※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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親衛隊の日常

 ──JAPANの山奥の廃墟で遂に見つけた人斬り鬼……その正体はかつて魔人ガイと共に魔王戦争を戦った勇者宗近でした。

 しかし彼はどこか虚ろになりつつある目で白兎達一行を見つめます。

 

「ああ……そうだ。私は宗近。勇者……そう、勇者だ」

 

「……勇者って何? 美味しいもの?」

 

「あれが食べ物に見えるのかよお前は」

 

「白兎様。勇者とは……」

 

「……父から聞いたことがあります。人間の中で時折1人だけ現れる特殊な力を持った者で魔を倒すために幾つもの特殊な力を発揮すると」

 

「ジルの前の魔王ナイチサすら勇者は追い詰めたと妾は聞いたの。まあ……お主はそこまでの実力はなかったようじゃが。魔王ガイが魔人だった頃にこやつとは同じ陣営じゃったからある程度知ってはいるが、魔人にも劣る実力だった筈じゃ」

 

「キー……!」

 

 一行は口々に勇者についての逸話を話し合い、認識を共有します。

 それを聞いた白兎は少し難しそうな顔を浮かべました。

 

「なるほど……ガイさ──ガイ様が味方に付けていた人間のリーダーの1人でしたか」

 

「ガイ……? ああ……そうだ……魔王だったな。あの裏切り者……魔王は私が絶対に討たないと……」

 

「魔王を討つ、か。出来るとは思えぬがのう」

 

「つーかだったらなんで牧場の人間なんか殺してんだよって話だな」

 

「頭おかしくなってるように見える」

 

「キキ」

 

 宗近はうわ言のように現状を認識する言葉を口にします。

 それを見た一行は正気を失っていると率直に思いました。事情をより深く知る杏はおそらく目的としていた魔人レオンハルトに全く歯が立たなかったことで精神的に参ってしまったのだろうと当たりをつけます。

 

「人間……人間は、殺す必要があるから殺した。そうしないと魔王を殺すことは出来ない……」

 

「ふむ……哀れじゃな。どうする主よ。妾が介錯してやってもよいが」

 

 知らぬ相手でもない。だから杏は己がせめてひと思いにあの世に送ってやろうと懐から忍者刀を取り出して一歩前に進み出ました。

 しかしそれよりも更に一歩早く、白兎は前に出ます。

 

「いえ、わたしがやります。介錯するかどうかは戦いながら見極めてからですね」

 

「……そうか。では妾達は見届けじゃな」

 

 鞘を握って自然体。いつでも刀を抜ける構えを取りながら、白兎は宗近を見つめます。白兎の五感は宗近以上に宗近の動きを正確に捉えていて。

 

「来てください。一手、見極めて差し上げましょう」

 

「魔人……やはり……どこまでも傲慢な……!!」

 

 宗近もまた刀を抜き放ち、一瞬で白兎に肉薄しようとします。その速さも技も人間にしては規格外。魔物将軍サコン率いる魔軍が撤退させられたのも頷ける強さです。

 しかし──その一刀は白兎には届かない。

 

「遅い」

 

「……!!? ぐっ……」

 

 宗近の必殺剣、三日月はその弧閃が白兎に届くより前に白兎によって分かたれ、その刀を折られます。

 

「……すごい強い」

 

「なんと……これほどの剣の腕を持つとは……」

 

「ま、これで終わりじゃの」

 

 白兎の居合の間合いに入った瞬間に断ち切られる。人間には見切ることの出来ない神速の抜刀術。

 一行がそれに感嘆する中、白兎は感慨も何もなく宗近に忠告します。

 

「確かに人としては素晴らしい剣技でしたね。ですが……その技の冴えも心がそこまで堕ちてしまえば完全とは言い難い。その在り方ではわたしもガイ様も斬れませんよ」

 

「っ……斬れる……いや、斬れるとも……」

 

 宗近はその手に持っていた刀を床に落とし、もう一本の剣──背中に背負っていた勇者の剣エスクードソードを握ります。

 

「? あれは何だ?」

 

「錆びていますが……少し嫌な気配を感じるような」

 

「まだだ……まだ殺せる……言う通りに、人間を殺せばまだ──!!」

 

「!」

 

 エスクードソードを握った宗近が再び白兎に襲いかかろうとします。

 それに白兎は反応しようとして──しかしそれをするまでもなく宗近は膝を突きます。

 

「勇者の剣が……何故……なんでこんなにも重い……!?」

 

「……? 驚いてる?」

 

「勇者の剣……ふむ。何かありそうじゃが……」

 

 勇者の剣であるエスクードソードを宗近は、振ることが出来ない。

 いやそれどころか持ち上げることすら出来ず、気づけばその剣を地面に置いて呼吸を荒くしていました。

 一行が理由を思いつかない中、宗近は自らの震える手を見つめながらその理由に思い至ります。まさか自分は……と。

 しかしそれを言葉にするより前に。

 

「あーあ。やっぱり間に合いませんでしたね」

 

「!?」

 

 ──勇者の従者が宗近と一行の前に姿を現しました。

 

「なんだあいつは……」

 

「……おい、主よ。気をつけよ。力は感じぬが……」

 

「はい。一瞬で現れましたね。何かおかしいです」

 

 その出現はあまりにも唐突。気配に敏感な白兎や杏の感知を潜り抜けています。

 まるで突然その場に現れたかのようなその謎の少年に警戒を覚える中、宗近はその名前を呼びます。

 

「コーラ……これは一体どういう……」

 

「自分でも分かってますよね? あなた先日20歳超えましたよね? ──勇者じゃなくなったんですよ」

 

「!?」

 

 コーラと呼ばれた勇者の従者は地面に置かれたエクスードソードを難なく持ち上げ、その背に背負います。

 それを手を伸ばし引き留めようとする宗近。しかし手は伸ばされず、代わりに声をあげます。

 

「か、返してくれ……それはまだ……人間に必要な……」

 

「──ほんっとに馬鹿ですねぇ、宗近は」

 

「え……?」

 

 震える声に対して勇者の従者コーラが返したのは……呆れと嘲笑でした。

 

「だから最初に言ったじゃないですか。魔王を殺したいなら人を殺せって。それなのに魔人なんかと手を組んで……だから裏切られるし間に合わなかったんですよ」

 

「っ……」

 

「そもそも魔物討伐隊がちょっと手を組んだ程度で魔王に勝てるわけないじゃないですか。……まあ魔人ガイがあそこまでやるとは驚きでしたけどね。とはいえ新たに魔王ガイが生まれてしまった以上はあなたの選択は間違いです」

 

「そんな……そんな筈は……だったらどうすれば……」

 

「さぁ? 最初から人を殺しとけば魔王ジルも魔人ガイも魔人レオンハルトも皆殺しに出来たんじゃないですか? ──まあそれを選ばなかったのはあなた自身ですけどね」

 

 今まで一貫して無表情だったコーラが、そこで初めて宗近に笑みを見せる。

 しかしその笑みは──どこまでも醜悪。貶められた人を小馬鹿にして愉悦する悪魔の如き笑みだった。

 

「結果、全部無駄でした。お疲れ様です。仲間もみんな死んで罪のない牧場の人間まで殺しても何も成せませんでした。あなたの行いは人をより苦しめただけでしたね」

 

「わ、私は……た、ただ人を……人を救いたかっただけ、で……」

 

「それで人を死なせてちゃ世話ありませんね。あなたの尊敬するお父さんが今のあなたを見たらどう思いますかね? 息子の酷い有様を見て死にたくなってるんじゃないですか?」

 

「っっ……!!」

 

 行為を貶め、人生そのものを貶め、果てはその親すらも引き合いに出して貶める。

 うなだれる宗近は絶望し、歯噛みし、今にも慟哭を響かせようとしていました。

 全ては、全ては本当に無駄だったのだと。

 親や故郷の復讐。それも成せず、目標としていた魔人には歯牙にもかけられず、頼った魔人には裏切られ、魔王は健在。人は苦しみ続け、挙句の果てに自らの手で人を手にかける。

 その手は泥と血に塗れ、汚れに汚れきっていた。悲痛に喘ぐその若者を──神は見下ろし愉悦する。

 

 最初から勝てるとは思っていない。既に過去になったあの時代で、勇者が魔王を倒すことなんて100%無理だとコーラは既に見切っていた。

 魔王ジルは勇者の特性を知り、対策を打っていた。それを知った時点でコーラは如何に勇者を苦しめるかに目的をシフトした。

 与えられた役目はこなすが、精神が中途半端に強く、それでいて絶望した時に良い顔を見せてくれそうな人間を選定した。

 そしてそれが宗近だった。ただそれだけのことであり、予想通り苦痛の表情を見せてくれたことにコーラは満足する。

 

「馬鹿な宗近。あなたはもう戻れない。ただの薄汚れた人間になって末永く生きてくださいね──まああなたの仲間はもう誰一人いませんけど」

 

「あ…………」

 

 そしてとどめを刺すようにコーラが邪悪な言葉を送る。

 宗近の精神はそれを最後に壊れようとしていました。次の瞬間には負の感情を声にして吐き出す。

 そうして全てを諦めてしまう。そんな瞬間に──

 

「──仲間ならここにいますよ」

 

「…………え…………?」

 

 ──魔人白兎は、宗近に寄り添い声をかけました。

 

 宗近が呆気に取られます。その瞬間だけは、疑問から全てを忘れる。

 その刹那に状況は動いて。

 

「仲間って……魔人が何を──……ッ!!?」

 

 コーラが疑問を言葉にしようとした直後、先ほどまでコーラがいた場所に一閃が走ります。

 従者コーラは力を隠す余裕もなく下がってその攻撃を回避します。放ったのは当然、魔人白兎でした。

 

「おや、躱されましたか。首を落とすつもりで放ちましたが……やはり只者じゃないようですね。何者ですか?」

 

「っ……私はただの勇者の従者ですよ。信じてもらえないかもしれませんが」

 

「ええ、信じませんし、それが本当だったとしても関係ありませんね。あんな風に人を言葉で操って貶めて愉悦する──そんな外道の所業を許すつもりはありません」

 

「……魔人がよく言いますね。あなた達がやっていることの方がよっぽど酷いと思いますが?」

 

「なるほど。ではこう言い換えましょうか。──わたしが不快なので消えてください」

 

 そうして魔人白兎は、魔人らしい暴虐を発揮してコーラに殺意と敵意を向ける。

 その紅い瞳は見開かれ。コーラの一挙手一投足を捉えたまま、白兎は己が怒りを覚えた理由と手を差し伸べた理由を宗近にも教える。

 

「大丈夫ですよ」

 

「っ……何がだ……?」

 

「あなたの人生。それと、あなたのご両親のことです。たとえあなたがどんな失敗をしてどんな悪行に手を染めようと……親は子供の幸福をいつだって願っているということです」

 

「それ、は…………いや、だが……」

 

「だがもでももありません。それに証明できますよ。あなたはどうでしたか? 仮に両親が何か酷い失敗をしていたとして、それでも両親のことを嫌いになれますか? 不幸になれと、死にたくなるような気持ちになりますか?」

 

「……………………」

 

 そう、そんなわけはない。ありえないと、白兎は思う。

 確かに事の大きさによっては0とは言えない。そういう事例もあるかもしれない。血を分けた家族を見限ることはあり得ることではある。

 しかしだ。人のために行動したと言う宗近を見限るとは思えない。失望したとしても不幸になれとは思わない。死にたくなるはずなんてない。

 それにもしそうだったとしてもだ。

 

「それにあなたの家族のことはあなたが1番よく分かっているはず。他人が勝手にその気持ちを決めつけられる道理はない。わたしよりもあなた自身が知っているはず」

 

「私、自身が……」

 

 だからこそ許せない。不快だった。

 会ったばかりの他人とはいえ、話の全てを理解はしてないとはいえ、あんな風に人を貶める外道は許せない。

 故に白兎は剣を振るってコーラを殺そうとした。

 

「……ま、確かにちょっと気に触るわな」

 

「キー!」

 

「あいつ殺す? ならあいつの名前言え」

 

「我も微力ながら白兎様に助太刀致します!」

 

「先祖の侮辱は聞いてて気分の良いものではないしのう」

 

 気づけばその意思を汲み取り、使徒や仲間達も戦闘態勢に入っている。

 コーラはそれに苛立ちを覚えた。

 

「まったく……父親と同じであなたも相当ムカつきますね」

 

「褒め言葉をどうもありがとうございます。ですが死んでもらいますよ」

 

「それは嫌ですね。さよなら」

 

「っ……!?」

 

 そして今にも白兎達が攻撃を仕掛けようとした直後──再びコーラはその場から消えてしまった。

 

「おいおい、マジで一瞬で消えちまったぜ。ハンティみてぇな奴だな」

 

「キキ」

 

「気配消失……追いかけたいけど見つからない」

 

「面妖な……」

 

「忍術やアイテムの類でもないみたいじゃったが……」

 

 一行は消えてしまったコーラを警戒する。一瞬で消えるなら一瞬で現れることも出来るはず。今度は白兎や宗近を囲むように陣形を取った一行は、そこで白兎のみが宗近に向き直り。

 

「さて……これで悪は去った……とは言い難いですが、一応話は出来ますね」

 

「……………………」

 

「宗近さんと言いましたね。どうやら元勇者であの人に騙されていたみたいですが……どうでしょう。せっかくですし私の仲間になりませんか?」

 

「……ふざけるな……誰が魔人の、仲間になんて……」

 

「少し正気を取り戻したみたいですね。良い傾向です。やはり元気が1番ですね」

 

「っ……お前は……お前は本当に魔人レオンハルトの子供なのか……?」

 

 宗近にいつも通り気さくに声をかける白兎に宗近はほんの少し正気に戻りながら理性的に言葉を交わす。

 とはいえ未だ迷いと後悔を抱えていることには変わりはないが、白兎自身に対する興味はあった。

 

「はい。白兎と言います」

 

「……私を……騙して殺すつもりか?」

 

「いえ、騙すつもりも殺すつもりもないです」

 

「……信用……出来ないな……」

 

「まあそれはそうかもですね。うーん……それなら──」

 

 と、白兎と宗近の不思議なやり取りが続く中、信用できないといった宗近に対し、白兎は良いことを思いついたと言わんばかりに手を叩いて宣言する。

 

「わかりました! では尋常に果たし合いを行う──決闘仲間ということでどうでしょう!?」

 

「…………は……? 何を言っている……?」

 

「ですから決闘仲間です! これから毎日……とはいかないかもしれませんが、暇な時はここに戦いに来るので尋常に勝負して腕を磨き合いましょう! わたしもちょうど修行相手がほしかったのでこれでウィンウィンですね!」

 

「…………」

 

 その発言に絶句する宗近。

 同じように驚いたり呆れたり笑っている一行だったが、白兎は既に宗近をどうするかを決めていた。無言が続く宗近に白兎は更に告げる。

 

「言いましたからね? なので死なないでください。果たし合いを断って死ぬなんて武士的になしですよね?」

 

「それは……だが、私は……」

 

「ということで今日は水と食料を置いていきますから食いつないで治療に専念してくださいね。また明日来ます!」

 

「ええっ!? は、白兎様! 人間を見逃すのですか……!?」

 

「はい! 修行相手なので殺さないように! 魔人であるわたしからの命令ですよ!」

 

「む……し、しかしですな……」

 

「あー諦めろ。白兎はこうなったら頑固だからな」

 

「キキー!」

 

「私の大福まで置いていくのか…………」

 

「妾がまた作ってやるから安心せえ。ではな宗近よ。最後に1つ教えとくが……あの時一緒に戦った奴ら、妾も含めて結構生きとるぞ」

 

「!? なんだと……!?」

 

「ふふ、詳細はまた明日知らせてやる故、今日のところは飯でも食って生き延びるのじゃな」

 

「ではまた明日会いましょう!」

 

「ま、待て……!」

 

 そうして一行は言いたいことだけ言って宗近をその場に残し、立ち去ってゆく。

 宗近はそれを追いかけることも出来ず、ただ廃墟に1人残る。残された水と食料。そして予備と思われる刀。それらを見下ろして。

 

「……なんなんだ……あいつは……」

 

 失意も後悔も未だ残りながらも、白兎や杏の言葉を思い出し、死ぬのは明日でもいいととりあえずその日を生き延びることにした。

 

 

 

 

 

 最強──それは魔物に生まれたからには一生に一度は夢見る称号だ。

 しかし大抵は生まれてすぐに身の程を弁えてその魔物なりに弁えた生き方をすることになる。

 

 そしてその地上最強の存在は一体誰なのかと問われれば誰もがこう答える──それは魔王だと。

 魔王は地上を統べる存在。全ての魔の頂点だ。魔王にはどうしたって敵わない。これが世界の常識であり理に近いものだ。

 故に最強という称号は魔王を除いて考えられることが多い。人間が人類最強という枕詞を良く使うように、魔物の世界でも同じ現象がある。

 

 たとえば魔人最強は誰か──それは魔人レオンハルトだろう。世界最強の剣士とも魔物界の英雄とも謳われるかの魔人は魔王を除けば最も最強の称号に相応しく、実際に魔王に次ぐ存在として知らぬ者はいない。

 

 なら使徒最強は誰か──それは使徒ハンティになる。最強の魔人レオンハルトの使徒は使徒の中でも最強。普段はとても気さくで容姿もスラっとした美人なため人気はあるが、少しでも強さを見せると嬉々として戦いを挑み、目を付けられると付き纏われる。戦えば相手をサンドバッグやサッカーボールの如くひたすら魔法で殴る蹴るの力技。魔法で殴る蹴るとはどういうことなのかと疑問に思うかもしれないが、一度でも戦っているところを見たなら魔法で殴ってくるの意味が分かるだろう。

 

 では魔物最強は誰か──こうなると途端に悩ましくなるが……おそらくはトッポスになるだろう。世界に一体だけ常に存在し、魔物を狩ることを生態としているあの魔物は魔人ですら倒し切ることは難しいと言われているが、過去には魔人レオンハルトがトッポスを瀕死にした上で見逃したという逸話もあるため真偽は不明だ。

 あるいは魔物大将軍か。魔人級の力を持つと言われる魔軍の指揮官達は実際に戦ってもかなり強い。少なくとも人間では歯が立たない存在だ。

 

 そして……女の子モンスター最強、となれば一体誰なのか──それは魔人レオンハルトの居城、紅魔城に存在する。

 

「──では訓練開始。適当な者と組んで一対一の決闘を行うように」

 

『はい!』

 

 紅魔城1階にある室内鍛錬場──そこには約100体の様々な女の子モンスターの突然変異体が鍛錬を行っていた。

 レオンハルト様親衛隊と呼ばれる彼女達は誰もが見目麗しい女の子モンスターでありながら少し変わった見た目や能力を持ち、何より強さを持っている魔軍最強の部隊だ。

 魔物兵スーツを着ることなくそれぞれの能力を活かし、連携や個人技によって戦場を駆け抜ける少数精鋭の部隊である親衛隊は戦時はレオンハルトの供回りを。それ以外の時は紅魔城の巡回警備や今行っているような訓練を主な任務としている。

 

 そしてそんな親衛隊が訓練を行っている鍛錬場の塀に腰掛けて訓練の開始を宣言したのは1体の女の子モンスターだった。

 長いピンク色の髪に切れ長の目。身体のラインがくっきり出る衣装を身に着けており、女の子モンスターにしてはかなりの長身とむっちりした太腿や尻にくびれた腰に大きな胸。抜群のスタイルを持つその女性は男の子モンスターが10体いれば10体全員が求婚するほどのとてつもない美人だった。

 

 しかし同時に、そこいらの魔物が何十体と束になっても敵わないしどうすることも出来ない強さも併せ持つ。その手に持つ剣と槍によって斬られるか貫かれるか。数多くの男の子モンスターを実際に袖にして屠ってきたその彼女こそ──

 

(ふぅ……退屈だな……)

 

 ──ソードマスターの突然変異体にして最強の女の子モンスター……師匠だった。

 

 レオンハルト様親衛隊の副長……隊長は使徒が務めるため実質的なトップとして1000年以上も君臨し続けている師匠は隊員の訓練をその長い魅惑的な足を組みながら涼しげな顔をし眺めている。そうして佇んでいる姿からして男の子モンスターや人間の雄からみれば美人すぎてたまらないものがあるほどだが、そんな師匠の内心は退屈に塗れていた。親衛隊員との一対一の訓練も師匠と戦えるものがいない時点で師匠にとっては修行にならないつまらないものである。職務に対する責任感やレオンハルトに対する想いがなければ投げ出してすぐに旅にでも出ていたことだろう。しかしそれがあるので投げ出すことはない。

 

「脇をもう少し締めた方がいい……いいですよ、アイシス様」

 

「は、はいでありますぅ……! はぁ……はぁ……」

 

 ──そしてなぜ私は上司であるはずの使徒を指導しているのだろう……と、師匠はこの状況そのものに一瞬疑問を抱いた。

 

 いや、それは考えるまでもなくその使徒──アイシスが使徒にしてはまだ未熟で師匠よりも弱いからであるため数々のモンスターや人間も指導してきた師匠が教えることは不思議ではない。過去には更に大物の修行相手になったこともある。

 

(白兎様やミシェーラ様は15歳の時点で既にかなり強かったが……このアイシス様はまだまだだな。身体能力は使徒になったことでそれなりではあるが身体の使い方がなっていない。レベルもまだ低いから仕方ないのだろうが……)

 

 そう。過去には主君であるレオンハルトの子供であり、今は魔人になった白兎や、レオンハルトの使徒になったミシェーラと鍛錬の一環として定期的に戦っていた。戦闘経験を積むという目的のために魔物大将軍を除いた最強の魔物として師匠は適任だった。

 

(白兎様は魔人になってからまだ会っていないが、きっとまた強くなったのだろうな。戦ってみたいが……さすがに今は難しいか。であれば今日の相手は誰にするか……料理長はどうせ相手にしてくれんだろう。最近は城に人間も増えたことだし、下級使徒の中で暇な相手を探すか……? あるいは使徒の方々でもいい。ハンティ様に頼むのが1番だがそれをするとハンティ様を暴れさせたと他の使徒が……特にイヴ様が怒ってしまうのが難しいところだ)

 

 師匠は戦うことが、特に格上に挑むことが好きだった。苦難やスリルが好きで、より大きい高みを踏破した時に快楽を感じる癖を持っている。

 ただ近頃はそれをするにも相手を探すのが難しい。師匠が生まれたばかりならいざ知らず、最強の女の子モンスターとしてレベルが70を超えた辺りから人間にも魔物にも相手になる者は少なくなり、今では人間だと特A級の逸材か、魔族では使徒以上でなければ満足出来なくなった。

 そのため師匠が最近編み出した、格下でも戦いを楽しむための方法は──

 

「──よし。では次は私と一手仕合ますか」

 

「はいぃ! お願いします!」

 

「私は左手を使わない。槍を使わず、剣だけで戦う」

 

「な、なるほど。ハンデというわけでありますね」

 

 ──使徒のアイシスに向けて不遜にも師匠はそう申し出る。

 しかし力関係はまだ師匠の方が上なため、アイシスも喉を鳴らし緊張する。師匠の立ち居振る舞いは間違いなく強者のそれ。歩き方からして無駄がなく隙もない。いっそ優雅ですらあった。

 

「そしてこの立ち位置から一歩も動かない」

 

「なんと! そ、それほどに……!」

 

 それもその筈。元々師匠はレオンハルトに教えを受けていた剣の達人の1人。ミシェーラが特A級になって親衛隊にやってくるよりも前。白兎が生まれるよりも更に前から、師匠は城でレオンハルトに剣を習い、力を高めてきた。

 魔物の世界は力が全て。女の子モンスターでもそれは変わらない。より強い雄と番になるという習性も今では純粋に力を高めてより気持ちのいい戦いをすることを求めていた。

 そんな師匠を親衛隊の誰もが尊敬している。気づけば他の隊員も集まって来ていた。

 

「更に……そうだな。右腕と左腕も縛ってしまおう」

 

「ええっ!? それで剣が振れるのでありますか?」

 

「師匠ー?」

 

 親衛隊四天王であり師匠と付き合いの長いトール。獅子またまた。神絵師ちゃん。それと休暇を取る予定のあるフォーチュンらも集まって師匠に声をかける。アイシスは驚いているが、師匠は平常運転だ。威厳があり美しく強い……そして、ちょっと残念というか変なところがある。

 

「後は目隠しだな。それと意味があるか分からないが猿轡で口も閉じよう。これで舌戦も不可能だ。その上で負けたら何でも言うことを聞くという精神的なプレッシャーもかけてしまうか」

 

「ええ!? いやいやいや! さすがにやりすぎだと思うであります!?」

 

「ふふ……さすがにこれは厳しそうだな。だが私は絶対に勝つ。負けることは嫌いだからな。よし、私が目隠しして猿轡をして右手と左手を縛ったら勝負開始だ。──誰か、縄か紐。布の類を持ってきてくれ」

 

「──馬鹿じゃないっすか?」

 

「──まーた変態的なことしてるねー」

 

「──そこまでする必要ないと思う!」

 

「──あ、あはは……」

 

 全員が一斉に師匠にツッコミを入れた。神絵師ちゃんも獅子またまたもトールもフォーチュンも他の親衛隊員も誰もが呆れているし苦笑いを浮かべている。それを実現したら見た目的に変態になってしまうことは誰でも理解できる。理解していないのは師匠くらいだ。

 

「変態……? どこが変態なんだ。私は至って真面目だし、格下相手の縛りプレイは相手に失礼かもしれないが真剣勝負の場であればまだしも訓練で一応はこちらが格上。そして相手の了解を取っているならば問題はない」

 

「あーはいはい。師匠は強いっすからねー。真面目に気持ちよくなろうとしてるだけっすもんねー」

 

「──ああ。私は気持ちよくなりたいだけだ」

 

「発言だけ聞くと相変わらず変態だねー。とりあえず、師匠は相手がいないなら城内で誰か探してきたら?」

 

「訓練はあたい達が見てます!」

 

「む……それは助かるが、しかしこの後は大丈夫か? 確かフォーチュンへのアドバイスもすると……」

 

「いやぁ……師匠のアドバイスはちょっと……」

 

「必要ないかもです!」

 

「トール!」

 

 親衛隊の全員が思いながらもあえて口にしなかった言葉をトールが簡単に口にしたため全員で注意する。

 そしてそれを見ていた師匠は若干不服そうだった。

 

「……私にも恋の助言くらいできるぞ」

 

「じゃあフォーチュンになんて声をかけるつもりだったんですか?」

 

「え? ……………………夜這いしろとか?」

 

「はい。それじゃ師匠はどこかで戦ってきてくださいねー」

 

「やっぱり師匠に恋のアドバイスは早いです!」

 

「しかも夜這いって……そういうのはレオンハルト様の前でふにゃふにゃにならなくなってから言うべきっすね」

 

「だ、誰がふにゃふにゃだ。なっていない。ただ緊張して上手く話せないだけだ」

 

「そんな感じじゃないっすけどね」

 

「…………むぅ。もういい。どうせ私は戦う以外に能のないモンスターだ」

 

 ぷくーと頬を膨らませて腕を組み、ぷいとそっぽを向く師匠。

 この場にいる誰よりも見た目は大人のお姉さんなのに、その拗ね方は誰よりも子供──そう。情緒が少し幼い。

 色恋に関しても同じ。親衛隊はそれを理解しているため微笑ましくそれを見守る。師匠は大人ぶっているだけなのだと。

 

「……戦う相手を探してくる」

 

「いってらっしゃーい」

 

「お腹が空いたらちゃんと食堂に行くっすよー」

 

「迷子になったらちゃんと人に聞いてくださいね!」

 

「お、お前ら私を何だと思っているんだ。ふん……私は大人だというのに……強さだと私が1番なんだぞ全く……」

 

 鍛錬場を出ていく師匠を隊員達は笑顔で見送る。

 それを不満に思いぶつぶつ言いながらも廊下を曲がった辺りで師匠は思考を戦闘に切り替える。戦う相手を探す。親衛隊の任務や戦闘に関する何かをしている時は確かに誰よりも大人っぽく、そして頼もしい。

 だが日常生活は──

 

「インデックス様。私と戦ってほしい」

 

「ん、悪いけど今は無理ね。これからライブラの勉強を見る予定なの。それよりほら、新刊出てるわよ。借りていく?」

 

「! か、借りてく」

 

「はい。汚さないようにね。それと飴ちゃんも付けてあげる」

 

「……ありがとう。大事にする」

 

 師匠はまず図書室で悪魔のインデックスに声をかけ、そこで新しい漫画本を借りて貰った飴玉を口の中に入れてころころさせながら次の場所に向かう。

 

「料理長。無理は承知だが、今度こそ私と戦ってはくれないだろうか?」

 

「むぅぅぅん!! 悪いがそれは出来ないッッッ!! 食材調達で忙しく申し訳ないッッ!!!」

 

「そうか……残念だがそれなら仕方ないな」

 

「ああ、師匠さん。せっかくなら食堂でお昼ご飯食べていきますか?」

 

「む……それもそうだな。小腹が空いていることだし、お子さ──……スペシャルプレートを頼む」

 

「はい。スペシャルプレートですね。すぐに作ります(お子様ランチ、と……)」

 

「~♪(美味しい)」

 

 そして次に食堂で料理長に声をかけるがそれを断られ、料理人に師匠特製のスペシャルプレート(お子様ランチ)を頼むと旗付きのオムライスやハンバーグにプリンやジュースなどをお腹いっぱいに食べる。そうして機嫌が良くなった師匠は先ほど隊員にからかわれたことを忘れ、鼻歌交じりに次の場所へ。

 

「ライゼン殿。手合わせを頼めないだろうか」

 

「すまないな。昨日から今朝方までハンティと戦っていて少し疲れている。また今度にしよう」

 

「……わかった。……………………」

 

「…………もしかして上に乗りたいのか?」

 

「……別にそんなことはない。それよりも、ライゼン殿が無理ならハンティ様はどうでしょうか?」

 

「あー……戦いたいのは山々なんだけどこれから仕事があってさ。後でまたレオンハルトの修行に合流するからその時でもいい?」

 

「レオンハルト様と…………わかりました。ではその時はよろしくお願いします」

 

 次に中庭でライゼンとハンティに声をかけるも運悪く断られてしまう。その際にライゼンを見上げていたが、別に他意はない。ただ師匠はかっこよくて強そうなものが好きなだけだ。

 

「中々戦う相手が見つからないな……」

 

「ああ、師匠さん。こんなところに」

 

「む……エクレアか。私に何か用か?」

 

「いえ、昨日の魔軍との訓練における親衛隊からの報告書がまだ上がってきていないので確認をしに来ましたわ」

 

「報告書……ああ、すまない。部屋に置き忘れてしまった。今すぐ取ってこよう」

 

「でしたらこのまま一緒に向かいますわ」

 

「手間を取らせてすまないな」

 

「いえ、大した手間ではないのでお気になさらず」

 

 そして再び城の中を警備がてら歩き回っていると今度は副メイド長にして事務仕事をよく行っているエクレアが報告書が提出されていないと師匠に確認を取る。うっかり部屋に置き忘れていた師匠はエクレアを伴って城内にある自らの私室へ向かう。

 そのやり取りは別段子供っぽくはない。だが、部屋に辿り着くと……。

 

「すまない。少々散らかっている。探すから待っていてくれ」

 

「いえ、まあ……はい。待ちますけど……」

 

 師匠の部屋はかなり散らかっていた。床には漫画本や雑誌。脱いだ衣服や下着が散乱し、食べかけのお菓子が封を開いた状態で放置されている。足場がないほどのゴミ部屋で汚部屋という程でもないが、普通にだらしのない私生活を送っているのがありありとわかる部屋だった。

 そして部屋の中でベッドの下に手を入れたりして報告書を探す師匠を見て呆れるエクレアだが──そこに音もなく現れたのは。

 

「──また何をやっているんですか貴方は」

 

「む……お前か。何の用だ? 私は今報告書を探している」

 

「報告書ならこっちにありますよ。──どうぞエクレア様」

 

「あ、はい。ありがとうございますわ(いつの間に……)」

 

 輝くような銀髪に師匠より頭1つ分小さく、それでいてスタイルは同樣に抜群でクラシカルなメイド服に身を包んだその人物の名前はメイド長さん。

 その名の通り紅魔城のメイド長であり、女の子モンスターメイドさんの突然変異体である彼女は雑誌の間に挟まっていた報告書を手に取りエクレアに渡し、軽く息を入れる。普段のにこやかな表情とは少し違い、その顔は明らかに呆れていた。

 

「ふぅ、また部屋をこんなに散らかして。毎日掃除をしているのにどうしたらこんなに散らかせるのか……不思議という他ありませんね」

 

「う、うるさいな。別にいいだろう。そもそも私達は魔物だ。部屋で綺麗に過ごすことが出来る方がおかしい。私は至って普通だ」

 

「親衛隊の他の方々も部屋は綺麗に使っておりますが?」

 

「モンスターが料理を不得意とするのと同じことだ。私は掃除も出来ないし部屋を綺麗に使うことも出来ない。魔物は戦うことが本分であるからして私も戦うことだけはできる。モンスターとしては私の方がスタンダードかつ優秀だということだ。ということで私と手合わせするぞ」

 

「しませんよ。それより、戦うことが魔物の本分だという言葉には一理ありますが……女の子モンスターであれば雄と番うこともまた重要なこと。モンスターとして有能と仰るのであればその部分に関しても無視は出来ないはずですね?」

 

「む……」

 

 ここまで淀みなくメイド長さんと言葉の応酬を行っていた師匠の口が止まる。2人は共に女の子モンスターの突然変異体であり1000年以上の付き合いがある友人同士。だからこそ気兼ねなく言い合うことが出来るし、相手のこともよく分かっている。──だからこそメイド長さんは師匠を上手く追い詰めるために戦うことだけでなく番うことも女の子モンスターの本分だということを師匠に認めさせる。

 

「それはまあ……そうだな」

 

「そうですよね。ではレオンハルト様の前ではふにゃふにゃになってしまう貴方より、しっかりとご奉仕している私の方が上──そうですね?」

 

「ふ、ふにゃふにゃになんてなっていない。全くどいつもこいつも……私だってレオンハルト様のことは勿論愛しているんだ」

 

「ええ、理解していますよ。慕いすぎて親衛隊を創設したくらいですしね」

 

「当然のことだ。あの方は……魔物にとっての光だ。私はその光が世界を照らすところをほんの少し側で見て支える……それだけで構わない」

 

 師匠は真剣な表情でそう口にする。その想いには先ほどまで呆れていたエクレアも口を挟まない。メイド長さんもまた優しく微笑みながら告げる。

 

「──とは言いつつレオンハルト様の番になる夢を見ているんですよね」

 

「違っ……くはないが……くっ……それはずるいだろう……レオンハルト様と番になりたくない女の子モンスターなどいるものか……」

 

 否定しようとして否定しきれない。だんだんと尻すぼみになっていく師匠の目は逸らされ、頬も赤い。女の子モンスターは人間の女性以上にその欲求が強く、そして強い者に憧れる。最強の女の子モンスターである師匠はあらゆる雄よりもレオンハルトが優れていると断じている。

 そのためかつてはたった1人でレオンハルトの親衛隊を名乗り、城の警備兵となった過去もある。それを見て使徒のキャロルが親衛隊の創設に賛同したことで親衛隊は出来上がった。

 そのため使徒のキャロルとはかなり仲が良く話も合う。休日に互いの部屋でレオンハルトの話題で盛り上がるくらいには距離が近く、同時にレオンハルトからも信頼されているが……それでも師匠がメイド長さんや料理長のように使徒になったり大きく望みを口にしないのはそれだけレオンハルトに忠誠を誓っているからこそだ。

 もっとも城の中で完結する職務に従事しているメイド長さんや料理長と違って師匠は親衛隊であるため外に出なければ本領を発揮できない。

 それなのに寿命を気にしてレオンハルトが中々外部での任務を行わせないことは歯がゆく思っているが……レオンハルトの想いも無碍に出来ないため言う通りにするしかない。

 

「出来ればもう少しお役に立てれば……そして可能であればもう少し戦いを楽しめればいいんだがな」

 

「──その願いもきっとレオンハルト様なら叶えてくれる筈です」

 

「……ああ、そうだな。レオンハルト様のためならこの命も惜しくは──」

 

「いえ、そういう気休めではなくて。具体的な話です」

 

「? どういうことだ?」

 

 覚悟に水を差すようなメイド長さんの言葉に疑問符を浮かべる師匠。エクレアも同樣だったが、メイド長さんはいつも通り涼しげに微笑む。

 

「さて、私の口からはまだ言うわけにはいきませんが……独り言です。私やあなた。それにエクレアさんもですが……紅月様のように贈られるかもしれませんね」

 

「!? 紅月様のように……?」

 

「えっと、それは……いえ、もしかして……」

 

 メイド長さんの独り言。そこから出てきた名前に師匠は意味を理解出来ず、エクレアはもしやと表情を変える。

 その反応の差を見てくすりと笑うメイド長さんは、直接的な言及こそ避けたがこう言っている。あの魔人になったレオンハルトの娘。その母親のように、と。

 

「白兎様の親孝行。恩返しにはレオンハルト様も紅月様もお喜びになっていましたね。まさかあのような方法を行うとは私も予想出来ませんでしたし、アルベルト様やカイゼル様、ルイゼル様といった()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やっぱり……!」

 

「?? ……どういう意味だ?」

 

 ──エクレアはメイド長さんの言葉で確信する。自分達下級使徒の人間や女の子モンスターの中から、()()()()()()()使()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

多くの女と愛し合う男は全員を納得させなければならない。

 なぜなら全員を平等に愛するということは、物理的に難しいからだ。女が増えれば会う時間や抱く回数だって変わってくるし、そもそも出会ってからの時間によっても感情は左右される。

 

 俺は出来る限り女を平等に愛するようにしているとはいえ──それでもだ。実際には確かに特別は存在する。

 たとえば古くから俺に仕えてくれていて俺に愛を捧げてくれたNC期の人間であるリムなどのメイド達と、最近になってメディウサの人間牧場から救った198人の美少女達にはどうしたって差はあるのだ。俺は俺に感謝して忠誠を捧げると言ってくれている彼女達を受け入れているし可能な限り愛を与えるが、使徒や魔人の女達よりは頻度も少なくなってしまうのは否めない。

 ただ相手が納得しているのであれば平等じゃなかろうが許される。俺の女達が皆納得して俺と関係を持っているように。

 つまるところその納得を作り出すのがハーレムの主である俺の仕事であり責務だ。そのためには1人1人と向き合ってやる必要があり、逃げることは許されない。大多数に幸福を与えることを諦めてはならないのだ。

 

 と、色々考えを巡らせたところでだ。俺の目の前には下級使徒でありながらある意味で数少ない特別になった女もいた。

 それが今、城内にある和室の畳の上。俺の目の前で紅い着物を着崩して着ている大和撫子。極上のJAPAN美人であり、今までとは違う雰囲気を漂わせるその女性。

 

「──それにしても……本当に驚きでしたわね」

 

「……………………」

 

 長い艷やかな黒髪に娘にも似た紅い瞳。艶やかな爆乳美女にして俺の下級使徒の中でも副メイド長を務めていた女──藤原紅月は扇子で口元を隠しながら俺に流し目を送ってくる。

 

「まさかあの子が……白兎が魔王の手によって魔人に変えられてしまうなんて……いえ、それよりも前に私と同じような藤原家の血族がまだ生きていたことも、でしょうか。ふふ、あなた様はそれを予想していましたか?」

 

「……いや、俺にとっても予想外だった」

 

「ですわよね。まあ父上もあなた様ではないにしろ愛の多い方でしたからそれに関しては不思議ではありませんでしたが……ただ白兎に関しては魔王ガイからそれほどまでに想われているとは。……一応聞きますが、魔王様は白兎のことをどう思っていると?」

 

「異性に対する好意ではなくあくまで友人だそうだ。俺の目から見てもそう思ったし釘も差しておいた。手を出したら殺すと」

 

「まあ……あなた様の立場からすれば不敬ではありますが親としては当然ですわね。ただ……」

 

 と、そこで紅月は俺との距離をずいっと詰めてくる。髪を艷やかに保つための甘い香りが鼻腔をくすぐる。俺の胸にしなだれかかってきた紅月は重く柔らかい。重いというのは実際に重いわけではなく、女性としてしっかりした肉体を持つという意味で気持ちいいという意味合いだが、その単語を口に出すことはない。

 だが特に着物の衿から覗く深い谷間にはどうしたって目を奪われるし魅力的だ。たっぷりとした質量から生まれる深い陰影には吸い込まれそうになるし、俺もこんな時でなければ手を差し入れてしまうかもしれない。

 だが今はそういう時ではない。プレッシャーを感じているからだ。魔人である俺だが、どうしたってこの話題に関しては俺に非があるし、女性側に強く出れる筈がないのだ──子供の話ともなれば。

 

「白兎を魔王様の護衛に命じて独り立ちを許す……そちらの方が私にはとても意外でした」

 

 紅月がその紅い瞳をじとっと俺に向けてくる。上目遣い。その顔立ちは美しく見惚れて然るべきものだが、俺は若干汗を掻きながら目を逸らす。これでも悪いとは思っていた。確かにあの時、母親である紅月の顔が思い浮かびはしたが白兎の覚悟を認めてそう言ってしまったのだ。

 だから正直バツが悪かった。俺は普段よりも歯切れが悪くなってしまう。

 

「あれは……まあ、その、なんだ。白兎がガイの役に立ちたいと。それに他の魔人から身を守るためにも魔王の側近という立場は使えると思ってだな……」

 

「ええ、ええ、そうでしょうね。理解は出来ます。あなた様なりにあの子のことを思ってそう決めたことに疑いはありませんわ」

 

 魔人筆頭や魔軍参謀という立場。世界最強の剣士や魔物界の英雄という称号のなんと虚しいことか。家庭ではそんな称号はなんの役にも立たないのだと俺は思い知る。

 有史最大のハーレムを築き、複数の女と関係を持つ俺もこの話題だけはどうにも強く出れない。やはり悪いと思っているからだろうか。あるいはそういうものなのだろうか。子供のことや家庭のことで怒っている雌には雄は強く出れないように出来ているのかもしれない。

 紅月は俺の耳元、頬にキスが出来そうな距離まで近づきながら文句を告げてくる。

 

「ええ、分かっています。私はあなた様の子を産んだとはいえ下級使徒の身。魔人であるあなた様とは立場が違いますし、政の話に口を挟む権利はありません。ですが……一言くらい私に相談があってもよろしかったのではないかと……」

 

「あ、ああ。それは……そうだな。悪かった。許してくれ」

 

「うふふ、女性と愛を紡ぎ合う時はあんなにも口が上手ですのにこういう時は口下手ですのね、あなた様は♡」

 

 俺は平謝りするしかない。紅月も何もキレているわけではないのだろうが、多少怒ったのは事実だろうし、性格的にそれを材料に俺を詰ってきている。狙いは分かってるし別に拒否る理由は何もないのだが、このやり取りも甘んじて受け入れるしかない。

 

「……まあよいでしょう。元より許すなんてそんな上からの物言いをするつもりはありませんわ」

 

「いや、この件に関しては俺が悪い。だから何か詫びがしたい。望みがあるなら言ってくれ。俺の力で叶えられることなら叶えよう」

 

「でしたら──」

 

 と、そこで紅月は告げてくる。その紅い瞳が煌めき、勝負どころだと言わんばかりに真正面から俺の目を見つめながら。

 

「──あの子の使徒になった私を、あの子の望み通りあなた様の実質的な使徒として……女として、お側に置いてくださいますわよね♡」

 

 ──そう、そうなのだ。紅月は俺の知らない間に、いつの間にか白兎の使徒になっていた。

 

 そのことに関して俺は最近になって白兎から手紙を受け取った。JAPANに旅立つ前に紅月に渡していた置き手紙。その文面を俺は思い出す。

 

『拝啓 新たな年の瀬に希望をはせるこの頃、父上におかれましては魔人として健やかすぎるお過ごしのことと存じます。

 さて日頃は何かといたらぬわたしをここまで育ててくれたこと。魔人になったわたしを認めてくれたこと。口で言うのは面映ゆいため文面になってしまいますがとても感謝しております。

 ですのでわたしなりに考え、父上母上に御恩返しを。旅立つ前に出来る親孝行は何かと考え、母上と相談したところ母上の寿命をなくすために母上と血の契約を行い、勝手ながら使徒と致しました。その上でわたしは母上に対する命令権を完全に放棄し、父上に贈ることにします。契約を交わしたのはわたしですが実質的に母上は父上の使徒ということでこれで内に籠る必要もなく好きに生きることが出来るようになるかと思います。

 それではまた。気が向いたら帰りますしまた手紙も送ります。どうか末永く母上を愛してあげてください。

 敬具 藤原白兎』

 

 ……と、そんな手紙を受け取った。

 つまりは白兎が親孝行として紅月を使徒にし、それを俺に贈ると……中々にとんでもない内容なのだが、まあ、理由は分かる。確かに白兎としても母親である紅月のことは気がかりだろう。永久保護魔法で城内にいる限り老いは存在しないとはいえ、母親と同じ時間をこれからも過ごしたいし自由に過ごしてほしいと思うのは普通のこと。

 実際俺も城に籠りがちな下級使徒のために今度作る城は城の中に下級使徒専用の街を作ろうと思っている。俺も信頼出来る相手は全員使徒にしてやりたいところだがそういうわけにもいかないからな。それくらいの配慮は当然のことだ。

 ただそれでも完全な自由というわけではない。まあ俺の下級使徒である時点で別に自由はないのだが、外出に関して制限があるという意味では変わらないものだ。

 しかしこれで紅月は老いなどを気にせずに外に出ることが出来るし、今まで外出の際には下級使徒を連れずに使徒達や魔物兵に俺の世話をさせていたのだが紅月の場合は白兎の使徒になったためその制限はなく俺に付いて俺の世話が出来る……ということだろう。その心遣いは有難い。正直急すぎて困惑の方が強かったが子供からの贈り物が父親と母親が仲良く過ごせるように、というものは感動するものがある。

 

 だからこそ戸惑いながらも俺は意を決してそれを受け取るだけだ。期待と好意に満ちた笑みを向けてくる紅月の女性らしい肩に手を添えて俺は言ってやる。

 

「──ああ、当然だ。お前は昔からずっと変わらず俺の女。白兎の心遣いもお前の想いも拒否する理由は1つたりとも存在しない」

 

「レオンハルト様っ♡」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに俺の首に腕を回して思い切り抱きついてくる紅月。

 俺はその温かくて柔らかい身体をこちらからも抱きしめながら更に耳元で告げる。

 

「表向きにはお前は俺の使徒とする。俺と血の契約を交わした使徒とは立場や役割は異なるものになるだろう。具体的には外出の際に今まで下級使徒には頼めなかった世話係を頼むことになる。俺の使徒達と分担する形でな。それで構わないな?」

 

「はい、それで構いませんわレオンハルト様♡ 愛しています……レオンハルト様ぁ……♡」

 

「俺の側に居続けろ。愛しているぞ、紅月」

 

「あぁ……♡ こんなにも素晴らしい日がくるなんて……♡ これで私はレオンハルト様とどこでも居続け……その上で血の契約は交わしていない……つまりは私の方からレオンハルト様に対して攻めることも……♡ ふふふ……♡ 紅月はあなた様の女になれて幸せです……♡」

 

 俺の胸にすりすりと頭を擦り付け、更に使徒になってより大きくなった乳房までむぎゅむぎゅ押し付けてアピールしてくる紅月に愛を囁く。紅月の方は紅月の方で不穏なことを口にしているが、紅月の愛が重いのはいつものことだ。問題はない。

 

 しかし母親を自分の使徒にしてそれを俺に贈るとは……考えたな。

 

 確かにこれならばある意味で母親を特別にしてやれるし、俺にとっても有益なことだ。何しろ俺の魂の容量を使うことなく俺が自由に使える使徒が増えたことになる。もしかしたら優先されるのは俺よりも白兎になるかもしれないがそれに関しては何も問題ない。むしろそうしてほしいくらいだ。

 ただ実際には完全な自由を与えているようだから制限も特にないだろう。若干俺の使徒達がまたざわつくだろうが……まあそれくらいなら問題はない。全員愛してやれば済むことだ。

 

「あぁん……♡ あなた様……♡ ふふ、大きくなった私の乳房……気になりますか♡」

 

「ああ、気になるな。実はさっきから目で追ってしまっていた」

 

「ええ、勿論気づいておりました♡ では是非あなた様の大好きなおっぱいをお楽しみくださいませ……♡ 私の身体は全て、血の一滴に至るまであなた様の物……♡ 全部ぜぇ~んぶ、レオンハルト様の物ですから……♡ んっ、あんっ……♡ もうここがおっきくなってます……♡」

 

 俺は紅月の着物の衿に手を差し入れてその収まりきらない爆乳を揉み上げながら紅月に口付ける。大きいな……10センチ以上は……サイズにして5つか6つくらい上がっているかもしれない。大きいのに大福のようにもちもちすべすべで気持ちの良い感触に夢中になりながら俺は使徒になった紅月と身体を重ねることにした。




今回はここまで。最近次回予告詐欺は流行ってるけど長かったからしゃーないんや。白兎の使徒は今は杏と紅月の2人ですがまだ増える。師匠は前にも言ったけどキャロルとこの師匠のどちらかを最初の使徒にしようとしてたけど没になったのを今更お出しした感じ。なので忠誠心はキャロル並に高い。
次回はいっぱいエロ。そしてそろそろカミーラさんとの約束の日が近い。ガイも出るかも。お楽しみに。

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