戦いは、数で勝る人間側の優勢であった。
戦士長アーノルドが率いる王国の戦士団はカラーの集落を正面にした横隊を作り、その広さを持って攻め立てていた。
対するカラーの戦士団は数で劣りながらも何とか同じ様に弧にも似た広い列を形成して、前進してくる人間たちを弓と魔法で迎撃する。
しかしそれも長くは続かない。戦場が広くなったことで、数の利がより強く表れ始めたからだ。
局所的には上手く迎撃出来ている戦地もあるが、集落に続く前面を全てカバーしようとするには、圧倒的に数が足りない。その多くは人間達の攻勢に押されて徐々に数を減らしながら後退していく。
個人能力の高いカラーの精鋭達で構成された遊撃隊などが木々の上から人間たちを上手く仕留めているものの、それも人間達の取った作戦によって阻害されてしまっていた。
それは、
「くっ……森を火で……! 何てことを!」
木をところどころ燃やしながら進む兵達を、カラーの戦士は強く睨んだ。
彼らはその手に松明を持っており、それを投げつけて森を燃やしている。本来は、陽が沈みゆく夜の森を進む為の明かりであるそれは今、カラーへの攻撃手段として使われていた。
炎が木々に燃え移ったことで自分達で照らす必要もなくなり、更には闇夜に紛れようとしていたカラー達もその作戦を潰される。
それを見たカラーの戦士達は皆一様に焦りを顔に滲ませていた。
戦力比は明らかにこちらの不利、地の利は炎によって徐々に潰されている。
その上敵の前線には止めることの出来ない人間の怪物――アーノルドがその戦斧を振るっている。
かの者を止めることの出来る可能性があるケッセルリンクはここにはおらず、長であるペールも未だに帰ってきていない。魔人に拐われて以降、居場所が分からないのだ。
――このままでは……!
その先は口にするのも憚られる。しかし、徐々に感じる死の気配が恐怖となって身体を震わせる。
集落に辿り着かせてはならない。それを心に留めて何とか戦い続ける。
しかしそれもいつまで続くことか。
「――いたぞ! カラーだ!!」
「ぐっ……!?」
木々の隙間から紛れて人間を狙い撃っていたカラーも、面となって進んでくる人間達に捕捉されてしまう。
そして声とともに数十の人間が殺到した。誰も彼もが自分を殺し、もしくは傷つけて捕まえ、犯そうとして目がギラついている。
戦場での人間は悪魔だとカラーは知っていた。その野蛮さは魔物と大差ないものだ。
捕まれば自分は死よりも酷い仕打ちを受ける。その前に逃げるべきか、それとも自決するべきか――
それを決断しようとしていたカラーは、しかし、それを実行できなかった。
何故なら、横から衝撃が来たからで、
「ぎゃああああ――!?」
「な、何だっ!?」
「っ!?」
カラーが見たのは、人間に襲いかかった目に見えない衝撃の波だった。空気と木々、ついでに幾人かの人間を斬り裂いたそれは、驚愕に目を見開くには充分であった。
一体何が、と人間もカラーも等しくその現象の発生に足が止まる。しかし幾人かは、その現象に心当たりがあった。
これは、数日前の戦いでもあった――
既視感を覚えた一部の者達がそれを完全に思い出すまでに、とあるカラーはそれを知覚した。
耳に聞こえるのは、こちらに歩いてくる数人の足音と声で、
「それ荒っぽいなあ。カラーまで巻き込むんじゃねぇか?」
「ちゃんと計算してやってるから大丈夫だ。――多分」
「レオンハルト。当たってはないようだが気をつけてくれ」
「……当たってたら怒るからね」
「……わかってるよ。お前らの同胞を傷つけはしない」
「レオンハルト様がそんな計算ミスをする筈ありませんわ!」
徐々に近づいてくる人影。その数は六人の男女。肌の色や髪の色、姿形に差異があるその者達は、その誰もが人間を遥かに越える存在感とオーラを放っており、戦場に悠然と侵入してきた。
その中心にいるのは白い髪の少女であり、その少女が声を上げる。
「……それで、どう動くの? レオンハルトが決めて」
「とりあえず、適当に散開して敵を蹴散らすぞ。ないとは思うが、万が一を考えて二人一組になれ」
「振り分けはどうするんだ?」
指示を出す金髪灼眼の男が、
「適当でも問題はないが……一応均等にするぞ。――まず、ガルティアとハンティ」
「おう」
「ん、了解」
「次に……ケッセルリンクにはスラルを任せたいんだが……構わないか?」
「……ああ、構わないとも」
「スラルもいいか?」
「……いいけど。私の見てない間に変なことしないでよ?」
「しねぇよ。というか変なことって何だ……。最後は――」
「わたくしと、レオンハルト様ですわねっ!!」
「……そういうことだ」
金髪の男がそう言うと、その集団は意思を統一させた様に見えた。
そして、
「それじゃあ、終わったら適当に落ち合うぞ。――じゃあな」
「あ、待って下さいレオンハルト様――!!」
そう言って、金髪の男はその場から瞬時にかき消えたように移動する。それを見た金色の髪の少女が騒がしい声で、おそらくその方向に向かって追いかける。
「……あたし達も」
「おお。そんじゃ、後でな」
黒髪のカラーがその場から一瞬で消えると、褐色の肌で腹に大きな穴が空いた男は爪の間から糸を出して木々の間を飛ぶように移動した。
「――では、スラル様。我々も」
「ええ、行くわよ」
最後に青いクリスタルを持つカラーの美女が飛び跳ねて木の上に移動すると、白髪灼眼の一際大きな存在感を放つ少女が魔法で宙に浮いて飛んでいく。
その集団を偶然にも目撃したカラーは、驚きと混乱で目を瞬きさせた。
「今いたの……ケッセルリンク様と、始祖様……?」
その疑問は宙にだけ響いて消えた。
直後、戦場のあらゆる場所で、人間を蹴散らしながらとある存在達が移動する。
そして運良く、その存在に声を掛ける余裕があった者達がいた。数秒後、あるいは次の瞬間には絶命する彼らであったが、その人間の兵士達は、確実にその存在の名を聞いた。
口調はそれぞれ違うものの、同一の事をその存在達は答えた。それは、
――魔人である、と。
魔人。そしてその使徒が戦場に現れたことを、人間やカラー達は知ることとなった。
最初に戦場で暴れ始めたのは、魔人レオンハルトだった。
彼は責任感をもって事に当たる。仕事ではないがそうするだけの理由があったのだ。それは、
……あの時、俺が上手くやるなり、殺し尽くすなりしていればな……。
数日前に行なったペールとの取り引き。道案内をしてもらう代わりに人間を追い返すという約定を、レオンハルトは完璧にこなす事が出来ていなかった。
いつも通りに指揮官だけを潰してまわれば、大軍を動かすことは出来ず人間たちも諦めて帰ると思っていたのだが、見通しが甘かった。人間達はそれでもなお、再攻勢を掛けてきたのだ。
その背景は知らないし、理由は不明だ。何か特別な事情があったのかもしれない。
だがそれは言い訳にならない。失敗したのは事実だ。
故に、レオンハルトは今回に限り、自分への枷を解放する。
即ち――雑魚相手への殺戮の解禁。
弱い者いじめや一方的な虐殺を好まないレオンハルトであるが、必要に迫られた場合は別だ。
そして、今はその時である。
「――おい、お前ら」
「――っ!? な、な、何だ貴様は……!?」
身の丈以上を誇る魔剣、オル=フェイルを威嚇するように構え、睨むように見る。
それだけで人間達は寒気を感じたように、声や身体を震わせて表情を歪ませる。ただでさえ弱そうなのに、戦意さえも萎んでいくのを見て息が漏れる。
……雑魚はこれだからな……。
少し力を見せるどころか、姿を見せただけでこれでは戦いにならない。
レオンハルトが強くなればなるほど、こういった表情を人間は見せるようになった。
戦場で鍛えた兵士なのだから、戦う意思は何とかあるのだろう。それでもマシな方だ。普通の人間は、魔人という存在に気づいた時点で怯えて、絶望するだけとなる。
戦意があるだけで大分マシだが、それだけでは自分と戦えない。自分が楽しめない。
しかし今はそれを我慢しよう。冷静な声で告げる。
「今この森では、俺達魔人がピクニックしてる最中でな……」
「ぴ、ピクニック……?」
意味が分からないと言わんばかりに目を泳がせる兵士。そんな彼らを目を細めて見ながら、
「その邪魔になるからお前らを殺そうと思う」
「――――」
兵士達が一様に言葉を失う。
さすがにこの理由は酷いか、と思うも訂正はしない。固まる彼らを無視して言いたいことだけを言う。
「剣を構える時間くらいはくれてやる。恨むんなら、自分達の間の悪さを恨め」
「な、な、な――」
兵士が声を震わせる。そして憤ったのか顔を怒りに染めると、剣を構え、
「ふ、ふざけ――」
「えいやっ!」
その怒声は、完全に発声する前に横から振られた剣に止められた。
兵士の首が、血飛沫を上げながら綺麗に飛ぶ。
兵達の顔が青く染まる中、それを引き起こした自らの使徒、キャロルは細剣に付いた血を払いながら、
「あ、完全に構える前にやってしまいましたわ……! 申し訳ありませんレオンハルト様!」
「……いや、いいぞ。ギリギリセーフだ」
「それなら良かったですの――よいしょ」
そう言うとキャロルは安堵したように胸を撫で下ろし、気を取り直した様子でその死体に近づくと、屈んでそれを調べて、
「……あれ? レオンハルト様ー! アイテム落ちませんでしたわー!」
首を傾げた後、そんな報告を上げてきた。
それは自分のとある趣味の際によく見られる光景であり、レオンハルトは半目で、
「……キャロル。迷宮のモンスターじゃないんだからアイテムは落ちないぞ」
「あっ……それもそうですの。残念ですわー……」
仕方ない、とキャロルは少し肩を落とす。しかしそれは一秒程度で、再び切り替えたように顔を上げると、
「それなら剣の練習に致しますわ! こんな感じで――」
「ぐぎゃっ!?」
適当に振った剣の先に兵士が当たり、その頬が斬り裂かれる。それを行いながらもキャロルはレオンハルトの方を振り向き、
「レオンハルト様ー? 剣の振り方はこんな感じでよろしかったですのー?」
「ひっ、ぎゃあっ!?」
と、剣をぶんぶんと振って兵士達を殺していくのを見て、レオンハルトは息を吐いた。
そして剣を構えると、
「違うぞキャロル。剣を振る時は……もう少しこう――全身を使って順序よく力を伝えて――ッ!!」
剣を八相に構えて、それを振り下ろす。
すると、前方に向かって大気と剣の衝撃が走った。
「あ――」
木々と一緒に人間を断つと、彼らは何が起こったか分からないまま地面に倒れ伏した。
そして剣を自然体で右手に持ち、
「――こんな感じだ」
とキャロルに示してみせる。所謂お手本という奴だ。
「相変わらずレオンハルト様は凄いですわ! わたくしも精進致します!」
「ああ、頑張れ」
そう言うと、再び兵士達を正面に見据える。
彼らの顔は、恐怖で更に歪んでいる。
そんな兵達を見ながら、レオンハルトはキャロルに向かって告げた。
「――なら、そろそろやるぞ」
「はい! 畏まりましたわ!!」
「ひ――」
それを皮切りにして、蹂躙は始まった。
「う、うわああああ――!? 逃げろ――っ!!」
「あ、こらっ! 逃げちゃ駄目ですのよ!」
経験値が逃げてしまいますわ! とキャロルは左手の銃も抜き放ちながら追いかけていった。
レオンハルトは逃げようとする兵士を斬撃を飛ばして斬り裂きながら、キャロルを見て思う。
今彼女は、逃げているとはいえ人間の兵士を簡単に屠っており、
……こいつも、昔に比べたら成長したな。
使徒にした当初は、普通の人間よりは強いが、魔物将軍と同じか良くてもそれよりちょっと上程度の実力しか無く、使徒の中ではあんまり強い方ではなかった。
それも今は、人間の兵を簡単に作業感覚で片付ける程度には成長しており、
……ふむ、やっぱ伸びしろはあるな。これからも育ててやるか。
成長速度は高い訳でもないし、強いと言っても使徒の中ではまだまだではあるが、向上心は高いので成長も見込める。それを再確認出来たことは意義があるだろう。最近はハンティと戦わせてばかりで人間と直接戦わせることは少なかったので、キャロルにとっては有り難いのかもしれない。
願わくば、もう少し強い人間とやらせてみたいが、
……そういえば、あの強そうなデカブツはいるのか?
ふと数日前に出会った、人間にしては中々の実力を持っていそうな大男がいたことを思い出す。あの時は蹴り飛ばして離脱させたが、生きている可能性は高いだろう。
それにおそらく、そいつがこの人間達の軍の中で一番偉いだろう。再度の攻勢を行なってきたのだから、そいつがいる可能性は高い。
……なら、そいつを見つけて殺せば――
少しは、戦いが楽になるかもな、とレオンハルトは周囲の雑兵をキャロルと一緒に殺しながら、当たりが見つかることを祈るのだった。
「はぁ……っ、はぁ……!」
「逃げんなよー、嬢ちゃん……!」
とあるカラーの少女は、人間の兵士達に追いかけられて息を切らしていた。
心臓が強く脈打ち、恐怖で足が竦む。
彼女はカラーの戦士団に入ったばかりの少女であった。
魔法の才能があった彼女は、その才能を少しでも集落の為に役立てたいと思い、戦士団に志願したのだ。
憧れのあの方の様に、人間達から同胞を守る為に戦場に出ようと覚悟を決めた。どんなに苦しい思いをしても、仲間を守る為なら耐え忍んで見せると決意した。
――しかし、その覚悟は甘かったと言わざるを得ないだろう。少女は、戦場を知らなかった。
血潮が飛び散り、悲鳴と怒号が行き交う、戦場の強すぎる闇を少女は初めて味わった。
味方が目の前で死ぬところを見た時――いや、敵の死体を見た時も、少女は吐き気が止まらなかった。
胃の中のものを全て吐き出し、それにようやく慣れた頃、敵はもう間近に迫っていて、
「あ、うぅ……!」
少女は、ただ逃げ出した。
そして、追い詰められていた。
「さぁて、少し楽しませてもらうぜ……!」
「ははは、じっとしてたら直ぐ終わるからな。暴れんじゃねぇぞ」
人間の男たちの手が少女に迫る。そして少女は自分の浅はかさを思い知る。
自分なんかが戦場に出たことが間違いだったのだろう。自分なんかが仲間の為に何か出来ると思い上がってしまったのが間違いだったのだろう。自分なんかが、あの人の様になれるなんて夢を見なければ――
涙で滲んだ視界の中で、少女は男達の下卑た表情を目撃した。
だが、
「――待ってもらおうか」
不意に、少女の背後から声が来た。
それは彼女が見知った存在に酷似した女性の声で、
「――あ? お前は……」
兵士が、突然音もなく現れた存在に疑問の表情を見せる。
しかしそれを見る前に、
「――っ!?」
衝撃が腕に来た。瞬間だ。男が呻いた声を上げるが、一体何が起こったのか、誰にも分からない。
最初に気づいたのは衝撃を受けた男だった。少女に伸ばそうとしていた手を見て、
「あ――俺、の……腕、が……」
「……捜し物は、これかね――」
と、女性が姿を見せた。それは、青いクリスタルを持つカラーの女性。
ケッセルリンクだった。少女も知る人物の到来。その登場は、手にとあるモノを持っての登場だった。
指し示すケッセルリンクの手が徐ろに投げ捨てたのは――切り落とされた男の腕だった。
「あ、ああああぁぁ――っ!?」
気づいた瞬間、凄まじい痛みが男の全身を駆け巡ったのであろう。悲鳴が森の中に木霊する。
しかしケッセルリンクはそれを無視して少女に近づくと、気遣うような声で、
「大丈夫かね?」
「あ……」
ケッセルリンクが身体をさっと見て、少女の傷を確認する。大きな傷こそないものの、戦場で出来た幾つかの傷が少女の身体に痛々しく刻まれており、
「怪我をしているようだな……今すぐ下がって治療を――」
『……いいわ、私が治す』
「っ!?」
森の何処かから、女性と思わしき別の声が聞こえてきた。そして少女の身体が光ると、
「え、治った……」
少女は唖然としてしまう。言葉通り、自分の身体の傷が治っていたからだ。
察するに、今のは神魔法――ヒーリングか何かだろうか。その答えは分からないが、ケッセルリンクが声を上げ、
「……感謝します」
とお礼を、おそらく声の主に言ったことで、その隠れている女性が治療したことは分かった。
だが感謝を受けた女性と思わしき存在は、
『別にいいわ。それよりも、早く終わらせましょ。頼んだわよ』
「ええ、承りました」
ケッセルリンクに命令を下した。それを素直に聞こうしているケッセルリンクに、声の主は何者なのか、という疑問を抱く。
人間の兵士に改めて向き直ったケッセルリンクは、少女を背に庇うように堂々と立ちながら告げる。
「悪いが容赦はしない。残らず死んでもらうが――構わないな?」
鋭い視線と声が男達を射抜いた。男達が震え上がる。
しかしそれを堪えて、彼らは叫んだ。
「ふ、ふざけるな! 死んでもらうだと!? テメェ一人で何が出来るっつうんだよ!!」
「……少なくとも――」
ケッセルリンクが答える。静かな殺気を漂わせて、
「――君達を殺すくらいは出来るつもりだが?」
そう言うと、周囲が暗くなった。
否、そんな生易しい次元ではない。
「なっ――これは……!?」
驚きの声を兵士達が上げるのは、周囲に起こった変化の所為だ。
自分達がいる周囲の森の空間の全てが、闇に覆われ始めた。
夜の暗闇――ではない。兵士達は手に松明を持っており、更には森に燃え移った火も残っている。
しかしそれは意味を成さない。
光を受け付けない完全なる暗闇が完成し、一寸先も見えない視界の中で、兵士達はどうすればいいのか狼狽えていた。
そこに、ケッセルリンクの声が響く。
「君達は、罪深い」
闇の中で、ケッセルリンクが告げる。
「君達は、私の大事なものを傷つけた」
それは罪人に罪状を言い渡している様であったし、事実そうなのだろう。彼女の声には、一切の慈悲を見せない、とそんな意思が表れているように聞こえる。
「故に――この“アモルの闇”の中で、無様に死んでいくがいい!」
アモルの闇。
ケッセルリンクが魔人と化して手に入れた幾つかの能力の内の一つを以って、その場を蹂躙し始めた。
視界を潰された兵士達は、徐々にパニック状態になっていた。
それは、悲鳴の所為だろう。
次々と聞こえる仲間の兵士の断末魔は、闇の中でケッセルリンクが自分達を殺す為に動いている証拠だ。それを感じ取り武器を振り回せば、仲間の兵士の苦しむ声が響く。同士討ちだ。
逃げ出すことも戦うことも出来ない闇夜の中で、人間達は次々とその数を減らしていった。
「食らいな――雷神雷光!!」
「がぁああああっ――!?」
ハンティの気合のこもった声とともに、人間の兵達に落雷の雨が降り注ぐ。
雷属性の最上級魔法というだけあって、その威力と範囲は絶大だ。多くの人間が雷に焼かれて絶命していく。
それを見たガルティアは感心するように顎を手で撫でながら、
……へぇ、やっぱ気合入ってんなぁ。
ハンティが、この戦闘へ掛ける思いを感じ取る。
やはり同族を守るための戦いともなれば、熱くなるのは道理だろう。
それは使徒や魔人でもそうだ。なにせ自分がそうだし、あのレオンハルトも、新入りのケッセルリンクもそんな想いはある。
かつてそういった理由で戦ってきたことがある為、ガルティアにとっては大いに理解出来ることだった。
そして新しく仲間となる人物の同胞。それを守るために戦うのも良いことだろう、と。
スラルがケッセルリンクを魔人にしたということは、身内のようなものだろう。彼女は自分達のような直接作った魔人とその使徒には優しいし、距離の近い関係を望むが、他の存在には排他的だ。閉じ籠もっていると言ってもいい。
しかし良心はあるので見捨てることは出来ないし、ある程度の責任は果たそうとする。その結果が今の状況な訳で、
……人助けの為に戦うのは久しぶりだな。
ある意味では、魔軍で戦うことも人助けなのだが、それとはまた違う。
もっと直接的なものだ。
これだけ直接的に人を助けるのは人間の時以来かもしれない。そう考えると、やはりこちらにも気合いが入る。
普段は戦いに意味はあまり求めない自分だが、こういう時くらい気張ってもいいだろう。レオンハルトと勝負もしている訳だし、そろそろ本腰入れてやるか。そろそろハンティも気合い入りすぎて遠くに行ってしまいそうだ。
だが、その前に、と。
「……腹が減っちまったな」
自分と、身体の中の使徒達が食事を求めている。
普段の食事量に比べてかなり少ない為だろう。昼間にサカナとわさびを沢山食べたが、今はもうお腹のムシが鳴いてしまうくらいには空腹だ。
なので、おやつに持ってきていた肉でも食べようか、と懐に手を伸ばした時、眼前に現れたのは、
「何だあ!? 貴様らあ――!!!」
とてつもなくデカい大声と、人間としてはかなりゴツくデカい身体に鎧を着込んだ大男。
彼が森の奥から走ってくる。そしてこちらを見つけると全力で走ってきて、
「誰だあ!? 答えやがれ――!!!」
「うおっ、元気がいい人間だな。……俺はガルティア。魔人だ」
ガルティアは簡潔にそう答えてやる。どう見ても他の一般兵士とは格が違う強さに見える。
まさか、と思うこちらの内心を考えてか、その大男は大声で、その答えを直ぐに答えてくれた。
「俺様は世界最強の戦士、アーノルド・ホーガン戦士長様だ!!!」
そして同じ様に馬鹿でかい戦斧を持っていない左手でこちらを指差し、
「魔人!! 貴様は、このアーノルド様の伝説の礎になってもらうからな!! がはははははっ!!」
「……ふ~ん。なるほどな」
ガルティアはその言葉を聞いて頷く。そして内心で言葉を作るのは、友人の魔人への謝罪。
……悪いな、レオンハルト。どうやら俺が、当たりを引いたみたいだ。
口元に相変わらずの軽い笑みを浮かべながら、ガルティアは戦いの準備を始めた。
スラル「カラーって、いつも襲われてるわよね……」
ケッセルリンク「…………」
ガルティア「むしろ襲われてない時の方が少ないな」
ハンティ「…………」
キャロル「原作含めても、そんな感じですの」
レオンハルト「やめたれ」