波紋が広がっている。
その因果がレーモン・C・バークスハムには視えていた。彼は眼前に迫る巨岩を感知しながらそう思う。
「オオオオオオオオッ!!」
「……!」
迫りくるは魔人四天王が一角。魔王ジルの信奉者にして獣の如き凶暴性を秘める地竜の魔人ノス。
その突進は当たるもの全てを粉々に打ち砕き、拳を振るえば大地は砕ける。魔人の使徒にしか過ぎないバークスハムは一度でも当たれば重傷。あるいは致命傷か。どちらにせよ戦闘継続は難しくなる未来を視る。
ゆえに未来を見て──回避する。
「──おやおや、その程度ですか?」
「ちょこまかと逃げおってェェ!!」
優雅さを意識する余裕はないが、それでもノスにはこちらの動きが余裕を持ったものに見えただろう。馬鹿にされたと思いノスが怒る。それをバークスハムは冷静に視る。
かの魔人は強大。先程分析したように膂力は凄まじく速さは並の魔人を凌駕する。つまりバークスハムよりも速い。
そしてノスを語る上で欠かせないのが防御力だが、そこはバークスハムにとっては関係ない。魔人の持つ無敵結界をバークスハムは抜けないのだから。
仮に抜けたとしてもノスの膨張硬化はダメージを与えれば与えるほど硬く大きくなる。それを超えてノスの体力を削り切るほどの攻撃力はバークスハムにはない。
つまりこの戦闘におけるバークスハムの勝率は0──どうあがいても勝ち目はない。
「避けるだけで攻撃もしないとは……腰抜けが……!」
「攻撃はしていますよ。肉体ではなく精神に、ですが」
だが負けないことはできる。
そして負けない戦いをすることがバークスハムにとっての勝利だ。その未来をバークスハムは識っている。
──今更言うまでもないこと。レーモン・C・バークスハムは未来視の一族の長である。
未来視の一族は人間が生まれて間もない時代……SS期の少数民族が始まり。大悪魔ニャングザイと契約して未来視の禁呪を手に入れたのが当時の族長であり、そうして手に入れた占いLV3の力を同じく禁呪で受け継いできた。
以来、未来視の一族は人間のより良い未来のために動いてきた。時の権力者に傅いて戦ったり、あえて人々を扇動して破滅へ誘導したこともある。
そして魔物討伐隊に所属して重要な人物を魔人になるように誘導したこともあった。
──それが魔人ガイ。バークスハムの主であり、人間のより良い未来の鍵となる人物の1人。
ゆえにバークスハムはここでガイに勝利を与えるために動いている。そのことに不満はない。幼き頃から一族の使命は理解している。人間にとって良い未来があるのならそれに導いてみたいとバークスハム自身もそう思っている。
……だがそれだけというわけでもない。
そう、とバークスハムは思い出す。主との時間を。
『……ガイ様。あまり飲みすぎては幾ら魔人とはいえ身体に差し障るかと……』
『ああ? うるせぇお前も飲め! 俺の酒が飲めないのか!?』
『そんなことはありませんが……』
『大体お前はいつも硬すぎる。そうだ、お前も娼館に連れてってやる!』
『いやそれは……』
『ぐはははは!! そうと決まれば今日はヤりまくるぞ!! 俺のおすすめは──いや、行くのはよそう』
『えっ』
『自らの使徒を娼館に連れて行くなど下品すぎる。娼館自体は否定しないが……どうせ行くならそうだな。この時間ならまだ麺魔軒が空いている。そこで締めのラーメンでも食べるか』
『はぁ……それは構いませんが……』
『美味いぞ。通常メニューも美味いが今出てる限定メニューの冷やし麺が絶品でな。それと水餃子だ。芳醇かつ濃厚なスープが絡んだ麺を啜り、時折餃子を摘み、それを酒で流し込む……その瞬間が格別なのだ』
『……なるほど』
『やはりこの街はグルメだな。人間がこれを味わえないのは忸怩たる思いはあるが……とはいえ食は欠かせない。娼館に行っても感想を言い合うだけだろうしな』
『わかりました。ではそちらに──』
『──いや! 娼館だ!』
『えっ』
『飯も悪くないが食うなら身体を動かしてスッキリした後がいいだろう! よし、行くぞ!』
『はぁ……わかりました』
『ぐはははは! レオンハルトのおかげで超優良店がタダだからな! これを逃す手は──ある。ラーメンを食べに行──かない! まずは娼館だ!』
『──どっちですか』
……と、肩を組んで夜の街を歩いたりもしたとバークスハムは回顧する。
魔人ガイは気難しい人物だ。安定とは程遠い。鬱屈していたと思えば急に元気になり奔放に動いたりもする。逆もまた然り。自らの発言をすぐに翻すことも珍しくなく、そのせいで他の魔人からは嫌われている。バークスハムも仕えていて全く苦労がないといえば嘘になった。
だが──
『頼んだぞ。レーモン』
『俺に付いて来い。レーモン』
……個人としても彼に仕えることが、存外に悪いものではないと知った。
いや正直なところ気にいっている。ガイ自身も、そんなガイに仕える自分自身も。
使命だけでは決してない。今のバークスハムは肩を叩いてきたその熱さを知っている。呼ばれた名前の心地と信頼される喜びを知っている。
ゆえに戦うのだ。この戦いの果てに──
レーモン・C・バークスハムはそれを報いだと思っている。
主が苦しむことを知りながらその未来へと進ませる愚かな使徒。背信者である己に相応しい末路だと。
だから告げるのだ。バークスハムは未来視でノスの動きを躱しながら、今まで視てきた情報と推測によってノスの心を乱してやる。
「やはり貴方は無能ですね、魔人ノス。魔人四天王の名も貴方には過ぎたるもの。なにせただの使徒にしか過ぎない私を倒すことすら出来ないのですから」
「黙れェ!! 潰れろッ!!」
両の拳を合わせての叩きつけ。後方に飛び退いて躱すのが最善。それを視て即座に実行する。続く攻撃も同様に視て回避しながら口も休まない。
「四天王の地位すら何の価値もないことは貴方自身が誰よりも理解しているでしょう。貴方はそうではないと否定しようとして、
「その口を閉じろォ!!」
「人の価値は自己評価だけでなく他者の評価でも決まります。そして、その存在にとって最も大事な存在からの評価こそが最も重要である。それに当て嵌めた時、魔人ノスにとって最も大事なのは──
「黙れェェェェ!!!」
ノスは怒る。激怒する。ただの挑発だと分かっているのに、その言葉を看過できない。
何しろそれはノスにとって何よりも──そう、自分すら騙せるものなら騙してでも強く自覚したくはない秘め事。
考えないように戒めてきた。自分を律してきた。ジル様の側に傅き、控える。その輝きを近くで拝見できるだけでも幸福なのだと自分に言い聞かせてきた。
そしてそれは間違いではない。魔王ジルが魔王として君臨しているその姿を側で見れるだけでもノスは喜びを感じる。
だがそれでも足りていないのも事実だった。理由も本当は分かっている。
魔人四天王の地位に就き、他の魔人から恐れられているノスが満足できない理由がそこにある。
そう、原因は。
「魔王ジルからは何の価値もないと断じられている──故に貴方は無能。己や他の誰がどう思おうとそれだけが貴方にとっての真実」
「ッッッッ!!!」
──ノスの信奉する魔王ジルであると。
そのことをバークスハムに指摘され、ノスは軋み砕けるほどの力で歯を噛みしめる。自傷の傷すら膨張硬化でより硬く大きくなる。
だがその地竜の特性も心の傷は防げない。バークスハムは吟遊詩人さながら。
そしてかつてガイを唆したシビュレー・C・バークスハムのように。悪い預言者さながらに。謳うようにノスの心を抉り続ける。
「おお、無能のノス。無力なノス。無価値なノスよ。己の信じる神に存在価値を認められていない貴方ほど憐れな存在も中々いないでしょう。どれだけ人を殺し、力を付け、知恵を蓄えようが貴方は無能。レオンハルト様やガイ様の足元にも及ばない塵芥の如き存在」
「死ネ!! イヤ殺ス!! ソノ口ヲ閉ジロォォォォ!!!」
バークスハムの即興劇は終わらない。
ノスがどれだけ力を振るおうとその全ては予言によって予め定められたかのように空を切り、大地を揺らすのみ。
「貴方が魔王ジルに仕えて千年の時が過ぎましたな。その間、貴方は何度その名を呼ばれたか? 何度声をかけられた? 何度視線を送られた? 何度命じられた? 何度思われた? ──おそらくはどれも片手の指で足りるほどでしょう。道端の石ころや囀る小鳥のように事象としてそこにあったから。何となくの気まぐれで干渉した程度の価値しか貴方にはない」
「ウルサイ黙レ黙レ黙レェェ!!」
その様はまるで喜劇のようであり悲劇のようである。
あるいは大いなる運命の輪から逃れることのできない人形のように。ノスはバークスハムの用意した舞台で踊り続ける。
「羨ましい。妬ましい。魔人レオンハルトが。魔人ガイが。ともすれば人間すら。なにせ彼らは想われている。それが負の感情であろうとも魔王ジルの心には常にそれがある。その意味では貴方は人間以下です」
「違ウ!! ソンナ筈ハナイ!!」
「そうですかな? 人が死ねば魔王ジルは愉悦を感じるでしょう。人が苦しめば魔王ジルは興を満たすでしょう。──しかし、貴方がどれだけ苦しもうがたとえ死のうが魔王ジルは何も想わないでしょう。心にさざ波が立つこともない。その日の内に忘れてレオンハルト様との逢瀬を楽しみ、人を苦しめるでしょうな」
好きの反対は嫌いではなく無関心とはよく言ったものだとバークスハムは微笑を浮かべてみせる。ノスの忠義に対して魔王ジルが返すは無関心という残酷な扱い。城に詰める魔物兵と同じ使用人程度にしか思っていない。
ノスもそれを自覚している──だからこそ翻弄されている。
「断言しましょう。これから魔王ジルの治世が未来永劫続くとしても──貴方の価値が認められることは決してない」
「ッッッッ!!!」
戦闘力として比較すれば、少なくとも使徒のバークスハムは魔人ノスの足元にも及ばないのに。もう少し冷静でいれば倒し切ることは出来ずともバークスハムの口を閉じさせることくらいは出来たかもしれないのに。
それらが全て図星で真実であるからこそノスはバークスハムの思い通りに動き続けた。ノスのあらゆる攻撃もバークスハムに当たることはない。歌劇は続く。バークスハムの思うがままにノスは弄ばれる。
ゆえに──
「さあ踊れ魔人ノス。無能なりにせめて踊ってこの舞台を盛り上げてみなさい。その果てに──
「オオオオオオオオッッッ!!! 殺ス!! 殺シテヤルゾ!! バークスハムゥゥゥ──!!!」
この暴虐の歌劇は戦いが終わるまで。ノスが異変に気づくまで続くだろう。
しかしその時にはもう遅い。バークスハムは既にその決着を視ている。
貫かれ、鮮血に濡れる魔王ジル。返り血を浴びる魔人ガイ。
それらを憂鬱とした表情で見つめる魔人レオンハルトが魔人ノスを叩き伏せ、新たな主に傅くその瞬間。
GL1004年──時代が終わり、そして始まるのだと。
あらゆるものはこの剣の前に頭を垂れる。
魔人レオンハルトは己を構成するもの。その中心にあるのは結局のところこの剣だと定義する。
人としてこの世に生まれ、初めて剣を取ったその時から。
魔人となって魔剣を与えられたその時から。
己にとって大事なものを守るため──自分は剣を振るのだと。
ゆえに全てを断ち切れるように鍛え上げてきた。
研鑽を怠らない。最強の魔人と呼ばれ、実際に己に敵うものがいなくなったとしても鍛えるのをやめる理由にはならない。
とはいえ退屈はしたものの──いつか誰かが言ったように己に匹敵する強者は気づけば己の前に立ち塞がっている。
ライゼン……藤原石丸……クエタプノ……そして、ガイ。誰もが己を楽しませる強者だった。
そして今──自分の剣はまた相手を試すか如く振るわれる。
純粋な剣技で己に並ぶものは既になし。魔剣オル=フェイルを抜き放ち、10体の影をまとめて斬り払う。
しかし。
「──まっこと危ないのう。殺す気か?」
「何──」
影の刃は断ち切れることなく背後に迫っていた。
気づいた時にはかすり傷がつけられる。そして距離を取り、再び印を結んで分身が10体ほどに増えた。
「かっっった。本気で刺したのに全然刺さらんとか硬すぎんか? 先程も思ったがやはり基本の肉体能力の差は桁違いじゃのう。これは長期戦になるやもしれんな」
「……今のは……」
それを為した人間──藤原杏を鋭く見つめ、魔人レオンハルトは今の事象に思考を巡らせる。
確かに自分は斬った。分身と共に隠れている本体も見抜いて両断した筈だ。
しかし次の瞬間には藤原杏が消えていて、己の近くに姿を現して刃を振るっていた──言ってしまえばただそれだけ。だからその術をレオンハルトはすぐに思い出せる。
「変わり身の術か……なるほど。確かに受けなければ問題ないか」
「ご明察。もうバレてしもうたか。これはキツイのう。降参してもよいか?」
「それは奇襲を仕掛けながら言う台詞ではないな」
「──違いないのう」
背筋に迫る冷たい刃。容赦なく後頭部を狙って振るわれる刃を今度は弾き、返す刃で藤原杏を斬ろうとして躱される。空中で難なく体勢を変えてみせた。
再び距離を取ろうとする小さな影にこちらも踏み込む。踏み込みの速度はこちらが圧倒的に凌駕しているとレオンハルトは客観的に思い、剣を振るった。放つは奥義が一つ。神速の抜刀。
「“瞬光”」
「!!」
音を超えた光の如き斬撃が空気すら断ち切り、音を置き去りにして影を斬る。
人間の達人程度ならこれだけで地に伏す。しかし手応えはなく、代わりに攻撃が飛来した。
「──影手裏剣」
いつの間にか距離を取っていた藤原杏が複数の手裏剣をレオンハルトに向けて放つ。狙いは正確。それでいて速く、その手裏剣術一つ取っても奥義と言えるような腕前。
立ち止まってその手裏剣を残らず叩き落とす。だがレオンハルトの思考はその手裏剣より自らの奥義を無傷で回避したその技にこそ注目していた。
だがわかる。レオンハルトはかつてそれに似た剣理を体験している。藤原杏のそれは剣でこそないが、発想は似ている。忍びであるがゆえにそれは当然ながら正道の技ではなく。
「変わり身による回避に分身という幻影で徹底的に俺の攻撃を受け流す気か」
「こちとらただのか弱き人間のロリぃ美少女なのでな。魔人の剣を受けきれぬのは道理じゃろう。英雄級の戦士やガードならともかくな」
そう、藤原杏は忍者。区分するのであればレンジャーであり、その戦い方は回避を中心とした何でもありだ。
故に躱し、惑わし、隠れ──そして刺す。
最初っからレオンハルトと真正面から戦う気なんてない。藤原杏も短刀を用いた近接戦闘には自信はあるがそれでもレオンハルトと剣のやり取りを行うのは不可能だと判断する。
そして受けるのもかなり厳しい。となれば藤原杏が行うは全ての攻撃を躱すことだけだ。
影手裏剣で相手の行動を阻害し、分身で手数を増やし、危ない攻撃は変わり身で回避。そしてダメージは──
「毒か。これは何の毒だ?」
「ムシ使いが使う劇毒じゃ。常人ならどうあがいても即死なんじゃが平然としておるのう……」
「安心しろ。進行は遅いがダメージは受けている。もっとも魔人の抵抗力なら常に毒を与え続けなければすぐに意味はなくなるがな」
「魔人というかお主、じゃろう? ──ま、よい。だから長期戦じゃ。これしきで倒れては妾としても気が抜けるというもの」
──刃に塗った毒で与える。
魔人レオンハルトは己の身体の異常にすぐに気づいたが、それでも動じない。この程度の毒はレベルにして300を超えるレオンハルトの耐性ならすぐに治る。
しかし苦しくはある。藤原杏の言う通り長期戦に持ち込めばもしかしたら万が一もあるだろう。
もっともそれには膨大な時間がかかるだろうが──それでも己を殺しうることには変わりない。
だからこそ。
「クク……確かに面白い。
「!」
レオンハルトは数百年振りに破壊衝動を解放する。
普段の理知的で冷静な顔は鳴りを潜め、戦いに興じる己の本性を我慢出来ずに出してしまう。
そうして思い出すは藤原石丸──あいつとの戦いは本当に楽しく、今でも時折思い返してしまうほどだ。
そして藤原杏の戦い方は少しだが似ている。最終的に弱者の剣で己に比類した石丸と結論は同じだった。
正面からではなく邪道を持って勝利する。それこそが人間の剣だと。
そんな藤原杏は変貌したレオンハルトの様子に目を見開いた。そして警戒を解かないままに目を細めて。
「……クールな武人系かと思っておったが本性は俺様系か。ふむ、どちらも悪くないのう……激しくどちゅどちゅと犯されるのが良さそうじゃ」
「……気が抜けることを言うんじゃねぇ。俺は戦いの最中に性的なことは考えられない」
「え、まことか。戦いの最中に、こやつエロい身体しとるのう……とか、乳でかいのう……とか──あ、パンツ見えた、とか考えんか?」
「……言われてみれば考えないこともないが強者との戦闘の時はそっちに思考を割くことはねぇよ」
「ふむ……まあ一応褌はチラチラさせるのは継続しよう。胸ポチもたまに見えておるぞ」
「知ってるがいらねぇ報告だ」
丈の短い和服を緩く身に着けている藤原杏は戦いの最中でも変わらずエロいことをあけすけに話す。──フザケちゃいるが実力は本物で、そのパンチラならぬ胸チラや褌チラも相手の集中を少しでも乱すためのものなのだろうとレオンハルトは判断する。それも含めて己を倒すための全力なのだと。
「──そうして話している最中もお前にしてみれば攻撃の隙か」
「そういうことじゃな。忍法──極・火丼の術」
言っている間に藤原杏は印を結び、極大の炎陣をレオンハルトに向けて放つ。
その炎は魔人ラ・ハウゼルやその息子のカイゼルに匹敵するような超高温の熱。
しかし魔人レオンハルトは一刀で覆す。
「禍津風ッ!!」
「──変わり身分身の術」
斬撃の連続で嵐を巻き起こす。山を斬り開いてしまうほどのそれに炎は霧散するも藤原杏はその攻撃を回避し──そして回避し続けることになる。
「面白い……面白いじゃねぇか……!! 俺の剣がここまで当たらない相手は初めてだ……!!」
「妾としてはヒヤヒヤもんなんじゃがのう……!!」
──そこからは互いの秘奥の連続だったが、図式としては単純だ。
レオンハルトが攻撃し、藤原杏が回避する。
斬る。躱す。斬る。躱す。斬る。反撃。斬る。躱す。斬る。躱す。斬る。反撃。斬る。躱す。
レオンハルトが何十回と剣を振るう中で藤原杏は回避に集中しながら時折反撃を行い、レオンハルトに僅かなダメージを通す。
対してレオンハルトの剣はまだ一度も藤原杏に届いていない。その事実だけを見れば優勢なのは藤原杏ということになるだろう。人間としてはありえない偉業だ。
しかし互いに理解している。そのたった一度、届いた瞬間に勝負は決着してしまう。
伝説級の達人とはいえくノ一である藤原杏はレオンハルトの剣を受けることは出来ない。受け流す、というのも難しいだろう。出来たとしても短刀で受けた瞬間に弾かれて攻撃が通る。どちらにせよ終わりかねない。
だから藤原杏は勝利するためにレオンハルトの攻撃を全て回避するしかない。攻撃を通してもかすり傷程度しか通らないレオンハルトの体力が尽きるまでそれを続けるしかない。
だがそれが魔人と人間の絶望的な差だ。本来は勝負すら成立しない。
なのに勝負が成立していることこそ藤原杏が怪物であることの証だ。かつて藤原石丸はレオンハルトに剣を届かせることも苦労した。
それを思えばある意味で藤原杏は藤原石丸を超えている。
もっとも剣士とくノ一で得意分野も違うため単純な比較は出来ないが、それでもこのGL期においては魔人級の強者であることに違いはない。
「団子斬り!!」
「のわっ!?」
即ちレオンハルトの勝利条件は剣を届かせること──そのためレオンハルトはなりふり構わずそれを成そうと全く同時に放たれる斬撃で藤原杏を攻撃。思わず驚いた藤原杏だが、それもまた変わり身で受け流される。
「全く同時の斬撃か……意味分からん技だらけじゃな……!」
「躱したお前にもお見逸れしたぜ……!! こんな強者が千年以上も隠れてたなんてな……!!」
「日の下じゃ生きられんからの! ──風林火山隠雷!!」
「! 動きが……強化術か!」
「遅いと斬られそうだからの。これで底上げじゃ!」
そして自らの肉体を強化する忍びとしての秘奥を用いて藤原杏は更に速度を上げる。分身が20体にも増え、レオンハルトの身体を刻む回数も増えた。
神速のレオンハルトの剣に対しても対応できる。決め手こそないが、着実にダメージを与えていく。攻撃用の忍術は効果が薄いため早々に見切りをつけていた。
だがそれが実際のところレオンハルトに対しては有効に働いている。人間が個人で魔人に、しかも最強の魔人に善戦している事実は驚愕に値する。
……このままじゃ埒が明かないな。アレを試すか。
レオンハルト自身もそう思っていた。ゆえにレオンハルトは剣を一度止めて距離を取る。
「!? どういう……」
「いや何、お前が思ったよりやるもんでな。俺も楽しくなってきた……だから敬意を表して人間にはまだ見せてない俺の剣を見せてやる──日光」
『……わかりました。ただし──』
「わかってる。
『──それならば構いません』
藤原杏がどういうつもりだと困惑する中、魔人レオンハルトは近くに落ちていたとある刀──魔人を傷つけることができる二振りの内の一つ。聖刀・日光を左手で持ち上げて協力を呼びかけた。
「! まさか……!?」
「察しがいいじゃねぇか。そのまさかだ」
日光から頷きの声を受け、レオンハルトはその左手に強く抜き放った日光を握り込む。右手には変わらず魔剣オル=フェイルが握られている。
青白く輝く聖刀日光と赤黒く煌めく魔剣オル=フェイル。
その両方を用いる。藤原杏が驚き、レオンハルトが不敵な笑みを浮かべて構えるその正体は──
「一手見せてやるよ。お前に相応しい──剣法の高みをな」
──初めて見せる二刀流だった。
今回はここまで。バークスハムのレベルはこの時点では60程度だけど占いLV3が馬鹿強いのでどうにかなってる。なおこの後魔人化する模様。
次回もバトルです。インテルかニャングザイかジルかその辺りで。お楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。