スラル「何かいい感じに別れたと思ったらNTRれた。絶許」
――レオンハルトの休暇、三日目。大陸中央部にて。
緑の大地を行く一人の影がある。
黒を基調にした一張羅を着た、背の高い金髪灼眼の男。見た目は人間のもの、しかしその存在感と内に秘める力は普通の人間を遥かに超えるもの。
「ふん、ふ~ん……んぐんぐ」
魔人レオンハルトだ。
魔王城を出立してから三日目。普通よりも少し早い程度の軽い足取りで草原を歩くレオンハルトは、機嫌が良さそうに鼻歌を歌っており、時折手元に持った袋から食べ物を取り出して摘んでいる。
ここまでご機嫌なレオンハルトは珍しい。彼を良く知る部下などが見れば、強い相手でも見つけたのか、と適当に予想して戦闘に巻き込まれないように一目散に逃げていってしまうだろう。
しかし今のレオンハルトは別にスイッチが入って、高揚してるわけではない。間違いなく普段通りの彼である。
故に珍しい。単純に浮かれているというのは。
まるでピクニックに行く子供である。ともすればスキップでもしてしまいそうな程だ。
その理由はやはり、
「長閑だなぁ……」
レオンハルトはそう言って手元の袋から再び、食べ物を取り出しながら、
「休暇様様だな……魔人でも普通に買えたのは有り難いし……おっ、このカレーマカロロ美味いな」
と、同僚の魔人のようなことを言いながら休暇を軽く賛美した。
――とどのつまり、魔人レオンハルトは休暇というものに浮かれているのだろう。
最初は目的地に行って適当に見て回ったら直ぐに帰ろうと考えていたくらいのレオンハルトだが、いざ旅に出てみれば自分一人の時間というのに嵌ってしまっていた。
普段、レオンハルトは魔人四天王、そして魔軍参謀という要職に就いている。その立場上、上司である魔王、同僚の魔人、部下の魔物将軍や魔物隊長や魔物兵。常に自分の傍にいる使徒など、多くの魔物に囲まれて過ごしている。
その生活は常に他の者の目があり、行動は縛られているも同然、何をするにも他者に与える影響を考えて動かなければならない。
それが嫌というわけではない。これでもレオンハルトは普段の生活にそれなりに満足していた。時には苦労することもあれどそれに不満はない。
だが、一度その責務や周囲の目から解放されてみると、
「気楽だな……」
その解放感が思いの外、良いものだと嫌でも理解してしまった。
誰の目も憚ることもなく、一人で好きなことをする。
レオンハルトは思い返す。考えてみればこうやって完全に一人になるのはいつ振りだろうか、と。
おそらくは300年以上前。レオンハルトがまだ人間だった頃、それも王になる前の子供の時以来かもしれない。
集落の外れから剣を持ってよく出かけた記憶を思い出す。強くなる為や、食事の為に狩りに出たというのが大半を占めるものの、少なからず冒険心のようなものがあったのは事実だ。
今の状況はその頃を思い出すもので、
「――お」
と、レオンハルトは目の前に見えたものに思考を中断させた。
丘を登った先、広大な草原の先に見える大森林。そしてその中心にそびえ立つのは、
「……翔竜山、か」
世界最高峰の山、翔竜山。
レオンハルトの目的地であった。
レオンハルトはそれを前に、純粋な感嘆をおぼえた。
……やっぱデカいなぁ……。
無論、見かけること自体は初めてというわけではない。魔軍での遠征時に、遠くにあるこれを見かけたことはある。
それはひとえに翔竜山が大きすぎるためであり、それがレオンハルトが感想をおぼえる理由ともなっている。
レオンハルトは少し顔を上げて山頂を見ようとするも、
「――――」
見えなかった。
何故ならその途中を雲が覆っているためだ。
翔竜山は雲を突き抜けて存在した。その山頂は雲の上にあるのだ。
故に見えない。そこを見るためには実際に登るしかない。
だが、と、レオンハルトは思う。この翔竜山という山を登りきった者は未だ存在し得ないという事実に。
聞いた話によると冒険者などがよく挑戦するらしいが、達成者はいないという。
その前人未到の山を一度は近くで見てみたい、と、レオンハルトは思った。
そして実際に見てみると、考えるのはやはりと言うべきか――
……やっぱり、我慢は無理だな。
聞くところによると、あの山には多くの危険なモンスターが生息するらしい。その中にはドラゴンも多数存在し、多くの宝が眠っているという。
その他にも嘘か本当か分からないような噂の数々。
レオンハルトとしてもそれらには大いに興味がある。特に前者。自分を満足させられるような存在がそうそういるとも思えないが、もしかしたら、という思いもある、
そして、それを置いておいても男なら一度は誰もが憧れるだろう――世界一という、その偉業に。
それに挑戦しないなど男としてはありえない。
故に、レオンハルトはその山へと向かった。
――翔竜山の登頂、未だ誰も成しえていない――その偉業に挑戦するために。
一方、その頃。
翔竜山の麓、大森林地帯。
人類のどの国家にも属さないこの地域は、しかしとある存在の集落があった。
森の中を曲がりくねって通る河川。それに沿うように作られた町がある。
「…………」
その町の入り口に一人の女性の影が見えた。彼女が帰ってきたことによって、日常を過ごしていた集落の者達が一気に活気づく。
そこにいる者達は皆、容姿の優れた女性であり、長い耳と額にクリスタルを持つ種族。
ここは、亜人種――カラーの集落であった。
「――あ、ケッセルリンク様!」
「お帰りなさいませ、ケッセルリンク様!」
「人間との戦い、お疲れ様でした!」
「……うむ」
その女性、ケッセルリンクは出迎えてくれる自分の同胞達の言葉に軽く頷くことで返答とする。そして足早にその場から離れるように、
「……すまない、直ぐに行かなくてならないんだ。通してくれないか?」
「あ、ごめんなさいっ」
ケッセルリンクの言葉に、カラーの娘達が一斉に道を開ける。その開けた道をケッセルリンクは通って行くも、
「きゃーっ! ケッセルリンク様ー!! こっち向いてー!」
「お疲れ様でしたー!」
「ケッセルリンク様が居ればこの集落も安泰ですねっ!」
その際にも戦いを終えて帰ってきたケッセルリンクを讃える声が次々と両側から聞こえてくる。その歓声は鳴り止まないが、それもその筈だ。
彼女は夜の王。カラー最強の女傑とも称されるケッセルリンクなのだ。
カラーの集落ではまさしく英雄的扱いを受けているケッセルリンクは、人間との戦いにおいて最も頼りになる存在であり、その大人びた美貌からも村の少女達の憧れでもあった。
「…………」
だが、周囲の黄色い声援に対して彼女は冷ややかに軽く手を挙げるだけで答える。その盛り上がりに反比例するようにケッセルリンクのテンションは低い様子だった。さらに言うならば随分と、淡々としたようにそれを行っており、義務的とも事務的ともいえる対応の仕方であった。
しかし、これにも慣れている。ケッセルリンクは一つの溜息も漏らすことなく、人混みを抜けると真っ先にその場所へ向かう。
目的地はカラーの集落の奥。比較的賑やかな中心部とは少し離れた場所にある、一際大きな建物だ。
何度かカラーの娘達に囲まれながらも、そこに到着したケッセルリンクは以前と同じように建物の入り口にある門を開き、その先に進むと、
「……私だ」
「――!」
声を掛けながら戸を二回、軽くノックする。すると、何やら中で慌てたようにバタバタと音が鳴った後に、
「お、お帰りなさいませ、ケッセルリンク様」
中から眼鏡を掛けたカラーの少女が息を切らしながら出てきた。女性としては高い長身を持つケッセルリンクよりも少し小さいくらいの背丈であり、肉体は成熟しているものの、その顔立ちや雰囲気には幼いものが混じる。
そんな少女の挨拶にケッセルリンクは眉をぴくりと動かしたものの、
「…………ただいま」
少しの間を置いて、普通の挨拶を返した。その際、ケッセルリンクは息を漏らしてしまう。
「ささ、ケッセルリンク様。中へどうぞっ」
「…………」
少女に先導されるようにケッセルリンクは建物の中に招き入れられる。
中はそれなりの広さと多少の生活感のある部屋であり、キッチンやベッド、戸棚などの生活に必要な物が一通り揃っている。しかしそれでいて、事務机なども置かれており、その上には何枚もの書類が山積みになっている。
それをちらっと、横目で見たケッセルリンクに、タイミングよく先を行く少女から、
「あはは……散らかっていてすみません……」
「……構わない」
軽く笑みを交えて謝罪する少女にケッセルリンクは気にしなくていい、とそう思う。何せここはカラーの集落、その長が使う邸宅であるからだ。カラーの長はこの場所で、執務と生活を行う。多少、書類が散らばっていたところで別に構わないだろう。
ケッセルリンクは書類から視線を逸らすと、室内に置かれていたテーブル。その下座に腰掛けた。応接用に、と置かれたものであるが、外から訪れる客などいないためか、使用された形跡が殆どない。少なくとも外客への用途で使われたことは皆無である。
なのでちょうどいいだろう、とケッセルリンクはそこに腰掛けたのだが、それに待ったを掛けた者がいた。
「あ、ケッセルリンク様。そこは下座ですよ。こちらの上座に――」
「…………」
少女がそう言って、上座を進めてくる。その対応にケッセルリンクは今度こそ溜息を吐いた。
そして一息つくと、頭を抱えながら、
「……そこはもう私の席ではないだろう」
「……で、でも――」
「でも、ではない」
「うっ……」
ケッセルリンクの指摘に自覚があるのか、少女がバツが悪そうな表情を浮かべる。その様子に多少、辟易とした感情を覚えつつ、ケッセルリンクは彼女に視線を合わせながら、
「……カラーの長はもう私ではない。他ならぬ君だ、ペール」
「……うぅ」
そう。現在のカラーの集落の長は――夜の王ケッセルリンクではない。
目の前にいる少女、ペール・カラーこそが、
「き、厳しいですよう……ケッセルリンク様ぁ……」
現在のカラーの長であった。
「……ふぅ、全く君は……とりあえず、座ったらどうかね?」
「はい、座ります! 頼りなくてすみません!」
ケッセルリンクは瞼を閉じ、額に手を当てる。眼前には勢いよく椅子に腰掛け、本で顔を隠しながら、こちらに頭を下げ続ける少女がいる。自分に怒られたとでも思ったのだろう、別に怒っているわけではないのだが、それを言っても、
「謝らなくていい。私は、立場を明確にしておこうと思っただけで――」
「物分りが悪くてごめんなさい!」
「…………」
と、こんな調子だ。更に続く言葉は、いつも通りだろう。その予想通りの言葉が来た。
「あのう……やっぱり、ケッセルリンク様が長であった方が良いのでは……?」
「……私はすでに隠居した身だ」
「で、でも、人間との戦いもありますし……ケッセルリンク様が以前のように長を務めていた方が、民も安心するかと……」
「…………」
弱気から出た集落の長を固辞するような言葉。だが、彼女の言い分はある意味間違っていない。故にその言葉はケッセルリンクの頭を悩ませる。
こんな気弱な少女だが、れっきとしたカラーの集落の長なのだ。
故に、立場を今一度明確にすること、そして、それを言って聞かせるためケッセルリンクは口を開いた。
「……確かにそうかもしれないな」
ケッセルリンクは一度頷いてみせる。実際、それは事実であるからだ。
現在、カラーの集落はこの森の豊富な資源を目的とした人間の国家に侵略を受け、戦争状態にある。
日夜、森に向かって進撃してくる人間の軍団とこちらのカラーの戦士団が激しくぶつかり合っている。その戦況はぎりぎりのところで拮抗している、一進一退の予断を許さない状況だ。
そんな中、先代の長である自分は率先して戦っている。それは自分が圧倒的な実力を持つカラー最強の戦士であり、以前よりこの集落を襲う人間達と戦ってきた実績があるからだ。
それ自体は構わない、とケッセルリンクは戦うことを否定はしない。隠居はしているものの、集落の危機であるなら戦うべきだし、現在の長から戦え、と命令されたなら集落に属するものとして戦うべきだと思う。
そして自分が戦うことで士気が上がるのならそれもいいだろう。長に戻るというのも集落のことを思えば悪くない選択肢だ。
それをしたくない個人的な理由もあるものの、そちらはまだ我慢できる。さほど重要なことではない。
問題は別にある。それを改めて口にしようとする前に、ペールが先に声を上げた。
「なら、やっぱりケッセルリンク様が長に……」
出てきた言葉は先程と同じ、こちらに長を譲る、というそんな頼りない言葉。
故に、ケッセルリンクはそれを遮るように、
「――駄目だ」
「っ……」
鋭い拒絶の声に、ペールが身体を跳ねさせる。ケッセルリンクは出来るだけ厳しくなりすぎないように、それでいて優しすぎないように努めて声を出す。
「確かに、私が長になれば士気も上がるだろう。力ある者に頼ること。その選択自体は長として恥ずべきものではない。だが――」
分かっているだろう、とケッセルリンクは彼女に再度言い聞かせる。
今日まで何度も告げた事実を、ケッセルリンクは神妙な様子で言葉にした。
「――私はもう、長くない」
「! そ、それは……」
その言葉にペールの表情が泣きそうな、それでいて絶望したような、暗い表情に変化する。
しかし、事実だ。とケッセルリンクはそれを口にするのを止めない。
「私はもう百年以上生きている。もうじき”変化の時”が訪れるだろう」
変化の時。それはカラーという種族にとっては常識だ。
カラーには老衰、そして寿命が存在しない。
比較的、人間よりも早く時を経て成長するカラーだが、生物として理想的な状態になると成長が止まり、以後はその姿、いわゆる成体のまま一生を過ごすことになる。
だが、カラーにも人間でいう寿命に近いものがある。それが変化の時だ。
カラーは今までの行いに応じて、天使か悪魔に転生するという特性を持ち、それをカラーは変化の時と呼び、一般的な寿命としている。
それが訪れるまでの年数は個人差があるものの、大体90年以上。
およそ100年生きる頃には殆どのカラーが変化の時を迎え、良い行いの者は天使に、悪い行いの者は悪魔に転生するのだ。
そしてケッセルリンクはもう100を越えているのだ。
残された時間は決して多くはない。故にケッセルリンクは真剣な声色でそれを伝える。
「生きている内に戦えるだけ戦わせ、使い潰すならそれでも構わない。しかし――」
自分は今この時にすら変化の時が来てもおかしくないのだ。それこそ戦いの最中にそれが来ても不思議ではない。そんな存在に頼りきってしまうのは危険だ、とケッセルリンクは警鐘を鳴らす。
「私がいなくなっても戦いは続くだろう。その時、君は、君たちはどうする? 座して死を待つか?」
「そ、そんなことは――!」
「なら、もう少し自覚と。そして、自信を持ちたまえ。私はそうならない為に選択したのだし――」
それに、
「私は――自ら足掻こうともしない者を助けるようなことはしない」
「……!」
長であった頃はその限りではないが、とケッセルリンクは暗に長として責任を仄めかしながらそう言った。そんな自分の矜持でもある厳しい言葉にペールはさらに顔を暗くしてしまう。
……乗り越えてほしいものだが……。
臆病なのはしょうがない。しかし彼女ならば、とケッセルリンクは信じる。
ケッセルリンクは90を越えた頃には、次の長の任命を行った。その時になってからでは遅いだろう、と。
そして選んだのが目の前にいるカラーの少女、ペール・カラー。
次に長になるのは思慮深く、広い考えを持つ者がいいだろう、と考えて選んだのが彼女。
それは現在の状況は非常に難しいこと。そして、ケッセルリンク自身が凝り固まった考えの持ち主であるからこそだ。
カラーという一族は生きるに難しい、とケッセルリンクは思う。
世に蔓延る多くは魔物と人間であり、一応亜人ではあっても純粋な人間ではなく、特殊な生態を持つカラーは人間の庇護を受けにくい存在だ。
そのため、カラーは今まで魔軍にも人類国家にも属することなく自らの生活圏を守るため独立して戦ってきた。
幸いにもカラーは生まれつき高い魔力と人間に比べて比較的高い才能を持つ。さらには老いが存在しないことで成体になれば変化の時を迎えるまでは全員が全盛期の状態で戦うことが出来る。
だが、人間には数で敵わず。魔軍には数と質、両方で敵わない。彼らは強い欲望の権化であり、いつの時代でもカラーは虐げられる存在だ。
特に人間の男というのは劣悪極まりない愚かな存在であり、女性を性欲の捌け口か道具のようにしか思ってない輩が大多数を占める。
そんな、かの勢力と同等以上に戦い、なおかつ生き残るためにはそれ相応の何かが必要である。
自分はそれを見い出すことが出来なかった。恭順することも考えられず、戦う以外の選択肢を持たなかった。
幸いにも自分には逆境を跳ね除けるだけの力があり、それをこなすことが出来たもののこれからはそうはいかないだろう。
彼女はカラーの中でも知識が豊富で視野も広い。そういった複雑な状況に対応出来るだけの下地を持っている。
後は少しの度胸と自信だけ。しかし自分の存在がその成長を妨げている、とケッセルリンクは思っていた。
……良い機会かもしれないな。
ケッセルリンクは話の流れで、それを考える。元より、そろそろだと思っていた頃だ。
一度息を入れ、未だ俯いているペールを見る。そして一度だけ心の中で彼女に謝ると、そのまま考えていたことを口にする。
「……私に頼る時代は終わりにしよう」
「け、ケッセルリンク様……?」
ケッセルリンクは立ち上がる。自分を見上げるペールを突き放すように、
「今この時を境に――私は戦場に出ることをやめよう」
「――!?」
ペールの表情が驚愕に染まる。無論、本当に危ない時、例えばこの集落まで敵が襲撃してくるようなことがあればケッセルリンクも戦うだろう、その時にまだケッセルリンクがこの世に存在していればの話だが。
しかしそれをわざわざ口にはしない。それを言ってしまっては同じことだ。彼女たちは自分に頼り続ける。
彼女の表情に少々の罪悪感を覚えつつもケッセルリンクは言葉を続けて、
「私を恨んでくれても構わない。厳しいようだが……君も含めた集落の皆も、私がいては成長しない」
だから、
「私は舞台から降りよう。これからは君たちの力で奮起したまえ」
そう言ってケッセルリンクは踵を返す。
だが、やはりと言うべきか、背後からは、
「そ、そんな――! ま、待って下さい! 行かないで下さいケッセルリンク様!!」
必死に追いすがるような声が聞こえてくる。それに構わずケッセルリンクは歩みを進めた。
「わ、私には無理ですよう……!」
「…………」
震える声が耳に届く。おそらく、実際に身体も震えているのかもしれない。
戸を開き、外に出る前にケッセルリンクは一度立ち止まる。
最後に彼女に言葉を掛けよう。それこそが自分がカラーの長として、そして前任者として彼女に出来る最後の手向けなのだ、と。
その意味を込めて、ケッセルリンクは彼女に告げた。
「君なら出来る」
「――っ」
「再度言う――私が選んだのだ。自信を持て」
励ましの言葉を宙に放ち、微笑を浮かべると、背後に自身の後継となる少女を置き去りに、ケッセルリンクはその場から立ち去った。
たった一人、その場に残されたペールは俯いたままであり、
「わ、私は……」
その表情を窺い知ることは出来なかった。
スラル「……なんか良いこと言ってるっぽいけど、どうせこの後直ぐにメスの顔になるんでしょ……?」
ケッセルリンク「…………」(目逸し)