※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

80 / 411
二人の女魔人

 紅茶を飲んで僅かな一服を終えると、レオンハルトはキャロルとともに部屋を出た。

 そして早速カミーラを訪ねようと右を見ると、

 

「――あ」

 

「…………」

 

 ちょうど良く部屋から出てくるカミーラの姿が見えた。その後ろからは使徒の七星の姿もある。

 お互いに扉を閉めるのを使徒に任せる。カミーラがこちらに気づいて目が合ったので、そのまま彼女の方に進み出ると、

 

「……さっき振りだな。ちょうど、部屋を訪ねようと思ってたところなんだが――」

 

 言外に、どちらかの部屋で話すか、と聞いたつもりなのだが、カミーラは短く、

 

「ここでも構わぬ」

 

「ならいいが」

 

 と言ったのでこちらも頷く。確かに周囲に人影はないし、そもそもこの一帯に誰かが近づくことは少ない。用事でもない限り。魔人四天王の部屋があるここに来る者は少ないのだ。

 なのでここで話をしても構わないだろう。内容にもよるが、

 ……多分、あのことだろうな……。

 先程、部屋の中で何気なく予想してみたが、思いつくのはあの件くらいしかない。全く別の話の可能性もあるが、とカミーラの要件を考えながらも、こちらから、

 

「それで、話ってのは何だ?」

 

「……聞きたいことがある」

 

 話を切り出すと、カミーラは少し目を細めて、

 

「――四大聖竜。……ライゼンのことだ」

 

「……ああ」

 

 告げられた内容に、やはり、と内心で頷く。そしてカミーラだけでなく、その傍らにいる七星までもが、無言のままこちらを注視しているような気配があり、それについても、

 ……やっぱ、同じドラゴンだと気になるのかね。

 と、そんな感想を抱く。元、ではあるが今となっては数少ない生き残り同士であるし、四大聖竜ほどの大物となればその名は当然知っているのだろう。

 というより、カミーラに関しては既知の間柄な可能性もある。有名だから知っているだけかもしれないが、名前を出してきたというのもあるし、

 ……ともあれ、答えてやるか。

 カミーラや七星は真面目に話を聞きたがっている様だし、ちゃんとした事実を伝えてやろうと心を構える。するとカミーラは続けて具体的な質問を告げた。

 

「お前が、あのライゼンと戦い勝利し……配下に加えたというのは、本当か……?」

 

 レオンハルトはその質問に、微妙に気怠げに答えた。

 

「……いや、それは違うな。戦いはしたが引き分けになったし、城まで送ってもらったのもアイツの親切心からだ。再戦の約束もしたしな」

 

「……引き分け」

 

「ああ。何処で、勝利した、なんて尾ひれが付いたのか知らねぇが、勝ってはない」

 

 迷惑な話だ、と思う。勝ってもない相手に勝ったと、そんなデマが流されるのは一戦士として恥ずかしい。組織的に見れば、上に立つ自分の実力を喧伝するのは兵の士気や自身の求心力を高める面で効果的だが、様々な相手から信頼を培っている現在にしてみれば、真実が別のところから露見すれば、逆に信用を落とすことになりかねない。なので戦士としても、合理的な理由としても、聞かれれば嘘を答える気はないのだ。

 もっとも後者の理由よりは、前者の“戦士”として、という理由の方が大きいが。後者はそこまで気にしなくても問題ない。

 なので真実を誇張せずありのままに伝える。補足するように、

 

「アイツは傷を負って戦う力は残ってなかったし、俺の方もアイツにとどめを刺す力はなかった。だからお互いにまた戦うことにして別れた――ってところか」

 

「…………」

 

 言うとカミーラの目が細まった。

 だがいつもより、その趣というか、意味合いが違うように見える。薄く息を吐きながら、珍しく感情の見える声で、カミーラは言った。

 

「あれと引き分け……そして、再戦の約束をした、か……」

 

 そして何かを考え込むように黙ってしまった。

 ……何かあるのか?

 その様子が微妙に気になってしまい、今度はこちらから声を掛け、

 

「カミーラは……それから七星も、アイツと知り合いなのか?」

 

「…………」

 

「いえ、その……」

 

 主のカミーラの話を邪魔しないように無言で控えていた七星だったが、カミーラに伺いを立てるように彼女に視線を向けると、主は沈黙したまま顎を軽く上げることでその返答とした。

 多分だが、話してもよい、ということだろう。その証拠に七星が頷きを入れて、

 

「……畏まりました。……と、言っても私はそれほど知己という程でもありません。所属も違いましたので……」

 

「所属……そういやアイツ、西部方面軍将軍とか言ってたな。お前は別の軍だったのか?」

 

 思い出して口に出すと、七星が再度頷いた。

 

「ええ。私は東部方面軍、別の四大聖竜のお方に付き従ってましたから。それほど交流がある訳ではありません。ただ、何度かお話をする機会はありましたが――」

 

 そこで七星は思い返すように間を置いて、そして言葉を選ぶように言った。

 

「……その時の印象を、率直に仰るなら……その、伝え聞く逸話にしては……あまりドラゴンらしくない方だと思いました」

 

「……へぇ、なるほどな」

 

 随分と興味深い内容だ。あのライゼンがそんな印象を持たれていたとは。

 しかしこちらの興味とは裏腹に、七星はそこまで話すと再び口を噤んだ。

 だがそれと入れ替わるように口を開いたのは、カミーラだ。

 

「あれは……変わり者であったからな……」

 

「変わり者、ね……」

 

 カミーラの言葉を考えるように呟く。

 話を統合すると、ドラゴンらしくない変わり者だったということらしい。何をもってドラゴンらしくないのかが、こちらには解りかねるが、ドラゴンの価値観的にはそうなのだろう。

 ……今度会ったらそのことを聞いてみるか?

 などと冗談半分に考えていると、カミーラがこちらに視線を向けて、

 

「……少し、お前に似ているな」

 

「…………あ?」

 

 不意に予想外の言葉が飛んできた。

 ……どの辺りがだ? いや、それよりも……。

 レオンハルトは声を作った。少し眉根をひそめながら、

 

「……それは褒め言葉か? それとも貶してんのか?」

 

「…………さてな」

 

「おい」

 

 目線を逸したカミーラに軽い責めの視線を向ける。しかし問いかけの答えは返ってこず、

 ……こいつ、俺のこと何だと思ってやがる……?

 変わってる、ということは変人、もしくは変態ということか。しかし自分はそこまで落ちたつもりはないし、ただの魔人でしかない筈だ。

 だが、

 

「……ふん、まあ良い。聞きたいことは聞い――」

 

 と、カミーラが声を出し、踵を返そうとしている最中、こちらの背後から音が聴こえた。

 それは扉を空ける音であり、誰かが廊下に足を踏み入れた音でもある。

 それを感じて背後に視線をやると、

 

「……お」

 

「む……」

 

 奥の部屋からケッセルリンクが出てくるところであった。それを見て、

 ……ああ、そういやケッセルリンクも隣の部屋になったんだったな……。

 それを思い出す。新しく魔人四天王となった彼女に与える部屋として、そこを選んだのだ。この一角の部屋ならば何処でも好きなところを選んでいいと伝えたところ、自分の隣を迷わず選んだのは、何か意味があってのことかと邪推しそうになるが、そこは気にしないでおく。

 だからケッセルリンクとばったり出会うのは不自然ではない。この後、彼女の方も自分と同じ用事があるのだし、部屋を出る理由もある。

 そして出会ったのなら一言、声を掛けもするだろう。ケッセルリンクはこちらに近づいてくると、

 

「レオンハルト」

 

「ケッセルリンクか。どうだ、部屋の心地は?」

 

 話の流れとして聞いてみる。すると微笑を携え、

 

「快適だ。私には勿体無いくらいだとも」

 

「まぁ、一人で使うには広いだろうが、何といっても魔人四天王だからな。そこは慣れてくれ」

 

 狭すぎるよりはいいだろ? と冗談半分に笑みで答える。

 

「ふっ、それもそうだな。しかし手持ち無沙汰でね。そちらを訪ねようと思っていたところなのだが――」

 

 そこでケッセルリンクは、背後のカミーラに視線を向ける。そして、再度こちらを見ると、

 

「取り込み中かね?」

 

「いや、もう終わったところだが……」

 

 言う。確かカミーラはケッセルリンクが来る前、聞きたいことは聞いた、と言い掛けていた。ならば話は終わりだろう。そういった認識で返答する。

 するとケッセルリンクは頷いてこちらと並ぶと、カミーラに身体を向けて、

 

「そうか。……ならば挨拶をしても――」

 

「失せろ」

 

「…………む」

 

 と。カミーラが不意に鋭い声を放った。

 そして、鋭いのは声だけではない。ケッセルリンクを睨むように目を細めると、

 

「貴様と話すことは何もない。……それに」

 

 そこでカミーラはこちらを見る。何を、と戸惑う中、彼女は、

 

「まだ話は終わっていない。貴様如きが、口を挟むな」

 

「…………ん?」

 

 頭の上に疑問符が浮かぶ。カミーラの言った言葉の所為だ。

 なので聞き返すように、

 

「……おい、さっき、聞きたいことは聞いた――」

 

「お前は黙っていろ」

 

「って……」

 

 鋭い言葉で黙らされる。そう言う最中も、カミーラはケッセルリンクを威圧しており、

 ……そういや、カミーラって……。

 一つ、理由に心当たりが浮かぶ。それを内心で言葉にする前に、ケッセルリンクがそれに反応した。こちらをちらりと見て、

 

「……ふむ。話は終えたと彼は言っているが、聞き間違いかね?」

 

「……貴様に、説明する義理はない。さっさと消えろ」

 

 ケッセルリンクはそこで眉をひそめる。厳しい言葉を浴びせられ続けているのだ。当然だろう。彼女はカミーラに視線を合わせると、吐息し、

 

「……女の魔人同士として、出来れば仲良くしたいのだが」

 

「虫酸が走る。私の気が変わらぬ内に消えろ」

 

「……では、そうしよう。――レオンハルト」

 

「――あ……ああ」

 

 あまりにも不穏な雰囲気だったので口を挟めずにいたが、不意に声が掛けられ反応する。そして続けて、

 

「話は終わったのだろう? ならばそろそろ――」

 

「待て。話は終わっていない」

 

 カミーラが声を飛ばすと、ケッセルリンクが目を細めて、

 

「彼の言葉を、何故そちらが決める?」

 

「ふん……私が終わっていないと、そう言っているのだ。なら終わっていない」

 

「……横暴ではないかね? 彼には彼の意思がある」

 

「っ……貴様如きが、私の話に口を挟むな……! 八つ裂きにされたくなければ散れ……!」

 

「同じ立場だ。なら口を挟む権利はあろう。それに……脅しとは感心しないな」

 

「貴様如きが同じ立場だと……? ふん、笑わせるな……」

 

「確かに私は新参者ではあるが、事実は事実だ。笑いたいなら笑えばいい」

 

「――っ、そのうるさい口を引き裂いてやろうか……!」

 

「――実力行使か。しかし、彼のために引き下がる訳にはいかないな」

 

 言い合いが段々と酷くなり、両者の圧力が増していく。それを見て、

 ……いつの間に、一触即発の空気が出来上がってる……。

 ピリピリとした空気を肌で感じるのだが、こいつらは何で喧嘩しようとしてるのだろう、と頭を抱える。

 カミーラは女嫌いだから何となく理解る。しかしケッセルリンクは、

 ……いや、早計だな。そうとは限らない。

 と、半ば現実逃避的な回答先送りをしていると、カミーラがこちらをちらりと見て、

 

「……ふん、どうにも噛み付いてくると思ったが……貴様、レオンハルトに惚れているな……?」

 

 と、こちらからはコメントし辛い発言がケッセルリンクに飛んだ。

 しかしそれに、ケッセルリンクは少し怯みながらも、

 

「……そうだな。それがどうした?」

 

 憚ることなくそれを認める。何だか居づらくなってきた。しかし自分がいなくなると廊下で魔人四天王同士の戦いが勃発しそうなので迂闊に離れられない。口を挟むことも憚られる。

 そんな中、カミーラはケッセルリンクの答えに対し、

 

「ふっ、何……貴様の様な女に惚れられる、レオンハルトが可哀想だと思ってな……」

 

 口を薄い弓の形にし、嘲笑で答えた。

 ……いや、それは言い過ぎだろ。

 と、思い、さすがに一言くらい言っておこうか、と口を開こうとした時、横のケッセルリンクが眉を立て、

 

「――何だと?」

 

 先程まではまだ落ち着いていたケッセルリンクの怒気が膨れ上がる。その様子を面白がったのか、カミーラが笑みのままで煽るように、

 

「もう一度言ってやろうか……? 貴様の様な――」

 

「――黙れ」

 

「!」

 

 カミーラの言葉を差し止めるように、ケッセルリンクの声が飛ぶ。彼女には珍しい強い言葉だ。それを聞いたカミーラは、一瞬怯んだものの、こちらも怒気を膨れ上がらせ、

 

「……聞き間違いか? この私に、ふざけた口を利い――」

 

「もう一度聞きたいなら言ってみせようか。――黙れ、と、そう言ったのだ」

 

「っ! き、貴様……!」

 

 カミーラの表情が怒りに変化する。さり気なくフェードアウトしよう――じゃなくて、いつでも止められるようにさり気なく間に入っておく。

 ……この状況、どう宥めれば……!

 口を挟みにくいから、と黙って聞いていたらこれだ。ちょっと助けてほしい。助けを求めて何気なく、背後のキャロルが何をしているか見てみると、

 

「……何だか長くなりそうですわね。七星、暇なので勝負ですわ! 手っ取り早く勝ち負けを決めれる指相撲で勝負しましょう!」

 

「……は? え、いや、そのような事をしてる場合では……」

 

「勝負から逃げる気ですの? そんなことは許しませんわ!」

 

「……確かに、逃げたいですが……色んな意味で」

 

 心の中で七星に激しく同意する。今直ぐこの場から逃げたい。というかキャロルはよくこんな状況で平然としてられるな……。

 使徒に対する評価を上げながら、レオンハルトは眼前の二人を見る。両者睨み合った状態のまま、敵意をぶつけている状態だ。

 もう現実逃避にキャロルを見習って、別のことでも考えるか、と思う。巨乳の事とか。眼の前に二つもあるし。と、馬鹿なことを考えていると、ケッセルリンクがカミーラに言葉を放った。

 

「……先程から妙に噛み付いてくるが……そちらはレオンハルトの何なのかね?」

 

「レオンハルトの……?」

 

 と、聞いた。その質問に不意を突かれたのか、カミーラが少し言葉を詰まらせる。

 そして少し考えた末、カミーラは、はっきりとこう答えた。

 

「……私は、レオンハルトの――相手を務めてやっている」

 

 言った。すると、ケッセルリンクが目を見開いて、

 

「――な、に……?」

 

 絶句した。そのやり取りを見て、レオンハルトは、

 ……帰りてぇ……。

 まだやり取りが続きそうな気配を感じて、現実逃避を始めた。

 

 

 

 

 

 ケッセルリンクは相手の言葉に驚愕を得た。

 眼前、女の魔人がいる。確かカミーラという者。そしてレオンハルトの、

 ……私と同じだというのか……!

 しかも相手を務めてやる、という言葉から察するにレオンハルトから頼まれたことなのだろう。その部分に少し引っかかってしまうのは女として負けた気がするからだろうか。

 いや、しかしそうと決まった訳ではない。ケッセルリンクは対抗するように言葉を発した。

 

「……私も、レオンハルトの……相手、を務めている……!」

 

「……貴様が?」

 

 胡乱な目でこちらを見るカミーラ。そしてしばらく、何やら値踏みするように眺めると、ややあって、ふっ、と笑い、

 

「貴様如きでは相手にならんだろう……」

 

「っ、何だと……」

 

 それは聞き捨てならない。故に聞き返す様に、

 

「そちらは、相手になると……?」

 

「……当たり前だ。私はもう、何度も相手をしている。それこそ数百年前からな……」

 

「なっ……」

 

 ……それほど昔からの関係であったと言うのか……。

 しかも何度も、だ。こちらは精々数日。いや、密度なら負けてない、と思いたいが、それも確証はない。

 だが、こちらに追い打ちを掛けるように、カミーラは、

 

「貴様では実力が足りん。ほらを吹くな」

 

「! ほらではない……!」

 

 事実を言う。ここまで言われては黙っているわけにはいかないと、

 

「実力、は足りないかもしれないが……私は、数日間に……何度もやり合った仲だ……」

 

 頬が熱くなる。はしたない、という言葉が頭に浮かぶ。

 しかしカミーラはそれにも余裕を見せると、

 

「どうせ一方的に嬲られただけであろう……」

 

「……そんなことは」

 

 ある。だが、最後の方は色々と教わったことを活かし、こちらからも――

 ……っ、それより……!

 ケッセルリンクは言う。ならば、

 

「そちらはどうなのだ……?」

 

「ふっ……私は、対等にやり合っているぞ……」

 

 お前とはレベルが違う、とカミーラはこちらを見下す。

 その格の差を言い聞かせるように、口々と、

 

「昔は、こちらが主導権を握っていた」

 

「……レオンハルトよりも上であったと……!?」

 

 ……なら、レオンハルトのあの技巧は、この女で鍛えられて……!

 

「何度もやり合い……少し癪だが、差を縮められたがな……この間など、胸に傷を付けられ……」

 

「胸に――」

 

 その発言を聞いて、カミーラの胸を見る。大きいものだ。ともすれば自分より。そして、それに傷、ということは――

 ……あ、アレの隠語か……? 確かに、アレは少し恥ずかしいからな……。

 レオンハルトは胸が好きだし、おそらくカミーラにも同じ様に色々としたのだろう。少し複雑ではあるが致し方ない、とカミーラの言葉を続けて聞くと、

 

「周囲に被害が出るからな……よく禁止されることもあるが……」

 

「周囲、に……被害……」

 

 それほど激しいというのか……。

 思わずつばを飲み込んでしまう。自分達の時でさえ、中々に激しいものだったのに、レオンハルトはあれでも抑えていたと言うのか。禁止されるなどよっぽどだろう。

 というか、

 

「……まさか、とは思うが――外でやっているのか……?」

 

「……外だが、それがどうした……」

 

 当然、といった様子で答えられ、妙な敗北感が胸に落ちる。

 ……それくらいやらなければ、駄目だと言うのか……。

 幾ら何でもやりすぎではないだろうか、と思う。いや、しかし、レオンハルトがそれを望んでいるなら、

 ……望んでいたとして、それを躊躇なく行えるのか……?

 少なくとも自分はまだ難しい。最低限心の準備がいる。しかし、相手にとってはそれが当然で、今更躊躇することではない。それほど関係が深いのだろう。

 ……っ、私の負けか……。

 自分はまだまだ浅い、とそういうことだ。率直に言って悔しく思う。

 だが、

 

「……レオンハルト」

 

「…………あ、何だ?」

 

 視線を向ける。そして決意する。

 宣言するように、

 

「私も、貴方を満足させるように頑張る……頑張りたい」

 

「……? ああ、それで?」

 

 だから、と、ケッセルリンクは息を入れた。少し勇気がいるが、それを振り払うように、彼を真っ直ぐ見て、

 

「今度……色々と、教えてほしい……」

 

 言葉尻がだんだん小さくなってしまうのは許してほしい。恥ずかしいのだ。

 顔が熱くなり、目を合わせるのが辛くなってくる。しかし強い意思で見つめ続ける。

 するとやがて、レオンハルトは額を手で抑えながら、

 

「……いいぞ」

 

「! そ、そうか……」

 

 了承を得たことに安堵の息をつく。断られたらどうしよう、と不安に思っていた。カミーラがいるからもういい、なんて言われたらさすがにショックを受ける。しかしそうはならず、それどころか、

 

「……まぁ、お前はお前だし、誰かと比べなくてもいいだろ」

 

「……そうか?」

 

「ああ。お前は結構唆る相手だ。だからいつでも挑みに来い」

 

 と、励ます言葉まで掛けてくれる。しかもいつでも来い、と。

 

「レオンハルト……」

 

 そんな単純な言葉で嬉しくなってしまうのは、惚れた弱みと言うのだろうか。しかしそうであったとしても気にならない。じっと彼の顔を見続けていると、やがて彼はこちらから視線を切って、カミーラを見ると、

 

「……とりあえず、今回はケッセルリンクの負けってことで見逃せ。というか、間違っても手出すなよ?」

 

「……ふん。そいつが分を弁えればの話だ」

 

「そうじゃなくてもだ。俺もそうなれば放っておかねぇし、出てくるのは俺だけじゃねぇぞ」

 

「ふん……」

 

 レオンハルトが言い含めると、カミーラがそっぽを向きながらも理解の色を見せる。それを確認して、レオンハルトは頷くと、

 

「それで話が途中だったか……悪いがこの後、俺もこいつもスラル様に呼ばれてるから今度でもいいか?」

 

「……好きにしろ」

 

 言うとカミーラは踵を返してそのまま立ち去っていく。それを追いかけるように、長髪の男がこちらに挨拶しながらも、

 

「……それでは、失礼します。レオンハルト様、ケッセルリンク様」

 

 ああ、とレオンハルトが頷きを入れたので、こちらも黙って頷く。するとその男、おそらく使徒は、カミーラの後に付いていった。

 そしてそれを見たキャロルが、

 

「指相撲……負けてしまいましたわ……」

 

 何やら落ち込んでいた。それをレオンハルトが呆れた目で見ながら、

 

「とりあえず……二人とも行くぞ。ちょっと早いが問題ないだろうしな」

 

「はーい、ですわー……」

 

「……ああ」

 

 レオンハルトがカミーラ達とは逆方向に歩き始めたので、それに続く。確かこの後は、レオンハルトが言っていたようにスラル様に呼ばれていた筈だ。

 ……しかし、カミーラか……。

 背後に消えていった同じ魔人四天王である魔人を思い返しながら決意する。それは、

 ……今は及ばないようだが……いずれは追いついてみせよう……。

 女として、負けたままではいられない。それを払拭することを心に決め、ケッセルリンクは愛しい人に続いた。

 

 

 

 

 

 ……何だったのだ、あの狼狽え様は……?

 カミーラは、廊下を歩きながら先程のやり取りを不思議そうに思い返していた。

 魔人四天王として女が紹介された時から微妙に気に食わなかったが、こちらの話に横槍を入れてきたことで、それは跳ね上がった。なので立場を弁えさせてやろうと思い威圧、そして挑発したのだが、

 ……途中から、明らかに気色が変わったな……。

 そう、確かレオンハルトの相手を務める関係だと、自分が言った時からだ。どのような関係かを聞かれ、友人という訳でもないし、知り合いや同僚というほど薄くもない。だからあれが適切かと思ったのだが、相手は妙にそこを気にしており、

 ……レオンハルトの相手を務められることに嫉妬していたのか……?

 レオンハルトに惚れているのは認めていた。ならば戦いの面でも同じ位置に立ちたい、とそういうことだろうか。

 もしそうだとしたら、それは難しいだろう。それは自分であっても怪しいことだ。

 何故なら、

 ……ライゼン、あのライゼンと引き分けたか……。

 レオンハルトの話を聞いて思う。

 数日前に休暇を終えたレオンハルトが、他の者達と一緒にライゼンに乗って帰ってきた、と聞いた時は耳を疑ったものだ。しかし多くの者の話を聞く限り、それは事実で、

 ……生きているとは思わなかったが……。

 可能性としてはライゼンが一番高いと思っていた。だが、全員死んでいるのが妥当だろうとも。

 だが現実奴は生きていて、しかもレオンハルトと戦い引き分けた。そのことを思うと、妙に心がざわつく。

 何しろ奴は四大聖竜の中でも最強。多くの魔人を打ち倒してきた男だ。その恐怖を、今を生きている魔人達も憶えていて、だからこそレオンハルトに恐怖するのだろう。それを思うと、

 ……仮に私がやっても、勝てる、か……?

 微妙なところだ。少なくとも確証はない。

 ならばレオンハルトは既にこちらを越えてしまっているのではないか、と思う。本気で戦うことはないのだから、それを確かめる術はない。しかし心の方は、

 ……それを、認めてよいのか……?

 分からない。プライドが刺激されるのは確かだが、嫌かと言われるとそうでもない。

 複雑な気分なのだ。ライゼンという見知った同胞が生きていたことも、それとレオンハルトが引き分けたことも、レオンハルトが自分を越えたかもしれないということも。

 故に、レオンハルトには頼もうとしていた。もし連絡が取れるならば、

 ……一度、本気で相見えてみるのも一興か……。

 それが無理でも奴と同程度のレオンハルト相手であれば構わない。久方振りに闘争心が刺激されるのだ。

 それは、自分の本気がどの程度か、確かめてみたいという思いもあり、

 ……私は、プラチナドラゴンの“魔人”。魔人四天王のカミーラだ……。

 籠の中の鳥であった昔とは違う。ドラゴンとして、魔人として、その本能が強敵を望むのだ。

 

「くく……」

 

 思わず笑みを漏らしながら、カミーラは自身の愉悦に身を任せるのだった。

 




スラル「勘違い、訂正されないのね……」

ガルティア「この手のやつって後々に響いてきそうだよな」

ハンティ「嫌な予感しかしないけどね」

キャロル「そんなことより、誰か指相撲のコツを教えてくれません? 全然勝てませんの」

レオンハルト「指を一回で二回以上動かす」

ガルティア「爪の間から糸を出して絡めとる」

カミーラ「爪を伸ばして無理矢理」

ケッセルリンク「暗闇にして相手が見えない隙に」

ハンティ「瞬間移動で指の位置をずらしまくる」

スラル「え、ええと、親指に触れた瞬間、相手が突き指になる魔法を作る?」

キャロル「……ではまず、それらを七星に試してみてほしいですわ」

七星「!?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。