「――アベル! アベル!! どういうつもりだ!?」
「あ~……うっせぇな……! 見りゃわかるでしょうがライゼン将軍!」
「わからないから聞いている!! お前が何故、行方不明のカミーラ様を連れているんだ!? しかもその軍勢は――」
「だぁからぁ――見りゃ分かんだろうがよぉっ!! 俺は出ていくんだよ! この国からなぁっ!!」
「――っ! 何故だ!? 何故、そんなことを――!」
「……何故、ねぇ……じゃあ、ライゼン将軍は何故だと思いますぅ?」
「……何?」
「俺が、この国を、ドラゴンを裏切る理由ですよ! まさか、気付きもしなかったんですかぁ?」
「……そ、それは――」
「……あー……もし気づいたのなら戻ってもいいっすよー」
「!」
「ちゃんと気づいてくれたのなら……こいつら解散させて、自らマギーホア様に謝りに行きます。許しては貰えないでしょうがね」
「…………アベル。お前は――」
「………………」
「お前は――――皆に、認めてもらなかったことが――いや……この国の在り方が嫌になったのか!?」
「!」
「ドラゴンの、好戦的で、正々堂々という旗を掲げ、正面からの力比べや自ら命を捨てるようなやり方が是とされ、お前のような戦いに頭を使うようなやり方は否定され、蔑まれる。そんな社会が嫌になったんだろう!?」
「…………それは……それを、何故、ライゼン将軍が? 貴方は四大聖竜で、マギーホア様の友人で――」
「……俺も、ドラゴンの在り方に疑問を憶えたことがない訳ではない。……いや、違うな。確かに疑問を憶えているからだ。憶えているだろう? あの、魔王――お前が倒したククルククルとの戦いを」
「……はい」
「ドラゴンはどれだけ強大な相手でも正面から戦いを挑む。それも喜んでだ。喜んで皆、死にに行く。正面からバカ正直に、だ」
「……そうでしたね」
「ああ。俺も戦いは好きだ。強い相手に燃える気持ちもわかる。……だが、力の差を弁えず、思考を放棄してただ突っ込むことは戦いでもなんでもない――只の自殺だ」
「…………」
「俺は、それが嫌いだった。俺は仲間が好きなんだ。守りたいと思ったから戦いに参加したんだ。俺のこの巨体が、堅い鱗が、強さが。同胞を救う手立てになるならこれほど嬉しいことはない。だが――」
「……それは、叶いませんよね?」
「……ああ、その通りだ。普通の魔物との戦いならいざ知らず、魔王との戦いでは俺の巨体や堅い鱗では全員を守るには無理がある。守れても精々周囲にいる連中だけ。殆どのドラゴンはあの魔王に羽虫のようにはたき落とされ、無残に命を落とす」
「……そんな光景ばかりでしたね? まぁ、俺には縁のない戦い方でしたけど……」
「……正直、お前のように隠れ潜んで隙を見て攻撃を繰り返してくれた方が遥かに助かる。そんなお前が、あの魔王にとどめを刺した時は、救われたような気分になったよ」
「……なるほど、同じ様な気持ちを抱いていた、と?」
「……そうだ。俺は、他のドラゴンのその考え方を――いや、視野を広く持ってほしかった。戦いで死ぬ、納得の行く戦いで死ねるなら俺も文句はない。寿命がないドラゴンにとって、終わりは納得のいく戦いで死ぬことだ。しかし、あの戦いで死んでいったドラゴンの中には、何の太刀打ちも出来ず、何も思うところもなく死んでいった同胞が数多くいる。傲慢かもしれないが、俺にはそれが許せなかった……」
「……確かに、傲慢ですね」
「だろ? ……まぁ、だから俺は、マギーホアに敗れた時、あいつの言葉を聞いて――」
「……でも、叶えられますよ」
「……何?」
「簡単なことです。今生きるドラゴンの体現者。ドラゴンの王を倒せばいいんですよ」
「――! そ、それは――」
「ええ、ライゼン将軍の友人――ドラゴン王、マギーホアを打ち倒し、王になること。それがこの世を変える方法です」
「……だから、軍勢を引き連れて……?」
「そうです! ライゼン将軍! 俺は、この世界を変えたいんですよ!!」
「世界を……」
「ええ! ドラゴンが今のような価値観に支配されない世界! 俺の様に頭を使った、そんなことだけで見下されているドラゴンが救われる世界です!」
「…………」
「……そこで、ライゼン将軍! 俺と組みませんか!?」
「……お前と、組む?」
「はい! 俺とライゼン将軍が組めば、マギーホア様や他の四大聖竜が牛耳る今の世界を支配し、新たなる秩序を築くことが出来るかもしれません! 貴方が仰る、仲間のドラゴンが無為に死ななくても良い世界だって作れます!!」
「…………だが、それは一対一ではなく――」
「ライゼン将軍!! チャンスは今しかないんです!! 他の四大聖竜もおらず、居城にマギーホア様しかいない、今が好機なんですよ!? 今のままではドラゴンは一生このままです! ……いえ、もっと酷くなるでしょう!! だから、その前に――」
「…………」
「――俺と、理想の世界を作り上げましょう!!」
「…………すまない」
「……そ、そんな……ライゼン将軍……?」
「……悪いが、それは出来ない。あいつを裏切り、闇討ちするような真似は」
「…………なら、俺は――」
「……ああ。そうだな……だが、俺も一緒に謝りに行く。カミーラ様を拐った罪は重いだろうが、どうにか命は助けて貰うように頼んでみよう。ある意味、俺も同罪の様なものだ。それにアイツは結構物分りが良くて――」
「……なら、ライゼン将軍。最後に一つ、お願いがあるのですが――」
「……お願い? それは何だ? 言ってみろ」
「ええ。――貴方の手で、俺を連れて行って下さい。ライゼン将軍に連れて行ってもらえるのなら、悔いはありません」
「…………わかった」
「…………ライゼン将軍」
「…………何だ、アベル?」
「……貴方が、上司で良かったですよ」
「……ああ。俺も、お前が部下で良かったよ」
「ええ、本当に……」
「…………? アベル――」
「本当に――――お前みたいな間抜けが上司で助かったぜッ――!!!」
「――がっ!? あ、アベル!?」
「馬ぁ鹿が――!! 間抜けかテメェはよぉ! おらおら! テメェらも今のうちにやっちまえ!!」
「ぐっ――!!」
「チッ……流石に硬ぇな……テメェらは足止めしとけよ!! 俺様はちょっくら行くところがあるからなぁ!!」
「あ、アベル――! お前――!?」
「あぁ!? うっせぇぞ気軽に話しかけてきてんじゃねぇぞバーカ!! 今の俺は魔王様だぜ?」
「魔王だと――!?」
「ああ、そうさ! 俺こそが、世界の支配者たる魔王だ!! その好意を無碍にしたお前は、もういらねぇんだよ!!」
「アベル……ぐっ!」
「せっかく魔人にでもしてやろうと思ったのによぉ! ――おらおらどうしたぁっ!? 随分と痛そうじゃねぇか! ギャハハハッッ!!」
「っ……!」
「よぉーしよし。テメェら、ちゃんと足止めしてろよぉ? そいつは油断ならねぇからな。細心の注意を払え。そんで――メガラス!」
「…………」
「テメェだけは俺に付いてこい! いざとなったら使ってやるからな!!」
「ア、ベル……! お前……!」
「それじゃあな、ライゼン将軍? テメェは随分と利用価値があったぜぇ? 道化としてな! ――お前は……皆に認めて貰えない、くふっ、こと、がって、ギャハハハッッ!! 笑わせんじゃねよバーカ!!」
「あ、アベル……! お前……!!」
「心配しなくてもぉ、ライゼン将軍の理想の世界はぁ、俺が作ってあげまちゅよぉ? ――俺だけに都合が良い世界をなぁ――!! ギャアハハハハ――」
「――ま、待て……! アベル……! アベル――!!」
――レオンハルトの休暇、六日目。とある一軒家にて。
早朝。
窓から差し込む淡い日差しを浴びて、レオンハルトは覚醒した。
「…………ねむ」
少し寝ぼけながらそう呟く。未だ頭は完全に回っていないが、それでも思い出すのは、
……昨日はあんま眠れなかったからな……。
魔人は睡眠をしなくても死なないとはいえ、眠ったなら眠ったで気だるさというのも感じるものだ。故に若干の眠気が残っているのは致し方ない。
まさかここまで悩ませてくるとは。昨夜は不覚をとったと、そう思う。
何故なら三人で寝ることとなったからだ。そしてこちらを挟む二人の身体には、
……とんでもない物が付いてた訳で……。
そしてどういう訳か、最初は二人とも背中を向けてきていたのに、途中からこちらに向き直って抱きつくようになっていたのだ。
しかもその巨乳をこちらにぐいぐいと押し付けながらだ。
そんなことをされれば少なからず悶々としてしまうのが男というものだろう。実際途中までは、そのせいでどうしたものか、と悩んでいたのだ。
しかし途中からはまた別の理由で眠れなくなって――
「――起きたのか?」
「――!」
レオンハルトが身を捩りながら瞼を開けると、それに気づいたような声が脇から聞こえてきた。
既にベッドには自分一人。ならば声の在所は必然的にそれ以外だろう、と部屋のスペースの方向に顔を向ける。
「……おはよう」
「ああ、おはよう」
そこには案の定、ケッセルリンクがいた。彼女はベッドの脇に置かれた椅子に座り、微笑を浮かべて挨拶を返してくる。
「今ペールが朝食を作っている。今のうちに包帯を取り替えよう」
「あ、ああ……」
そう言われては断るべくもない。
レオンハルトは彼女の様子に若干の違和感を覚えつつも身を起こしてベッドの脇に座る。
すると彼女は、同じ様にベッドの脇に――自分の隣に替えの包帯を座って座った。
「……じゃあ、頼んだぞ」
「任せてほしい」
身体に巻かれた包帯に手を伸ばし、丁寧に外していくケッセルリンク。
その作業はとてもスムーズで、レオンハルトも安心して任せていられるのだが、
「……驚くべき、回復力だな」
「ん、……あ、ああ。魔人だからな」
考え事をしていると、自分の傷の状態を見て驚いたような気配が背中から感じられる。
実際驚いているのだろう。ケッセルリンクの視線の先、包帯を取ったレオンハルトの肌の傷は既に止血されており、もうどこにも出血した部分はない。
だが、
「傷が完全に塞がった、とまではいかないし、身体の内側についてはまだまだだが……それでも、いつもより治るのが早い」
「……そうなのか?」
「ああ。普段はもう少しかかる筈だが……これも、お前達の看病のおかげだろうな」
「! そ、そうか……」
上擦った声が背後から聞こえる。実際、薬草などの効果もあるだろうし、食事や睡眠も無関係ではないのだからそれは事実だろう。
ケッセルリンクはその言葉を聞きながら、包帯を外し終えると、
「――それなら良かった」
嬉しそうな声色でそう言って、新しい包帯を巻き始めた。
その動作は淀みがない。だが、
……っ、なんだか、昨日までと全然違うな……。
レオンハルトは謎の違和感を感じていた。だだそれは悪い意味ではない。良い意味で違っていたからこそ、レオンハルトは困惑する。
包帯を巻くその手つきは昨日までと違って、どこか労るようでありながらも――慈しみを、感じる気がする。
有り体に言って、丁寧過ぎるのだ。
勿論それは悪いことではないのだが、こちらにとってはこそばゆい気分になってしまい、どうにもやりづらい。
更に時折、
「…………この、身体が――」
小声で言葉をつぶやき、背中をじっと眺めている様な視線を感じる。
いや、言葉を憚らずに表現するなら――うっとりとした様に見ている様に感じた。
「………………」
明らかに昨日とは違う様子のケッセルリンクに包帯を替えてもらいながら、結局レオンハルトはそれを指摘することはしなかった。
朝食の後。
ケッセルリンクはペールに呼び出されて、家の外に来ていた。
「それで、話とは何かね?」
「……え、ええっと……その……」
何故か言い難そうにするペールに首を傾げてしまう。
「……出来ればで構わないが、何か用があるのなら早めに済ませよう。彼から長く離れるのは好ましくない」
「………………ケッセルリンク様」
「? どうかしたのか?」
当たり前のことを言っただけのつもりだったが、ペールが半目で名前を呼んできたので疑問符を浮かべてしまう。こちらとしては、レオンハルトの容態も考えると、彼を一人にするのがよくない、という意味を込めて言ったつもりだ。
勿論、彼から離れたくないというのも事実ではある。
しかしそれは、バレてはいないだろう。故にケッセルリンクは、素知らぬ顔で続けてそれを口にしようとしたところで、
「――レオンハルトさんのこと――好きですよね?」
「………………」
言葉を失った。同時に心臓が跳ねる。
ケッセルリンクは動きを止めた状態で考えた。
……な、何故……それがバレた……!?
勿論、動揺していることはおくびにも出さずに思考する。
その気持ちは、昨日の夜にようやく自覚したことだ。起床してからまだ数時間程度しか経っていないのに露見する道理はない。
しかしそう言われてしまったのでは致し方ない。嘘は好きではないが、何か誤魔化すような発言で本心を覆い隠すべきか。そう思い、ペールに視線を向ける。
「……………」
だが、ペールの顔はそのことを確信しているのか、半目のままじーっとただこちらを見ている。
思わず目を逸らしたくなるが、ここで目を逸らしてしまえばそれを認めているようなものだ。なので黙した状態で考える。ここから何か逆転するような一手は、
「……好きですよね?」
「あっ……い、いや、その……それは」
詰められるように再度問いかけられ、言葉に詰まってしまう。奇妙な圧力を感じ、後退ってしまったのは気の所為ではないだろう。
ペールはこちらの目を見て話す。
「……好きじゃないんですか?」
「…………ど、どうだろうか」
「……じゃあ、嫌いなんですか?」
「き、嫌いではない」
「……なるほど」
ペールが腕を組み、考えるような仕草を見せたところで、ケッセルリンクは安堵する。
……このまま否定していれば、何とか誤魔化せそうだ……。
そんな思惑は直ぐに打ち砕かれた。
「……じゃあ、レオンハルトさんに、『好きでも嫌いでもない』って、言ってきてもいいですか?」
「それは駄目だ」
「…………」
「……あ、いや、今のは――」
思わず否定してしまった。
そしてすぐにペールが、ずいっと近づいてきて、
「好きなんですよね?」
「………………」
と、言ってきた。普段に比べて随分と押しが強い彼女の様子に気圧される。
そして自分から、視線を逸してしまったところで――ケッセルリンクは息を吐いた。
言い訳の仕様もあるが、もうここに至っては、
「…………そうだな」
認める他あるまい。
「――私は……彼のことが好きだとも」
言った。自覚したばかりの自分の気持ちを。
昨晩、彼と同じ寝所で寝た時に、それに気づいたのだ。
しかし、だ。その想いは秘めていたものであり、
「……ペール。君は、どうしてそれに気づけたのだ? 私自身でさえ、芽吹いたことに気づいたのは昨日の事であったのに――」
秘密が露見してしまった理由は、どこにあるのか。それを尋ねる。
何せこちらの隠蔽は完璧な筈であり――
「……えっと、言い難いんですが…………バレバレでしたよ?」
「………………えっ」
予想外の言葉が来た。
思わず間の抜けた声で応答してしまう。
そんな中、ペールは動きを止めたこちらに追い打ちを掛けるように、やや呆れた様に続けて、
「……私が目覚めた時からレオンハルトさんの寝顔をじーっと、しかも、うっとりしながら見詰めてましたよね?」
「…………それ、は――」
確かにそうだ。眠っている彼の顔を見てみたくて、態々早起きしてみた。
しかしこっそりと、ただ見ていただけのつもりだったのだが、気づかれていたのか。眠っている彼の顔は相変わらず綺麗であり、それでいて妙に可愛く感じて撫でたくなってしまったが、それはさすがに気づかれると思い自重した。
「私が料理を作っている間も、とっても優しい手つきで包帯を替えてましたよね。まるで花の手入れをしてるみたいに」
「あ、あぁ…………」
あれも、良い時間だった。
包帯を取った彼の身体は男らしく鍛えられたもので、その肌には無数の傷があった。その傷が、自分も守ってくれたのかと思うと、心の内に愛しさが溢れてしまい、その背に抱きついてしまいたくなる衝動を堪えるのに必死だった。
「極めつけに、食事の時、レオンハルトさんが食べてる様子を、自分の食事の手も忘れて見詰めてましたよね? 微笑を浮かべながら嬉しそうに。……あ、あれはさすがにどうかと思います。レオンハルトさん、物凄く食べ難そうにしてましたよ?」
「! き、気づかれてしまっていたのか……!」
それは不覚だ。しかし仕方ない事なのだ。
彼が料理を美味しそうに食べているところを見ると、心が温まってしまい口元が緩んでしまいそうになる。あれでも抑えていたのだが、それで彼に迷惑を掛けてしまっていたのなら申し訳ない。
それに料理といえば昨日、彼に手料理を食べさせることを了承していたことを思い出す。後でペールに聞かなくては。
ペールは、そんな諸々の理由と、それに対する言い訳を思っているケッセルリンクに向かって容赦なく言い放つ。
「あ、あれだけの行動を見せられたらさすがにわかりますよ。ケッセルリンク様はわかり易すぎです……!」
「――っ、くっ……!?」
そこまで言われてしまってはぐうの音も出ない。苦悶の声を上げて、ペールを見る。
……全てお見通し、というわけか……。
「……はぁ……そ、それともう一つ、大きな理由がありましてですね――」
ペールは狼狽えるこちらに向かって更に続ける。一度、ならず二度、三度、息を入れる。何やら意思を固めているようなそんな動作だ。
ケッセルリンクが疑問に思った数秒後、ペールはもじもじとした様子でこちらを見上げると、
「――わ、私も……れ、れれレオンハルトさんのことが……す、好きですから……!」
「っ――!?」
そんな告白に絶句する。
まさか、という思いが驚きと衝撃を以って身体中を駆け巡る。
しかしペールの恥ずかしがるような、顔を赤くした様子を見れば、それが真実だと直ぐにわかる。彼女の反応はまるで、恋する乙女そのもので――
……っ! ……なるほど……そういうことか……!
ペールの言っている意味がようやく理解出来る。そして同時に、先程の自分がどのように見えていたかも理解する。
即ち、
「――ふっ、理解したよペール」
「け、ケッセルリンク様……」
彼女は、
「――私と、同じ男を好きになった、ということか……」
そう言い切った。
同じ想いを抱いた――即ち同志、とも言うべき存在に、ケッセルリンクは視線を送る。
彼女の表情は、
「………………」
自分と同じ様に、笑みを浮かべていた。
ペールは内心、困惑していた。
にっこりと、尊敬する人物に笑顔を浮かべつつ思うのは、
……? 今、私が言ったことを、もう一回言っただけだよね……?
こちらの告白は単純にそれを打ち明ける意味もあったが、同じ男性を好きになったからこそ、そちらの想いが理解出来た、という意味を込めたつもりだ。
だからこそ、返答にはその正答が来るはずなのだが、ケッセルリンクはこちらが言った告白を、別の言い方で言い直しただけ。
……意味は理解してくれているのかな……?
動揺していたため、言葉足らず、もしくは選択ミスを犯しただけであり理解ってくれてるのならそれでいいんだけど、と彼女を窺うよう見上げてみる。すると、
「……ふっ、致し方ないことだな」
「……と、言うと?」
聞き返してみるとケッセルリンクは頬に手を当てて顔を赤くしながら、
「彼は――レオンハルトは、魅力的な男だ」
と彼女は真剣な声色で、一息つくと、
「彼は、私が今まで見てきた男性とは違う――本当の男だ。魔人でありながら人を慈しむ心を持ち、強力な力を持ちながらも、それを守る為に振るうことが出来る。理知的で合理的、しかし時には熱い感情を覗かせ、とても頼りがいのある姿を見せてくれる。これほど素晴らしい内面を持ちながら、外面はその心が現れているのか、と思うほど――」
……う、うわぁ……! これは……!
ペールは眼前のケッセルリンクの語りを黙って見聞きした。
彼女の言うことは理解出来る。レオンハルトの良いところを口々に出しているのだろう。
それはこちらとしても大いに同意できることであり、それに賛同して恋バナ的に盛り上がっても構わない。カラーの新旧長で、そういうことを語り合うのも良いことだろう。
だがこれを外から見て、よく考えていると、とある事実がわかるのだ。それは、
……こ、これって……好きなところを言ってるようなものですよね……!
こうして聞いていると、ケッセルリンクが如何にレオンハルトのことが好きか。そして、どんなところが好きかが把握出来る。
ケッセルリンクは妙に熱っぽく、詩でも唄うかのようにそれを口にし続ける。聞こえるレオンハルトの好きな部分は自分も概ね同意出来るところで、だからこそ聞いていて恥ずかしい気分になる。
まるで自分の内心を打ち明けられている様だ。
……と、というかこれ、レオンハルトさんに聞こえていませんよね……?
一応家の外とはいえ、普通の声のトーンで喋っては聞こえる可能性もある。少し心配になったペールはケッセルリンクに向かって口を開く。
「……け、ケッセルリンク様……!」
「――ん、どうかしたかね?」
家の方を指差し、小声で、
「そ、そんなに大きい声だと、レオンハルトさんに聞こえちゃいますよー……!」
言う。すると、
「…………っっっ!?」
そのことに今更気がついたのか、顔がどんどんと赤くなっていく。
そしてこちらに背を向けると、
「…………ど、どうやら語りすぎたようだな……」
物凄く小さい声でそんなことを言った。顔を見られたくないのだろう。手で顔を隠しているも、その耳は真っ赤になっている。可愛い。
……うわー、うわー……どうしよう、すっごく顔見たい……!
いつもクールで表情を変えないケッセルリンクのレアな表情。そのギャップたるや女性の自分から見ても凄まじい破壊力だ。
正直、この様子をレオンハルトに見せるのが、一番早い近道な気がするも、さすがにそれは可哀想な気がする。自分も結構やばいのに、この人、羞恥で死んじゃいそうな気がする。あ、カラーだから変化の時か。
と、そんな馬鹿なことを考えつつ、ケッセルリンクの肩をちょんちょんと叩く。普段なら動じることもなくさっと振り向くのに、今はビクッと身体を震わせておそるおそるこちらに振り向くのだから、恋とは怖ろしい。
「……何かね?」
幾分か表情を普段のものに戻したケッセルリンクがそう言う。少し残念に思いつつも、口を開き、
「えっと、その……それでですね……ケッセルリンク様にご提案なんですが……」
「……提案? それは一体……」
不思議そうに問い返してくるケッセルリンクに、ペールは言った。
二人でそれを成就させる為に――
「私達二人で、レオンハルトさんを――お、落としませんか?」
そんな提案を、思い切って口にした。
スラル「はぁ……あそこに隕石落ちないかな……」
ハンティ「まーた、物騒なこと言って……」
ガルティア「スラルが不機嫌なのにも慣れてきたなあ……」
キャロル「そろそろ準備しなくては……」
七星「何の準備ですか?」
キャロル「ふふん! 本来なら七星には教えたくありませんが、特別に教えて差し上げましょう! もうすぐで例のシーンに追いつくので、その次回辺りからわたくし達のパートが始ま――」
皆『それを早く言え!!』