※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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完璧な存在

 ドラゴンは完全であり完璧な存在である。

 その事実を四大聖竜インテルは当然のものとして誇りに思っていた。今も周囲に感じる敵に対してその強さを見せつける。

 

「くっ……重い……!」

 

「リーさんそのまま抑えておいてくださいまし! ペールさんにお町さんは遠距離攻撃徹底ですわ!」

 

「うむ……ゆけ、雷獣……!」

 

「幻獣ちゃんが止めている間に──ゼットン!」

 

 体長40メートルにも及ぶ巨体はそれ自体が凶器である。

 牙で敵を噛み砕こうと動き、それを赤い軍服を着たダンディな男──使徒リーが全力で受け止め、その間に十尾を持つ妖怪の使徒お町が雷獣を放ってインテルを攻撃。

 しかしそれを冷気を放つことで追い払い、更に尻尾も使ってお町やもう1人の幻獣を召喚して炎魔法を放ってくるカラーの使徒ペールもまた打撃する。

 そして手に持った銃の引き金を引き続けながらそれらを指示しているのが使徒キャロルであったが……インテルはそれらを児戯であると評する。

 確かに小さきもの達にしてはよくやる。こちらもノーダメージとはいかない。間違いなく傷は負わされているし、たった4人でこちらを足止めしているのは賞賛に値する。今も小さき者がその手の飛び道具を乱射する道具を使い。

 

「おほほほ、このまま蜂の巣にしてやりますわ!」

 

『ぐ……弾がたまに当たる……!』

 

 小馬鹿にするような笑いを発しながらこちらに小さなダメージを与えてくる……と、インテルは内心で声を作った。躱しきれない。こちらは巨体。ある程度のスピードは有しているとはいえ、この金髪ツインテールはインテルの周囲をとにかく走り回り、その最中にひたすら撃ち続けてくる。

 ダメージこそ殆どないが、それも冷気の放出があってこそ。体表に氷による盾を瞬時に作ることができるインテルに小さな弾は決定的な傷は負わせられない。

 

 それよりも眼帯の使徒や尻尾のある使徒、カラーの使徒の方が危険だとインテルは思った。氷の大地に身体を滑らせて全員を打ち払うも眼帯の使徒はパワーで留まり、二者は元々後衛で遠距離から攻撃を放ってくる。

 

『厄介な奴かい……』

 

「うるせーですわ! このまま押し込みますのよ!」

 

『お前が指揮官か……我死、効かん。終わらせよう』

 

 だが、とインテルは更に冷気のエネルギーを放ちながら薄い思念の中で思った。

 

『──弾けよ』

 

「! 全員退避ですわ!!」

 

 輝かしい金髪を2つ結びにしたその使徒が退避を呼びかける。その読みはよい判断。

 だがインテルの溜めた冷気。それらを一気に放出する大技は少し移動した程度で避けられるものではない。

 

『冷凍気化』

 

 ──大爆発。そう表すのが適切だろう。

 

 サファイアドラゴンのインテルが持つ氷の能力。体内にあるエネルギーを放出せずに溜めた上で放つ冷気の衝撃波は周囲の山々を一気に凍らせ、木々を氷の結晶に変えてしまうほどに強力だ。

 

 かつてはこの必殺技で魔人すら粉砕した。特に北の豪雪地帯での戦闘でインテルは無敵を誇り、彼を上回ることが出来たのは同じ四大聖竜のライゼンにドラゴン王マギーホア。それと魔王アベルや魔王ククルククルくらいのもの。

 

 今のこの時代の小さき者達──人間。あるいは魔人や使徒に対して負ける理由はない。

 特に人間は愚かで小さき者だ。頭が悪いとも聞いているし、ドラゴンとは程遠い存在であるとインテルは認識している。

 

 だから負けるはずがない。そう……ドラゴンは決して負けない。負けてはならない。

 四大聖竜に数えられる己は負けることは許されない。負ければ死ぬ。負ければ誇りが汚される。負ければ──仲間がいなくなる。

 

 ドラゴンの秩序と法を犯すことは誰であろうと氷漬けにする。

 冷たい氷という名の牢獄で己の罪を一生悔いるがいい──かつて重い罪を犯した同胞や敵対者にインテルはそう告げてきた。それが罪のない民を守るのだと信じて。

 

 だが──

 

『何故だ……何故こんな……こんな惨いことを……』

 

 インテルは絶望を知った。この世の理を知った。

 ドラゴンには珍しい魔法の達人でありドラゴン一の知者。エメラルドドラゴンの四大聖竜クアルコムの遺した『神の裁き』という遺言を知り、インテルはドラゴンの中で唯1人真実に辿り着いてしまった。

 

 自分達は神に見限られた。空を覆い尽くすほどの天使の軍勢に同胞は狩られていった。

 自らの領域である豪雪地帯でインテルも必死に戦ったがどれだけ天使を倒してもキリはなく、インテルもまた凍土の中にある洞窟に隠れて生き永らえようとした。

 もはや誰も生き残ってはいない。孤独──いや、仮に誰かが生き残っていたとしてもこれが神の裁きである以上は全員殺される。

 だからインテルは負の感情に支配されそうになる中で必死に考えた。クアルコムの遺した文献を必死に漁り、神への対抗手段を探した。その果てに。

 

『呼ばれて飛び出て登場にゃん。──さ、滅ぼされる運命の孤独なドラゴン。願いを言ってみるがいいにゃ』

 

『──()()()()()()()()()()()()()

 

 ──インテルはドラゴンであることを捨てて悪魔の道具となる道を選んだ。

 

 神に対抗できるのは悪魔だけ。悪魔は数千年か数万年の果てに神をその座から追い落とす計画を進めている……それがドラゴンの賢者クアルコムが生前に出していた結論だった。

 

 インテルは同胞のその言葉を信じて自ら魂を悪魔に売った。そうして魂だけの存在となり、インテルは第壱階級悪魔ニャングザイの持つ魂コレクションの一つとして悪魔界でその時をただ待ち続ける。

 

 ゆえにこの戦いにインテルは何の感情も抱いていない。魔王と魔人、人間などという小さき者達の戦いなどどうでもいい。主であるニャングザイ様が気まぐれで人間との契約に同意して戦うことになった。そのために地上に召喚されたため道具として、下僕として命令に従っている──ただそれだけだ。

 

 恨みも怒りも何もないが立ち塞がるなら容赦はしない。全員氷漬けにした後に悪魔界に帰ってまたその時を待ち続ける。

 

『……いつか来るその時まで』

 

 インテルは冷気の放出を収め背中の翼を動かして空気を払う。

 冷気によって周囲の木々。ムシといった小生物。それらは全て凍って粉々に砕ける。

 細かな氷の粒子。結晶となり大気中に降り注ぐその光景は残酷な程に美しい。インテルが全力で冷気を放出した後はいつもこうだった。

 あらゆるものは氷の結晶となり消え去る。形残るものは何もない。敵の姿も、味方すらインテルの全力には耐えられない。

 耐えられたのは同じ四大聖竜や魔人などの一部の強者のみ。使徒如きが耐えられる道理はない。

 ゆえにインテルは終わった、と。そう思って──

 

『む……』

 

 熱源に反応があるとすぐにその考えを破却した。使徒如き。そう思っていたが、どうやら多少は知恵があるようだと。

 

『山陰に隠れたか……』

 

 4体の使徒は全員近くの山。その岩肌の陰に隠れてインテルの冷気の放出をやり過ごしていた。

 その考えは正しいとインテルは認める。確かにインテルの冷気はこの大地や巨大な山脈を砕くほどではない。世界の中心にある翔竜山とてインテルの冷気如きで砕けるほど軟ではない。隠れ潜めばこちらの攻撃は防ぐことが出来るだろう。

 

『だがどうする? それでは勝てぬぞ……』

 

 近づかないなら勝ちはなし。勝てぬなら価値もなし──己の攻撃を防いだ相手の指揮官に、インテルは心の中で問いを投げた。

 

 

 

 

 

 ドラゴンは完璧な生命体ですわ──と、キャロルは理解していた。

 何しろキャロルのライバルはプラチナドラゴンの魔人であるカミーラの使徒七星である。彼もまた元はドラゴンであるし、主であるレオンハルトの中庭には四大聖竜のライゼンが住み着いている。彼もまた長い付き合いであり、キャロルも当然のようにライゼンと交流して色んな話しも聞いている。

 

『ライゼンさん以外の四大聖竜はどういった方々でしたの?』

 

『うむ。そうだな……ドラゴン一のへんた……いや、知者である賢者や、ユーモアセンスが……いや、冷静だが熱い法の番人……それとマギーホアが好きなオカ……いや、周囲に慕われる若き猛将。誰もが強くそして誇り高いドラゴンだった』

 

『──でもその中で最強だったのがライゼンさんですのよね!』

 

『まあ俺は肉体派で他の奴ほど特殊な力は持っていない代わりにとにかく硬い。正面から突進して砕けばどうにかなった』

 

『なるほど! やはり戦いは王道! 正面突破こそが最も美しく強いのですわ! レオンハルト様のように!』

 

 メモメモ……と、ライゼンの話をキャロルはメモ帳に書き込んだ。その時のことを思い出す。確かライゼンはこの後にこうも言っていた。

 

『うむ……だが今になって思うが正面から戦えぬ者達にとって俺達のような強大なドラゴン相手に決闘をしなければならないというのは少し酷だっただろう。……特にインテルは正面からでなければ……』

 

『? インテルさんですの?』

 

『ああいや何でもない。……少し昔を思い出して懐かしくなった。たまにはハンティの無茶振りにも応えてやるか……どっこらしょっと』

 

 しみじみとそう言って立ち上がり、中庭に現れて日課のサンドバッグをしようとしていたハンティにたまには戦うかと言って空に羽ばたいていったライゼンのことをキャロルは憶えている。

 だからキャロルは見ていた。先程までの戦いの中でインテルを観察し、

 

「……おそらく弱点はあの冷気放出の後、ですわ!!」

 

「冷気放出の後……?」

 

「それは本当ですかキャロル様」

 

「ええ。先程からリーさんの打撃もわたくしの銃撃も氷を発生させて防いでいましたわ。その際に冷気を放出していましたが、あの冷気は一気に放出するとエネルギーを溜めるまで少しですが時間がかかると見ましたわ!」

 

「その心はなんですか?」

 

 なぜなら、とキャロルはお町やリー、ペールにビシッと言い放つ。

 

「そうでないと誰も勝てませんの!!」

 

「へ?」

 

「…………な、なるほど」

 

「…………つまり合理的な理由はないということかの……?」

 

 あれ? と空気が何故か凍ってしまったことにキャロルは頭に疑問符を浮かべる。おかしい。冷気は放出されていないのに、と。

 

「そうではありませんわ! だってリーさんのパワーで砕けないのはおかしいですのよ! リーさんの全力の打撃はかつてのライゼンさんにも匹敵しますわ! ──でしたらライゼンさんより弱いあのドラゴンがリーさんの打撃で砕けないのはおかしい! ということになりますの!」

 

「あ、あー……まあ、それはそう、かも?」

 

「言われてみれば分からぬでもないが……」

 

「…………ふむ……」

 

 証明完了! ですわ! と、キャロルは自信満々に胸を張る。そう、四大聖竜ではライゼンが最強だということは知っている。

 そしてライゼンは他の四大聖竜を正面突破で何とかなると評した。正面突破でなければ厳しいというニュアンスも口にしていた。

 なら強くなっている今はともかく、かつてのライゼンに匹敵し、魔人級のパワーを持つリーが砕けないのはおかしい。それは冷気を放出して鱗に氷を纏っているから。その氷を常に纏われたら勝てない。纏っていない時はいつか──冷気を一気に放出したそのすぐ後だ、というキャロルの思考がその場にいた面々に共有される。

 残念ながらなぜかピンとは来ていない様子だが、言われてややあってからリーは頷く。確かにキャロルの考えも正しい可能性があると。

 

「ならばどうしますかキャロル様。冷気の放出の後が好機だとして、どうやってそれを突きましょう?」

 

「そうですよう。さっきのあれ食らったらペールちゃんたちも皆粉々になっちゃいます」

 

「……まあ、ある程度は耐えられるだろうが近づきつつ耐え続けるのは難しいであろうな……」

 

 三者の見解は、仮にそれが正しかったとしてもそれを突くのは難しい。どうすればよいか、というもの。つまり、答えは出せなかった。

 だからこそキャロルは胸を張り続ける。やはり完璧使徒であるわたくしにしかわからないし、できないであろうと。

 

「決まっていますの」

 

 そしてキャロルは3人に作戦を説明する。その上で表情をそれぞれ歪ませる3人に対し、有無を言わさず山陰から進み出て勢いよく口にした。

 

「正面突破ですわー!!!」

 

『──馬鹿なのか?』

 

 ──四大聖竜インテルの冷気が冷たいツッコミと共に再び放出される。

 

 キャロルは冷気に包まれていき、そして口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 ……やはり冷たいですわ!! 

 キャロルはインテルに向かって真っ直ぐ突っ込み、そして放たれる冷気に対する感想を素直に思った。

 これは冷たい。冷たくてマズいですわ。すぐに氷漬けにはなりませんがずっとこうしてたら死んでしまいますの。

 だが、とキャロルは己の作戦と実力に自信を持つ。だから真っ直ぐ突っ込んだ。

 

「防御式神!」

 

 背後からお町の陰陽術。防御式神が展開されてキャロルの身体を守る。

 来ましたわ! とキャロルはその間に懐から世色癌をぱくり。そして防御式神が砕ける直前に背後から更に。

 

「もぉーやるしかないじゃないですかぁ!! なら絶対死なないでくださいね!! ──ゼットン!!」

 

「ナイスですわペールさん!! ──って、熱ぃですわ────!!」

 

『何を……?』

 

 今度はペールが放つ最上級の炎魔法がキャロルを中心に発生したため、キャロルは炎を受けながらその熱さに叫び、思いっきり前に向かって走る。思ったより熱いですわ、と。

 しかしすぐに、また冷気によって炎はかき消されて。

 

「今度は寒いですわ──!!!」

 

『……まさか……そうやって無理やり正面から進んでくるつもりか……!?』

 

「そ、そそそそそのまさかですの!! 今更気づいたところで遅いですわ!!」

 

「防御式神! ……我らにとってももう遅いからやるしかない……」

 

 身体が寒さで震えながら言葉を放つ。再び背後からお町の防御式神が。砕ける前に回復アイテムの世色癌を飲み、防御式神が砕けた後はペールの炎魔法で多少暖まった(というか熱い)中を突っ走る。

 そしてまた冷気に晒されるがそれを耐える。その繰り返しであり、インテルがそれを見て正気かとでも言うように声を荒げたがキャロルとしては大真面目だしできる。なぜならば。

 ……わたくしはレオンハルト様第一の使徒!! そして完璧使徒だからですわ!! 

 

 そうですわ、とキャロルは己に自信を持ち、思う。確かにドラゴンは完璧な生き物。強く賢くタフな存在だと思っている。

 だがキャロルは己もまた完璧を目指しているのだ。その証拠に、最初は弱かった。

 

『負けましたわー!!』

 

『……負ける時も元気ですね……』

 

 ──今から2000年以上昔……レオンハルトの使徒になったころのキャロルは他の使徒に勝てなかった。

 ライバルと名指ししたカミーラの使徒七星には歯が立たない。その頃はまだ剣やら他の武器を試したりしていた。

 

 そして次の数百年後。

 

『負けましたわー!!』

 

『いやぁ……えっと、なんというか……こういうこともありますよねー……あはは……』

 

 キャロルは同じくレオンハルトの使徒になった後輩のペールに負けた。なんだったらその前にハンティにも当然のように負けている。

 その時のペールは気まずそうだったがキャロルとしては何も問題ない。現時点で、自分はペールより弱かっただけのこと。また強くなればいい。

 そう思ってひたすら鍛え、試行錯誤し、勝負を挑み、負けて、また鍛えて……の繰り返し。

 レオンハルトの使徒として仕事をこなして忠義を尽くしながらキャロルはそれをこなし続けた。

 

 そして……次の数百年後も負け。更にまた数百年後も負けた。

 

 だけどキャロルは諦めない。へこたれない。落ち込まない。

 なぜならレオンハルトの第一使徒としてそんなことは許されないからだ。完璧使徒としてそんな姿は似合わないからだ。

 

 だから鍛える。鍛えて鍛えて……そしてまた長い時の後に。

 

『勝ちましたわー!!』

 

 ──キャロルは勝利した。ペールや七星に。あるいは他の魔人の使徒に。新しく増えたレオンハルトの使徒である後輩に。

 

 何度も負けて、負ける度に鍛えて試行錯誤して乗り越えた。負けることは恥ではない。負けてすぐ立ち上がるならそれは負けじゃない。

 だからキャロルは負けたらすぐに立ち上がる。負ける時もひたすら粘る。考えて色々試し、最終的には根性でどうにかする。

 それが──

 

『最後に立っていた奴が1番強い。それを忘れるなよ──キャロル』

 

『……はいっ!! レオンハルト様の御言葉、この身にしかと刻みましたわ!!』

 

 それがレオンハルト様の第一の使徒。その矜持を、キャロルは全身を襲う冷気の中で笑みを浮かべながら叫んだ。

 

「──それが完璧使徒のわたくしですの!!」

 

『……!!』

 

 キャロルの基礎能力は十分に高い。特にこういった少数の部隊を率いる時の指揮力や戦闘中の思考。そして──基礎体力と粘りは他の使徒と比べても上位に位置する。

 ゆえに耐えられるし倒れない。格上との戦いでも怯まないし怯えない。レオンハルトのように勝ち続けることが出来ずとも、決してその背中に付いていくのをやめたりしない。

 

 2000年以上昔に誓った約束を違えはしない。ゆえに、キャロルは猛烈な冷気の中を突き進み、ガウガウ特製の銃の中から近距離用のショットガンを取り出してインテルの顔面に突きつけた。

 

「完璧とは諦めないこと──前に進み続けることですわ!!」

 

『っっっ──グオオオオオオオオオオ……!!?

 

 引き金を引いてインテルの右目も撃ち抜く。巨竜が激痛に怯み、雄叫びを上げる。

 

「さすがです……キャロル様」

 

「うむ……一斉攻撃だ……!」

 

「ボコボコタイムですよう!」

 

 そうしてリーが、お町が、ペールが。キャロルが見つけた突破口を見逃さずにインテルに向けて全力の攻撃を行い……巨竜は地に伏した。

 

 

 

 

 

 使徒の拳により鱗が砕け、炎の魔法がその身を焼き、雷の獣が身体の内側を貫く。

 魂だけの身ではあるが一時的に肉体を得て復活した以上、痛みも苦しみも確かに響く。

 だがそれ以上に響くのは、今を生きる者達のひたむきさ。

 

 ……そこまで……そこまでするのか。

 

 己のような巨大なドラゴンを相手に一歩も退かず、作戦は立てながらも正面から突破してきた小さな魔の者達にインテルはただ驚くしかない。

 その身はかつての同胞ライゼンほど硬くはない。使徒達の攻撃で十分に身体は砕けるが、それでも普通の使徒では己を倒すことは難しかっただろう。

 しかしそれを成し遂げようとしている。

 

「獅子王拳!!」

 

 己の身体が使徒の凄まじい膂力で砕かれる。その一撃はドラゴンのブレスや巨竜の突進が如く。

 

「大雷撃!!」

 

 己の内側に雷が走り抜ける。その雷の強さはかつての仇敵を思い出させる。

 

「ゼットン!!」

 

 己を焼く炎が知覚を狂わせ、確かな痛みを与える。その炎は神の怒りに触れたあの時のように苦しくなる。

 

 その一つ一つの攻撃で強大なドラゴンを屠ることは難しくとも、少しずつ傷を与えて強大な存在を打ち倒さんとする。

 その輝きは……そう。かつて自分達もまた持っていたものだ。

 

『──全員で一斉にかかるぞ!! 気を抜くな!』

 

『おお! マギーホアに続け!』

 

『括り殺すククルククル……! ま、往生しな魔王……!』

 

『あの上部の女体部分を舐め回すように我が魔法を放ちます……!』

 

『はぁ……♡ マギーホア……こんな時でも男らしくてかっこいいわぁ♡ ──と、それはともかく……お前ら行くぞごらぁ!!』

 

『お前らほんと変わらんな!!? マギーホア以外!!』

 

 あの魔王ククルククルを前に自分達ドラゴンは一歩も怯まずに立ち向かった──先頭を行くマギーホアの号令。それに続くライゼンの突撃とツッコミ。私の冷気とユーモア。気持ち悪いが身体を光合再生して魔法を放つクアルコム。マギーホアの尻を狙う気色の悪い奴だが部下を激励するA・P・シリコン。

 それらはかつて見た凄惨かつ輝かしい戦いにほんの少しだが似ていて。

 

 ……いや……そうだな。いつの世も……どのような小さき者であっても……か。

 

 インテルは久し振りにそれを思い出す。残念ながら今更熱いものが蘇るようなことはない。

 己の同胞は既に消えた。悪魔に魂を売り渡した自分はこれからも悪魔の道具として神への復讐の時をただ待ち続ける。

 ただ……そう。完璧な存在とはこの使徒のように。

 

『……確かにな。ならば私も前に……』

 

「喰らいやがれですわ!!」

 

 逆鱗に向けて再び引き金が引かれる。鱗が砕け、それでもまだ貫いてくる銃弾は今の死体を媒介にした肉体の脳を貫き。

 

『進み続け、なければ…………』

 

 ──現在の肉体の動きを停止させた。

 

 霊体となって死体から飛び出たインテルは、それでもなおまだ巨大だがそのままでいると目をつけられかねないので小さくなって姿を消す。ニャングザイの命令に逆らうことはしない。

 だが……。

 

「……やりましたの?」

 

「動かなくなりましたねぇ……まあこんだけ攻撃したら死ぬのも当たり前ですけど」

 

「念のため死体を焼いておくか?」

 

「どうでしょうな。一応気を抜かずに──」

 

「ふふふ……おーほっほっほ!! わたくし達の勝利ですわー!!」

 

「……まあ勝ち鬨をあげるのは構いませんが……」

 

「相変わらずキャロル先輩に甘いですよう!?」

 

「緊張感にかけるの……というか倒れておるが大丈夫か?」

 

「え? ──うわー!? キャロルせんぱーい!?」

 

「ふふ……へっくしょん! ずず……寒暖差で風邪をひきましたわ……」

 

「あ、思ったより大丈夫そう……って、寒暖差ってレベルじゃなかったですよう!?」

 

 …………随分と嬉しそうだな。

 己を一時的にでも倒したことで喜びを見せるキャロルという使徒にインテルは目を細める。ただの使徒が4人がかりとはいえ四大聖竜を倒すとは……主の魔人とやらも見てみたい気もするなと。

 だがインテルの魂は生きている。それどころか、ニャングザイが禁呪さえ使えば何度だって復活する。

 だから彼らはまだ喜ぶべきではないだろう。ニャングザイが死ぬか、悪魔界に帰るなりしなければ戦いは終わりじゃない。

 ……あえて水を差すこともないが……ぬか喜びになるやもな。さて……ニャングザイ様の元に戻って……む? 

 そうしてインテルは魂の状態でニャングザイの元に戻ろうとして、気づく。少し距離がある森の奥で声が響いた。しかもそれは主の──

 

「あ────もう!!! どうなってるにゃ────!!!?」

 

『ニャングザイ様!?』

 

 ──苛立ちに満ちた叫び声であった。

 




今回はここまで。インテルは既に死んで魂だけとなった状態で死体に憑依して復活してるので肉体は全盛期ほどじゃありません。そのかわりニャングザイによって何度も蘇ります。
それでは次回のニャングザイ戦をお楽しみに……の前に今回はドラゴン周りの設定を公開しておきます。どうぞ。

・大陸統一国家トロン
ドラゴンの統一国家。アベルを倒して建国されたが、ラストウォー以前も体制はそこまで変わらず。国家という概念が初めて生まれた。首都は翔竜山に存在し、城も建設された。

・マギーホア:国王。ルビードラゴン。KDとなって全てを諦める。森羅万象。天候を操り自らの力とする。肉体的にも最強で最強モードは極光の熱を発する。性格は知性が高く人格者でもあり完璧だったが、カミーラの扱いに関しては他のドラゴンとそう変わらなかった。今は後悔している。世捨て人ならぬ世捨てドラゴン。最強のメインプレイヤー。レベル400。ドラゴンLV3。統率LV2。

・四大聖竜 マギーホアに次ぐ最強のドラゴン4体。八大精霊竜と違い入れ替わりは起こらなかった。種族の中でも突出した能力を持っていて生まれついて強く完璧な生命体。問題があっても仲間同士の殺し合いや内戦にならないのは決闘至上主義であることとドラゴンが完璧であることの証明。一度強さを認めれば仲間で同胞。人間のように権謀術数を駆使して醜い争いを繰り広げたりはしない。

ライゼン:ダイヤモンドドラゴン。西部方面軍将軍。四大聖竜最強。四肢と翼を持つ最大のドラゴン。唯一生き残る。ドラゴンとして生き続ける。実はマギーホアよりも歳上の最年長で最古のドラゴンの一体。なので歴史の生き証人。アベルの上司で師匠。はるまきの上司でもある。伝導超過。めちゃくちゃ硬い。光や雷、炎を受けるとエネルギーを溜めて更に強くなる。肉弾戦が得意でドラゴン流の体術にも優れる。割と常識人でツッコミ役。常に一歩引いて見守る立場だったためアベルやカミーラからもそこまで嫌われていない。レベル230。ドラゴンLV2。格闘LV2。

インテル:サファイアドラゴン。北部方面軍将軍。マギーホアの幼馴染。冷凍気化。氷属性。海竜。司法を担当。キャンテルの上司。北部の豪雪地帯に住み、ホルスを襲ったこともある。アベルを最も嫌い、アベルがドラゴンの時代から冷遇していた。神に復讐するためにあえて悪魔と契約して魂を保持させる。ユーモア好きのダジャレ好き。マギーホアが番にする前のカミーラに対する求愛も一発ギャグ。当然好感度は低い。レベル180。ドラゴンLV2。ガーディアンLV1。ユーモアLV0。

クアルコム:エメラルドドラゴン。東部方面軍将軍:東洋風の蛇龍。光合再生。光を浴びることで肉体を再生させる。魔法が得意。ドラゴンの賢者。七星とギリウムの上司。ド変態。趣味は自慰行為や覗き見。マギーホアとカミーラの情事が主なオカズ。他種族姦も試す。カミーラにめちゃくちゃ嫌われてたが、民や部下には優しく慕われている。レベル170。ドラゴンLV2。魔法LV2。

A・P・シリコン:アレキサンドドラゴン。南部方面軍将軍。巨大な地竜型。マギーホアの後輩で最年少。オカマでマギーホアが好きだった。でも兄貴肌で面倒見が良い。ノスの上司。高速変形。アタックフォルム、ディフェンスフォルム、スピードフォルムが存在しそれらを切り替えることができる。ホモなのでカミーラにアプローチはしなかったが、逆にマギーホアの寵愛を受けている嫉妬から泥棒猫呼ばわり。なので結局嫌われていた。レベル160。ドラゴンLV2。喧嘩LV1。統率LV1。

・八大精霊竜 四大ほど強くはないがそれでも強大なドラゴン。ドラゴンの地位は純粋な強さ順であるため決闘も頻繁に行われ、入れ替わりが激しい。ノスもかつては八大精霊竜だったがすぐに罪を犯して投獄された。

キャンテル:存命。氷属性のバイ・ドラゴン。ドラゴンの中では温和で社会性も高い。インテルのギャグに対しては社会人よろしく上手に対応していた。

ウラガノ:ローベン・パーンの化身なので死んでるというかもういなくなってる。

ガイスト、バーン、他3体:既に亡くなっている。

???:八大精霊竜最強。後の闘神ラムダ。

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