魔王城の一室。
普段は誰も使うことのない客室に、しかし、今は使用者がいた。
魔軍の指揮官を務めるモンスター、魔物将軍だった。
「はぁ……身体が重いな……よっこらせっと」
魔物将軍は、通常よりも二回り以上も大きい身体を椅子に沈め、身体を休める。この部屋は魔王城で働く女の子モンスター、メイドさんに体調が優れない旨を伝えて、一時的に使わせてもらっているのだ。
巨体を椅子に沈め、息を吐く。そして思うのは、
……最近、調子が悪い事が続く……そろそろ限界なのだろうか……。
ここ一ヶ月の身体の不調に憂鬱になるも、それでいて、どこか達観した気持ちになる。
というのも、いつ寿命を迎えてもおかしくないからだ。
魔物将軍というモンスターは、魔物の中では長命の種だ。その寿命は大体百年以上。十年前後で死んでしまう女の子モンスターや、他の多くの魔物と比べても長生きなのである。
そんな中、自分は既に二百年近くを生きている。魔物どころか魔物将軍としても異常であり、同じ頃に生まれた同僚達は皆、とうの昔に亡くなっている。他の同僚は皆自分より若いものしかおらず、魔軍の中でも一番のベテランとして敬われていた。
しかしそれは偏に、長生きだからという訳ではないだろう。それは、
「レオンハルト様の、おかげだろうな……」
思うのは、自分の上司にして、己が最も尊敬する魔人のこと。
生まれた頃から、今まで、魔軍参謀である彼の下で働き続けたことが、評価に繋がっているのだろうと、魔物将軍は確信する。
実際、レオンハルトの下でなければ、ここまでの躍進は遂げていなかった。仕事の実績をひたすらに積み上げ、尊敬するお方の一助になれるよう己を高め続けたからこそ、ここまで生きてこられたのだ。
……だが、それももう終わりか。
身体の不調は、おそらく寿命が近いということを示唆しているのだろう。これ以上は働くことは難しい。
しかし、自分の死期を悟り、思い浮かぶのは寂しさと誇らしさだ。
生きようと足掻くならば、彼の使徒にしてもらえないかとダメ元で頼んでみる方法もあるが、
……それでは、生き恥となるやもしれん。
また、使徒となったところでかのお方の役に立てるかどうかは解らない。ただいたずらに力を減少させるだけかもしれない。
ならばこの満足感を得たまま朽ち果てるのが最良だ。
魔物将軍は天井を見上げ、安らかな気持ちで言葉を紡いだ。
「……願わくば、次も……あの御方の下で戦いたいものだな……」
それが彼の、魔物将軍としての最期の言葉となった。
魔王城の中庭にて、レオンハルトはその光景に眉をひそめた。
傍らにいた使徒、キャロルに向かって生まれた疑問を呟く。
「――で、キャロル。これは一体どういうことだ?」
「ふふん、これはですね――」
キャロルは自慢気に、両手を広げながらその光景を示して称賛した。
多くの魔物、その大部分は女の子モンスターで構成された列が、幾重にも重なってそれを待ち続けている。視線のほぼ全ては、レオンハルトに向けられており、手を振ったり、声を上げていたりする者も多い。
そんな彼女達にも宣言するように、キャロルは腕を振り上げ、その催しの名を高らかに告げた。
「レオンハルト様ファンクラブによる――魔人筆頭就任記念イベントですわー!!」
いぇーい! と、キャロルの言葉に合わせて歓声を上げる者達を眺め、レオンハルトは頭を抱えながら息を吐いた。
「……俺に何をやらせる気だ?」
「握手会がありますので、それだけお願いしますわ!」
「……ああ」
全く悪びれもせずお願いしてくるキャロルを見て、頭痛がしてくるが、それでも渋々と頷く。
というかより頷かざるを得ないと言うべきか。ここにいる者達は自分のファンで、一応はお祝いの為に来てくれたのだろう。事前に告知もされて今日という日を楽しみにしていた筈だ。そこで自分が帰ってしまったら、
……盛り上がりに水を差すのもよくないか。
白けるどころの騒ぎではないし、急ではあるが参加を決める。
それによく考えてみれば嫌というわけでもない。
ここに集まっているのは自分のことを好ましく思っているファンなのだし、そこまで好いてくれているなら嫌な気はしない。好意に応えるくらいの器量はあるつもりだ。
故に否定するほどでもない。なので、精々快くそれを果たしてやろうと思う。
と、レオンハルトが決意を固めていると、キャロルが周囲の女の子モンスター達と円を組んで話し合っており、
「あなた達は列整理、そちらはグッズ頒布。他の方達はわたくしと共にレオンハルト様の護衛と、会場内の警備ですわ!」
「了解です!」
……思ったよりちゃんと仕切ってるな……。ってか、グッズ……?
おそらくファンクラブの会員の女の子モンスターだろう。彼女達に向かって会長のキャロルがてきぱきと指示を与えている。そんな中、グッズという気になる単語が聞こえたので、レオンハルトは何気なく後ろに積まれている箱を覗いた。
そこには、
「っ! これは…………俺、か?」
視界に映るそれは、様々な物だった。
多くは小物、バッジであったり、本の栞であったりだが、大きい物となると洋服や本などがある。随分と雑多な豊富さだが、それには統一性があり、目的を見失っていない。その全てには、自分を模したイラストが描かれているからだ。
「レオンハルト様!」
何とも言えない気持ちが湧き上がりながらも、それを眺めていたこちらの元に、指示を終えたキャロルが近づいてくる。
一応、聞いておかねばならない、とそんな思いで、
「……キャロル。これ……お前が作ったのか?」
「あっ、グッズですわね!」
こちらが物を指で差しながら問いかけると、キャロルはやはり自慢するようにグッズを手に取りながら、
「ふふん! これらはわたくしやレオンハルト様ファンクラブの会員――同好の士達が作った物ですわ! わたくしは主に、洋服や寝具を作ってますの!」
「お、おお……」
出された物にどう反応するべきか迷い、呻いた声を出す。自分の顔が書かれた服はまだしも、
……この折りたたまれたものは――寝具、だよな……。しかも、抱いて使うタイプの……。
いわゆる抱き枕的な物があることに戦慄しながらも、それを呑み込む。精神にいきなり重い一撃を食らってしまったが、嫌悪感とかはないので大丈夫だろう。圧倒されただけだ。なので気を取り直してキャロルの説明に耳を傾けるも、
「こちらの本は、女の子モンスターのスケッチさんが描きましたの!」
「が、頑張りました……! あ、握手してもらっていいですか……!?」
「……なるほどな。別にいいが」
キャロルが紹介する様に一歩横にずれると、その後ろからベレー帽を被った女の子モンスター、スケッチがこちらに向かって頭を下げ、手を差し出してくる。
もう一方の腕で巨大な鉛筆を抱えている彼女達は、絵を描くことでそこから“らくがき獣”と呼ばれる疑似生命体を作って戦わせる魔物だ。
しかし、その絵の腕は――率直に言って下手だと聞いていたが、この本に描かれたイラストはかなり上手い。
まさか上位種か突然変異体じゃないだろうかと疑いを掛けていると、そのスケッチが握手終えて、
「あの……良かったらこのスケッチ帳にサインしてくれませんか……?」
「……ああ、いいぞ」
了承し、スケッチ帳を受け取るとそこに適当なサインをする。普通に名前を乱雑に書いただけだが、
「あ、ああありがとうございます……! 宝物にします!」
「ん……良かったな」
大事そうにスケッチ帳を抱えるスケッチを見て、“いや、元から大事な物だろ、種族的に”。という言葉が浮かぶもそれを心の中に留めて、彼女を見送った。そして何となく、自分のイラストが描かれた本に視線をやり、
……喜ぶべきなんだろうが……読むのは何か怖いな。
ただのイラスト集であれば良いが、もっと濃いものである可能性も捨てきれない。なのでここは放置が安定だろう。彼女達の聖域を崩すのは無粋だ。
そうしてグッズへの対応を決めていると、キャロルが明るい声を上げた。
「レオンハルト様! 始まりますのでこちらの机の前でスタンバイをお願いしますの!」
「……ああ、わかった」
その言葉と示す方向に従って、横向きに置かれた机の前に立つ。
するとやはりと言うべきか、始まりを予感したファンクラブの子達がこちらに注目した。視線を一身に受けながら、レオンハルトは、
……まぁ、たまにはいいだろう。
精々イメージを損なわない様に対応してやるか、と少しのやる気を持って握手会に望んだ。
だが――
「…………何やってんだ、お前?」
「っ!? だ、誰の事を言ってるの――ですか!?」
「………………」
勢い込んでやって来る女の子モンスター達を次々に捌き、握手会を順調にこなしていたレオンハルトの前に、突如として現れた謎の人物。
シルクハットを頭に被り、全身を隠すように纏った真っ黒な長コート。そして白い手袋と手元には何故か白のステッキが握られており、加えて目元を隠す銀色のマスクを被った怪しい白髪の少女。その正体を、レオンハルトは口にした。
「……いや、お前……スラ――」
「わ、私は通りすがりの天才美少女作家、レノラスよ! 断じてスラなんとかではないわ!」
ばさっ、とコートを翻しながら言うスラなんとか、もといレノラス。
何処かで見たことがありすぎる見た目と声、そして気配に半目になってしまう。
こちらの動きが止まったことで微妙に緊張しているらしいスラ――じゃなくてレノラスに、レオンハルトは何気なく話しかけた。
「…………レノラス」
「な、何かね? この私に質問とは、あまり感心しないぞっ!」
何キャラだよ、というツッコミをかろうじて呑み込み、
「……お前には関係ないんだが、ついさっきここに来る前に小腹が空いて、ここの主が好きなチーズケーキを全部食べちまったんだが――」
「えっ、嘘!? 後でおやつに食べようと楽しみにしてたのに! レオンハルトの馬鹿!!」
「………………」
「――あっ。い、いや、そういうことをしてはい、いけないよ、うん……君の主が悲しんでしまうからね? 本当に食べてしまったのなら……直ちに新しいケーキを買って主に詫びるといい。その際にはちゃんと誠意をもって、主の要求に何でも応え――」
……仮面剥ぎ取るか、目の前でこいつのお菓子食べてやろうか。そしたらどんな反応するんだろうな……。
というかつまみ出していいだろうか。目的が解らないし、なんかイラッとくる。
下手くそな変装と演技にそんなことを考えながら、レオンハルトは大きく息を吐き、
「…………それで、握手すればいいのか?」
「えっ。あ、ああ、そうね……そうだった」
本当に何しに来たのか、というかそのレノラスはどういう設定なんだ。ここ魔王城なんだが、女の子モンスターとでも言い張るつもりなのか、などと面倒さを感じながら、
「ん」
「ん……」
彼女の手を取った。握手くらい、いつでも出来るだろうにな、と思いつつ握手を終えると、
「ど、どうも」
「……ああ」
と、頭を軽く下げ、こちらから離れていった。
……本当に何しに来たんだ……。
意味不明なスラルの――ではなく、レノラスの行動に不可解を感じていると、今度は、
「――レオンハルト」
「あ? ……って、今度はお前かよ」
次の順番に現れた相手は、ケッセルリンクだった。
先程、意味不明な変装でやって来た彼女と違い、ケッセルリンクはいつも通りの恰好で来ていた。なので周囲は微妙に緊張している。レオンハルトは胡乱な視線を彼女に浴びせた。
「……何しに来たんだ?」
「む?」
ケッセルリンクが首を傾げる。何を言っているのか解らない、といった感じなので、再度、疑問を正確に口にしようとする。自分で言うのもこそばゆいが、
「ここは俺のファンのイベントらしいが、お前まで俺と握手しに来たのか?」
「……ああ、なるほど」
ケッセルリンクがこちらの質問の中身を正確に読み取ったのか、頷く動きを見せる。
しかし、彼女は微笑を浮かべると、
「何、聞けばファンというのは、その対象を好ましく思っているものなのだろう?」
「……ま、そうだな」
ならば、と。
「私は君のファンで相違ない。何故なら私は、レオンハルトを愛しているのだからね」
「っ――」
堂々とこっ恥ずかしいことを言うケッセルリンクを、思わず目を細めてしまう。軽く睨んでしまうような形になっただろうか。
……やり難いな。
素直というか純粋というか、真っ直ぐな言葉を突きつけられると、どうにもやり難い。嫌な気持ちになる訳ではないが、妙に気恥ずかしいのだ。
おまけにケッセルリンクは美人で気品がある所為か、それが妙に様になっているから困る。それを聞いていた近くの女の子モンスターが恥ずかしがるくらいには似合っているのだ。
なので、
「……ほら、さっさと握手していけ」
「うむ、そうだな」
もうさっさと進めてしまった方がこの空気は和らぐだろう、と自然に手を差し出す。
そうして差し出した手を、ケッセルリンクが握り、数秒の握手を終える。すると、
「うむ、やはり君の手はいいな」
「……ああ」
面と向かって言われても困る。肯定も否定も出来ない曖昧な返事をすると、ケッセルリンクはこちらに笑いかけてから去っていった。
……まったく。
面倒な奴らだ、と息を入れる。今の二人だけじゃない。ここに集まった全員のことだ。
容姿が悪くないことは自覚しているが、そこまで人気になるほどかと聞かれれば自分では首を傾げざるを得ない。そもそも人間時代は――半分以上は自分の所為とはいえ、ろくにモテなかった男だ。言い寄ってくる女は腐る程いたが、その瞳には己ではなく、目先の欲望が映っていたものだ。
しかし、今は違う。今、ここに集まってる連中は、どいつもこいつも程度の差はあれど、その瞳に己を映しており、
……しょうがない奴らだな……。
好意を向けてくる者達を想い苦笑する。
彼女達が自分に向けてくる想いと、同じ様な想いを彼女達に感じながら、
「……俺も、随分とちょろくなったな」
と、彼女達の想いを受け入れつつ、レオンハルトは再び継続して、握手会に臨んだ。
「……でも、そろそろ終わりか……?」
列も大分捌けてきた。もうこれを終えた後は、運営をしている子達にサービスでもすればいいだろう。
そう考え、レオンハルトは次にやって来た者に目を向けて、
「――あ?」
「………………」
その巨体に唖然とした。
そこにいたのは、身長3メートル程の魔物だ。
中心に身体の大部分を占める巨大な球体を持ち、その中に人間の顔の様なものが浮かんでいる。背中には幾つかの触腕ともいえる部位が伸びており、身体の上部は頭部ごと銀の鎧のようなものに覆われ、魔物らしい青の腕と足が生えている。
容姿が、魔物将軍に酷似したその魔物は、レオンハルトを見ると、
「――レオンハルト様……」
膝を付き、見上げ仰ぐ様に、
「私は……恥ずかしながら、進化して舞い戻りましたぞ……!」
「…………」
レオンハルトが無言で眼の前の魔物を見る。そして、顎に手を当て、額に手を当て、眉間を揉みほぐすと、ややあってから、
「――誰だお前?」
「………………」
「あ、知り合いじゃありませんのね」
魔物が無言となった。見覚えのない巨大な魔物に、キャロルまでも首を傾げる。
そんな中、腕を広げて魔物は叫んだ。
「わ、私です! 魔物将軍――リーですよ!!」
「リー……って、あ? リー将軍か?」
「あの宿敵の仲間ですの!?」
言われた言葉にほっと息を付く魔物。キャロルに警戒されているのを気にしつつも、
「宿敵といわれると複雑ですが……その通りです。レオンハルト様麾下の魔物将軍、リーです」
こんな姿では解らないのも無理ありませんか、と笑う魔物は、どうやら長らく側近として働いていたリー将軍らしい。
だが、
「お前……随分とデカくなったな……というかどうなったんだ?」
「勝手にイメチェンするなですわ!」
「イメチェンしたくてした訳ではないのですが……」
相変わらず辛辣なキャロルにも慣れているのか、落ち着いて対応しているところから、間違いないように思える。そして軽く息を吐きながら、リー将軍は説明した。
「実は今日が、私の寿命の様でして……先程部屋の中でそれを迎えそうになったのですが――」
「……なったのですが?」
はい、と頷き、
「意識が無くなる瞬間、私の身体が急激に発光し……気づいた時にはこの姿となっていました」
「……なるほど、意味が解らないな……」
何一つ解らない不思議現象に眉間に皺が寄るが、キャロルはそれよりも気になるというか憤慨しているのか、
「よく解りませんが、強くなってるっぽいのがズルいですわー!」
「そっちかよ……だが、確かに力は感じるな」
感じる限り、魔物将軍であった頃よりも格段に力が増している様に思える。それこそ、使徒を越え、魔人に迫る程だ。その自覚はあるのか、リー将軍も拳を握り、
「ええ、確かに力は漲っています。何と言いますか――」
と、言葉に迷った時だ。
不意に横から、声が飛んできた。
「多分それは……進化ね」
声の先に全員で振り向くと、そこには先程の怪しい少女が立っていた。
その手に大量の袋を抱えた彼女を見て、キャロルが、
「スラル様! 進化とはどういう事ですの!?」
「きゃ、キャロル君? わ、私はスラルではなく、レノラスだ。間違えないでくれるかな?」
「分かりましたスラル様! これからはレノラス様と呼びますの!」
「…………ともかく」
……あ、今諦めたなこいつ。
レオンハルトが内心でスラルの心情を察すると、彼女はそのまま説明を続けた。
「魔物にたまに起こる進化現象だと思うわ。数例だけど、魔物隊長から魔物将軍に進化する現象が確認されてるし……本来、魔物将軍は単独の種族で、魔物隊長以下は特殊なスーツを着てるだけの別種だから昇進はあり得ない筈なんだけどね」
「……なら魔王様。私は――」
「だからレノラスだってば!!」
「…………レノラス様。私はどうなったのでしょう?」
もう諦めたらいいのに。どうせ全員にバレてるしな、と半目になる。
スラルはそこでごほん、と気を取り直した様に咳払いすると、
「魔物将軍からの進化だから……さしずめ、魔物大将軍とか? 新種だからそんな感じでいいかと思われるわ」
「魔物大将軍……」
リー将軍が自分の身体を見てその単語を反復する。どうやらまだ信じきれてないようだ。
だから、という訳ではないが、彼に向かって、
「ま、いいんじゃねぇか? この分だと能力も向上して強くなったんだろ?」
「レオンハルト様……しかし、私などが魔物大将軍になっても良いのでしょうか?」
疑問するリー将軍に、
「なっても良いとか通り越してもうなってんだろ。だったらその力があるってことだ。適当にその地位を設けるから、今まで以上に頑張れ」
何せ、
「俺も魔人筆頭になったし、俺の側近としちゃあ文句はない。――期待してるぜ、魔物大将軍?」
「――! は、はい!!」
リー大将軍が良い返事をするのを見て、レオンハルトは口元に笑みを零した。彼の大きくなった背中を軽く叩き、
「それじゃ昇進祝いに、イベントが終わったら食事でも取るか? 今後の指揮系統とか仕事の分担についての相談でもしながらよ」
「是非お願いします!!」
身体は大きくなっても、性格は変わっていないらしい。こちらに向かって頭を下げる大将軍を見つつ、仕切り直すように、レオンハルトは声を上げた。
「それじゃ、続きを――」
「あ、レオンハルト様」
と、大将軍が声を掛けてきた。先程よりも軽い様子で、
「私も、握手宜しいですか?」
「……お前もファンだったのか?」
「当然ですとも」
「……はぁ、しょうがねぇな。ほらよ」
感謝します、と巨大な魔物の手を握る、というより握られながら、レオンハルトは呆れるようにリーを見た。
……魔物将軍の頃から妙に忠誠心の高い奴だったが……。
ファンクラブに入っているとは思ってもいなかった。そんなことを考えながら握手を終えると、
「――むぅー! 偉くなったからって調子に乗ったら駄目ですのよ!」
「……え、いや、別に調子に乗ってなど――」
「レオンハルト様の一番の側近はわたくしですからね! 付き合いが少し長いからと言って、調子に乗るのは駄目ですわ!」
「い、痛っ――って、そんなに痛くないな……って、だからって銃を抜くのはやめてください! キャロル様!」
「問答無用ですわー!!」
「原因はそれか……」
キャロルが大将軍となったリーに蹴りを入れるのを見ながら、彼女が何かと将軍を目の敵にする理由を知り息を吐く。
……確かにこいつが俺のところに来て、大分経つからな。
確かキャロルよりも長い付き合いの筈だ。それでキャロルはやたらと突っかかるのだろう。
どちらも大切な部下であることには変わりないけどな、と内心で言葉を作り、レオンハルトは再びファンとの握手に応じた。
そして、一方。
「ふ、ふぅ……何とかバレずにすんだわね。グッズ貰ってるところ見られるの恥ずかしいし、変装しといて良かったわ……!」
「……明らかにバレていたかと」
ケッセルリンクの小声の指摘に気づかず、通りすがりの天才美少女作家、聖天美少女王レノラスは、レオンハルトグッズが大量に入った袋を握りしめ、ほくほくと満足そうな顔で城に帰っていった。
ガルティア「レノラス……一体どこの魔王だ?」
レノラス?「さ、さぁ、誰かしらね……」
ケッセルリンク「レノラス様……一体どこの主なのか」
レノラス?「主とは限らないんじゃないかしら……」
レオンハルト「多分引きこもりで意地っ張りで貧乳で研究ばっかしてて甘いものばかり食べてて料理が下手で貧乳の魔王だろ」
レノラス?「貧乳貧乳言わないで! 好きで貧乳になったわけじゃないのよ!!」
キャロル「皆様は誰か解りましたか?」
ハンティ「いや……バレバレでしょ」
ラウネア「…………(魔物大将軍の名前の元ネタと候補について話そうと思ってたのに……)」