「…………」
「こんなところにいたのか、ライゼンよ」
「……マギーホア」
「随分と長い間、黄昏ているようだが……お前だけだぞ? 戦争が終わったというのに、そんなに複雑そうな顔になっているのは」
「……はぁ、別にいいだろ。少し忙しくて疲れてるだけだ」
「……まだ奴の事を気にかけているのか?」
「…………別に」
「奴は大罪人だ。どれだけの被害が、奴によって齎されたか……決して許される事ではない」
「……わかってるよ。もう未練はない」
「なら、少しは明るい顔をしたらどうだ」
「それくらい好きにさせろよ。というか、暗い顔をしてるのは俺だけじゃないだろう? 他の奴に言えよ」
「お前はデカいから特別目立つのだ」
「差別じゃねぇか」
「特別だろう。お前のその身体には、世話になった奴も大勢いるだろうに」
「……なぁ、マギーホア」
「何だ?」
「……これで、戦いは終わったんだよな……」
「……そうだな。大陸も統一し、魔王も打ち倒した。――戦いは終わったのだ。他ならぬ私達の手で、な」
「……ようやく、か」
「……不服か?」
「いや……また死に場所を見失っちまったか。と思ってな」
「馬鹿を言え。お前は私に従うと言っただろう。私が健在な内は従ってもらうぞ」
「寿命ないんだから一生じゃねぇか。ふざけんなよ」
「はっはっは! まぁ、そう言うな。私が王でなくなったり、隠居した時には自由にするといい。――勿論、私に挑みかかってきても構わんぞ?」
「……まぁ、なら期待しないで待っておくか」
「しばらくは、戦もないだろうからゆっくりしても構わんぞ」
「とか言いながらどうせ、仕事でもあるんだろ? 今度は何だ?」
「大したことではないがな。……ちょっと調査を任されてほしい」
「……了解。直ぐに向かうさ。場所は?」
「場所は――」
「…………はぁ」
レオンハルトは吐息をした。
……あいつら、随分と遅いな……。
二人揃って家を出てから既に結構な時間が経っており、既に陽は真上にある。三時間くらいは経っているだろう。
家の外に、一人がいる気配はあるもののそちらはあまり動いておらず、もう一方は気配を感じ取れない。少し離れているのだろうか、とそんなことを思いもする。自分は未だベッドの上から微動だにしておらず、
……剣でも振るか……?
あまりにも暇過ぎるので軽く身体を動かしてしまおうかとも思う。いくら怪我をしているとはいえ、長いこと身体を動かしていないと自分の腕が鈍ってしまうやもしれない。定期的な修練は欠かせないものだ。
それに、先日覚えたばかりの技も試してみたい。感覚をちゃんと掴んでおくことは大事であるし、
……少しくらいなら動いても大丈夫だろ。
と、レオンハルトはベッドの上から降りようとしたところで、家の戸が開いた。
「た、ただいまです」
「……ただいま」
ケッセルリンクとペール。二人のカラーが挨拶とともに帰ってきた。それを見て動きを止める。
そして浮かせかけた身をベッドに戻しながら二人に顔を向け、
「……遅かったが、何かあったのか?」
「あっ、ええとですね……遅かったのは……その」
言った途端、ペールがしどろもどろになる。
しかしケッセルリンクの方が前に出てくると、
「……すまない。これを取りに行っていた」
「! それは――」
レオンハルトはケッセルリンクが手に持ったものを見て目を見開く。それは血の様な濃い赤色の塊で、
「肉だな……」
「ああ、しか肉だ。少し離れて狩ってきた。……そ、その――」
そう言ってケッセルリンクは一度言い淀んだ様に間を取る。
彼女の頬に朱色が差し、こちらから視線を逸らすと、
「――昨日、肉が食べたいと言っていたから……」
「……ああ、なるほどな」
レオンハルトは得心する。彼女は昨日の自分の発言をしっかり憶えていてくれたのだと。
……妙に遅かったのは狩りにも行っていたからか……。
そうであるなら時間が掛かるのも頷ける。森にはそういった食べられる生物は数多いだろうが、狩りは一筋縄ではいかないのが常なのだ。
野生の生物は、他の生物の気配に敏感で逃げ足も速く、普通の人はかなり苦労する。
彼女ほど強ければ狩ることは問題ないだろうが、強すぎると余計に獲物が隠れ潜んだりするので、逆に見つけるまでに時間がかかるのだ。
それに見たところ、解体も外で行ってきたようであり、
「……悪いな。俺の為に態々取ってきてもらって」
そのことについて軽く謝罪を入れる。するとケッセルリンクは首を振り、
「大したことではない。……これで貴方が元気になるのなら……」
「そ、そうですっ。レオンハルトさんの為なら、な、何だってしますよ!」
「……そうか」
後の言葉がどんどんと小声になっていくケッセルリンクに対し、ペールは勢いづいたように声を上げる。その嬉しい言葉に、レオンハルトは特に反応を入れることはせず、再びケッセルリンクに視線を移すと、
「……なら、ケッセルリンクが昼食を作ってくれるのか?」
その問いに対し、ケッセルリンクはまず、ああ、と頷いた。そしてこちらをまっすぐ見て、
「……そ、その……」
「ん?」
自分が疑問の声を上げる中、ケッセルリンクは一息で、
「……貴方のために作るから……」
「…………」
と恥ずかしそうに言葉を告げてきた。
思わず無言になってしまう。だが、だんまりも気まずいだろう。ケッセルリンクの言葉を理解し、返す言葉を放つ。
「……ああ、楽しみに待ってる」
「――っ!」
するとケッセルリンクは一度ビクッと身体を反応させると、直後、黙ったまま台所の方に行ってしまった。
微妙などうとも取れそうな反応を見たペールが、あぁ……! と、何やら感動したように声を出している。こいつはこいつでどうにかなりそうだ、と思いながら、残った彼女に声を掛ける。
「お前は手伝わなくていいのか?」
「あ、はい。……今日の料理はケッセルリンク様が作ると意気込んでおられましたし……。そ、それに……しょ、食事が出来るのを待つ間……わ、私がレオンハルトさんの、お、お世話というかお相手をしたいと思って……」
いいですか? とペールは再度の言葉を吐かずに、こちらを見て言外に選択を委ねてきた。
ほんの一瞬だけ思考しかけるも、レオンハルトは直ぐに答えを出した。
「……好きにすればいい」
「わ、わかりました……。し、します。好きに――」
ペールが、ケッセルリンク程ではないにしろ、顔を赤くしてベッドの脇――自分の隣に腰掛けたのを見て、レオンハルトは片目を閉じながら、
…………どうするかな。
彼女達について、複雑な思いを感じていた。
ケッセルリンクは台所で自分の心臓の鼓動を感じていた。
壁に背中を預けて胸に手を当てれば、普段よりも強く早く、脈打っており、
……い、今のは……まずかった。
本当にまずい、と思う。しかし悪い意味ではない。
良すぎてまずかったのだ。
ケッセルリンクはレオンハルトに料理を作ると声を掛けただけで、恥ずかしさで身悶えしそうになったというのに、それに追い打ちを掛けるように、楽しみに待ってる、と言葉を掛けられた。
その彼の苦笑したような表情と優しい言葉を聞いただけで、顔から火が出そうな程熱くなってしまい、おかしな反応をする前に、慌てて台所に避難したのだ。
……あれは、反則だな……。
ただ声を掛けるだけでこちらの気持ちを上げてくるなど、とんでもない破壊力だ。
それとも、自分に耐性が無さすぎるだけだろうか、と思いもする。このような感情は初めてであるわけで、このような試みも初めてなのだ。
とはいえ、ケッセルリンクは一度気を取り直す。それよりもやることがあるのだ。
……彼の為に、料理を作らなければ……。
約束したのだ。彼に手料理を食べさせると。肉が食べたいとも言っていたので、ペールとの話の後、直ぐに狩りに出かけた。狩りもほぼ初めてであったために、少し不安ではあったが無事に狩ることが出来たのは僥倖だったが、問題はここからだ。
何せ自分は料理を作ったことがない。生まれて初めてのちゃんとした料理を彼に振る舞わなくてはならない。
……一応、ペールに基本は教わってきたが……。
手に持ったしかの肉を調理場に置きながらケッセルリンクは教わったことを思い出す。
とりあえず、焼くこととしっかり味を付けること。そして工夫をしないこと。これを守ってさえいれば、大丈夫らしい、と。他ならぬ、料理上手なペールがそう言ったのだ。ならば後はその通りにするだけだろう。
……彼に、美味しい料理を食べさせる。そして――。
先にあるものを願って決意する。
右手に包丁。左手にはおたまを持つ。料理をする体勢を整え、
……いざ……!
そうしてケッセルリンクは、しか肉に挑みかかった。
ペールは、レオンハルトを前に意気込んでいた。
……さ、さぁ……やりますよ……!
ケッセルリンクが料理を作り終えるまで、今は自分がアピールする時間だ。どれくらいの時間が掛かるかは知らないが、おそらく十分から三十分程度だろう。
それまでに、自分とケッセルリンク、二人の良いところを知ってもらったり、色々と押しを掛けたりしなければならない。
というのもケッセルリンクには外で様々なアドバイスを送ったが、それを全て実践出来るとはペールは思っていないのだ。彼女はかなり初心で純真であり、男性に詳しいとは言えない。いや、自分も詳しいとは言えないかもしれないが、彼女よりは知ってると思う。
だがケッセルリンクの場合は、純真であるが故に真っ直ぐなアピールが出来るという長所もある。
それならば自分の強みは何か、ペールはそれをしっかりと理解していた。
……私には、本で得た知識があります……!
自分が今まで読んだ本の中には、恋愛を書いた物語も数多く存在する。
その内容は多岐にわたるが、中には男を落とすテクニックを紹介するような本もあるのだ。
……今こそ、それを実践する時ですよ……!
自分はこの日のために、引き篭もって本を読み漁っていたに違いない。
ペールは、横に座るレオンハルトに笑顔を向ける。
そして本の内容を思い出す。まずは、
……私達にぴったりな本がありますよ……! 『気になる金髪イケメンを落とす方法』……!
著者は聖天美少女王レノラス先生。昨今発達したばかりの文学界隈では有名な方だ。ここ数百年で本が市井に出回る様になったのはこの人のおかげだと噂されている人物であり、誰も姿を見たことがない伝説の作家。
そのペンネームは痛々しいが、内容はそこまで悪くない。というか当たり外れが激しい作家なのだが、この本は当たりの方だ。ペールも何回も読んだ為、大体の内容は暗記している。その本によれば、
「れ、レオンハルトさん?」
「何だ?」
「……レオンハルトさんは――」
言う。本の内容の通りに、
「――わ、私のこと、そしてケッセルリンク様の事を、どう思いますか!?」
「……は?」
レオンハルトがよくわからない、と言わんばかりに口を開ける。しかしここで戸惑ってはいけない。ペールは果敢に続けて、
「私とケッセルリンク様に、どんな印象を抱いているのかを、教えて下さい……!」
「……どんな印象、か……」
眉をひそめながらも直ぐに理解してくれたのか、顎に手を当てて考え込む仕草を見せるレオンハルト。
彼は言葉を呟きながら、
「……いや、まぁ……色々あるが……ん。あっ――ああ、いや、そうだな」
レオンハルトが何かを思いついたのだろう。視線を顔ごと、こちらに向けてくると、
「……全体的なことは会って間もないからまだ分からない。だから具体的に、お前達のどういった部分についての印象について聞きたいか、教えてくれ。そうしたら答える」
「え、あ……そ、そうですね……」
逆に問われ、考える。
言っていることは言葉遊びのようだが、理解る。
彼は、真面目にそれを捉えたのだろう。私達と出会ったばかりなので私達のことを知らないからこそ、どう思っているかは答えられない、ということだ。それはつまり、
……あれ? よくわかりませんね……?
こちらの質問の意図としては、レオンハルトにそういった質問を投げかけることで、こちらを意識させるのと同時に、どういう部分を好ましく思っているのか、または、考えたくはないが、嫌いな部分があれば、それを聞ければいい、というそんな思いだ。
しかしその目論見は破綻した。なら、
……普通に好ましい部分を彼の口から並べてくれれば良かったんですけど……こうなったら仕方ないですね。
予想していた流れとは違うが、彼に自分達のことを聞けることには間違いないのだ。
直接的な事を聞けば、告白になってしまいかねない。今はそういった時間帯ではないわけだし、
……今は、遠回しに攻めて――いえ、調べていきましょう!
こうなったら一つ一つ聞いていけばいいのだ。自分達を様々な部分を彼がどう思っているのか。
なのでまずは、外せない問題について聞くとしよう。多少恥ずかしいが、
「れ、レオンハルトさん……」
ペールはレオンハルトの距離を少し詰める。よく見えるように、頭を上げて、
「わ、私やケッセルリンク様に付いている――これについてはどう思いますか……?」
「――――」
言った直後に沈黙が生まれた。レオンハルトが固まったのだ。
それもそうだろう。こちらが示したのは、カラーとしては外せないものであり、女にとって重要なものを表し、普通の人類種でないことを示すものなのだ。
そう、ペールやケッセルリンクの額に付いている、未だ赤い宝石――カラーの証であり、清らかな乙女であることを示す赤のクリスタル。
そうであるという事実に自信を持って、
「で、出来れば答えて下さい……!」
そうしてペールは、レオンハルトに回答権を渡した。
レオンハルトは固まっていた。
自分の横にはペールがおり、自分達の印象について聞いてきたところである。
それについて自分は、出会ったばかりなので自分でも分からない。だから具体的に問いかけてくれ、と若干逃げるように返したのだが。
すると彼女はあろうことか、こちらの腕にその胸部を押し当て、聞いてきたのだ。――これが、好きか? と。
レオンハルトは内心で叫んだ。
……急に何言ってんだこいつ!?
普通、男女の機微でそんな身体の下的なことを真っ先に聞くか!? と、頭を抱える。
せっかく気を使っていたというのに、そんな直球な質問が来るとは夢にも思っていなかった。もしかしたらケッセルリンクはともかく、ペールの方は肉食なのかもしれない。このド直球振りはそうだろう。
そして自分はなんて答えればいいのか――いや、そもそも答えていいのか。悩み、レオンハルトは確認を取る。口をゆっくりと動かし、
「……それについて、俺がどう思っているかを答えろと?」
「は、はい。出来れば、お願いします……大事なことですので」
ペールが羞恥を感じているような顔で念を押してくる。
……マジか……。
レオンハルトは約一分前の自分の行動に後悔する。質問をはぐらかそうと逃げた結果、まさかそんなデリケートな話を打ち明ける羽目になるとは、思いもしなかった。
しかし、具体的に言ってくれれば答える、と言ったのは自分だ。なら答えなければならない。二度もはぐらかすのはさすがに酷いし、それをしたところで更に酷い質問をされたら目も当てられない。
なのでレオンハルトは腹を括った。そして自分の腕に当たる特盛の感触を感じながら、
「……いや……まぁ…………大きい、な……」
「……へ?」
素直に言った。が、何故か首を傾げられてしまう。
どういうことだろう。まさか間違っていたのだろうか、と不安になる。
だが、彼女は不思議そうにこちらを見上げると、
「……そ、そうなんですか? 気にしたこともありませんでした……」
「そ、そうなのか……」
「はい。というかケッセルリンク様も、他のカラーも、皆同じくらいの大きさかと……」
「は、はぁっ!? マジか!?」
「! え、えぇ……多分……」
ペールがびっくりしながらも、頷いてくれる。それを聞いてレオンハルトは、
……え? カラーって皆巨乳なのか……? だとしたら――って、待て待て! 森で見た他のカラーは明らかに小さかったぞ!
一瞬、巨乳美少女だらけの里を想像して、移住を検討しかけたが、よく考えてみればそれはない。というかうちの使徒もカラーだが、全然大きくはないことを忘れていた。
驚かせやがって、と冷や汗をかいていると、ペールがこちらを窺うように、
「……で、でも……レオンハルトさんが言うなら、少し大きいのかもしれませんね」
少しじゃねぇよ。かなり大きいよ。
レオンハルトがそう思ったところで届かないらしい。悲しい認識の違いだ。
それで、とペールは改めて問いかけてきた。
「け、結局……こ、こっちの方が良い、ですか……? そ、それとも、こんなのが付いてるカラーはき、嫌いですか……?」
……な、なんだその質問!? 巨乳が嫌いか、ってことか!?
そこまで卑下しなくてもいいのに……、とレオンハルトは何故か巨乳をこんなの扱いするペールに悲しくなる。
だが、彼女にも悩みがあるのかもしれない。巨乳は色々と面倒も多いらしいしな、とレオンハルトは理解に努める。
しかし、例えそうだとしても、譲れないものがあった。レオンハルトは言う。
「――俺は、これくらいの方が好きだ」
「――――!」
思わず、真面目な声色で言ってしまう。仕事時に部下に命令を下す時よりも真面目かもしれない。ペールの目が見開いているのは、これ、どういう反応だろうか、と不安になるものの、
「……というか、それで差別まではしないけどな。それでも好みだけで言えば……俺はお前らの方が好ましい。――これで、いいか?」
本心を口にする。実際、乳は乳なのだ。そこに貴賎はない。
レオンハルトは思う。こういった好みの問題は難しいものなのだ、と。
世の中には、貧乳が好きなものや、尻派や足派、指が好き、などの身体の部位系から、ロリや熟女などの年齢系、メイドやガーターベルトなどのコスチューム系や、シチュエーションでも分けられる。
そこには男達それぞれの拘りの世界があるだろう。決して相容れない、理解し難い世界だってあるかもしれない。
だが、そこに掛ける情熱は同じなのだ。皆同じ想いを抱いて、それを探求しているはずだ。
そう。大事なのは全てにリスペクトを持つこと。
そして――自分の好きなものに誇りをもつことだ。
自分は巨乳好きだ。しかし貧乳が嫌いなわけではなく、他のパーツが嫌いなわけでもないし、好きな服装やシチュエーションだって当然ある。
故に、そこで争い合う必要はない。優先順位はあれど、差別されることはないのだ。
だから、と、レオンハルトはペールに微笑を向けて、
「――誇りを持ち、胸を張れ。お前は、卑下されるような存在じゃない」
励ました。そして、
「――――」
彼女が言葉を失った。
ペールは、身が震えるような感覚を憶えた。
そこまで重いこととは捉えてはいない。ぶっちゃけると清らかな女の方が好きなのか、と、本に乗っていた、男は初心な女性の方が好きだ、というのが彼に当て嵌まるのか確かめる為。
そして人種の差は気にしないのか、というのを聞くために、額のクリスタルを見せたのだが、
……この方は――。
とても、ズルい。
軽い気持ちで聞いたことを、こんな不意打ちで返されてしまっては、もう何も言えない。
結局、彼のことは聞けない。いや、わかったのは、彼がそんな些細なことは気にしない男性であることだ。
ペールはその気持ちのまま、行動を移した。
「……レオンハルトさん……!」
彼の腕に抱きつくように身をギュッと寄せる。拒まれたりしないだろうか、迷惑じゃないだろうか、などと考える余裕はない。
彼に認められた。たったそれだけで、自分の行動を止められない程に想いが溢れてしまったのだ。
ペールは思う。彼は自分の事を深く知っている訳ではないだろう、と。
カラーのことも、ペール自身のことも、詳しく知っている上で、認めた訳ではない。その言葉は何気ないものでしかないのだ。
故に彼は本当に、自分の好みを言っただけなのだろう。
だがそれでも、
……私はとても、嬉しく感じてしまいました……。
ペールは彼の温もりを感じながら、そっと口を開く。内容は事後承諾を取るもので、
「……レオンハルトさん……」
「――どうした?」
「……しばらく、このままでもいいですか?」
そう言うと、レオンハルトは息を吐き、
「…………好きにしろ」
と、相変わらずそっけない言葉で、それを許してくれた。
……じゃあ、好きにしますね……?
ペールは抱きつく力を強めつつ、ケッセルリンクが帰ってくるまで、その体勢で居続けた。
レオンハルトは、抱きついてきたペールを見て混乱していた。
……巨乳を褒めたら抱きつかれた……!?
何だこれは、堪能しろってことか、と馬鹿なことを考えてしまうくらいには、ぐいぐいと押し付けられてくる。
だが、その一方で別の思考も行われていた。それは、
……こいつ――いや、こいつら、か……マジで俺のことを――
信じられないような気持ちでいっぱいであった。
だが、今のペールや、ケッセルリンクの様子を見ていると、それは本当の様であり、
……まったく……魔人相手によくやるな……。
レオンハルトは息を入れながらも自分から指摘したり行動することはなく、見守ることにした。
スラル「主語を言いなさいよ! 主語を!」
ガルティア「いや、俺としてはあの作家の方が気になるんだが……」
スラル「!? べ、別に気にすることないでしょ。普通の作家よ」
ハンティ「いや、それよりも早くしないとあたし達の出番が――」
キャロル「そうですの! ツッコミを入れてる場合じゃありませんわ! 早くしないと出番に間に合わなくなってしまいますのよ!?」
皆「誰のせいだあ――!?」