※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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ニャングザイ

 ──どうも。私はイヴです。魔人レオンハルト様の使徒です。主な仕事はレオンハルト様の秘書や細々とした事務作業や人間牧場全体の管理に戦争時は作戦立案から魔軍の指揮及び戦闘。それ以外でも夜伽やお使いなど様々で……というわけで休暇はあまりありません。

 

 とはいえ休暇が少ないことにあまり不満はなくて。別に一日中働いているというわけでもありませんし、疲れも使徒になったことであまりなく自由時間もしっかり頂いています。睡眠もちゃんと取れていますしご飯も美味しいですし友人もいますから本当に不満はなく充実した日々を過ごしています。

 

 そんな私は今回、レオンハルト様に従ってガイ派との戦争に参加しているわけですが……その、なんといいますか……私は予想外の休暇というか休みというか、あまり何もすることがない時間が唐突に訪れました。

 

 というのも今の私はハンティ先生が作った結界の中にいます。私を中心に囲んでいる正方形の結界は外部からの干渉を遮断するものでこれに入っている限りは外に干渉も出来ませんが、相手の禁呪の干渉も受けません。私が何かしない限りは。

 

 なので私は見ていることしか出来ません。この──

 

「ほらミシェーラ逃げるんじゃないよ!! ──アトミックレーザー!!」

 

「うわぁ!? こ、怖いです! いや違った! 怖いのだ~~~~!!」

 

「こんな時までキャラを考える奴があるかにゃ!! 禁呪ハスター!! ──うにゃ!? だからなんでお前は魔法が効かないにゃ~~~~!!」

 

 ……何とも気の抜けるようなやり取りが行われる凄まじい魔法の戦いを……。

 

 私の目の前ではハンティ先生と猫耳着物悪魔が戦っているのですが、その間に、それも悪魔側に立っているのがミシェーラちゃんです。そしてハンティ先生はミシェーラちゃんがそちらにいるにも関わらず危険な複合魔法を容赦なく放っています。あれは原子から物質を分解する魔法なので食らったら普通の生物は死にます。あの謎の異形の生物もその魔法を受けて綺麗さっぱり消えてます。ミシェーラちゃんもそれを知ってるので怖がっていますが……。

 

「な、なんと!! これも効かないのです!! ──ははははは!! ミシェーラは最強なのだー!!」

 

「キャラ崩壊が激しいですねぇ……」

 

 それすらもノーダメージで受けきったミシェーラちゃんは胸を張って高笑いをしています。びっくりしすぎてキャラがぶれぶれですが、心を読める私はミシェーラちゃんのあのキャラが演じているだけだと知っているので驚きはありません。心の中では普通に喋っていますからね。咄嗟の時は普通に喋ってしまうのでしょう。

 

「魔法が効かない……!? まさかお前ハニーと同じにゃ!? ならなんで禁呪エイボンの効果に……!」

 

「そういうことだよ!! だからミシェーラと一緒にあたしの魔法を喰らいな!! グラウンドゼロ!!」

 

「そういうことです!! ミシェーラは厳しい修行の末にハニー体質を得たので魔法は──うきゃあああああ!? き、効かないのですがあんまり強い魔法を打たれるとびっくりはするので手加減してほしいのだ……」

 

「ワースゴーイミシェーラちゃんガンバレー」

 

「イヴちゃんも応援に心が籠もっていないのだ!?」

 

 ハンティ先生の方はいつも通りのバトルジャンキーを発動しています。あの状態のハンティ先生はレオンハルト様やライゼン様など城でも限られた人物しか止められません。私も魔法はそれなりに……というか十分に大魔法使いレベルなのですがハンティ先生の足元にも及ばないので競う気も起こりません。

 そしてミシェーラちゃんは事前の実験でハンティ先生の魔法すらハニー体質で無効化してしまうのでハンティ先生も遠慮がないです。あの猫系悪魔はそれを知って驚愕していますね。まあ人間でハニー属性を持っている人なんて前代未聞ですから仕方ないです。ハンティ先生がまた複合魔法を放っていますが……この結界、本当に何も通さないんですよね……? ちょっと軋んでいるような……心配なので自前のバリアは張っておきましょうか……。

 その上で私は応援を続けます。ミシェーラには心が籠もってないと言われましたが心外ですね。心は籠もっていますよ。心底呆れの方向に振れているだけなので。

 

「どうやら周囲に転移対象がいないとダメージは受け流せないみたいだね!! なら攻撃するよ!! ──白黒破壊光線!!」

 

「なのだ!!」

 

「違うにゃ!! 受け流せない分を食らってるのにゃ!! でも禁呪の転移対象には一度選ばれてるから魔法はちょっぴり効いていて……」

 

「限界までダメージを与え続けるとダメージは受け流せないみたいだね!! なら攻撃するよ!! ──殺戮武光砲!!」

 

「なのだ!!」

 

「ええい適当に発言するにゃアホ共!! ……おそらくハニー体質に対する禁呪エイボンのバグにゃ……なら禁呪エイボンを一度解除するしかないにゃ……! クソ! これは1日に1回までしか使えないのに……もしくは──」

 

 超強力な魔法を容赦なく放つハンティ先生と合いの手を入れるミシェーラちゃん。そしてこの状況の考察を続けながらツッコミを入れる大悪魔……なんというか敵ながらちょっとだけ同情してしまいますね……。

 しかもあの悪魔はどうやらハンティ先生と同等以上の魔法の使い手のようです。ミシェーラちゃんのハニー体質に対する考察もおそらくその通りでしょう。ハニー体質は魔法をほぼ無効化にするのであって完全無効化能力ではありませんからね。おそらく禁呪とやらの対象に選ぶことは出来た。しかしそのダメージ転移とやらはミシェーラちゃんのハニー体質による無効化が上回ってダメージが転移されない……といったところでしょうか。確かに魔法の仕様にない想定外のバグみたいですね。

 

 ただ悪魔も馬鹿ではないので次に取る手はおそらく──

 

「! 近接戦!?」

 

「にゃふふふふ!! どうにゃ? これでも攻撃出来るかにゃ? 魔法は無効化されても物理攻撃なら転移できるにゃ! ニャンの趣味じゃにゃいけどこのまま──」

 

「──あ、ミシェーラちゃん。その禁呪の有効範囲は多分30メートル程なのでもう少し離れてみてください」

 

「……こうなのだ?」

 

「へ?」

 

「おらおらおら!! あたしの拳を喰らいな!!」

 

「にゃ────!!? お、お前なんでニャンの禁呪の効果を一瞬で見抜いてるにゃー!!?」

 

 ふぅ……良かった。何とか声が間に合いましたし、効果範囲も当たってたみたいですね。

 私はハンティ先生にボコボコ殴られている猫系悪魔に結界の中から一方的に告げておきます。

 

「少し観察した限りだと距離を一定に保っているように見えましたので。そして実際に近くにいたムシは大体30メートルほどの範囲でダメージが転移されて粉々になっていてその距離の外にいたムシは無事でした。それとハンティ先生の攻撃をハンティ先生自身に転移させていないところを見るにその対象からの攻撃を直接対象に移すことも出来ないみたいですね」

 

「ぐ、ぐぬ……正解にゃ……」

 

 猫耳悪魔が悔しそうに正解を告げてくる。思ったより素直な悪魔ですね。ハンティ先生に押されて動揺してるんでしょうか。どうやら魔法は得意でも戦闘は苦手みたいですね。意外と私に似たタイプかもしれません。私も戦闘はそこまで得意じゃありませんし。

 

「チッ……仕方ないにゃ……こうなったら──禁呪エイボン解除にゃ!!」

 

「よし! これで遠慮なく攻撃できるよ!」

 

「あってもなくても遠慮なく攻撃してるにゃ!!」

 

「それはその通りですねぇ……」

 

 ハンティ先生に対するツッコミも的確ですね……実際あろうがなかろうがハンティ先生の戦略はとにかく攻めることでしょうし。

 そしてわざわざ禁呪エイボンとやらを解除したということは……あの悪魔でも禁呪の発動はノーリスクではないのかもしれません。あの長い効果時間を考えると発動している間は精神的なダメージを負ってしまうとか魂が徐々に削れていくとか……そうでないなら一応発動しておいた方があの悪魔的には安全でしょうしね。

 

 ただこちら的には好都合でしょう。あの悪魔はハンティ先生だけを脅威と見ているようですが、これで──

 

「──勝機!! 見えました!!」

 

「んにゃ!?」

 

 ──ミシェーラちゃんもあの悪魔に攻撃することが出来ますから。

 

 

 

 

 

 ミシェーラ・姫原はレオンハルトの使徒の中で最も剣の才能に秀でている。

 

『お前、剣戦闘LV2あるから頑張るといいんじゃないか?』

 

『──どういうことでしょうか?』

 

『レオンハルトみたいな化け物級の才能はないが、白兎やらそれ以外の達人とは同じくらいの才能はあるってことだ』

 

『……な、なるほど……わかりました! ガウガウさんありがとうございます!』

 

『んー』

 

 それは実際にガウガウの技能LVを見通すモノクル型の魔道具によって判明している事実であり、ミシェーラは技能LVの概念をよく分かっていないが自分には剣が向いていることは理解した。

 

 そして使徒になってからミシェーラはレオンハルトに直接剣の教えを受けることになった。

 

『はぁ!』

 

『集中力が乱れると剣筋も乱れる。疲労していても集中を切らすな』

 

『はい! はぁ……はぁ……せいっ!』

 

『よし。修正はできている。……どうやらお前は返しが向いているみたいだな』

 

『返し、ですか……』

 

『ああ。白兎は圧倒的な速度による先の先や後の先が得意だが、お前は膂力と手首の柔らかさから受けてから反撃する後の後の筋がいい。反応も悪くないしな』

 

 レオンハルトの剣の教えを受けられるのは選ばれた者の特権である。

 世界一の剣士の修行に同行し、直接指導されてミシェーラは更に強くなった。その時のことを思い出す。

 

『お前の体力なら多少受けても問題はない。回復魔法も使える。その二刀を使って返し技の奥義の習得を目指せ。俺の技を1つ授けてやる』

 

『! ──ありがとうございます!! 畏れ多くもレオンハルト様の秘奥を授けてもらえるなんて……このミシェーラ、歓喜に打ち震えてます!』

 

『そうか。なら練習相手を呼んでおいたから後はそいつと──ちょうど来たようだな』

 

『ようレオンハルト来たぜ。んぐ、はぐ……』

 

『……え?』

 

 その指導の際にレオンハルトがミシェーラのためにと呼んできた稽古の相手。それは下級使徒や使徒。いつも相手をしている師匠や親衛隊の四天王。あるいは白兎や他の使徒ではなく──魔人だった。

 

『来たかガルティア。なら早速俺の使徒と剣で戦ってくれ』

 

『剣だけでいいのか?』

 

『お前の本来の戦闘スタイルだと練習にならないだろ』

 

『そりゃあそうか。ならお前らは外で飯でも食べてな』

 

 ──魔人ガルティア。

 レオンハルトの友人として知られ、魔人の中でも古株である彼はお腹に空いた穴に潜む自らの使徒達──ラウネア、タルゴ、サメザンに声をかけ、外へと出す。

 そうして異形の使徒達がガルティアの命令で森の中に散らばる中、ミシェーラはその強大な魔人と相対した。そして腰にぶら下げている特徴的なハワイアンソードという剣を構え、軽い調子で告げてくる。

 

『が、ガルティア様……』

 

『ミシェーラだったか? そんじゃま、やるか』

 

『魔人の方と稽古をするなんて……ほ、本当によろしいんですか?』

 

『ガルティアはムシ使いとしての戦い方がメインだが剣の方も達人だ。良い練習になるだろう』

 

『おいおい。自分じゃ練習にならないからちょうどいい相手を用意したってか? さすが世界一の剣士で魔人筆頭サマは言う事が違うねぇ』

 

『お前もそれを承知で来たんだろうが茶化すな。ミシェーラに受けて返す剣を見せてやれ』

 

『受けて返す剣ねぇ……ま、確かに俺は昔っから剣術馬鹿の稽古に付き合わされてたから慣れてるけどな。教えんのは得意じゃねぇから適当になっちまうぜ?』

 

『稽古相手になってくれればそれでいい。格上との戦いにはそれだけで意義があるからな』

 

『なら腹ごなしの運動といくか……よし──どっからでもかかってきな』

 

『……はいっ! では行きます! やあぁぁぁ!!』

 

 そうしてミシェーラはレオンハルトが呼んできた魔人ガルティアと実践形式の稽古を行った。

 最初から勝てるとは思っていない。胸を借りるつもりでの稽古。その心意気だったが……。

 

『対応が遅ぇ。相手の剣が来る前にある程度どうくるか予想しな』

 

『っ……はいっ!』

 

『受けるだけじゃ戦いにならねぇぜ。受けた後の反撃までセットにしねぇとな。苦し紛れでもいいから相手に攻撃して防御の番を作らせるのがコツだ』

 

『はいっ! くっ……!』

 

『あー……苦し紛れでもいいとは言ったが下手すぎると逆にカウンター食らうからな。そこは注意しな』

 

『で、ではどうしたら……?』

 

『ま、俺の場合はムシ達が隙を突いてくれたりするからなぁ……剣だけなら上手いことやるしかないな。もう一刀持ってんだからそっちを使えば良い感じになるんじゃねぇか?』

 

『もう一刀で……』

 

『受けってのは基本不利だからな。受け続けてりゃ疲れるし受け間違えりゃすぐ死ぬ。だから受ける時はどう受けるかだけじゃなく次のこっちの手番……相手をどう崩すかまでが大事だろ。相手より手数を多くするか、意表を突くか。どうやって崩すかは自分と相談しな』

 

『……どうやって崩すか………………』

 

 ──ガルティアは剣の方も優れていた。間違いなく達人と言っていい腕前。剣技に自信があったミシェーラだったが、魔人としての力の差を考慮してもガルティアの方が技量も高くミシェーラはボロボロに打ち負かされた。

 

 だがガルティアは教えるのは得意じゃないと言う割に助言が適切だった。戦士としての心構えと言うべきものをミシェーラは感じる。言葉を飾らず遠慮がない。

 かつて魔軍と人類が激しく戦争をしていた時代。己の強さで自分の国を守っていたレオンハルトと同等の王としての、戦士としての価値観。長年の経験に裏付けされたガルティアの戦いはとっくの昔に完成されていてブレがない。

 

『……1つ聞いてもよろしいですか?』

 

『ん? ああ、いいぜ』

 

『ガルティア様はレオンハルト様と稽古をしていたと聞きました。ならレオンハルト様と戦う時はどのように戦っていらしたのです?』

 

 レオンハルトが別の用事で同席していない時を見計らってミシェーラはガルティアにそう質問した。

 するとガルティアは淀みなく。

 

『参考にならねぇぜ?』

 

『というと?』

 

『あいつは剣術馬鹿だからなぁ……剣だけじゃ相手にならねぇ。昔よくやってた時はムシ達と連携して何とかしてた。俺はムシ使いだからな』

 

『なるほど……』

 

 ガルティアの本来の戦闘スタイルはムシ使いとしてのもの。剣も達人だが、本領はガルティア自身と使徒達との連携。びっくり箱とも評される手数と攻撃手段の多さにある。それを駆使してレオンハルトとの実践形式の稽古を行っていたらしい。ミシェーラは見たことがないが、おそらく凄まじいものなのだろうと想像した。魔人同士の戦闘は人間や使徒とは文字通りレベルが違う。

 

『あいつの娘の白兎も同じタイプだからなぁ。苦労したぜ』

 

『白兎ちゃんとも戦ったことがあるんですか……?』

 

『1回だけな。珍しい食材を使った弁当片手に頼まれてよ。あれは中々美味かったぜ。また食べてぇなぁ……』

 

『……どっちが勝ったんですか?』

 

『──俺が勝ったぜ。それでよ、その時の飯がまた創意工夫に溢れていて新鮮で……』

 

 ガルティアはその時に食べた食事のことを思い出して語っているが、ミシェーラとしては改めて魔人の凄さを思い知った心持ちだ。

 魔人と魔人の子なら魔人が勝つのは当たり前かもしれないが、ミシェーラにとって白兎は剣のライバルで高みにいる存在。どこか負けるところが想像出来ないでいたが、そんな白兎でもガルティアのような魔人……歴戦の戦士には及ばない。

 世界はまだまだ広く、上には上がいる。その高みに少しでも到達するには……。

 

『……もう一度お願いします!』

 

『ん……おお、いいぜ。飯休憩が終わってからな。んぐ、はぐ……この弁当も美味ぇな……ハッピーハートだったか。ミシュランの料理も美味いがこっちはこっちで味付けが濃くて旨味がガツンときていいな』

 

『もう食べてる!? ……いえ、食事も鍛錬! ミシェーラもいただきます!』

 

『お、よく分かってるじゃねぇか。ならこっちのも食っていいぜ』

 

『ありがとうございます!! いただきます!!』

 

 ──そうしてミシェーラはレオンハルトだけでなくガルティアの指導も受けて強くなった。……ガルティアに合わせて食べすぎて苦しい時もあったが、それにも慣れて多少は大食いになりつつミシェーラは遂に奥義を習得した。

 

「行きますよ……! レオンハルト様から頂いた名剣レテ! そしてハニーキング様から頂いた名刀備前長船ハニ光!」

 

 ミシェーラは腰に差した名剣と名刀をそれぞれ右手と左手に構える。それぞれレオンハルトとハニーキングから頂いた業物であり、どちらも斬れ味は鋭い。

 それらを両手に振るう剣術の正体は当然二刀流。ミシェーラの剣理はこの二刀を用いた手数と奇襲。そしてカウンターにある。

 

「──“絶剣”」

 

「んにゃ!?」

 

 ──まずは先手。ミシェーラは二刀によって己の奥義。剛剣で相手を得物ごと叩き切る技を用いて大悪魔ニャングザイを攻撃する。

 だが第壱階級悪魔は硬い。見た目でそうは見えずともやはりそこには暴力的なまでの種族差やレベル差がある。

 ゆえにダメージは僅かなものだったが……それでもミシェーラは怯んだりしない。

 

「お前も結構鬱陶しいにゃ!」

 

「無駄なのだ! ミシェーラに魔法は効かないのだ!」

 

「そうだそうだー!」

 

「僕達に魔法は効かないぞー!」

 

「!?」

 

「ハニー!?」

 

「いつの間に……」

 

 ニャングザイが魔法でミシェーラを攻撃するもミシェーラには通用しない。──それどころかいつの間にかミシェーラの周囲にはハニー達が集まってきていた。思わぬ声と姿にニャングザイだけじゃなくハンティやイヴまで驚く。

 

「なんで陶器共が集まってきてるにゃ!?」

 

「それは僕達が……仲間だからさ!」

 

「仲間のピンチには駆けつける!」

 

「遅くなったな……」

 

「何これ? 特売会?」

 

「楽しそうだから付いてきてみたけど何やってるんだろう?」

 

「猫耳だー!」

 

「猫系悪魔……いい」

 

「うん……いい」

 

「あの娘も眼鏡かけてくれないかな……」

 

 ハニー達は自由だった。ぞろぞろとミシェーラの周りに数十体……いや、100体を超えるハニーが集まり、好き勝手に発言している。

 

「ええい! 邪魔にゃ!」

 

「あふん」

 

 だがそのハニーの内の一体がニャングザイによってパリーンと割られてしまう。

 

「あ、見たぞ!」

 

「やったな!」

 

「猫耳萌え悪魔だからって許さないぞ!」

 

「その通りなのだ! 全員で攻撃なのだ!」

 

「おー!」

 

「喰らえ、ハニーフラッシュ!」

 

「はにほー!」

 

「あ゛~~~~~~!! う~~ざ~~い~~にゃ~~~~~~!! 散れ!! 集まってくるにゃ!!」

 

 そしてハニー達はミシェーラの号令の元、団結する。ハニーの放つ特殊攻撃、防御力無視のハニーフラッシュがニャングザイに殺到する。

 第壱階級悪魔の体力はハニーフラッシュを多少受けたところで削りきれないほどに膨大だが、それでも地味にダメージを与えてくる衝撃波にニャングザイは苛立ちの叫び声を上げた。更にそこにミシェーラが飛び上がり……。

 

「更に必殺の……ミシェーラフラーッシュ!!」

 

「ぎにゃ!? ──いやなんでお前もハニーフラッシュが使えるにゃ!!?」

 

「…………あれどうなってるの?」

 

「多分オリジナルの神魔法の一種……?」

 

「でも詠唱も何もしてないし魔力も感じないけど」

 

「…………なんでしょうね、あれ」

 

「…………ま、深く考えてもしょうがないし、それよりも今の内に攻撃するよイヴ!」

 

「……そうですね。今なら私も攻撃して問題なさそうです」

 

 ミシェーラもまた強力なハニーフラッシュをニャングザイに放つ。通常のハニーフラッシュよりも強力な固定ダメージがニャングザイに入る。それを受けてツッコミを入れるニャングザイ。ハンティも思わずジト目を向けて困惑し、イヴも同じような表情で疑問符を浮かべた。

 だがミシェーラとハニー達の対応に手一杯のニャングザイに向けてハンティとイヴも隙と見て攻撃魔法を放つ。前にいるのは全員魔法をほぼ無効化するハニー達なのでその魔法には遠慮がない。

 

「危ない!? な、何なのにゃ!? 何なのにゃ!? お前らアレかにゃ、ニャンの嫌がらせをするために他の悪魔がドッキリでも仕掛けてるかにゃ!? 久し振りに地上に出てみたらなんでこうウザいことばっか起きるにゃ!!?」

 

「そんなこと僕達に言われても……」

 

「ねー」

 

「その猫耳と尻尾って自前なの?」

 

「死ねにゃ!!」

 

「うわーん」

 

 ぱりんぱりんぱりん、と。遂にキレたニャングザイが魔法ではなく拳でハニー達を割り始める。

 だがハニーの数は中々減らないし、ハンティやイヴ。そしてミシェーラがニャングザイの邪魔をする。

 

「今なのだ! 二刀流奥義!」

 

「はっ! しまったにゃ!?」

 

 そして対応に追われている間にミシェーラは二刀を煌めかせた。防御しようとした相手の動き。剣や槍などの得物。それに合わせて回避不能の二刀同時攻撃を行うレオンハルトから伝授された必殺技。

 

「疑似団子斬り!!」

 

「ぎにゃっ!」

 

 ──レオンハルトの回避不能の同時斬撃。それを二刀で擬似的に再現した必殺技はニャングザイの身体を切り裂き、少なからずダメージを与える。擬似的とはいえ回避が難しい必殺技であることに違いはない。

 

「追撃するよ! アトミックレーザー!!」

 

「はい! 白色破壊光線!!」

 

「僕達もハニーフラッシュで追撃だー!」

 

 更にそこにハンティやイヴの最大火力の魔法。ついでにハニーフラッシュも撃ち込まれる。

 魔法の光とハニーの光。轟音が炸裂し、戦場を震撼させる。相手が魔人であってもこれだけの攻撃を受ければ無事では済まないだろう。

 だが。

 

「……………………」

 

 ニャングザイはそれでも倒れることなく、無言で下を向いたままその場に立っていた。

 

「さすがは大悪魔だね……もしかしてこっからが本番かな?」

 

「嬉しそうな顔で言わないでください」

 

「このまま一気に押し切ります! ──あ、押し切るのだ!」

 

「それまだ続けるんですか? ……さて、どうなりますか……」

 

 ハンティやイヴの魔法。ミシェーラの剣やハニーフラッシュをこれだけ受けても倒れないニャングザイにハンティは楽しげに笑みを浮かべ、ミシェーラは真面目だが気が抜ける様子で。そしてイヴは警戒しながら構える。

 相手は第壱階級悪魔。その強さは魔人を凌ぎ、どちらかといえば魔王に近い強大な存在だ。魔王ジルの気配と比べて多少劣っている気はしてもこの場にいる使徒の誰よりも強いのは間違いない。

 

「────あほらし」

 

「!」

 

 その魔力も魂も……存在からして桁が違う。

 故にニャングザイが心底面倒くさそうな表情を浮かべ、魔力を高めた瞬間、誰もがその本気に畏怖した。その瞳が光り輝き、周囲が膨大な魔力によって振動する。

 

「偉大なる主に頂きし我が魂の一部よ。我が呼び声に応え新たな存在として目覚めよ」

 

「っ……これはまさか……召喚……? いえ、死霊魔法……? (いえ、それとはまた別格の何か……)」

 

「これはまずいね……!」

 

 魔力の波動によって近づくことすら困難な中、イヴはその魔法とは別のその力を悪魔としての特殊な能力だと推測し、正しく警戒する。──隣でまずいと言いながらワクワクして目を輝かせてる師匠のことは見なかったことにする。いざとなったらミシェーラを連れてこの場を離れようとも考えながら、イヴ達はニャングザイが生み出したそれを見た。

 

「──にゃーん! 生まれましたー!」

 

「……へ?」

 

 ──ニャングザイの掌から出てきたふよふよ浮かぶ魂と思われるそれが魔法陣を中心に生命あるものに形作られ……そうして誕生する。

 その存在は虎縞の耳や尻尾を持つ小さな可愛らしい悪魔だった。ハンティよりも背丈のあるニャングザイより30センチか40センチほど小さい。

 そしてこの場にいる者達は皆魔法使いでもある。だからこそ気づいた。──あまりにも弱そうすぎると。

 それもその筈。たった今生まれたその悪魔はニャングザイの持つ魂から誕生した第十二階級悪魔。つまり最下層の悪魔である。

 

「──無事生まれたにゃ」

 

「はい! ニャングザイ様! ニャングザイ様から生まれた第十二階級悪魔です! 名前と命令をどうかこの私にください!」

 

「名前は……アナノトラでいいかにゃ」

 

「ありがとうございます! アナノトラ頑張ります!」

 

 新たな獣系女悪魔──アナノトラは希望を胸に抱いた。偉大なる主から頂いたこの生命。これから私の悪魔的成長物語が始まるのだと……そうして目を輝かせ、尻尾をぶんぶん振りながら命令を待つ。

 そんなアナノトラにニャングザイは最初にして最後の命令を告げる。

 

「それじゃアナノトラ。お前ここでニャンの代わりに契約を見届ける()()()()()()()

 

「はいわかりました! アナノトラ、生贄に……へ?」

 

 しかしその希望は真っ先に打ち砕かれる。アナノトラは絶望顔になった。真っ白になった。

 そして汗を掻きながら笑顔で主に聞き返す。

 

「あ、あのぉ……生贄ってどういう意味でしょうか……?」

 

「そのままの意味にゃ。ニャンの持つ魂から生まれたお前はここでニャンの代わりに地上に残るにゃ。そして適当に死ぬといいにゃ」

 

「し、死ぬ……えっと、魂の回収とか……」

 

「それは別の悪魔がするからしなくていいにゃ。お前はここでこの邪魔者の相手と、多分もうすぐ天使がくるからその相手でもして死ぬといいにゃ」

 

「そ、そんな……」

 

 ──ニャングザイは太古から生きる第壱階級悪魔である。

 ゆえにその魂も知識量も膨大であり、なおかつ極めて悪魔らしい思考回路を持つ。地上に出て契約のため力を発揮することはしても、長々と地上の生物相手に本気を出して戦ったりはしない。

 自分の力で容易く倒れない敵がいるなら、問題解決方法として容易に己の魂から新たな悪魔を生み出してそれを犠牲にする。ニャングザイ程の悪魔が地上で本気で暴れれば担当の天使が集まってきて面倒なことになるとニャングザイは判断した。

 

「わかったにゃ? お前は地上に残ることが仕事にゃ。もし運良く生き残ったら……ま、その時も地上で頑張るにゃ。じゃ、頼んだにゃ~」

 

 先程までの表面上の態度とは裏腹にニャングザイは冷静に撤退を判断する。その振る舞いは気まぐれで掴みどころがない。

 イヴやミシェーラも思わず反応が出来なかったが……しかし、ハンティだけは別だった。

 

「待ちな。逃げる気かい?」

 

「……ほんと面倒くさい奴にゃ。ニャンが地上に出てきたのはあくまで契約のため。それらは全部果たして今はアフターサービスの最中にゃ。だから頭おかしい地上の生物と長々と遊んでやる義理はないにゃ」

 

「こっちはまだ遊び足りないんだけどね」

 

「──まだ気づいてないのかにゃ?」

 

「!」

 

 途中まで嫌そうな表情を浮かべていたニャングザイは、そこで唐突に笑みを──それも人ならざる恐ろしい吊り上がった悪魔の笑みを浮かべる。

 それと同時に、先程までとは格の違う威圧感が発され、イヴやミシェーラはその重圧だけで息苦しくなった。ハニーはそれだけで割れてしまい、平気で不敵な笑みを浮かべて立っているハンティのみ。

 

「まさか本気でニャンと対等に渡り合えてると思ったかにゃ? この程度で?」

 

「……いいや? だからこそ最初っから本気で挑んでたんだよ。いつになったら本気を出してくれるかと思ってね」

 

「…………にゃるほど。その使徒としては規格外の力の強さといい本気でイカれた類の生物にゃんね」

 

 だがそれを最初からハンティは理解していたし、ニャングザイも薄々感じ取ってはいたがようやく理解する。──やはりこのハンティやレオンハルト。そしてガイなどは手に余ると。

 

 少なくともこのハンティは短い時間で倒しきれるような相手じゃない。その見立ては正しく、だからこそニャングザイはお遊びでからかうことに終始した。

 

「──ま、少しは楽しめたにゃ。本当はここから勝てると思わせといて絶望させるのがニャンのやり方だけど……こっから先は時間もかかるし勘弁してやるにゃ」

 

「そうかい? 途中、本気で苛立ってるようにも見えたけど」

 

「……どっちかは想像にお任せにゃ。さて、ニャンは帰るからその悪魔の処遇は好きにしていいにゃ。殺すも犯すも嬲るもご自由ににゃ~」

 

 一瞬だけ眼光を鋭くしたニャングザイはそれでも人好きするような笑顔を浮かべて手を振ると、その場から消えていった。

 そうして残されたのは生まれたばかりの矮小な悪魔アナノトラのみ。

 

「……す、すごかったのだ……」

 

「さすがに第壱階級悪魔は格が違いましたね……」

 

「だからこそもっと戦いたかったんだけどねぇ……」

 

「本当にやめてほしいです。……それで、こちらの悪魔……アナノトラさんはどうします?」

 

「ぴえっ!?」

 

 イヴが地面に尻もちをついてるいアナノトラに視線を向けると小さな虎系女悪魔はビクッとして怯えた。

 彼女の目にはハンティにイヴ、ミシェーラがとんでもない悪魔や魔物に見えている。自分を食い物に出来る強者。自分の命は彼女達の気まぐれで決まってしまうと。

 

「うーん……そうだね。戦って楽しめるって感じでもないし……」

 

「狩るならミシェーラが介錯するのだ」

 

「あ、あああああの!! 何でもするので命だけは!! 命だけは取らないでくださいっ!!」

 

「……って、言ってるけど……」

 

「……まあ拾って帰るには大きすぎますけど……とはいえここに置いていくのも何ですし、連れて行ってレオンハルト様の裁決を仰ぎましょう」

 

「そ、そのレオンハルト様というのは一体如何なるやんごとなき御方ですか……?」

 

「んー……あたしより強くてあの悪魔よりも強い魔人だよ」

 

「ひ、ひぇぇぇ……わ、わたしそんな人に飼われちゃうんですかぁ……」

 

「なんか可哀想なにゃんにゃんですね……あ、なのだ」

 

「もういいですよそれ。……まあいざとなったらインデックスさんに頼みますか……」

 

「い、命だけは取らないようお願いしますにゃ!」

 

 ──そうしてハンティ達はニャングザイを退け、にゃんにゃん……ではなく悪魔を拾った。

 

 




今回はここまで。ニャングザイはレベルにして300超えの大悪魔で魔法LV3の怪物でのらりくらりとする倒しにくいタイプ。そもそも真っ向勝負をしてくれない。それが多くの人にとっては救い。
次回はレオンハルトVS藤原杏。そしてGL期終了まで後2、3話くらいです。お楽しみに。

感想、評価、良ければよろしくお願いします。
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