人生というのは自分の思い通りにいかないものである。
それは人間以外でもそうだ。それは人間だろうと魔物だろうとカラーだろうとハニーだろうとドラゴンだろうと魔人だろうと同じ。強者であれば思い通りにいくことが多くなるだろうが、どれだけ強くなっても予想外の出来事は起こりうる。
例えばそう……魔人四天王級に強い存在であっても。
「よ、ようこそお越しいただきましたレオンハルト様!」
「──ああ。出迎えてもらって悪いな、ケイブリス」
「とんでもありません! むしろこんな僕の小汚いお家に何の御用でしょうか!? あ、そういえば貢物もあります! どうぞ持って帰ってください!」
「いや今日はそういうのは少し、な。受け取るわけにはいかない」
「そ、そうですか……」
大陸南部にあるとある人間牧場。その近くに建てられた屋敷で、屋敷の主である魔人ケイブリスは大事な客人を出迎えていた。
その相手こそが魔人レオンハルト。魔人ケイブリスが魔王を除けば最も媚びへつらっている相手である。それこそ2000年以上前から、レオンハルトが魔人になってから貢物を送ったりしてケイブリスは気を使っていた。それもさもありなん。魔人一の臆病者かつ小心者であるケイブリスにとって最強の魔人として長年君臨しているレオンハルトは畏怖の対象だ。今までに同じ魔人を粛清してきた事実もある。ゆえにケイブリスはいつも以上に怯えていた。何しろつい先日──魔人メディウサがレオンハルトに粛清されたという話がケイブリスの耳にも届いていたから。
だからこそケイブリスはその巨体を丸くしてぺこぺこと頭を下げながらレオンハルトの様子を見るが……少し様子が違うレオンハルトにケイブリスは内心汗を掻く。
(な、なんで貢物を受け取らねぇんだ……? というか俺様に何の用が……ま、まさか俺様がメディウサと仲良くしてたから俺様にも何か苦言を……? やべぇ、何かしたか……? あいつとの会話なんて憶えてるわけがねえええええ!!)
そう、ケイブリスは杞憂していた。レオンハルトに粛清を決心させる何かをしたメディウサと、ケイブリスは少なからず仲良くしていたがゆえに。
だがケイブリスにしてみれば少し他の魔人よりは気があって少し話すくらいの仲だっただけで別に仲良くない──そうだ。全然仲良くないし実は嫌いだった。ケイブリスはその思考に至る。なんかあいつ偉そうだし嫌々付き合ってました! その作戦で行こうとケイブリスは決心する。
──しかしその作戦は何ら意味がない。というかその考えこそまさしく杞憂だった。レオンハルトはレオンハルトでその赤い双眸でケイブリスを見つめながら思案していた。それは。
(どんな理由があれ仲良くしていた魔人を俺が殺したのは事実。やはりお詫びの品と共に一言謝っておくべきか……しかしケイブリスが喜ぶ品となるとなんだ? いつも通り経験値アイテムだけだと謝意が伝わらない気がする。もう少し特別なものを……)
──ケイブリスが仲良くしていたメディウサを殺したこと。そのことに対し、レオンハルトは一言謝罪しに来ていた。
道理としては謝る必要はないのかもしれないが、殺した後でレオンハルトは思い出した。そういえばメディウサとケイブリスは仲が良かったな、と。
そうして後になってからレオンハルトはなんだかケイブリスに悪いことをした気がして一言言いにいくかと思い立った。メディウサのことはどうでもいいが、ケイブリスはなんだかんだ自身を慕っていつも貢物を送ってきたりする相手である。それだけにこちらもそれに見合う礼を尽くすべきだと。
(それにカミーラの件もあるしな……)
そして別件でこちらは謝ることでもないが、一応ケイブリスが好んでいるカミーラとここ数百年は特に仲良くしていることもあり、バツの悪さを感じたレオンハルトは殊更何かしてやるべきかと考える。恋愛事は致し方ないことではあるのだが……。
(さて、どうするべきか……)
(ひいっ!? レオンハルトの奴が俺様を睨んでる!? 相当苛立ってるのか……!?)
互いのすれ違いが起こっている中、レオンハルトは内心怯えているケイブリスを見て口を開く。やはり言うべきはメディウサのことだろうと。
「今日ここに来たのは他でもない。メディウサの件だ」
「は、はい……! あいつがどうかしましたか……?」
「この間の戦いの後、俺はあいつを粛清した。俺が個人的に結んでいた契約に関する違反。そして魔軍として麾下に入りながらも俺の命令を無視したことが理由だ」
「そうでしたか……メディウサの奴、ほんとどうしようもないですね! 実は僕もあいつのことは嫌いで嫌々付き合ってたんですよ! だから粛清してくれてむしろ清々しました! さすがはレオンハルト様ですね! (メディウサの奴……あれだけ言ったのにレオンハルトとの約束を破ったり命令違反しやがったのか……!! ふざけやがって……俺様までイライラしてきたぜ。なんであいつのせいで俺様が胃の痛い思いをしなきゃなんねぇんだ……!!)
レオンハルトが切り出したメディウサの話を聞いてケイブリスは『実は僕も嫌いだったんですよ作戦』を実行しつつ内心では苛立つ。ケイブリスにしてみれば巻き添えで自分まで粛清されるんじゃないかと気が気じゃないからだ。
ただそのケイブリスが恐れるレオンハルトは。
「……そうか(実は嫌いだった? ……まあケイブリスならありえるか……)」
──と、普通に納得していた。
実際ケイブリスはそこまでメディウサが好きなわけじゃない。むしろストレスの原因となっていることで現在進行系で嫌いになりつつあったのでレオンハルトの納得も間違いではなかった。
しかしその納得の間はケイブリスにとっては。
(な、なんかそっけねぇええええええ──……!! やっぱりイライラしてんのか!? もしかして俺様も召集されないよう仮病の手紙を送っちまったのがバレたか……!? 怠慢はやっぱよくなかったか……!? メディウサの同類みたいに思われたら俺様のお先も真っ暗に……)
この上ないほどに悩み、杞憂していた。魔人ケイブリスにとって上位者のご機嫌取りは自身の進退を決める死活問題である。
魔人ガイが率いる人間との戦争はケイブリスにとっては是が非でも避けたい戦いだった。人間はどうでもいいがガイとの戦闘は死ぬ可能性が結構高い。実際はケイブリスとガイの実力はそれほど離れていないのでケイブリスが死ぬ確率は数%程度だろうが、ケイブリスはそれよりも多く見積もっているし、仮に数%でも高すぎる。できれば負ける確率が1%以下の戦いだけに参加したいと思っていた。
だがレオンハルトの機嫌を損ねるのもよろしくない。そう簡単にレオンハルトは魔人の粛清に乗り出さないとケイブリスは知っているが、1000年以上振りにレオンハルトが同じ魔人を殺したのだ。それほどに苛立っているレオンハルトの機嫌を損ねれば何が起きるか分からない──とケイブリスは考えているのでケイブリスは悩んでいる。
──『自分はメディウサとは違います大作戦』を実行するかどうかを。
そして悩んだ末にケイブリスは決心した。レオンハルトのご機嫌取りと自分の評価を取り戻すために。
「──レオンハルト様! やっぱり僕も戦いに参加します!」
「そうか────え?」
「え?」
──ケイブリスが戦いの参加を希望する。そのケイブリスにとっては一大決心とも言えるそれに、レオンハルトは頷いて……しかしその珍しい申し出に珍しくレオンハルトが間の抜けた声をあげた。それを聞いたケイブリスも疑問符を頭に浮かべるも、続くレオンハルトの言葉に対応を迫られる。
「……いいのか? お前は戦いたくないと聞いていたが」
「人間を踏み潰すくらいなら全然大丈夫ですよ! あ、でもさすがにガイの相手は僕では無理なのでそこだけ避けてもらえればありがたいです。どうかお願いします」
「それは構わないが……」
ケイブリスのやる気満々といったその様子を訝しむレオンハルトだが、よくよく思い返してみれば汚染魔王のアベルとの戦いの時も勇猛果敢に戦っていたと聞いているし、なんだかんだ戦闘となれば頼りになる。
……インデックスからの報告のこともある。確かにもう一体くらい魔人を召集するかと思っていたが……それがケイブリスならやられることはないだろう。
レオンハルトは相手の陣容を鑑みて次の戦いにもう一体、魔人を召集しようと考えていた。候補としては強く信頼のおける相手……ケッセルリンクやガルティア。あるいはメガラスといった魔人と考えていたがケイブリスでも問題はない。戦力だけを見るならむしろ最も頼りになるとも言える。
ゆえにレオンハルトはしばし考えた末に申し出を受け入れることにした。
「……わかった。次の戦いではケイブリス。お前に一個軍を任せる。役目はおそらく人間の部隊の殲滅になるだろう。それで構わないな?」
「はい!! 人間なら全然やれますよ!! 僕はメディウサとは違うので命令通り全員ぶっ殺しますし勝手なことはしません!!」
「…………ああ。頼りにしているぞ」
そうして魔人ケイブリスの参戦が決まり、レオンハルトは何とも言えない違和感を感じながらも思考を切り替えて次の戦いで取るべき方策について思案するのだった。
どんな小さな戦いでも終わった後は士気を維持するために勲功を与えられ、あるいは休みが与えられるもの。戦い、特に戦争は兵士に負担をかける。どれだけ戦うことが好きな戦闘狂であっても普通は休息が必要で労いも兼ねた酒宴の席は兵士の士気を維持するのに重要なものだ。休まずに即座に主に戦いを望んだりめちゃくちゃ硬いドラゴンをサンドバッグにするのはどこかの黒髪カラーの使徒だけで十分である。
ゆえにレオンハルト軍も例外ではない。
「打ち上げどうする?」
「いつもの居酒屋にすっか?」
「俺穴場だけど良いとこ知ってるぜ。焼き鳥屋で“一番星”って言うんだけどよ。はぐれ使徒の方がやってる店で相当美味いってうちの隊長が言ってた」
「はぐれ使徒がやってる店か……ちょっと怖いけど行ってみるか?」
「戦いの後だしな。羽目を外していい店行こうぜ!」
レオンハルトシティでは大勢の戦いに参加した魔物兵達が次の戦いまでの英気を養うために仲間内で食事を楽しんだり酒を飲んだり、その後に風俗に行ったりと思い思いに楽しんでいた。
ガイ派との戦争がまだ終わったわけではないが、理由を付けて騒ぎたくなるのは人間も魔物も同じである。
それは多くの魔物隊長、魔物将軍、下級使徒、使徒も同じであったが──
「むむ……ミシェーラはどうすれば……」
騒ぐことも飲み食いすることもせず街の郊外で難しい顔をしている者が1人いた。
彼女の名はミシェーラ・姫原。あの魔人レオンハルトの使徒の1人であり、剣の達人。高度な神魔法の使い手でもある人間街出身の最高傑作の1人である。
ミシェーラはその経歴も含めて自身に誇りを持っていた。尊敬している亡き祖父の言葉を胸に秘め、レオンハルトの役に立つためこれまで邁進してきた。……何度も空回りもあったがそれでもある程度は役に立ってこれたと自負している。しかし。
(ミシェーラは……他の使徒に比べて……個性が……強みが足りません……!!)
ミシェーラは悩んでいた。頭を抱えてしまうほどに。
もっとも個性に関しては十分だと誰もが言うだろうが、ミシェーラは自分をまともな常識人だと思っている。だからそのことに気づかない。個性と強みが足りないとミシェーラは近くにあった木を剣で切断してそこから唐突に木彫りを始めたが、その行為に意味はない。精神修行として祖父の言葉を斜め下に解釈したミシェーラのいつもの暴走である。
そうして立派な木彫りのハニーを完成させたミシェーラはそう思ったきっかけである戦いを振り返る。
(先の戦いで思い知りました……レオンハルト様の使徒は皆すごい個性と強さを持っています。キャロルさんは銃のエキスパートで何でもできる完璧使徒。ハンティさんはドラゴン脳の最強カラーゴリラの魔法使い。ペールさんは淫乱で呪いに結界何でもござれな便利使徒。リーさんは唯一の男性で軍勢全体を統括できるダンディ使徒。ガウガウさんは怠惰でニートな天才魔法科学者でトラブルメーカー。お町さんは妖怪王でおっぱいがでかい十尾のおっぱい使徒。イヴちゃんはめちゃくちゃ頭が良い。レオンハルト様の秘書業務を務める読心の天才使徒です)
人間との戦いで各使徒の働きを聞いたミシェーラは他の使徒をそのように評価する。……どうにも一部の使徒に対する評価が偏っているというか酷い言いような部分もあるが心の内側に留めているのでギリギリセーフだった。ミシェーラはそれが酷い言い分だと気づいていないのでいつかは本人達の耳に届くかもしれないが。
それはともかく、ミシェーラには個性と強みが足りないとミシェーラは自覚する。
(それに比べてミシェーラはどこまでもまともでちょっと剣と神魔法が得意なだけ……この間の戦いでもイヴちゃんに良いところを取られてしまいました)
あのグリムリーパーという人間との戦いでもイヴはその頭脳を存分に発揮して彼を追い詰めた。途中でバークスハムがやって来なければそのまま捕らえることが叶っただろう。
しかしミシェーラの方は終始翻弄されていた──こんなことではいけないとミシェーラが自身に活を入れるくらいには。
「個性……強み……どうすればいいのでしょう? レオンハルト様のお役に立つ……レオンハルト様が喜ぶ……………………育乳? ……いえ、今更ミシェーラが育乳してもイヴちゃんには勝ててもお町さんやペールさんには勝てません。後追いでは意味ないです。ならより強さを追い求める? それは確かに必要ですが今すぐ強くなれるわけじゃありません。レオンハルト様の剣の弟子としてもミシェーラは白兎さんに劣る身ですし……むむ……ならいっそのことミシェーラもニートに……いや、それはさすがにキツイです。やっぱり神魔法? それとも別の技術を磨く? ぐぬぬ……ミシェーラはどうすれば……」
もはや口にも出してああでもないこうでもないと木彫りのハニーを作り続けながら悩みまくるミシェーラ。気づけばミシェーラの周囲には立派な沢山の種類の木彫りのハニーが作り上げられていた。色はないがグリーンハニーからブラックハニーまで。ハニ子やマイナーなひげハニーまである。
だからだろうか──ミシェーラはそれを呼び寄せた。
「わー」
「すごい木彫りの僕達がいっぱいだー」
「こ、これはハニ子ちゃんまで!」
「ひげハニーだーマニアが喜ぶー」
「プレミア品だー」
「売りに出そう!」
「いやそれよりもハニー博物館に寄贈を……」
「パトロンになってもっと作ってもらおう。パトロンって何かわからないけど」
森の木々から次々と現れるのは第二世代モンスターとしてこの世界に最も多く存在する種族──ハニーだった。
レオンハルト軍にもハニーは少なからず存在するが、それでも多くのハニーは独自に生活している。そのハニー達がミシェーラの木彫りのハニーを見て群がってきていた。
そしてハニーが集まっているのを見て更に多くのハニーも呼び寄せられる。まさにハニーの永久機関である。
しかし悩んでいるミシェーラはそれに気づかない。
「どうすればいいんでしょう……ミシェーラの個性……強み……」
「何か悩んでる……」
「なんかちょっと不憫だな……」
「可哀想……」
「可哀想良い……」
「眼鏡かけてくれないかな」
「良いとこのお嬢様っぽいのに丸眼鏡……いいね」
「あ、王様ー!」
「はにほー!」
そして気づけば全てのハニー達を統べる王様……白いボディに王冠。杖を持ち、マントを身に着けたハニーの王──ハニーキングまでもがやって来る。そしてハニー特有の挨拶を行った。
「え……あ、はにほーです! (!? いつの間にハニーがこんなに……しかもあれは……もしかしてハニーキング?)」
そこでようやくミシェーラも周囲に大量のハニーが集まっていることに気づく。更に見慣れない白い王冠を冠ったハニーがいたことで内心驚くが、育ちがいいミシェーラは礼儀正しく挨拶をした。
「うんうん、元気な挨拶だね。礼儀がしっかりしているようだ。そんな君にお願いがあるんだが……この木彫りの我が同胞を私達に寄贈してくれない? ついでに私の木彫りも作ってほしいんだが……」
「はぁ……別に構いませんよ。ちょっと待っててくださいね」
人が良いミシェーラは再び木を切って木彫りのハニーキングを完成させる。制作時間は短いが出来栄えは完璧……まさに匠の仕事だった。
「はい。どうぞ全部持っていってください」
「おお! 素晴らしい! ううん、これはいいものだ。自分達を模したものが出来るのは嬉しいね」
「良かったですね」
木彫りのハニーを送られたハニーキングにハニー達は大いに喜んだ。
「感謝の印として君を私達の城に招待しよう!」
「城に、ですか? それは光栄ですが……ミシェーラは休暇を与えられているとはいえあまり時間がないのでそれほど遠方にはいけませんよ?」
「それは問題ない。ここのすぐ近くに私達の別荘があるからね。城とはそこのことだよ」
「それならお招きに預かります」
ハニーキングは木彫りのハニーの礼に自分たちの別荘にミシェーラを招待し、ミシェーラもこの近くにあるならとそれを了承する。レオンハルトシティに通うために別荘が作られていたことはミシェーラにとって幸運だった。
そして森の中を歩くことしばらく──ミシェーラはハニー達の案内でハニーキングの別荘に辿り着いた。
「すごい立派な別荘ですね」
「ありがとう。どうぞどうぞ、入ってー今お茶出すから」
「ご丁寧にありがとうございます(ハニーキングってこんなにフランクだったんですね。レオンハルト様が言うにはレオンハルト様でも倒すのは相当苦労するレベルで強いらしいですけど……)」
ハニーキングの別荘にお邪魔し、リビングに通されたミシェーラはハニーキングに出されたお茶をずずずと啜りながら地味に冷静に分析する。ハニー達の王様であるハニーキングの強さは世界でも屈指のものであると聞いていたので「これがあのハニーキングなんですね」と物珍しいものに関心する視線を向けていた。
「さて、せっかく来てもらったんだ。君の悩みを聞いてあげよう」
「悩み……そうですね。ミシェーラは悩んでいます。他の使徒と比べて個性も強みも薄い自分自身をどうするべきかと……」
「ふむ。アイデンティティに悩んでいるんだね。若者にはありがちだよね。……わかった! なら私が君に個性を授けてあげよう!」
「! それは本当ですか!?」
「うん。だけどそれには厳しい修行が必要になるよ。タダであげちゃうと味気ないし。修行パートは入れた方が面白い気がするんだよね」
「構いません! ミシェーラは個性と強みを手に入れるためなら何でもやります!」
ハニーキングのフランクかつ何目線で話しているか分からない言動にもミシェーラは素直に受け入れる。手段を選んでいる余裕はミシェーラにはなかった。
「よろしい。ならこの丸眼鏡をかけるんだ」
「はい! かけました! これでどうですか!?」
「ほお……これはいい。やっぱり見立て通りだ。ぽんこつお嬢様に丸眼鏡……不憫そうでいい……」
「今ミシェーラのことをぽんこつとか不憫とか言いましたか?」
「言ってないよ。さてそれじゃ修行を始めよう! 修行を終えた暁には君には凄まじい力と個性が得られると約束しよう!」
「はい!! お願いします!!」
──そうしてミシェーラはハニーキングの別荘で修行を開始したが……その修行は壮絶を極めた。
「さあこのスク水セーラー服猫耳を装備してハニー迷宮をクリアするんだ!」
「はい!!」
──呪いの装備を身に着けた上でダンジョンに挑まされたり……。
「次は僕達とダンスレッスンだー」
「時代はアイドルを必要としてるんだ!」
「はい! ミシェーラ踊ります!」
──ハニー達と一緒に三日三晩踊り続けたり……。
「個性はやっぱり語尾から出すのがいいよ。特に文章だとその方が分かりやすいからね」
「語尾ですか……確かにそうですね! ではどんな語尾がいいでしょうか?」
「なのだ、とかどう? 自信家で可愛い君に合ってると思うんだけど」
「なのだですか……わかったのだ!! ……こうですか?」
「おお……いいね。それくらいアホっぽい……じゃなくて尊大な方が個性的でいいと思うよ」
「なるほど! 確かにそうなのだ!」
──ハニーキング直々に個性について指南を受けたりして……。
そして1ヶ月後……。
「よくやったねミシェーラ。これで君は個性と強みを手に入れた」
ハニーキングは修行の完了を言い渡し、立派な姿になったミシェーラを快く送り出す。ミシェーラもまた自分が以前より進化したことを自覚し、ハニーキングに感謝した。
「そろそろ君の主も心配してるだろうし帰るといいよ。そしてその力を見せつけてくるといい!」
ミシェーラは強く頷く。ハニーキングはミシェーラにとって第二の師だ。第一の師にして忠義を尽くすべき主、レオンハルトに変わった己の姿を見せるためミシェ―ラはハニー達に別れを告げて紅魔城に帰還する。
「──最近ミシェーラを見ないな」
「何でも修行しているそうですよう」
「レオンハルト様の役に立つために上を目指し続ける……素晴らしいことですわ!」
「ミシェーラちゃん、また暴走してないといいですけど……」
「ただの修行でしょ? 問題ないんじゃない?」
執務室では魔人レオンハルトと共に使徒であるペールにキャロル。イヴにハンティの4人がいた。他の3人の使徒、リーとガウガウとお町はまた別の仕事の最中である。
ゆえに最初にミシェーラを見たのはその5人だった。
「レオンハルト様! ただいまなのだ!!」
「ああ、ミシェーラか。修行は────なのだ?」
執務室の扉が勢い良く開け放たれる。
そうして現れたのは気配からしてレオンハルトの使徒であるミシェーラ・姫原に間違いない。
だがその何もかもが今までとは違っていた。
「レオンハルト様……ミシェーラは考えたのだ。レオンハルト様のお役に立つため……他の使徒の方々に負けないよう強く、そして個性的になるにはどうすべきかを」
現れたのは語尾が変な美少女だった。いや、以前から美少女であることは間違いないのだが、色々と違う。
まず髪は長くなっていたし、服装が今までのお姫様のようなものから別の装備に変わっていた。スク水にも似たぴっちりスーツに白いオーバーニーソックスにふわふわブーツ。そしてハニーの留め具や紋様が描かれた内側が宇宙的構造になっているコートを着用している。ハニーの髪飾りにハニーの王冠も装備していた。
「み、ミシェーラさん……?」
「そして気づいたのだ……! ただの剣士や神魔法の使い手では駄目だと!」
目が悪くないのに丸眼鏡をかけているミシェーラの表情は自信満々だった。得意気だった。アホっぽいと言い換えてもいい。胸を張るミシェーラの右の腰にはレオンハルトに下賜された名剣「レテ」が変わらずあったが、左の腰にはハニーキングに下賜された名刀「備前長船ハニ光」が下がっている。友人のイヴもその姿を見て思わず──困惑していた。
「だからミシェーラは厳しい修行をして強く生まれ変わったのだ!! おかげでハニー達にはアイドルとして認められて
「──いや、誰ですの?」
「ミシェーラなのだ、キャロル!!」
「全然前と違いますよう……」
──ミシェーラのキラキラした目に圧倒される使徒達。何やらハニーフラッシュ的な後光が差している気もしたが気のせいだと思いたい。
「いや、それよりもハニー属性ってもしかして……」
「……ハニーキングの仕業か。まあ……………………強くなったならいいだろう。ミシェーラも満足しているようだしな」
「はいですのだ!!」
「……語尾はもう少し整理した方がいいと思うが……まあいい。ちょうど次の戦いについての軍議を始めるところだ。ミシェーラ、お前も付いて来い」
「勿論ですのだ!! 生まれ変わった新ミシェーラ……いや、ハニーミシェーラの力を次の戦いで思い知らせてやるのだ!!」
──そうしてミシェーラ・姫原は強くなり個性を手に入れた。見た目や語尾はともかく……ハニー属性という今の時代においては唯一無二の個性を。
こんだけ長いのにハニーキング初登場でした。ミシェーラのコートははにわ教の神官コリン・コッコリンのローブに似た(でもコートなので丈もあそこまで長くなくふくらはぎくらい)感じの戦闘用装備です。眼鏡に服装、装備は全部ハニーキングが下賜しました。
次回からようやく戦いです。お楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。