遥か上空から、影が墜ちる。
朝の光を浴びながら雲を突き抜け、地上へと落下していく。
竜の周辺には、白の破片と赤い飛沫が弾けて空を舞っている。
それは魔人が、こちらの口元から先を斬り裂いた結果だ。
こちらのブレスを斬り裂いた魔人は、その勢いを全く緩めないまま開いた口元に剣を当てたのだ。
口元、身体の中までは外面のダイヤの鱗はない。そこには攻撃が通るものだ。
そのため己はいつ何時もそれに気を配っていたもの。口を開くのはブレスの時のみ。そうしていれば相手が口元を狙う隙も生まれない。
だが魔人はそこに剣を合わせた。途中までは同時斬撃にてこちらの装甲を断つはずだったそれは、その一太刀が内側から外部への破壊を選んだ。結果、鱗は欠けて、
……俺の、負けか……。
致命の傷を負った。未だ終わりが訪れるには時間がかかるものの、身体は満足に動かない。伝導超過も切れた。戦う力は残ってないのだ。
もう少し熱い戦いを味わいたかったが、最後の攻防の結果だ。悔いはない。
しかし、一つ懸念があるとすれば、それは勝者の扱いだろう。
……このまま彼奴を墜落死させる訳にはいかぬ。
幾ら魔人とはいえ傷を負い、血を流した相手が、落下の衝撃に耐えられるとは思えない。空にある魔人はこちらのブレスを受けた結果か、身体を投げ出すのみで何かをしようとしていない。
……ならば。
ライゼンは力を振り絞った。
己は既に満身創痍の身。満足に空を飛ぶことは出来ない。
しかしながら翼を広げ、滑空することは出来るものだ。ならばこの身は勝者が生き残る為の一助となろう。
身体を捻り、翼で落下速度を抑制しながら背に魔人の身体を乗せると、翔竜山の上層。先程までの戦場である広場に方向を変える。
そこならば、魔人の仲間もいる。凱旋にはちょうどいいだろう。
だが、
「何の、つもりだ……?」
背にある魔人が、身体を起こそうと身じろぎをした。その声には疑問の色がある。何故助けるのか、とそういうことだろう。
ライゼンは、魔人の問いに答えた。
「……戦いの勝者を、むざむざ死なせる訳にはいかん」
「……それ、は」
魔人は決まりの悪そうに言葉を詰まらせた。
しかしそれが放たれる前に、ライゼンは声を上げた。
「言いたいこともあろう……」
だが、と。
「まずは生き延びるといい。文句なら、後で受け付けよう」
「………………」
そう意思を込めて言うと、魔人は黙りこくった。
その沈黙は肯定。身体の上での身じろぎがなくなったのを確認する。そして、
「では、落ちるなよ」
と、ライゼンは背に魔人を乗せて、途中何度もふらつきながらも、先程の広場まで舞い戻った。
空の上から巨大なドラゴンが降り立つと、スラルは近寄っていった。
勝負の結果、倒れ伏したドラゴンと、その背から投げ出されて地面に転がったレオンハルトがいる。どちらも傷を作り、血を流した姿であり、息を乱していた。そんな姿が見ていられず、直ぐ様ヒーリングを掛けようと声を上げた。
「レオンハルト!」
「やめろ、スラル……!」
しかしレオンハルトは、それを差し止めた。負傷と疲労で身体に力が入らないのか、時間を掛けてゆっくりと立ち上がる。足元が覚束ない様子であったが、踏ん張るように身体の揺らぎを止める。
そして向こうの方でも、ハンティがドラゴンに声を掛けた。
「ライゼン……!」
心配し、駆け寄る声。だがドラゴンは血に濡れる口元から声を作り、
「同胞か……」
視線をハンティに向け、小さく口端を歪めると、
「どうだ、同胞よ。俺の戦いを見ていたか? 俺は立派に戦い抜けていたか? あの日見た同胞の姿に……俺は追いつけていたか?」
「……ああ、勿論さ……!」
はは、と告げられた言葉にドラゴンは笑った。そして視線を仲間であった彼女から切ると、それをこちらに向けてくる。
正確には、傍らにいるレオンハルトを見るものであり、
「――ならばよし」
悔いはない、とドラゴンは言う。
そしてレオンハルトに真っ直ぐ声を送った。
「この勝負、貴様の勝ちだ。――ゆえに」
ドラゴンは一度言葉を区切った上で、目を細めながら言い切った。
「俺はもう動けん。戦う力もない。このまま緩やかに死に向かうだろう。だからその前に――」
言う。それは、
「決闘の勝者であるそちらから、引導を渡してほしい」
言った言葉に皆が息を呑む。その意味は分かる。つまり、
「とどめをさせ」
彼の終わりの時間だ。
ハンティは迷った。
戦いを終えたライゼンの言葉に、その瞳を揺らしながら思う。
……これで、いいの……?
眼の前で仲間が死を願っている。
ただの死ではない。決闘の末に果たされる、誇りある死だ。
だが、確かに終わろうとしている。失われようとしている。
まだ治療を受ければ生きていられるかもしれないのに。
生きてほしい。生き続けて、これからも示してほしい。
言いたい。しかしそれを、本人が望んでいない。本人は、満足ある終わりを得ようとしているのだ。
ならそれを告げることは正しいのだろうか。そこに迷いが生じる。
……あたし、は……。
きっと今の自分は酷い顔をしているだろう。ただでさえ目元が赤くなっているのだ。
ふと、応じる先を見た。ライゼンと視線を交わし合うレオンハルトの方をだ。
彼はどんな答えを出すのだろうか。それを見る為だ。
彼は戦士だ。一月に一度の付き合いだが、それでももう出会ってから120年だ。彼の性格はそれなりに知っている。
しかしそれでもどのような答えを出すのかは分からない。レオンハルトの表情は眉一つ動かない。口は噤んだままだ。
だが、やがて動いた。ライゼンに近づく動きだ。ゆっくりだが確かに一歩ずつ、満身創痍の仲間に近づく動きで、
「――なら、そうするぞ」
レオンハルトの言葉に背筋が凍った。剣を振り上げる動きを止めようと思った。
しかし動かない。仲間がとても満足そうだったから。そうされることを望んでいるようだったから。
だからこそ、ハンティは、主の剣を止めることが出来ず、
「――ッ!」
視線の先で振り下ろされた結果を、見ることしか出来なかった。
甲高い金属音が鳴り、レオンハルトは、その結果を見て、大きな息を吐いた。そして、
「――やっぱり……まだ斬れねぇか……」
「!」
その悔しそうな、それでいて嬉しそうな響きが宙に飛ぶ。彼は口元を苦笑の形に作り直し、
「この勝負、引き分けだ」
レオンハルトは、自身の剣の不甲斐なさの結果を見た。
右手を戻す先、握られた剣で、ドラゴンの殺すつもりで首元に放った一刀は、しかし呆気なく弾かれ、
……俺も、まだまだだな。
最後の攻防を思い出す。そして告げる相手は、地に伏した状態のドラゴン。
彼に向かって言葉を送る。それは、
「お前はもう戦えず、俺もお前を殺す力はない。――今だけじゃない。さっきもだ」
「それは……」
ドラゴンが逡巡する様子を見せる。思い当たる節があるのだろう。当然だ。
先程の空での攻防。こちらは相手に賭けざるを得なかった。
上空から落ちる力に頼っての全力の振り下ろし。それをもってなお、鱗を少し砕くので精一杯だった。
こちらがずっと狙っていた、斬る、という行為には程遠い。倒すことが出来たのは、斬撃をドラゴンの口から通し、内部から外側に斬り裂いた結果である。
それは相手が空での戦いに付き合ってくれる前提であり、更には運にも賭け、小細工を弄することでしか倒せなかった。
視線に映ったドラゴンが声を作った。同じことを思ったのだろうか、静かな声で、
「……しかし、それでも立っているのは貴様で、地に伏しているのは俺だ。ならば勝者は――」
「ああ。――わかってる」
それも含めての勝負だ、と言われればそこまでだ。
……だが、それでも俺は――
「なあ、ライゼン」
故に告げてやろう。一方的な言葉を、
「お前は、縁が無くなったから死にたくなったと、そう言ったな?」
「……ああ」
静かに、ドラゴンが応じた。なら、言葉を尽くそう。
「なら、俺とも約束だ」
「何だと……?」
ドラゴンが言葉を溢した。怒ってはいない。ならば構わないだろう。そうでなくても躊躇いはしないが、
「俺はいずれ、お前を斬る」
「――――」
告げられた言葉に、ドラゴンが目を見張った。
言う。自分の想いを、
「真正面から、堂々と、その身体に切り傷を作ってやる」
強くなる。この大いなるドラゴンに負けないように。この剣が届くまで。
だから、
「また、やるぞ」
こうすれば、
「それまではその命、預けておく。――だから生きろ」
生きる理由が増えるだろうと、そう願って。
ライゼンは、ある事を思い出していた。
昔の、遥か昔の話だ。かつて自分は今の様に、戦った相手からの言葉を受けたのだ。
それは、
――なぜ、お前は……死にたがっているのだ?
あの頃も自分は、仲間の死に苦悩し、己の在り方を見失いかけていた。
――ならば私と約束をしよう。
そんな自分を救うように、彼は言葉を掛けてくれた。
――私がいずれ、お前を正面から打ち倒す。
自分を失うのは惜しいと、縁を作ってくれた。
――それまでは、私の友となってくれ。
己の在り方を形作ったそんな存在だ。
思えばそこから生き方を学んだものだ。
幾つもの戦いを奴とともに乗り越え、様々なものを得たのだ。
そして今、二度目の言葉が来た。
一度目と違い、不器用で乱暴な言葉で告げられる。
しかし、それゆえの誤魔化しのない正直な気持ちだ。
だからこそ感じ入るものもある。
故に、ライゼンはそれに応えた。
新たな縁を得る約束に答えるため、言葉を作る。
「……なるほど、良い返しだ」
一本取られた、とそう思う。
こちらは二千年を生きるドラゴンだというのに、それを越える物言いをした魔人に苦笑する。
だから、こちらもやり返してやろう、とそんな思いで視線を送り、
「――断る」
「…………あ?」
言った言葉に魔人が眉を立てた。他の者が息を呑む姿が見える。特に隣の同胞は大きく目を見開いている。
その様子に仕返しが成ったと確信すると、再び声を放った。
それは、
「死ぬような約束は出来ん。だが――」
言う。
「また、やろう」
「!」
魔人が目を見開く。
しかしやがてその意味を理解すると、肩を竦めて苦笑する。
再びこちらと視線を交わすと、彼は声を送ってきた。
「……ああ、またやるぞ」
魔人が声を上げる。その口端を吊り上げた表情は、
……良い笑みだ。
戦う者の純粋な笑み。こちらとの再戦を楽しみにしているかのようなその喜びに、ライゼンは苦笑する。
……まったく。
ドラゴンとの再戦を喜ばれてしまってはこちらの立つ瀬がない。お株を奪われた気分だ。それはこちらの十八番だというのに。
しかし、そんな奴だからこそ、それを成したのだ。
ならば、賛辞を送ろう。
「――今ここに、伝説は成った」
それがドラゴンの役目だ。
誇り高き強者に打ち勝った英雄に、我らは褒美を与えよう。
彼は、我らとの戦いに打ち勝ち、その上で縁を結んだのだ。
何もかもを越えて、救われたのだ。
故に恩義も兼ねて、閉口している勝者に、視線で先を促す。
その先は我らの故郷。大いなる頂きへの道だ。
「行け」
そこを見に来たのだろう、と。
かつての世界の覇者。その一角を越えたのだ。資格は充分。
「世界の頂きを見てこい。――そこが、俺達の生きた世界の光景だ」
その言葉を受けたレオンハルトが、最初に聞いたのは背後からの声だった。
「俺は辞退するぜ」
「……ガルティア」
言ったのはガルティアだ。しかしその思いは、皆が共通するものようで、
「さすがに見に行けねえよ。ここまでされちゃあな」
「……そうか? ……いや、そうか」
疑問した言葉を、自分で納得することで取り消す。
これは自分が勝ち得た報酬のようなもの、と皆が感じているのだろう。
とはいえ、
「……でもまあ、一人で行くのがアレなら、誰か一人くらい連れてけよ。怪我で倒れられてもこまるしな」
「……ああ、そうだな」
だったら、とレオンハルトは視線を傍らにいる存在に向けた。
そして手を差し出し、
「行くぞ、スラル」
「え……私?」
何故か戸惑うスラルに息を吐く。
お前以外だと困るだろうが、とそんな思いで、
「いいから来い。お前じゃないと駄目だ」
「え、あっ……うん。わかった。でも、ちょっと待って」
言葉を詰まらせながらも了承したスラルが、手をかざす。
その先は未だ地に伏した状態のライゼンの方であり、
「――――」
宙に響く音が発生し、ライゼンの身体を魔法の光が包む。
それはスラルの使う神魔法。回復魔法の光であり、
「ん、これでいいかな……」
ある程度の回数、魔法を掛けるとスラルはぎこちない様子でライゼンに声を掛けた。
「……帰ってきたら、その、……また魔法を掛けるから。それまで我慢して」
「……感謝する。魔王よ」
治療の礼を告げるライゼンに、しかし、スラルは、言葉を濁らせ、
「それと……その、後で――」
「了解した」
「えっ?」
用を聞く前に頷きの言葉を返したライゼンに、スラルが間の抜けた声を出して彼を見る。
しかしライゼンは、それでも頷きの言葉を再度掛けて、
「わかっているとも。……何か聞きたいことでもあるのだろう? 戦いの前から視線は感じていたし、二千年を生きるドラゴンを前にしたのだ」
分かっていた、と言う。そうなのか、とスラルを見るも、それが図星だったのか驚いているようで、
「……ん、そんな感じ」
「ならば先に行くがいい。疑問には戻ってきた時にでも答えよう」
「……わかった」
スラルはライゼンの言葉に納得すると、再びこちらまで寄ってきた。そして、
「行こ」
「ああ」
スラルがこちらを見上げて言った。それに答えると足を山道の方に向ける。スラルも横に付いてきた。
背後にいる者達に後で合流しようと、声を掛けると、レオンハルトはスラルと並んで、山道を行った。
ケッセルリンクは、先を行く二人を見た。
並んで行く二人。片方は忠誠を誓った存在で、片方は初めて愛した存在だ。
そんな二人は、それが当然ともいうように並んで山道を行くもので、
……敵わないな。
そう思う。しかし不思議と哀しみはない、と思う。
元から理解していたことだったからだろうか。
だが今も気持ちは変わらない。その光景を見ても色褪せてはいない。
それは何処か、惜しむ気持ちがありながらも、
……私は、それでもよいと望んでいるのか……?
元より期間を過ぎれば終わる関係だった筈だ。
しかし予想と反して終わりは来ず、自分には新たな道を提示された。
魔人となり、これからも彼らと関わっていく、そんな道だ。
その道の始まりに、彼と竜の戦いを見た。想像を絶する力と力のぶつかり合い。しかしそこに想いがある。何かを為そうという想いが。
それを見て思う。自分は、
「私は、これで良いのだろうか……」
想いは声となって宙に漏れ出る。
そしてそれに反応したものがいた。
「物思いにでも耽ってんのか?」
褐色の肌を持つ男。魔人ガルティアだ。
彼の表情は先程までと変わらない小さい笑みを携えたものであった。
態々少し離れた自分に話しかけにきたということは何か言いたいことでもあるのだろうか。
「……ああ、そうだな。色々と悩んでいる」
「……ま、しょうがない。あんな戦い見た後だとな。俺も、思う所はある」
「……それは」
何か、と言おうとして止める。そこまで深入りしていいものか、と。
彼の表情は笑みを携えながらも雰囲気は真面目なものだ。食事を摂る手も止まったまま。まだ短い付き合いだが、それが珍しいことは分かる。だから、
……やはり彼も言いたいことがあるのだろう。
あの戦いとやり取りを見て、何となく話したくなったのかもしれない。
ならば、とケッセルリンクはまず自分から口にした。
一つ、先程の事とは別に思うのは、
「かの竜を見て私は……何を残せているかと。そしてこれから何を為すものかと。そんな悩みが浮かんだ」
「そうなのか」
「ああ。……そちらはどう思う? あの戦いを見て」
「……俺は」
聞くと、ガルティアの声が止まった。口元から笑みの形が消え、何かを考えるように押し黙る。
しかしややあって、笑みを元に戻さないまま、ガルティアは言った。
「……あのドラゴンは、受け継いだ方なのかって、思ったな」
「受け継ぐ方?」
ああ、とガルティアが頷く。その上で、
「俺は託してきた方だ。俺だけじゃない。レオンハルトやお前も、多分そうだろ?」
「…………確かにそうかもしれないな」
言われたことを何となく理解する。
自分はカラーの長で、やるべきことを精一杯こなして、生き抜いてきたものだ。
そしてその培ったものは、全て次の者に――ペールに引き継がせた。
自分が託してきた方で、ペールが受け継いだ方、と彼の言い方で言うならそういうことだろう。
……ならば。
思う。レオンハルトの話は既に聞いている。
そして今の話から、ガルティアの事情も何となく察せる。
つまり彼らも、後に残る者達に全てを託して、こちら側に来たのだと。
そしてこちら側で、新たに生き抜く覚悟を決めたのだと。
……ならばあの竜は、
考えていると、ガルティアから再び言葉が来た。考えていたことと一致するものだ。
「それであのドラゴンは受け継いで、生き抜いてきたのはいいが……受け継ぐ先が無くてああなったんじゃねえか……なんてまあ、柄にもなく難しいことを考えちまったよ」
と、ガルティアはそこで空を見上げた。
そこにいたであろう多くのドラゴンを空想しているのだろうか。その目は何となくではあるが、過去を見ているようで、
「……あのドラゴンは俺達と何ら変わらねえ。ただほんの少し、不運があったんだろうなってな」
「……竜も人も何ら変わないと?」
さてな、とガルティアはそこで笑みを作り、懐から肉を取り出した。そして、ただ、と言葉を作り、
「俺は自分のやってきたことに後悔はしてない。色々あったが、それは仕方のないことだったしな。……でも、ああしておけば、と思うことはある。過去を変えらんねえのは分かってるし考えてもしょうがないから、そういうもんだ、で流すけどな」
続ける。彼の腹から出てきた蜘蛛の足が彼の肌を撫でた。それを彼は、優しく撫で付けながら、
「だが、微妙に諦めてたのも事実だ。別に今の生活に不満がある訳じゃねえし、むしろレオンハルトやスラルには感謝してる。だがまあ、本当に偶にだが……色々と思っちまうんだな、これが」
捨ててきた筈なんだが、とガルティアは言う。そこには確かな、過去の想いが垣間見える。それを大切にしてきたことも。何かがあったことも。
だがそれも、今日で色々と吹っ切れた、と。
「今の戦いを見て何となくだが、生き抜かないとな、って思った。だからまー……これまでも好きに生きてきたが、これからも好きに生きてみようと――再確認したのさ」
「生き抜くことの大切さを学んだと?」
言うとガルティアは笑う。そして茶化すように、
「そんな真面目なもんじゃねえさ。ただ、後悔も何もかも終えて、決心がついたってだけだ。……だからまあ」
一度言葉を区切って、ガルティアは肉に齧りつくと、見上げた視線をこちらに向けて、
「お前もお前で、好きに生きればいいんじゃねえか? なんかレオンハルトと同じで考えすぎる面倒な性格っぽいしな」
「……別にそういうことはない」
そうか? とガルティアが聞き返す。違うならそれでもいい、とそんな態度だ。
……まったく、この男は……。
随分と適当というか、細かいことを考えない男のようだ。先程までの考えは、やはり珍しいことなのだろう。
しかし、こちらの悩みを見抜いていたのも事実だ。
気配りの出来る男なのだろう、とそう思う。
……でも、そうか。
今のやり取りでほんの少しだけ、仲間の事が理解出来た。自分の悩みを理解出来た。
故にケッセルリンクは言葉を作った。言うべきことがある。それは、
「言っておくが」
「お?」
前置きを置いて言う。
自分の想いは、
「私は確かに面倒かもしれないが――これでも一途な女でね」
そう。私は面倒なのだろう。
だから、
……この想いだけは、いつまでも捨てずにいよう。
想いが実るかどうかは分からない。やはり許されないことかもしれない。
しかしそれでもいい。何故なら、
……私は今、好きに生きぬいていく覚悟を決めたのだから。
何があっても、後悔はしない。
キャロル「次回でケッセルリンク様編も最後ですわねぇ……」
スラル「今までで最長よね」
ガルティア「この話だけで30話くらいやってるからな」
ケッセルリンク「何というか……すまない」
ライゼン「俺が目立った所為でもあるな……」
ペール「もう、駄目ですよ二人とも。もう少し大人しくしてないと。次から出番削られちゃいますよ?」
皆「………………」