「――なあ」
「どうしたライゼン?」
「……いつになったら、戦いって終わるのかね?」
「あぁ? そんなの……あのデカブツが死ぬか、俺達が死ぬまでだろ」
「……どっちかが死ぬまでか」
「何だよ、不満なのか?」
「……お前はどうなんだ?」
「俺? 俺はまぁ……勝てないだろうけどな。でも一矢報いてやるぜ!」
「……死にに、行くのか?」
「はは、そりゃあそうだろ! 俺の死に様をちゃんと見とけよライゼン!」
「…………」
「って、どうした? 今日のお前何か変だぞ。……まさか臆病風に吹かれたってわけじゃないだろうな? あのライゼンともあろうものが。アベルの馬鹿じゃあるまいしよ」
「……いや、戦いは怖くねぇよ」
「……? じゃあ、いいじゃねぇか。お前、滅茶苦茶強いし。戦いが終わったら王に決闘挑みに行くんだろ?」
「……そのつもりだが。何を笑ってるんだ?」
「ははっ、痛快じゃねぇか。俺たちのライゼンが、出世するんだ。一兵卒から隊長。隊長から軍団長。軍団長から将軍と来て、今度は国王だ! 一番偉い奴になれるかもしんねぇんだぜ、お前!」
「……俺は、別に――」
「じゃあ、もっとテンション上げろよ! あのカミーラ様を頂けるかもしれねぇんだ。これで俺達部族も安泰だな!」
「よせ、不敬だぞ」
「……相変わらず堅いなーお前は。……あ、堅いつってもお前の鱗の事じゃねぇからな?」
「わかってるから一々言わなくていい。――そろそろ時間だな」
「お、待ってました! へへっ、指示をくれよライゼン! 皆、戦いたくてうずうずしてんだ!」
「……お前達は……」
「? 何だ?」
「……いや、何でも無い。――この俺に続け!! ドラゴンこそがこの世界の覇者だと、あのデカブツに教えてやるぞ!!」
「応――!!」
気がつけば、ベッドの上だった。
「…………っ……」
レオンハルトは身体中から感じる熱を持ったような痛みに顔を顰め、思わず呻いてしまう。
そして完全に意識を覚醒させ目を見開くと、直ぐ様声を掛けられた。
「っ! 気がついたか……!」
「お前は……」
すぐ近く、こちらの顔を覗き込むような態勢で顔が見える。見覚えのある顔だ。
長い耳に短い水色の髪を持った、気品を感じさせる美女。レオンハルトは未だぼやけた様子でその名を呼んだ。
「ケッセルリンクか……一体ここは――ぐっ」
「! 起き上がらない方がいい。まだ傷も塞がりきっていないからな……」
起き上がろうとすると痛みが全身を走った。こちらの苦悶の表情を見てケッセルリンクがそれをそっと押し留めようとする。
だが、
「いや……起き上がるくらいなら大丈夫だ……っと」
「あっ……」
そう言って身を起こし、脇に手を当てる。そして直ぐに肉体の損傷箇所を調べる。
心臓、肺を始めとする重要な臓器の損傷は皆無に感じるが、外傷と骨折が酷いのが感覚からも感じ取れる。幸いなのは腕や足などの骨はそこまで酷い骨折ではない、ということ。動かそうとする度に痛みが走るものの動かすのに支障はない。
肋骨なんかは何本折れているかはわからないが、臓器には刺さって――いるな。これは胃辺りだろうか。
……やっぱ重傷だな……。
動かそうと思えば無理やり動かせないこともないが、身体能力は激減しているだろう。仮に今から普通に戦闘を行っても半分の力も出せない。全力を出そうとするなら命に関わる。
レオンハルトは自身の身体を見やる。全身の至るところから出血もしていた筈だが、それは包帯と何かの薬だろうか、それによって適切に止血、処置されている。おそらくこれは、
「……治療してくれたのか? よく薬や包帯があったな?」
「……うむ、薬は森でペールが取ってきた薬草で、包帯はこの家にあったものを使わせてもらった」
「なるほどな……」
ケッセルリンクの説明を聞いて、レオンハルトは自分の身体に巻かれた白い物と、ヒリヒリとしながらも痛みを多少和らげている何かの正体に得心する。
そして今この場にペールがいないのは、森に薬草を取りに行っているのだろう。
しかし薬草はそれでいいのだが、
「……この家の主はいるのか?」
レオンハルトは気になってそう質問する。自分が昨晩に森を歩いて見つけた時には、意識が朦朧としていてそんなことを考えている暇がなかった。
二人をベッドに寝かせたら、直ぐに外に出て魔物の警戒の為に番をしていたのだが、今思えば非常事態であったとはいえれっきとした問題行動である。
なので家主がいるなら一応お礼と謝罪を言っておいた方がいいか、と思ったのだが。
しかしこちらの質問にケッセルリンクは首を振った。
「おそらくはいないだろう……少なくとも今は」
「……昔はいたってことか」
ああ、とケッセルリンクが頷く。確かに家の中は生活に必要なものはあるが、放置されていたのか埃っぽく、どうにも生活感が見受けられない。しかし、家があるのなら誰かが住んでいた。もしくは誰かが建てたのだから人の手が入っているのは確かだろう。レオンハルトも頷く。
そしてケッセルリンクは説明を続けて、
「君が寝ている最中にペールと簡単に調べたところ、ここは森の西側のようだ。周辺にカラーの集落は無く、生き物の気配も少ない。この一帯は魔物が多数存在する場所なのだが……どうやらここは穴場のような場所らしいな。おそらくだが――」
ケッセルリンクは自分の見解を口にする。
「――過去に集落の生活に合わなかったカラーが住んでいたのだろう」
「……どういうことだ?」
レオンハルトは再び補足を求める。そう言うからには理由があるのだろう。ケッセルリンクやペールが知っている、カラーの事情や情報を、こちらは殆ど知らない。
故に視線とともに投げた問いを、ケッセルリンクは素直に答えてくれた。
「……何、単純な消去法だ。この森は人間が住むには適していない。しかし、森に点在する既存の集落からは遠すぎる。カラーでありながら集団の生活に合わなくなった者が住むにはちょうどいい場所だ」
「……そういうものか?」
「ああ。……それから後もう一つ。これが大きな理由なのだが――」
ケッセルリンクはそこで一度言葉を区切る。
何か思うところがあるのか、こちらから少し視線を逸らした。
……何だ?
それを訝しむように見たレオンハルトだが、それを考えるより先にケッセルリンクは口を開いた。
「……人間なら死んでも骨が残るが――カラーなら残らない。故にその痕跡がないのならカラーの方が可能性が高いと思ったんだ……」
「ああ……それって確か……変化の時、だったか?」
「……その通りだ」
ケッセルリンクが頷くのを見て、そういえば聞いたことがあるな、とレオンハルトは思考を巡らせる。
確かカラーはある程度の年数を生きると、それまでの行いで天使か悪魔のどちらかになるという。不老のカラーにとっての寿命がこれに当たるという話だ。
誰から聞いたんだったかな、と記憶を引っ張り出すも思い出せない。多分、ハンティなのだろうが。
……しかしそれなら納得だな。
レオンハルトはその思考を止めて内心で頷く。確かに道中にも人間の痕跡は無かったように思える。歩いた時に出来る獣道どころか、死臭や人間の骨も見当たらなかった。
この家の周囲に魔物が少ないというのなら、死因も少なくなる。病気か老衰か。何にせよ魔物に丸ごと食べられた、とかじゃなければ骨は残っているはずだろう。勿論断定は出来ないが。
人間がこんな森の奥に隠れ住むよりは、カラーが住んでいたと考える方が自然という話だ。
それでも、一人でどうやって家を建てたのか。誰かに作らせたのか。などの疑問は出てくるが、そこまで来るとちょっと分からない。そいつが建築技術を持っていた可能性もゼロではない訳だし。
……だが、まぁ……いいか。
とりあえず運が良かった。日頃の行いの良さが出たか? などと内心嘯いてみる。
しかしそれよりも――
「……あー……その……なんだ」
「? どうかしたのかね? 何か必要な物があるなら持ってくるが」
いや、そうじゃない。と、レオンハルトは言外に首を振って否定してみせる。
そして目を合わせながら、
「……治療してくれて助かった。ありがとうな」
「!」
と、お礼を言った。痛む身体に構わず軽く頭を下げる。
ケッセルリンクは面食らったように目を丸くしていたが、ややあって真剣な表情になると、
「……いや、むしろお礼を言うのはこちらの方だ」
と、ケッセルリンクは椅子から立ち上がるとこちらを真っ直ぐ見つめると、
「ペールから改めて詳しい話を聞いて、君の話に嘘がないことがわかった――」
「あ……おいっ」
こちらの制止にも構わずケッセルリンクがゆっくりと腰を曲げて、頭を下げる。
そして続けて、
「……我々の集落を救ってもらい……そして私とペールの命を助けてもらったこと。――感謝する」
さらに、
「そんな私や集落の皆の恩人に、勘違いから矛を向けてしまったことは私にとって慚愧に堪えない。――本当にすまなかった。私に出来ることがあれば何でも言ってほしい」
「…………」
そう言ってケッセルリンクはベッドに腰掛けるレオンハルトに向かって、頭を下げ続けた。
その立ち上がりから謝意を示すまでの一連の動作は洗練されており、その口上も合わせて見惚れるような優雅さであった。
しかし唯一それを崩すものがあったとするならば、彼女が未だ頭を下げ続けていることであろう。レオンハルトの声を待っているのか、彼女は身じろぎ一つせず、体勢を維持している。
だがそれも、心からの思いの表れだろう。それも含めて美しく見えてしまう。第三者がそれを見ていたのなら、まるで絵画やお伽噺に出てくる一場面の様だと評するのかもしれない。
そんなケッセルリンクの感謝と謝罪を、レオンハルトは受け止めていたのだが、
「………………」
じっと、彼女がこちらに向かって頭を下げているのを、レオンハルトはきちんと見ていた。
……真面目な女だな。
正直、そこまでしなくてもいいんじゃないか、とレオンハルトは思う。
自分がカラーを救ったと言っても、それは取り引きの内容であったからだ。その後の行動も、勘違いされてもしょうがないことであったのだから気にしていない。
加えて命を助けたのは確かかもしれないが、それも半分は自分の為だ。自分の成長の為に彼女達を利用したに過ぎない。
そしてこちらも現在進行系で怪我の治療などお世話になっているのだから、差し引きゼロみたいなものだろう。
ただ、その上でも、
……悪い気はしないけどな……。
魔物以外からの感謝はあまり受けたことがない為、どうにも面映く感じてしまう。嬉しいには、嬉しいのだが、頭を下げられ続けるのも居心地が悪い気がする。
なのでレオンハルトは頭を上げるように言おうと、口を開こうとし、
「――!?」
そこで気づいた。気づいてしまった。
レオンハルトの視線の先、ケッセルリンクが頭を下げる姿がある。ベッドから身を起こしたように座るこちらに向かって腰を直角に曲げた、実に綺麗な姿勢だ。鍛えているのだろう、でなくばここまでの長時間はキツいはずだ。
そしてベッドに座るこちらの目線の高さと、女性にしては長身なケッセルリンクが腰を曲げた頭と身体の位置はほぼ同じ。ケッセルリンクの頭が少し下だろうか、という位置だ。
つまり何が言いたいのかと言うと、
――おっぱいだ。
レオンハルトの目線の先、ケッセルリンクが前傾姿勢のようになった上半身には胸がある。
それも只の胸ではない。巨乳だ。
しかも只の巨乳ではない。服の隙間から覗く深い谷間だ。
……おお……! これ、は……中々の……!
レオンハルトは巨乳を思う。この場合の胸は普通に見るよりも趣があると。
胸というのは柔らかいものだ。しかしそれでありながら弾力があり、元に戻ろうとする力がある。だが、身体の体勢によって胸というのは形を変えるのだ。重力によって。
前傾姿勢によって巨乳は真下に下がる。巨乳自体に重量があるからだ。
しかしそうでありながらも完全には垂れ下がらない。弾力があり、形を整えようとするからだ。
その結果、普通よりもたわわ感がアップした素晴らしい谷間がここに完成する。
これは元に戻ろうとする巨乳本来の力と、世界法則である重力がひしめき合い、生み出された結晶のようなもの。
この世に生み出された楽園の果実。それを目の当たりにしたレオンハルトは顎に手を当ててそれを吟味するように真剣な眼差しで見続ける。
そしてケッセルリンクは先程、出来ることがあれば何でも言ってほしい、と言っていたな、とレオンハルトは思い出す。
……うーん、このまま眺めるのもいいが、出来ることならもっと色々と――。
レオンハルトは頭を振る。自分は何をやっているんだ、と。ここまで美しい謝意の示し方に下品な考え方を持ち込んでしまった。
いや、これくらいでいいだろう。充分堪能出来たことだし。そろそろ声を掛けて、
「……ふぅ」
息を吐いて気持ちを切り替える。そんな時だった。
「……た、ただいまで――って、れ、レオンハルトさん!! 気がついたんですね!」
「っ! ぺ、ペールか……」
不意に家の戸が開けられ、身体がビクリと跳ねる。
外から帰ってきたのはレオンハルトが助けたもう一人のカラー少女、ペールだった。
……外の気配に気づかないほど、集中しちまってた……。
その事に微妙な気持ちを憶えるも、なんとか気を取り直す。
彼女の手には小さな籠が抱えられており、そこには幾つかの草花が積まれている。どうやら薬草を摘みに行っていたのだろう。
「良かったぁー……! 薬草、沢山取ってきた甲斐がありました――って、ケッセルリンク様? 何をやってるんです?」
未だ頭を下げ続けるケッセルリンク。それに気づいたペールが声を不思議そうに声を掛ける。
なので、ここでこちらが声を掛けて自然な形で終わらせよう、とレオンハルトは画策する。少々、いや、かなり残念だが。
「いや、これは――」
そうしてレオンハルトが声を掛けようとした時。それを遮る声が聞こえた。
「……ちょうど良かったペール。君も、レオンハルトに何か言うことがあるのだろう?」
「えっ、えっと……?」
「……私は今、レオンハルトに諸々の事についての感謝と謝意を示しているところだ」
「え、あ、それって……」
「…………」
そう言って、ケッセルリンクは再び無言となった。
これ以上語ると、強制することになってしまう。ケッセルリンクはそれを望まないのだろう。人に言われてそれを示しても、それは当人が心から示したことにはならないから。おそらくはそんなところ。
ペールはそれを聞いて、少しの間呆然としていたが、すぐに立ち直ると、意を決したように表情を真剣なものに変化させた。
「…………」
「ぺ、ペール?」
レオンハルトが戸惑う。ペールは薬草の入った籠を机の上にそっと置くと、こちらにすたすたと近づいてきて、ケッセルリンクに並ぶ。
まさか、と期待に胸が高鳴る中、ペールは頭を下げ、
「――れ、レオンハルトさん! その……助けてくれてありがとうございました!」
感謝とともに、前傾姿勢になった。レオンハルトは思わず内心で叫ぶ。
……おっぱいが二つになったあ――!?
いや、この場合は四つと言うべきか? とレオンハルトは自分でツッコミを入れる。
――レオンハルトはこの後、一分近くに渡ってそれを見届けたのであった。
スラル「ちょ、ちょっと……! 何で見せないのよ……!?」
キャロル「横暴ですわー! 圧政ですわー! 反対運動ですわー!」
ガルティア「ぐぐっ、お前ら! この扉は死守しろよ!」
魔物兵「は、はい――っ!」
七星「何故、私まで……!」
ガルティア「スラルの奴に見られたらここら一帯が更地にされちまうだろうが!」
魔物将軍「ああ……魔王様、更地ですs――」ボシュッ
七星「魔物将軍が消えた!?」
ガルティア「ああ、気をつけろよ。スラルが開発した『貧乳を馬鹿にした奴絶対殺す魔法』だな。馬鹿にすると消されるぞ。特にスラルに対しては厳s――」ボシュッ
七星「ガルティア様あ――!?」
ラウネア「…………(人の身体的特徴を弄るのは絶対に駄目!)」
ハンティ「悪ふざけは程々にね……」