夜の中に佇む、大きな影があった。
翔竜山の上層部分。広場となった大地にその巨体を落ち着けていたのは、ダイヤモンドドラゴンのライゼンだ。日が落ちてなお煌めく白の身体を彼は爪で引っかく。
そして下層に続く道をちらっと見て、こう思った。
……遅いな……。
先程まで戦っていた相手である魔人、レオンハルトが未だ戻ってこないことに息をつく。
決闘の最中に女が危険が迫っていたため、それを助けたレオンハルトを慮り、安全な場所へと連れて行くことを許した。
しかし、だ。
……身体が疼いてしょうがないな。
その原因を、ライゼンは朧気ながらに自覚していた。
なにせ四百年振りの戦い。一対一の決闘としては千年振りのものである。
その相手が魔人、それも強大な力を持つ相手とあれば、戦闘を是とするドラゴン種としては滾らないわけがない。
だがそれも、時間が経ってしまえばそれに比例して萎えてしまうものだ。そして代わりに思い出すのは、
……随分と平和な時代になったな……。
昔と今を比べてそう思う。無論、人間と魔軍の戦争らしきものがあるのは風のうわさで聞き及んでいる。彼らにとっては平和とは程遠い時代だろう。
しかし、自分達――ドラゴン種にとっては何もない時代だ。
人間や魔物からも畏れられ、避けられるドラゴンという強大な種族。
今は数を激減させ、生き残った者達もその殆どが理性や自我を失った。
そんな自分達だが、過去には充実した時代があったものだ。
……もう二千年くらい経つのか。
ライゼンは過去を思い返す。遥か昔のことだ、と。
自分達、ドラゴン種はこの世に根を下ろした時からとある敵と戦い続けていた。
――魔王ククルククル。
全長4.7キロという途轍もない巨体を持ったかの魔王と、ドラゴン種は、永きに渡る闘争を続けていた。
自分が生まれた時には既に戦端は開かれており、自分も大いに戦ったものだ。ドラゴン種の中でもそれなりの巨体を持つ自分も、かの魔王の前では豆粒のようなものであり、当時は随分と圧倒されたものだ。
だが、そんな戦いも終わりを告げる。後に魔王となる――アベルという若者の手によって。
ククルククルにとどめを刺したアベルは、その返り血を浴びたことで魔王となったのだ。
当時、それに気づいた者はいなかった。アベルは急激にその力を増していたものの、無名の、ともすれば臆病者として多少噂になる程度の若者であった彼の変化は、戦いの中で成長したものとして受け入れられていたのだ。
そして、戦いが決着したものの今度は以前からあった深刻な問題が火種となり、新たな戦いは始まった。
現存する唯一の雌――生ける王冠であるカミーラの奪い合いである。
以前より、ドラゴン種には雌が生まれなくなった。寿命が存在しないドラゴンにとって、繁殖は絶対のものではないにしろ、その存在は貴重、というレベルに留まらない。正しく王冠――唯一無二の存在が彼女であった。
決闘によって決められたドラゴン種で最も強い存在である王だけがそれを勝ち取れる。そうして以前より幾つものドラゴンによる玉座の交代が行われた。
そして、最強のドラゴン王がその座に長年座り続けていた。
ドラゴン王マギーホア。ライゼンにとっても旧知である彼によって、カミーラは独占されていた。
そんなマギーホアに、アベルは決闘するまでもなく彼の強さを察知したのだろう。強くなった自分でさえ、戦えばどうなるかは分からない。その正確な心の内は定かではないが――とにかく、彼は不正な手段に出た。
カミーラを強奪し、彼女を魔人にすることで自分の傍に置いたのだ。
これが火種となり、後にラストウォーと呼ばれる戦争が勃発した。
ドラゴン王マギーホアと自分を含む四大聖竜、八大精霊竜に、正統な誇りを持った従来のドラゴン族。
そして魔王アベルと二十四体の魔人と大勢の魔物。そして少数ではあるが、魔王に付き従ったドラゴン族。
両勢力による大戦は熾烈を極め、多くの者達が犠牲となった。
戦いは終始、ドラゴン側の優勢であり多くの魔人を屠ることに成功したが、やはりマギーホアに迫る実力を持つ魔王アベルの力は桁違いであり、こちらも多くのドラゴンを屠られた。
しかしそれも、最後にはマギーホアがアベルに勝利することで、戦争は終結した。
敗れた魔王アベルに生きたまま杭を打ち付け、暗い牢獄に幽閉し、ドラゴンはマギーホアを国王とした大陸統一国家――トロンを建国した。
永きに渡った闘争の連鎖は打ち切られ、ドラゴン種には恒久的な繁栄と平和が訪れる、と多くの者が確信していた。
しかし、その僅か一年後。
とある存在によって、その幻想は打ち砕かれた。
その日の事は今でも憶えている。誰かが最初に、空を見上げて言った。
――天使だ、と。
白い羽と頭の上に輪っかがある女性体の存在。古くから伝説として語り継がれていた存在が突如、自分達に牙を剥いたのだ。
そうして世界中で、天使によるドラゴン狩りは始まった。
マギーホアを中心として多くのドラゴンが抵抗し、少なくない手傷は負わせたが、こちらも多くのドラゴンが狩られていき、最後には軍団を形成することすら出来ず、散り散りばらばらになって逃げた。逃げるしかなかった。
そして気がつけば、世界は人類――人間と呼ばれる者達の時代となっていた。
そんな中で、生き残ってしまった自分は――
「……む」
不意に、下の方で音が聞こえ、思考を中断する。
振動とその程度から察するに、おそらくは崩落。この山に住んでいればそこそこ起こることであり、ドラゴンにとっては問題にもならないこと。しかし、
……巻き込まれてはないだろうな……?
あの小さい人間種にとっては規模の大きい現象に映るのだろうし、その被害も出かねない。故にそんな心配をするが、
……まぁ、巻き込まれたとしてもあの魔人がいれば問題ないか。
戦ってその力量を確かめた身としては、この程度の事は問題ないと断ずる。
というかそうでなくては困る。あの魔人には期待しているのだ。
少し遅いが、女を安全な場所に連れて行くまで待つ、と言ったのはこちらなのだし、文句はない。夜も遅いし、麓の森まで連れて行ってやってるのかもしれない。
しかし、そうだとすると決着は明日になるやもしれないな。
そう思い、ライゼンは何気なく夜の空を見上げた。
空には昔と変わらず、大きな月が夜の大地を微かに照らしている。それを肌で感じ取り、
「奴は俺に、終わりをくれるのだろうか――」
夜天の空に問うも、それに答えるものは何もなかった。
夜の森。翔竜山にほど近い麓の森林地帯。
長を追跡していたカラーの戦士団や、同じく森に消えていった戦士長などの隊長格を探す人間の戦士団も、既に自分達の拠点に戻っている。
活動を開始しているのは一部の夜行性の生き物や魔物達。しかしそんな中、一体の魔物がその場にいた。
「…………」
地面から砂のような色の顔と手が生え、その手に宝箱を抱える魔物。宝箱だんごである。
この場に冒険者や迷子の剣術魔人がいれば即座に倒そうと躍起になるだろう。そんな彼は森の奥地で休んでいるところであった。
生き物の気配が周囲に少ないそんな場所を選んで何をするでもなく佇む宝箱だんご。
そんな彼の知覚に、上空からの音が届いた。
空から響く風をかき分けるような音は、おそらく落下音。そして着地点はこの場所。
それを即座に察知した宝箱だんごは余裕を持ってその場から少し距離を置いて、上を見上げる。その数瞬後、
「――――!」
木の枝がばきばきと折れる音が響き、何かが地面に落下した。
落下の瞬間、不自然な音が鳴り響いたが、直ぐに地面が振動する。
衝撃で木々が揺らめき、葉を落とす中、宝箱だんごはその中心にあるものを見た。
それは人間の形をした三人であった。しかしそれは人間ではない。
この森に多く生息するカラー。それが二人、気を失ったように動かない。
そしてもう一人、二人を抱え、血塗れになりなから立ち上がる影。その存在に、宝箱だんごは見覚えがあった。
「――ク、クク、クハハハ……」
――魔人レオンハルトだ。
ゆらゆらと幽鬼が如く笑みを浮かべて立ち上がった彼は、昼間に宝箱だんごが遭遇しておちょくった魔人であり、その相手が機嫌良さそうに笑い声を上げている。
彼はふらふらとしていたが、一度カラー二人を地面に下ろすと、その身体を調べて問題がないことに確認する。
そして周囲を見渡し、
「――あ?」
目が合った。
ゾクリとするような目だ。
宝箱だんごを見つけたレオンハルトは、少しの間こちらの存在に面食らっていたようだが、直ぐに気を取り直して不敵な笑みを浮かべると、紅くなった瞳を爛々と煌めかせて言った。
「ハッ、昼間振りじゃねぇか! おいおい、どうしたよこんなところで?」
「………………」
口が利ける種族ではない。そしそんなことは分かっている筈なのに、レオンハルトは気軽に話しかけてくる。そもそも同一個体であるかもわからない筈なのに、こちらが昼間に会った個体だと確信している。そんな様子に不気味な物を感じつつ、宝箱だんごはじっとしていた。
「ちなみに俺は今、色々と掴んだところでな……クク……見ての通り機嫌が良いんだ。テメェはムカつくが、今なら許してやるから失せな。血まみれで身体中が痛くてしょうがねぇし――あ、いや」
と、そこでレオンハルトは一度言葉を止めた。何かを思いついた、といった様子だ。
顎に手を当てて、宝箱だんごをまじまじとニヤついた視線で見てくる。そして何を思ったか剣を抜き、
「――せっかくだし、お前に試してやるか。回避力が自慢なんだろ?」
「………………」
レオンハルトが剣を八相に構える。しかし宝箱だんごは未だ動きを見せない。
確実にこちらを狙いを定めている。ならば先に動いて逃げた方が良いとは思われそうだが、そうではない。
宝箱だんごは種族としての特性か、個体としての才覚故か、攻撃の躱し方を心得ていた。
その尋常ではない素早さは勿論だが、攻撃を躱すにはその意を読んで的確に動くことが重要なのだ。
相手の意識がどこを見ているか、どういう狙いを持って放たれるのか。その動作と意思を集中して読み取り、その瞬間に動くことで攻撃を躱す。回避が不可能という特性を持つ魔法で無ければ避けきれる自信が、この宝箱だんごにはあったし、それだけの実績を持っていた。今まで人間だろうが魔物だろうがドラゴンだろうが、例え魔人であっても、攻撃を受けたことはない。その自負があるからこそ、宝箱だんごは余裕を持って普段どおりに、ただじっとしている。
そしてそんな中、レオンハルトが口を開いた。
「――躱してみろ」
それを境に、レオンハルトの表情から笑みが消え、氷のような冷たい殺気を発する。彼は集中したようにこちらを射抜くように見詰めており、剣を構えたまま微動だにしない。攻撃の瞬間を見計らっているのだろう。
「……………」
対する宝箱だんごもじっと相手を見たまま動かない。攻撃の意を見計らっているのはこちらも同じ。
ただ、昼間とは違い相手は正真正銘の本気のようだ。故に宝箱だんごも本気で構える。泰然自若、自然のまま相対し、彼の攻撃を待ち構える。
冷たい風が夜の森を吹き抜ける。時間が止まったかのように両者とも動きはない。
しかし、それは終わりを告げた。それを宝箱だんごは察知した。
「――――!」
レオンハルトが動く。その兆しを見たコンマ数秒後に、彼は実際に動いた。
剣を上部から振り下ろして縦に斬る動き。間違いない。その動作を見抜いた宝箱だんごは瞬間、自分も右に動く。
だが、動き出しは同時に近かった。速い、と宝箱だんごは思った。昼間に受けた剣の倍以上の速度。やはり魔人の本気は伊達ではないのだろう。
しかし、このタイミングなら躱せる。自分の速度でもギリギリのラインではあるが、一度躱してしまえば後は勝ちだ。二度目の攻撃の間に、自分は遠くに逃げる。
宝箱だんごにとっての勝負は攻撃を躱し、生き延びること。その結果こそが最上なのだ。
だからこそそれを求めにいく。レオンハルトの縦斬りが、こちらの視界にはゆっくりに見えながら飛んでくる。
対する自分は既にその攻撃の線からズレている。
――勝った。
宝箱だんごはそう確信し、迷わず右に直進した。
だが、
「――――!?」
不意に、風が、斬撃が、自分の身を襲った。
ゆっくりと自分の身体が上下に分かたれる中、宝箱だんごは疑問した。
――何故……?
自分は確かに攻撃を躱した筈。その挙動は確かに縦切りで、剣の軌道は確実に縦の線。
なら何故、自分は――横からの一撃を食らっているのだ?
死にゆく一瞬の間、宝箱だんごは地面に残った剣の擦過痕を見た。そして気づいた。
――剣、痕が、二つ……?
地面に刻み込んだ縦斬りの痕に加えて、周囲の葉や枝を斬り裂いた横切りの痕がある。
ならば、連続で縦、横、と剣を振るったのか?
否だ。攻撃は確かに、一度のものであった。
――何故……?
宝箱だんごは最後まで、そのからくりに気づけないままその命を終えた。
「…………」
宝箱だんごを真っ二つに斬り捨てたレオンハルトはその宝箱には目もくれず、剣を握る自分の手を見た。
周囲には地面に寝かせたケッセルリンクとペール。宝箱だんごが残した宝箱。そして自分が為した斬撃の結果である抉れた地面と木の枝。
それを見て、レオンハルトは喜悦の感情が胸に湧き上がるのを感じた。
「全く、最高だな……!」
クク、と笑みが溢れてしまうのを抑えられない。頭の中で繰り返し再生される先程の剣技とその手応え。
それから派生して湧いてくる新しいアイデアの数々に頭がパンクしそうだ。
「堪んねぇな……!」
今すぐそれらを試してみたい。
そして自分をもっと高めたい。
そして強い相手を斬りたい。
そんな思いがレオンハルトの内に溢れる。
だが――
「ぐっ――がはっ!」
口の中から出てきた血を吐き出す。
一度それを自覚してしまえば、痛みと出血で意識は朦朧としてくる。
レオンハルトは血に濡れた頭を抱えながら、
「そんな、場合じゃねぇな……」
ふらふらとしながら地面に寝かせた二人の元に行き、彼女達を抱え込む。
「どこか、身を隠せる場所は――」
レオンハルトが歩き始める。夜の森で意識が無い状態のまま倒れるのは幾ら何でも危険過ぎる。自分の意識がもし途切れれば誰も対処する者はいなくなる。その状態で魔物に襲われたら終わりなのだ。
そのため何処か隠れる場所を探さなくてはならない。もしくはこの二人のどちらかが起きるまでは意識を保っていなければならないのだ。
「くっ、成長の、代償が、はぁ……はぁ……キツすぎる、ぜ。まったく、よぉ……」
息が乱れ、視界がぼやける。
レオンハルトは瀕死の身体にムチを打つように、二人を抱えながら夜の森を歩き続けた。
――レオンハルトの休暇、五日目。とある場所。
希薄な意識の中ではあるが、彼女は意識を覚醒させた。
……な、んだ……?
身体が痛い。この痛みは何だろうか、とケッセルリンクは内心で疑問する。
自分は一体、何をしたのか。寝違えた、とかそんな程度の話ではないと思う。この痛みの強さは、戦闘の結果により負傷したものとほぼ同一。
おそらくは打ち身や骨折だろう。しかし怪我の程度は軽いような気がする。あくまで痛みから逆算したものであり、ちゃんと見てみないことにはわからないが。
しかしそうであるなら、自分は寝る前に何かをしたのであろう。戦闘か事故か。何をしたのかはわからないが危険な事を。
それを思い返そうとし、ケッセルリンクは二つの顔が頭に浮かんだ。
一つは、自分と同じカラーであり後継者としてケッセルリンクが選んだ気弱な少女。
……ペール……いや、そうか……。
そう。確か自分は魔人に拐われたペールを取り戻しに翔竜山に向かった。
そして山を登っていった先で、もう一つの顔に出会ったのだ。
……魔人、レオン、ハルト……。
ペールを拐っていった張本人である男の魔人。
そう。確か彼と出会い、話を聞いたところ、どうやら不埒な目的で彼女を拐ったわけではないということであり、ペールも無事であったことから一応ではあるが信用した。
そしてその後で地面が崩れ落ち、
……ああ、そうだ。助けに来たのだったな……。
宙に飛ばされた自分とペールを助けるために、レオンハルトが二人を抱きかかえた。そうして自分は彼に何故助けるのかを問い、
……あれは、実に小気味良い答えだったな……。
男が女を助けるのは当然、と。自信に満ちた言葉とともにそう言われたのだった。
正直、男というのは欲望に目が眩んだ醜い愚か者だらけという印象であったケッセルリンクだが、その答えは実に面白いものであった。思わず目を見張って、戸惑ってしまうほどに。
……世の中、ああいった男ばかりなら……。
心からそう思う。レオンハルトのように、女を助けるのが当たり前と、当たり前のように口にして、それを実行出来る者が多数ならどれほど救われることか。
そこでケッセルリンクは自分の身体のもう一つの異変に気づく。それは、
……どうにも熱くなってしまうな。
身体が火照っているような感覚がする。それに胸の鼓動が若干いつもより早い。怪我の影響だろうか、とケッセルリンクが不思議に思っていたところで、
「っ――」
呻くような声が耳に届き、ケッセルリンクは覚醒した。
その身をゆっくりと起こそうとし、
「……くっ……」
痛みで表情を顰めてしまう。
やはりと言うべきか、どうやら怪我をしているようであり、さっと確認しただけでも幾つかの骨が折れているのが確認出来る。そして血で服が少し濡れているものの、外傷がないようだ。
負傷の具合を確認し、起き上がれない程ではないと判断すると、右手を支えに身体を起き上がらせ周囲を見渡す。
「……ここは――」
そこは木造の一室であった。
家にも見えるが、そこには生活感が無く、椅子や机には埃が被っている。
窓から差す陽光と、木々が生い茂った周囲の景色を見るにどうやら森に建てられた一軒家らしい。
そして自分が寝ている隣には、
「ペール……」
一人用のベッド、その直ぐ横にペールが寝ていた。
自分と同じ様に彼女の身体を確認するも、命に関わるような怪我はないようだ。それどころか怪我も殆どないところを見るに、彼女は頑丈なのか、それとも運が良かったのか。
しかし何にせよ、
「無事に山を降りられたのか……」
翔竜山からの落下。それに何らかの形で耐えきったということだろう。
自分は最初の衝撃で直ぐに気絶してしまったようであり、よく憶えていない。
だがそうであるなら、
……レオンハルトはどこに……?
状況的に彼が助けたはずだ。ならば近くに彼もいないと不自然である。
ケッセルリンクはベッドから身を起こし、家の中を散策する。
といってもそれは直ぐに終わった。大きな部屋が一つ。後は台所やトイレなどの生活に必要最低限のものしかない。
だが、一つ気になるものが散見された。それは、
「この血は……」
家の床に血痕が幾つも落ちており染みとなっている。それは家の外に繋がっており、
「……っ」
まさか、と思い早足で玄関の戸を開くと、声が掛けられた。
それは聞き覚えのある男の声で、
「――ん……起、きた、のか……」
「――! レオンハルト……!」
声が聞こえたのは戸を開いて直ぐ横の場所。
家の壁にもたれ掛かるようにして、レオンハルトは血まみれの姿で座っていた。
その痛ましい姿にケッセルリンクは駆け寄り、身体の状態を確認する。
しかし詳しく見るまでもなく、彼の身体は重傷であった。
「な、なぜこんな――」
「あ、ああ……いや、自業自得、みたいなもんでな……」
レオンハルトは意識が朦朧としているのだろう。ケッセルリンクの問いにうつらな様子で、
「落ちてる、最中に……色々、と……試した、結果、だ……。空中ジャンプ、とか……出来たら、楽だったんだがな……」
本気なのか冗談なのかわからないような事を言うも今の状況では笑えない。この傷は自分達を助けた為に出来たものなのだろう。ケッセルリンクはそんな彼の傷を見て、
「わかったから答えなくていい……! とりあえず傷の手当を……!」
彼女にしては珍しく、少し焦ったような様子で声を震わせている。
一先ず彼を家の中に入れるべきだろうか、とケッセルリンクがその通りに彼を抱えようと手を伸ばす。
それを見てレオンハルトは、
「……大丈夫、そうなら……任せる、ぞ……? ちょっと、疲れた、しな……」
「ああ……! わかったから休んでいてくれ……!」
ケッセルリンクはレオンハルトに肩を貸すような形で家の中に戻ると、程なくして目覚めたペールとともに彼の手当の為に奔走した。
ペール「こ、この血を飲めばレオンハルトさんの使徒になれますね……!」
スラル「!? なんて怖ろしいこと考えてるのよ! 絶対やめてよね! プロットが崩れるんだから!」
キャロル「一度は考えますわよね。わたくしも一度、その方法を検討したことがありますわ!」
七星「……何の自慢にもなりませんよ?」