※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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ケッセルリンク

 

 森の中に佇む一軒家。レオンハルト達が十日に渡って寝泊まりしたハンティの家にて、ケッセルリンクとスラルは向かい合っていた。

 室内に入り、扉を閉める。そうして密室状態を作り上げたところで、ケッセルリンクはスラルに向かって言葉を発した。

 

「――ここでよろしいでしょうか?」

 

「……そうね。でも一応――」

 

 場所に関しての了承を取ると、スラルは手を軽く動かして光と音を発した。おそらく何かの魔法の発動だろう、とケッセルリンクもそれなりに魔法の腕に覚えがある。故にそれに気づいた。

 

「――これで防音は完璧……だと思うから、問題ないわね」

 

「……そのようですね」

 

 ケッセルリンクは眼の前のスラルの行動に目を見張る。それは、興味深い、という思いがこもった視線で、

 ……この御方が……魔王、か……。

 やはり今更ながら自分が思い描いていた魔王のイメージとはかけ離れているな、と思う。レオンハルトから少しではあるが話は聞いたので、前よりは乖離していない。しかしそれでも、

 ……魔王がこの様な少女だとは思わなかったな。

 視界に映る魔王――スラルの姿は、低い。女性としては長身であると自覚する自分と比べるのは適していないが、それでも小柄で、可憐という言葉が似合う少女だ。

 これが自分よりも年上で、世界を恐怖と暴力で支配しようとする魔物の長とは思えない。――そう思ってしまうのは、レオンハルトから聞いた話と、見た目の印象。そして、先程のやりとりにあるだろう。

 そしてそれが、ケッセルリンクが、スラルに二人きりでの話を望んだ理由でもあった。

 

「……それで? 私に何の話があるのかしら――夜の王」

 

「!」

 

 突然の呼び名に驚いてしまう。自分がそう呼ばれていることは知っていたが、まさか魔王のような大物まで知っているとは、と。

 ケッセルリンクは驚きを最小限に留めつつ、スラルの問いに丁寧に答えた。

 

「……はい。先程の話の真実について、お教えしようかと」

 

「真実……ね」

 

 スラルがその言葉を聞いて表情を少し曇らせる。驚いてはいないのはある程度予想していたのだろう。

 しかし彼女は直ぐに気を取り直して表情を戻すと、こちらに視線をやって、

 

「それは、レオンハルトとのことよね?」

 

 はい、と頷きを入れる。するとスラルは目を細めて、

 

「ふ~ん……どうせ、どっちかが言い寄ったとかでしょ…………ま、どっちでもいいけど……」

 

 口を尖らせてそう言う。微妙に拗ねているように見えるのは気の所為だろうか。言葉の割には興味津々にも見える。

 急に前髪を弄り始めたスラルに対し、ケッセルリンクは真相を話そうと、口を開いた。

 

「その答えで言うなら……レオンハルトの方から。しかしそれは、ある意味で私の所為です」

 

「…………」

 

 無言で耳を傾けているスラル。レオンハルトの方から、と言った時に一瞬足が動きかけていたが、結局その場から動かなかったことを見るに、聞く気はあるのだろう、と話を続けることを決める。

 ケッセルリンクは、極めて落ち着いた声で、

 

「……レオンハルトは、私に……情けを掛けたのです」

 

 と、真実を話した。スラルの視線が怪訝な、それでいて興味の色に変わる。

 

「……情けってどういうこと?」

 

「簡単な事です。彼は、私と、ペールの想いに気づいた。そして同時に――私の寿命が近い事を知った」

 

「寿命……ひょっとして、”変化の時”のこと?」

 

 はい、と頷く。自分で言うことは辛いことだ。寿命の事ではなく、情けを掛けられたという事実を。自分は情けない顔をしていないだろうか、と不安になる。

 だが、スラルは今の所は気づいていないのか、顎に手を当てて思い出すように、

 

「変化の時。不老であるカラーに必ず訪れる寿命のようなものね。それまでの行いで天使か悪魔かに転生する――で合ってたかしら」

 

「……その通りです」

 

 内心で少し感嘆する。どうやらスラルは聡明な様だ。先程の魔法といい、カラー以外では知る由もない筈の知識といい、それが窺える。

 説明の手間が省けたことに感謝しつつ、ケッセルリンクは続けた。

 

「私はもう百年程生きています。故に、いつ変化の時が訪れてもおかしくない」

 

「……それを、レオンハルトが知っちゃったってこと?」

 

 はい、と頷く。おそらく、それを教えたのはペールだろうな、と当たりをつける。自分で言った憶えはないし、それを知っている人物も限られている。その中で唯一、レオンハルトと面識があるのがペールだ。その動機も何となく分かる。

 彼女の心積もりが何となく理解出来るが故に、その事自体は言わない。彼女を危険に晒すことはしない、とケッセルリンクは意思を確かに、言葉を続けた。

 

「彼は、私達に言った――怪我が治るまでの間、という条件を条件付きでなら私達の想いを受け止める、と。……そうしたのは、いつ寿命が訪れてもおかしくない私の事を考えてでしょう」

 

「…………」

 

「出会ったばかりでは当然だが……彼の想いは私に向いていなかった。しかし、最後の情けに――」

 

「――ちょっといい?」

 

「! ……ええ、どうぞ」

 

 と、不意にきたスラルの声に、言葉を譲る。

 そうしたのは、概ね事情は説明したというのもあるが、それよりも彼女の圧力が高まったからだ。

 有無を言わせない埒外の重圧に、怯んでしまう。しかしそれに耐えながらスラルの言葉を神妙に待つ。

 彼女は、こちらを見て息をつくと、そのまま目を細めた状態で言う。

 

「……なんか黙って聞いていたら、レオンハルトが同情で貴方と関係を持った風に聞こえるけど――そうとは限らないでしょ」

 

「……しかし、出会ったばかりの私を――」

 

「そんなの、関係ない」

 

「…………」

 

 スラルの強い言葉に口を閉じてしまう。彼女はどこか憤ったような、それでいて呆れているような、そんな口調で、

 

「……貴方、レオンハルトの事分かってない」

 

 スラルは言う。

 

「確かに、会ったばかりでそんなには知らないし思い入れもないかもしれない。でも、レオンハルトは同情でそんなことはしない。そうするってことは少なくとも……気に入ってるってこと」

 

 だから、と。スラルは確信と、とある感情を持った瞳で、

 

「レオンハルトはそんなこと……しない。じゃないと――」

 

 スラルはそこで言葉を止めた。その声はほんの少し震えており、何かの感情を覗かせている。

 ケッセルリンクがそれを察するのは充分だった。今の様子と先ほどのやり取りからその正体に感づく。

 そしてそれを、言葉にして宙に乗せた。

 

「貴方は彼のことを――大切に想っているのですね」

 

「! は、はぁ? 何を……そんなこと……」

 

「……それに、優しい人だ」

 

 スラルの表情がわかりやすく変化し、紅い瞳が揺れ動く中、ケッセルリンクは先程のやり取りを見て、自分が思ったことを口にした。それは、

 

「先程、レオンハルトを責めている時……ずっと彼のことを心配していたのでは?」

 

「……何を、根拠に……」

 

「私は普段の貴方を知りません。なので根拠は無いにも等しいのですが……強いて言えば、勘、でしょうか」

 

「…………」

 

 女としての勘。そんな事を口にするとは私も変わったものだな、と心から思う。そんな不確かなものを理由に口を開くとは、と。

 しかしそれは当たっているのだろう、スラルの目が更に揺れ動く。ケッセルリンクは続けてそう思った根拠を口にする。それはやり取りを見た感想であり、

 

「先程の貴方の表情は、レオンハルトに怒っているようでいて……その瞳には彼を労るような、悲しみの色が垣間見えた気がしました」

 

 これも勘。そうであるように見えた、というだけのこと。

 だが実際、彼女の表情はこれ以上ないという程に動じていた。ならばそういうことなのだろう。

 ケッセルリンクは敢えてその先は言葉にしない。彼女はとっくに分かっている筈だし、こちらもそれに確信を得た。なら後は、

 

「……私の話したかった――いえ、言いたかったことはこれで終わりです」

 

 後はお好きに、と微笑を携えて相手に主導権を渡す。

 ――これで、覚悟は決まった。

 

「……なるほどね――」

 

「っ!」

 

 その瞬間、スラルの存在感が膨れ上がった。魔王としての重圧がこちらに向かって叩きつけられ、表情を歪める。

 

「――言いたいことはそれだけ。……なら、もうどうなっても良いと、そういうことね?」

 

「はい。貴方の大切な人を危険な目に合わせ、なおかつ、不義理を働いた行為――」

 

 その代償として、

 

「――私の、命を以て償いましょう」

 

 

 

 

 

 ……やっぱり、そういうことね。

 スラルは、眼前で膝を突いたケッセルリンクに対し、複雑な感情を抱いていた。

 彼女のことは情報としては知っている。カラーの元長で、夜の王。人間種としてはかなりの実力を持つ存在だ。

 そんな相手は今、自分に命を差し出す。と、言っている。その事に対し、スラルは自分の血が沸き立つ感覚を覚えたが、それを一歩手前で抑えつつ、残った冷静な頭でそれを考える。思ったことは、

 

「……貴方、最初からそうするつもりだったでしょ」

 

 はい、と頷きが来る。こちらとの話し合いがどうなろうとも、最終的にはそうするつもりだったと、そういうことだ。

 その上で、追加の言葉が耳に届く。それは、

 

「貴方達が現れた時点で、私自身のけじめとしてそうしようと、心から決めていました」

 

 そんな潔い言葉だ。どうにも彼女は気取ったところがあるのか、その言葉には一切の淀みがなく、妙に様になっている。それを同じ女性として、微妙な感情を覚えつつも、気になる部分は別のところだ。スラルはそれを指摘する。

 

「……でも貴方は、もうちょっとで変化の時を迎えるんでしょ? そんな貴方が命を差し出すといっても――」

 

 価値はあまりない、と言外にそう告げる。何となく彼女の考えが読めてきたからだ。

 

「加えてそうであるからこそ、二人で話し合いたかったんでしょ。もう一人も一緒だと貴方が命を差し出すことを止めようとするでしょうし、それで向こうもそういう話になったら――」

 

「…………」

 

 その先は、言わなくてもわかるだろう。事実、ケッセルリンクはほんの少しではあるが眉を動かした。

 彼女は未だこちらの重圧を受けながらも、息を入れる。そして白状するかのように口を開いた。

 

「……確かに、そうですね。私一人であるなら危険に陥っても構わない、とそう思いました」

 

 お見逸れしました、とケッセルリンクが頭を下げる。彼女の謝意を受けてスラルは心が冷えるのを感じた。何ということもない。元長としては当然の判断だ。しかしそうであったとしてもスラルには理解出来ない。

 

「……それを承知の上で、私に正直に打ち明けたと? 殺されると分かっていて?」

 

「はい」

 

 即座の頷きに解せない思いが浮かぶ。

 ……何よそれ。

 スラルは相手の判断を理解出来ない。

 思うのは、変化の時というカラー特有の寿命のこと。

 先程は価値がないとそう言いはしたものの、そうではないとスラルは考える。

 何故なら、変化の時は、個人としての死とはいえないから。

 その時が来れば、天使か悪魔かに転生する――それは死ではないだろう。個人の性格や記憶がちょっとでも残っているなら、そんなのは死ではない。微塵も怖くない筈だ。

 しかし、殺されるのであればカラーであってもそれは完全な死だ。個人というものが消えてしまう。この差は大きい。何故そんなものを選び取るのか。前者の方が圧倒的にマシな筈だ。なのに彼女は、

 

「どうして……」

 

 躊躇なく、そんな選択を、

 

「何で……」

 

 そう簡単に、

 

「わからない……」

 

 選び取ることが出来るのか。

 

「何でそんなあっさりと、命を捨てられるのよ……!?」

 

 理解出来ないし、したくない。そんなものは。

 震えを自覚しながらも止められない。

 殺してくれ、なんて言わないでほしい。そんなことを言われたら、自分は――

 

「――答えなさいッ!!」

 

「!? ――ぐっ!」

 

 ケッセルリンクの首を捕まえて問いを投げる。早く答えろ。でないと――

 

「早く――」

 

 ――本当に、殺してしまう。

 

 

 

 

 

 ケッセルリンクは首を絞められ苦悶の表情で眼前の少女の表情を見た。

 憤りや悲しみ、恐怖と愉悦。笑みを浮かべながらも震えている魔王の様子は、こちらを瞠目させるには充分で、

 ……彼女は――。

 首を絞められながらも間近で見ることで、何となくその葛藤を理解する。

 その腕の力は、魔王にしては弱々しく、思ったよりも簡単に口を開くことが出来た。話し合いは終わっていない、とそういうことだ。ケッセルリンクは魔王に問いを投げかける。

 

「……貴方、は……殺すことが、怖いの、かね……?」

 

「――――」

 

 返答は沈黙。しかしその表情は雄弁だ。問いを続ける。

 

「貴方、は……死ぬのが、怖い、の、かね……?」

 

「――――」

 

 再び沈黙。しかし今度は動きが来た。首を振る動きを見る。重ねて問う。

 

「貴方、は……それ、が、理解、出来な、い……?」

 

「――――ぅょ」

 

 今度は声が来た。同意の声だ。それに内心で頷きを入れる。

 ……なるほど、理解した……。

 問いを重ねて新たな確信を得た。ならば答えよう、とケッセルリンクは口を開いた。

 

「……私、は――」

 

 それは、

 

「――貴方になら、構わないと……そう思ったのだ」

 

「――!」

 

 スラルの目が丸くなり、腕の力が緩む。そうして喋りやすくなったところで、ケッセルリンクは想いを口にした。

 

「彼が、心から信頼する者の手によって、裁かれるならば……悪いことにはならない、と思った」

 

「信、頼……?」

 

 ああ、と頷く。誰かはこの場において言わなくてもいい。お互いに理解しているから。

 なので告げる言葉は想いだけで良い。眼の前の少女に向かって、それを口にするだけだ。

 

「貴方に会ったことはなくても、彼とは少なからず言葉を交わした。……それで、審判を預けるには充分だった」

 

 彼との約束から、その内容は言えない。しかし、それでも伝えられる事はある。

 

「実際に会って……それは確信に変わった。貴方なら、ペールや他のカラーに手を出すことはない、と」

 

「……殺される、のに……?」

 

 言う。信頼や打算も全て引っくるめた正直な気持ちだ。彼女をその苦しみから、一時でも解放するには、それを正直に言うこと。それが最善だと信じて。

 ケッセルリンクは微笑を浮かべた。

 

「そうだとしても、貴方なら――ひと思いにやってくれる」

 

「――――」

 

「私は最後に……女として身に余るほどの幸いを得た。その代償が死であったとしても悔いはない」

 

 だから、

 

「……どうか気に病まないでほしい。他ならぬ私自身が、この結末を望んだのだ」

 

 故にこれは救いなのだ、貴方の罪ではない、と。ケッセルリンクは今度こそ自らを差し出した。仮に彼女が怒りに狂って、こちらに死よりも生温い責め苦を味わわせたとしても構わない。全てを受け入れる、と。

 そうして、数秒とも数十秒とも思える間が訪れた。ケッセルリンクはもはや語ることはない。後は裁きに身を任せるのみ。

 スラルは暫くの間、黙ってこちらを見つめ続けていた。彼女は、答えを得たのだろうか。それは納得に値するものだろうか。ケッセルリンクの心にはそんな思いが浮かぶ。

 そんな中、スラルは動いた。ケッセルリンクを見据えて、告げる。

 

「――本当に、どうなってもいいのね?」

 

「……ご随意に」

 

 迷いはない。既にこの身は自分の物ではないのだ。例えあらゆる苦しみを得て、どのようなことを強要されようとも、自分はその審判を受け入れる。その想いには一点の曇りもない。

 そうして言った言葉に、スラルは応答した。わかった、とそう言って頷きを入れる。

 その彼女の審判の言葉を、ケッセルリンクは聞き逃すことなく耳にした。

 

「なら私に――忠誠を誓える?」

 

「!」

 

 思わず顔を上げる。予想外の言葉だ。

 ……それは……いや、まさか……!

 意味を半ば理解しかける前に、目の前の魔王はこちらを見て続く言葉を放った。

 

 それは――

 

「――夜の王、ケッセルリンク。……貴方には、魔人になってもらうわ」

 

 ――魔に属するものへの勧誘であった。

 

 

 

 

 

 なぜ、という思いが身体を強張らせる。

 ケッセルリンクは未だ衝撃から抜け出せないまま、言葉を捻り出すように、それを口にした。

 

「何故……?」

 

 辿々しい、簡潔な問い。しかしスラルはそれを聞いて淡々と、

 

「何故、ね……そんなことを聞かないで欲しかったんだけど……」

 

 そう言って視線を少し逸らす。しかし直ぐにそれを戻してこちらを見据えると、彼女は少し言い辛そうにしながらも、

 

「……貴方、どうなってもいいんでしょ? なら、殺すより、その方が……その、罰になるし」

 

「…………」

 

 ケッセルリンクは無言でそれを聞く。殺すよりは罰になる、と。なるほど。確かに、そうかもしれない。

 ……私は、死ぬことを望んでいるからな。だが――。

 しかしその上で疑問もある。確信に近いものだ。それを口にする。

 

「……私を殺すことは出来ないと?」

 

「……勘違いしないで。その方が、私にとって利になるからだし……」

 

 それに、とスラルは言葉を作った。目を軽く開きながら、

 

「本当に悪いと思ってるなら……私に尽くせるでしょ? それとも、その謝意は嘘なの? 魔人なんかにはなれない?」

 

「…………」

 

 そう言葉を告げるスラルの様子をケッセルリンクは見た。視線の端で、彼女の小さな手が映り、

 ……ああ、なるほど。

 彼女の手が、微かに震えているのを見て、ケッセルリンクは彼女の心を感じ取る。それは、

 ……怯えているのか……。

 魔王が何故、と普通なら思うが、短いながらも言葉を交わしたことで、その反応にはさほど驚きはなかった。

 要するに、スラルという魔王は、ただの少女なのだ。

 それも特別臆病な――人に拒絶されることにすら恐怖を覚えて、人を殺すことに躊躇し、そして大切なものがある、只の少女。

 そしてようやく、レオンハルトが言っていた言葉の意味も理解した。これなら彼が、彼女の為に戦いたいと思うのも頷ける。

 ケッセルリンクは一度だけ考える。どうするべきか、ではない。――自分はどうなるのか、と。

 そうなるということは、今までの生活や関係を捨てることになるが、それは問題ない。自分はどの道、カラーではいられなくなる身だ。支障はない。

 魔に属するなら人間と敵対することになるだろう。その点も問題はない。元より人間、特に男の人間は快く思っていない。

 ……しかし。

 一つだけ、思うことはある。それだけ聞かせてもらいたい、とケッセルリンクは疑問を口にした。

 

「私を……彼への想いを抱える私を、麾下に加えると?」

 

 その問いに、スラルは若干表情を歪ませた。しかし、

 

「…………それは、保留にするわ。私も……色々と思うことはあるし……」

 

 言葉を濁しながらも撤回はしなかったスラルはそのまま続けて、

 

「……で、どうするの? 私に忠誠を誓える?」

 

 言った。その言葉にケッセルリンクは、心を決めて、応答した、

 

「――わかりました」

 

 そうして片膝を突き、胸に手を当てた。スラルに頭を下げて、

 

「私は、貴方に忠誠を誓いましょう」

 

「……そう」

 

 その誓いに、スラルは短く応答した。そして片膝を突くこちらに一歩近づくと、

 

「――信じるからね」

 

 と、スラルは自分の指先から、血を垂らすと、

 

「――――」

 

 ――ケッセルリンクにそれを与えた。

 

 

 

 

 

 沢でサカナを取りに行って、直ぐに戻ってきたレオンハルト達は、即座にそれを察知した。

 直前まで談笑していた皆の口が止まり、表情が真剣なものに変わる。それを見て、ペールが、

 

「え、な、何ですか、これ……?」

 

 何が何だか分からず、困惑した言葉を上げる。

 そんな中、レオンハルトはガルティアの言葉を耳にした。

 

「……これはやばくねぇか?」

 

「……どうだろうな」

 

 レオンハルトは息をつきながら、それを感じ取る。ハンティの家に視線をやり、続く言葉は、

 

「感情は昂ぶってるみたいだが……気配は二つある」

 

「……なら、問題ねえか。よし、サカナ食おうぜ」

 

「……でも、この気配は――」

 

 切り替えが早すぎるガルティアに呆れつつも、レオンハルトは家の中から感じる気配に、首を捻る。

 一つは、スラル。そしてもう一つはケッセルリンク。その筈だが、

 ……何だ、この濃さは。力が膨れ上がって――

 まさか、と思う。しかしそれは確信には至らない。根拠がないからだ。

 しかし自分の勘は、それを訴えている。その感覚に妙なものを感じつつも、レオンハルトは家を注視し続けた。

 そんな時だ。

 

「――あ」

 

 ふと、誰かが声を漏らした。ハンティの家の扉が開いたからだ。

 それに気づいた面々は、一斉に視線をその場所に向ける。話し合いはどうなったのか、と。

 皆が興味を向ける中、魔人、そして使徒の面々は、その気配に気づいた。

 

 ――知らない気配がある、と。

 

 そしてその後に、家の中から、人影が出てきた。その小柄な影は皆が知る人物。

 

「…………」

 

 魔王スラル。彼女が出てきたことに驚きはない。魔王の気配は、魔人にとっては最も色濃く感じるものだ。その場からいなくなれば直ぐに気づく。

 だが、問題はその背後。もう一つの、魔の気配だ。その正体を皆は何となく察して、

 

「お、こりゃあマジか?」

 

「え、嘘、本当に……?」

 

「……なるほど、理解しましたわ!」

 

「…………」

 

 口々にそう言う。表情や言葉は違うものの、皆に共通するのは驚きであり、まさかそうなるとは、という思いを一様に言葉にした。

 そして、もうひとりの気配が姿を現す。

 強くなった存在感。その持ち主が家の中から出てきたことに、皆は目を見張った。

 

「……皆に紹介するわね」

 

 そして、スラルは、自分の横に並んだ女性を手で示して言葉にする。

 

「新しく魔人になった――」

 

 その先にいるのは、皆が先程見た人物の姿だ。

 青い髪に額の青いクリスタル。女性らしさを持つその均整の取れた肉体。容姿は大きく変わらない。瞳が赤く変化しているくらいだ。

 しかし、その服装は黒い貴族のような衣装に変わっており、周囲に漂うオーラとともに妖しい気配を醸し出している。

 そんな、新たな魔人となった彼女の名は、

 

「――ケッセルリンクよ」

 

「――よろしく頼む」

 

 皆の視線を受けながら、堂々とケッセルリンクは礼を行なった。

 

 ――直後、カラーや元カラーの叫びが森に木霊したのは、言うまでもない。

 




キャロル「世間はコ○ケですわー!」

スラル「どうでもいいけど、ここの作者、ハニホン買ってないらしいわよ」

ガルティア「おいおい、重要な新設定があったらどうするつもりだ?」

ハンティ「通販待ち……?」

キャロル「わたくしも、レオンハルト様本書きますわ! 次のコ○ケに備えて!」

スラル「…………私も入れて」
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