※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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魔軍参謀がいない日

 大陸に生きる人類種の生活を脅かし全ての敵となる存在である魔物。そして実際に大きな脅威となり、数と力で以って人間を襲う魔軍。

 そんな彼らの本拠地が魔王城であり、多くの魔物兵や魔物隊長、魔物将軍が詰め、使徒と魔人、そして魔王が御わす場所。

 しかしその場所には現在、魔軍のキーマンである男の影が無かった。

 魔人四天王の一角を敷き、魔軍参謀という要職に就く金髪灼眼の魔人――レオンハルトのことだ。

 それもただいない、というわけではないし問題にもならない。魔王城にいないだけなら魔軍の遠征の際に何度もあることだし、特別珍しいことでもないからだ。

 しかし今回の不在は意味が違う。なにせレオンハルトが魔人となってから初めての長期休暇なのだ。それはつまり、彼が暫くの間、何の仕事にも関わっておらず、どこにいるのかも一部の者を除いてわからない。また居場所がわかったとしても彼を頼りにすることはできない。

 そして普段から様々なことに関わっているレオンハルトがいないということで、少なからず影響が出ていた。

 しかし中には――

 

「カミーラ様。本日のご予定は如何が致しましょうか?」

 

「……いつも通りでよい」

 

「畏まりました。私は幾つかの仕事をこなしておきますので何かあればお呼びください」

 

 普段と全く変わることなく日常を過ごすとある元ドラゴン種の主従や――

 

「チッ……レオンハルトがいないんじゃあ少し気をつけねぇとな……かふかふ」

 

 レオンハルトがいない時はいつもよりも慎重に行動するようにしているリスの魔人がいたりしていた。

 だが、そんな中でもレオンハルト不在の影響が最もある場所が二箇所存在した。

 

 

 

 

 

 魔王城二階、会議室。

 そこでは多くの魔物将軍による会議が行われていた。

 長方形の机の上座、その直ぐ横には進行役を務める黒髪の女性が幾つもの書類を手に持っており、それを上から順に読み上げていく。

 

「――それじゃ、次の議題は……ん……戦略目標についての請願書か。担当の魔物将軍は?」

 

「はっ、私です」

 

「ん、それじゃどうぞ」

 

 進行役の言葉を受け、一体の魔物将軍が挙手をする。そのまま彼女に促されると、少しだけ手元の書類を確認して、上座を見据える。

 そして部屋全体に聞こえるほどの声量で、彼は意見を具申した。

 

「昨今の人間界の情勢は、繁栄著しくどうにも調子づいている様子。特に、我々魔軍と交戦を行っていない国家を中心に勢力を拡大させ、人間同士で戦争を行う始末であります」

 

 最初に述べた前置きに、ふむ、と頷く声が出るも、周囲の魔物将軍らは古参の者を中心にこの請願が何を要求するものかを一瞬で理解した。

 そしてその予想通りの言葉が魔物将軍から放たれる。彼は上座に座る金髪の少女に向かって強い意思を込めた言葉をぶつける。

 

「我々魔軍を無視してそのようなことをするなど言語道断。世界の支配者は我々魔物なのです。故に――」

 

 彼はあくまでも淡々とした様子で言う。表面上は。

 

「――ここは調子に乗っている人間国家に鉄槌を下してやるべきでしょう。……つきましてはその任を私の軍にお任せ頂ければとお願い申し上げます」

 

「…………」

 

 その言葉に多くの魔物将軍らは、やはりそういう魂胆か、と予想が当たっていたことを確信するとともに、半ば呆れながら意見を出した魔物将軍に対して鼻白む。

 だが、実のところこの手の要請は数多くあるのだ。魔物というのは基本的に、良く言えば好戦的、悪く言えば野蛮であり、特に魔軍に所属する者などはその傾向が強い。それでいて人間を虐げて良い思いをしたいといった欲も強く、人間の町を攻めたい、と思う魔物は数多く存在するのだ。

 この場に多く出席するレオンハルト閥の魔物将軍達ですらそういった思いがないとは言えない。ただ彼ら場合はその種族特性上、頭が回ること、そして組織の規律や部下の統制を重視するため、ある程度の自制心や理性が働くので我慢が出来る。

 なのでその点は別に構わない。彼らが気にいらない理由は、敢えてその要請を、レオンハルトが休暇でいない間に出してきたことだ。

 魔軍の実働、その実質的なトップがレオンハルトであり、何か要望があれば彼を通す必要がある。

 しかし彼はこういった要請には滅法厳しく、納得するに足る理由やメリットがなければ基本的には通らないと見ていいし、そもそも彼に意見を述べるのも結構な重圧が掛かる。

 私欲に則った意見や疚しい動機は即座に見抜かれてしまっているのではないか。そう思うほどの強い視線がレオンハルトから向けられるのだ。

 彼に直接意見をぶつけるのは憚られる。なので今を狙ってきたのだろう。ましてや今この場の責任者はこの方なのだ。

 魔物将軍達はその要請に、どう答えるのか、上座に座る人物に注目する。そこに座する彼女は金髪ツインテールの少女であり、

 

「………………」

 

 魔人レオンハルトの使徒――キャロルだった。

 魔軍参謀であり、本来のその席の持ち主である主に代わって、代理を任されたキャロルはその席に座って議長の役割を果たしている。

 普段は快活で純粋な性格であり、主であるレオンハルトを心から慕うキャロルは、仕事には忠実だが、どうにも緊張感に欠けるような、気が抜けるような振る舞いをすることもあって、使徒にしてはあまり緊張しない相手だ。

 なのでレオンハルト相手では言いにくいことも言いやすいし、ともすれば意見も通しやすいかもしれない。そんな目論見もあって魔物将軍は満を持して、意見を出したのだが、

 

「………………」

 

 彼女は、未だぴくりとも動かなかった。腕を組み、瞳を閉じたまま微動だにしない。その要請を耳にしたというのに、キャロルは考え込んだようにそのままの状態で居続けていた。

 普段の彼女ではありえない振る舞い。普段であれば即座に声を上げそうなキャロル。

 しかし今のその様子は、彼女の主であるレオンハルトのように、その意見をじっと思案しているように見えた。

 そこでようやく、おや? と魔物将軍達がキャロルの様子を見て期待する。

 これはもしかするともしかするかもしれない。キャロルがレオンハルト張りの思慮深さを発揮し、魔物将軍の要望を却下してくれるのやも、と。

 要望を出した側である魔物将軍も、普段とは違った様子のキャロルに胸騒ぎを覚える。

 キャロルの次の発言の如何によって決まる。緊迫した空気の中、魔物将軍達はその発言を待った。

 が――

 

「………………」

 

 一向に口を開く気配がない。一体どういうことなのか。思案を重ねるのは良いことかもしれないが、それにしては些か長過ぎる気がする。それほどまでに迷っていることや、何か思うところがあるなら一度それを口にしてもよいところだ。この場には要望を出した魔物将軍以外にも多数の魔物将軍がいる。口に出すことで考えがまとまる可能性もあるのだ。

 ……だが、どれだけ待ってもキャロルは動かない。こうなっては他の者が声を掛けたりするところだが、この空気では最初に声を出すのは少し憚られるところだ。

 

「……キャロル?」

 

 そんな中、声を掛ける役目を果たしてくれたのは、進行役を務めている一人の女性。

 魔人レオンハルトのもうひとりの使徒――ハンティであった。

 彼女がこの場にいるのは珍しい――どころか初めてのことであった。

 何でも彼女は、他の魔人の使徒と違い、その殆どの時間を主であるレオンハルトから離れて過ごしているらしい。そのため魔軍に所属するほとんどの者が彼女を知らず、レオンハルトと多く関わる魔物将軍達ですら見かけたことは殆どない。それほど姿を見せるのは珍しい人物だ。

 その実態には謎が多く、おそらくはレオンハルトからの命令で何かの任務に就いており、そのためあまり姿を見せないのでは、というのがレオンハルト麾下の魔物将軍達の見解だ。

 しかし珍しいからといって舐めている者はほぼ皆無だ。と、いうのもハンティはレオンハルトにその強さを見込まれて使徒にされたらしく、実際にレオンハルトに師事しているらしい。

 

 そのためか、妙に貫禄があり、魔物の中でもそれなりの強さをもつ魔物将軍達から見ても、その佇まいには全く隙がない。それもあってハンティは、それ相応の畏怖を集めているのだが――今この状況においては、あまり重要ではない。

 今この場で重要なのは、その立場。ハンティがキャロルと同じ使徒であるということだ。

 幾らキャロルが普段は緊張感の欠片もないような立ち振る舞いであったとしても、彼女は使徒なのだ。そして魔物社会は縦社会。その立場が魔物将軍達より上位の存在であり、実力すらも上の相手。そんな相手の気に障るようなことは出来ない。キャロルに限ってないことだとは思うが――万が一、相手に不快に思われたら殺されるかもしれないのだ。

 

 そうでなくとも立場は弁えるべきだ。そういった組織の規律を、レオンハルト麾下の魔物将軍達はよく知っていたし、常日頃から遵守してもいる。

 レオンハルトが下の者に寛大であっても、自分達がそれに甘えて度が過ぎた振る舞いをしてはならないし、その逆も然りだ。弱者であっても立場が上なら敬意を払い、立場が下であっても実力があれば敬意を払う。規律的で軍人然とした個体や、好戦的で武人然とした個体が多くを占めるレオンハルト麾下の魔物将軍。彼らの信条がそれであった。

 

 ――と、大袈裟な矜持を持ち出したところだが、実のところ古参の魔物将軍達であればキャロルに声を掛けるくらいはごく普通に可能なのだ。

 ただまあ、同じ使徒であるハンティが声を掛けてくれるのであればいいだろう、という程度のことでしかない。

 と、魔物将軍らが見守る中、ハンティはキャロルに近づく。そしてもう一度、

 

「キャロル?」

 

 と、声を掛けると――

 

「…………すぴー」

 

 ――不意に、寝息を立て始めた。

 

「…………っ!」

 

「ぐ…………!」

 

 その信じられない光景に、レオンハルト麾下の魔物将軍達は揃って声を上げそうになり――しかし、それを鋼の意志で抑えた。これほどツッコミどころ満載の醜態を見せられてもその相手は自分達の上役である使徒なのだ。これが部下や同僚であるなら容赦なくその横っ面をぶっ叩いて目を覚まさせてやるのだが、相手は部下ではない。

 

「……ふにゃ……レオンハルト様……それは駄目、ですわ……すぴー」

 

 キャロルが寝言を漏らし、締まりのない笑みを浮かべた寝顔を見せる。

 今すぐその一本だけハネてるアホ毛を引っこ抜きたい衝動に駆られるもそれを自粛する。もしくは大声でツッコミたいところだが、それも抑える。

 魔物将軍達は思う。自分達は規律あるレオンハルト麾下の魔物将軍なのだ。その自負と誇りを捨てはしない。

 ……だが、レオンハルトがこの場にいれば、もしくはこの光景を見れば、容赦なくぶっ叩け、とも言いそうな気がする。妙にノリがいい時があるからあの御方は不思議だ。

 一体どうするか、魔物将軍達が自問自答を行っていると不意に動いた影があった。

 

「…………はぁ」

 

 ハンティだ。彼女はそんな幸せそうな寝顔を見せるキャロルを見て、溜息をつく。

 そして次の瞬間、目を見開くとキャロルに向かって手を向け、

 

「――なぁに寝てんのさっ!? 雷撃!!」

 

「きゃふんっ!?」

 

 雷の魔法を浴びせた。雷の衝撃と痛みがキャロルの全身に一瞬で行き渡ったのだろう。妙な声を上げながら飛び上がるようにして目を覚ました。

 

「――あれ? 皆さんお揃いのようで。おはようございますわっ!」

 

「おはようございますわ、じゃない。何会議中に寝てんの」

 

「……あら? そうでしたか? そうだとしたら……寝顔が見られてしまい恥ずかしいですわ……」

 

 キャロルがしゅんと項垂れるのを見てハンティが、まったく、と呆れるように頭を抱える。同時に魔物将軍達は安堵したように息をついた。

 穏便に収拾がついて何よりだ。ツッコミを入れるのもどうやら避けられそうである。自分達にとってキャロルは上司なのだ。如何に恥ずかしいことをしようと――

 

「……あれ? でも会議中だというのにレオンハルト様がいませんわ。ということは……これは夢ですわね! そうと決まればレオンハルト様の部屋でレオンハルト様召喚してあんなことやこんなことを……きゃんっ! レオンハルト様、恥ずかしいですわ!」

 

「恥ずかしいのはその頭の中身だ!!!」

 

 身体をくねくねと悶えさせるキャロルに、敬語すら忘れ、魔物将軍達は言葉を合わせた。

 

 

 

 

 

 会議室で魔軍の重鎮とレオンハルトの使徒たちが会議をしている頃。

 いつもと違う光景を見せる部屋がもう一つあった。

 魔王城一階――厨房。

 普段は魔王城の食堂にやってくる多くの魔物達の為に食事を作り続けるコック達の戦場であり聖域。外から連れてこられた人間の料理人である彼らは待遇面での融通もあってそれなりの誇りをもって働いているのだ。

 

 だが、今現在、その彼らの姿は見られなかった。

 お昼のピークも過ぎているとはいえ、食堂に誰も来ないというわけではない。そのため本当なら今の時間も交代で休憩を取るとはいえ、数人は待機しているのが常であった。

 しかし今日に限ってはその習慣も破られる。食堂も今の時間に限り誰も入れないように封鎖されていた。

 このようなことをしては魔物兵からの不満が噴出するように思える。実際、食堂にやってきた魔物兵らは入れないことに一度は憤ったように声を荒げる。

 だが、扉の張り紙に書かれた注意書きを見るとその怒りは直ぐに収まり、仕方ないか、と諦めの言葉を口々に言いながらも素直に去っていった。

 そこに書かれていたのは厨房で働く人間のコックや、魔王城に詰めている魔物兵や魔物隊長、魔物将軍。そして使徒。さらにはあの魔人ですら諦めさせる言葉が書いてあった。

 こんなことが出来る相手は限られている。それどころか、世界に一人しかいないだろう。

 そう。扉の張り紙には、簡潔な一文でこう書かれていた。

 

 ――『魔王様使用中』と。

 

 

 

 

 

 厨房の中央にある調理台には、所狭しに料理が並んでいた。

 その料理はどれも完璧な見た目と香りをしており、その光景は食欲を唆るものであった。

 ――見た目だけなら。

 何しろ厨房に立ち、ひたすらに料理を作り続けているのは何を隠そう、この城の主人であり世界の支配者でもある魔王。

 

「…………」

 

 ――必殺料理人、スラルだった。

 普段はただの魔王でしかない白髪灼眼の少女であるスラル。やることと言えば部屋に引きこもり、せこせことよくわからない研究を続け、新しい魔法や何かを発見してはそれを本に書き続けるか、気にいった部下を部屋に呼ぶことくらい。後は部屋でごろごろとしながらお菓子を食べながら小説を読んではそれに影響されて痛い設定や名前を紙に書いてはそれを妄想しながら悦に入る毎日。

 そんなスラルだが、一度厨房に立ち、可愛らしいエプロンを身に着け、包丁とおたまを手に取れば、その料理は――必殺必中。

 手順通り、手際よく、ともすれば普通に作ってるだけで何の面白みもない材料と調理手順から出来る料理は摩訶不思議。

 見た目と香りは完璧だが、それを口に含めばそこには未知の味が広がっており、天に昇る心地が味わえる。※直喩。

 常人が食べれば発汗、目眩、発熱、手足のしびれ、痙攣、気絶を起こすが、魔人であれば問題ない。※問題しかない。

 それこそが必殺料理人スラル。その真髄。彼女が作る必殺料理は言葉や文字で表すことことは不可能なので、一度食べてみてほしい。そしていつもその練習に付き合わされる俺の苦しみと、それを美味しそうに食べるガルティアの異常さを実感してみてほしい。

 ――とある魔人Lの手記より。

 

「…………」

 

 ラウネアが厨房に隠されていたその手記を見つけて持ってきたので、何となくそれを見ていたムシ使いの魔人――ガルティアは、それを閉じると再び料理に向き直った。

 そして口にするのは料理とその感想。

 

「こんなに美味いのになぁ……。あいつ、見られないと思って無茶苦茶書きやがるな……」

 

 これを書いた奴に心当たりがありすぎるガルティア。というかバレバレである、とガルティアは苦笑する。

 ……どう考えてもレオンハルトだろ、これ。

 そもそもスラルの料理を食べたことのある者は限られているし、それを食べて何とか平気なのは自分とレオンハルト。そしてその使徒のハンティくらいだ。レオンハルトは慣れただけで相変わらず苦しんでいるのだが。

 さらに言うなら料理の練習に付き合っているのはレオンハルトだけなので奴以外はありえないのだ。自分は料理を振る舞われることはあっても料理の練習に付き合ったことはない。レオンハルト曰く、「お前の評価は参考にならん」とのことだ。

 しかしこの手記はおそらく素面では書いていないだろう。ところどころ字が乱れているところを見るにスラルの料理を食べた後、おかしくなった状態で書いたのがこれだろうな、と、ガルティアは推測した。そしてさらに思うのは、これをスラルに見せたらどうなるだろう、とそんな嫌がらせを一瞬思いつくが――

 

「……やめとくか。帰ってきた時にまた前の時みたいに死にかけたらマズいしな」

 

「ガルティア? 何か言った?」

 

「っと……何でもねぇさ。それよりじゃんじゃん持ってきてくれ」

 

「? それならいいけど……」

 

 と、不意にこちらの声に反応したスラルに、ガルティアは手記を隠しながら自然に追い返す。再び調理に戻ったスラルにガルティアは、

 ……あっぶねー……急に振り向くのは無しだろ。

 と、先程まで黙々と料理を作り続けていたスラルに内心で軽い文句をつける。

 そして自分の腹を叩き、

 

「おーい、ラウネアー」

 

「…………?」

 

 ひょこ、と腹に空いた大きな穴から顔を出すガルティアの使徒ラウネア。そんな彼女にガルティアは手記を差し出し、

 

「ほらこれ、元あった場所に戻してきな」

 

「…………」

 

 ラウネアはその手記を手に取ると、言いつけ通り腹から這い出ると、そのまま壁を伝って向かっていった。これで多分、大丈夫だろう。

 ……まぁ、あいつも今頃楽しんでるだろうしな。こういうのは野暮ってもんだ

 ガルティアは普段から働き詰めのレオンハルトを思う。あいつの久々の休暇らしいしなぁ、と。

 さっきのを見られていたら、休暇から帰ってきた時にまた休暇になりそうだった。ガルティアとしても、普段から自由にさせてもらってる分、代わりに働いている友人を労うくらいの甲斐性はある。

 なのでガルティアとしてもレオンハルトが休みを取るのは良いことだと思う。好きなことをする時間くらいあってもいいだろう。

 でもなぁ、とガルティアはもう一つの不安要素を思って微妙な顔になる。

 ……このままでもマズそうなんだよなぁ……。

 それは今も料理を作り続けるスラルのことだった。

 レオンハルトがいなくなってまだ4日程。最低でも後3日は帰ってこない。

 今は特筆しておかしな様子はない。たまにぼーっとしていて、心ここにあらずといった感じになるくらいだ。後は毎日のように料理を振る舞ってくれるくらいだ。

 ガルティアにとって、スラルの料理が食べれるのは嬉しいことだが、同時に不安もある。

 

 それは、3日後。そしてそれ以上、レオンハルトが帰ってくるのが遅くなった時に、スラルが面倒くさい状態になるだろうということ。

 そしてこのままスラルの料理を食べ続けたら舌が彼女の料理の刺激に慣れてしまい、他の料理が味気なくなりそうだという自分に対する不安。その二つだ。

 だが、それを考えながらもガルティアは楽観的に構えてもいた。

 スラルのことは3日後以降にそうなってから考えればいいし、料理のこともまだしばらくは大丈夫だろう。

 それに、レオンハルトのことだ。出立前にああ言ったってことは最低限の日数で帰ってくるつもりだろう。ガルティアはレオンハルトの性格もよく知っていた。

 ……あいつはそういった約束は破らねぇしな。

 故にそこまで心配していない。思うのは一つだけ。

 ガルティアは遠くで休暇を楽しんでいるであろうレオンハルトに向けて言うように小声で、

 

「……ま、俺の舌が肥えない内に帰ってくればいいぜ」

 

「……また、何か言った?」

 

「いや、何でもねぇよ。……へへっ、じゃあ食うか」

 

 完成した料理の山を前に首を傾げるスラルを見て、ガルティアは一応、

 ……それまでは俺が面倒見ないとだなぁ……。

 と、3日後以降を思い、ほんの少し憂鬱となった。

 




スラル「私の出番少ない! せっかく魔王城パートって聞いて期待してたのに!」

ガルティア「いや、あっただろ。出番。ほら、必殺料理人の辺りとか――」

スラル「そうよ、あれ何なのよ! 凄く失礼! そもそも一回も殺してないし!」

ガルティア「……突っ込むところそこじゃねぇだろ」

キャロル「わたくし達のパートの続きはまた今度ですわ!」

ラウネア「…………(具体的には例のシーンの前後に)」
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