下級使徒の労働は奴隷と違ってきちんと考えられたものだ。
城で働いているメイド達。料理人。親衛隊も一日の労働時間はきっちり定められている。週に一日は必ず休日を与えられるなど待遇はとても良いものだ。
……正直なところこれだけ良い生活を送らせて貰っているのだからもう少し働かせても良いと思うし、この城にいる人間のほぼ全員がそう思っているのだがレオンハルト様は「主としての沽券に関わる」として休日を義務付け、労働時間もあまり長時間にならないようシフトを組むように私やメイド長さん、料理長などの各ポジションの責任者にそう告げている。
とてもありがたいことだ。野良の人間であればおそらく毎日生きる糧を得るために動いているというのに、私たちは“何もしない”という時間すら享受出来るのだから。
まあもっとも、メイド長さんや料理長はレオンハルト様に直談判してほぼ毎日働かせて貰っているし、メイドもレオンハルト様に奉仕したいと積極的に仕事をこなそうとするのだから実際にしっかりと休日を取っている人は数少なかったりする。これもレオンハルト様の人徳の賜物だろう。
ちなみに使徒にもなると休みとか働くという概念は存在しなくなる。使徒にとって主に仕えることや主のために尽くすことは当たり前だからだ。主に求められたことをこなし、それ以外の時間は使徒にとって様々だが割と自由である。使徒に完全な自由意志を与えているレオンハルト様であれば尚の事。伸び伸びと過ごすことが出来るだろう。使徒になることで能力が強化されることも大きい。体力も増えるので疲れることも少なくなるだろう。
「あ、イヴちゃん」
──と、使徒について再び思いを馳せながら廊下を歩いているとちょうどそこに使徒の2人がいた。
なので私は立ち止まり、挨拶を返します。
「お疲れ様です。ペール様、お町さん」
「お疲れ様ですよーイヴちゃん」
「イヴか。うむ……今日も元気そうで何よりだ」
使徒のペール様にお町さん。2人からの声掛けを受け、自然と会話を行う。お町さんは最初に白兎さんと一緒に出会った時から友達ですし、ペール様の方は使徒の中でもかなり親しみやすい方なのでコミュニケーションは取りやすい2人だ。
だからまあ一緒に過ごす時間は普通に有意義ではあるけれど。
……それにしても……相変わらず大きいですね……。
しかしだ。こうしてこの2人が並ぶと結構な圧を感じる。
それは使徒という上位生物特有の魔の気配というわけでもなく、性格的なところから来るものでもない。ただ単に、その豊かすぎる胸の膨らみから感じる圧だ。
いやまあ私が勝手に感じているだけですし、もう結構慣れて来てもいる。私だって多少は成長してますし……。
ただそれでもこの城にいると敗北感を感じることは多々ある。
何しろこの城で働いているレオンハルト様の下級使徒であるメイドの大半は巨乳だ。なので巨乳が珍しくないどころかスタンダードなので慣れるというか麻痺してくる。巨乳じゃない普通の大きさや貧乳も沢山いるし、この城に来る前ならかなり大きいと思っていたであろう巨乳もお町さんやペール様みたいな上位層と比べると小さく見えてくるという恐るべし現象が起きているのだ。何しろ私の頭より大きいですし……。
ま、まあでも私は私で成長しているし、胸は小さかったとしても十分に可愛いはずです、と私は2人の胸と自分の胸を見比べながらそう思う。絶世の美女、美少女だらけのこの城だとそれもまた感覚が麻痺しそうになりますが、私は十分に上位のはず。
「……イヴ? どうかしたのか……?」
「! い、いえ何でもないです。それより……お二方は何を話していたんです?」
そうして頭の中で胸や見た目のことについて考えているとお町さんが訝しんできたので何でもないように装う。別に敗北感なんて感じてないし、負けてるのは胸だけだとそう結論付けておく。
そしてその上で誤魔化すために質問をするとペール様が笑顔で答えてくれた。
「明日のレオンハルト様の休日にどんなエッチなことするかを考えてるんですよ♪」
「あっ、そういう話でしたか……」
と、私はペール様の言葉に気まずさを覚えてしまう。とはいえ下級使徒筆頭としてその話題も把握しておく必要はあった。私はちょっぴり感じる羞恥を堪えて2人に聞き返す。
「どんなものが候補に上がっているんです?」
「うーん、今回は時期的に水着イベントが安定ですかねー。ちょうど潮も満ちてますし、外でするのも悪くないです。もしくは以前やって好評だった制服シチュエーションプレイとかバニーガールでの接待風プレイも良さそう──って感じで話してましたねー」
「けもみみぷれい……というのも良いと我は思うのだがな……」
「それお町さんが1番有利というか相性良いやつじゃないですか。それは3回前の休日にやったんでダメですよう」
「ううむ……なら定番のろーしょん女体風呂や乳並べは……」
「その辺りはレオンハルト様も気に入ってますしいつも通りプログラムに加える予定ですね~」
「……また結構大規模になりそうですね。まあ仕方がありませんが……」
毎度の事ながらまたかなりのハーレムプレイを行うつもりのようなので私はシフトの組み方やスケジュールについて頭を悩ませる。何しろ人数が人数だ。
レオンハルト様の下級使徒はメイドだけでも500人を超える大所帯であり、その全員がレオンハルト様に救われた経験を持っていることもあってかレオンハルト様を慕っている。
なのでその全員がレオンハルト様の女という世界一のハーレムを築いているのがレオンハルト様なのだが……そうなってくると相手をするだけでもかなりの日数や時間がかかる。
普段の一日でも10人くらいは平均で抱いていて、定期的に女性と過ごす日を作っては100人くらいは抱くこともあるのだ。
そういったエロいことをする調整を行っているのが使徒のペール様であり、彼女はレオンハルト様を気持ちよくすることを常に考えている。条件に合致する美少女を見つけたら積極的に下級使徒にならないかと勧誘してレオンハルト様に捧げ、飽きが来ないようにシチュエーションやプレイ内容を考えたりしてイベントのようにローテーションを組んだりすることを提案したのもペール様で、下級使徒の女の子に性的な知識を教え込むのもペール様の仕事だ。
そしてそれに最近はお町さんも加わっている。お町さんはレオンハルト様を慕う女性の中でもかなり愛が深い人なのでレオンハルト様が喜ぶことは積極的に行おうとするし、何だったら情事にもペール様と同じで城にいる日はほぼ毎日参加している。
……そういえばそれも使徒になった特権と言えますね。
レオンハルト様と恋仲にある魔人の方と同じく、使徒になると寵愛を頂く際に優先されるためそれもまた下級使徒とは違う点だ。
とはいえレオンハルト様は個人の意思を尊重する方なので自分から女性を口説くことや夜伽を命じるようなことはしない。なので私なんかはそういった経験が未だないわけですが……。
「……ふーん……ふむ、ふむ……ほうほうほう……」
「っ、な、何ですかペール様?」
私がレオンハルト様の性事情について思いを馳せているとペール様が私を見ていた。
私の顔を見た後に、足元から順番に身体を品定めしているような、そんな気配を感じる。ニヤニヤと笑ってもいた。こちらを見通すような視線で。
「いえ、そういえばイヴちゃんも成長してそろそろ良い感じだと思いまして」
「な、何が良い感じなんですか?」
「ふふふ、分かってるくせに~。イヴちゃんも、そろそろレオンハルト様に抱いてもらいます?」
「そ、それは……!」
分かっていた質問が来た。が、分かっていてもちょっと動じてしまう。そういった話題は少し苦手なので。つい情緒が乱れて顔が赤くなる。
「そろそろ経験したいですよね? レオンハルト様のことは嫌いですか?」
「い、いえ……別にそんなことは……」
「じゃあそろそろアタックしません? きっとレオンハルト様も喜ぶと思うんですよねー。有能で可愛いイヴちゃんがアタックしたらきっと受け入れて愛してくれますよ?」
「それはまあ……そうかもしれませんけど……」
ペール様はこちらに顔を近づけてニヤつきながら中々に卑怯な質問をしてくる。
確かにレオンハルト様のことは嫌いじゃないし好ましく思っているし、性的な経験にも興味はある。もう少しで1000年物になってしまうし、それもどうかと思っている。以前と比べて成長したせいか、ここ最近は欲求や好奇心が肥大化していることもあった。
ただ今まで蓋をしてきたし、これからその蓋を外すにしてもその外し方がいまいち分からない上、他の問題や悩みのこともあって躊躇している。
なので私は恥ずかしさを感じながらこう答える。
「……ええっと、出来ればもう少し待っていただければ……」
「ありゃ。まだダメですかー。それはしょうがないですね」
私がそうやって解答を伸ばすとペール様はそこであっさりと引き下がる。無理強いは行わない。そういうスタンスはペール様もまた同じだった。
「でも気が変わったらいつでも言ってくださいね? その時はペールちゃんもイヴちゃんのために一肌脱いでレオンハルト様の好みでも何でも教えてその場をセッティングしてあげますから!」
「うむ……イヴならばレオンハルトも喜ぶであろうな……我もイヴならば床を共にするのも吝かではない」
「あはは……ありがとうございます。その時は是非よろしくお願いしますね……」
その時が来るなら出来れば自分のペースで行いたいので多分言わないし、初手からいきなり複数人プレイもちょっと……さすがに恥ずかしすぎて遠慮したい。
「あ、それとついでにイヴちゃんの性癖についても聞いてもいいです?」
「……ダメです。なぜそんなことを聞くんですか?」
「城内の性事情の管理はペールちゃんの仕事だからですよう! もし特殊性癖なんて持ってたら大変ですしね。カイゼル様の妹萌えみたいな他に影響がありそうな性癖でも困りますし」
「……前々から思っていましたがよくレオンハルト様のお子様の性癖まで知っていますよね……どうやって調べたんですか?」
「ふふふ、そこは企業秘密ですよう。ちなみに管理のためにイヴちゃんにも教えとくと、アルベルト様はお尻好きでシュヴァイン様はロリコンです。なので気をつけてくださいね?」
「……聞きたくなかった情報をどうもありがとうございます」
「子供か……我もレオンハルトの子を孕みたい……」
「そ、それはまあ、その、頑張ってくださいね……」
そうして私はペール様とお町さんと別れることにした。苦手なところは見せたくないので付き合いますけど、やっぱり性的な話は恥ずかしくて得意じゃない。
そういう意味でも克服したいなと思いながら私は待ち合わせ場所へ急ぐことにした。
夜になってもレオンハルトシティは仕事を終えた魔物達によって活気づいている。時間的に夕食時で飲み歩いている魔物兵も多く往来する中、私は白兎さんと合流して一番街──魔物将軍以上が暮らす邸宅が建ち並ぶ住宅街に向かい、その路地にポツンとある小さな屋台に顔を出した。
「大将、やってるー?」
「おお、やってるぜー。──って白兎にイヴか」
「何ですかその挨拶は……?」
「ふっふっふ、以前教えてもらいました。こういうこじんまりした常連のお店で暖簾を潜りながらこの挨拶を繰り出すと常連っぽさが出せるそうです」
「また妙な知識を覚えてきましたね……それはそうとこんばんは、戯骸さん」
「おう、らっしゃい。何にするよ?」
「いつも通りおすすめをお願いします。お酒は……私は軽くて甘めを。白兎さんは?」
「私はいつも通り、何でも来いです!」
「あいよ」
私と白兎さんは常連のお店──はぐれ使徒である戯骸さんのやっている屋台の焼き鳥屋に腰掛け、いつも通りの注文を行う。
ちょっと前にこの街に移り住んだ戯骸さんだが、ずっと何もしないでいるのは暇ということで気まぐれで焼き鳥屋を始めたので私や白兎さんはここの常連として定期的に通っている。戯骸さんは私たちの友人でもあるのでそのやり取りは気安いものだ。
「今日はお町の奴は?」
「お町さんはレオンハルト様の方ですね。明日は休日みたいなので」
「かーっ! そりゃ羨ましいもんだ。俺も1度くらいレオンハルトの奴に抱かれてみてぇなぁ……」
「キー!」
「それは難しいだろって藤吉郎さんが言ってますよ」
「おいおい、そりゃ分かんねぇだろ? レオンハルトもいつか女に飽きて男に走る可能性が……」
「あったらさすがに困ります……」
「というか娘の前であんまり親の下の話はやめてくれませんか?」
「おっと。そりゃすまねぇな──っと、まずはお通しだ」
「ありがとうございます。それじゃイヴさん──乾杯です」
「ええ、乾杯」
戯骸さんがお通しを。そしてこの店を時折手伝っている同じくはぐれ使徒の藤吉郎さんが飲み物を私たちの前に出してくれたので白兎さんと乾杯する。常連なので出してくるお酒も私たちの好みのものだ。何百年か前から飲み始めたが、私はそんなに強くないのでいつも軽めで、白兎さんの方はかなり強いので何でも飲める。母親やその父親もかなり強いので血筋らしい。レオンハルト様も一応飲める方ではあるみたいですしね。
そしてこの戯骸さんの焼き鳥屋『一番星』だが私たち以外にもハンティ様が常連だったり、食通のガルティア様やレオンハルト様なども来るくらいには味は良い。火力と火加減が絶妙で知る人ぞ知る名店なんですよね。
「相変わらずすごい美味しいですねっ!」
「本当に美味しいです。流行ってないのがおかしいくらいには」
「そうなんだよなぁ。なんで流行らねぇんだろうな?」
「きー!」
「多分戯骸さんのせいではないかと……」
多分、というか絶対、戯骸さんが男の子モンスターを襲うせいですよね……。
昔は分からなかったけど、戯骸さんはいわゆるホモなので男性に性的興味がある。なので時折男を襲うし、ホモであることがこの辺りに住む魔物将軍にはバレているので避けられているのだ。
まあ見知った人だけで楽しめるのでそれはそれで良いんですけどね。
……内緒話もしやすいですし。
「…………あの」
「…………その」
「「あっ」」
なので早速話を切り出そうとしたが──そこで声が被ってしまい、互いに顔を見合わせてしまう。
「……白兎さんから話しても構いませんよ」
「いえいえイヴさんの方から……と、言いたいところですが、そうですね。私の方から話した方が良いかもしれません」
私が気を使って先にどうぞと譲ると白兎さんもまたそれに応じた。
カウンター越しに戯骸さんもいるがそこは黙って聞いている──いや、聞いていない振りをしてくれている。真剣っぽい話の雰囲気に水を差すようなことはしない。藤吉郎さんも一緒だ。
そして私たちもまた聞かれても構わないと思うからここを選んでいる。なので、2人に聞かれていることなど関係なしにその話は2人だけのように軽かった。
「イヴさん──私に気を使う必要はありませんよ?」
「…………それは」
白兎さんからのその言葉に、私は言うまでもなく意味を理解する。理解出来る。
それはずっと私が考えていた、悩んでいたことだからだ。それを白兎さんは告げてくる。
「イヴさんがそうありたいと思うなら私はその意思を尊重したいですし、邪魔にはなりたくありません」
「……なら、白兎さんは別に構わないってことですか?」
「はい。当然じゃないですか。──イヴさんがパパの使徒になるなんて大したことじゃありませんよ」
と、白兎ははっきりとそう告げてくる。
その言葉は嘘じゃないものだ。私には分かる。白兎さんの心を読める私には、そこに一切の嘘が混じっていないことが分かった。
だからこそ私は息を呑み、そしてそれを吐き出す。何百年分かの溜息。私達の性質を考えれば遅すぎた歩み寄りに。
「……はぁー……やっぱり、気を使いすぎ、でしたかね……」
「そうですよ。なので私も、かなり気を使ってしまいました。なのでそこは互いに反省点ですね」
「ずっとそう思ってたんですか?」
「本当に最初の最初はどうかと思いましたけど……すぐにその気分はなくなりましたね。別に何も変わらないことが分かったので」
私の質問に白兎さんは昔を思い返し、そして今を実感するようにして答える。私だけでなく、他の人のことも考えた上で。
「ガイさんが魔人になって、お町さんが使徒になって。それでも友達じゃなくなるわけじゃありません。そもそも私だって魔人の子供ですし特殊な存在であることには変わりませんから」
「まあ……それはそうですね」
誰がどうなろうと友達付き合いは続いている。そのことを白兎さんは微笑を向けて答えてきた。
それを見て私もつい笑みを浮かべてしまう。
昔からそうですが……やっぱり白兎さんは素直で前向きなんですよね。
だからか、ひねくれているはずの私もつい素直になってしまうのだ。
「なら使徒になりますけど、良いんですよね?」
「ええ。むしろ、是非なってください。イヴさんは優秀ですし、パパを支えてくれるなら嬉しいです。それに、なって貰わないと困ります」
「困るんですか? それはどういった意味で?」
「これ以上、成長してもらっては困りますし」
困るという言葉に軽く困惑して聞き返すと言葉がすぐに返ってきた。
私が意味を理解して空白を作ると、白兎さんの方も1度間を置いてから怒りすら見せるように立ち上がり、指を突きつけてくる。
「というかですね! 何を普通に成長しちゃってるんですか! 普通そこは私に合わせて永遠のロリ体型でいるところでしょう! お約束を破らないでください!」
「あ、あー……それはですね……」
「それは、なんですか!? 絶対計算してましたよね!? ちょっと成長して私と差を付けるために!」
声を大にしてずっと思っていたであろう文句を口にしてくる白兎さんに、私は目線を反らして頬を掻く。計算していたところは実際にあったため、バツが悪くなった。とはいえ、
……なんというか、白兎さんの方は良くも悪くも子供っぽさが抜けませんね。
目の前の友人の変わらなさを思って苦笑する。無論、成長はしているとはいえこういうところは変わらない。
なので私もまたそれに合わせることにした。白兎さんをからかうようにいやらしい笑みを携えて。
「もしかして……悔しかったんですか?」
「! べ、別にそんなことは……」
「まあ白兎さんと違って、私は背も伸びましたし胸も大きくなりましたからね? この成長ぶりから考えてもこれ以上成長してしまえばどんどん白兎さんと差が付いてしまうことになりますし……確かにそれは止めたいですよねぇ?」
振り回されるばかりなのであまり出すことのない子供の頃の私を思い出して白兎さんを煽ってみる。心を読める私にとって相手の嫌がるところを突くのは造作もないこと。
だけどそれをすると嫌われてしまうことは分かっていたため抑えてきていた。相手の心が読めるなんて生まれ持った能力も、他者からしてみれば気持ちの悪いもので化け物扱いをされるものだと思っていたために。
実際相手のことが見えすぎるのは心を読めると分かっていなくても相手からすれば気持ち悪い。なのでその能力を用いて利用することは極力避けてきた。
……だけど、ここにいる人達は嫌わない。
白兎さんやレオンハルト様。その周囲にいる人達はみんな、誰も彼もおかしい人ばかりで、それだけに妙に懐が大きかったり、遠慮がなかったり、細かいことを気にしなかったり、感情や気持ちを素直に表現してくれる人ばかりだ。
だからこそ私も素直になれる。相手の心を読んで、少しくらいからかったとしても受け入れてくれると確信出来るから。
「それならそうと早く言ってくれれば良かったですね。ま、今から使徒になってもこれ以上小さくなることは出来ませんから、私の勝ちは変わりませんけどね」
「ぐ、ぐぬぬ……! 言わせておけば……! わ、私だって成長する可能性はありますし! まだ負けたとは決まっていません!」
「ほぼ1000年かけてこれなら私に勝つには何万年必要なんでしょうね?」
「くっ……か、勝ち誇れるほど成長してないくせに……!」
「白兎さん、今身長幾つでしたっけ? 私は150センチも超えましたけど。私の記憶だとまだ140センチもなかったような……」
「強さでは私が上ですよっ! なので私の方が大人です! そもそも歳上ですし!」
「見た目では私の方が上だと認めるんですね? それなら別に良いですよ。私は白兎さんよりか弱くて年下の大人の女性ということで」
「っ……! ぐぬぬぬ……!」
私の言葉の攻撃に白兎さんはぐうの音も出ない様子。勝ちましたね。論破しました。
さすがにその先の「白兎さんは私より強い歳上のロリババア」という煽り言葉は思いつきましたけどやめました。手が出ると困りますし。
「…………まあ、いいですけどね! 私は全然、これっぽっちも気にしてませんし!」
「そうですか。ならこれ以上はやめておきましょう」
白兎さんはそう言ってコップの中のお酒を一気飲みした。私も合わせてお酒を口に含む。ふむ、やっぱり美味しいですね。
「……ハハハ、お前らやっぱ面白ぇな」
「む、なんですか戯骸さん。あなたまで私を子供だと言うつもりなら斬りますよ?」
「そんなつもりはねーよ。……それよりもイヴが使徒になるたぁな」
「何か言いたいことでもありそうですね? 私が使徒になることについて戯骸さんは思うところでも?」
「別になんもねーよ。覚悟も決まってるようだしな。それなら俺から言うことは何もねぇ」
私たちの話に区切りがついたと見たのか戯骸さんが割って入ってくる。煙管から炎を出しながら笑った戯骸さんは私と白兎さんの前に新しいお酒を出しながら。
「だが使徒仲間が増えるのは嬉しいぜ──だからこいつは奢りだ」
「戯骸さん……ありがとうございます」
「おう。それじゃ俺も飲むから乾杯でもしようや」
「良いですね。それなら今夜は朝まで飲みますよ! 今夜は寝かせません!」
「いや白兎さん。その台詞は使い時を間違えている気が……」
「乾杯です!」
「乾杯!」
「キー!」
「って聞いちゃいませんね……まあいいですけど。乾杯」
騒がしい友人達にやや呆れながらコップを掲げて酒を呷る。
だけど……私にとってこの日常こそが、私の守るべきものだ。
だからこそ私はそれを決めた──次の日。忙しいレオンハルト様に時間を作ってもらい、私は彼の前で片膝を突いて口にしたのだ。
「使徒になる申し出を受けたいと思います」
「……それは……随分と急だな」
「ご不満ですか?」
「いや、不満などあるはずがない。お前が使徒になりたいと言うなら歓迎する。……だが、理由を聞いても構わないか?」
今まで保留にしてきたのにここで使徒になると決めた心変わりについて当然問いかけられる。
だが私は素直に理由を口にすることにした。言葉を脚色することもなく。
「はい。理由は幾つかありますが、1番大きいのは……レオンハルト様と私の目的が合致すると思ったからです」
「俺の目的と合致だと?」
「はい。私は……この場所が、この環境が、ここにいる人が、好ましいと思っています」
自然に心に浮かんだ言葉をそのまま口に出す。
「ここには私の大事な主や、大事な同僚、そして大事な友人がいます」
仰ぐべき主に一緒に働く同僚。そして大切な友人。
「私はそれを守りたいと思いました。以前のようにただ上を目指すのではなく、この環境と秩序を守り、大事なものを守る。そのために支えたいと……そう思ったんです」
正直な気持ちを口にする。自分の大事なものを守りたいと。
そしてその気持ちを同じくしているであろうと主の気持ちを勝手に読み取って口にする。
本来なら許されない。忌避されてもおかしくはないことを。
「私には人の心が読めます。この力を含めて、私は私の力を用いてレオンハルト様を支えたいと、そう思います」
そう。だからこそ、先に口にしておかなければならない。
「ですが心を読めるからこそ、私は人の知りたくない秘密でさえ時に知ってしまいます。──そしてそれは、レオンハルト様。貴方であっても例外ではありません」
もし使徒になればより接する時間も増えるだろう。
あるいはこの力が更に強化されるかもしれない。
そうなれば私は主や同僚、友達の隠したいことでさえ知るはめになりかねない。
「なのでもし……それを懸念されるのであれば、私は使徒にならない方がよいかも知れません」
私を近くに置くということはそういったリスクを孕むのだ。
そう改めて説明した上で、私は手を差し出す。
本来は不敬であると承知の上で。
「ですからレオンハルト様。もし私を使徒にしてくださるのでしたら……この手を取ってください」
私に触れて欲しいとお願いする。
それは暗に、心を読むと伝えていたし、実際に読むことになる。
今まで敢えて避けていたことでもあった。何しろレオンハルト様は責任ある立場であり、内心を知られてはならない方でもあると思ったから。
勿論、触れても読もうと思わなければその深い秘密まで知ることは出来ない。だけど、敢えてそれを示してみたかった。
「お願いします」
「…………」
私はレオンハルト様と視線を合わせる。その赤く鋭い目。魔人としての気配を強くしている彼に向けて。
しかし恐れはない。レオンハルト様がそうある理由を、私は半ば知っている──いや、推測しているから。
「……理由はそれだけか。なら──」
レオンハルト様が動く。私の意図をしっかりと汲み取ってくれた上で。
私の差し出した手を、容易く取って見せた。
「──俺の答えは変わらない。イヴ、お前のことはとっくに信頼している。その程度のリスクを口にしたところで、
「──!」
そしてレオンハルト様は、私にとって求める答えを口にした。
私は心に感動を覚えながら、思う。何しろその言葉は。
……やっぱり、親子なんですね。
たとえ私が何者になろうとも。心を読めるとしても。
私に対する想いは変わらない。だからこそ──
「ありがとうございます、レオンハルト様……私も、貴方様のことは信頼しています。そして貴方のことを支えたい。尽くしたいと思います」
「元よりお前には支えられている。だがこれからはより頼りにさせてもらおう。俺やお前の大事な物を守るためにもな」
「──ええ。より一層の献身を約束します」
だからこそ、私もまた信頼出来る。
初めて握るレオンハルト様の手。男の人の手。力強く温かい手を握り、私は誓う。
以前までは素直になれなかった私の心に。目の前の御方を含めた大事なものを守るために……私はこの御方を支えてみせると。
「それならば早速、血の契約を始める」
「はい。お願いします」
──そしてレオンハルト様からの血の契約を受け入れれば、私の存在は新たに作り変えられる。
あらゆる能力が強化され、衣服が変化し、魂から別のものになった私はレオンハルト様の隣に立って、言葉を交わした。
「これからよろしく頼むぞ──イヴ」
「はい──レオンハルト様」
新しい私は主からの微笑に対し、信頼と好意、そして喜びから生じる心からの笑みを浮かべ、共に歩き出す。
──そうしてその日……私は人間をやめてレオンハルト様の使徒になった。
──新たに使徒になったイヴが俺の娘である白兎に会って話をしているところを見て俺は思う。
イヴは白兎の友人だ。だからこそ、俺の使徒になってからも変わらず友人として支えてほしいと。
何しろ、だ。白兎は友人想い。それだけに今後、友達に何かあった時に落ち込んだり悲しんだりする可能性がある。
──いや、確実にその時は訪れる。
俺はその未来を思い、憂いながらまた別の者と会っていた。
「レオンハルト。以前話していたことだが……本当に間違いはないんだろうな?」
その者とは──魔人ガイ。
そのガイの表とも言うべき顔が、俺に真剣に尋ねてくる。だから俺もまた真剣に答えた。
「ああ。魔王の寿命……いや、任期は決まって1000年だ。そのタイミングで魔王は代替わりを行う。そうしなければ徐々に力は衰え、いずれは消滅してしまう」
「……そうか。ならば──」
表のガイは人を憂う。
ゆえにこそ以前俺から聞いた話を改めて確認し、そして僅かだが希望を抱いているようだった。陰鬱さを隠さない、その目に僅かながら光が灯っている。
「──もうすぐだな」
「……ああ。そうだな」
──ああ。
俺はガイの質問に嘘偽り無く答えながら思う。
確かに魔王には通常、寿命が存在する。
そして仮にそれがなくなったとしても、代替わりは必ず起こるだろうし──起こしてみせると。
聞きたいことを聞き終えて背を向けて去っていくガイの背中を見送り、頭の中で
──そしてすぐに変わらない答えを得て歩き出した。
今回はこんな感じで。遂に8人目の使徒。イヴちゃんが加わりました。
正直なところ、ガイ編の始まり辺りでは使徒になるのはシビュレーの方かなぁとか考えてたけど結果的にこっちになった。連載のライブ感はやっぱり怖いねって。
能力的には改めてまた今度公開するけど読心能力が強まったり秘書LV2だったり普通に強くなったりとかそんな感じです。使徒になってメインキャラに躍り出たんで見た目や衣装的にはどんな感じかと言うと原神のフリーナみたいなのをイメージしてます。
そして次回からはGL期末期の魔王戦争編です。魔王と一魔人が4年も戦争するとかいうワケワカメな戦争だけど公開されてる情報とかから考察して自分なりの解釈で書いていきますのでお楽しみに。
良ければ感想よろしくねー。