※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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ライゼン

 レオンハルトは斬撃を振るっていた。

 戦闘は激化しており、先程からただひたすらに、自分が鍛え続けてきた剣の腕を巨大なドラゴン、ライゼンに向かって振るう。

 

「――ッ!」

 

 今も息を切って力を入れると、白く輝いた体表に刃を打ち付ける。

 身を捻りながら存分に力と体重が乗った斬撃は、しかし、火花と堅音をもって弾かれる。

 その甲殻には一切の傷が付いておらず、レオンハルトは攻撃の手番を終えた。

 瞬間、竜がその身を動かした。四本の足でステップを踏み、その場で回るようにして巨大な白色が視界に迫る。その正体をレオンハルトは即座に判別した。

 ……尻尾か!

 五十メートル級のドラゴンの尾は、当然こちらの何倍にも長く大きい。そしてそれだけのリーチを持ちながらもしなやかに動いた白銀の尾がこちらを振り払うかのように叩きつけられる。

 判断は一瞬。真正面からの防御を不利と断じ、即座に回避を行うために方向転換。屈むようにしながらライゼンの足元を潜り抜けて反対側に回ると、そのまま竜の下側に剣を振るう。

 その心を、ライゼンは正しく察して声に出した。

 

「下側ならどうにかなるとでも思ったか!?」

 

「――!」

 

 言葉通り、オル=フェイルの刃が弾かれる。そして言葉とともにライゼンの前足が迫ってきた。

 その先にあるのは、鋭さと煌めきを放つ爪。こちらの刃と同じ結果をもたらすドラゴンの武器だ。

 身を翻し、竜の下側から離脱すると、彼の前足が地面に突き刺さり、僅かに断裂した。巨体の体重が乗った一撃に地面が揺れる。

 レオンハルトはその攻防の結果を見て、苦虫を噛み潰したような表情で声を放った。

 

「まいったぜ……全然斬れねぇ。それとも、俺の技量か得物の問題か?」

 

「いや、そうじゃないと思うが」

 

 対するライゼンは唸りを上げながらも、余裕を見せた声で語る。

 

「貴様の技量は見る限り大したもんだと思うし、得物の硬さも申し分ない。鈍らじゃあ身体に打ち付けた途端折れてしまうしな。……ただ、俺の身体が硬すぎるだけだ――」

 

 見ろ、とそこでライゼンは自分の前足を掲げてみせた。レオンハルトが視線を向ける中、ライゼンはその足の先の爪をもう一つの足に向かって器用に叩きつけてみせる。

 鈍い金属音が鳴り、火花が飛び散るも、その鱗には傷一つない。その結果を見せて、ライゼンは息を吐いた。

 

「ご覧の通り、自傷すら無理でな。肌から血を流したことは皆無なんだ」

 

 その響きに残念の色を感じ、レオンハルトは訝しむ。何しろそのダイヤの身体はこちらにとって天敵も良いところだし、同じドラゴン種にとっても厄介な代物だろう。

 

「……別にいいじゃねぇか。つまりお前は無敵ってことなんだろ?」

 

 いやいや、とライゼンは首を小さく振って否定してみせた。

 

「別に負けたことだってあるし、痛みや傷を全く負ったことがないわけじゃないぞ? ……でもまぁ、無敵ってのは辛いものでな……」

 

 そう言ってライゼンは頭を上げて、思い返すように続けた。

 

「何しろ、正面からただぶつかれば大概の相手は為す術もなく敗れていくからな……ドラゴンにとっては真っ向勝負で勝利する、ってのは称賛されるべきものだが、俺個人としては面白くない」

 

 その言葉になるほど、とレオンハルトは頷く。このドラゴンはつまり、

 

「つまりお前は、戦いを楽しみたいのか」

 

「然りだ。戦う相手は強く、梃子摺る方がいい。それこそ、俺を傷つけるくらいには強くあってほしいな」

 

 即座に応答する声が届く。それを聞いてレオンハルトは笑みを浮かべざるを得なかった。

 

「違いねぇ。強い相手との戦いは心躍るもんなぁ」

 

「ああ。人間――ではないか。魔人にしてはわかってるな。それが闘争の極意というやつだ」

 

「……ま、それなら良かったな」

 

「?」

 

 言葉の意味がわからなかったのだろう、ライゼンが疑問の色を瞳に覗かせる。それを補足してやるように、台詞を繋げた。

 

「俺が今日、お前に、敗北を教えてやるってことだ。それくらい強い相手と戦えるなら本望だろ?」

 

「む……」

 

 紡がれた言葉が多少意外だったのか、ライゼンが言葉を詰まらせる。

 しかしややあって、口を開けると、

 

「フ、違いないな。……ただ、勘違いしてるようだが――」

 

 再び足を前に進めて、ライゼンは咆哮とともに言葉を放った。

 

「――俺は負けることは別に好きではないぞ!!」

 

「――それは俺も同じだ!!」

 

 交差する言葉とともに、ライゼンが駆け出してきた。

 

 

 

 

 

 ……さて、そうは言ったもののどうするか……!

 レオンハルトは内心で相手への対抗策を考えていた。

 戦いは継続しながら、一つ一つ試していく。レオンハルトはまず、その場から動かず斬撃を連続で放った。

 遠距離にまで届く、真空波。斬撃を飛ばしてライゼンに攻撃を加える。

 

「むっ、これは……!」

 

 ライゼンの瞳が驚きで見開かれる。不可視かつ高速の斬撃が、遠距離でありながら自身の身体に襲いかかることに戸惑いを感じているのだろう。

 しかし、それを理解してなお、ライゼンは笑みを見せる。

 

「フフ……面白い! 飛ぶ斬撃など初めてみたぞ!」

 

「ちっ……そういう褒め言葉は傷を付けた時にでも取っときなッ!」

 

 楽しそうに言うライゼンは飛来する斬撃を食らいながらも、それに構わず高速で前進してくる。

 その身体には傷一つ付いておらず、勢いが殺されるようなこともない。その事実にレオンハルトは軽く舌打ちを重ねた。

 こちらが剣を振り、斬撃を飛ばす中、ライゼンはその身を加速させた。

 

「それもそうだな。ならば、もっと楽しませてみせろ!」

 

「――ッ!」

 

 巨竜が迫り寄ってくる。

 その巨体から想像出来ない速度と瞬発力は圧巻であり、周囲に暴風とも呼べる大気の圧力を発生させながら、こちらに向かって突撃してくる。

 それを見て回避の動きを取ろうとする。

 しかしそうすると、相手は前に進む足を刻んで方向転換を行ってくる。こちらに攻撃を当てる為に再修正を行ってきたのだ。

 ……身軽だとは思ったが小回りも利くのか!

 レオンハルトはその足捌きを見て、感嘆を得る。

 今まで戦ってきたドラゴンに見られるような直線的な、力に任せた戦いではない。

 この動きには、今までの戦いや修練で積み重ねてきたであろう確かな技術が見て取れる。

 つまり敵は、強大な力を持ちながらも技術を駆使してくる相手ということだ。

 単にドラゴン、というだけではない。彼は鍛え上げられた戦士なのだ。

 そしてその分の厄介さが、こちらには降りかかるわけだが、

 ……つくづくインチキくさい相手だな……!

 並の者が太刀打ち出来ない純粋な力を持ちながらも、技術の上でも並の者を駆逐するほどの実力を持つとは、おのれ四大聖竜。各所から、「お前が言うな」という声が聞こえてくる気がしたがそれには気づかない。

 レオンハルトはやはり、試すべきか、と方針を決める。

 相手が技術を以って戦うなら、こちらも技術、そして工夫を以って戦うのみだ。

 故に、レオンハルトは足を踏み込んだ。

 初速から全速を出す身体の動き。魔人の力を使った爆発的な瞬発力によってレオンハルトの身体が消えたように映る。

 

「――!」

 

 ライゼンが驚愕する中、レオンハルトは再び彼の懐に潜り込んだ。

 そして顔を見上げると狙いを付ける。

 視界の先には巨大なドラゴンの煌めく鱗。その中の一つを見つけると、レオンハルトは跳躍し、

 ……食らえ……!!

 右手に持った魔剣を逆手持ちに変える。かなりの長さを持つ長刀であるため、あまり推奨出来ず、使い方には工夫かつ繊細な動きが必要な持ち方であるが、今はそれはいい。

 レオンハルトは即座にそれを行った。逆手持ちした右手から飛び出した柄。それをライゼンの顎にある一枚の鱗に向かって、

 ……落ちろ、逆鱗……!!

 杭を打つように、打撃を逆鱗に突き立てた。

 

 

 

 

 

 ライゼンは、相手の動きを称賛した。

 ……見事だ!

 視界の中から、一瞬でかき消えた魔人に対しての評価を上昇させる。その動きは常時では捉えられないことはない速度だが、ゼロからの最高速となると話が違う。速度というのは慣れるもので、視界は騙されるものだからだ。

 先程の飛ぶ斬撃も合わせて考えるに、相手の技術は自分よりも上であろう。ドラゴンと魔人、人の形をした相手とはやることも身体の動かし方も違うがゆえに、比べるものではないかもしれないがそれは事実だ。

 加えて戦闘時の的確な判断も兼ね備えている。一流の戦士だ。

 ライゼンは思う。確かに、自分の弱点はこの喉元にある一枚の逆鱗であるな、と。

 この部分はドラゴンにとって、生理的な嫌悪感を示すのと同時に、自分にとっては逆さになっているということが弱点となる。

 それに加えて、斬撃ではなく打撃を選択するセンスも見事。通常であればこの身を地に伏すに値する一撃であっただろう。

 だが、今はそうではない。

 そのことを思いながら、ライゼンは重力に従い、眼下に落下する魔人を見る。

 痛みはある。だが、傷はない。

 しかし、だ。的確に放たれたその一撃に称賛を贈ろう。故にライゼンは口を開いた。

 口の奥に光が溜まっていく。それはこの世で最も有名なドラゴンの武器。

 

 ――ドラゴンブレス。

 

 ……これをどう対応する……?

 一瞬の間を置いて、ライゼンはそれを眼下に放った。

 

 

 

 

 

 レオンハルトはブレスを察知して、足を動かした。

 後方への回避をしながらも、意識はそこにはない。先程の結果について言いたいことがある。

 故にレオンハルトは、それを我慢せず憤りとともに告げた。

 

「テメェ! ダイヤなら衝撃に弱いはずじゃねぇのかよ!? 傷一つついてないじゃねぇか!!」

 

 と、レオンハルトは自身の知識と目の前の現実が合致していないことを叫んだ。

 そしてその答えに対し、ライゼンはブレスを吐きながら、

 

「――無論、痛い」

 

 と、言った。

 レオンハルトは即座のツッコミを入れる。

 

「いや、痛いじゃなくて割れろよ! 砕けろよ!! ちゃんと物理に則れ!!」

 

「そう言われてもな……割れないものはしょうがないだろう」

 

 多分、とライゼンは前置きし、

 

「昔馴染みが確か言っていたのは、えー……俺の鱗はダイヤではあるが……あー……鉱物? じゃなくて……えっと、構造上はダイヤに似てるんだが、細かい粒子が云々かんぬんで――あー……うん、よくわからんし忘れた。もういいだろう」

 

「自分の身体なのに適当かよテメェ!!」

 

 バーカバーカ、と、ツッコミ代わりに斬撃を飛ばしてくるのをダイヤの鱗で弾き返すライゼン。彼は、む、と表情を顰めさせると視線をレオンハルトに向け、

 

「……そう言うなら貴様が説明してみろ! なぜダイヤが割れやすいのかをな!」

 

 はっ、とレオンハルトは鼻で笑う。簡単なことだ、と。レオンハルトは頭の中の知識を引っ張り出し、

 

「……それはだな――えー……ダイヤモンドは硬さは優れてるんだが、何か確か、構造上的欠陥があるとか何とかで、あー……靭性? がうんたらかんたらで――とにかく、衝撃に弱くて割れやすいとか――」

 

 ふっ、とライゼンはレオンハルトの説明に鼻で笑う。それ見たことか、と言わんばかりに顔を指し、

 

「貴様も言えてないではないか!!」

 

 アーホアーホ、とツッコミ代わりにドラゴンブレスを放つもその手に持った魔剣で縦に斬り裂くレオンハルト。後ろの岩山が崩れ、周囲に被害が出る中、レオンハルトはこめかみをひくつかせながら反論する。

 

「自分の身体のことを説明できないお前よりはマシだ!」

 

「それの何が悪い! 貴様も自分の身体のことを全て一から十まで説明出来るのか!? 出来まい! ほうら、論破した――!!」

 

「ぐ……!」

 

 その言葉にたじろいでしまうレオンハルト。まさかドラゴンにそんなことを言われるとは思っていなかった。だが、問題は残っている。

 ……でも打撃が通じねぇのは予想外だ……!

 ご丁寧に逆鱗を狙ってやったというのに。これが駄目だと、また何かを考えなくてはいけない。

 次策を用意するか、考えなしに突っ込むかを考えていた、そんな時だ。

 レオンハルトは後方で起きたそれを察知して、眉をひそめた。

 

「――! ちっ……!」

 

「む……?」

 

 不意に背後に向かって駆け出す。

 ライゼンが訝しげな視線を送る中、背後で起きる崩落に向かっていったレオンハルトは、

 

「そういやこいつの事、忘れてた……!」

 

 と、地面に倒れていたカラーの少女をその速度のまま拾っていく。

 戦闘前にドラゴンブレスの被害から遠ざけようと放り投げたペールだった。崩落に巻き込まれそうになっていた彼女は、いかなる理由か、気を失っていた。

 ……ああ、くそ……! こいつへの被害を考えなきゃならんのか……!

 抱えて戦うのは流石に無理があるので、何処かに置いておかなければならない。

 だが、それには目の前の相手が邪魔だ。レオンハルトは振り向き、こちらを見つめるライゼンを見て表情を固くする。

 なればどうするか。しかしそれは直ぐに解決された。

 

「あー……お前の女か?」

 

「! いや、俺の女ってわけじゃ……」

 

 突然そんなことを聞いてくるライゼンに、若干戸惑いつつ否定する。

 だが、相手は何を思ったのか、ふむ、と得心したように頷きを入れると、

 

「――いいぞ。適当に隠してこい」

 

「あ……?」

 

 どういう風の吹き回しか、ライゼンがそんなことを言う。そして続けてやれやれという様子で、

 

「女ならしょうがない。決闘に別の奴を――特に女を巻き込むなんて恥だからな」

 

 どしり、と地面に座るライゼン。そして頭をしゃくり、行け、と道を示し、

 

「――ここで待つ。隠し終わったら戻ってこい」

 

「…………」

 

 レオンハルトは相手のその物分りの良さに一瞬悩む。罠か、と。後ろを向いた瞬間に攻撃を仕掛けてくるのではないか、と。しかし直ぐに、

 ……それはないな。

 と、頭を振ってその考えを一蹴する。戦いの中で剣と言葉を交わせば多少だがわかることもある。こいつはそんなことをする奴じゃないと。

 それに万が一、攻撃を受けてもこの距離なら対処出来る自信もある。

 ならば、とレオンハルトは軽く頷きを入れた。

 

「……わかった。直ぐに戻る」

 

「ああ。ちゃんと安全なところに連れてってやるんだな。少しくらいなら待ってやる」

 

 と、言葉を交わし、レオンハルトは背後に振り向くと、ペールを抱えて山道を引き返した。

 

 

 

 

 

「さっさと戻んねぇとな……」

 

 レオンハルトは翔竜山の山道を引き返しながら、周囲を散策する。

 腕には相変わらず、もはや定位置となったペールが気を失った状態で抱えられている。

 ライゼンとの戦いの邪魔になるから、と彼女を安全な場所に置いておこうとしているわけだが、

 ……安全な場所ね……どっか洞穴とかないか?

 魔物やドラゴンは大概殺しながらやってきたから数は多くない。しかしだからと言って襲ってこないとも限らないのだ。適当な魔物を脅しつけて見張らせる、というのも現実的ではない。魔人の威を見てその場では従うかもしれないが、自分が離れた途端、こちらの目がないと思って暴行を加えて逃げる可能性もあるからだ。

 ならば結局はどこかの洞穴か、岩陰に置いておくしかない、とそう考えたところで、

 

「――お」

 

 視界の先に人が入れそうな程の大きさの穴を見つける。

 当たりか、とレオンハルトはその穴に近づき、軽く中を見渡すと、

 ……洞窟、じゃないな。横穴って感じか。

 深さは殆どなく、どこかに繋がっているという訳ではない。入って数メートルも歩けば行き止まりだ。

 だが本格的な洞窟だと魔物が彷徨いているだろうし、こっちの方が都合が良い。レオンハルトはペールを洞穴に寝かせようとし、寸前で止める。

 よく見ると、何故か中は泥濘んでおり、そのまま寝かせると泥で汚れてしまう。

 ……一応、何か敷いた方がいいか?

 と、気を利かせてみるも、

 ……いや、何も持ってないからいいか。

 それに気づいて諦めかける。自分の服は一応これ一つしかない大事な物であるし、戦闘の際には欠かせないものだ。主に防御面で。

 しかし、そこでペールの着ている服を視界に映す。

 ペールの着ている服は、よく見てみると上からローブのようなものを羽織り、中に二重か三重に着込んでいるようであった。

 どうりで運んでいる最中、ごわごわとして持ちにくかった筈だ。

 

 そしてそれを見て、レオンハルトは思いつく。

 ……これ脱がして下に敷くか。

 一応脱がして下に敷けば、そのまま着ているよりは厚みが重なりマシになるだろう。

 故にレオンハルトはペールの服に手を掛ける。あまり良いこととは言えないが、全裸に剥くわけではないのだし、不可抗力だろう。

 そんな考えでペールの服を下から上に上げて脱がせていく。まずは一着。

 こうやって脱がせていると子供の世話をしているみたいだなぁ、と二着。

 脱がせてみて、やはりかなり厚みのある服を着込んでたんだな、と三着。

 三着目を脱がせて、肌着に近いカラーの衣装のようなものが出てきたところで、一息を入れる。とりあえずこんなところか、と。

 そして厚みのあった服を脱ぎ捨てたペールの姿を見て、

 

「! …………こいつ……」

 

 ある一点に目が止まる。

 それは規則正しく上下するペールの身体。その上半身に付いている盛り上がった二つの山。

 それを見て、レオンハルトは呟いた。

 

「でかい、な……」

 

 ――胸である。

 レオンハルトの視界の先、ペールの呼吸に合わせて上下する二つの巨乳があった。

 ……こんなものを隠し持っていたのか……。

 着痩せ、という言葉が頭に浮かぶ。脱げば凄い、という言葉も。

 もしかしてこれを隠すために厚めの服を着ていたのではないだろうか、と思ってしまうほどの大きさだ。話してみた感じ、引っ込み思案な性格のようだったし、どこまで的を得ているかはわからないが、意外と外れてないかもしれない。

 しかし惜しいな、とレオンハルトは唸る。

 こんなことなら抱きかかえている時にもうちょっと感触を楽しむべきだった。そうすれば山登りも捗っただろう。二重の意味で。

 

「…………行くか」

 

 しかし考えていてもしょうがない。とりあえずさっさと戻ろう、と、レオンハルトは最後に二つの山を拝むと、服を地面に敷いてその上にペールを寝かせる。寝相が悪くなければこれで問題ないだろう。

 そして横穴を後にしながら、レオンハルトは思う。

 ……それにしてもでかかったな……。

 なにせ自分の周りじゃ巨乳成分が少ないからか、その分、尊さと有り難みを感じる。

 そして、うむ、と納得を入れる。やはり男としては大きいのに限る、と。

 別に貧乳も嫌いではないが、情事の際の楽しさはやはり大きい方が色々と楽しいものだ。

 しかしこれを表立って言うわけにはいかない。これを魔王城や周囲に誰かがいる環境で言うと、貧乳の僻みが発生してこちらに襲いかかってくるのだ。特にスラルなんかはよくカミーラとかの数少ない巨乳を見ては壁に蹴り入れていた。この場合の壁はスラルのことではない。

 ……やっぱ巨乳だな、うん。

 と、レオンハルトは改めて思いを馳せる。決闘が終わって登頂し終えたらダメ元でペールに頼み込んでみようか。多分ドン引きされるだろうな、と馬鹿なことを考えながら横穴から出ると、

 

「――ん?」

 

「――お?」

 

 お互いに気配を感じて、その方向に目を向ける。下層から登ってきたのであろう、山道の下りから進んできたのは、長い耳を持つカラーの女性であった。

 視線が合わさり、お互いの姿を確認する。こちらの尋常ならざる存在感を感じ取ったのか、相手の女性はこちらを見て険しい表情になると、

 

「――ようやく、見つけた……」

 

「………………」

 

 と、睨みを利かせてきた。

 そんな中、レオンハルトは視界の中にある物を見つけ、その偶然を見て驚愕した。

 女性の上半身、そこに付いている盛り上がりを見て、

 

 ――二人目の巨乳、だと……!?

 

 夕陽が沈んでいく中のその出会いに、レオンハルトは内心、椅子から立ち上がるような思いを感じた。

 




スラル「…………」

キャロル「…………」

ハンティ「…………」

ガルティア「…………(な、何も言えねぇ。口を開いたら殺されるな……万が一、貧乳とでも言おうもんなら――)」

ラウネア「…………(ギルティ)」

ガルティア「!? (こいつ、直接脳内に……!)」
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