大陸南部の森林地帯。その奥地は深夜であるにも関わらず常に明かりが灯っている状態だった。
「おっ……らああああああ!」
「ライトビーム! 闇の波動! 白色破壊光線!」
しかしそれは明かりというほど生易しいものではない。
度重なる魔法の光と走る稲光は森を焼き、大地を砕き、立ち塞がる何もかもを破壊していく。
勿論、通常の魔法を用いた戦闘であればこれほど大きな規模にはならないが──魔人は別だ。大陸の支配者。人間や魔物を遥かに凌駕する彼らの戦闘はもはや人の手ではどうにも出来ない災害のようなもの。
「絶対零度! ゼットン! 黒色破壊光線!!」
「ぐっ……おおおお! (クソ! いつまでやっても攻撃がまともに当たらねェ!)」
──だが、その災害にも当然強弱があり、序列が存在する。
それを決定づけるための手段が戦闘……であるが、魔人レイは序列というものに興味はない。魔人四天王やそれ以上の地位を欲してはいない。
やりたいことは目の前のムカつく奴をぶっ飛ばしてスカッとすること。
だが、そのムカつく魔人ガイは常にレイの攻撃を躱しながら逃げ続け、一定の距離を保ったままレイを攻めていた。
「いつまでも逃げてんじゃねェぞ! ペテン野郎!」
「私が悪いのか? お前が逃さないようにすればいい話だろう」
冷たくムカつく言葉と共に飛んでくる魔法は全て上級魔法以上か、そうでなくてもそれ並の威力を持つ魔法ばかり。
その理由はガイの魔力が並外れて高いからであることにレイは気づいていた。レイに魔法の知識はそれほどないが、雷を使った戦闘を行うことやレイのこれまでの戦闘経験においても魔法を相手にすることはザラにあるため並の魔法がどんな効果でどれくらいの威力があるのかは何となく理解している。
(なるほどな……! この野郎、小細工が多くてウゼェが確かに強ェ……!)
だからこそレイにはガイの非常識さがよく分かった。
魔法1つ取っても並の魔法使いの何倍、いや何十倍の強さがある最上級魔法を連発し、未だに疲弊した様子も魔力切れを起こす様子も見せない。
だというのにガイは剣の達人でもあり、近接戦を行ってもかなりやるであろうことはここまでの身のこなしでよく分かる。常に帯電しており、剣でも触れれば痺れることを嫌ってかガイは遠距離での魔法戦に徹していたが、仮に近づいて戦っても問題ないことは明らかだ。
(が、嫌がってることは間違いねえ。ならどうにかして距離を詰めりゃあ……!)
だがレイは自らの勝利のためには近接戦に持ち込むことが必要不可欠だと確信していた。遠距離での戦いもレイには出来ないこともないし、実際ガイも完全な無傷とはいかない。散発的に放たれる雷。周囲に溜まる雷雲。増幅される雷の攻撃は時折、ガイに命中して僅かだがダメージを与えて入る。
だがそれはいつまで経っても致命傷にはなりえないものだ。ただでさえガイは常にバリアを張ってダメージを軽減しながら戦っている。遠距離からの雷攻撃では幾ら雷雲による強化が施されていたとしても上位魔人にはかすり傷程度のダメージしか与えられない。
(殴れりゃどうにでもなる……!)
だがレイもまた得意とするのは近接戦であり、自らの身体を用いての殴り合いだ。
殴れればバリア程度は砕け散り、ガイであっても無視出来ないダメージを与えられる自信はある。
だが問題はそこまでガイが行かせてくれないこと。徹底して距離を取り、魔法による圧倒的な火力でレイを寄せ付けないガイはレイにとってかなりやりにくい相手であった。
「どうした? いつになったら私を殴れる。それともそろそろ負けを認めるか? それなら私も手間が省けて助かるが」
「ッ……! 安心しろよ……まだまだお前を殴りたい気持ちしかねェ!」
安い挑発と共に放たれる魔法はその言葉ほど安くはない。レイもまた全力で雷を放ってガイの魔法をどうにか相殺する。
(距離を詰めねェとこのままジリジリと削られてくだけだ。なら、多少無理にでも突っ込んで距離を詰めてやる!)
そしてその攻撃を防いだ直後に、レイは直感で思いついた策を実行した。
「オッラアアアアアッ!」
「何度やっても無駄だ」
(ハッ、言ってろ!)
内心でガイの挑発に言い返しながらもレイはガイを殴るための最適な方法を実行に移す──ガイへの攻撃を外した体で、地面を思い切り殴りつけることで。
「! これは……目眩ましか」
『身を隠したぞガイ! 気をつけろ!』
(気をつける隙なんて与えねェよ!)
地面を殴り、破壊を起こしながら土煙を上げる──が、その程度で隙を突けるほどガイという相手は温くないことをレイは思い知っていた。
だからこそ、土煙を上げながら周囲に溜まっていた雷雲を周囲に集めてそれにより身を隠す。真っ黒い雲はこの夜の闇の中で、十分に目眩ましになりえるものだ。
レイも一時的に帯電をやめればレイを発見出来る術は相手にはないし、出来ても間はあるだろう。
(その隙を突いてぶん殴ってやる!)
そう思い、レイはガイから僅かに距離を取って回り込もうとした。そのまま後方に逃げるであろうガイの行動を先読みして──
「──しゃらくさいわ!」
「ッ!? なっ──!?」
──だが、その予想に反してガイが突っ込んできた。
雷雲の中に飛び込み、その中に潜んでいたレイに向かってガイはその先程注意を促していた魔剣カオスを振り下ろしてくる。
「ぐおおおおっ!?」
「死ねええええ! ──ぐうううう!」
そしてレイの体質を無視して斬撃を放ってくる。
その予想外の攻撃にレイは身を翻して致命傷を避けることになった。カオスをまともに食らうのはマズいことは魔人として本能的に分かる。ガイの剣士としての実力から考えても、まともに食らえば一発で致命傷になることもありえたためだ。
「チッ……確かに痛いが大したことないわ! それよりそっちの方がダメージは大きいようだな!」
「っ……! (くっ……この野郎……! また性格が変わったみてェに突っ込んできやがって……! まさかこれを狙ってたのか……!?)」
そして反対に、ガイの方はレイの雷を直接食らっても大きなダメージとはならない。身体の前面を僅かだが斬り裂かれたレイと違って、余裕の表情を見せる。
「近づけば俺を倒せると思ったか! 馬鹿が! お前なんぞ、この俺の敵じゃないんだよ!」
「……! こんくらいでもう勝ったつもりか……! てめェこそ舐めてんじゃねェぞ……!」
レイは傷を作り、血を流しながらも距離を詰めたことで反撃の拳を放ってやろうと更に一歩近づいて拳を振りかぶる。
そしてそれにガイも応じようとしていた。
「殺して分からせてやる! 死ねええええ!」
「!」
ガイの剣は鋭く重いものであることは先程の一撃で分かっている。見切りを見誤れば致命傷を負ってしまうだろう。
だがそれでもだ。近距離での殴り合いは望むところだとレイは血を熱くした。ようやくぶん殴るチャンスが来たと。ガイの剣を紙一重で躱してカウンターのパンチをお見舞いしてやると、そう狙いを定めたところで──
「──馬鹿が。敵の得意とする間合いで態々戦う必要がどこにある」
「ッ!? 何、だと……!?」
──しかし、目の前のガイは途端に動きを変えた。
殺意を込めたその表情。力を込めた剣。その腕の振り。全てを途中で取り止めて、冷静に背後に飛び退きながら右手に魔力を溜めて撃ち出してくる。
「──白色破壊光線!」
「ぐ──おおおおおおおおおおおっっ!!」
それはもはや不意打ちにも等しい後出しの攻撃だった。
剣による近接攻撃を想定していたレイは、その咄嗟の行動に不意を突かれてガイの魔法を正面から受けて吹き飛ばされる。
森の木々を消し飛ばし、大地を焼くその魔法の威力を受けたレイは地面を転がりながらその不可解に内心で疑問と悪態をついた。
「ッ……く……! (途中で動きが……攻撃の気配ごと変わりやがった……!)」
「全く……これだから脳筋は嫌になる。幾ら相手がムカつくからと敵の狙いに無駄に乗るとはな……」
ガイの独り言にも等しい呟きを耳にしながら、レイはその行動がガイのペテンであることを半ば理解した。
ガイが変人であることは魔人の中では知られた話だ。冷静に話していたと思ったら急に粗暴になったり、逆に冷たい反応を見せたりする──そうして相手を騙してくることをレイは身を持って知っている。
今回もそれをやられたのだ。逃げると思わせて突っ込んでくる。突っ込んでくると思わせて距離を取る。
言ってしまえばただのフェイントであり、それ自体は誰もが行うような戦闘の際の駆け引きである。
だがガイのフェイントはそうだと気づかせない。神業染みたフェイントであった。
レイも馬鹿ではない。戦闘の際は相手の行動を見た上でしっかりと対応するように戦っている。
だがその予測がここまで通用しないとは思わなかった。
その上で剣も魔法も極めて高いレベルでこなせる魔法戦士というのは──やりにくくてしょうがない。
「無駄に被弾してしまったが……まあ許容範囲か。かなりダメージは稼げたようだしな」
「はぁ……はぁ……! クソが……!」
レイは立ち上がりながらも息を乱して冷静なガイを睨みつける。
今の白色破壊光線の直撃はかなり効いた。直前のカオスの傷もあって、レイは致命傷とまではいかずともかなり体力を削られてしまっている。
これが普通の人間によるものであれば、数度の攻撃程度で息を乱すような無様は晒さない。魔人の体力は人間と比べて圧倒的に多い。
だが相手が同じ魔人であれば──しかも自分より上位の魔人であれば、こうして何度か攻撃をまともに食らっただけで明らかな不利に陥ることもある。
しかし実力が拮抗した戦いであれば何日も──それこそ何ヶ月も戦うことも可能な魔人を。
「このまま圧殺してやろう……貴様に恨みはないが……悪く思うなよ、レイ」
「っ……!」
──魔人ガイはこうして短時間の内に制しようとしていた。
魔人四天王でありあの魔人レオンハルト相手に引き分けたという噂を持つガイの強さについて、多くの魔人は半信半疑であった。
だがレイもまた理解する。ガイの強さ。その余裕から見える底知れなさを。
レオンハルト程ではないとはいえ、そのペテンの腕前から見るにその認識すら騙されている可能性があるかもしれないとレイは思う──が、それとこれとは話は別だ。
「ぐ……おおおおおお……!」
「……まだやる気か? あまり悪あがきをすると痛いのが長引くぞ」
「うるせぇ……余計なお世話だ……!」
相手が強いから、自分が不利だからといって早々に負けを認めることをレイはしない。
ダメージを負って苦しくてもまだ戦える。まだ発散出来ていない。
ならば目の前のムカつく奴を殴るだけ。腹の中の苛立ちを少しでも解消するために──暴れることを止めはしない。
「……せめて苦しまないように殺してやろう」
「やれるもんなら……やってみろよ……! クソペテン野郎……!」
「なら望み通りに──白色破壊光線!」
「っ──おおおおおおおっ!」
ガイの放つ最上級攻撃魔法に、再びレイは吶喊していく。
まだまだ死にはしない。余裕ぶって勝ち誇ってるガイに吠え面をかかせてやると更に意気込んで。
「──白色破壊光線!」
「!? あ……!?」
「っ……何……?」
──だが、その反撃を、苛立ちの発散を寸前で邪魔される。
目の前に走った光の奔流。それが、ガイの放ったそれと激突し、周囲に衝撃波を撒き散らしながら相殺され収束していくのをレイだけでなくガイも見た。
そしてその正体を、ほぼ同時に2人は認識する。
「っと……なるほどね。確かにこりゃ強い。レイ坊やじゃ手に余るわけだ」
「てめぇ……!」
「──ハンティ、か……」
レンジャーのように身軽に地面に着地したのは黒髪のカラーのような見た目の最強の使徒。魔人レオンハルトの使徒であるハンティだ。
その突然の登場に、その発言もあってレイは殺意を持って睨みつけ、ガイは僅かに目を細くして思案する──後もう少しでレイを仕留められたのにと内心で歯噛みしながら。
「邪魔してんじゃねェよ……! レオンハルトの腰巾着が……!」
「ハッ、お楽しみを邪魔されてご立腹かい? でもあたしがこうして現れなきゃあんた、そのうち死んでたんだから少しは感謝したらどう?」
「何だと……!」
「……それで、次はお前が私の相手をするとでも?」
戦いに割って入ってきたハンティに、ガイはレイと違って冷静に声を送る。
そうしながらもその一挙手一投足を見逃さないようにしていた。何しろ、ハンティという存在はガイにとっても未知数の脅威。
使徒である以上、無敵結界を抜けないのだから魔人の相手にならないと考えるのは早計だ。あの魔人レオンハルトの使徒で、使徒の中でも最強と称され、目の前のレイのような魔人ですらあしらう実力を持つとされるハンティを舐めてかかることような愚を犯すつもりはない。
その強さと能力ゆえに、レオンハルトからは常に重要な仕事を任され、単独行動を行うことも多いことはガイも友人から聞いて知っている。
「そうだね。あたしとしても1回くらい戦ってみたかったし、頷きたいところではあるね」
そして──その魔法の腕前も、以前の自身に匹敵することもガイは知っている。
ゆえに警戒は最大限だ。以前の自分であればいざ知らず、今の自分よりも明らかに魔法の腕前が上である相手であれば、魔人の無敵結界もどうにかし、能力差を埋めてくるような手段を持ってきていてもおかしくはない。
魔人レイなどよりもよっぽど厄介な相手であると、ガイは不敵な笑みを浮かべるハンティを見ながら静かに言葉を返す。
「……ならば、違うと?」
「ああ。残念なことにね。あんたと戦いたい奴は多いこともあって順番ってのがあるのさ。最初はレイ。そしてそのレイが負けたら次は──」
『! ──ガイ! 何か来るぞ!』
「っ!?」
そしてそのハンティの言葉を聞き終える瞬間──カオスがその気配を感知し、ガイはその声に従ってその場から急いで飛び退いた。
その攻撃はガイが先程までいた地面を消し飛ばし、クレーターを作ってしまうほどの威力だ。おそらくは魔法──そう思いながらも、ガイの知識にある魔法とは違ったエネルギーを感じ取り、ガイはその攻撃を放ってきた相手が誰かを見極めようと気配に従って上空を見て──そして気づいた。
「──次はドラゴンの女王様が、あんたをご所望だよ」
「カミーラか……!」
開けた視界。闇夜の月をバックに宙に浮いていたのは白銀の髪に角を持つドラゴンの特徴を持った美女だ。
だがその気配は人でもドラゴンではない──魔人のものであり、しかもそれが上級魔人のものであることをガイは理解している。実際に感じるだけでなく、実際に過去にそうであったことを知っているからだ。
何しろ、その魔人カミーラは──
「──ようやく……ようやく貴様を殺せる時が来たな……ガイ……!」
「っ……!」
「400年程前に受けたあの恥辱……! それを今日、貴様に返してやる……! その身体をズタズタに引き裂いて、殺してやることでな……!」
──かつてガイによって、その座を追われた……元魔人四天王であるからだ。
──魔人カミーラは高揚し、そして憤怒していた。
その理由は単純明快。目の前に憎き男、ガイがいてそれと戦う機会を得られたからだ。
今より400年程前、カミーラはガイが魔人になった際に魔人四天王の地位を追われた。
他ならぬ魔王ジルによる除籍に直接異を唱えることは魔人として出来ない──が、その屈辱をガイに返し、地位を取り戻すことは出来るとかつてカミーラはガイに戦いを挑み、そして無惨に敗北した。
あわや犯される一歩手前までいった。その恥辱をカミーラは忘れていない。助けに入ったレオンハルトがいなければ、カミーラは消えない傷を負わされて更に屈辱を感じていただろう。
そしてそれからだ。カミーラがレオンハルトと共に狩りを──レベル上げを行うようになったのは。
それはそこらの人間や魔物を狩るような地味な作業とはいえ、レオンハルトは常にこちらの機嫌を伺い、乗り気になれるように趣向を凝らした。
カミーラの好きな宝石や美少年を配置したり、レベル上げが少しでも捗るように金の湯という特殊な温泉にも10年に1度通うようにもなった。
「それによくも邪魔をしてくれたな……!」
「っ……何の話だ……!?」
──そしてその事もまたカミーラにとって、ガイに怒りを覚える理由だ。
ガイが魔王ジルから離反し、敵対したこと自体はカミーラにとって逆襲の絶好の機会を得られるからむしろ良いことだ。よく敵対してくれたと褒めてやるくらいには。
だが、その時期がちょうどレオンハルトと混浴の年と、月と重なったことで今年のそれは延期となってしまったのだ。
(あのレオンハルトに身体を洗わせる数少ない時間を……よくも邪魔してくれたな……!)
そう、10年に1度の混浴の機会を逃した──そのことにもまたカミーラは怒りを覚えていた。
この世で唯一カミーラが認める雄であるレオンハルトによる奉仕の時間。最上の男であるレオンハルトが、自分に傅いて身体を洗ってくれる時間は、カミーラにとって10年に1度の楽しみであった。
価値の高い宝石や美しい男を侍らせることを喜ぶカミーラにとって、レオンハルトという最強の魔人が、まるで従者のように自分の身体を丁寧に洗ってくれるというのは凄まじく滾る──そう、優越感を感じる瞬間である。
しかもその洗い方は上手い。というか気持ちいい。やっていることはただ身体を洗っているだけなのに、的確に快感を与えてくるのは「わざとやっているのか?」とカミーラも疑いを持ってしまうほどだが、そのことも途中からどうでもよくなっていった。レオンハルトの自身に対する好意は承知している。ゆえに多少の下心は許してやるし可愛いものだ。
……しかし10年に1度、というのが中々カミーラを焦らさせるものであり、その期間を待つ間のカミーラは時折そのことを思い出しては溜息が溢れるほどだ。魔人としての時間間隔として10年はあっという間であるはずだが、それでも10年を待つというのはそれなりに焦れるのだ。
だからこそ、この10年の間にカミーラは次の機会でレオンハルトに10年の間を空けなくて済むようにこちらからそれとなく持ちかけるつもりであった──正確には、考えついたのは300年くらい前だが、その内レオンハルトの方から言ってくれるだろうと待つこと100年。それとなくアピールしてみること100年。こちらから言うしかないか……いやしかしそれは私のプライドが……と葛藤すること100年、と持ちかける決心をつけるまで結構な時間を費やした。
ただこちらからそういう風に誘うだけなのに何もそこまで悩まずともと下等な者は思うだろうが、カミーラ程にもなるとそれすらプライドが邪魔をする。ゆえにカミーラにしてみればそれを決めたことは中々の奇跡であるのだが……それを決めた矢先に、ガイの宣戦布告だ。
(どこまでも私の気に障る奴だ……! ガイ……貴様だけは許さん……殺してやる……!)
そしてカミーラは更にガイへの怒りを募らせた。殺意と怒りを滾らせて、カミーラは力を入れてガイに自らの爪を突きたてようと凄まじい速度で肉薄した。
「っ! (速い!)」
「言っておくが、昔の私だと思うなよ……! 貴様を殺すために、研ぎ澄ましてきた……怒りを募らせながらな……!」
ガイを倒すためのカミーラの持ってきた戦略は、レベルを上げて戦うという戦略とすら呼べないものである。
──だが、その単純な強化こそ強い敵を上回るためには最も効果的な方策である。
元々魔人四天王。それもプラチナドラゴンの魔人という種族的にも恵まれているカミーラの実力は魔人の中でも上位である。その怠惰な性格もあってレベルこそ劣ってはいたが、逆に言えばレベルが劣っていても他の魔人を蹴散らせるほどに、そのスペックは高いのだ。仮にレベルが同じでも、人間と他の種族では能力値が異なるように、魔人の中でも元の種族や個々の特性によって能力は違ってくる。
そんな中でプラチナドラゴンの魔人のカミーラの能力は、レベルが劣っている状態でも他のおおよその魔人よりも上である。
そのカミーラがレベル上げを行えばどうなるか。
「っ!? (速いだけではない……! 力も以前と比べれば格段に強くなっている……!)」
「逃げられると思うな……!」
それは、純然たる種族差。肉体能力の差による暴力だ。
完成された種族であるがゆえに滅ぼされたドラゴン。そのドラゴンの中でも一匹しか存在しないプラチナドラゴンという種族の強さは他のドラゴンと比べても上位に位置する。
ゆえにただの人間や、ただの魔人に比べれば圧倒的に強い。そういう種族であるからだ。そもそもが強い種族。力も速さも。体力や魔力も。あらゆるステータスが人間を突き放している。
ゆえにカミーラはレベルが上がるのが遅いが、その上昇幅もそれに見合うほど大きい。
結果、カミーラは基礎的な能力──魔力を除けば、ガイを上回るだけの強さを身に付けていた。
カミーラによる爪の一撃にガイは押され、逃げようにもすぐに追いつかれる上、そもそもカミーラは飛ぶことも出来る。レイに行っていたような間合いの管理がカミーラ相手には行えない──
「──黒色破壊光線!」
「っ!」
──とも限らない。
カミーラの肉体能力による物理攻撃は先程のレイによるそれよりも更に苛烈かつ俊敏で、獣が狩りを行っているかのような恐ろしさがあった。その強さは間違いなく怪物である。
だが、ガイもまた怪物だ。魔力を込めた最上級魔法。その黒い奔流にはカミーラもまた脅威を感じて対処せざるを得ない。
「“Dブレス”!!」
その手からドラゴンの証たるブレス──闇の力を秘めた一撃を放ち、何とかガイの最上級魔法を防いでみせるも、ガイの魔法はこの程度ではない。一撃を防がれても次が、また別の魔法が次々と飛来してくる。
「……どうやら、レイよりは気を使って挑む必要がありそうだな」
『油断するなよガイ。カミーラの奴、言うだけあって昔より遥かに強くなっとるぞ……!』
「ああ──“攻撃付与”、”防御付与”、“魔法付与”、“命中付与”、“魔抵付与”、“高速飛翔”、“ゆらゆら影”──」
「っ……面倒なことを……!」
そしてカミーラがその魔法に対応している間、ガイは自らの能力を強化する魔法を、自分の知識にある使えるだけの全てをかけて自身を強くする。
純粋な身体能力で劣るのであればバフをかければいい──かつての人間時代、ガイがレオンハルト相手やその先の魔王を想定して用いていた戦法だ。
その時使用していた禁呪のような離れ技は使えないとはいえ、その強化もガイ程の術者となれば馬鹿にはならない。
「──さて、これで準備は終わった。レイに続いて、次はお前を戦闘不能にしてやろう」
「まだ私を怒らせるか……! その度胸だけは買ってやろう……だが、その代償は高くつくぞ……!」
「来い」
「!」
怒りと共に振るわれるカミーラの伸びた爪と冷静なガイの魔法の応酬が始まり──その第二ラウンド……上位魔人同士の戦いは幕を開けた。
今回はこんなところで。カミーラさんのレベルは大体170前後くらい。ガイは200は超えてるかな。ちなみにハンティは更に上。ってことで魔人同士の戦いはまだ続きます。
次回はまだまだ戦闘回なのでお楽しみに。
良ければ感想よろしくねー。