為す術なく吹き飛ばされ、窓ガラスを突き破って魔王城の中庭へと落ちる。
真正面からしっかりと戦闘態勢を取った上であればレイもここまで一方的にやられることはなかっただろうが、戦闘においては僅かな隙が致命傷にもなり得る。
『ぐははは! よーし、今日はこのくらいで勘弁してやろう! おっと、悪く思うなよ! 戦いに卑怯もないんだからな!』
『て……テメェ……待ちやがれ……!』
『ぐはははは! 誰が待つかバカタレ! 俺はこれから良い飯食って良い酒飲んで良い女抱くっていう大事な用があるんだよ! ……ジルの相手がやっと終わったからな……』
──中庭に落ちたレイに向かってガイは中指を立てて向けながらひとしきり高笑いをすると、少しだけ疲れたように低く小さい声を出す。
しかしすぐに気を取り直して自由を満喫するために背を向けた。
『それじゃあな! お前はそこで草でも食ってしばらく寝とけ! ぐははは!』
『ッ……ガイ……!』
──そうしてガイはレイを放置してさっさと行きつけの店でたらふく飯と酒をかっ食らい、女を侍らせながら、飲みに誘われたため同席していた俺にその話をご機嫌に話した。
「……とにかく、ガイの野郎の居場所を教えろ。あいつにはやり返さなきゃ気が済まねェ……!」
……そして現在に至る。
レイはそのことでガイを一段上のペテン野郎だと評したのだろう。ただの腰抜けではなく、そう見せかけて隙を作るための策だったと思っている。
「……なるほど。確かにガイ様は気分の浮き沈みが激しい方のようでしたから……」
「……おそらく最初は気分が沈んでいたため相手にしなかったのでしょうね」
そしてそれはジークやアイゼルも同じらしい。
何度かガイと接したことのある魔人はガイはその時々によって態度や対応を変える人物だと思われているようだった。
実際にはただの二重人格であり、以前レイの喧嘩を買わなかったのが善ガイで、その時のことを思い出してやり返したのが悪ガイというだけなのだが……そう思うのも仕方ないだろう。
「……理由は理解した。喧嘩を売りたいなら好きにすればいい」
「だったら居場所を教えてくれンだろうな?」
レイにそう問われ、少し思案する。本気の殺し合いでもなければ多少の喧嘩は目を瞑っても構わないのだが、ガイの居場所を教えるということはおそらくその場が戦場になりかねないということでもある。自分の街でレイとガイを暴れさせるわけにもいかないため、レオンハルトは答えを工夫することにした。
「……さあな。ガイがどこで寝泊まりしているかは定かではない。だが、頻繁に魔王城に出入りしていることは確かだ。喧嘩がしたいのなら魔王城に詰めていればいいだろう」
「チッ……結局そこかよ……そんだけなら無駄足だったな」
こちらの答えは満足のいくものではなかったのだろう。悪態をついてみせるレイ。
だがそれでも席を立って部屋から出ていく素振りを見せたので魔王城には向かうつもりのようだ。俺はそのレイの背中に再度忠告しておく。
「忠告しておくが、どちらかが消えるような事態にはするなよ」
「殺さなきゃいいンだろ」
俺の忠告を分かっているのかいないのか、それだけ答えてレイは部屋から去っていった。
レイはああ言ったが、実際のところ弱くなったとはいえガイの実力はレイより上。そのため本気でやり合うようなことがあれば負けるのはレイで殺されかねないのはレイの方だろう。
「かなり昂ぶっているようでしたね」
「レイの性格上、やられっぱなしではいられないのでしょうが……それにしてもレイを一蹴するとは……やはり四天王に相応しい実力を持っているようですね」
ガイの方にも忠告しておく必要があるな……とジークとアイゼルの話を耳にしながらも俺はこの後の行動について考える。ガイについては忠告もそうだが、色々と問題もあるためお茶会が終わったら次はガイにも色々と小言を口にする必要がありそうだと。
──その男は運命を見通していた。
物心がついた時には、この先のあらゆる困難を甘んじて受け入れる覚悟を終えていたのである。
この時代の人間であれば物心つく頃には魔物に虐げられる現実を常の物として受け入れるか、あるいは朝日を拝めることがどれだけ尊いものであることかを理解し、毎日を恐怖するようになるかのおおよそ二択であるはずである。
だが男は違った。彼の一族は魔物も人間も発見することが難しい結界の中にあった。一族全員が魔法使いである未来視の一族──男はその生まれであった。
一族は幼い頃から魔法と、そして占いの術を学ぶ。そこに例外はなく、次代の長を決めるためにそれは必要な事柄であった。
男は幼い頃から頭角を現し、早期からその運命が決められていた。技能レベルを調べる術を知るその一族では才能があると分かった時点で長となるための教育が始まる。
ゆえに男もまたその長になるための厳しい教育を受けることになったが──しかし、男は自分が長にならないことを予め伝えられていた。
一族の長に相応しいだけの才能があるというのにどうして──なんて、疑問は浮かばない。
男もまた理解していた。自分は長になるのではなく、別の存在になることを。
ゆえに男は一族として高い教育を受けながらも更に高いレベルを求めた。魔法や予知の術は勿論のこと、剣も学び、魔物を相手にした戦いの訓練も行った。
高い才能に驕り高ぶることもなく努力を重ねた。それを続ければ、大人になる頃には一族の中で最も優秀で強い者になるのは必然であった。
あるいは、大規模な魔物討伐隊の隊長にすら勝ちうる強さを持っていただろう。彼の実力、未来視の術も含めた力があれば、そこいらの人間や魔物は相手にならない。
だがそれでもまだ驕り高ぶることもない。男は幼少からずっと、落ち着いた人物であった。どこか達観しているとも言える──そう、男にとって、自分の実力は大したものでないことを知っていた。
何しろこの世には人間や通常の魔物より遥かに強大な存在──魔王がいるのである。
魔王やその配下の魔人。その下の使徒に比べれば自分など取るに足らない存在でしかない。それを男は冷静に受け止めていた。ゆえに達観していた。
──自分はこれから、その魔の世界に身を投じることになるのである。
男はそれを幼い頃から知っていた。そうなる運命だとして受け入れていた。
未来視の一族にとって、より良い未来を求めるのは使命である。歴代の長たちは皆そうしてきたし、そうでない者もそうあろうと努力してきた。
──ゆえに男もまたそれに倣うまで。男は未来のために、全てを受け入れていた。
だが、受け入れやすさ、という意味で男にとってその相手が尊敬に値するべき相手であることは僥倖であった。
男は幼い頃から自分が仕えることになる王の存在を知っていた。
その王は人間時代から他者と隔絶した力を持っていた。達人に匹敵する剣の腕前に、達人などという言葉では括ることの出来ない魔法の腕前。
里に遺っている禁呪を全て習得し、自在に扱えるようになったというその王は、かつて最強の魔人相手にすら引き分け、魔王にすら届きうるものであったという。
そしてそれだけの力を持ちながら、人間らしい重い苦悩を持ち合わせていた。
男はこれから、それを支えなければならない──いや、支えたいと思った。
あらゆる運命を未来のために受け入れる覚悟であった男だが、それでも好みというものは存在する。尊敬に値する相手。信頼するに値する相手。そして、その身を案じて支えたいと思うほどには、かの王は不憫でもあり、魅力的でもあった。
ゆえに男は自らの意志でも受け入れた。主を支えることに、この先の一生を使うことを。
男は立派に成長し──やがて、時が満ちた。
男は里を出て、予知の通りにその場所へと向かった。人を避け、魔物を避け、そしてかつての祖先を頼り、その祖先が居候をしている城の主を頼った。
そうして男は──そこでようやく、仕えるべき主と対面した。
──強い意志を感じさせるその左目を見た時、男は自らの判断が間違いないことを予知だけでなく自らの直感でも確信した。
やはりこれは運命だったのだと男は膝を突く。
そして初めての言葉を発した。
「……ご紹介に預かりました。レーモン・C・バークスハムと申します──魔人ガイ様」
そう──その相手とは魔人ガイ。
そしてその白い長髪の美青年の名はレーモン・C・バークスハムと言い、彼はガイの使徒になるべく魔人レオンハルトの勧めという体で仕えるべき主と対面したのだ。
「ガイ様。どうか私めを使徒としてお側に置いてください」
そして願う。
運命が決まっているとしてもこうして自分の意思で願うことが大切だった。永遠を付き従う魔人と使徒として、重要な誓いを述べる。
たとえそれが永遠じゃないと分かっていたとしても、使徒はそうありたいと願うものなのだと男は真摯に努めた。
そして男はガイの使徒になる。そう、この瞬間から──
「……うーん、こいつはちょっと……パスだな」
「────え」
──が、返答は違っていた。
男は、レーモン・C・バークスハムは人生で初めて驚きの声を漏らした。予定と、いや、予知とちょっと違う。予知では使徒になることは決まっているはずだったのに……。
「……おい、ガイ」
「なんだレオンハルト。紹介したい使徒候補ってのはこいつだけか?」
「……そんなに簡単に拒否しなくても良いんじゃないか? 一応こいつの能力とか……聞いた限りじゃ優秀だぞ」
「あー? そうなのか? それじゃあ……」
バークスハムはそこで目を見開いた。仲介してくれた魔人レオンハルトの言葉でガイが心変わりをする。なるほど。こういう過程を踏むのかと。
バークスハムの持つ予知も完璧なものじゃない。結果が仮に見えても過程まで全てが見えるわけじゃない。
ゆえにここで使徒になるために対面するという行動で結果に結びつくことは理解していたが、こういう過程を踏むということまでは分かっていなかったのだ。この場で再び予知をすればもっと分かるかもしれないが……少なくとも今のバークスハムにはそこまでの力はない。
しかしどんな過程を踏もうとも問題ない。バークスハムには全てに対応出来る自信があった。そのために今まで努力を重ねてきたのだから……ゆえに、ガイの次の言葉にもバークスハムは余裕を持って対応──
「なんか一発ギャグでもしてみろ」
「もちろんですとも。一発ギャグくらい私の……え?」
──出来なかった。
予想外だった。まさかこのような過程を辿ろうとは……。
「何だ? 出来ないのか? それなら使徒になる話は無しだな」
「お……お待ちください……! 出来ます、無論、出来ますとも……!」
「お、そうか。それじゃやってみろ」
使徒になるには一発ギャグを披露しなければならない。
であればやるしかない。なぜこんなことに……などと思ってはいけない。いや、思ったとしても未来視の一族の名において未来を手繰り寄せるのみだ。ここで大爆笑を取ることが未来に繋がるのであれば取るのみだ。
ゆえにバークスハムは必死に思考した。一発ギャグ。そんなものはバークスハムのこれまで学んできたあらゆる物の中に存在しない。
常人ならばここで取り乱すだろう。しかし、予知のバークスハムは違う。一発ギャグという言葉に惑わされる必要はない。要は笑わせればいいのだ。気に入られればいいのだ。
ゆえにここは思い切りが肝心だ。変に恥ずかしがってはウケることも気に入られることもないだろう。この場で計算されたギャグを考えることも不可能。
「ではやります──おっと、こんなところにレモンとハムが」
バークスハムは意を決して実行した。ガイやレオンハルト。そしてレオンハルトに付き従う使徒などが静かにそれを見守る中、バークスハムは落ち着いたトーンで入り──
「バクバクバク!! レモンとハムを食うバークスハム! レモンとハムをバクバク食うレーモン・C・バークスハム!!」
──そして勢いよく架空のハムとレモンを食う素振りを跳びはねながら見せた。
ただのダジャレ──否、ただの自身の名前をかけたダジャレではなく、これはしっかりと計算され尽くしたもの。
自分のような一見して落ち着いた美青年が、このような下らないギャグを勢いよく披露するとは誰も思わなかっただろう。使徒になろうという人間が唐突にこんな下らないギャグを披露するとは。
ゆえにそれがギャップになり、そしてくだらなさが一周回ってウケるはずだ──と、バークスハムは計算した上で実行した。全ては未来のため。ガイ様の使徒になるため。
そして使徒になることは確定したことなのだからここでは自分の感じたやるべきことが真実であるはず。つまり、ウケは約束されたものだ。ゆえにこれくらいの恥は甘んじて受けよう。そう、ウケるのであれば──
「…………」
「…………ああ、なるほどな……」
「っ……! ふっ……! ふふ……! (駄目です、笑っては……! ミシェーラは分かります……! ここは空気を読んで笑わないべきだと……! なのに、下らなすぎて……ふふ……!)」
「~~~~~っ! (さ、流石だ我が子孫……! 誠実なるバークスハムよ……! まさかこんな馬鹿げたことを躊躇いなく実行に移すとは……! ふふふ、やはり君は私以上の天才だな……!)」
「…………(なんか笑いのツボがおかしい人が2人ほどいますね……まあいいですけど。でも肝心のレオンハルト様やガイ様は微塵も笑ってないわけですが……)」
──5人中2人が笑っている。
つまり、ややウケだった。レオンハルトの使徒だという確かミシェーラと隠れてこっちを見ていたバークスハムの祖先の2人が笑っていて、肝心のガイやレオンハルト。そしてイヴという少女は笑っていない。
……こんなはずでは……とバークスハムは内心で頭を抱える。表向きは涼しい顔に努めながら。
「……やっぱパスだな」
「そんなっ!?」
「ま、まあ待てガイ……一発ギャグで使徒になるかどうかを決めるのはあまりにも酷だろう。そうだな……他にも試してやるのはどうだ?」
「じゃあ次はコントでも披露してもらうか。俺様の使徒になろうって言うなら出来るよな?」
「そ、それは……」
ガイの質問にバークスハムは戸惑いを見せる。
使徒になるためにまさかこんな過程が、試練が待ち受けているとは露とも思わなかった。これも自らの未熟ゆえか……とバークスハムは少し落ち込む。
だが未来のためならやるしかないとバークスハムは決心した。
「……では、考えてくるので少々お時間を頂ければ……」
「えー……時間かけるつもりか? それじゃあやっぱ無しだな」
「ショートコント! 魔王! ……ぐっ……まずい、このままでは魔王に……ん? こんなところにヒラミレモンが……」
──バークスハムは即座に実行した。未来を手繰り寄せるために。
そしてこの後、再びガイに何度もパスやチェンジを言い渡されることになり、バークスハムは危機感を覚えるが──一連の無茶振りが終わった後、改めて予知を行い、善ガイの時には普通に誠実に、悪ガイの時なら人間の女を調達して役に立つところを見せればどうにでもなると出たので後日、それを実行に移し、レーモン・C・バークスハムはめでたく魔人ガイの使徒になったのだが……それはもう少し未来の話であり、現在のバークスハムは未だ無茶振りを受け続け頭を抱えていた。
遂にバークスハムが登場です。こんなギャグみたいな出方だけどかなり重要キャラよねってところで今回はここまで。次回はまたガイか、あるいはジル様です。お楽しみに。
感想良ければよろしくねー。