魔軍と人類の戦いはいつも同じような展開になる。
歴史上、魔軍が人間を治める土地に攻め込んできた例は幾つもあるが大抵は一方的に滅ぼされる。魔物将軍や魔物隊長を倒すなどして局所的に勝利を収めるが敗北する。
あるいは魔人を倒して魔軍を一時的に撤退させた例もあるにはあるが、それは奇跡と言うべきもの。ただの人間が命を賭けた程度で起こせるものではなく、再現するには選ばれた人間の関与が必要不可欠である。
つまり人間は魔物には勝てない──だが、戦いを成立させることだけは人類側が団結した上で手段を選ばなければできる。
「くそ!! 何で裏切ってんだよ!! 頭イカれてんのか!?」
「絶対正気じゃねぇだろ! 魔王様に弓引いてんだぞ!?」
「ガイ様万歳! ガイ様万歳!」
レオンハルト軍に所属する魔物兵は相対する同じ魔物兵に悪態をつきながら矛を振るう。魔人ガイを賛美しながら突っ込んでくる魔物兵のことを彼らは理解できない。魔王や魔人レオンハルト。多くの魔人や魔物を敵に回して生き残れるはずがないからだ。
そもそも人間の味方をするガイからしてイカれている。なぜそこまでするのか。人間が好きならレオンハルト様のように人間街のような特区を作って保護してやればいい。
レオンハルト軍の魔物兵はある程度人間の有用性も理解している。おおよそ殆どの人間は無能でも、使い方によってはしっかり魔物の役に立つ。特に料理人などは人間の方が優れているので彼らも人間を一々殺して回ろうとは思わない。
だがかといって主に逆らってまで人間の味方ができるかと言われれば答えは否である。
従うべき。優先すべきはどう考えても魔王様や魔人の方々。人間はどれだけ好意的に見ても下等種族だ。下等だが、愛玩することはできるし芸を仕込んで有用に使うことはできる。そういった存在。
それを理解せずに──実際には操られているだけの魔物兵が総勢20万。この場にやってきたレオンハルト軍10万の倍にも上る数が反旗を翻している。
しかし、
「ふぅ……全く度し難いが理解は出来なくもないぞ、大将軍ゲバラにその麾下の魔物兵。私も逆らいはしないが逆境側に立ちたいという気持ちは常に持っているしな」
「いっくよー!! あたいのトールハンマァァァァ!!!」
「さすがにこれだけの数は相手できなーい♡ ──なんて嘘ー♡ ほいっと」
「手が休まる暇もないっすねー」
操られ死兵と化している魔物兵がらくがき獣に隙を作られ、その合間を縫うように縦横無尽の切り裂き。
集団に穴が出来たところで巨大なハンマーによる打撃が魔物兵をふっ飛ばし、更にそこに剣と槍を持った女傑が敵兵を屠っていく。
それはレオンハルト様親衛隊──女の子モンスターの突然変異種のみで構成された少数精鋭の特殊部隊であり、その中心にいる四天王。師匠、トール、獅子またまた、神絵師の4体の魔物の連携攻撃で凄まじいスピードで兵を削っていく。
その上で特殊部隊以外も負けていない。
「魔物の本懐を忘れ、主に弓引く所業──度し難し」
「ぐぎゃああ!!?」
レオンハルト軍の中から隻眼の武者のような魔物隊長が特注の大太刀を手にし、ゲバラ軍の魔物兵と魔物隊長をまとめて一閃する。その名を周囲の部下は口にした。
「おお……さすがはゲンリュウサイ隊長……!!」
「はは見たか! ゲンリュウサイ隊長はレオンハルト軍の三剣士の1人にして最強の魔物隊長だぜ!」
「俺たちもゲンリュウサイ隊長に続け!」
「親衛隊もすげぇぞ!!」
「数が多かろうが負けるはずがねぇ!!」
「……士気は上々。このまま進撃する」
ゲバラ軍の魔物兵を容赦なく斬り捨てる最強の魔物隊長ゲンリュウサイとレオンハルト様親衛隊の姿に士気を高めるレオンハルト軍。
通常の魔物としては間違いなく最強の集まりであるレオンハルト様親衛隊や、レオンハルトから直接剣の指導を受けて名刀すら賜ったゲンリュウサイは数をものともしない強さを持っていた。
そう──結局のところ魔軍の強みは魔物兵のアベレージの高さだけではなく、それらすら容易に打ち払える強大な個の多さにある。
その最たるものが魔人であった。
「モンスター…………ダァァァイ!!」
「!!」
──左翼を進むレオンハルト軍の中心に聳え立つゴールデンハニーに寄生した魔人レッドアイが白色破壊光線をゲバラ軍に向けて容赦なく打ち込む。
その魔法の一発だけで100単位で魔物兵が死んでいく。戦場における暴威──それが魔人であり、この大陸において魔軍の打倒が難しい理由の1つ。
「んっんー、今日はミーのマジックパワーもフルパワー。ガイが現れてもノープレブレムね! うけけけけ!!」
魔人の中で最も強大な魔法使いであるレッドアイは機嫌良く魔物兵を魔法で蒸発させていく。彼にとって人間も魔物もそれほど差はない。殺して支障がないなら誰だって己の魔法で殺す。
そうしてどんどん魔力を高め、より強い生物に寄生して己の力を高めていく。レッドアイはそういう思考の元に生きている紛れもない怪物だった。
「しかしプロブレムは別にある。あのストロングドラゴンはほしい……でもレオンハルトのオーダーをキャンセルすればミーがデンジャラス。死体だけでもプリーズしてみるか?」
ゆえに魔物を殺せてご機嫌なレッドアイは更に強くなるために右翼側に見えるドラゴンに強い視線を浴びせ続けている。そうして意識を外していた──だから気づけば突出していて、襲撃が来たことに直前で気づいた。
「天志の加護を!」
「秘剣──鬼殺し!!」
「──死円斬」
「オー!? 何事か?」
ゴールデンハニーのボディを蹴り、その上で本体である目玉を攻撃したのは白い青年と女侍。そして遠くで錫杖を手に彼らに加護を与えると思しき僧兵だった。
その攻撃は間違いなく人間にしては凄まじい破壊力を持った一撃である。先程見せた師匠やゲンリュウサイの一撃と比べてもそれほど変わりないものだったが──
「……まあ効くはずはない」
「っ……これが無敵結界……!」
「だがあのハニーには攻撃は効くようだが……」
「オ~……ユーらヒューマンか? ミーにキルされにきたか?」
──無傷。攻撃は無情にも弾かれ、彼らはレッドアイに文字通り見下される。
魔人の持つ無敵結界。人間の攻撃は一部の例外を除いて全て届く前に弾かれてしまう。
もっともレッドアイの場合は寄生している生物には攻撃が効くのだが、それでもレッドアイが凶悪かつ強大な魔人であることには変わらず、襲撃を行った影の楔のグリムリーパーと大和剣平団の副長国綱と僧兵の大典太は覚悟を決めた表情でレッドアイと対峙する。
「寄生生物を破壊すれば時間は稼げる。それを目標にするだけだ」
「道理だな……そうしよう」
「宗近様のためにも魔人はここで足止めする!」
「クケケケケ!! ユーら無謀! 頭わるわる悪子ちゃんね!! でもグッド! ミーのパワー存分にルックしていくがよい! ヒューマンもモンスターも……どちらもキル・あなた!!」
「魔人レッドアイは強大な魔法が強み。回避に専念しろ。でなければ一瞬で死ぬぞ」
「「応!!」」
魔人に詳しいグリムリーパーの言葉に応じる武士2人に、魔人レッドアイは再びその凄まじい魔力を用いた強大な魔法を発動して魔物もろとも人間を殺害しようとする。
その様子はやはり魔人としての破壊衝動と狂気に染まっており。
「──さて……魔力の充填は十分だな」
「はい。マスターガウガウ。我らがグリーンアイ200体。いつでも動けます」
──そのレッドアイを近くの丘の陰から見ていた白衣の人物。モノクル越しに自分の制作物を見たその使徒は、背後に従える同じ姿をした緑の眼を持つ魔道具人間達──200体に命令を下す。
自身もブラックアイの装甲によって守られた上で。
「では行くぞ!! ブラックアイ!! 特攻だ!! グリーンアイは観測と支援に徹しろ!!」
『イエスマスターガウガウ!!』
「ブラックアイ──射撃モード!!」
レオンハルトの使徒にして魔人レッドアイの制作者──使徒ガウガウはブラックアイで宙を往った。
ガウガウは歴史に名を残すほどの魔道具制作者であり、彼女が作ったブラックアイは普段はガウガウが身につける黒い宝石であり触手を伸ばすこともできる便利な魔道具だが、命令をすると身体を覆うパワードスーツへと変化し、空を自在に行くことができる機動性能を持つ。
そしてそれは当然ながら装甲と火力すらも両立しており、ブラックアイの両腕はいつの間にか回転機関銃のようなものへと変化していて。
「うぼぼぼぼ!? ショック!! ショックがハプニング!!」
「──久しぶりだな!! レッドアイ!!」
「……ん? ユーは…………」
そこから放たれる銃弾は魔人レッドアイの魔法を一時中断させる程度には、衝撃を与えることができる。唐突な攻撃の連続にレッドアイは驚き、滞空しているパワードスーツに目を見開いた。そう、その姿はまさしく──
「……どこの誰か?」
「あ……そういえばこの状態だと顔も見えないじゃないか……」
──知らない。そう、知るわけがなかった。そもそもブラックアイというパワードスーツに包まれていて顔も見えないのだから。
ゆえにガウガウは自らのうっかりを認め、気を取り直して声を張り上げる。胸を張って。
「ならば名乗ってやる!! 私はお前の制作者!! ガウガウ・ケスチナ!! レオンハルトの使徒だ!!」
「……オオ…………オオ!! 確かに懐かしき気配!! ユーはガウガウさん!! くけけけけ!! まさか使徒になってるとはサプライズね!!」
「ふっ、思い出したか。久しぶりだなレッドアイ」
そうして名乗ればレッドアイも僅かな思考の後で制作者の気配を思い出す。
レッドアイとしても制作者であるガウガウのことは記憶している。はっきりいって今はどうでもいいが、それでも無視はできない。何しろ相手はレオンハルトの使徒であるから。
「で、そのガウガウさんが何しに来たか? というかなんでミーにアタックを? ミーはレオンハルトのオーダーの最中よ?」
「…………なるほど。やはりそういう思考になってるか。なら次は…………レッドアイ!! 私と戦うぞ!!」
「……ホワイ? どうしてそうなるか?」
「理由は簡単だ!! ──私がお前と遊びたいからだ!!」
「……あいつは何を言っているんだ?」
ガウガウは堂々とそんなふざけた理由を口にする。地上でそのやり取りを見聞きしていたグリムリーパーらは突然の出来事に訝しんでいたが、魔人と使徒のやり取りともなると動こうにも動きにくい。
その間にガウガウは更にレッドアイに告げる。
「もちろん私を傷つけてもいいぞ! レオンハルトからは許可を貰ってる! 私はそこの人間の味方をするから遊ぶぞ!! ──お前の大好きな殺し合いごっこだ!!」
「オ~……」
ガウガウの提案を聞いてレッドアイがしばらくフリーズする。
その間の取り方にガウガウは計算しているのだろうと当たりをつけた。
デジタルな思考を持つレッドアイにとって強者の機嫌を損ねることはリスク。自分より強い相手は気に入らないが、それよりも優先すべきは強くなることと殺戮することであり、そのためには生き延びる必要がある。
だからその提案を聞いてレッドアイは考えた。レオンハルトの許可はある。そして人間を殺せばいい。使徒であるガウガウに自分を傷つけることはできない。
つまり危険はない。ノーリスク。最悪ガウガウを殺さなければ問題ないとレッドアイは考えた。そのパワードスーツもそれなりに強いと感じたことも含めて。
「…………クケ、クケケケケ!! オーケー、オーケーよガウガウさん!! ならガウガウさんとそこのヒューマンまとめてミーが遊んでやるね!!」
「それはよかった──よし、誰かは知らんがお前ら一緒に戦うぞ!!」
「「いやなんでそうなる!!?」」
「さあ来いレッドアイ!! 私達はどんな強力な魔法を撃たれても……そう、黒色破壊光線を何百発撃たれようと倒れないし屈しないぞ!」
「「屈するわー!!」」
「まあ時間を稼げればこちらは何でもいいが……(とはいえ信用はできない。一応警戒するか……)」
「ガウガウさんもヒューマンもキル・あなたー!!」
「ああいくぞ!! ブラックアイ!! 連射しろ!!」
『イエスマスターガウガウ! レッドアイブラザーにバースト!!』
レッドアイの魔法が放たれ、ガウガウが乗り込むブラックアイがそれを回避しながら空中で掃射を行う──同時にグリムリーパーらは何とも言えない状態で、しかし足止めが叶うならばと協調して動き出す。
レッドアイとガウガウに人間の戦士ら……左翼では三つ巴の戦いが始まった。
兵士同士が激突する中央や左翼と違い、右翼は強大なドラゴンが現れたことでむしろ兵は距離を取っていた。
「寒い……!」
「おいおい……雪まで降ってきたぞ……!?」
「ってか地面凍ってきてねぇか!?」
「た、退避!! 下がれ、下がれー!!」
「ゴオオオオオ──!!!」
四大聖竜の一角、サファイアドラゴンのインテルは全身から冷気を噴出する。
それにより周囲の環境を凍らせ、自分にとって過ごしやすい場所を作るのだ。同時に外敵はその冷気によって阻まれる。人間や並の魔物では近づくことすら難しく、近づいたとしてもその戦闘力は生半可なものじゃない。
インテルはその冷気を操るだけでなく、冷気を使って移動する。足元を凍らせ、そこで力を込めることで起こす移動の正体は。
「──滑っているな」
レオンハルトが口にしたように──氷の上を滑るように移動することだ。
そうして体長40メートルほどの巨竜が滑り、体当たりするだけで大抵の生物はミンチになる。あるいは凍らされて砕かれる。
魔王との戦争ではその力で魔王の攻撃を防ぎ、あるいは敵の魔人や魔物をまとめて凍らせて殺害し続けたほどのドラゴンだ。
ゆえにインテルに近づけるのはその冷気に耐えられて、その上でインテルの攻撃に対処できる者のみ。
「レオンハルトよ。インテルは儂が一対一で相手をさせてもらうぞ」
レオンハルトと共に右翼にやってきたのはレオンハルトとガウガウ以外の使徒達。更に魔人四天王一角であるノスだった。
そのノスは先程も許可を取ったようにインテルを1人で相手にすると意思を表明する。戦闘狂の顔も持つノスはかつては相手取ることが出来なかった強大なドラゴンを相手に血沸いているようだった。
だがそれでもこの戦場の指揮権はレオンハルトにある。だからこそ上位者に了解を取ったが──先程と違って今度は即答しなかった。代わりに立ち止まり、視線を前に向けながら告げる。
「──その前にお前に客人が来ているぞ」
「っ、貴様は……バークスハム……!!」
「お久しぶりですね、レオンハルト様に使徒の方々。それに──ノス様も」
いつの間にか、魔人ガイの使徒──レーモン・C・バークスハムがそこにいた。
涼し気な表情を浮かべながら恭しく礼をするバークスハムにノスは忌々しさを隠さない。殺気を込めてバークスハムを睨む。
「ガイの使徒風情が……こうして姿を見せたということは死ぬ覚悟が出来たということでよいな?」
「覚悟は常に出来ておりますが、私はここでは死にませんよ。私がここに来たのは──魔人ノス。愚かで可哀想なあなたをこの場で足止めするためです」
「──何だと?」
バークスハムの視線とノスの視線が交差する。その間、レオンハルトやその使徒はやり取りに口を挟まない。こうなるかもしれないという推測が立っていたレオンハルトにとってそれは都合の良い展開だから。
ノスが挑発されたことで更に殺気を強めるも、バークスハムはそれを涼しく受け止めながら更に口を動かす。
「聞こえませんでしたか? 愚かで無価値な存在ノス。私はあなたを足止めしに来たのですよ」
「貴様如きが儂を御することが出来るとでも……安い挑発を……!!」
「その安い挑発で殺気を強めているのはあなた自身が自覚がある証拠でしょう。──レオンハルト様が相手なら私如きで足止めは出来ませぬが、ノスであれば問題ない。あなたが信奉するジル様があなたを無価値だと断じているように、私もあなた如きは取るに足らない存在だとこうして姿を現すことで証明しているのですよ」
「貴様……!! そんなに死にたいか……!!?」
「レオンハルト様の前でこれを口にされるのもあなた的には堪えそうですね。よろしければレオンハルト様も見学なされていっては? ──これからノスが怒り狂う様を存分にお見せできますよ」
「……遠慮しておこう。──先に行っているぞ、ノス」
「っ……バークスハムゥ……!!」
ノスが鬼の形相を浮かべて吠える。その眼は既に怒りと破壊衝動に染まっていたが、バークスハムは更にそこに燃料を焚べるために更にレオンハルトにも水を向ける。ノスの心という泉の急所に大岩を投げ込むかのような所業にレオンハルトは嘆息しながらも使徒を連れてバークスハムを悠然と横切った。使徒たちもそれに続く。
ノスはそれを見送るしかない。インテルを相手にするつもりだったが、ここまで虚仮にされて黙っているわけにはいかなかった。レオンハルトとの距離がある程度離れたタイミングで、ノスは足に力を込めて凄まじい速度でバークスハムに向かって突撃していく。
「オオオオオオオオオ……!!!」
「さて、では始めましょうか──未来に繋ぐための舞台を」
ノスの攻撃をどういうわけか涼しげに躱すバークスハム──その魔人と使徒の戦いが背後で始まったのを感じながら、魔人レオンハルトらは使徒を伴って歩みを進める。
そうしてまた少し進んだところで立ち止まった。インテルの放つ冷気が周囲を凍らせ、吹雪を起こすほどの環境変化を生じさせている。
体長40メートルほどの巨体はある程度距離が離れていても視認できるし、向こうも同じだろう。だからこそ今のうちに決めておく必要があるとレオンハルトは判断して口を開いた。
「さすがに大きいが……まあ何とかなるだろう。問題は戦力をどう分けるかだな」
「確か悪魔がいるんですよね? しかもかなり上位の」
レオンハルトの言葉にペールが改めて確認を取る。
するとレオンハルトもまたすぐに頷いた。
「そうだ。インデックスの話によればこの先の森のどこかに第壱階級悪魔がいるらしい」
「ふむ。相当の強敵でありますな」
「ああ。とはいえあのインテルもまた一筋縄ではいかないだろう。だからここは──」
リーの声も受けて戦力をどう分けるか。レオンハルトはその場で決めようとしたが、はっきり言って殆どの使徒にとってそんなものは決まっている。
ドラゴンは確かに脅威だが、それよりも更に強大な存在が第壱階級悪魔だ。
だからこそそちらはレオンハルトが1人で相手にする。それが当然だと思っていたし、殆どの使徒にとってそれは異論がなかった。
──ただ一名を除いて。
「いやあたしがその悪魔を相手にするよ」
「……………………」
「し、始祖様……」
「むぅ……これがいわゆる空気が読めておらぬということか……」
「ハンティ先生……少しは自重してくださいよ……」
「このゴリラっぷりは見習えないのだ」
「ハンティさんらしいですわねー」
──ハンティが笑顔でレオンハルトの隣に進み出る。それを見てペールはドン引きした。お町もハンティの図太さと言うべきか、遠慮の無さに何とも言えない表情を浮かべる。顔を覆うイヴやリー。平然と感想を口にするミシェーラにキャロルと他の使徒も似たりよったりだ。
そしてレオンハルトも息を入れながらハンティと向き合う。互いに考えることは同じなようだったので。
「……そうはならないだろう」
「いやいやあんたはガイと戦ったり色々して解消してるかもしれないけどあたしの方は最近我慢ばっかりで欲求不満なんだよ。だからここはあたしに譲りなって」
「第壱階級悪魔は魔王級とまではいかないがそれと戦いが成立する程度には強い存在だぞ。お前で敵うのか?」
「それがいいんじゃん──じゃなくて……そんな危険で強い存在ならご主人様に相手にさせるわけにはいかないよ。使徒であるあたしが盾になって守らなきゃ。ということでどうかレオンハルト様はお下がりになってくださいな」
「こういう時だけもっともらしいことを言うな。ウッキウキなのが隠しきれてないぞ。──それと向こうはドラゴンだが、そっちに興味はないのか?」
「興味ないことは全然ないけどね。ただ一応獲物は分け合うべきだし。独り占めなんて贅沢はしないよ。──ということであたしが悪魔と戦うってことでいいよね?」
「馬鹿を言うな。──俺が悪魔と戦う。主命令だ。従え、ハンティ」
「あーあー聞こえなーい。使徒になる時に交わした戦いの契約も果たしてくれない主の命令なんて聞けなーい」
「忙しい月は別の時に何回かまとめて戦ってやってるだろうが。いい加減にしないと実力行使するぞ」
「…………それはそれでいいけどここであんたとあたしが戦うのはマズいんじゃない?」
「それはそれでいいとか言うな。本当にお前は戦いのことしか頭にないんだな……」
「はぁ? それはそっちもでしょ?」
「自分の欲求は時と場合を考えて発散している。お前ほど見境なくはない」
「……実は女と戦いのことしか考えてないくせに……」
「何か言ったか?」
「実は女と戦いのことしか考えてないくせに」
「誰がもう一度言えと言った……!! よしわかった、もういい加減に──って躱すな……!! 逃がすか!」
「っ……あは、捕まったね……!! ならこのまま腕相撲でどっちが戦うか決めようか……!! こっちは本当の姿と強化魔法使っていいよね……!!」
「その程度で俺との力比べに勝てると思っているなら片腹痛いな。いいだろう、受けてやる。──キャロル、審判をしろ」
「畏まりましたわ!!」
「始祖様とレオンハルト様……たまに思いますけど似てますよねぇ……」
「そうですな。戦いに関してのこだわりは特に」
「少し羨ましい……」
「お町さん。先生を見習うと女性判定から若干外れますからやめといた方がいいですよ」
「でも実は1番気が合ってる気がするのだ……」
レオンハルトとハンティのしょうもない争いを他の使徒が見守る。戦いのことになるとハンティはいつものことながら、レオンハルトも強者には目がないことはこの場にいる全員が知っている。
最強の魔人であるレオンハルトは当然だが、使徒の中でも唯一レオンハルトとタイマンで戦闘訓練を行うことができる最強の使徒ハンティもレオンハルトと同様、ただの人間ではもう満足できない身体になっている。
ゆえにドラゴンや悪魔といった普通じゃない相手とは戦ってみたい。そしてどうせ戦うならより強い方がいいと考えるのは当然だった。ミシェーラが呟いたように戦いに関する価値観はレオンハルトとハンティはほぼ同じでかなり気が合っていた。
そしてその間にも近くにあった岩の上でレオンハルトと竜人形態のハンティが腕を組み合う。──何を戦争の最中に主従で腕相撲をしようとしているのだと思うかも知れないが当人達は至って真面目だ。
「それでは力を抜いてくださいまし!」
「いくぞ」
「今日こそは負けないよ……!」
「ではレディ──」
審判をするように命じられたキャロルが合図を行おうとする。
レオンハルトとハンティが意識を集中させ、力を込めようとするその直前──その場に乱入者がやってきた。
「──魔人レオンハルト。貴様……こんなところで何をやっているんだ!!!」
「!? 勇者宗近……」
「あ、隙あり」
「っ!?」
レオンハルトらの前に現れたのは今代の勇者にしてガイに協力する人間の中心人物。過去にレオンハルトとの因縁を持つ──三日月宗近その人であり、彼は魔人と使徒が集まってまるで遊んでいるかのような現場に怒声を響かせる。
だがその瞬間、呆気に取られたレオンハルトの隙を突くようにハンティが腕に力を込めてレオンハルトの腕を岩と地面に思い切り叩きつけた。岩が粉々に砕け、地面にクレーターが出来て轟音と共に振動する。
ただの腕相撲だが、ハンティが全力で腕を叩きつければこれくらいは起こる。そして霜が舞い上がる中でゆっくりと拳を突き上げるハンティの姿がそこにあり。
「──あたしの勝ちだね」
「待て!! フライングだ!!」
「言い訳は聞こえなーい! そんじゃ悪魔捜索してくるねー」
「ぐっ……瞬間移動で消えやがった……!!」
そしてハンティは自らの勝利を宣言し、にこにこの笑顔でレオンハルトらに軽く手を振ってその場から瞬間移動で消えてしまう。レオンハルトが珍しく悔しげに呻いた。
だがそれも一瞬のこと。すぐに気を取り直したレオンハルトは他の使徒たちに命令を出す。
「…………仕方ない。お前達は先に行ってドラゴン退治とハンティ捜索を行っておけ」
「レオンハルト様はどうしますの?」
「せっかく俺を訪ねてきたんだ。あれからどう変わったか少し試す」
「畏まりましたわ!!」
レオンハルトはそうして目の前に立つ宗近に赤い双眸を向けた。宗近もまたレオンハルトを強く睨んでいる。
その様子に使徒であるリーは黙っていられない。
「ですがレオンハルト様……」
「リー。俺がこの程度の相手にどうにかされると思うのか?」
「それは…………はっ。失礼しました」
「なら行け。すぐに俺も追いつく」
「……うむ」
「わかったのだ!」
「ではお先に失礼します。レオンハルト様」
「始祖様のことはおまかせを~♡」
レオンハルトの問いかけにリーは返す言葉を持たない。すぐに謝罪し、真っ先にレオンハルトの命令を遂行しようとキャロルの後を負う。お町、ミシェーラ、イヴ、ペールもすぐに先へ進んだ。
そうしてその場に残るのは二者。魔人レオンハルトと勇者宗近のみになり。
「相変わらずふざけた魔人だな」
「今の流れで言われると否定が難しいな。だが数年前のことに関してはお前の運が悪かっただけだ」
「ふざけるな……そんなことで……貴様は多くの人間を……!!」
宗近はレオンハルトに対する深い怒りを言の葉に乗せてぶつける。
その腰元には聖刀・日光があり、宗近はそれを躊躇せずに抜き放った。魔人を殺せる武器。それがあればレオンハルトに対しても辛うじて勝負は成立する。
「その刀……日光を渡してやって助かっただろう? お前は俺に感謝するべきだ」
「黙れ!!」
『……………………』
日光は宗近に振るわれながら声を出さない。その時のことを知っているがゆえに、同情すらも許されないのだ。
何しろ、
「お前達は……お前と魔王ジルは私の父も含めた多くの人の命を奪い去った……それは決して許されることじゃない……お前にどんな考えがあるかは知らないが、日光を私に与えたこと──今この場で後悔させてやる!!」
──レオンハルトはジルと共に
だからこそこの戦いは数年前から決まっていた。
戦闘ギャグ戦闘シリアス戦闘シリアスくらいの割合で進行していきます。次回は大暴れなのでお楽しみに。
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