人狩りは魔軍に所属する兵にとって定番かつ人気の娯楽である。
普段は人間牧場の警備や管理を行っている魔物兵らは時折、上官である魔物隊長に誘われて野に出る。
時には魔物兵だけで何となくそこらを散歩して見つけた人間を襲う──なんてこともあるが、人狩りは最低でも1部隊以上で行うのが基本とされていた。
理由は当然、安全を期するためである。幾ら人間が弱いと言っても数体の魔物兵であれば負けて死ぬこともないことではない。
そして魔物討伐隊と遭遇してしまえば瞬く間に狙われて狩られてしまうのだ。
それを防ぐためには集団で行動することが最も効果的だと知られている。何しろ魔物討伐隊は大規模なものでも精々1000人程度の集団であり、魔軍の一個軍と比べればその差は大きい。
数でも力でも劣ることを理解している魔物討伐隊は、大規模な魔軍の軍勢と直接ぶつかり合うことはしない。戦う時は野良の魔物か、一個部隊以下の軍勢を狙う。
ゆえに複数の部隊で固まっていれば安全とされていた。もっとも、それでは狩りを楽しめる者が減るという問題もあるとはいえ、その基本は守られることが多い。
「おらー! 死ねー!」
「人間如きが魔物様に逆らうんじゃねぇよ!」
ゆえに今日もまた、ある魔物隊長は仲の良い複数の魔物隊長と自分達の部隊を率いて人狩りへ出ていた。
彼らの楽しみは拷問と凌辱、そして輪姦である。
牧場の人間では楽しめない人間の反応を楽しむためにあえて野良の人間を狙う。男であればその時思いついた適当な拷問で遊び、女は出来る限り嫌がるように犯す。家族がいればその前で。恋人がいればその恋人を拷問しながら。子供がいれば先に子供を殺してみたり。女の子であれば趣味じゃなくても犯してみたり。
人間基準で言えば鬼畜の所業を、彼らは好んで行っていた。
しかし彼らは魔物である。魔物であるがゆえに同族ではない人間の悲鳴や痛みは何ら心を傷ませることはない。
ゆえに今日もまた自分達の趣味を楽しむ一日となる予定だった──魔物討伐隊と遭遇するまでは。
「隊長! 押されています!」
「くっ……ふざけるな! 何をやっている!? 相手は人間だぞ! 人間如きに負けるなど魔物の恥だ!」
「し、しかし……あいつら、かなり強くて……」
「泣き言は聞かん! 泣き言を言う暇があったら殺せ! 魔物に舐めた真似をした人間を許すな!」
「は、はっ!」
魔物隊長は強い言葉で部下に発破をかける。
そして自身もまた大剣を用いて戦っていた。人間相手に。
だがその人間の集団はただの人間ではない、魔物討伐隊であり、その大多数が鎧や兜を身に付けた戦士であった。
それはかつて、多くの人間の国があった頃であればこう呼んだであろう。
「舐めた真似してくれてんのはどっちだ、クソ野郎」
「ッ! ぐああああああ!」
──騎士、と。
「た、隊長がやられた!?」
「おいどうすんだ! 俺たちはどうすれば……!」
「冗談じゃねえ! 正面から隊長を殺せるような相手と戦えるか!」
「おい逃げるなよ!」
「ひ、ひえ~! お助け~!」
重厚な鎧と兜を身にまとった騎士の一刀によって断末魔を響かせて倒れた魔物隊長に、魔物兵達も統制が取れずに動きが散漫になる。
「今だ! やれ!」
「逃げる者は追うな! 残る魔物だけを片付けろ!」
騎士の中で分隊長と思われる者達が声を上げ、指示を出すと騎士たちは一斉に魔物達を叩き始めた。盾と鎧でガードし、剣や槍などの武器で攻撃する。
後衛には少ないながらも神魔法と用いるヒーラーや魔法使いも存在する。基本に忠実かつ練度の高いその部隊にとって、3個部隊程度は敵ではなかった。
「チッ……逃げやがったか。腰抜けめ」
そして3体の魔物隊長を全て斬り伏せたこの魔物討伐隊──「鋼の騎士団」の隊長であるその人物は殺しきれず逃げていった数体の魔物兵の背中を見て吐き捨てる。普段は偉ぶって弱い人間を虐めてる割に、いざ自分達がやられる側に回るとその弱い人間以下の言動を見せる。
そう──彼女は魔物が嫌いだった。
「お疲れ様です。お嬢」
「お嬢じゃねぇ。隊長って呼べ」
「っとと。すみません。癖で」
「チッ」
やがて見える範囲に魔物が見えなくなると、騎士団の副隊長と思われる体格の良い中年の騎士が隊長と思われる女性の騎士に近づき声をかける。
そして子供扱いをしてくる副隊長に隊長である彼女は表情を歪ませて舌打ちを行った。
とはいえそれも癖であり本気でキレるほどの苛立ちではない。
彼女が本気でキレるのは、自分たち人間をクソッタレな目に遭わせている魔物だけだ。
ゆえに彼女は、鋼の騎士の異名を引き継ぐ一族の正統後継者である彼女は怒っていた。
魔物と自分──そして、このような状況を招いたとされる自分の祖先に対し。
「……まあいい。それよりもさっさと移動すんぞ。増援を呼ばれちゃ厄介だ」
「ええ、そうですね。──あ、それとおじょ……隊長。帰ったら客人との予定が入ってるんでそっちにも顔出してくだせえ」
「あ、客人? 誰だ。“商会”か? それともまさか“影”じゃねぇよな?」
「そのどっちでもなくてJAPANから来た魔物討伐隊らしいです」
「どこの馬の骨だそりゃ。田舎から来た雑魚と仲良くする趣味はあたしにはねぇぞ」
「そう言わんで会ったってください。同じ人間。同じ魔物討伐隊の仲間じゃないっすか」
「チッ……しょうがねぇな」
今日何十回目かにもなる舌打ちを行い、彼女は先代から仕えている副隊長の頼みを了承する。
鋼の騎士団の隊長として人間を守るのは大事な務めだ。
だからこそ同じ人間に手を出すような外道であればともかく、そこいらの人間であれば気に食わなくとも舌打ちをしながら受け入れる。
だが、そうやって人を守るよりも。
「それよりも魔人を殺せる剣の捜索にもっと力を入れろよ」
「そっちもちゃんと探してますよ」
「早くしろよ。それが見つかりゃ……こんなクソッタレな生活ともオサラバ出来るかもしんねぇんだからな」
──彼女は、魔物を殺すことを目的としていた。
『ガイ! おいガイ!』
「はぁ……はぁ……」
魔王城の廊下でガイは呼吸を乱していた。
その焦燥した表情。動揺は尋常ではなく、ガイが帯剣している魔剣カオスもまた心配して声を掛ける。
『一体何があった?』
そして壁に手を突いてもたれかかるガイの側にはカオスの他にもう1人の姿もあった。
魔人ガイの使徒であるレーモン・C・バークスハムである。バークスハムはガイがジルに呼び出されている間、カオスを預かって近くの廊下で待機していた。
だが、ガイが部屋から出てくるなり焦燥していたため落ち着いた様子でカオスと共に声をかける。その答えを半ば知りながら。
「……ジル様の部屋で何があったんですか?」
「……ジルが……死なない……! 魔王が、居なくならないんだ……!」
『なんじゃと……!?』
「……それは……」
ガイの答えが絞り出される。
そしてそれはバークスハムの予想と外れるものではなく、カオスにとっても気持ちを同じくするものだった。
魔王の寿命が1000年であることを知っている彼らにとって、ジルにも寿命があることはこの地獄のような世界における一筋の希望であった。
だがその希望は呆気ないものだった。ジルは魔王であり続ける。
誰かが止めない限り永遠に。だからこそ、
「……ではガイ様。これからどうするので?」
「……私は……ジルに宣戦布告した。奴と戦う……それを決めた」
『そんなことをして……大丈夫なのか? 今のお前は魔人じゃぞ』
「問題ない……ジルはそれを許した。お遊びとしか思ってないらしい……私を打ちのめして楽しむつもりだろう」
『っ……』
戦うことを決めたガイ。だがそんなガイの決意をジルはお遊びとして見ている。
自分の下僕が逆らってくるのもまた下僕で楽しむ可愛がりの一環であり、余興でしかないのだ。寿命がなく、圧倒的な力を持つ魔王ジルにとって時間をかけることも下僕が逆らうことも問題にはならない。それが楽しみに繋がるのだから余裕を持って受け止めることが出来る。
それでもガイのようなお気に入りでなければ捨てられるだけだろうが……ガイにとっては、その扱いは不服でも都合が良いことに変わりはない。
「では戦うことは問題ない。絶対命令権によって阻止されることもないと……そういうことですね」
「ああ……だからこそ、これから私は動く。魔王を……ジルを倒すために」
ゆえに自分にも僅かながら勝機があるとガイは考える。
魔王が本気なら戦いは成立しないだろう。ましてや準備を整えることなど無理な話だ。
だがそれを許すと言うならばやりようはあるはずだ。強大な敵を倒すのに、真正面からぶつかる必要はない。必要なのはなんでもすることだ。人間時代、魔物討伐隊として生きていた頃の経験をガイは思い出し、ガイは足に力を入れて再び立ち上がった。
「……カオス。協力してもらうぞ。それに……バークスハム。お前は……」
「勿論──お供致します」
バークスハムはガイの僅かな迷いに対し、迷いなく付いていくことを示す。
それを聞いてガイは目を見開いた。幾らジルが許したからといって危険を伴わないわけじゃない。最悪、殺され──いや、死ぬよりも辛い責め苦を受ける可能性だってある。
だからこそガイは、魔王に対して特効を持つカオスと違ってバークスハムに関しては付いてこないならそれでも構わないと思っていたが……どうやらそれは杞憂。余計な心配だったと気づく。
「……いいんだな? 最悪、死ぬことになるかもしれないが」
「使徒であれば、主に尽くすのは当然のことです。そして私個人としても、私はガイ様に付いて行きたい。そう思っていますので」
再度の確認の言葉にもバークスハムは淀みなく答える。迷いも悪意も存在しない。それを聞けばガイの方もまた腹を決められた。
「……分かった。お前のことも頼りにさせてもらう」
「ええ。頼りにしてください。この予知のバークスハム。全霊を持ってガイ様。あなたの力になりましょう」
「ああ」
バークスハムが使徒になってから既に長い時が経っている。ガイもまた彼に信頼を預けていた。──便利な手下として扱うもう1人と同様に。
(……俺は手伝わんからな)
(……!)
それは内心で生まれた言葉。今表に出ているガイだけが聞くことが出来るもう1人のガイの言葉だった。
表のガイは裏のガイのその消極的な態度に眉間に皺を寄せる。そして同じく内心に言葉を作った。
(貴様は……悔しくないのか? ジルが永遠に君臨するなど……)
(チッ……ジルに勝てるわけないだろうが。戦ったところで無駄に苦しむだけだからな)
もう1人のガイは現実的に物事を考えていた。ジルと何度も交わっているガイは、あるいは今表に出ているガイよりもジルの脅威……いや、恐怖を思い知っている。
(だから表に出して苦しみを俺に押し付けるようなことはするなよ。後殺されるな。負けた時は命乞いしろ)
(っ……ああ、安心しろ。お前のような者に頼ろうとは思わない)
(本当は戦うこともやめさせたいくらいなんだから許してやるだけ感謝しろ。ふざけやがって……ジルと戦うってことは他の魔人……あのレオンハルトともまた戦うってことだぞ……勝ち目なんてあるわけないだろ馬鹿が……)
もう1人のガイの答えを求めない呟きが内心で響く。
表に出ているガイはそれを聞いて、また別の思いを抱いた。それはもう1人が言うように。
……レオンハルト、か。確かに、奴が立ち塞がるならジルの討伐も容易ではない……。
ガイはレオンハルトという魔人のことを思う。その強さも、性格も、ガイはそれなりに知っているつもりだった。
それだけにレオンハルトがこちらに無機質な目を向けてきた時は裏切られたような気持ちになった──が、ガイはそれを憎しみに変えるのを辛うじて思い留まる。
レオンハルトは魔人の中でも人間に対して慈悲深いことは理解している。人間牧場の運営方法や人間街の存在。人間を下級使徒として召し抱え、カラーの森を保護していることも知っている。
だからこそ人間を苦しめるジルに対して良い感情は抱いていないと踏んでいたが、それ以上にレオンハルトには守るべきものが数多く存在する。
……レオンハルトがジルと敵対すれば、当然その配下もまた危険に晒される。
ガイはそのことを思い、そして自身の友人であるレオンハルトの娘──白兎のことを思った。
ゆえにレオンハルトの態度にも理解を示す。魔王の懐刀であり続けることは、彼が彼自身の大切なものを守り続けるために必要なものなのだと。
だからこそ憎しみには至らず、ガイはぐっとその気持ちを飲み込んだ。当然だが、悪いのはレオンハルトではなくジルだ。それを履き違えてはならない。
『だがガイ。戦うにしてもどうする気じゃ? 儂やバークスハムとお前だけじゃさすがにどうにもならんじゃろう』
「……ああ。だからこそ、まずは仲間を……いや、同志を集める」
そしてガイがレオンハルトに対する感情を消化したと同時に、カオスから現実的な具体案を求められたためガイは答える。
単独で戦っても勝ち目が薄いなら協力者を募るしかないとガイはすぐに答えを得ていた。
敵は魔王ジルとその配下だ。仮にジルが命令せずとも、自らジルに反逆した自分を叩き潰そうと出張ってくる魔人の存在には何体か心当たりがある。それらを全て自分で相手をしてはただでさえ少ない勝率が0にまで落ち込みかねない。
「同志……ですか。なるほど」
「ああ……だが、魔人は当てに出来ないだろう。ジルに逆らってまでこちらに味方する者がいるとは思えない」
『ってことはつまり……』
「ああ──人間に協力を求める」
ガイは力強く言い切る。そう、必要なのは仲間ではない──同志。
魔王を倒すという目的のために、自らの命を捧げられる存在こそをガイは求める。
昔のように自分1人で、など甘いことは思わない。捨て石はどうしたって必要になることをガイは理解していた。
だがそれでも頑丈で強い石ころが必要だ。
そして捨て石である覚悟すら自ら持てるのが理想だが、あるいは騙すことも必要だろう。そうして死への道をガイ自らが舗装して向かわせるのだ。
その果てに──ジルを倒す。その大義名分を掲げて。
「時間が惜しい。まずは人里に向かおう。バークスハム、ここから1番近い人里は?」
「……それでしたら幾つか心当たりがあります。そして、協力してくれる同志についても可能性を感じるのが幾つか。なのでお任せください」
「なら頼む。行くぞ」
「はい」
バークスハムの判断を信じ、ガイは歩き出す。
魔人の身でありながら、再び人と交わることを選んだガイはその足で人里に向かっていった。
──大陸東部、レオンハルトシティ。
人間にとって新年を祝う風習は今や忘れられたものだ。
それもそうだろう。常に身の危険を感じている人間がそのような風習に興じている余裕はない。
ましてやこの街のように大々的に正月休みに沸いてゆっくりしているわけがなかった。牧場や収容所では今日も人間が虐げられ、労働が始まっている。
例外があるとすれば人間街と、レオンハルトの居城である紅魔城くらいのものである。
その2つの場所では人間もまた家族や愛する者と過ごす正月休みを楽しんでいた。そう、家族との楽しい日常を──
「──ほらほら! 逃げるならもっとしっかり逃げな! そんなんじゃあたしには勝てないよ!」
「まず勝つつもりもねーよ! ぐおおおおおっ!?」
──そう、楽しい日常を過ごしていた。
正月とは普段は忙しい家族もまた実家に集まり、共に過ごすものである。
それゆえ紅魔城の中庭では魔人レオンハルトの子供が一堂に会し、そして使徒のハンティによる可愛がりを受けていた。
彼らにとっては定番の“殴り鬼”の耐久版“耐久殴り鬼”──ハンティが鬼になり、殴り返すまで、つまり攻撃をヒットさせるか時間が来るまで終わらない訓練でありゲームを行っており、つい今しがたハウゼルとの子であるカイゼルがハンティにぶん殴られて壁際まで吹き飛ぶ。
「ふむ……相変わらず容赦がありませんね。さすがはハンティさんです……」
「正月でも関係ないゴリラっぷりは恐れ入るな……ふむ、これはグリーンアイに組み込めるか……」
「分析してねーで助けろよ白兎姉!」
「いえ、私はもう攻撃を当てましたので。後はお姉ちゃんとして皆を応援します。なので頑張ってくださいね」
「クソ! もうクリアしてんのかよ!」
そしてそのハンティの容赦のなさを見て感心するのは長姉の白兎であった。彼女はハンティと同じくレオンハルトの使徒であり、レオンハルトや親達がいない今、戦闘データの収集兼見守りという役目についている使徒のガウガウと共にそれを眺めていた。
レオンハルトの1番上の子供として下の弟や妹たちがにぎやかに過ごしているのを見るのは中々楽しいものがある。今もカイゼルが何度目かの攻撃を食らって怒っているが、
「つーか白兎姉だけじゃねぇ! 全員どこ行きやがった!?」
「はぁ……はぁ……やっぱり、馬鹿兄貴は囮にするに限るよな……ぜぇ……ぜぇ……」
「って、おい豚ァ! 何逃げようとしてんだ!」
「ぶ……豚って言うな! お、親父に言いつけるぞ馬鹿兄貴!」
「うるせーよ豚! サボってねぇでテメェも戦え! チャーシューにすっぞ!」
「揉めてる場合じゃないよ!」
「ぐおおおっ!?」
ベゼルアイの息子であるシュヴァインが大して動いていないのに汗をかいて息を乱しているのを見つけてカイゼルが怒りを見せる。
だがそれもまたハンティにとっては隙だった。瞬間移動は使わない、素早い動きで距離を詰めると再びカイゼルに攻撃を加えて吹き飛ばすとハンティは次にシュヴァイン──ではなく、その横の茂みに隠れている2人に視線を移した。
「リリーフ! それにルイゼル! 見つけた!」
「げっ、見つかった!?」
「ちょっとぉ! バカイゼルに豚くんがこっちで騒ぐから見つかっちゃったじゃない! やられるなら2人だけやられてなさいよ!」
「だから……豚って言うなって……言ってんだろ……ぜぇ……ぜぇ……」
「う……うるせぇよルイゼル! ずっと殴られてる俺の身にもなりやがれ!」
「カイゼル兄さん!」
「あ、なんだリリーフ……サイン?」
隠れていたサイゼルの娘であるルイゼルがカイゼルとシュヴァインに向かっていつものように文句を口にし、ハウセスナースの娘であるリリーフはカイゼルにサインを送る。
「何々……送りバント? ──って、意味が分かんねーよ! おわァ!?」
「あーやっぱ分かんないかぁ……ならしょうがないわね……行くわよ! アプリ!」
そして野球のサインであることを知って吹き飛ぶカイゼルに呆れたリリーフは同じく聖女の子モンスターのセラクロラスの娘であるアプリに声かけ、バットを握って共にゴリラ退治に向かおうとした。
「……で、そのアプリは?」
「…………あれ?」
だがそのアプリはいなかった。リリーフが頭に疑問符を浮かべ、その間にハンティはリリーフに雷撃を放つ。
「うひゃああ!?」
「あー惜しい! バント失敗だね!」
「……って、アプリ……あんたまたサボり? しかもまたミコトを買収したでしょ」
リリーフが魔法の直撃を受けて痺れる中、ハンティは声がした方向に向き直る。そこは中庭の中心であり、居候のライゼンの頭上だった。そこにはアプリと、そのアプリを抱えているメイド長さんの娘であるミコトがいて。
「ふふん! おやつを上げたら喜んで言うこと聞いてくれたよ!」
「ん……羊羹美味しい……もぐもぐ」
「てめー! アプリ汚ねーぞ! おい、ミコト! 俺のことも守ってくれ! 俺の部屋にある湿気った煎餅2つやるからよ!」
「だったらルイゼルちゃんのことも守ってくれていいわよねぇ? ほら、カイゼルより良いものあげるわよ! 具体的には食べかけの饅頭3つよ!」
「あんたら、微妙にセコいね……っと!」
「んっ……同感」
カイゼルとルイゼルに呆れツッコミを入れながらもハンティは魔法をミコトらに向けて放ち、同時に距離を詰めようとする。
対してミコトはライゼンの顔を遮蔽物にしてそれを防ぐと素早くアプリを抱えたままバックステップで逃げた。
「……おい、お前たち。遊ぶのはいいが俺の上で戦うのはやめないか? こっちは食事中なんだが……」
「諦めろライゼン。今のハンティはゴリラモード。戦闘に夢中で周りがあんまり見えてないからな。……ところでその肉美味しそうだから少しもらっていいか?」
「そこはドラゴンモードと言ってほしいところだが……」
それらの動きを見たライゼンが更に呆れ、ガウガウに肉を分け与える。
そしてその間にも殴り鬼には変化があった。逃げたミコトのクナイをハンティが軽く剣で弾いたのを見て、
「──行くぞライブラ」
「はい! 兄上!」
「! おっと……!」
その隙を突くようにハンティに肉薄していったのは拳を構えたケッセルリンクの息子であるアルベルトと、大鎌を構えたインデックスの息子ライブラだった。
その2人の連携攻撃を受け、ハンティは対応に迫られる──が、それでもまだハンティに攻撃をヒットさせるには至らない。
「連携してくるのはいいけど力不足だよ!」
「まだ始まったばかりだ……! ふん!」
「今日こそは一本取ってみせますゆえ! お覚悟を!」
「出来るといいわね!」
「!」
アルベルトの拳を躱したハンティが、そのままライブラの大鎌の横ぶりをくぐり抜けるように避けて背後に回る。
そこでハンティは足を振りかぶった。ライブラに向けて、一応は手加減した蹴りを叩き込む。
「う!」
「ライブラ!」
「弟思いはいいけどよそ見してる場合はないよ!」
「くっ……!」
ハンティとの攻撃と防御の応酬を行うアルベルトは吹き飛ばされたライブラを助けに迎えない。
だがそのライブラは吹き飛んだ先で別の人物によって図らずも助けられた。それは偶然その場所にいたカイゼルで。
「う、ううっ……痛い……だがこれしきで……!」
「お、おい……大丈夫か……? 怪我とか……(ちょっと涙目じゃねぇか……クソ……なんでこいつ弟のくせにこんなに可愛いんだ……?)」
「っ……! さ……触るな愚兄っ!!」
「へぶっ!?」
しかし邪な視線とその身体に触れられていることを感じたライブラがカイゼルの顔をビンタする。
そしてその後にカイゼルがライブラに文句を言って軽い喧嘩が始まるが、その間にもハンティはアルベルトを追い詰めていた。
「あんたもやるようになったけどまずは一本!」
「ぐっ……!」
粘りを見せていたアルベルトにハンティが一撃を加えようとする。
だがアルベルトもタダでは終わらない。攻撃を食らうことを覚悟でハンティの剣を弾いてみせた。そしてそれに気を取られたその瞬間に。
「──隙あり」
「!? ミコト……! (しまった……! でも何とかガードは間に合う……!)」
背後にミコトが迫っていた。ミコトはそのクナイをハンティに振るおうとするも、この一刀だけならまだ辛うじてガードされる。
ゆえに奥の手はそれだけではなかった。
「ふ~……♡」
「ひゃんっ!?」
同じくミコトに降ろされてハンティに近づいていたアプリが、ハンティの長い耳に向けて息を吹きかける。
するとハンティはらしからぬ高い声を上げて身体をビクッと跳ねさせた。
そしてその間にミコトとアプリはそれぞれ手でハンティの身体に触れて。
「あっ……」
「いえーい! クリアー! やったねミコトちゃん! ぶいぶい~!」
「……ぶい」
ミコトはデコを。アプリは尻に向けて攻撃というには優しすぎるタッチを行い、2人はピースサインを作って喜びを見せた。
しかしハンティの方は何をされたのか理解すると軽く眉を立てる。
「ちょっとアプリ! 今のは……! な、何してんのよ!?」
「えーなんでもありだからいいでしょ? ルールはちゃんと守ってるわけだしねー!」
「うん……ルールには従うべき」
「くっ……」
(今のハンティさん……ちょっとエロかったな……)
(あのハンティさんに女を出させるとは……)
(アプリちゃん、恐るべし……)
(不覚にも勃っちまった)
少し顔を赤くして歯噛みするハンティを見て、シュヴァイン、アルベルト、ルイゼルがそれぞれ何とも言えない気持ちを抱く。カイゼルはチンポジを整えていた。
そしてハンティも、今の自分の恥ずかしいところを誤魔化すように静かに口にする。
「……こっからは瞬間移動もありね」
「なっ……おいふざけんな! それは無しってルールだろうが!」
「そーよそーよ! ルールは守りなさい!」
「横暴よ! スポーツマンシップに則ってよね!」
「いや、リリーフが言えることじゃないだろ……」
「うっさい! とにかくこっからはもうちょっと本気で行くよ!」
「ぎゃー!? ってまた俺かよ!」
ハンティの瞬間移動解禁という言葉に子供たちから文句が噴出するも、ハンティはその不満を一蹴して瞬間移動でカイゼルの眼前に移動して蹴りをお見舞いする。
「賑やかでいいですね。私もまた混ざりたくなってきました」
「あはは……楽しそうでいいですよね」
「きー!」
「ゲヘヘ……そ、そうですかい(やっぱり正気じゃねぇな……って、見てる場合じゃねぇ。僕ちゃんはこの機会にミストラルちゃんとの距離を詰めるぜぇ~)」
(……またなんか不愉快な視線を感じるわね)
そしてそれを見ていた外野──白兎の発言にアルベルトの使徒であるメリルが明るい笑みで同意し、カイゼルの使徒であるスケアクロウが媚びへつらいながらも隣にいるルイゼルの使徒であるミストラルの顔や身体に下卑た視線を向ける。
そしてそれら全てのやり取りを何となく認識しつつ、白兎は心の中でも感想を口にした。
……やっぱり賑やかでいいですね。
正月に家族や親しい者と過ごすことは白兎としても満足が行くものだ。
先程までは城から帰ってきたレオンハルトやそれぞれの母親もいたが、今は別の部屋にいて子供たちだけの時間を作っている。そのことについても白兎は不満はない。そういった時間も必要なのだと理解を示していた。
……ガイさんも来られれば良かったんですが……。
そして思うのはこの場にいない友人のことだ。
だがしょうがないことだとも理解している。白兎の友人、ガイは友人であっても家族ではないし、この城に迎え入れられるほど白兎の親であるレオンハルトと強い信頼関係を築けてはいない。
なので正月に一緒に遊ぶことは難しい──が、出来れば近い内にまた集まること自体は出来るだろう。
……後でパパにお願いしましょうか。
城に入れることは無理でも友達同士で遊ぶことは問題ない。なので白兎は後で父親に許可を貰おうと決めながらも、今は自分の弟や妹達との時間を楽しむのだった。
~教えてスラル先生~
スラル「そんなわけで今回は魔王戦争について解説……したいんだけどあんまり情報がないのよね」
レオンハルト「授業にならないな……」
スラル「い、いやでも一応推測出来ることはあるから! 最終的に“勢力同士のトップによるゴニョゴニョ”……で終わったってのが事実なら少なくとも勢力と呼べる程度にはガイも戦力を集めて戦いを挑んだことが分かるし、日光を携えた勇者と共に戦いを挑んだことや4年も戦いが続いていることからも、一応形だけでも戦争にはなってたんじゃないかとか……」
レオンハルト「それも大体前話のあとがきに書いてあった気もするけどな」
スラル「…………」
レオンハルト「…………」
スラル「ソリッドブラッド!」
レオンハルト「ぐおおおおお!? い……言うことがなくなったからって必殺技を打つな!」
シビュレー「私が思うに今のは次回のエッチシーンに対するお仕置き、もとい嫉妬だと思うのだが……どう思うね? 我が子孫」
バークスハム「私の予知でも次回はそういうシーンがあると視えますね」
ラウネア「……!(じ、次回予告は私の役目なのに……!)」
良ければ感想よろしくねー