風が吹いた。
雲の上、翔竜山の山道を行く二人の男女がいる。
男の方は傷だらけで、血を流していたが、それを見かねた女の方の治療を進み出るも拒否される。
心配そうに男を見上げていた女は、しかし、息をつくと、彼を支えるように寄り添った。
そして言う。女の方が呆れた様子で、
「……もしかして、私を連れて来たのってこのため?」
こうやって支える為か、というか治療してもらう為に呼んだのではないか、と言外に問うたつもりの言葉だ。
しかし男は首を傾げ、
「? 違うが、どうした?」
「……ん、そう」
「……一体何なんだ」
知らない、と言わんばかりにそっぽを向く。本当はわかっていたが。
答えを聞くのは怖いからやめよう、と女は思った。答えを知らなければ、その本当のところは分からない。どちらの可能性があるものだ。今はその方がいい。可能性を残す方が精神的にも余裕が出る。
なので静かに無視して歩き続ける。
そうして十分近く歩いたところで、
「――お」
「――あ」
同時に、二人は短い声を上げた。二人してそれが視界に入ったからだ。
何も遮るものがない場所。最も天に近い、この世で最も高い場所。
翔竜山の――山頂だ。
「………………すげぇ、な」
「………………ええ、すごい」
視界に広がる景色に、レオンハルトはただ呻くように感嘆を上げた。横に並ぶスラルも同じだ。
そうせざるを得なかった。目を見開きながら、その先を見つめ続ける。
どこまでも続く、果てしない雲海。
その先には光がある。朝日が昇り、その下の雲の絨毯を、陽光が赤く照らしている。
絶景。その言葉に相応しい光景だ。
「これが、ドラゴンの生きた……世界の光景か」
ゆっくりと呟く。先程聞いた言葉を。
それにスラルは同意した。その上でこう言った。
「……きっとこの景色は……空を自由に往くドラゴンにとっても、特別なものだったのね」
「……ああ」
頷く。そうであったのだろう、と。
この空はドラゴンが生きる故郷の景色だ。
彼らはこの空の中で生き、また地上にも行きながら、最後にはこの空に還ってくるのだろう。
そしてこの空の下では、
「……俺達が生きる世界でもあるんだな」
「……そうね」
雲海の下、地上では人類や魔物。それら様々な生物の営みがあるのだろう。
そこにはドラゴンだっている。
今は空を往くことが無くなったとしても、確かにそこにあるのだ。
冷えた空気も、痛みも、何もかもが気にならない。
そうしてじっとしたまま、スラルとともにこの光景を目に焼き付ける。
だが、ややあって、
「――少し、いいか?」
「!」
不意に、背後から声が掛けられた。知っている声ではない。
突然の来訪者、その存在を感じ取って振り向く。
スラルが、警戒して後ろに一歩下がりながらも、その姿を見て疑問するように言った。
「……猫?」
そこには、赤いタキシードを着た、人間大の猫が立っていた。
魔物か、と思ったが力は感じない。少し警戒を緩めながらも対峙し続ける。
すると猫の方が口を開いた。
「すまないな。無粋だと思ったが、言いたいことを言ったら消えるので許してほしい」
丁寧で落ち着いた口調だ。故に不気味だ。
魔人と魔王。その存在を前にして、この落着き様。普通の生き物であれば怯えて逃げ惑う筈のそれは、全く恐怖の色を見せないまま、こちらを見詰めている。
「……お前は何者だ?」
言った。聞かざるを得ない。
しかし、猫は一言だけで答えた。それは、
「私はこの世を捨てた者」
「この世を捨てた……?」
スラルが疑問するように反復する。それに対し、猫は鷹揚に頷いた。
「左様。故に何もしない。……声を掛けたのは、お礼を言うためだ」
お礼? と疑問する前に、猫は頭を下げた。そして何かを想う声で、
「――我が友を救ってくれたこと。感謝する」
言葉に息を呑む。友とは誰のことだ、という疑問も。
だがレオンハルトは、そこではっと思い当たるものがあった。線が繋がるような、そんな感覚を憶える。
そう、友とは、
「この借りはいずれ、何らかの形で返そう。――では、さらばだ」
「あっ、おい!?」
しかしそれを言う前に、猫は跳躍した。そして崖から飛び降り、
「下に……!」
スラルが驚愕する先、雲海を突き抜けて墜ちていく猫を見る。
通常の猫ではありえない跳躍力。そしておそらく、あの猫は無事であろう。
その理由を思い、レオンハルトは驚いたままのスラルに声を掛けた。
「……大丈夫だろ。慌てた様子も無かったしな」
「一体何だったの……?」
その問いには少し悩んでから、答えを出した。
あれは、
「ただの猫だろ。――この世を捨てた、な」
ただ、随分と大きな友人がいるようだが、それを晒す無粋はしない。
今はとても良い気分なのだ。これを壊すことはしたくない。
「……もしかして――」
スラルが少し間を置いて、何かに気づく。だがそれを差し止める様に、レオンハルトは言った。
「それはいいだろ。あいつは、ただ礼を言いに来ただけだ」
「……そう、ね。うん……確かに」
何かを考えていたスラルであったが、しかし自分で納得したように頷く。
そしてこちらを見上げると、
「少なくとも今は……良い気分だからね」
「ああ、そうだ」
そうしてお互いで見合って小さく笑みを見せる。
そこで一度視線を切り、再びその景色を見つめる。
不意に、スラルが言った。
「ねぇ、レオンハルト」
「何だ」
彼女が言う。その景色と、その先にあるものを見詰めながら、
「私ね、実は……この世界のこと、あんまり好きじゃなかったの」
「…………そうか」
応じる。自分の思いは、
「俺も、そうだったよ」
世界が嫌いだった。自分も同じだ。
スラルは続ける。
「この世には、理不尽が多くて、どうにもならないことが多くて、どれだけ考えても答えが出ないことが沢山あって。そんな世界が嫌いだった」
応じる。自分も、
「ああ、そうだな」
嫌なことも、哀しいことも、後悔することも、どうにもならないことも沢山ある。
だが、それでも、
「今は……どうなんだ?」
聞く。ならば今は、
「ええ。……そうね」
答える。こちらを見上げて視線を合わせる。
そして、スラルは言った。その表情を、良いものに変化させて、
「今は――少しだけ好き」
「――――」
笑顔で言った。
不意のその表情に固まり、息を呑む。そして思い出す。
初めて出会った時の、不安で、今にも泣いてしまいそうな表情を。
……ああ、そうか。
その時から、自分はそのために戦っていたのだ。
自分と同じ様に、そして自分以上に不安を抱えたこの少女を、
「……ああ」
言う。余分なことは考えない。
何故なら、自分も同じ気持ちであり、
「俺も――少しだけ好きだ」
「……そう」
そして、スラルは笑った。
「――なら、よかった」
そう、良かった。
彼女を、ようやく笑顔に出来た。
それだけで今は、
「ああ……本当によかった」
自分は笑顔になれる。
これからも戦える。
なら、これからも自分はそうしよう。
彼女と、彼女の好きなもののために頑張ろう。
「……なら、もうちょっと見ていこうぜ」
「えっ、あ――」
彼女の手を掴み、引き寄せる。そして少しでも、この景色を、夢を、見せよう。
「あ、危なくない?」
「ああ、危ないな。でも大丈夫だ」
そうして、少しでも彼女と世界を好きになれたなら、
「俺がここにいるから」
そうしたらまた、歩いていけると――そう思うから。
空を行く者がいる。
その大きな影は、緑の大地を往き、その背に幾つかの影を乗せていく。
そうして彼らは、帰るべき場所に辿り着いた。
そこで言う。レオンハルトは、自らの帰るべき場所に降り立ちながら、
「……まさか、お前が送ってくれるとはな」
「空の旅、楽しかったですわー!」
キャロルが顔を向けた先、大きな白のドラゴンが言った。
彼は短く笑うと、
「なに、貴様の住む場所を見ておこうと思ってな。居場所くらいは知っておかねば再戦も何もない。貴様は忙しいのだろう?」
「……ま、そうだな。助かった。でも、かなり騒ぎになってそうだな……どう説明するか……」
レオンハルトが視線を魔王城に向けると、そこでは見張りの魔物兵が巨大なドラゴンの姿を確認して右往左往していた。何かをしてくるというのは無さそうだが、それでも色々と聞かれるだろう。自分達の姿も見えていることだし。
「……キャロル。先に戻って説明してこい」
「畏まりましたわ! ひとっ走り行ってきますの!」
そう言うとキャロルは言葉通り、真っ直ぐと魔王城に向かっていった。相変わらず勢いがある。
そこでスラルはライゼンの前に進み出た。そして後ろの皆に、
「それじゃ、その、少し話があるから、貴方達は時間を潰しておいてくれる?」
「わかった。……こっちもこっちで、色々と話がありそうだしな」
とレオンハルトが言う先は、ここまで見送りに来たペールが、ケッセルリンクと何かを話している。彼もそちらに向かうのだろう。
そしてガルティアは、
「俺も先に城に戻ってるぜ。腹減りすぎて死にそうだしな」
おお、とレオンハルト軽く頷くと、ガルティアはさっさと行ってしまった。彼らしい軽い別れだ。既に色々と済ませた、とそういうことだろう。
そしてガルティアが行くのを確認したレオンハルトが、こちらにも手を挙げて少し離れる。
そのタイミングで、ライゼンは声を掛けてきた。
「……して、聞きたいこととは?」
「ええ、そうね」
一度頷くと、一応防音魔法を掛けておく。
そして巨大なドラゴン――ライゼンの目を見て言う。
自分の疑問は、
「貴方は――魔王アベルが、何処でどうやって死んだのか、知っている?」
「――――」
言った言葉に目を見開いた。しかし直ぐに気を取り直すと、
「アベルのことか……疑問に応えようと言った身ではあるが、一つこちらからも聞きたい。――何故そのことを知りたがる?」
「……私にとって大切なことだからよ」
「…………」
言うと竜は考え込むように沈黙した。
しかしややあって口を開くと、
「同じ魔王として、思うところがあるのか?」
「…………」
思うところは当然ある。
しかしそれは、出来れば答えたくないものだ。
そんなこちらの考えを見通したのか、やがてドラゴンが、息を吐くと、
「……そうか。ならば良い。知ってることを話そう」
そして前置きしつつ、ドラゴンは言った。
「奴が率いる魔軍と、我らドラゴンの戦いが終えた後、我らの王は地下深くにアベルを幽閉した。瀕死の奴に杭を打ち付けてな」
「それは何処?」
ああ、とドラゴンが頷いた。それは、
「――奈落。そう呼ばれている場所だ」
「奈落……」
こちらがそう呟くと、続けてドラゴンが言う。
「そして死因は……申し訳ないが、俺にも分からん。衰弱死したのか、それとも――」
「……誰かに殺されたのか」
引き継いだ様に言うとドラゴンがこちらを射抜くような視線を向けてきた。
その上で、彼は何かを思い出すように、
「どうやらそちらは、何が起こったか知っているようだな?」
「……少しは」
知っている。ドラゴン種が何に滅ぼされたのか。何故滅ぼされたのかを、こちらは知っている。
その真実はとても残酷で、何より救いのないものだ。口にするのは憚られる、とかそんなレベルの話じゃない。
こんなことは誰にも言えない。ましてや実際に被害を受けた者には、
「……知っているとも」
「!」
だが、ドラゴンは不意に頷いた。知っている、と。
それは一体、
「どうして……」
「何、ただの又聞きだ。……俺の古い友からのな」
ドラゴンはかつて起こった事を語る。その響きには沈痛な響きがあり、
「俺はかつて友に頼まれ、ある調査に出かけた。そして、その調査結果を友に伝えた。すると友は、部下を誰一人引き連れず、一人でその場所に向かったよ」
「……その場所は?」
「……言うことは出来ん。だが、その場所に向かい帰ってきた友は――疲弊し、心底絶望した様子でこう言ったよ」
ドラゴンが声を作る。それは、
「“この世には何の救いもない”と」
分かるだろう? とドラゴンは言う。その上で、彼は忠告するように言った。
「心優しき魔王よ。行動には注意することだ」
「注意は……してるつもり」
「それでもだ、気をつけろ。いいか――」
ドラゴンが言葉を区切る。少し語気を強めて、彼は必死に忠告する。
「今ある世界は、いつまでも続くものではないのだ。それを忘れるな」
そこには保障は何もない。何か一つ間違えれば、気分を損ねれば、一瞬で崩れ去る砂上の楼閣。
……そんなことは。
手を強く握りしめる。そこに何かを、己の憤りを込めながら、
「そんなことはわかってる……!」
そう、そんなことはとっくの昔から知っている。この世に救いなんてないことも。
だけど、
「でも、それでも……! 私は……!」
それでも、どうしても――
「もうよい」
「っ!」
労るようなそんな声に、俯いていた顔を上げる。
そこには確かな、憐憫の表情があり、
「何となくだが……そちらの気持ちは分かった。何に苦しんでいるのかも」
「…………」
「……ドラゴン種にとって、その感情は忌避されるもの。しかし、俺はその大切さを知っている」
だからというわけではないが、と。
「間違え続けた俺が言えることではないかもしれんが……一人で抱え込むな」
「……何を」
こんなこと誰にも言えることではないのだ。故にそれは論外、そんな思いをもってドラゴンを睨みつけるも、
「困った時は誰かに相談するのが良いだろう。それが出来る者達が、そちらにはいるではないか」
……それは。
その言葉に何も言えなくなる。なにせ眼の前のドラゴンには、そういった者が今までおらず、ここまで来たのだ。
それに比べれば、自分は恵まれているのかもしれない。しかし、だ。
だからこそ、苦しむことだってある。
大切な人がいるからこそ、負担をかけたくない、と、そう思ってしまう。行動を起こして、何かがあったらどうしよう、と後悔したくない気持ちがある。
……でも。
そこで、ふと疑問に思ったことがあった。この眼の前にいるドラゴンは、
「……何故、そこまで言ってくれるの?」
どうしてそこまで親身に答えてくれるのか、それが何となく気になった。
そして、
「どうしてそこまで出来るの?」
しかしその問いに、ドラゴンはふっ、と笑うことで答えた。
「俺も、もう何かを躊躇って後悔はしたくないのだ」
言うとドラゴンは背の翼を広げた。
そしてゆっくりと空に浮き上がりながら、最後に口を開くと、
「俺はこれからもドラゴンとして生き続ける。例え何があろうと、だ」
「貴方は――」
言う。最後の疑問だ。
「……怖くないの?」
「無論、怖い」
だが、と。
「生き抜いた先での終わりであるなら怖くはない」
言う。
「そういう覚悟を決めたのだ」
とドラゴンは羽ばたいた。
帰っていくのだろう。自らの場所に。
そのことに対する寂しさと、疑問に答えてくれたという想いを、全部ひっくるめて、スラルはお礼を告げた。
「――色々とありがとう」
ドラゴンが笑った。その表情は生き生きとしたものであり、
「まずは生き抜いてみよ。そうして生きた先で、初めて見えるものもある。――結果は後からついてくるものだ」
そうして竜は、空へと昇っていった。
スラルがライゼンとの話をしている間。
レオンハルトはペールの言葉を聞いていた。
それは、こちらに対する想いを告げるものであり、
「レオンハルトさん……そ、その……色々と、ありがとうございます」
「ああ、気にするな」
と、軽く返す。しかし向こうはそうはいかないようで、首を振ると、少し声を荒げて、
「気にします! 集落を救われて、命を助けられて、女にしてもらって、また救ってもらって、と、色々と恩がありますから!」
「お、おう……」
その勢いに気圧される。どうにも興奮しているようだ。
本当に気にしなくていいんだがな、と思う。だがやはり恩を受けた側であるなら、それも難しいだろう。
だからそれを受け取ろうと、言葉を作った。それに苦笑しつつ、
「わかった。なら――」
「はい。なので――」
そこでペールは良い笑顔を向けてきた。
ニコニコとこちらを見て、ずいっと近寄ってくると、その勢いのまま、
「私を使徒に――」
「ペール」
「あ、ちょっ!」
横から手が伸びてきて、ペールを吊り上げた。
それはケッセルリンクの、ペールを注意するためのものである。
ペールがじたばたとする中、ケッセルリンクはそれを見て頭を抱えると、
「君には、長としての仕事があるだろう」
「いや、わかってますけどー……何となく言っておきたいじゃないですか」
不貞腐れたように頬を膨らませるペール。性格変わったな……、と二人で半目になる。
呆れながらもケッセルリンクが、ペールを引っ張っていた手を離すと、再び地面に降りたペールは、気を取り直した様に、
「でもまぁ、しょうがないです。私は、カラーの長ですからね。普通に帰りますよ」
でも、と。ペールはこちらに向かって近寄ってくると、
「えいっ」
「っ!」
こちらに思い切り抱きついてきた。
ペールは、レオンハルトの熱を感じようとした。
そしてこちらの熱を、彼に与えようと思った。何故なら、
……もう会えませんから。
おそらくそうであろう、とペールは思う。
彼は魔人であり、魔軍の仕事があり、こちらはこちらで、カラーの長としての仕事がある。
お互いの距離は遠く、会おうとしても中々会えない。
それはひょっとしたら、今生の別れになるかもしれなくて、
……嫌です。
それを思うと、彼に回した腕に力が込もる。
彼と離れたくない、そんな想いで、自分の身体を彼にめいいっぱい擦り付ける。心の隅で、おっぱいで心変わりしてくれないかな、とか不埒な事を考えながらも、悲しみは消えない。
……レオンハルトさん。
想えば想うほど、悲しみが心を占めていく。目元から何かが零れる。
それを隠すように、彼の胸に顔を埋めた。
顔を彼の胸に擦り付けるようにする。何も言えなくなる。
だが、そこで彼は、
「……全くしょうがないな」
……え?
不意にレオンハルトがこちらの顔、正確には顎に手をやり、それを持ち上げた。
いわゆる顎クイ、確かそう呼ばれているものであり、
「ちょっとだけ、延長だ」
「んっ!?」
と、苦笑しながら、こちらの口元に唇を落としてきた。
柔らかい感触を覚える。愛しい人の突然のそれに、頭が沸騰しそうになる。
しかしそれを楽しもうと頭が理解する前に、感触は離れていき、
「――これでお終いだ」
「あ……」
彼の言葉に眉根を下げる。
今ので本当に終わってしまった、と。そういうことだ。
残念を感じる。最後にそれをしてもらったのは嬉しいことだが、
……別れの挨拶ってことですよね……。
なら自分は、それに笑顔で、悔いも残さずに去らなければならないのだろう。普通はそうだ。そうしなければならない。
しかし自分の心には、先程の想いがまだ消えておらず、
……どうすれば、この気持ちは――。
と、そんなことを考える。しかしそこでレオンハルトは、
「次に会う時は、立派なカラーの長になって会いに来いよ」
「…………え?」
軽く告げられた言葉に、間の抜けた声を出してしまう。恥ずかしい。
だがそうなるのも無理はない。今、この人は、
「……会うって……」
また会うと、そう言ったのだ。
「会っても、いいんですか……?」
聞く。聞きたい。そして確かめさせてほしい。
もう一度言ってほしい。会いたい、と。
こちらが見上げると、彼は身体を離し、しかし、こちらの頭に手を乗せて、
「ああ、会いに来い。立派なカラーの長になってな」
集落を放ったらかしにするのはやめろよ、とこちらの頭を撫でる。
……それは。
思う。それは大変なことだと、
カラーの集落には、色々と苦労がある。問題がある。解決しないといけないものは沢山あるのだ。
それを終えて、会いに来い、とそう言うのだ。
それを為すためにには、かなりの努力が必要かもしれない。ともすればケッセルリンク様よりも。
だが、それでも縁は消えてないということだ。それをする限りは、縁は無くならないということだ。
なら、とペールはレオンハルトに言った。
「……私、頑張ります」
涙を裾で拭って言う。
自分の決意を表明する。
「頑張って……とにかく頑張って……集落をもっともっと良くしていきます」
集落と仲間の為に頑張る。我ながらこんな動機でやる気を出すのは不純かもしれない。
でも、それを補って余りある発展をすれば、許してくれるだろうか。
「皆の為に頑張ります……!」
今よりももっと知識を付ける必要があるだろう。知らない人ともちゃんと話せる様にならないといけない。そのためには性格も変えていかなければいけない。
戦う必要だってあるだろう。ケッセルリンク様のように、皆の先頭に立って、仲間を守る為に戦う必要があるだろう。
弱い自分を、部屋の中で引き篭もり続けた自分とは、今日で決別だ。
明日からはもっと強い自分になる。明後日には、明日よりも強い自分になる。
そうしていつか、胸を張って自分を誇れるようになったら、
「そうして立派なカラーになったら――」
また、いつか、
「また、会いましょう……!」
ああ、とレオンハルトが頷いた。
「またな」
「――はい!」
また会える。悲しむことはないのだ。
なにせ――自分の人生はまだまだこれからで、沢山の機会があるのだから。
ドラゴンは空を往く。
その下に広大な大地と様々な生物がいる。
そしてその中に、ふと、ある姿を見つけた。
長く黒い髪をもった、かつての同胞の姿だ。
その姿は、先程までとは違い、身体の表面に自分達と同じものを持っており、こちらに向かって挨拶をしている。
返事をしようと、ライゼンは咆哮した。
……ああ、また会おう。
いずれまた会える、と。そう誓ったのだ。
ならば会えるだろう。これから先、何があろうとも。
ああ、忘れないとも。
この先も俺は、示し続けよう。
ドラゴンとしての生き様を。かつてそこにあった仲間の姿を。
全てが無くなった訳ではないのだ。
この世界にまだ同胞はいる。声を上げることが出来る。その存在を示すことが出来る。
俺達が生きた世界はまだそこにあるのだ。
だからまた生き抜いて、示し続ける。
思い出した誇りと、新たな生き方で示し続ける。
そうしてまた、俺のことを見つけたのなら。
声を掛けてくれ。
そうして新しい縁を作ろう。切れた縁を結び直そう。
そして昔のように、ただ下らないバカ話にでも興じよう。
話す内容なんかなくてもいい。
誰が強いとか、人間がどうとか、愚痴だって構わない。馬が合わなければ喧嘩をしよう。
昔話でもいいさ。悲しくなりそうだけどな。励ますくらいはしてやれる。
……俺か? 俺は話すことがあるぜ。
最近出来たばかりの――新しい
「……お前ら、好きだろ。そういう話――」
ドラゴンはそうして満足を感じ、空に昇った。
何故なら約束したから。
千年振りに答えを知ったから。
楽しみな明日を得たから。
――新しい縁を、俺達は結んだから。
皆様どうも黒岩です。いつも魔軍参謀の憂鬱をご覧いただきありがとうございます。
これにてケッセルリンク編は終わりです。いかがだったでしょうか?
当初とは完全にプロットとは違う今回の話ですが、結果的には良かったかな、と私的には思います。
というのもドラゴンの話を何処かで出来たらなぁ、と思っていたからです。SS期から始まる関係上、ドラゴンの話はやり辛いので。
ただ結果的に過去の話とすることでなんかそれっぽい話になったんじゃないかなあ、と思ってます。なので個人的には書けて良かったな、と
ただそれも面白くなければ何とも言えないのですが。今回でオリキャラも結構出しましたし、色々と端折ったりしたので、賛否があるんじゃないかな、と。色々と悩むところです。
という感じで、次回からはSS期がいよいよ終わりに近づきます(なんかケッセルリンク編が始まる前も似たような事言った)。
一応後幾つかの短い話を挟んでから、締めに入ります。そこからは色々と鬱屈した話に入りますので平にご容赦を。
では、ここまでご覧頂き本当にありがとうございました。
いつも感想をくれる皆様、評価してくださる皆様、本当にありがとうございます。それがいつもモチベーションに繋がっています。
そしていつも誤字報告をしてくれる皆様、本当にお詫びと感謝を申し上げます。いつも助かってます。
そして次回はケッセルリンクの歓迎会となります。これからも出来るだけ面白い話を出来る限り早く投稿出来るように頑張っていきたいので応援よろしくお願いします。
P.S. 活動報告にオリキャラのプロフィールを乗せておきます。