魔王ガイ
──GI1年。
その時代はあまりにも唐突に訪れた。
魔物も人間も、あるいは神でさえその結末と始まりを想像していなかっただろう。
魔王ジルという女性はそれほどに魔王として安定した統治を行っていた。
人への深い憎しみを持つジルは人を苦しめることに特化した魔王だった。
全ての人間の国家を破壊する国狩りに始まり、人間を効率よく産ませて苦しめる人間牧場を大陸各地に設置。ほぼ全ての人間を管理下に置いて魔物の黄金時代を築いた。
更に神との謁見を行い、永遠の魔王となったジルに敵はいないはずだった。
「え!? 魔王様が!?」
──誤算は1人の男。新たな魔王となった魔人。
「ああ。新たな魔王様に殺されたらしいぜ……」
「魔王って死んだら別の奴が魔王になるんだな……」
「ジル様……魔王様を殺すなんておっかねぇ……」
「新たな魔王様はガイ様って言うらしい」
「知ってるよ。あの変な声? が言ってただろ」
「魔王様が代わったら俺達どうなるんだ?」
「さあ……」
アコンカの花は地上に生きる全ての生物に時代の到来を告げる。
人間牧場で人間をいつも通り苦しめていた魔物達にもジルが死んだらしいことは新たな魔王が誕生したことと合わせてすぐに伝わった。
──新たな魔王の名はガイ。
魔人四天王の1人で人間の魔人。魔王ジルと袂を分かち、つい先日まで人間を率いて戦争をしていた男である。
彼が魔王になったことで何が変わるのか。何が起こるのか。
今はまだ誰にも分からない。
当の魔王本人にさえ──
「……………………」
「ガイ様」
大陸東部、魔王城。
かつてジルが使っていたその城の別室。大きな窓がある貴賓室に、1人の異形の姿があった。
左半身は人の姿を持つ美丈夫。右半身は角や人ならざる肌や瞳の色を持ち、マントに身を包むその男はカーテンを締め切り、暗い部屋の中で窓の方を向いたまま立ち尽くしている。
その背中はどこか失意に塗れており、その身から漏れる隠しきれないほどの圧倒的な力の気配を漂わせながら、どこか迷い子のような雰囲気を醸し出している。
あるいは単純に陰気と言い換えてもいいだろうが、どんな空気を纏おうが彼の持つ魔の力はこの地上のあらゆる生物を凌駕する圧倒的なものであり、誰も彼には逆らえない。
魔王ガイ──魔王ジルを魔剣カオスで突き刺し、その後魔王の返り血を浴びて魔王になったその男は何をするでもなくそこにいた。
つい先日まではジルを封印するために1人で行動していたが、それが終わってからガイはこの部屋に四六時中引き籠もっている。
地上を恐怖に陥れる魔王にしては大人しい。いっそ不気味に見えるほど静かだった。使用人に食事を運ばせているが、それにもほぼ手をつけない。ずっと窓や鏡を往復し。そこに映る自分の姿を見ては目を逸らす。
そしていつしかカーテンを締め切った。蝋燭の明かりこそ灯っているものの部屋は薄暗い。
そしてその薄暗い部屋に立ち尽くす魔王ガイの背後には、膝を折る1人の魔人の姿があった。
「ガイ様。ご報告に上がりました」
「……………………」
「何体かの魔人がガイ様にお目通りを願っております。如何しますか?」
「…………今は誰にも会わない」
「は。ではそのように通達しておきます」
白い長髪。マントと紫色の鎧に身を包む剣士風の美男子──レーモン・C・バークスハム。
彼は少し前まで、魔人ガイの使徒でありガイと共に魔王ジルとの戦争に参加していた。
つまりガイにとっては忠実な下僕。魔人時代から信頼の置いていた彼を魔王になるなりすぐに魔人にしたのも必然である。
今のガイは誰にも会いたくない。何もしたくはない。
だが間に入る者が必要であると判断したガイはそれを担わせるためにもレーモンを魔人にした。
もっとも今のガイであればそんな理由がなくとも断りはしなかっただろうが、レーモンにとってはまた主の下で働けることに複雑な喜びを感じている。
複雑であるのはガイが苦しんでいることを察しているから。
そしてそれを己が少なからず導いた一面があるからこそだろう。主に対する背信──それを自覚するレーモンはガイと同じように表情を消しながら今日もガイの側に控える。
「ガイ様。食事を持って参りました」
「……………………」
だがガイから何か話しかけることはないし、レーモンもたまに声をかけても反応を返すことは殆どない。
まるで病人。鬱病にでもかかってしまったかのようだが、それは間違いではない。
今のガイは魔王の血による破壊衝動に苛まれながらもそれらを抑え続けている。
ガイを知る殆どの者も知らないガイの二重人格──人間時代から精神に影響を与える禁呪を扱うことを可能とし、魔人時代は絶対命令権の行使すら無視することが出来たその体質が、破壊衝動のコントロールを可能としていた。
(私が……魔王になった)
だが破壊衝動に身を任せない分、ガイは悩み続けている。
魔王ジルを倒すために全てを賭した。多くの人間を死なせた。魔物も死なせた。
にも関わらず魔王ジルを完全に殺すことは出来ず、更に自分が新たな魔王となってしまった。
その責任をガイは考える。ガイにとっては答えの出ない問答。哲学のような状態に陥っている。
──己は何だ? 魔王だ。ならば魔物を支配し、人間を苦しめるべきか?
いや人間を苦しめたいわけじゃない。だが、人間に安息を与えてはいけない。人間はある程度苦しめるべきだ。ならばどうやって? 己が力を振るうか? そうすればいい。そんなことはしたくない。
人間をどうする? わからない。人間は……どうやって生きるのだ? 人間はどうすれば救われる? 魔物に人間を苦しめないように命令する? いや、そんなことをしてもきっと何も変わらない。人間にも悪意はある。きっと人同士で争い合う。何も変わらない。
──魔王ガイは陰鬱とした思考を続ける。だが一方で、魔王の破壊衝動の影響でどちらの人格も人間に対する考え方が変わっている。
(人間は管理し続けるべきだ)
(そんなことはどうでもいい。やりたいようにすればいい)
便宜上、善人格と悪人格と表現するその2人は、それぞれ魔王然とした秩序と混沌の2つの考え方を持っている。どちらが好みか、と言い換えてもいい。
それで言うなら悪人格は善人格ほど悩んではいなかったが、それでも自分が魔王になったことでどうすればいいかという問いに対する答えは善人格同様出ていない。
だからこそ互いに堂々巡りだった。魔王の破壊衝動も相まってガイはこの部屋から出ることが出来ていない。1つの行動を決定付けることも今のガイには難しい。
部屋を出て好きにしようかと思う自分。やっぱりやめようと思い留まる自分。それらが一瞬の内に何回も入れ替わる。
ガイの精神は魔王となって更に安定とは程遠い状態になっている。そしてだからこそガイは無言のまま微動だにしない。頭の中で魔王の血の影響を受けた2つの人格が相争っている状態であるからだ。
ただ今はその陰鬱とした思考が深く、善人格が優勢である。
それが悪人格に傾けばようやく魔王ガイは行動を起こすだろうが、それまではまだしばらく部屋の中に居続ける──ガイの腹心レーモンもまたそう判断していた。
だが一方で、レーモンはこの状況はすぐに変化すると読んでいる。
故にレーモンはあるタイミングで適当な理由を付けて部屋を出た。それに対してガイは何も答えないが、それで構わない。次に声をかけるのは自分じゃなくていい。こういう時に必要なのはただ側に控えるだけの忠実な配下ではなく──
「──ガイさん」
「!」
──大事な友人であるべきだからだ。
魔王ガイは己の背後からの声に反応し、振り返る。いつもの声、レーモンの声でないことはすぐに分かった。
それどころか声の正体すらもすぐに特定する。思い浮かぶ。だからこそつい反応してしまった。
振り返ればそこに小柄な体躯。真っ白い雪のような髪を2つに結び、父親と同じような赤い瞳を持つ──JAPAN風の巫女服に身を包んだその少女、白兎がそこにいた。
「白兎……」
「…………ええ。お久しぶりですね、ガイさん」
ガイが驚きに目を見開くと反対に白兎は目を閉じたまま微笑を浮かべる。
白兎は盲目。しかしそれを補って余りある超感覚を持つ。
色以外は見えすぎるほどに見えていると聞いている。だからきっと、己のことも理解しているだろうとガイは思った。
「しばらく会わない内にまた変わりましたね」
「……ああ……白兎。私は……」
「──ごめんなさい」
「……は……?」
だからガイは醜くなった己を恥だと思い、どう反応すればいいか分からなくなった。
魔王になってしまったことを謝罪するのも違う気がする──そう思った直後、白兎が頭を下げて謝った。
小さな頭を下げる白兎を見て面食らうガイ。そうしてやはりどう反応すべきか、レスポンスが遅いガイは白兎の続く言葉を聞くことになる。
「ガイさん。わたしは……あなたが戦って苦しんでいたことを知りませんでした」
「……………………」
「アコンカの花……でしたか。あの花の声でわたしはガイさん。あなたが魔王になったことを知りました。聞いた時はさすがに驚きましたし、すぐに近くにいた兄弟達を締め上げて……こほん、ではなくて問い質し……あなたがずっと戦っていたことを知りました」
「……ああ」
「まったく、超感覚が聞いて呆れますよ。4年ですよ? 4年もわたしはこの状況を知らなかった。家の人が上手に隠していたことなんて言い訳になりません。普通の人よりも聞こえるこの耳も何の意味もない。宝の持ち腐れとはまさにこのことですね。笑ってくださって構いませんよ」
「…………それは……仕方ない。それに……」
と、そこまで聞いてようやくガイは言葉を紡ぎ出した。善人格も悪人格も同じ気持ちだったからこそだ。
「……お前が巻き込まれることは、私も望まなかった」
「……その気持ちは嬉しく思います。ですが──それとこれとは話が別です」
しかしそのガイのようやく紡いだ言葉でさえ、白兎はきっぱりと反対する。
白兎には白兎の想いがあった。ガイは陰鬱とした思考に支配されているがゆえに気づくことに遅れる。そう、白兎は──ずっと昔から……。
「──友達が辛く苦しんでいる時に側にいてやれないで……助けてもあげられなくて……それのどこか友達ですか」
「────」
──
「だからごめんなさい」
──ガイは思い出す。
「わたしはガイさんを助けてあげられませんでした」
──子供の時。居候したカラーの里で初めて彼女に出会った。
「わたしがいても何も変わらなかったかもしれません。でも、一声かけることすら出来ませんでした」
──軽く指導をつけられ、強さの理由を知り、自分もまた強くなれると励まされた。
「ですが……今からは違いますし、遅くありません」
──そうして友達になった。
「ふふん。ガイさんはどうやらあの頃と比べてかなり強くなったみたいですが、精神は未熟と見ました。──ですが安心してください。わたしはこう見えて超強いので友達を守るくらいは朝飯前です」
「ああ……」
──そして大人になってからも……魔人になってからも、彼女は変わらず友人でいてくれた。
その言葉がどれだけ有難かったか。ほんの僅かでも気が楽になったのだ。善人格は白兎の言葉に救われた。
そして悪人格でさえ、悪い気はしてなかった。
素直に認めはしない。口にはしないが、それでも白兎は友人だろう。一緒にバカをやったこともあり、これで意外とウマが合う。
「魔人だろうがたとえ魔王だろうがガイさんを傷つけるならわたしが成敗します。……まあそうでなくても今まで通り普通に声をかけたり遊んだりするくらいは構いませんよね? というか駄目といっても聞きませんよ! わたしの性格はガイさんも知っていますよね?」
「……強引、だな」
「一度決めたことはやり通すんです!」
──ああ、そうだったな。
ガイは思い出す。白兎の強さを。
そして、だからこそその輝きを消してしまう可能性があったとしても──彼女が欲しくなった。
「…………白兎」
「!」
ガイは己の血を、力を練る。
理性は止めている。警鐘を鳴らしている。
だが一方で、憚るものを取っ払い、己の側に控えるものとしたい欲求がある。
「ガイさん。それは…………」
「……これがどういう意味を持つかは、わかっているな……?」
「……はい。見るのは初めてですが、よく知っています」
かくしてその天秤は、悪へと振れてしまう。
魔王として欲に忠実に。欲しいものを己の血で染め上げる。
「白兎。私は、お前の自由を奪うことはしたくない。君には自由に生きてほしい」
「……はい」
「だが、君は俺の血を受け取ってほしい。──配下として友人として、私の近しい存在でいてほしい」
だからガイは魔王として友人として提案した。
「……受けてくれるか?」
「──無論です」
そして白兎はガイとは違い、一切の迷いを持たなかった。
この場にやってきた時点で白兎には覚悟があった。何があろうと友人の力になろうという覚悟だ。
だからそれが友人の助けになるのであれば──
「──魔王ガイ様」
白兎はその場に膝を突く。
臣下としての礼。それを取りながらも、白兎は見失わない。
「今この時よりわたしの忠義を捧げます。ふ……それと友人として、ガイさんを見守ってあげます。だから感謝してください」
「──ありがとう」
──血の契約は人を、生物を新たな生物に昇華させる。
そうして藤原白兎は魔人になった。
──魔王城の廊下では重く苦しい音が響いていた。
轟音。そして色濃い魔の気配。
時折閃光が起こり場内を照らすも、それが連続することはない。赤い血が窓に飛び散り、廊下を汚す。
そしてその中心にいたのは、
「──もう終わりか?」
「ぐ……っ、う……はぁ……はぁ……」
──圧倒的な暴威を纏う金髪灼眼の魔人だった。
その魔人を知らないものはいない。魔物どころか人でさえ、その魔人の名は伝承にて語られる。
人類が生まれた太古の時代。最初に出来た文明。集落に戦士として頂点に立っていた剣の王。
剣の神と称され、その剣は大地を山を海を、空を斬り裂いてしまう世界最強の剣士。
たった1人で幾つもの国を落とし、魔物の黄金時代を築いた魔物界の英雄。
その名を呼ぶのは地に這う魔人レイ。
「レオン……ハルト……てめ、ェ……」
「早く立て。待ってやる。せっかく喧嘩を買ってやったんだ。これで終わりじゃつまらないだろ?」
「っ……舐め、やがってッ……!」
怒れる雷とも称されるその魔人。レイは放電体質を持ち、身体から雷を放つことができる。
人間時代から他者を憚らないだけの腕っぷしを持ち、近距離での殴り合いにおいて絶対的な優位性を持つ魔人レイは魔人の中でも好戦的だ。
少しでも苛つけば他者に喧嘩を売ることを厭わない。
だからこそ彼が姉御と慕う魔王ジルが崩御してから。そして彼がペテン野郎と嫌った魔人ガイが魔王になってから──レイは非情に苛立っていた。
それこそレオンハルトに対していつもより更に喧嘩腰に接してしまうくらいには。
だがレイにとってその態度は程度の差はあれいつも通りである。だからこそ、ある意味では喧嘩を売ったレイの方こそ意外に思ってしまうほどに──魔人レオンハルトはあっさりと喧嘩を買い、そして。
「ハ──弱いな」
「ぐ、おおおぉおおお……!!?」
──魔人レイを、容易く半殺しにした。
そして嬲っていた。その雄としての完成形の1つとも言えるほどに整った顔立ち。鋭い目を持つ魔人の表情は明らかに興じている。不敵な、好戦的な笑みを浮かべ、魔人レイを一振りで、またしても血に染めた。
その右手に持つのは赤い刀身を持つ魔剣オル=フェイル。
身の丈を超える長さを誇るその魔剣の斬れ味は魔人の肌を斬り裂くほどに鋭い。
しかしそれでも魔人に幾つもの血の線を作ることが出来ているのはレオンハルトの絶技によるものが大きいだろう。
「どうした? 立て。立って俺をもっと楽しませろ。お前はそうやって暴れることが取り柄だろうレイ」
「っ……ぐ……ぁ……」
「……ハッ……もう終わりか。つまらんな」
「く……そ、が……」
レオンハルトはボロ雑巾のように血に濡れたレイを冷たく見下ろし、吐き捨てる。
それに対してレイは悪態をつきながらも、そのレオンハルトの様子に変貌を感じていた。
ただそれは強さじゃない。強さに関してはレイは以前から認めている。今も変わらない。その強さは他の魔人とは隔絶しており、圧倒的だ。
だが違う。以前とは明らかに。
何よりもその気配が。以前よりも強く、他者を畏怖させるものになっている。
その身に浴びた時点で死を連想させてしまうような痺れる圧力。それにレイはよく覚えがあった。そう、それはまるで。
──ジルの、姉御みてェな……!!
そう──レオンハルトの放つ魔の気配は、
勿論あそこまでではない、とは思う。厳密には少し違うところもある。
だがレイをして、ジルを連想させるほどであることは確かだ。
「俺がお前の喧嘩を買ったのがそんなに不思議か?」
「っ……」
今もそう。
レオンハルトはレイに近寄り、その前髪を掴み上げて顔を無理やりあげさせる。その上でレイの疑問とは少し違うが、レオンハルトは己の変化について答えた。
「だがこれが本来の俺だ。俺も実のところ今までの態度を反省していてな……己を取り繕わず、もっとちゃんと分からせてやるべきだと思ったんだ──俺という魔人について」
以前と同じ将器を感じさせる魔の気配を持ちながらも、同時に敵対者には容赦はしない冷徹な、それでいて戦いを好む魔人としての顔。
己に対する圧倒的な自信は、あるいは新たに魔王になったガイよりも王を感じさせる。
「レイ……お前が今まで生きてこれたのはただひとえに俺の気まぐれだ。余りにも俺が優しすぎて、そのせいでお前の増長を許してしまった。許せ。もっと早くこうしてやれば……お前が分不相応な態度を取ることもなかった」
「……ぐ……」
レオンハルトは恐怖を放つ。
それは1000年間もの間、魔王ジルの最も近くで人間を苦しめる差配を行い、その術を学んだ魔人の持つ自然なオーラ。魔気とも言えるもの。
故にジルと似たものを感じることに何の不思議もない。あの時代の、半分はある意味でレオンハルトが作り上げたものだ。
魔物達に魔物界の英雄だと称えられているのは伊達ではない。時代に君臨し続けたジルとは別。レオンハルトは国狩りを主導して最も多くの人間の国家を破壊し、人間牧場というシステムも作った。
全ての魔人を統べる魔人筆頭にして、魔軍を動かし大陸を差配する魔軍参謀。
誕生してから常に魔王の傍らに居続ける最強の魔人の暴威が、今までの、あの程度の筈がなかったのだ。
その内にある圧倒的な力。破壊衝動も含めた魔の気配をこうして表に曝け出せばレイを恐怖させることすら容易い。
破壊衝動を抑えればその力の気配とカリスマで人を従わせる王のように。
破壊衝動を曝け出せば恐怖を与える暴君のように。
人類最古の王は既に至っていた。
魔人──その名の通り、魔性を持つ人。
即ち人を超えた者。
「だからレイ。お前を許してやる。そして、何度でも俺に挑んでくればいい。これから俺はお前達が喧嘩を売ってきた場合、それを断ることはない」
故にレオンハルトは己を偽らないことを宣言する。
「まあ忙しい時は別だがな。──とはいえ覚悟しろ。俺の大事なものを傷つけたり、舐めた真似をする奴には必ずツケを払わせる。せいぜい俺の怒りに触れないよう気をつけて生きるんだな」
そうすれば相応には扱ってやる、と。
そう言ってレオンハルトは髪を掴んでいた手を離し、レイに背を向けて歩き出す。
既にレイに意識はない。だが、その力は骨身に思い知っただろうと。
「経験値にはなったか」
そうしてレオンハルトはそんな独り言を呟く。
魔人との戦闘。レイの喧嘩を買ったのは、より己を高めるためでもあった。
このルドラサウム大陸では戦闘をこなせば、あるいはそれに準ずる経験を溜める一定の行為を行えば経験値が溜まり、それに応じてレベルアップする。
レオンハルトのレベルは現在330。
並の人間のレベルが10以下で人類上位クラスの戦士でも50は超えず、魔人でも100から200の間で収まっていることを思えば規格外ではあるが、レオンハルトはその強さに全く満足していなかった。
「今度はケッセルリンクやサイゼルとハウゼルも誘って修行でもするか……あるいはケイブリスでもいいが、あいつは最近特にビビってるからな……付き合ってくれるかどうか」
独り言で修行の予定について考えるレオンハルトは貪欲だった。
力を得ることや自分の女や家族と過ごすことに対してより積極的に行動する。
無論、魔人筆頭兼魔軍参謀。そして多くの配下を持つ上位者としての役目も万全にこなす。
こうして魔王城にまでやってきているのもその役目のため。──だが、今この時は少しだけ違っていた。
「さて……」
レオンハルトはしばらく廊下を歩き、目的の場所に辿り着くとその扉をノックして言葉を作る。
「──ガイ様。魔人レオンハルト、只今参りました」
先程までのレイに向かって放つような上位者の言葉ではない。
新たな魔王──ガイに傅く魔人としての態度。レオンハルトは、あえてそれを崩さずに入室の許可を求めた。すると程なくして。
「……ああ。入ってくれ」
「失礼します」
部屋の中からガイの陰鬱とした声が聞こえてきたため、レオンハルトは迷うことなく一声かけて入室する。
その振る舞いは堂々とした憚ることのないものであり、臣下でありながらレオンハルトの方がどこか覇気を纏った存在感を持つも、反対に部屋の中にいた魔王ガイは圧倒的な力から滲み出る存在感を放ちながらもどこかバツの悪さを醸し出していた。
「……来た、か」
「はっ」
レオンハルトは他の気配を感じながらもそれに言及はしない。
あくまでも己は呼び出された配下の魔人。その態度を崩そうとしない。
だからこそ、
「……すまなかった」
「……何がでしょうか」
「白兎を……魔人にしてしまったことだ」
「……………………」
魔王ガイがレオンハルトに向けてしっかりと謝罪を行ったことに対し、レオンハルトは片膝を突いた臣下の礼を取りながらも僅かに拳を握りしめる。
顔は伏せたまま表情は分からない。だが、声は冷静そのものだった。ガイの謝罪にレオンハルトは淀みなく返答する。
「謝罪の必要はありません」
「……それは何故だ?」
「魔王様の決められたことですので。魔人化は魔王様の持つ能力であり権利の1つ。どこの誰を魔人にしようと我ら魔人が異を唱えるものではありません」
その言葉に驚いたのはガイだった。
魔人が誰を使徒にしようが自由なように、魔王もまた誰を魔人にしようが自由だと当然のスタンスを告げるレオンハルト。
しかし魔人筆頭として魔軍参謀として忠実な下僕であろうとするその在り方はある意味で意外ではない。ガイだけではなく知っている。魔王ジルに対しても、魔王が受け継がれるその瞬間まではレオンハルトは忠実であり続けたのだから。
「……いや、それでも人の子を魔人にしてしまった以上は謝罪するべきだろう」
「ガイ様はもう人ではありません。魔王です。道徳や秩序に配慮する必要はなく、何をするにも自由。常識に囚われる必要がどこにありましょう」
「……何をするのも自由というなら私が誰に謝罪するも自由の筈だ」
「…………はい。それはその通りですね。しかし……」
そこでレオンハルトは言葉を区切る。
ガイの返しに対して上手い言い方を思いつかなかったというのではない。それはもっと単純なもの。
「それは
──内に秘めた激情を抑えるための、間。
その我慢がただ単に、レオンハルトに間を作らせた。そして、言葉を選びながらもそれはやめろと暗に訴えてきた。配下として出せるやり方で。
それは3代もの魔王に仕え、4代目となる魔王ガイの治世までこの座に居続けた魔人ならではの表明の仕方であっただろう。
しかし対して魔王ガイは、人の上に立つことに未だ慣れていない。
故にそれがレオンハルトの地雷であっても、踏み抜いてしまう。
「……だが、それでも私は──……ッッッ」
──轟音。あるいは破裂音とも言うべきものが生じた。
理由は単純。魔王ガイの度重なる態度に我慢の限界を超えたレオンハルトが立ち上がり、
「ッ……」
ガイの身体が部屋の壁に激突し、不思議な力に阻まれたように衝撃を殺して床に膝をつく。
城が比喩ではなく揺れた。その理由はレオンハルトの拳が凄まじい威力であったからだが、城が壊れずに揺れたのはガイが予め部屋に結界を張っていたから。
──そう。予めガイはレオンハルトに殴られることを覚悟していた。
部屋に結界を張って、他の配下に対応を命じなかったのもそのため。レオンハルトが本気で自分を殴れば城なんて簡単に壊れてしまうのは、昔戦ったことで知っている。そのための備えのお陰で部屋は無事だったが、それでも城が揺れたのはレオンハルトのパワーが桁違いであったことの証明。
そしてガイの頬に痣が出来る。血こそ流れていないが、魔王であるガイが傷を負っていた。
その結果は魔王ガイと魔人レオンハルト。両方が生物として桁違いの力を持っていることを表している。
魔王にただの拳で怪我を負わせたレオンハルト。
ただの拳とはいえレオンハルトの全力を受けて痣を作るのみで済んだガイ。
どちらも人と比べれば遥か高みの怪物──それでいながら諍いの原因は人のそれとあまり変わらない。
「これで満足か? 俺を怒らせて……それで殴らせて、謝罪は終わったと気持ちよくなるつもりか? ──ハッ、さすがは魔王様だ。偉くなったもんだな、ガイ」
先程までとは打って変わって配下としての態度を崩して接するレオンハルト。鼻で笑いながらもその表情は笑っておらず、
そんなレオンハルトの本気の怒りと侮蔑を受け、しかしガイは怒りはしない。それこそが望んでいたことだからだ。だから代わりに更に釈明をする。
「……ただ謝罪を受け取って貰いたかっただけだ。そんなつもりはなかった。許せ」
「結界を張っておいてよく言う。俺が怒ることを予想していたな?」
「……ああ。剣を向けられるかもしれぬとも思ったな」
「なるほど。殺されるかもしれないとも思ったわけだ。──だが、それを分かっていながらお前は白兎を魔人にした」
レオンハルトはそれを指摘する。そう、レオンハルトはその点にも怒りを感じている。
娘の白兎を魔人にした。それが最も怒りを感じる点だが、ガイはそれを理解していながら白兎を魔人にしている。魔王として、その権利を行使した。
謝罪するくらいなら最初からやるな──有り体に言えばそういうことだろう。レオンハルトがあえて配下としての態度を見せたのもガイに対するレオンハルトなりの精一杯の譲歩であり意趣返しだった。
「最初から計算ずくか。なら俺が怒りを抑える意味もないか?」
「それは……」
レオンハルトが立ち上がったガイの胸ぐらを左手で掴む。ガイは抵抗しなかったが、言い淀んだ。その理由はガイとは別にある。
「──どうかその辺でおやめになってください。レオンハルト様」
「──はい。やめてください。パパ」
「!」
──再びガイを殴ろうとするレオンハルトに対し、背後から2つの刃と声がかけられる。
西洋風の剣を突きつけて静かに警告をするのは魔人レーモン・C・バークスハム。
そしてもう1人は件の人物だ。居合の構えを取り、父に声を送るその少女は──魔人白兎。
先程からずっと部屋の中で控えていた2人が剣を抜く姿勢を見せたことに、レオンハルトはふと笑って振り返る。ガイの胸ぐらからまだ手を離しはしない。
「黙れ、2人共。今は俺と魔王様が話している最中だ」
「いいえ、それは出来ません。幾ら魔人筆頭であらせられるレオンハルト様と言えど、ガイ様へのこれ以上の無礼は見過ごせません」
「ええ、狼藉は許せません。今の私は……もうパパと同じ魔人ですから」
白兎の言葉に僅かに眉をひそめるレオンハルトだが、たとえ相手が実の娘であってもレオンハルトは引く姿勢を見せない。
「……お前らに俺が止められるとでも? 随分舐められたものだな」
「っ……」
今度はレオンハルトが殺気を向ける。途端にレーモンは次の瞬間に斬られる自分を幻視した──それはレーモンが未来視を得意とするほどに占いや感覚に長けているからこそ。
レオンハルトにとって2人は既に間合いに入っている。今から剣を抜いて距離を詰める必要もなく、レーモンの首を落とすことも出来る。それを理解したからこそ僅かに怯んだが、理解している者がもう2人いるからこそレーモンは引かなかった。
「やめろレオンハルト。2人は関係ない」
「……関係ない? ふざけるなよガイ。白兎は当事者。そしてバークスハムはそれを見過ごしていた疑惑もある」
「だからといって2人に剣を抜く必要もないだろう」
魔王ガイは当然気づいている。自分が止めねば白兎はともかく、レーモンの方は間違いなく死ぬ。レーモンは預言者としては有能で魔人となったことでかなり強くはなったが、それでもレオンハルトと戦って生き残れるかと言われれば難しい。
だから魔王としてガイはレオンハルトを止めた。それを聞いてレオンハルトは僅かに躊躇する姿勢を見せるが──
「いえ、私なら止めてみせますよ。だからやめてください」
「! 白兎……」
──否定し、強気な言葉を発したのは白兎だった。
ガイはそれに対して心配の声をあげる。──それを聞いて更にむかっ腹が立つレオンハルトだが、そこはあえて言及せずに白兎に向き直った。ガイの胸ぐらから手を離して。
「……止められる? 俺をか?」
「はい。私も魔人になって更に強くなりましたから」
「……今は冗談を聞いている余裕はないんだがな」
レオンハルトは白兎のその言葉を鵜呑みにせず息を入れる。レオンハルトが真面目に受け取らなかったことで奇しくも空気がほんの僅かに緩んだが、それが維持出来なかったのは続く白兎の発言のせいだろう。
「勘違いしないでください。強くなったのは、心構えの話です」
「……何?」
真剣な、冗談と受け取らせない言葉の選択にレオンハルトもそこでようやく聞く姿勢を見せる。先程までは子供に対する態度であり、怒りや殺意も白兎にだけは向けていなかった。
しかし今、初めてレオンハルトは白兎に魔人として目を向ける。白兎を、1人の魔人として。
「わたしは魔王ガイ様に忠誠を誓いました。つまり、今の私はそこのレーモンさんと同じ、ガイ様の忠実な下僕です」
「……それで? 何が言いたい?」
「分かりませんか? 力の差や有無など、関係ないということです。私はガイ様に忠誠を誓って魔人になりました。相手が強いからと剣を抜くのをやめる──それのどこが忠義なんですか」
そう。白兎は、覚悟の上で魔人になった。
友人であるガイを助けるためにだ。その助けになるために忠誠を誓った。
だからこそ相手が誰であろうと関係はない。たとえ相手が最強の魔人で自分の実の父親だとしてもだ。それで躊躇するような覚悟は覚悟でも何でもない。
「というかわたし、パパにも怒ってるんですよ。ガイさん……失礼、ガイ様が大変なことになってるのをわたしにだけ隠して……」
「……お前を守るためだ。謝るつもりはないぞ」
「わかってます。ですが、それとこれとは話は別。折り合いをつけるためにも──少しわたしの決意をお見せします」
言って、白兎は身を低くした。
それはレオンハルト教えた居合の構え。JAPANでも盛んな剣術。白兎が得意とする神速の抜刀術だ。
その構えを取りながら、白兎は宣言する。その紅い瞳で実の父であるレオンハルトの目を真っ直ぐに見つめながら。
「1つ宣言とお願いを」
「何だ?」
「──私が勝ったら魔人筆頭の座を貰い受けます」
「────」
大胆不敵に、言い放った。
レオンハルトの双眸が見開かれる。娘の覚悟。心構え。
そして大言壮語にも自分に勝ったら魔人筆頭を貰い受けるという、今までの白兎ならば言わないであろうその言葉。
なるほど、確かに以前とは変わったようだとも思うし、レオンハルトには覚えもあった。それも2人も。
1人は白兎の祖父に当たる藤原石丸。そして、もう1人は──
「──ハ……いいだろう」
──
「では一刀で」
「ああ。それで十分だ」
レオンハルトはあえて白兎と同じ構えを取る。居合の構え。鞘は異空間。抜き放つは大太刀にも似た形状の魔剣オル=フェイル。
白兎が構えるはかつてレオンハルトが与えた業物。日光は持ってきていない。
「……………………」
「……………………」
張り詰めた空気が流れる。もはやガイもレーモンも口出しは出来ない。
親子の、剣士の、そして魔人同士の決闘。たった一太刀で決める格付け。
しかし同じ剣を振るう両者にとっては一太刀で十分だった。
「瞬光」
「白光」
──全く同じ。音を超える神速の抜刀術が同時に放たれる。
否、正確にはレオンハルトだけがほんの刹那だけ抜刀を遅らせたが、それは敢えて行った強者の驕り。
何故ならば今までの白兎であれば、レオンハルトの剣にはついてこれなかったから。
故にこの一太刀で終わる。白兎の先に放った剣を弾き、あるいは追い越して寸止めする。
ただそれだけ。それだけで勝負は決まる。だからレオンハルトは遅らせた。
しかし──白兎は今までの白兎ではなかった。
(! これは……)
レオンハルトは時を限りなく伸ばした時間の中で気づく。白兎の剣。その速度も技量も、1つの壁を超えていることに。
魔人として身体能力が純粋に上がった。それもあるだろうが、それだけでは説明がつかない。本来ならこの剣技は、根本的に自分にしか極められないものだったから。
そう。絶対に埋められない──才能の差。それを埋めてきたのであれば、この剣の。白兎の才能は。
──剣戦闘LV3。
父親と祖父。
剣の神と称される選ばれし者の領域に、また1人足を踏み入れた瞬間だった。
故にその勝負は。
「! これ、は……」
「…………やるな、白兎」
「…………はい、ありがとうございます。──わたしの負けですね」
──
「得物の差……だけではありませんね。後から放ったのにも関わらず、正確に私の剣の一点に狙いを定めて断ち切ってみせた。さすがはパパです」
「……今までのお前なら止めることすら叶わなかった。成長したな、白兎」
その差を、お互いによく理解している。
同じ才能があっても、その研鑽には雲泥の差がある。
数千年にも及ぶ技の冴え。弱者強者問わず数多の敵との戦闘経験。純粋なレベル差。
得物以外にもそれだけの差がある。故に、白兎は敗北した。
父親であり師であり、世界最強の剣士である男に認められる形で。
しかもその成長は、ただ剣の腕や心構えだけでもなく。
「…………それと白兎。お前の目は……」
「──ええ、
──生まれつき盲目であったその視覚もまた、魔人となったことで覚醒していた。
その事実に剣を合わせる中で気づいたレオンハルトは言葉と態度を迷わせる。だから先に白兎が小さく笑った。その父親の顔をはっきり見て。
「まあ見えすぎて困ってるくらいですが。少々……というか勝手が違いすぎて慣れません。しばらくは目を閉じたまま行動するのが基本になりそうです」
「…………そう、か…………そうか」
はにかんだ白兎に対し、レオンハルトはそこで剣を収める。
1つ、息を入れた。それは魔人としてのものではない。王としてのものでもない。
白兎が生まれて954年。約千年。その間、ずっと気を揉んでいた……父親としての一息。
力も心も強くなり、大人になった。まだまだ研鑽は足りずとも己と同じ領域に足を踏み入れ、目も見えるようになった。
──かつて魔王スラルに対して自分が誓ったもの。
それと同じものを見せてきた白兎に、これ以上何かを言う事はできない。
「……ガイ」
「……ああ」
「白兎の目に免じてお前の謝罪を受け取ってやるが……1つ貸しだ」
「──わかった」
「ならいい」
ガイの返答を聞いてレオンハルトはそこで完全に怒りを収める。そうして今度はガイに対して膝を突いた。
「──数々のご無礼、失礼しました。ガイ様」
「構わない。……それとあまりへりくだる必要もない」
「わかりました。では私はこれで失礼します。──白兎」
「! ……はい」
「魔人の世界は力が絶対だ。何をやるのも自由だが、上位者の機嫌を損ねるなよ。特にお前は俺の子供ということでちょっかいをかけてくる奴も多いだろう。使徒に関しても作る時はよく吟味しろ。それと……何だ。目が見えるようになって良かったな」
「……はい!」
「後は紅月が心配していた。一度城に帰って安心させてやれ」
「……わかりました。後で一度帰ります」
「そうしろ。しばらくお前を魔王付きの護衛に任命する。ガイ様を任せたぞ」
「ええ! このわたしに任せてください! わたしは強いですからね!」
魔王ガイには配下の魔人として。
そして胸を張って薫陶を受け取る魔人白兎には魔人筆頭として、父親として声をかける。
それは新たな関係性の始まりだった。
「──レオンハルト様、退席する前に1つだけご報告が」
「なんだ?」
「先日、魔人ノスがガイ様に対して魔人四天王の地位を降りる旨を奏上しました。先日まで四天王であったガイ様が魔王様になられたこともあります。就きましては空いた2つの空席を誰にするかレオンハルトに決めて頂きたく」
──だが問題を解決して退室しようとする直前、レーモンからの報告を受けたレオンハルトは立ち止まってガイの方に視線を向ける。
「……であればガイ様の意向が最優先ですが……」
「……私は魔人に詳しくはない。レオンハルトに任せる」
「そうですか。であれば1つは魔人カミーラに。もう1つは……」
仮にも500年近く魔人でいたのに魔人に詳しくないとはどういうことだとレオンハルトはツッコミたくなったが、口には出さずにまず1つの席をカミーラに与えることを決める。元々四天王であり、鍛えたことでそれに恥じない強さを持つカミーラなら問題ない。良い報告が出来そうだとレオンハルトは後でカミーラに手紙を送ろうと思考の隅にその予定を入れておく。
そしてもう1人。ガイとノスが抜けたことで空いた魔人四天王の席を誰で埋めるかを思考する。
魔人レッドアイ。魔人メガラス。魔人レキシントン。戦闘力の高い上級魔人を何人か思い浮かべる。
「──バークスハム。お前に任せる」
「は……私などでは力不足でしょうが、精一杯務めさせていただきます」
一瞬だけ白兎を見て、しかしすぐにバークスハムを任命する。魔人になってすぐにその座を任せると角が立つことは歴史が証明しているし、何だったらレオンハルトは経験済みだ。
それにバークスハムならあるいは自分が繋ぎでしかないことは理解しているかもしれない。なら四天王に置いておけば後から勝手に辞するだろうし、あるいはどっちでも構わない。四天王の地位自体は力あるものが就けばいいとしか思わないからだ。
(問題があるとすればノスの動向が気にはなるが……しばらくは放置だ。奴も態々ガイや俺に目を付けられるような行動は慎む筈。警戒していると見られるのもそれはそれで都合が悪い)
そうしてレオンハルトは己の考えを整理しながら今度こそ歩き出そうとして。
「──レオンハルト。少しいいか」
「ガイ様? 構いませんが……」
「よし。ああ、白兎とバークスハムはそこにいろ」
「? わかりました」
「……はい」
今度はまた背後から、しかも魔王であるガイから声をかけられ、しかも部屋の外に連れ出されたためレオンハルトはガイに肩を組まれながら外に出る。……そしてその道中でレオンハルトは察した。
「よし……この辺りなら白兎にも聞こえないか」
「……何でしょうか」
「ああ。落ち着いたらちょっとムラムラしてきた。女を調達……ああ、人間の女だけにしろ。魔族は駄目だ。何人か調達して別室に置いとけ。後でヤるから」
「ああ……わかりました。白兎にバレないように、ですね」
「ぐふふふ、わかってるな。よし、頼んだぞ」
──悪ガイになったな、と。
そして早速それらしい命令をしてきたため、レオンハルトは呆れながら了承する。さっきまでは真面目な雰囲気だったのに今度はエロいことをしようとしている。その両面性に対してレオンハルトはあえて敬語を解いて注意をしながらこう思った。
「……ああ、それと白兎に手を出したら殺すからな」
「い、言われんでも出さんわ。そもそも体型が……」
「……わかっていると思うがそれも禁句だ」
「ああ。それとレーモンにも言ったが、俺の城か屋敷でも作っとけ。この城にはあんまりいたくないからな」
「わかった。それも手配しておく」
「──頼んだぞ」
悪人格になったり善人格になったりする──今度の魔王は色んな意味で扱いが面倒かもしれないな……と。
というわけでGI期の始まり始まり。今しばらくは大人しい平和な日々です。魔王ガイはジルに次いで破壊衝動をコントロールしている上に人間への恨みがないからなんか緩くなりそうだなとは思いつつも色々あります。
とりあえず次回からはレオンハルトの周囲で色々。日常パートと言い換えてもいい。新たな魔物大将軍が登場しつつお引越し準備をしたりえっちなことしたり。そして白兎に関してもあれこれありつつ使徒関連で更に色々ある予定。なのでお楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。
それとGL期最後のキャラプロフィールも公開しておきますので暇な時に覗くだけ覗いてもいいよ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=342400&uid=206423