スラルは、レオンハルトが問う言葉に疑問した。
「あのドラゴンが死にたがってる……?」
どういうこと、と言葉を作る前に声が来た。
ライゼンのものだ。
彼は口から軽い息を吐く。それは観念したかのような声色で、
「……知っているか?」
と、レオンハルトに声を送る。それは彼だけではない。
まるでこちらにも問うような思いを感じる。こちらが視線を向けると、ドラゴンは夜空を見上げた。
「かつてこの空には、無数のドラゴンが飛び回っていたんだ。……それはもう賑やかでな。この山にいると色んな噂が聞こえてくるんだ。やれ、どこの一族の誰と誰がぶつかっただの、喧嘩しただのな。今でいう人類くらいの数が世界中にいたんだ」
「――――」
その言葉に息を呑んだのは自分だ。しかし自分以外の者達も、その言葉に驚き、目を見開いている。
意味は分かる。それが何を指すのかも。
ドラゴンはその通りの言葉を宙に滑らせた。懐かしむような表情で言うそれは、しかし、憂いを帯びたものに変化し、
「……だが、今ではその数を減らした。残っている者は少なく、残った者も皆例外なく心を閉ざし……凶暴化した。今じゃ、魔物と同類扱いされてるらしいな」
信じられるか? と半笑いでの問いに答えたのは、ペールだった。
彼女は、戸惑いの表情で言葉を作る。
「え、ドラゴンって皆、知性を持つ存在だったんですか? あ、貴方が特別というわけではなくて……」
「……そうさ。同胞は皆、軒並み狂っていった。この山に残ってるドラゴンも、昔は随分とお喋りだったんだぜ? 俺なんかよりも頭の良い奴も多かったしな」
答えるドラゴンには、先程までの圧倒的な存在感は感じない。そこにいるのは、生きることに疲れた一体のドラゴンでしかない。
「……伝説では、四大聖竜と八大精霊竜。そして、ドラゴン王がいたと聞いているが……」
次に問いを投げたのはケッセルリンクだ。
しかしドラゴンはあっさりと、
「……さぁな。俺以外の四大聖竜は皆死んだが、八大精霊竜の方は生死不明だ。……ま、生きてたとしても狂ってるだろうがな」
「……なら、ドラゴン王はどうなったの?」
聞きたいと思った。自分にとっては重要な事、それを尋ねる。
その問いに、ドラゴンは笑い、
「アイツは……もうこの世を捨てたよ」
告げられた答えは曖昧なものだった。
「それは、どういう――」
「この世界で、姿を現すことはないだろうな」
再度の答えも意味を計りかねるもの。
しかしドラゴンは、そんなことはいいさ、と質問を止め、
「大事なのは、もうこの世でかつての姿、ありのままに生きるドラゴンは俺だけってことだ」
ドラゴンが語る。その色は悲しみを帯びて、
「……最初の質問の答えだ。確かに俺は、死にたがってる。――生きることに疲れたのさ」
「――――」
その言葉に震えたのは、隣にいるハンティだ。しかしそれに気づかないまま、ドラゴンは続ける。
「俺は今まで、戦って戦って――二千年近くを生きてきた。そしてその多くは、仲間とともにあった。苦しいことは沢山あったが、それに耐えることが出来たのは――そこに縁があったからだ」
仲間を守る為に、他者を害し続けた、とドラゴンは語る。そこには確かな、二千年分の重みがあり、
「同胞がいなくなって約四百年。俺の生きてきた時間からすれば大した時間じゃない。……だが、二千年を生きていたとしても……それをたった一人で生きるには――四百年は長すぎる」
心が軋み、悲鳴を上げ続けている、と。ドラゴンは言う。
ならばせめて、と。
「俺は、終わりがほしい。だが、俺はこの身体の所為で自殺も出来ない。仲間を守ることが出来なかった俺の身体は……俺の命だけは頑なに守り続けるんだ」
と、そこでドラゴンは再びレオンハルトを見た。
自嘲を告げながらも、魔人に頼むこと。それは、
「故に頼む。この俺と死合い――そして、俺を殺してくれ」
一息。
「――もう、一人は御免だ」
「――――」
告げた言葉に、静寂が発生した。
それは、二千年を生きるドラゴンの、心情の吐露だった。
……レオンハルト。
スラルはその問いを掛けられたレオンハルトの背中を見た。
彼がどういった答えを出すのかを見る為だ。
しかし、彼はその場で立ち止まったまま微動だにしない。
スラルは思う。かのドラゴン――ライゼンの想いは理解出来ない、と。
死にたい、なんて思う心情など到底理解出来ないし、したくもない。死こそが、最大の地獄なのだ。
そして、死が最大の地獄でなくなる環境など――それこそ地獄だ。
だがライゼンは、今まさにその状態に置かれているのだろう。
故に死を選択した。――死ぬことによって、救われようとしているのだ。
しかし、スラルはその上で思う。
そんなのは、悲しすぎる、と。
そんな風に終わりを求める姿は、痛々しくて見ていられないと。
そんな終わりは、見たくないと。
そう思った。だからこそ、答えを告げるレオンハルトを見た。
悪いのは彼らじゃない。悪かったのは世界の方だ。
人の時代に生きる者として、それを疎ましく思った自分が、そう思うのは、そう告げるのは、憚られる。
あるいは、ハンティなら何かの答えを出せるかもしれない。
だがそれはなく、視線の先でレオンハルトが動いた。
彼は眼前のライゼンの顔を見上げると、はっきりとした口調で答えた。
それは、
「――ふざけんな」
明確な拒絶だった。
「――何故だ!?」
ライゼンは激高した。
その先に待つ未来を、絶望を考え、怒りが沸騰する。
普段は閉じている口も開いて、咆哮するように声を上げる。
「貴様は約束した筈だ! この俺に敗北を与えると! それは嘘だったのか!?」
それは断じて許されん。いや、許さない。
ようやく見えた終わりを奪われることは看過できない。
「俺は既にここを、この場所を、死地と定めた! かつて世界の中心であったこの場所を!! 我らが生きたこの場所を!!」
ライゼンは思い出す。
この翔竜山は、我らが作った国である大陸統一国家トロン。その中心地であった場所だと。
見るがいい! とライゼンは山の外壁を尾で思い切り叩く。
「――っ!?」
振動とともに、岩で覆い隠されていた広い洞窟が姿を現す。
奴らが驚愕するそれは、
「かつてこの山をくり抜いて作った洞穴の数々は、多くの同胞が暮らし、また隠れ潜んだ場所だ!」
自然とともに生きるドラゴンは、このような山の洞窟や森の中を始めとした、自然の中に巣を作り暮らしていく。
そしてここは、そんな中でも大規模な場所だ。ここに多くの群れが暮らし、天変地異が起こってからはこの場所に隠れて生き延びようと足掻いた。
今を生きる者達は知らないであろう地獄を、同胞達は目撃して、その末に逃げたのだ。
そしてこの場所は、自分にとっても大事な場所である。それは、
「我らは約束したのだ! 仲間を守ると! 守り切り、ここで再会を果たすと!」
あの日もこんな夜だった。
そして彼らは、こんな俺に後を託して、死んでいったのだ。
「しかし俺は、多くの同胞を託されたのにも関わらず、何者も守りきれずに全てを失ったのだ……!!」
誰も彼もが、自分なんかに期待を掛け、その所為で命と心を失った。
……俺は、同胞の闇を払うことが出来なかった……!
次々と狂っていく仲間達を、ただ眺めていることしか出来なかった。
「そんな俺が、ただ一人生き残るなんて間違っている……!」
そう。生き延びるべきは彼らであった。自分は彼らを守るために命を尽くすべきだった。
ククルククルとの戦いの時も、ラストウォーの時も、天変地異の時も。
同族と部下、それ以外の同胞。八大精霊竜や、他の四大聖竜。マギーホアや、あのアベルも、自分は守れなかった。
彼らの屍の上に生き続ける自分は、
「こんな俺がのうのうと生きているなど……生き恥以外の何物でも――」
「――おい」
「――――」
その声は、やけに大きく聞こえた。
声量としては大した大きさではない。自分の声の何分の一もない、普通の声量。
しかしその声には、有無を言わせない響きがあった。
その声は、
「――今、なんて言った?」
憤っていた。
レオンハルトは、黙ってライゼンの語りを聞いていた。
死にたがっている。その理由は理解した。
簡単に言えば――仲間がもういない。孤独は嫌だ。こんな自分が生きている価値はない。
故に、戦いの中で死にたいから殺してくれ、と、そういうことだ。
理解は出来る。同情もしよう。戦いの中で死にたいというなら結果的にそうしてもいい。
だが、最後の言葉は看過できない。
今の話を聞いていたからこそ、それは許容出来ず、そして、分かることがある。
それは、
「生き恥、だと……?」
こいつは、今、自分が生きていることを間違いだと言った。
ただ生き恥を晒しているだけだと言ったのだ。
「テメェは……」
こいつは、
「仲間の代わりに生き延びた自分が――間違いだったと、そう言うのか……!?」
「――――」
ライゼンが瞳を見開いた。
説教は趣味ではない。人生相談も得意ではない。そもそも相手の方が長生きだ。
しかし言わざるを得ない。
言わなければ、彼の言う者達が――否定されてしまうから。
それを分からせる為の言葉を、レオンハルトは尽くす。
「俺には、お前の過去の出来事を見てきた訳じゃないが――」
言う。それは、
「仲間が死んだのはお前の所為なのか? 敵と戦った結果じゃないのか? お前は……力を尽くさなかったのか?」
「…………違う!! 違う、が――」
ライゼンはそこで言葉を止めると、ややあって声を絞り出す。
「俺が、他の同胞の代わりに生き延びたのは事実だ……!」
「…………」
レオンハルトは内心でそれを察する。何となく理解出来るのは、
……守りきれなかったことを……ずっと悔やんでいる、か……。
自分は詳しい状況は知らない。だから本当に、他のドラゴンが死んだ何割かはこいつの所為だというのも、ひょっとしたらあり得るのかもしれない。
だが、その上で分かることがある。
先程、ライゼンが自分で言っていたことだ。それを告げる為に、言葉を続ける。
「……確かにそうかもな。俺は、それを実際に見てきた訳じゃない」
「! ならば……!」
「ただな――お前が言っていることに一つ、確かに間違いだと言えることがある」
「っ、なんだと……!」
ライゼンの瞳が怒りに燃える。
しかしそれに水を打つように、レオンハルトは告げた。
「……お前が生き延びたのは、間違いじゃないってことだ」
「――!」
ライゼンの瞳が揺れる。
そこで意味を更に告げる。
それは、話に出たかつての同胞の話で、
「お前は、仲間に後を託されたんだろ? ならそれは、仲間がお前に――生き延びて欲しかったんじゃないのか?」
「! そ、れは……」
思う。
もし、これほどの男が、厳しい戦いの中にいたのならば、
「お前なら、自分が死んだ後を任せられると……そう思っていた筈だ」
「……俺に?」
ああ、と頷く。
もしそうであったのなら、
「なら、今お前が生き延びているのは、その思惑が達成されたということだろ。――それを生き恥って言うなら、お前はかつての仲間達を侮辱してる」
「――! お、俺が――」
ライゼンが震える。今言った事は、彼に効く言葉だろう。
声を震わせて、
「俺、が……仲間達を、侮辱しているのか……その価値を貶めているというのか……! 誇り高きドラゴン種のことを……!?」
「そうだ。……なにせ、今のお前の様子や言動を見ていても、誇り高きドラゴンだとは到底思えねぇ。ただの耄碌した爺だ。――今生きてるドラゴンも、例え狂わずに意識があっても、そんな情けない感じなんだろ?」
「貴様ッ!!」
ライゼンが吠えた。
その言動は許さぬ、と。確かなドラゴンの畏怖を見せつけて怒る。
「それは違う! 同胞は皆、誇り高い戦士であったのだ! その言葉を取り消せッ!! さもなくば貴様を八つ裂きにして――」
「だったら――」
言葉を一度止める。
……それなら、
「そんな風に恐ろしく、格好いい強い所を見せてろ。かつてのドラゴンと、今を生きるドラゴンが、お前なら大丈夫だと託した――謂わばドラゴンの代表だろうが」
「――――」
「そんなお前が、そんな情けない有様でどうする? 今の人間の夢を壊す気か? 俺達人間――俺らは元だが、その認識でも、ドラゴンってのは強大で怖ろしい――伝説の存在なんだがな」
後ろを指して言う。そこには、元人類であった多くの者が、
「……ま、俺の集落でもドラゴンの伝承は多かったな。飛べるムシと炎を吐けるムシを入れてる奴は、飛びながら火吐いて、ドラゴンごっこなんてやってたもんだ」
「……カラーの間ではドラゴンは身近だ。しかし、山に入る際もドラゴンを刺激するな、と子供の頃から教えられてきたものだ。――そうだな、ペール」
「あっ、はい。私も子供の時からドラゴンの記録が残った文献を見てて、世の中にはこんな怖い存在がいるんだなーって、思ってました」
「……ドラゴンは、人間が生まれて間もない頃から畏怖されて、多くの伝説になってたわ。――それこそまだ魔物なんかより、よっぽど知名度があった」
「ドラゴン、大好きですわ! 超強くて恰好良くて――あ、七星は違いますし、レオンハルト様の方が大好きという枕詞は付きますが!」
ドラゴンという存在についての思いを、次々に口にする。
その全てに共通する――怖れがあり、強大な印象がある伝説の存在が、ドラゴンだ。
かくいう自分も、
「俺も、ドラゴン退治はガキの頃からの憧れだったからな。ある程度強くなってからも、ドラゴンは俺を楽しませてくれたし……四大聖竜の話を聞いた時はわくわくした。その強さに期待してな」
「…………」
ライゼンは無言でそれを聞いている。何を考えているのかは分からない。
しかしそこで更に言葉を尽くそうとして、レオンハルトは気づいた。
「……それにな。お前も――あ、いや、その前にまだ言いたい事がある奴がいるみたいだ」
「……? 何、を――」
ライゼンが疑問符を浮かべて視線を向けた先。そこにいた存在に注視し、竜の瞳が大きく見開かれる。
「その、気配は……」
震える言葉の理由。それは、
「…………」
――過去に滅びた筈の同胞。その気配だった。
「……その」
ライゼンは、その同胞の言葉を黙って聞きながらも、その一族を思い出す。
確証はない。しかし、黒髪の、額に紅いクリスタルを持つ女から思い浮かぶ存在は、
……ドラゴン・カラー……!
かつて滅びた筈のドラゴン種の一つ。
その生き残りは、誰一人としていないと思っていた。
本当に彼女がそうなのだろうか。魔の気配の色があることから、元ということなのだろうか。それなら人化していることも頷けるが……。
と、考えていた矢先、彼女が言葉を作った。
辿々しい様子で言うのは、
「あたしは……アンタが生き残ってて、嬉しく思うよ」
「――――」
「……だから――」
聞く。その同胞の言葉は、一度区切られ、
「死にたいなんて、言わないでほしい。――月並みだけど、生きてたら良いこともあるから……」
聞こえた言葉に、ライゼンは彼女の背後の者達を見る。
そういえば、彼女は彼ら魔の者と一緒に来た。
そして彼女自身もそうなった。
理由は不明だ。しかし、その様子は、
「…………そうか」
「……ん、そうだよ」
――不幸ではないように思えた。
……新たな出会いと、幸いを得たか……同胞よ。
その姿に、光景に、何か熱いものが流れてくる。
彼女の背後では、姿形もバラバラで、人類の別氏族と思われる魔の者達が、驚きつつも暖かく見守っており、
「……少しは分かったか?」
「! 貴様……」
声を掛けてきたのは、眼前の魔人、レオンハルトだ。
彼は再びこちらに向かって、しかし、苦笑混じりの表情で、
「お前は望まれてここにいるんだろ。――そして、お前自身も何かを残そうとして、今日まで生き延びた――と、そう思うんだが……どうだ?」
「それは……」
どうだろう、と考える。
自分は、二千年の時を。ドラゴンが滅びて、人類の時代となった今日までを――どうして生き延びてきたのか。
何のために今日まで耐えてきたのか。その意味は――
――そういえば。
過去の約束。それは、
――ドラゴン種の未来を、お前に託す。
……マギーホア。
既にこの世を見限った大いなるドラゴン王にして我が友。
そして自分が戦う際に決めた原初の誓い。
かつての部下が裏切った際に、改めて誓ったこと。
――仲間を守る。そして、理想の世界を作る。
しかしそれらは、全て過去のものとなってしまった。
自分達ドラゴンが、かつて先住民であった丸い者と、彼らの王であった魔王ククルククルを滅ぼし、新しい国を作った。
しかし理想だと信じた筈のその国は滅び、守ると誓ったはずの同胞は亡くなり、数少ない残った者達も、その心すらも失ってしまった。
そして今の世界では、人類と呼ばれる新しい生命が世界を席巻している。
自分達の生きていた世界はもう何処にもない。
――その上で、今の自分に出来ることは何だ?
今の世界に生きる自分に、出来ることは何だ。
「……俺は、何も守れなかった。守るべきものもおらず、世界にある程度の平和が甦った時、自分は死に場所を失った筈だった」
だが、
「しかし貴様がこの山に、我らの土地に足を踏み入れた時、こう思ったのだ――“死に場所を見つけた”、と」
「――そこだ」
「む……」
不意に、魔人が口を挟んできた。
我が意を得たり、と言わんばかりに笑みを浮かべた魔人は、調子の良い様子で、
「俺が最初から言いたかった本音はそれだ。なあ、ライゼン。俺は別に、命を懸けることを否定してる訳じゃねぇ」
「……死を望むこと自体は、許さない訳ではないと?」
魔人が首を振った。その意味は、
「違うだろうが。命を懸けるってのは、最初から負ける気で挑むことじゃねぇ。――死ぬ気で勝つ、そういうことだろ」
「……死ぬ気で、勝つ……」
ああ、と魔人が頷く。
「お前が同胞を守る為に戦う時、そこには命に代えても守るとか、死力を尽くして勝つ、とか、そう思ってた筈だ。こんなのは基本だろう――最初から負ける気で戦う奴を、戦士とは言わねぇ」
こんな基本を忘れてんじゃねぇ、と魔人は毒づく。
「俺はそんな腑抜けと戦いに来た訳じゃない。俺と戦って死にたいなら――お前も俺を殺す気で来い」
それは、
「俺に見せてみろ。二千年もの間を戦い続け、そして生き延びたドラゴンの本気を俺に見せろ。それとも――」
瞬間。心地よい殺気を、威圧とともにぶつけられ、
「――俺じゃあ力不足か!? 本気になるには値しないか!?」
「――――」
「答えろ、ライゼン……!!」
全身が震えた。
それは怖気からくるものではない。
それは歓喜だ。
ドラゴンとして、身体に刻まれた本能。
武者震いだ。
それは己が、全霊をもって戦う程の強者と、相見えたということだ。
……思い出したぞ。
この感覚だ。
戦う種族としての感覚。
遥かな昔。自分達は、この感覚をもって、戦いに出たのだ。
本物の強敵。自分の全存在を懸けて敵を狩りに征く。そんなドラゴンの思いだ。
しかし自分の場合は、背負うものの大きさから、いつしかそれが怖れへと変わっていき、
……耄碌したな。
本当にそう思う。
ドラゴンとして、最低限の戦いの流儀を忘れてしまうとは。
仲間を失うのが怖かった。忘れ去られるのが怖かった。
戦うのは怖くなかった。
――言い訳は出来ない。
それらを忘れて、終わりを求めた。新たな答えを欲した。
そんな尤もらしい理由で逃げ続けた。
……俺は、馬鹿だな……。
仲間から馬鹿だ馬鹿だ、と言われ続けてきたが、それは間違いではなかったらしい。
しかし、そんな馬鹿な己でも、やれることはまだ残っている。
終わりが欲しいなら勝ち取ろう。答えを欲するなら見つけてみせよう。
生き残ったドラゴンとして、我らの意地を見せよう。
故に、ライゼンは言葉を放った。
「――魔人レオンハルトよ」
「……ああ」
声の先は不遜にも、我らがドラゴン種に喧嘩を売ってきた魔人。
新たな世界の覇者――人類の頂きに近い者だ。
「すまない。先程までの俺はどうかしていた」
「ああ、そうだな」
――故に相手にとって不足はない。
「その詫びといっては何だが……本気で相手をしよう」
「ああ……」
――かつての仲間達が生きたこの場所で戦おう。
「ここが俺の墓場となるか。それとも貴様の墓場となるか、勝負だ」
「ああ……!」
――そして失意の中で狂い、あるいは死んでいった全てのドラゴンに捧げよう。
「――大陸統一国家トロン、西部方面軍将軍。そして、四大聖竜の一角――ライゼン」
「――魔軍参謀。魔人四天王の一角――レオンハルト」
――今を生きる全ての者達に見せつけよう。
……ただ一体の……! ドラゴンとしての意地を……!
「参る……!!」
「来い……!!」
――かつての世界の覇者の姿を――!!
そしてライゼンはたった一体のドラゴンとして、敵を狩りにいった。
キャロル「ここからは出来るだけ待たせずに投稿したい」
スラル「具体的にはケッセルリンク編終了までね」
ガルティア「ま、書けた先からだけどな。結局一日毎になる可能性もあるから、期待すんな」
ハンティ「……でも、これケッセルリンク編と言うより、もはやライゼン編――」
ケッセルリンク「……気にしていたことを」
ハンティ「あっ、ご、ごめん……」