──GL1000年。
人類が魔物によって支配され、千年の時が過ぎた。
「おらぁ! もっと良い声で鳴きやがれ!」
「ひぐっ! うぐっ!」
「あ゛ー……っ! うっ゛!」
全ての国、文明が破壊され、人間は大陸各地に建てられた人間牧場に収容され、魔物を楽しませるための家畜として虐げられている。
「お、今回は親子だぜ!」
「当たりだな! 2人共仕留めて犯しちまおう」
「いやああああああっ! やめてええええええっ!」
「お願いしますっ……! 子供だけは……!」
そして牧場に収容されていない人間もまた、その多くは魔物の行う人狩りの標的にならないように息を潜めて隠れ住んでいる。
魔物に見つかれば苦しめられ、尊厳を破壊された上で殺される。野良の人間は牧場の人間と違ってお目溢しが許される。
人間を殺してはいけないという魔王の敷いたルールも野良の人間に限ってはある程度は許されるのだ。
ゆえに魔物達は娯楽のように人狩りを行う。そこに慈悲は一切ない。
人がムシに対してやるように、魔物も人の事情を考慮したりはしない。
「ふわぁ……今日も平和だな……」
大陸を魔物が支配している。
ゆえに魔物から見て今の時代は平和そのもの。争いの起こらない魔物の黄金時代であった。
「なんかよぉ……たまにはもっと刺激的な狩りがしたいよな」
「普通の人狩りじゃダメなのか?」
「そういうんじゃなくて……もっとこう、対等な戦いがしてみたいっつーか……人狩りなんてやったところでこっちが勝つに決まってるしよ」
「魔物討伐隊とかを狙いたいってことか?」
「まあ……でも魔物討伐隊もなー……狩る時はこっちの方が数も多いし強いし……絶対負けないから刺激が少ない気がするんだよ」
「……まあ言わんとしてることは分かるが……人間相手じゃそれもしょうがないだろ」
「まあな……でももっとこう、対等にバチバチにやり合ってみたいんだよな。それで強い人間の首を狩って昇進とか出来たら最高だろ?」
「あー昇進か。確かに、戦いがないと昇進は出来ないよな」
「そうそう。だからもっと人間には頑張ってほしいぜ」
「弱っちいくせに人同士ですらまとまれねぇからな、あいつら。まあ馬鹿なんだろうから仕方がないけどよ」
「マジでそれだよな。はー……俺ももっとバンバン戦って人殺しまくって昇進してー」
人間は魔物よりも弱く頭の悪い下等な生き物。
それが魔物にとっての常識であり、彼らは人間を苦しめることも殺すことも何とも思っていない。
魔物を狩る魔物討伐隊という集団にしても、精々ちょっと強い獣が群れを組んでいるという程度の認識しかなかった。
「──やれ」
「ん……? 今なんか声がしなかったか?」
「気の所為だろ。それよりそろそろ交代の時間──」
──そう、強い獣の群れもまた中には存在する。
ゆえに事故が起こることもままある。
「ぐああああっ!?」
「──何だ!? 急にどこから……!」
「人間です! おそらく魔物討伐隊の……!」
「チッ……! 面倒な……すぐに蹴散らせ! 奇襲を掛けられたからと言って人間如きに殺されるな!」
「──そうか。ならお前も、その人間如きに殺される恥を受け取るがいい」
「!? 貴様……!」
「死ね、クズ共」
時に流れる血は人間ではなく魔物のものになる。
「ぎゃああああああっ!」
「……こんなものか」
「若! お怪我は?」
「支障はない。それよりも魔物隊長を倒した。指揮が乱れている内に追撃を行ってくれ」
「はっ!」
かつての時代で人間が野良の魔物に襲われたり、ムシによって怪我をさせられる事故が起こるように、今の時代でも人間による事故は起こっている。
『さすがの手際ですね』
「魔軍は集団の頭さえ切り落とせば統制を失う。これくらいは常識だと思うが?」
『知識ではなく強さの方です。貴方も貴方の率いる党も強者ばかり。魔物を屠る手際にも無駄がない』
「これくらい出来なければ野では生きられない」
そういった事故を起こすのが魔物討伐隊であり、あるいは一部の人間の強者であった。
今日もまた大陸のある土地で事故が起きる。中性的な容姿と艶のある黒髪が特徴的な少年とその彼が率いる集団によって一部隊が壊滅した。
「魔物だけ狙ってもどうしようもありませんけどね」
「……
「……一応あなたのためを思って言ってるんですけどねー」
「それが本当であるという確証はなく、また信用もない。そちらの言動には矛盾がある」
その少年はまだ年若いながらも達人級の剣の腕前を持ち、頭脳明晰かつ冷静沈着。そして野良で生きる人間には欠かせない警戒心と洞察力を持ち合わせていた。
「確かにそちらがもたらした勇者の能力に矛盾はないようだ。これにより私の強さは一段も二段も上昇したことに間違いはないだろう」
「だったらもう少し信用してくれてもいいんじゃないですか?」
「それはこちらが判断することだ。それに、私は都合の良い話を持ってくる者も“信用してくれていい”なんて言葉を使ってくる者を馬鹿正直に信用するような愚は犯さない。ましてや、人を救うために人を殺すべき、なんて嘯くような相手に心を開くことはない」
「それが人間を救う最短の道だとしてもですか?」
ゆえに彼は勇者でありながら──勇者の従者という存在を全く信用していなかった。
その腰に差した二刀の内、光る刀であるそれを従者であるコーラに突きつけながら彼は言う。
「何度も言わせるな。私の行動は私が決める」
「……はぁ……ええ、分かってますよ。もちろん」
「なら無駄口は慎んでもらおうか」
溜息付きで頷いたコーラに続いて、少年は自らが持つ刀の方にも注意する。
「そしてそれは君も同じだ、
『……ええ、分かっています』
「分かっているなら構わない」
少年はその聖刀・日光を鞘に収めると周囲にいる部下を呼び付けた。
「討ち漏らしは?」
「ありません。一個部隊200体全ての討伐を確認しました」
「よし。ならば物資の回収を終えたらすぐに撤収する」
「はっ!」
党首である少年の指示を受けて部下の侍達は動き出す。
部下の練度は高く、連携も取れている。それを確認しながらも少年の表情は険しい。
「……これではまだ足りないな」
集団の力不足。そして、自分も含めて個々の力不足を感じて少年は目つきを鋭くする。
彼の目的である魔人──いや、魔王の討伐を思えばこの程度で足りるわけがないことは明白だった。
だがかといって、勇者の従者が言うように人を狙うことはしない。
だからこそ彼が考えたのは、人同士で徒党を組むことだった。
(個人での力には限界がある。利用出来るものは利用しなければ……な)
人間個人の力では魔王どころか魔人にも届かない。
そのことを彼は身をもって知っている。
「──宗近様。物資の回収、滞りなく完了致しました」
「ご苦労。では予定通り西の隠れ里へ向かう。全隊に指示を出せ」
「はっ。直ちに」
JAPAN出身の侍、武士で構成された魔物討伐隊「大和剣平団」の党首であり、聖刀日光の使い手である彼の名は──宗近。
少し先の未来である魔人と共に戦争に身を投じることになる──今代の勇者であった。
──大陸東部。
不自然ですらある黒い雷雲が空を染め、魔の気配が充満するその城にはこの大陸を支配する魔物達の王である魔王が住んでいる。
この1000年間、魔物達にとっては黄金時代を。人間にとっては暗黒時代を築いた最恐の魔王──ジル。
彼女はその全能力を人間を苦しめるためだけに使い、それ以外のことには興味を持たない魔王であった。
……が、そんなジルであっても僅かに興味を持つ相手が存在する。
「んっ……はぁ……いいぞ、レオンハルト……! もっと、もっと動け……!」
「はっ……分かりました……!」
1人は金髪灼眼の最強の魔人。魔人筆頭兼魔軍参謀である魔人レオンハルト。
人類最古の王であり、世界最強の剣士である彼はその役目に従い、魔王ジルをその鋭い肉竿によって悦ばせていた。
──だがもう1人、ここにジルに気に入られた魔人が存在する。
「さあ……次はお前の番だ、ガイ……お前も私を犯せ……!」
「っ……わ、わかった……それじゃ行くぞ……ふんっ……!」
「んっ、ああああああっ~~~……♡ いいぞ……お前も、少しは上手くなったじゃないか……!」
「まあ、な……(ちくしょう……なんでこの俺がレオンハルトでぐちょぐちょになったジルのアソコを犯さなきゃならん……! クソ……気持ち悪いが気持ちいい……!)」
もう1人は魔人四天王である魔人ガイだった。
彼もまたジルに気に入られた結果、愛人にして下僕という立ち位置でジルの寵愛を受けていたが……その表情は快楽だけでなく別の意味でも歪んでいる。
今のガイはエロいことは好きだが、この数百年で何度もジルに犯された結果、もう1人と同じような強い苦手意識をジルに感じていた。快楽こそ感じるが、精神的に参ってしまいそうな重圧も感じている。
そして逆らおうにも絶対命令権が存在するためにガイは逆らえないでいた。ゆえに、レオンハルトの後という行為であっても大人しく従って腰を振る。
ジルの肉壺は愛液とレオンハルトが出した精液でぐちょぐちょになっており、更にその中をガイの肉棒がかき分けていく。
そしてジルとガイが乱れる様を、レオンハルトは見ていた。ジルを満足させるための3Pを十全にこなすためにレオンハルトはジルの胸や尻を弄るが、その表情は何とも言えない渋い顔だった。
毎日のように酒池肉林とも言える性行為を行い、人類の歴史が始まってから最も多くの女と恋仲になった最大のハーレムを築くレオンハルトであっても、この状況はどうにも渋い顔を隠しきれない。
それはジルが相手──という要素も含んでいるが、そもレオンハルトは他の男を交えての性行為というものに及んだことがない。
また好んでもいなかった。凌辱、いわゆるレイプのようなものは人間の戦士時代に数度行ったことがあるくらいであり、その際にも1人の女を人目につかないところでやるような、戦争に勝ったその時代の兵士としては潔癖とも言えるような行為しか経験がなかった。
人間の兵士であっても魔物兵であっても勝った際の凌辱は当然のように行われるし、レオンハルトもその行為を時には黙認することもある。
だが自分は行わない。正義感ではなく好みの問題で。
しかしジルに命じられては是非もないため、レオンハルトはここ最近で何度かジルとガイによる3Pを行い、そうして半ば呆れの感情を見せていた。ここまで来ると嫌というよりも呆れである。
ガイほどジルの相手に辟易するような精神的摩耗を感じてはいないので、レオンハルトには余裕があった。慣れてしまい、感覚が麻痺している。
「っ……イク……!」
「出せっ……♡ 私の中に……っ……あぁあああ~~~っ♡」
ゆえにガイがジルの中に精液を放出し、互いに絶頂する様もレオンハルトは冷静に眺めていた。僅かに眉をひそめはするし、その分の感情の揺らぎはあるものの淡々とやるべきことを済ませていく。
「満足致しましたか? ジル様」
「っ……ああっ……今日も、悪くなかったぞ……」
「はぁ……はぁ……」
「では後始末を」
呼吸を整えているジルとガイを尻目にレオンハルトはタオルを三人分用意し、自分の身体を拭きながら更にはシャワーの用意をする。その手付きは完全に慣れたものだった。普段レオンハルトは身の回りのことを使徒や下級使徒に任せているため自分で行うことはないが、それでもこれくらいのことは普通にこなせる。
ジルは衣服を身につけることがないので着替えなどを用意する必要もないし、魔法で綺麗にすることも出来るとはいえ、こういう時は気分的にきちんと風呂やシャワーで綺麗にするのが普通である。
なのでレオンハルトはそのようにした。風呂を溜めてからジルに声を掛ける。
「湯浴みの用意が出来ました」
「ご苦労。なら……ガイ。私の身体を洗え」
「……分かった」
そしてどうやら供にはガイが選ばれたのでガイと共に備え付けの浴室へ入る2人を見送り、レオンハルトは一足先に着替えを行う。
いつもの黒と赤を基調にした軍服にも似た衣装と足元まであるコートに身を包むとレオンハルトは1度ジルの私室から出た。
「お疲れ様です! レオンハルト様!」
「お疲れ様です。今日はもう終わりですか?」
そうして部屋を出たところで2人の少女に声を掛けられた。1人はピンク色の髪をしたフリフリなお姫様衣装の剣士──使徒のミシェーラ・姫原。
彼女がキリッとした表情で礼をしてくるのを受け取りつつレオンハルトはもう1人からの質問にも答える。
「いや、まだ未定だ。今はジル様とガイが湯浴みを行っている」
「な、なるほど……」
「……左様でしたか。ではその間に幾つか報告をさせて頂いても?」
「ああ。頼む、イヴ」
そう、そのもう1人もまたレオンハルトの使徒である元人間の少女──イヴであった。
青っぽい白色。空色とも言える髪色で、白いショートパンツに青スカーフやブローチ、帽子に燕尾服風に裾が伸びてひらひらしたコートなど全体的に貴族のパーティにでも着ていくかのような凝った上質な衣装である。
そしてそれは使徒になってから得たものであり、その証拠にイヴからは以前にはない魔の気配を感じさせていた。
「ではまず最初に──城で行う予定の正月記念パーティですが、レオンハルト様が年明けすぐに魔王様の招集を受けたため命令通りレオンハルト様抜きでパーティを行いました」
「そうか。何も問題はなかったか?」
「ええ、多少の騒ぎや物が壊れたりということはありましたが問題なく。……とはいえレオンハルト様抜きでのパーティに不満を持つ者もいましたが……」
イヴはそこで軽い報告を行う。新しい年──GL999年からGL1000年になってからレオンハルトは魔王城に詰めていたため、毎年行う正月祝いを今年は行えていなかった。
仕方ないこととはいえレオンハルトは残念に思う──が、それを見越してかイヴは微笑んだ。
「──なのでレオンハルト様を加えてささやかながら親しい者を集めてのパーティの準備を進めさせていますので、帰ったらそのパーティへの出席をお願い出来ますか?」
「……ああ。もちろんだ。手際がいいな、イヴ」
「それほどでもありません。使徒として当然のことですから」
そう言って主に対して優雅に礼を行うイヴ。その行動はレオンハルトの内心を慮ったものであった。
ゆえにレオンハルトもその独断を諌めたり怒ったりすることはない。自分を想ったがゆえのサプライズだ。歓迎こそすれ拒否する理由はない。
「み、ミシェーラも飾り付けを頑張りました! それにプレゼントも用意しました!」
「そうか。ならそれも楽しみにしておこう。よくやったな、ミシェーラ」
「それほどではありません! 使徒として当然のことですから!」
「……ミシェーラさん。アピールするなら別の方向から行った方が……」
「そ、そそそそれくらいミシェーラには分かってますけど?」
「本当に分かってるんですか? それと、今はあえて言いませんけどあまり変なプレゼントをしてレオンハルト様を困らせないようにしてくださいね?」
「……だ、大丈夫です! ちゃんと頑張って選びましたから! レオンハルト様にも喜んでいただけるはずです! そう、ミシェーラには全部分かっています……!」
「本当に分かってくれてるならいいんですけどね……」
そしてイヴが褒められたことで嫉妬したのかミシェーラもまたアピールを行ってくるも、イヴが心を読みながら指摘を行ったことでミシェーラは明らかに動揺する。イヴもまたその様子に呆れていたが……そのやり取りにレオンハルトは小さく笑みを浮かべた。
「ふっ……とりあえず、もう少し待機しておいてくれ。おそらくもう少しで帰れる。そしたら正月祝いと……いや、その前に褒美をやろう。分かったな?」
「! ほ、褒美って……!」
褒美という意味深な言葉を聞いてミシェーラが顔を赤くする。
そしてイヴもまたミシェーラほどではないが頬を赤くして期待を覗かせる笑みを浮かべた。
「……それじゃあそっちの準備もしておきますね?」
「ああ。頼んだ──さて、そろそろ戻るか」
レオンハルトは2人の頭を軽く撫でてから部屋へと戻る。1度部屋を出たのはあくまでもちょっとした確認に過ぎない。
加えてあえて1度距離を取りたかったのだ。なので使徒である2人と軽く会話を行った後にレオンハルトは再びジルの私室に足を踏み入れる。
「──どういうことだ……?」
──だがそこで、レオンハルトはちょうど異変が起きたことを感じ取る。
レオンハルトがジルの私室に入ってから少し。シャワーの音が止まり、そろそろ浴室から出てくるかといったところで浴室からガイの声が聞こえてきた。
レオンハルトはそこで静かに耳を傾ける。この感じはおそらく悪ガイではなく善ガイだろう。性行為が終わって、思うことがあったのか切り替わった──そんな推測を頭の中で並べ立てながら。
「聞こえなかったか……? それとも、意味が理解出来ないのか?」
「……後者、です。魔王をやめないというのは、一体どういう意味ですか……?」
ガイの震える声とジルの愉悦を感じているかのような声が耳に届く。
その会話の内容を聞いて、レオンハルトは思った──遂に知ったか、と。
何しろレオンハルトにとっては既知の事柄ではあるが、ガイにとってはそれが初耳。それも、強い衝撃を受ける。驚愕の真実だろう。
ゆえにガイは意味が分からないと問い返し、ジルはそのガイが狼狽えているのが面白いのか、くつくつと笑いながら教えてやる。いっそ優しさすら感じさせるような諭す喋り方で。
「簡単な事だ。私は魔王だが……今の私には寿命が存在しない」
「そ、そんな……馬鹿なことが……」
「ないと思うか? くく……だが真実だ。今の私は
「……っ!」
──ジルは、自分が永遠の魔王になっていることをガイに教える。
それはガイにとって、いや、人類にとって絶望の事柄だろう。
魔王に寿命が存在すると知らない者にとってはそれほど衝撃ではないかもしれない。
だがそれを知っている者。ガイのような者には絶望を与える情報であった。
ジルが魔王を退けばこの地獄は終わる。そう思っていただけに。
「だからガイ……お前は何も心配する必要はない。お前も、そしてレオンハルトもこれからずっと、永遠に可愛がってやる……! くくく、ははははは……!」
──おそらく、ガイは今絶望を顔に浮かべているのだろう。
ジルもまたガイの人間に対する気持ちを理解しているがゆえに。その事実を教えてやることをずっと楽しみにしていた。
そしてたった今、その楽しみが実ったのだ。ガイの絶望と諦め。その表情から生じているであろう心の動きを思って味わっている。
「……ざけるな……」
──だが、ガイはそこで声を漏らす。
ジルの底無しの悪意に対し。ガイはある感情を沸々と湧き上がらせる。
「ふざけるな……! ふざけるなッ! なんで、そんな……! そんなことが……!」
「ふっ、くく、くくく……! どうしたガイ、何をそんなに怒っている。魔王が死なず、永遠の存在になったんだぞ? 私の忠実な魔人として祝福してはくれないのか?」
「ッ……ありえない……! 誰が、祝福なんてするものか……! 私は、そんなことは許さない……! 許してたまるものかッ!」
──ガイはずっと、そのことだけを希望に生きてきたのだろう。
魔人となって希望が失われても。ジルに支配されようとも。魔王の寿命という事実を知ったがゆえに、今日まで魔人としての生に耐え続けてきた。
だからこそ、それが失われた時──ガイの怒りは爆発する。
「……ほう? 許さないと来たか。ならばどうすると言うんだ?」
「決まって、いるだろう……! 私は、私は……戦う!」
ジルの愉悦。興味本位からの問いかけに、ガイは絞り出すような声で告げる。
それは本当に振り絞った覚悟の発露だっただろう。ガイにとっては、1度叶わなかった戦いへの決意だ。
それもあまりにも無謀な。それゆえに、ジルはそれを聞いても本気にはしない。
「……くく……はははははっ……! 戦う? 戦う、と……そう言ったのか? ガイ……! お前が、この私とか……?」
「ああ……そうだ……! ジル……お前が、魔王であり続けるなど……私は許さない……! それを阻止するためなら、私は戦ってやる……!」
ジルはガイの覚悟をあざ笑う。嘲笑する。
だがそれもそうだろう。ジルにとってそれは、あまりにも滑稽であるからだ。
魔人ガイは決して弱くはない。彼との戦いは同じ魔人であっても油断ならないものになるだろう。それこそガイが本気で相手を殺す気であれば相手の魔人もまた全力での戦いを強いられる。
「戦う、か……くく、そうか……」
だがそんなガイの強さも──魔王からすれば足元にも及ばない。
いや、そもそも絶対命令権の存在が魔人の反抗を許さないのだ。魔人ではどれだけ強かろうとも魔王に逆らうことは出来ない。
そして仮にそれが許されたとしても、だ。
「例えばこんな風に、か?」
「ッッッ……! ぐああああああああああっ!」
──残酷なまでの力の差が存在するのだ。
それは例えるならムシと人間だ。
吹けば飛ぶような小さな動植物が人間相手に凄んでも何ら脅威を感じない。人間からすれば片手間に踏み潰せる程度のものだ。
それと同じだった。ジルの戯れに放ったと思われる黒い魔力の串に貫かれたガイは絶叫を響かせる。
「はははっ……! 次は、こういう趣向が良いのか? だったら受け入れてやるぞガイ……!」
「っ……!」
ほんの僅かな力の発露に城内が震え上がる。
大陸最強。地上を支配する魔王の力。
地上を生きる全ての生き物に恐怖を与える絶望の存在が放つ魔の気配は、直接ぶつけられていなくとも並の魔物や人間であれば戦意を喪失させてしまい、最悪死にすら至らしめるほどのものだ。
それを直接ぶつけられているガイの感じている圧力はそれ以上だろう。ジルもそれを理解している。ゆえにガイがどこまで耐えられるかを試して楽しんでいるのだ。その破壊への衝動を発散するように。
「……! 戦うことを……受け入れるのか……?」
「……ほう?」
──だがガイは、そこでもまだ折れない。
ジルに対し、強い敵意を、戦意を見せつける。
魔王の暴威に折れない下僕の姿に、そこでジルは更なる興味を覚えたのだろう。ゆえにそこで──ジルは告げるのだ。
「……くく、くくく……そうか。それならば戦ってやってもいいぞ」
「……っ」
──戦うことを、逆らうことを許容する。
「私を殺したいのだろう? それならば今すぐにあの魔剣を持って私に斬りかかるなり、あるいは策でも講じて準備をしてくるがいい」
「……どういう、つもりだ……?」
「どういうつもりも何もない。お前の希望を呑んでやろうと思ってな……いつも可愛がっている下僕たっての願いだ。たまには餌をくれてやらなければな」
それは、魔王の余裕の表れだ。
そしてジルのガイに対する戯れでもあった。魔王と一魔人の戦いなど成立するわけがない。魔王が本気であれば何をしようと魔人に勝ち目はない。逆らうことすら出来ないから。
「だから好きにしろ。その怪我も治してやる」
ゆえにこそジルは戯れの一環としてそれを許してやる。
自分でガイに負わせた傷すら回復し、戦いたいなら準備をしてこいと鷹揚に構えてみせる。
その完全に馬鹿にした、下に見た態度にガイもまた苦悶の表情を浮かべるしかない。
「っ……後悔、するぞ……!」
「くくく……そうか。それは楽しみだな……!」
「くっ……」
ガイはそこで浴室から飛び出る。そして部屋の中にいたレオンハルトと目が合った。
「…………」
「レオンハルト……」
レオンハルトはそこで大人しく控えながら、ガイに冷たい眼差しだけを送る。特に思うところもない。敵意もない。そんな表情で。
「っ……」
そしてガイもまたその対応に何も言わずに衣服を取ってから去っていく。
レオンハルトもまたそれを何も言わずに見送った。気配が離れていくのを感じ取りながらも、続いて出てくるジルに向き直る。
「……よろしかったのですか?」
「くく……別に構わない。それよりも喜べ、レオンハルト……お前にも久し振りに戦う機会を与えられてやるかもしれないぞ……!」
「戦うのはジル様ではないと?」
「いや、ガイが挑んできたのならば遊んでやる。だが……もしガイが他に仲間でも連れて来ようものならそれを奴の前で叩き潰してやる必要があるだろう? ガイを折ってやるためにもな……!」
臣下としての態度でその是非も問うも、ジルは戯れとしての対応を隠そうとしない。
仮にどんな戦いになろうとも、ガイを嬲って遊ぶつもりなのだとジルはレオンハルトに示した。
「……分かりました。では念のため準備を進めておきます」
「ああ、そうしろ……もしもの時のためにな……くく、戦争ごっこに興じる準備をしておけ……ガイが本気ならお前もそれなりに楽しめるだろう。その時は、一緒に楽しませてやる……!」
「……はい。承知しました」
そしてレオンハルトに命じる。戦いの準備をしておけと。
ガイが単独で挑んでくるにしろ、徒党を組んでくるにしろ、遊んでやると。
永遠の魔王として、お気に入りの下僕と戯れるのも悪くはないとジルは機嫌良くその“戦いごっこ”。あるいは“戦争ごっこ”に臨むつもりだった。
──永遠に魔王であり続けようとするジルとそれを許さずに反抗することを決めたガイ。
──遊び感覚で戦いを受け入れるジルと本気でジルを殺そうと覚悟するガイ。
2人の感覚の違い。
ガイの決死の覚悟とジルの許容による戯れ。
そしてそれが後に──“魔王戦争”と呼ばれる戦争の引き金になる。
そんな訳でGL期最終章、魔王戦争編の開幕です。ジルが本気だと戦争という規模になりようにないし、公開されてる情報だと少なくともガイも勢力のトップではあってきちんと途中までは戦争してたらしいので許しを得た上でまずはこっから仲間集めです。
それとレオンハルトの子供のプロフィールを活動報告に載せておいたんで良ければどうぞ→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=308025&uid=206423
次回は準備フェイズです。藤原家征伐や死滅戦争ほど規模は大きくないけど人間も魔物も魔物大将軍も使徒も魔人もちゃんと参戦しますのでお楽しみに。
良ければ感想よろしくねー。