※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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開戦の狼煙

 多くの魔物にとって、人間は都合のいい家畜でしかない。

 魔物が欲望のはけ口とするには都合の良い見た目をしており、力も弱く頭も悪い。放っといても勝手に増えるし、殺すのも簡単。虐げたところで反抗もしてこない。

 はっきり言ってしまえば下等生物であるし、なんだったら一周回って人間を飼い続けることに煩わしさや飽きすら感じる者すらいるほどには、魔物にとって人間は取るに足らない存在であった。

 

「おい早くしろ!」

 

「水持って来い!」

 

「何だ!? 何が起こってる!?」

 

「誰かが食料庫に火をつけやがった!」

 

「他の建物に燃え移る前に火を消せ!」

 

「クソ……一体誰がこんなことを……!?」

 

 ──ゆえに、その日もまた魔物達は気を緩めていた。

 

 各地にある人間牧場。それは魔軍によって運営されている。

 どれだけ小さな人間牧場であっても最低一個軍が駐屯しており、その一個軍が人間を飼育と虐待、見張りや巡回などの仕事を行っていた。魔軍の一個軍は1体の魔物将軍によって指揮されており、100体の魔物隊長がそれぞれ200体の魔物を指揮する2万の軍勢であり、1000万以上の人間を飼育する大規模人間牧場でもなければ一個軍は牧場を運営するのに十分な数である。

 何しろ人間は大人しく魔物に従順な生き物なのだ。野良で生きるような例外を除いて、人間は魔物の言うことに逆らわない。

 その例外に関しても、その数は数十から数百程度。あるいは千人を超える魔物討伐隊もあるとは聞くが、だとしてもそれは魔軍の一個軍で十分に対処が可能な取るに足らない数である。

 だからこそ万が一にも人間が襲って来ても十分に返り討ちに出来るだけの戦力が各地の人間牧場には備わっていた。

 無論、人間が群れを成して魔軍の駐屯地を襲ってくるなどまずありえないことではあるものの、備えは重要である。そのことを魔物将軍や魔物隊長は当然理解していたし、魔物兵ですらその数には安心を覚えていた。

 

「将軍! 次の指示を……!」

 

「…………」

 

「……? 将軍?」

 

 ──そして、だからこそ魔物達は虚を突かれた。

 

「大変だ! しょ、将軍が……誰かに殺された!」

 

「はあ!? 嘘だろ!?」

 

「こんな時に冗談言うんじゃねぇよ!」

 

「殺すって一体誰が殺すんだよ!?」

 

「冗談じゃない! 将軍はおそらくだが、人間に──」

 

「……? お、おい! 何が……」

 

 ──多くの魔物が寝静まったその夜、騒ぎに乗じて魔物将軍や魔物隊長が暗殺される。

 

 それは魔物達が忘れていた脅威だった。

 かつて魔物と人間の間で頻繁に戦争が繰り返されていた時代では誰もが知る常識。

 人間は魔物より弱く、愚かな生き物である。

 

 だが、弱いだけの生き物でもないということを。

 

 時に人間は魔物を殺しうる。その数や力、知能を以て、種の存続と安寧のために戦い続ける生き物なのだと。

 

「今だ! やれェ──!」

 

「うおおおおお!」

 

「うぎゃああ!」

 

「な、なんだ!? 人間!?」

 

「た、隊長! どうすれば……!?」

 

「おい、将軍がやられたらしいぞ!?」

 

「え……じゃあ俺達どうすれば……」

 

「た、戦うしかねぇだろ! 相手は人間なんだ! いつも通り殴ればすぐに大人しくなるだろ!」

 

「そ、そうだよな……!」

 

「──オラオラオラ! 死ね! 魔物共!」

 

「ぎゃああああ!?」

 

「おい! 全然止まらなねえぞ!」

 

「何だあの人間! 強すぎるだろ!」

 

「こ、このままじゃ殺されちまう……!」

 

「あ、おい! 馬鹿! 逃げるなよ!」

 

「ひいいい!? お、お助けー!」

 

 人間の組織だった襲撃を受け、その日生き残った魔物達は僅かだが人間の力を思い知る。

 そして思い出した。かつて人間は、魔物と曲がりなりにも戦争をしていたことを。

 

「……どうやら、上手くいっているようだな」

 

「ええ。各地から報告が届いております」

 

 そしてそれは、かつて人間だった者達にとっても同じだった。

 丘の上で人間牧場を見下ろす人の姿をした魔──その魔人と使徒は、火の手が上がり、人間の襲撃に逃げ惑う魔物達を見て作戦が上手くいっていることをその目でも確認した。

 本来なら魔物側である魔人と使徒だが、今のこの2人──魔人ガイとその使徒バークスハムは魔王ジルに反逆の意思を示した裏切り者であり、各地の人間牧場で夜襲を仕掛けた魔物討伐隊の連合軍──人類軍の首魁とその参謀という立場にあった。

 

「襲撃をしかけた18箇所の人間牧場、全てで目標を達成か。出来過ぎなくらいだな」

 

「魔物達は人間を舐めきっています。人を家畜とするその価値観が染み付いた戦争慣れしていない魔物兵では突然の夜襲への対応は難しいでしょう」

 

「それでもよくやったものだ」

 

「はい。影の楔を中心とするレンジャーやアサシンらの働きは大きいでしょう」

 

「うむ……正面から戦っては如何に実戦慣れしていない魔物兵と言えども人間に勝ち目はない」

 

 ガイは魔人として、そして元人間としての視点で魔軍と人類の戦力を分析していた。

 力の面でも数の面でも人間は魔物には敵わない。ゆえに正面から挑めばすぐに押し潰されて無惨に死ぬだけ──その見解はガイやバークスハムだけでなく、人類軍の中心人物達もまた同様であった。

 だからこそ魔軍相手にどのような戦略、戦術を用いるかは満場一致で決まっていた。それをバークスハムが口にする。

 

「ゆえに我らは──徹底した遊撃戦にて魔軍を翻弄し、消耗を強いる」

 

 そう、それが今の人間に出来る唯一にして最も効果的な戦法であると結論付けていた。

 これから人類軍は夜襲を含めた奇襲や待ち伏せ、補給を破壊することに徹する。

 そうして嫌がらせによって大物を少しずつ釣り出すことを目的とした作戦である。ゆえにその大物を思い、ガイの帯剣が声を出した。

 

『だが戦いはこっからだぞ』

 

「ああ。分かっている。ここからは──魔人が動き出す」

 

 ガイの帯剣である魔剣カオス──魔人や魔王の無敵結界を破壊し、傷つけることの出来る唯一の剣であるその言葉にガイは神妙に頷いた。

 遊撃戦を行っただけでは嫌がらせにはなっても決して勝てやしない。魔物に勝利するにはその上の存在である魔人──そして、魔王ジルを釣り出さなければならない。

 

「すぐに討伐軍が編成されるでしょうな」

 

「魔人は誰が出てくる?」

 

「そちらも既に視えています。第一陣は──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「5体……やはり事前に分かっていた通りだったな。となるとジルは未だ城か」

 

「はい。そしてそこには魔人ノスが控えています。なので魔王城に強襲を仕掛けるのは難しいかと」

 

 バークスハムは手の内で浮かばせる水晶に視えた未来の景色をそのまま主であるガイに伝える。

 未来視の一族出身の傑物であるバークスハムによる予知、未来視は作戦を練るにあたって大いに役に立っていた。遊撃戦を行い、魔人を釣り出し、狙いの魔人を倒すか足止めを行う。

 そしてジルを釣り出すか周囲に魔人がいなくなった時点でガイがジルを強襲して倒す──人類軍が立てた大まかな作戦の概要がそれだ。

 

「……そうか。ならば予定通り、まずは削っていくしかないな」

 

「はい。しかしお気をつけを、ガイ様。他の魔人であればともかく、かの御方と戦えば今のガイ様では……」

 

「……分かっている」

 

 だが無論、口で言うほど簡単なことではないことはガイも理解していた。バークスハムの進言、注意もまたそれを懸念してのことだとガイは眉間に皺を寄せながらその脅威について思う。

 ともすれば、あのジルよりも厄介かつ勝利するのが難しいとバークスハムの予知で視えた存在。ガイにとって少なからず交流のあったその魔人の名を口に出す。

 

「──レオンハルト、か……」

 

 魔人筆頭にして魔軍参謀であるその最強の魔人が出てくる。

 かつて死闘を繰り広げたその相手の出陣は避けられない。

 ゆえにガイは苦々しい、複雑な気持ちを抱えながらも大義のために割り切ることを決める。

 

 ──自分は決して魔人レオンハルトとは戦わない。

 

 ゆえにレオンハルトの相手は……他に押し付けることを。

 ジルを倒すために自分に付き従う人間を犠牲にする。そのことをガイは、眼下で戦いを繰り広げる人間達を見て僅かに逡巡したが──すぐに目を背けて背後に歩き出す。

 きっと彼らの大半は魔物に、使徒に、魔人によって……無惨に殺されてしまうだろう。

 だがそうしなければならないのだとガイは強く自分に言い聞かせる。

 魔王を倒し、人類を解放するためには必要な犠牲だと割り切るしかない。

 その覚悟と決意を胸に刻んで──ガイはその日、自分で始めたその戦争に身を投じた。

 

 

 

 

 

 ──大陸東部。

 

 魔王城に程近い大規模な人間牧場。そこに建てられた大きな建造物は、大陸を支配する魔軍の司令部の1つだ。

 ゆえに普段、その場所には最低でも数十万規模の魔物兵が詰めており、人間の飼育と管理を行っている。

 言うなれば魔物の巣窟であり、野良の人間も決してこの辺りには近づかない。そこは魔物達にとっての安全地帯でもあった。今の世界で魔物を脅かす生物は存在しない。

 そのため魔物達は平穏を謳歌していたが……それでも恐怖を感じる時が全くないわけではない。

 一般の魔物を脅かせる上位者──魔人の存在。

 その魔人が今日、普段はあまり使われることのない司令部に集まっているのだ。

 しかも席に座るのは1体だけではなく4体もいた。その部屋の警備を行っている運の悪い魔物兵達は彼らの存在に普段は横行している私語を全く行わず、それどころか微動だにせずその場に立ち続ける。

 強烈な魔の気配──魔人特有の存在感がその部屋には渦巻いていた。

 

「はぁーい。お待たせ……ってあら? もう全員集まってたんだ」

 

 そして沈黙が続く司令部にもう1体の魔人が姿を現す。

 白い大蛇を恥丘から生やすその女の魔人──メディウサは既に席に着いている他の4体の魔人を見て呑気な声を漏らす。

 すると今まで腕を組んだまま上座で目を閉じていたその魔人の瞼が開き、その鋭い赤い眼光がメディウサを射抜く。並の魔物では萎縮して気絶してしまってもおかしくないそれを放つのは、全魔人中最強の存在である魔人筆頭兼魔軍参謀である魔人レオンハルトだった。

 

「──遅い。遅刻だぞ、メディウサ」

 

「えー? 嘘ぉ、ちゃんと時間通りに来たわよー」

 

「32分の遅刻だ。お前のせいで、それだけ会議が始まるのが遅れている。早く席に着け」

 

「それくらい許してよ。というかちょっと細かくない? 時間まで指定されてたっけ?」

 

「お前にもしっかり通達はしている。──それとも俺が間違っているとでも言うつもりか?」

 

「っ……と。そこまでは言ってないわよー。ごめんごめん。……もう、ちょっと冗談言っただけじゃない……大体、なんで私まで呼ばれて……()()()()()がまだ終わってないからって──」

 

「メディウサ」

 

「はいはーい。何でもありませーん」

 

 レオンハルトが僅かに目を細めて威圧すると、さすがにその圧力には観念したメディウサが軽く謝罪をしながら席に着く。その態度は明らかに不満気で、頬を膨らませて愚痴を呟いていたがそれをレオンハルトは再度諌めた上で別に視線を移した。

 

「さて、これで全員揃ったな」

 

「ふん……ようやくかよ」

 

 円形のテーブルに足を乗せて鼻を鳴らしたのは魔人レイ。

 誰にも憚ることなく、常に苛立ちを抱え、暴れられる機会を伺っているレイはようやくこの退屈な時間に進展が起きたことで一応は聞く姿勢になる。

 

「クケケケケ! ようやく始まるヒューマンダイ! ……のためのヒューマンキルミーティング! さっさと始めるがよろし!」

 

 そして席に座るでもなくとある生物に寄生した状態でテーブルの前にいたのは魔人レッドアイ。

 デジタルな思考に没頭していたレッドアイもまた軍議が始まることでそのキチガイ染みたテンションを表に出す。

 

「…………」

 

 そしてそれら全てを見て冷たい表情のまま頬杖をついて佇んでいたのは魔人カミーラ。

 レオンハルトを除くこの場にいる魔人の中では最も上位にいたはずのその魔人はただただ無言で上位者としての存在感を放ち続けている。

 彼らは今回、反逆者であるガイとその一派を討伐するためにレオンハルトによって招集された魔人達であった。

 

「ではこれより軍議を始める──リー、報告を頼む」

 

「はっ」

 

 魔軍参謀であるレオンハルトがその宣言と共に自らの使徒の名を呼べば、魔物大将軍出身の使徒であるリーがレオンハルトの隣で状況説明を行う。

 

「まず2週間前に起こった各地の人間牧場襲撃についてですが、襲撃が掛けられた18箇所全てで人間の集団を確認しております」

 

「ハッ……あの野郎はマジで人間と手を組んでるのかよ」

 

「はい。その可能性は高いかと。襲撃を受けた人間牧場は全て小規模かつ魔人のいない場所です。魔軍の情報に詳しい者がいなければこれだけ正確に手薄な箇所を狙うのは不可能です」

 

 その場にいる者達にも見えるように広げられている地図には予め各地の人間牧場の位置や街や城などがある場所も正確に記され、襲撃を受けた場所にも印が置かれていた。

 それを見れば相手が戦力の手薄な牧場を狙って襲撃を掛けていることもよく分かった。主に大陸南部と東部を中心に、魔人のいない場所だけを狙い撃っていると。

 

「ふーん……だから牧場が襲撃されたって割にはこっちは静かだったんだ」

 

「襲撃を仕掛けた集団の中に魔人ガイの姿は確認出来なかったと報告を受けています。魔人に傷を付けられるのはガイ様と勇者と呼ばれる人間のみ。下手に仕掛けては返り討ちに遭ってしまうという判断でしょう」

 

「向こうの戦力は魔物討伐隊を中心としている。その数は多くとも1万や2万程度だろう。であれば被害は抑える戦略を選ぶのは当然のことだ」

 

「はい。レオンハルト様の言う通り、向こうは遊撃戦にて軍勢を釣り出し、夜襲や物資を狙いながらの各個撃破を目的としていると思われます」

 

 魔軍相手に正面から戦争を仕掛けても勝てるはずがない。何しろその数には何百倍もの開きがあるのだ。仮にこれが魔軍でなく同じ人間の軍勢だとしても勝ち目のない数。ゆえに遊撃戦を行いつつの首狩り戦術を行う以外に向こうの勝ち筋はない。

 

「だったらもう大軍で踏み潰しちゃえばいいんじゃない? そしたら絶対勝てるし面倒もないでしょ」

 

 だからこそそんな意見が出てくるのも当然のことだ。それを口にしたメディウサ自身は、自分が働きたくない、面倒なことをさっさと終わらせたいという意思から口にしたものでも、その対策自体はシンプルかつ真っ当なものである。

 しかしその意見を、レオンハルトは否定した。

 

「普通ならそれでも構わないがな。だが今回は、その手は取らない」

 

「え~? 何でよ?」

 

「この戦争は勝つことがだけが目的じゃない」

 

 レオンハルトは言う。魔人として、絶対に従わなければならない上意。今回の戦争の主目的を。

 

「ガイを叩き、追い詰めること。それがジル様から俺達に与えられた命令だ」

 

「……要は遊びってことか」

 

「ああ。ジル様はガイが苦しみ、絶望することを望んでいる。そのためには奴が仲間にした人間相手にも一気に叩き潰すのではなく、真綿で首を絞めるようにゆっくりと嬲り殺しにする必要がある。無論、手加減した上でな」

 

「ハッ、なるほどな……さすがはジルの姉御。良い趣味してるぜ」

 

 レオンハルトの語ったその主目的──魔王ジルの命令を聞いてジルを慕うレイが素直な感心を見せる。

 そしてそれを聞けばどんな魔人でも納得せざるを得なかった。大軍を送り込み、轢き潰すのが最も確実で安全な手であるが、それをしても芸がない。

 人間と、そしてガイには希望を与え、その上で追い詰めて絶望に叩き落とす。この戦争はそのための手段であり、つまるところ真剣勝負ではなく遊びなのだ。

 普通に戦っては勝負にならないため、手加減を行う。そのために、敢えてレオンハルトは相手の誘いに乗ることを口にする。

 

「だから今回の討伐軍に関しても数はそう多くは出さない。その上で、お前達にはそれぞれ一個軍を率いて動いてもらう」

 

 そうしてレオンハルトはその内訳を告げた。魔人達が率いる一個軍。そのそれぞれの担当を。

 

「まずはレイ──お前にはガイが潜伏している可能性の高い人間の拠点の1つを襲撃してもらう」

 

「……ほォ、悪くねェな」

 

 大陸南部。その南端に近い地点にリーが駒を置き、その場所をレイの軍が担当することを告げる。

 目的は“影の楔”という魔物討伐隊の拠点の捜索及び襲撃で、レオンハルトからの命令であっても担当自体は悪いものでないためレイは特に反抗することもなくそれを受け入れる姿勢を見せた。

 

「メディウサ。お前も役割自体はレイと同じ。人間の拠点を1つ襲撃してもらう」

 

「うわ、面倒くさそー。こいつに全部任せていい?」

 

「……この蛇女と一緒にやれってのか?」

 

「早とちりするな。メディウサが襲撃するのはレイとは別の拠点だ」

 

 言ってまた地図に駒が置かれる。大陸南部中央の山岳部。そこが“鋼の騎士団”という魔物討伐隊の拠点があると思われる場所であり、メディウサが担当する軍が向かう先だ。

 

「しょうがないわねえ……ま、いいけど。それなら久しぶりに外の人間で楽しませてもらおっかな」

 

「……後で細かい詳細を伝える。そして次にカミーラ。お前は俺と共に遊撃に加わってもらう。それで構わないな?」

 

「……ああ。それでいい」

 

 そしてメディウサの不穏な笑みとその言葉を無視し、レオンハルトは次に遊撃軍──自らとカミーラが指揮する軍を大陸南部西側の辺りに駒で示す。

 

「……って、なんでそっちは2人なのよ?」

 

「捜索のためだ。西側にあると思われる拠点は未だ詳しい地点が判明していないからな。途中で軍を分ける可能性がある」

 

「とか言って、本当は女の子と一緒にいたいだけだったりして?」

 

「だとしてもお前の関与することじゃないな。……さて、最後だが討伐軍全体の司令部を置く本陣をレッドアイ。お前に任せる」

 

「オーケーオーケー。ノープロブレムよ」

 

 メディウサの茶化しにもレオンハルトは付き合わず、最後に大陸南部中央の平原。そこにある人間牧場に本陣を示す駒を置き、そこをレッドアイに任せると告げた。

 ここまで特に発言せず黙っていたレッドアイだが、命令を下されれば軽くそれを了承してみせる。その様子はどこか上機嫌にも見えるが、実際に何を考えているかは同じ魔人であっても窺い知れない。

 

「加えてそれぞれの軍に俺の使徒を最低2人は付ける」

 

「……別にいらねェがな」

 

「ガイを発見し、お前達が戦闘に入った際のフォローを行うためだ。向こうには使徒のバークスハムや人間の実力者も少なからずいる。それらを排除しながら万が一にも魔物将軍を殺され、軍の敗走を防ぐための対策だ。向こうの狙いに付き合う以上、こちらも敵を一蹴出来るよう盤石の布陣で臨まなければならないからな」

 

「……ふん。そうかよ」

 

 レオンハルトの使徒が2人は付くという説明にレイはボヤキはするも、その理由まで説明されればそれ以上は文句を口にしない。言ったところで無駄。そして、どうでもいいからだ。どの道使徒では魔人と戦えない。ガイと戦う際に邪魔が入るのも面倒。それならば使徒に露払いを任せるのはレイや他の魔人にとっても都合が良かった。

 ゆえに問題なく布陣は決まる。レイの軍にミシェーラとイヴ。メディウサの軍にキャロルとペール。レオンハルトとカミーラの軍にハンティとガウガウ。そしてレッドアイの担当する本陣にはリーとお町がそれぞれ付くことになる。

 そして魔人や使徒以外も精鋭を選んでいた。本陣には魔物大将軍カエサルも指揮に付き、各魔人が率いる軍は全てレオンハルト軍に所属する将兵であり、普段は出さない親衛隊までも参陣している。

 それはレオンハルトの言うように、まさに盤石の布陣であった。

 しかし布陣には問題なくともそれ以外の不安要素もあるためレオンハルトは改めて告げた。

 

「分かっているとは思うが、俺の指揮下で動く以上は俺の指示には従ってもらう。命令違反は厳罰だ。それを理解した上で行動しろ」

 

「チッ……」

 

「言われなくても分かってるわよぉ」

 

 レオンハルトは命令違反を犯す可能性の高い2体の魔人、レイとメディウサに対して鋭い視線を向けながら釘を刺す。それに対しレイは舌打ちで、メディウサは頬を膨らませながら嫌そうに了承した。

 

「そして当然だが……相手が人間だろうとガイだろうと、負けることは許されない」

 

 そして魔人達に改めてそれを言い聞かせるも、それに対し文句や不満を口にする者はいない。

 魔人の殆どは自らの力に自信を持っている。そのためどうとでもなると高をくくっていた。ガイが如何に手強かろうと、同じ魔人の内のたった1体。それに加えて人間の軍勢。そんな矮小な相手に負けるはずがないと。

 

「では行くぞ──ジル様の名の下に、人間を再び絶望の底に落とす」

 

 ──それから、詳しい命令内容。敵陣営についての情報を共有した後、レオンハルトはその場にいる魔人と使徒。軍勢を指揮する魔物大将軍カエサル。魔物将軍。魔物隊長。全ての魔物兵に対し、そう宣言する。

 

 ──ガイ一派を討伐する総勢10万の軍勢が、その日の内に大陸南部の司令部に向けて出立した。

 

 ──そしてそれが人間達にとって千年振りの、多くの屍を積み上げることになる……地獄のような『戦争』の始まりだった。




今回はこんなところで。ちなみに戦場になる大陸南部はゼス地方の辺りです。次回からようやく戦闘回に入れそうってことでお楽しみに。

良ければ感想よろしくねー。
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