──どれだけ苦しい道を歩いてきただろう。
「はぁ……はぁ……ぐぅっ!?」
──どれだけの痛みを感じてきただろう。
「くくく……痛いか? そら、まだまだ降り注ぐぞ」
──どれだけ人の悪意に晒されてきただろう。
『ガイ! ガイ! 大丈夫か!?』
「っ……ああ……何とかまだ──戦える……!!」
──神の管理する箱庭。その大地の上で行われる魔王ジルと魔人ガイの戦い。
奇しくも人の悪意と欲によって人生を左右された者同士の戦いは、一方的なものだった。
魔王ジルの背後から現れる無数の黒い棘はどれだけ、どれだけガイが斬り払い、躱そうが止むことはない。
際限のないジルの悪意と憎しみのように。魔王の魔力もまた膨大。無限ではないが、それに等しいもの。
「無駄なことだ……! ガイ、お前がどれだけ喘ごうと、苦しもうと……! それが報われることは決してないと知れ……!」
「はぁ……ぐっ、黙れ……」
しかしガイは諦めずに戦い続ける。
大層な意思があるわけじゃない。明確な目的が見えているわけじゃない。いつだってそうだった。
ガイはいつだってこの暗い道から外れたいだけ。苦しい道から逃れ、別の道を見つけたいだけだった。
永遠にジルが魔王として君臨するなど耐えられない。だから討つ。ジルをこの手で殺す。
人を救うという気持ちは魔人として数百年生きたガイにとっては、確かな思いとしてありつつも建前になりつつある。
2つの人格ともジルが気に入らないと意思を同じくしている。人格が絶えず変わり続けるガイにとって自分の言動を翻すことは珍しいことではなかったが、今は表に出ているのがどちらのガイなのか分からないほどに心を1つにしている。
「お前は気に入らない……だから討つ……それだけだ……」
「くく、本当に愚かだなお前は」
故に肉体は禁呪でボロボロ。身体の至るところにジルの棘が刺さって血を流してもガイは魔剣カオスを手にジルへの接近を試みて、魔法を放って攻撃を行う。
しかしどれだけ必死に戦おうと。心を統一しようと現実的に、どうしようもなくある力の差は覆らない。
「滑稽だ……その苦しみに喘ぐ表情……痛みに耐える姿……人を信じて味方をする愚昧さ……全てが滑稽で、だからこそ唆る……!!」
そして、魔王ジルはボロ雑巾のようになったガイを見下ろして悦に浸る。
脳裏に一瞬よぎるのは人間時代のこと。かつて己を苦しめた人間達。彼らが絶望し、恐怖し、泣き叫びながら己の命乞いをしてきた時のこと。
『おね、おねがい……します……ごめ、んな、さい……命、だけ、は……』
『──ああ。タダで殺しはしない。望む通りにしてやろう』
『あ……あぁ……やめっ……あああああああああああああああああ゛……!!』
その命乞いを叶え、自身が受けてきた地獄の苦しみを味わわせた時、ジルは歓喜し、救われた。
そうとも。人は報いを受けなければならない。
努力1つしないくせに欲だけはいっちょ前なぶた共。才能ある者の、人のために行動しようとする者の足を引っ張り、己だけが良ければいいと自己中心的な考えに支配されている……ムシにも劣る愚物。
強者には媚びへつらい、弱者には平気で石を投げる。だが裏ではその強者にすら陰口を叩き、その者が少しでも弱っているところを見れば意気揚々と現れて石を投げる。
安全なところから人を追い詰める能力に長けていて、そのくせ自分がやられる番になればなんて酷いことをするんだと批判し、馬鹿みたいに泣き叫ぶ。
歴史から学ばず、他人から学ばず、想像力の欠片もない。自分だけは安全だと自分すら騙す危機感の無さ。いざその時になってからようやく間違いに気づく馬鹿さ加減は本当に度し難い。
醜い。醜い──どこまでも醜い。人という生き物は醜さの権化だ。
たとえば……そう。仮に人類の歴史をもう一度始めたとしても、人間は全く同じ間違いを幾度となく繰り返すだろう。大勢の人間が死に、文明が滅ぶような事態になってからようやく気づく。
あるいは気づかないかもしれない。責任を他になすりつけることにも長けている。それで自分の行いを正当化し、やはり自分は悪くないから許してくれと盛大に喚くのだろう。
仕方なかった。どうしようもなかった。お前だって。お前が悪い。許してくれ。命だけは。
全部、全て……飽き飽きする。反吐が出る。その醜い言葉を何度聞いてきたか。何度許してきたか。
「人に守ってやるほどの価値はない。あるのは上位者を楽しませる奴隷としての価値。あるいは玩具としての価値だけだ」
ほんの一瞬。ガイにも気づかない程、僅かに目を細め、笑みを消したジルはその過去を思い出す──自分がどれだけ許しを乞うても。助けを求めても手を差し伸べなかった人間達を心底恨み憎んだ。その怒りは未だ衰えてはいない。
「──ラグ、ナロク……!!」
「…………」
ガイの奥義にして禁技。魔法と剣技を組み合わせた必殺技が放たれる。
しかしジルはそれをつまらなそうな表情で平然と見切った。ガイは強い。禁呪によるブーストもあり、魔人の強さは優に超えている。その意思も、少なくとも今は確かなものだろう。
「──児戯、だな」
「なっ……!!?」
だが、魔王には敵わない。
ガイの振るった魔剣カオス。その刃を掴んで止めてみせたジルはそのまま衝撃を与えてガイを地面に転がす。
並の人間ならミンチになるほどの衝撃だがガイはそうはならない。だが相応に身体を打ち付けてダメージは負う。骨が軋み、内臓が悲鳴を上げ、至るところから出血する。
『ガイ……!』
「っ……まだ……まだ終わるわけには……私は──俺は……」
「……ふっ、まだ続けるつもりか?」
「っっっっ──」
ジルは敢えて距離を詰め、ガイの腹を軽く蹴って更に転がす。本当に軽く、魔王の全力は決して出さず、ガイを殺さないように注意を払って。
ただそれだけでガイは悶絶し、血反吐を地面に零す。赤に染まる地面。周囲にはガイのものと思われる血が広がっている。
そこをひたひたと歩くジル。生き残っている人間はいない。魔王ジルの行く道には屍山血河が広がっている。
「くだらないな。弱すぎる。ガイ……お前は唆るが、それでもレオンハルトの足元にも及ばない」
「っ、そんなことは、わかってる……」
「自覚はあるか。……まあそうだろう。誰が見てもあれほどの男は他にいない」
ジルは多くのことに興味がない。価値を感じていない。
愛玩する相手として認められているガイなどまだマシな方。配下の魔人──忠実な下僕であるノスや他のどの魔人や使徒。魔物に対してもジルはいつでも捨てられる手駒としか認識していない。
だからある日突然その手駒が失われたところで痛くも痒くもないし、すぐに忘れてしまうだろう。手駒がいなくなったならまた作るか。あるいはもはやそれすら必要ない。
何しろこの地上で己の敵は存在しない。全てが手の内。何もかもが思い通りだ。
あらゆるものに価値がないその箱庭の中で、ジルが特別な価値を認めているのはたった1人だけ。
『──大丈夫か? ジル』
──あの時。あの光の届かぬ暗い地下で己の身体を受け止め、名前を呼んだその相手だけが……ジルにとっての特別。
その時の光景。温もり。空気の流れ。全てをジルは憶えている。
あの時レオンハルトが浮かべていた後悔とも怒りとも言えるその表情も昨日のことのように思い出せる。
魔人レオンハルトはジルの黒い手を取って魔王へと導いた。その事実を、魔王ジルは正しく認識している。
だからこそ──
「……レオンハルトの顔が見たくなったな」
ジルはふと、そう自然に口にする。
その顔はいつでも思い出せるのに、ジルはふとその男に会いたくなる。
そしてその腕に包まれたくなる。その時だけ、その時だけは──ジルは心の底から安心できる。
だから満身創痍で倒れているガイに対しての興味は薄れていく。故に彼を見下ろして魔王として告げる。
「──身体を動かすな。そのまま平服していろ」
「っっ……ぐ、おっ……」
魔王の持つ魔人への絶対命令権──それを行使し、ガイの肉体と心を縛り付ける。
それはジルにとって、終戦宣言と同義だ。ガイの反抗。それに端を発したお遊びはこれで終わりだと。
「……ああ、わかった……」
「──それでいい。……さて、レオンハルトは何をしている。あのリス……レオンハルトを呼ぶことすら出来ないのか……?」
魔人ガイが絶対命令権により傷だらけの状態で平服する。それを見届けたジルはガイから完全に視線を切って視線を北側に向けた。
そちらにレオンハルトがいる。その気配も感じている。だからこそレオンハルトを待った。あるいはこちらから出向くか。ゴミ共が残っているならその掃除を行うのも悪くはないと思い。
「っ…………」
ただレオンハルトのことだけに意識を向けている──
ガイが、その魔人の属性を魔人化させられた時の右半身……悪人格側に押し付けていることを。
そのため絶対命令権が善人格の方には効かない状態であり、ジルの背後でよろよろと立ち上がっていたことを。その直前まで──その時が訪れてもなお。
「ジ、ル……」
「何だ? まだ私に、何か言いたいことで、も……………………」
何一つ警戒することなく。完全に油断していたジルは気づかない。
ガイの声に振り返り、喋り辛くなったことで違和感に気づく。痛み。苦しみ。身体の内側から出血し、吐血して。
「あ……あ……」
「どう、だ……!!」
己の左胸。心臓──そこに魔剣カオスが突き立てられていることに。
多くの返り血がジルの胸からガイに向かって降り注ぐ。その自分を映しているであろう光景に。
「あ……あああああああああああああああああああああああああ!!!?」
魔王ジルは叫んだ。
1000年振りに感じる痛みと苦しみ。そしてその絶望に対して。
──だが、同時に。
『やった……やったぞ……ガイ……! よくやった! これで魔王は……人類は……! 後は気を抜かずにトドメを……』
「あ……あ……そう、だ、な……」
それに最初に気づいたのはジルの胸を貫いた魔剣カオスだった。
彼はジルの胸元から、返り血を浴びたガイを間近で見る。傷や痛みに喘ぐものではない。その血を浴びたことに対し。その血から受ける影響によって、己の身体が別の生物に作り変えられる──昇華されるその現象。肉体と精神を内側からぐちゃぐちゃにかき回されるかのような感覚に。
「うぐっ、あぁ……ああぁあ゛! あああああああああ゛っ!!!」
『ガイ!?』
膨大な力の奔流。
赤く禍々しい魔王の血。
心臓を、全身を押さえ、掻き狂う。
カオスにはガイが突如として禍々しい力を発し、苦しんでいるようにしか見えない。
だがそれはこれから死に沈む男の慟哭ではない。
むしろその逆──
「────────」
先程まで荒れ狂っていた禍々しいまでの膨大な力が徐々に、その1つの身に収まっていく。
世界を染め上げるほどのその慟哭はむしろ──新たな支配者の誕生。その産声であり。
「馬鹿、な……」
「……俺、は……いや、私、は……この力は、もしや──」
血塗れとなり、地面に倒れるジルも。全ての傷が塞がり、彼女を見下ろしているガイも気づく。
魔王の返り血を浴びて生物として作り変えられる。
その現象が──魔王の継承であることに。
アコンカの花が開花し、新たな時代が──魔王ガイの時代が始まろうとしていた。
──それに気づいたものは彼らだけではなかった。
「まさか……ジル様!?」
「な、ななななんだぁ!?」
「オー……このベリーデンジャラスなパワーは……」
魔王の交代。その異常事態に、特に魔人達は敏感にその気配を察する。
だが誰よりもその事態を正確に理解しているのは2人。
その1人であるジルは──未だに生きていた。
「っ……どういう、ことだ……私は、永遠の、魔王に……」
魔王の力が継承されてしまった感覚をジルは自覚する。なぜガイが魔王であった己の絶対命令権を無視してきたか──それも謎だが、状況は既にそれを通り越している。
考えるべきはそれよりも今の己とガイのこと。ジルは疑問しながらも、すぐに答えに辿り着く。
「いや、永遠の魔王だからこそ、か……私の中に、まだ血は残っている……これでもまだ、死ぬことはない……ならば、再び血を奪い返すか、すれば……!」
どれだけ人間への憎しみに囚われようとジルは賢者。
すぐに解決策を、どうすれば己が魔王のままでいられるかを導き出す。
だが優れているが故に、すぐにそれが不可能に近いことにも気づく。
「──まだ生きているのか……ジル」
「っっ……ガイ……!!」
ガイが、己を刺した魔人が──魔王になった男が、己を見下ろしていた。
魔王の力。ジルはそれが己にも5%ほど残っていることを感覚で理解する。
つまり魔王の力のほぼ全てはガイに受け継がれてしまった。傷も完治し、対する自分は胸にカオスを刺されて重傷。死んではいないだけでとてもではないが戦えない。
いや、戦えたとしても──今のガイには敵わない。
「ぐ、ああっ……!」
「……不死……なのか……? 俺が魔王になって……だが魔王の力も……まだ残っている……? 奪えない……?」
ジルは必死に魔法を放つ。先程までは通用していた黒い棘。
しかし魔王ガイには通用しない。容易に、ただの膨大な魔力だけで相殺される。
そして苦しみに喘ぐジルを見て、ガイもまた困惑しながらも状況を理解し始めた。魔王の力を、自分は継承してしまったことを。
その上でジルは死なず、まだ魔王としての力が残っていて、どういうわけか殺せない。どうするべきかも分からない。
だからだろうか。ガイは自然とそうするしかないと思いつく。第壱階級悪魔から授けられた禁呪。その中でも封印に特化したものを使うと。
「ならば封じるしかない、か……」
「っ……やめろ……! こっちに、来るな……!」
魔王ガイが悠然とジルの元へ歩いていく。
ジルは地面を這ってそこから逃れようとするも、当然逃れられる筈もない。
封じられることに恐怖し、ガイへの怒りを感じる中でジルは必死に手を伸ばす。
そしてその助けを求める声は──
「ジル様!!」
「……………………」
「……! レオン、ハルト……っ」
──確かに、その男の目に留まった。
ジルの視界の中にこちらへちょうど向かってくる途中だったその金髪灼眼の魔人。ジルが唯一価値を認める男……魔人レオンハルトが映る。
隣には驚愕し、今にも駆け寄ってくる魔人ノスの姿もあるがレオンハルトが映った以上はそちらは二の次。ジルはレオンハルトに対して手を伸ばし、声を絞り出す。
「レオンハルト……私を、助けろ……っ! この男を、ガイを、退けて、私を……どこか見つからない場所に、連れて行け……!」
「……………………」
──だが、
ただ目を伏せ、その場に立ち尽くしている。ジルの声は聞こえている筈なのに、動こうとしない。それがジルには不可解だった。
「どうした……? レオンハルト……何故動かない……私を……何故私を、助けてくれない……?」
理解が、及ばない。
ジルにとってレオンハルトは全てだ。この救いがない度し難い世界の中で、唯一レオンハルトだけは価値のある相手。
人の醜さとは対極に位置する唯一の男。己の手を取ってくれた存在。千年以上も、愛し合っていた。
だから真っ先に駆けつけてくれると。その魔人としては規格外の力で魔王ガイと戦ってくれると信じていた。
それなのに──
「貴様ッ!! ガイ……!! おのれジル様を……八つ裂きにしてくれる……!!」
「──ノス」
「何だレオンハルト……!! 今はそれどころでは──ッ!!?」
──レオンハルトは、隣にいたノスの頭をその右腕で掴むと……地面に叩きつけた。
万力のような力。大地が砕けるほどの膂力でノスを這いつくばらせる。そうして告げるは、ジルの求めていた言葉とは正反対の、低く静かな声。
「──新たな魔王様の御前だ。ひれ伏せ」
「なッ……レオンハルト、貴様……!」
「……ひれ伏せと言ったのが聞こえなかったのか?」
「ぐ、あっ、あああああああああ!!!」
魔人ノスの頭が、砕かれる。
握力のみでノスの岩のような肌を握り潰す。膨張硬化の特性で硬く膨張していくそれごと押さえつけて大地に額を擦り付けさせた。
そして、その声は普段のレオンハルトからは考えられないほどに、
いや、その表情も。新たな魔王様にひれ伏せという言葉とは裏腹に、眉間に皺を寄せて何かに苛立っているようだった。
「レオンハルト……」
「──魔王ガイ様。我ら魔族一同、御身に平服し、忠誠を誓います。何なりとご命令ください」
魔人筆頭にして魔軍参謀であるレオンハルトが魔族を代表して新たな魔王ガイに宣誓する。
その言葉と共に後ろからドタドタと慌てたようにケイブリスがやってくる。いつの間にかガイの使徒であったバークスハムが控えている。レオンハルトの使徒達が集まり、レオンハルトの背後で膝を折って臣下の礼を取っている。
それに対してガイは困惑しながらも受け入れる他ない。己が魔王になり、彼らの主になってしまったことを。
だがガイはレオンハルトの何とも言えない表情の正体に気づかない。周りの魔人や使徒も、誰一人、あるいは察することは出来ても正確なところまでは理解出来ない。
だが、ジルだけは疑問しながらも理解していた。
(何故……何故だレオンハルト……私は、お前は、私を想っているんだろう……なのに、また私を1人にする気か……!?
──ジルは思い出す。人間時代、確かに自分とレオンハルトは惹かれ合っていたと。
そしてジルは知っていた。レオンハルトが、敢えて己の手を取らずに果実が実る時を待っていたことを。
それが魔王に覚醒させるために必要なことだったのだろうと推測していた。おそらく魔王ナイチサの命令か、それ以外の理由で。
だからレオンハルトは時折、自分に対して罪悪感を感じている素振りがあったのだ。あの時救ってやらなかった負い目がレオンハルトにはある。
そしてジルはそれを許した。レオンハルトであれば、と。信じていた。信じたかった。
それがジルにとって唯一の──人間らしい感情。憎しみに支配された人格に残っている人間時代の名残である。
だから……そう。だからジルは理解している。
(──ああ……そうか。レオンハルト……お前はまた私を置いていく……そんな自分に苛立っているのだな……)
レオンハルトの苛立ちの理由。それをかなり正解に近いところまで導き出す。
ジルはそれを思い、満身創痍ながらも笑みを浮かべた。今まさにガイによって己の封印がなされようとする中で、ジルはガイではなくレオンハルトだけを見てレオンハルトのことだけを考えている。
(くく……しょうがない奴だ…………いいだろう……私は死なない……お前がそのつもりなら、私もまた諦めるつもりはない……煮え切らない態度を取るお前を……絶対に手に入れてやる……!! 何百年、何千年掛かろうがな…………)
──ジルはレオンハルトを愛している。
それはいっそ病的なまでに。偏執的に。執着している。
この世でたった1人の価値ある男。
それを
(忘れるな、レオンハルト……私はいずれ、お前の前に現れてやる……
そうして5%の魔王の血を持つ魔王ジルは──新たな魔王ガイの手によって魔剣カオスと共に封印されることとなる。
──アコンカの花が咲き誇り、世界に伝える。
新たな魔王の名はガイ。GL1004年はGI01年となり……新たな時代が今ここに始まったと。
魔王戦争の終結──魔王ジルと魔人ガイの戦いはこうしてガイが魔王を受け継ぐことで決着した。
「うむ……よもや本当に魔王が……しかしどうするかのう。とりあえず城とやらへ向かってみるか……ハメ潰しセックスがまだじゃしのう……」
戦争は多くの人間と魔物の命を奪いながらも、すぐに色褪せていく。
この時代で人の死と嘆きは珍しいことではなかった。
「俺も……もうじき死ぬか……」
「──およ? どうしたの? そんな精根尽き果てたみたいな顔しちゃってー」
「! お前は……魔物か……?」
「私ー?
──運良く生き残る人間もいたが、多くの場合は破滅する。
「──ご苦労だったね、インデックス……それとニャングザイ。君はどうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもないにゃ! インデックス! お前の友人だか何だか知らないがあいつ頭おかしいにゃ!」
「知っています。ハンティは頭がゴリラなので。私の友人が苦労をかけてしまい申し訳ありませんでした」
「次に会ったら容赦しないって言っておくにゃ! それとあの変なハニー属性の女も──」
「まあそれはともかくだ。インデックス、今回の魂で規定量が溜まったからね。プロキーネ様に代わり通達しておくよ──第四階級悪魔インデックス。君を第参階級悪魔へ昇格させる。領地を与えるから悪魔界で統治に励むといい」
「……ありがとうございます(これでようやく……)」
──人間以外の者達もまた時代の変化を知り、僅かに活気づく。
だが総括して人にとって厳しい時代であったことは間違いない。
そしてその時代の始まりから終わりまでを見届け、導いた存在こそ。
「……………………」
──魔物界の英雄。魔人レオンハルトであった。
紅魔城の玉座の間。
普段はあまり使わないその大広間に明かりは灯っておらず、また誰の気配もない。
その場所で俺は……振り返っていた。
──俺は……最初から全て覚悟していた。
あの時、魔王ナイチサから命じられた時から。新たな魔王を捜索し、美しき人間の賢者……ジルと初めて出会い、声を交したあった時からこう思った。
──この女を俺はこれから見捨てる、と。
それは揺るがぬ決定事項だった。魔王の継承者が他にどこにいるかも分からない。そもそも別にいたとしてそれを選んでしまえばただでさえ収集がつかない程になっている不確定要素も増えてしまう。
そもそも目の前の女を選んでしまうのが自然なことだ。ならばあえて救ってやる必要はない。
「そう考えて……俺は手を取らなかった筈だ」
そう。その意思を俺は自ら決定した。
だというのにだ。二度も、俺は自らに苛立ちを憶えた。
一度目はジルが人間の時に。あの地獄のような状況を見過ごしたことに。
そして二度目は……あの時。ジルが俺に手を伸ばし、助けを求めた瞬間に。
──軟弱にも、
「馬鹿か、俺は……!!」
抑えきれない苛立ちが力に、周囲を跪かせる神気となって周囲を震わせてしまう。
ここを選んだのは失敗だった。どこにも発散することが出来ない。城の中でなければ、俺は周囲の物を破壊してその苛立ちを発散させることが出来ただろう。
しかしそれすらも己の意思の脆弱さが招いたこと。甘んじて受け入れるべきだ。
「今更ジルを哀れに思い、ジルを救わなかったことを後悔するなど……甘すぎて反吐が出る……!!」
そしてこの苛立ちにすら憤る。
──馬鹿が。何を怒っている。苛立つくらいなら最初から救え。大事だと僅かながらでも思ったのなら守れ。中途半端な対応をするな。
お前は何のために魔人になった? ──大事なものを守るため。強者として傲慢に、己の思い通りに人を救い、人を切り捨てる。それを全うするための力だろう。他のことを考慮して救わない選択を選んだのは、ただ俺が弱かったからだ。
大事なら何が何でも守る。そうでないなら非情に切り捨てる。徹底するべきだ。
ジルを御しきれるだけの力を持っていたのなら──ジルは俺の女だと傲慢に堂々と言えるだけの意思を解放出来ていればあの継承の後にでも俺はジルを救えただろう。
なのにそれをしなかったのは怠慢でしかない。相手がジルだから、というのは言い訳でしかない。
「思えば……俺は甘すぎた」
そう……己の魔人としての在り方。その意思と欲をあまりにも抑えすぎた。
きっかけは分かっている。約2000年前に……あいつを、スラルを失った時からだ。
俺は魔王の忠実な下僕として。魔物の統制を行うため秩序の鬼となった。
己の破壊衝動をコントロールし、魔王の機嫌を損ねないため。他にも様々な理由を付けて我慢してきたが……そうである必要はない。
魔人として、個人として絶対の力を持っているならば、それに見合った振る舞いをすればいい。己に嘘をつく必要もなかった。
「この程度であいつは救えない」
故にもっと力をつけろ。
そして力に見合った行動を取れ。己の力ならどこまでもいけるという絶対の信頼こそが目的を成し遂げる原動力となる。
「俺は魔人だ。最強の魔人であり、人類最古の王であり魔物界の英雄だ。──それは当然のこと。傲慢だが、確かに俺はそう思っている」
不必要な謙虚は弱者をつけ上がらせる。それは魔王や神に対する上位者への警戒とは別の話だ。
思えばメディウサがそうだった。俺が甘かったからメディウサのように増長するものが現れた。
ルナ……メディウサの牧場から俺の城に送られてきた女で、メディウサに妹を殺された女を不幸にした。
少し前にはフリードという俺を裏切った人間もいた。あれも俺が甘かったからだ。上位者として優しくしすぎた。
そしてだ。最後の最後でジルに対する未練を中途半端に自覚してしまった。
「傲慢な自己に嘘をつく必要はない。見え方を気にして不必要に取り繕う必要もない」
優しさや思いやりを捨てるのではない。悩まず、憂いを見せないことでは決してない。
ただ不必要な謙虚さや遠慮を捨てろ。配慮するべきでない相手にまで配慮する必要はない。自分は上位者であり支配者だ。
そしてこれは反省だ。魔人として、己を律しすぎたこと。
魔人筆頭として魔軍参謀として魔物の秩序を布くことに固執することで俺自身が不自由になっていた。
スラルがいなくなってから鉄の仮面を被りすぎた。あの時の傷が俺に変化を生んだ。
それ自体は悪いことではないが、そうではない。己を理性の檻に閉じ込めずとも説得力は生まれる。大事なものは守ることはできる。
強さと意思──それさえあればブレることない絶対者として在れる。
「思えばジルはブレなかった。人間への憎しみも消えることはなく、その振る舞いは暴君でも確かに王だった」
あの絶対者としての振る舞い。人に対する扱いはともかくとして、王としての在り方は見習うべきところが確かにあった。
ジルの恐怖の前にあらゆる生物は頭を垂れた。弱者に対する絶対的な姿勢は魔物や人間に対する秩序となる。
ならばそれも俺は糧とする。
この先は魔王ガイの時代。2つの顔を持つ一貫性のない王の時代だ。
俺はそんなガイを支えなければならない。ガイを少なからず知っているからわかる。ガイが迷えば下にいる者達が不安になるように、俺が迷えば俺の下にいる者達も不安になる。
ならば、ガイの側にいる俺はより絶対である方がいい。
「俺ももうブレない。より強靭かつ絶対的な支配者として……己の力に見合った傲慢さでこの時代を導いてやる」
──天上天下唯我独尊。己の欲と我に忠実に。
迷う必要はない。この先はもう人間の時代でありより混沌とした激動の時代となる。
「俺の女や付き従う全ての者達に、幸せを与えてやる。そしてガイ……お前を導き、
玉座から立ち上がり、俺は新たな時代を歩き出す。
魔人筆頭として。魔軍参謀として絶対者である俺は千年前よりも更に強く在る。
改めて定義は済ませた──
世界をこの手に。愛するものは腕の中に。
そしてただ時代を闊歩するのみ。
「──レオンハルト様。早急にご報告したいことが」
「……イヴか。どうした?」
──だが、
「先日魔人になられたレーモン・C・バークスハム様伝手に魔王ガイ様がレオンハルト様にお話と謝罪したいことがあると。白兎さん…………
「──何だと?」
──新たな舞台の幕開けは、混沌から。
波乱の幕開けを予感させる始まりに、俺は憂いを感じながらも前に進んだ。
これにてGL期は完結です。本当に長らくお待たせしました。
GL期は人間にとっての暗黒時代であり魔物にとっての黄金時代。多くの者達にとっての苦しい時代でしたが、ある意味で安定した時代でもありつつ。人の業によって始まり、人の業で終わった時代なのかなと。
改めて見返しつつここまで書いてきて思ったのはやはりランスシリーズが好きなのと自分の熱量が凄まじいなと自分のことながら思いました。そしてこんな馬鹿げた量の二次創作をここまで追ってきてくださっている皆さんには感謝の念が尽きません。尊敬すらします。本当にありがとうございます。
そして次回からは遂にGI期に入ります。最初は人類解放編。メインヒロインはあの娘です。そこから人類の歴史が始まり、原作キャラや原作に関わる国家も増えてきます。最初の見どころはやはり聖魔教団。魔軍相手に32年も戦争をした超大国。ルーカ・ルーンと24人の魔法使いと闘神の設定も考えてますのでお楽しみに。
それとナチュラルにエロシーンも入れていきます。別にガッツリエロばっかりになるわけじゃないんですが、やはりランスシリーズなので自然な感じで入れていければいいなと。ランスが後に出てくるための練習も兼ねて。
ヒロインは毎編メイン1人にサブで2、3人をクローズアップする感じのこれも原作ランスをリスペクトしつつ考えてます。ここまで付いてきてくださってる皆さんに勿体ぶるのもアレなのである程度開示すると。
人類解放編:シルキィ カミーラ ??? ???
聖魔教団編:ハンティ ???
三大国建国編:ワーグ ホーネット ???
ランス誕生編:女戦士 ???
と、予定ではこんな感じ。でもいつものことだけど考えてる内に増えたり変更する可能性はあります。GI期なんで原作キャラは多めですが、いつものことながら原作から設定だけはあるけど詳細は詰められてない(藤原石丸やクエタプノのような)半オリジナルのキャラもいます。魔物大将軍や人間側勢力を代表にオリジナルのキャラも当然います。まあオリキャラの部分も面白くなればいいなーと思いつつ、ちょっと反省じゃないですけど子供達に関しては白兎以外は表舞台にはあまり出てこないかなって。二部用のキャラなので脇役というか必要な時以外は隠れててもらおうかなと。まあ出るところには出るんですが。そもそも設定が少ないGL期だから出せたけどGI期はそこまで掘り下げてる余裕がないかなってのが本音。ただ白兎こと藤原白兎はガイにとっても重要なキャラなのでザビエル枠を使います。別に封印されて復活してを繰り返すわけじゃないけどね。
というわけで長くなりましたが、ここまでお付き合い頂き改めてありがとうございました。次回はGI期で魔王ガイのお話が始まります。NC期の終わりと違って戦争後にすぐに移行してるため、戦後処理と新たな体制に関するお話になりそう。お引越しもあるよ。GL期のキャラプロフィールも載せる予定。
それと最後にジル様はヒロインです。それでは次回もお楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。