最初の動きは、左腕からだった。
それはレオンハルトが、最近覚え始めた戦闘手段の一つであり、相手の特性を確認するためのものである。
剣の持ち手である右手ではなく、左手を前に出す。その動きとともに、レオンハルトは行動を声に出した。
「まずは確認だ! ――炎の矢!」
左手の先から、魔法の炎が放たれる。
拳大の炎は、魔法の絶対命中の法則に従い、そうでなくとも真っ直ぐにますぞえに向かって飛んだ。
しかしその結果は、火を見るより明らかであった。
「…………!」
ますぞえが前に進む動きの中で、炎の矢を確認した。
それは真っ直ぐに、顔を狙って放たれたものであり、初歩の魔術、そして魔人といえどもあまり食らいたくはないものだ。
だが、
「…………!」
炎の矢は、ますぞえの顔に直撃し、しかし、何の衝撃も熱さも感じていない様に、構わず足を動かした。
「……ハッ、やっぱりか……!」
レオンハルトが確認を終えたことで短く笑う。彼が最近覚えたばかりの魔法だが、
――ますぞえに限って、それは通用しない。
正確に言うなら、ますぞえの元種族にとってだ。その名を、レオンハルトは勢いよく口にした。
「ハニーの“絶対魔法防御”は健在だな!」
「うわっ……やっぱりあるんだ……まぁ、そりゃそうよね、ハニーだし……」
視界の奥で開始されたレオンハルトとますぞえによる戦闘。その最初に起こった攻防の結果に、スラルは嫌そうに顔をしかめさせた。
と、いうのも、
「――うふふ、ますぞえ様に……いえ、私達ハニーに魔法をぶつけるなんて、無謀ですね」
「……誰? って――」
スラルは、不意にやってきた声を見て再び微妙な顔になった。
奈落と呼ばれる一角、その物陰から女の様な声が響き、そして三体の影が現れた。
「またハニーか」
「それも女性の……確か、ハニ子だっけ。後ろのは――」
ガルティアが菓子を口に含みながら言うと、ハンティがそれを補足する。
しかし、前に進み出てきたピンク色のハニーは、ハニーの女性種族、ハニ子であることは解っても、背後の二体については知識がない様で、言葉を迷わせる。
その迷いを察知したのか、ハニ子はこちらの前まで来ると、礼をするように身体を反らして挨拶をした。
「ふふ、申し遅れました魔王様。そして魔人の方々。私はハニ子。そして後ろのは――」
「ヒュー、お初にお目にかかります」
「ドロドロー、お初にお目にかかります」
ハニ子が二体を紹介しようとすると、二体はそれに先んじて声を上げた。その姿は、
……ゴーストハニー?
スラルの知識をして、断定出来ない存在。文献でしか見たことがないそのハニーを見る。
こちらから見て右側、宙に浮く赤黒い身体のハニーがそこにいる。
左側には青白い身体のハニー。そのどちらも身体はところどころヒビが入り、また欠けており、その様相は少し不気味だ。
そして額の部分に三角頭巾を巻いた二体のハニーは、こちらに一礼すると同時の声で、
「私は、ますぞえ様の第一使徒であるブラッドであります!」
「私は、ますぞえ様の第一使徒であるピットでございます!」
「…………」
言った言葉に皆が沈黙。使徒、という言葉に多少の意外はあるも、それよりも彼らがお互いに向き合い、
「こらピット。魔王様を困惑させる気かい? 第一使徒は私だろう?」
「そちらこそ何を言っているのかなブラッド。第一使徒は私だろう?」
「どちらが第一使徒ですの?」
キャロルが首を傾げて聞く。すると二体の使徒が己を指差し、
「この溢れんばかりのイケメンの私が第一使徒で――」
「この溢れ出すダンディズムの私が第一使徒で――」
そして相手を指して、
「こっちのブサイクが第二使徒だ」
「こっちのブサメンが第二使徒だ」
言葉にお互いが顔を見合わせる。そして、
「割れろブラッド!」
「くたばれピット!」
お互いで殴り合いを始めた。それを見ていたハニ子が、うふ、と笑い、
「この二人はいつもこうなのでお気になさらずに」
「あ、うん……」
何とも言えない気分で頷く。まさか身体に傷があるのはその喧嘩の所為だろうかと、くだらない説が頭に浮かぶが、それを直ぐに打ち消す。考える時間が無駄だ。
それよりも、
「貴方達はあのますぞえに仕えている……ってことでいいの?」
前方で始まった戦いを横目に聞く。すると同じく、身体を半身にして同じ方を向いたハニ子が、
「そのような感じです。――あら、ますぞえ様ったら、あんなにはしゃいで……今日は機嫌が良かったのに……」
「……あのますぞえって喋るの?」
意思疎通が取れていそうなハニ子にそれを尋ねる。どうにも意思が希薄に感じられたからだ。
その質問に、ハニ子は首――というか身体を少し下に反らし、
「全く喋りませんが、私だけは何となく言ってることが分かります。他のハニー達は何も感じ取れないのですが……うふふ、私がいると嬉しそうにするんですよ?」
「そ、そうなんだ……」
やはりハニーにも男女の機微があるのだろう。あまり興味はないが。
それに機嫌が良さそうにも見えない。悪いのかも解らない。どうにも読めない魔人だが、その強さは、
……ハニーって面倒なのよね。魔法効かないし……。
ハニーの魔人。ますぞえの強さは、魔人の中でもかなり上位だろう、とスラルは見立てる。
特に魔法を主軸に戦うものでは、勝ち目は薄いのではないだろうか。ハニーが持つ“絶対魔法防御”特性は、あらゆる魔法を、その極端に高い魔法抵抗値で無効化してしまうものだ。
故に魔法使いにとっては天敵である。彼らを倒すには、必然的に物理攻撃に限られるが、
……それが魔人となると、結構厄介よね。
無論、魔王である自分やレオンハルトの様な上級魔人の身体能力があればどうにでもなるだろう。
魔人としての、何かがなければだが――
「あっ、ますぞえ様が攻撃に移りますね」
「!」
ハニ子の言葉の先、そちらでは確かに、魔法が本当に効かないのかの実験を終えたレオンハルトに向かって、ますぞえが力を溜めるように腰を落とした。身を低くし、そして身体を起こした瞬間、ますぞえの身体の中の光が増大した。
それはハニーという種における、最も有名かつ十八番ともいえる攻撃。それは、
「ハニーフラッシュ……!」
「うふ、いいえ魔王様。ますぞえフラッシュですわ。効果は一緒で、絶対命中の衝撃を放つものですが、その回数と――」
スラルの声に、ハニ子が訂正した。同時に眼前で、
「威力は、普通のハニーフラッシュとは比べ物になりませんから」
瞬間。
ますぞえのお腹の口から、M字状の光が、衝撃となって射出された。
奈落と呼ばれる地下空間。
人間の魔人、レオンハルトが、ハニーの魔人、ますぞえとの戦闘を行なっている。
そしてM字状の光の衝撃に対して、レオンハルトは反応した。
……! そういや、ハニーフラッシュは魔法と同じだったな……!
魔法と同じ、絶対命中の攻撃。それだけではなく、ハニーフラッシュはどんなに堅い相手にも、必ずダメージを負わせる技としても有名だ。
しかしそんな技も、魔人にとっては障害にならない。普通のハニーであれば、ダメージは微々たるものだし、大抵はその前に倒せるだろう。
だが目の前に来たそれは、魔人の力によるものだ。当然、威力はその比ではないだろうが、
「――いいぜ! 食らってやるッ!!」
躱せない。そして魔法と違い、弾くことも斬ることも出来ない。
それなら受ける覚悟を決めるのみだ。ダメージは食らうだろう。
だが、と。レオンハルトはそこで剣を振るい、
「そっちにも食らってもらうぜ……!」
「…………!」
言って剣を横薙ぎに振るった。
それは斬撃であり、風を斬り、宙を往くものだ。飛来する見えない刃と、光の衝撃が交差する。
瞬間。
「グ……ッ!」
「…………!」
お互いは、相手の力によって吹き飛ばされた。
「相変わらず容赦ねえなあ……相手が脆くて真っ二つになったらどうすんだ?」
そのレオンハルトが取った行動を、ガルティアは堅焼きのせんべいを食べながら確認した。
それは単純明快だ。
攻撃を躱せない、食らうと判断した時点で、防御や受け身ではなく、食らいながらの攻撃を選択する。ただ食らって吹き飛ぶよりはマシという判断だろう。
理解はある。ガルティアとて戦士だ。その判断とて行う時は行うだろう。
しかし、未知の攻撃に対し、それを瞬時に選択するのは、
……戦闘狂だからだよなあ。
同じ戦士であるからこそ、その選択の難しさが理解る。その異常さも。
普通、戦いというのは、自分が殺されないように相手を殺すものだ。色々と条件や己の持つ力によって戦い方は変わるだろうが、究極、その条件だけは前提としてある。
故に防御というのは重要だ。躱すことも含めて、相手の攻撃を食らわないことは、遠からず己の勝利に繋がる。
何しろ戦いが長引けば、体力は減っていくし、傷を負えば、痛みで集中は途切れやすくなる。血を流せばさらに削られていき、どんどんと不利になっていくのだ。
こちらの攻撃を通しながら、なおかつ相手の攻撃は通させない。それが基本となる。
しかし、レオンハルトの様な戦闘狂にとって、その判断基準は若干狂う。何故なら、彼にとって戦いや傷とは、
……愉しみそのものと、愉しみを増やす為のスパイス……ってところか。
そのことを思い、ガルティアは笑う。相変わらず変態だなあ、と。
普通、傷を負うことは嫌がるものだ。未知の攻撃であれば、食らってしまうと理解しても、それをどうにか軽減させようと防御を試みたり、受け身を考える。攻撃を受けることを直ぐ様許容し、相手に傷を負わせることを優先するのは、もうそれは変態だろう。合理的な判断だといわれればそれまでだが、その割り切りが、常人には中々どうして難しい。
生き残ることを優先しがちだからな、と理解する。それも正しい判断なのだ。
なにせ常人はそうせねば死ぬ。痛い目にあって敗北する。
だが、レオンハルトの様な戦いのことばかり考えている奴らは、そういった判断をした上で、それを対処し、最終的には、
……生き延びて、勝ちを拾っちまうんだよなあ……。
そこが戦闘狂たる所以だと思う。故に、そうでないものが勝ちを拾うのは苦労させられる。価値観が違うし、戦いに費やす時間が違うからだ。
レオンハルトも、趣味を増やしたり、仕事に没頭したりと、色々と考えているのだが、性根のところで、戦いを愉しむ部分は変わらないのだろう。
……さて、見立てではどう考えてもレオンハルトだが――。
お互いに吹き飛ばされ、再度立ち上がる魔人二人を見て、ガルティアはそれを肴にお菓子を食べる。完全に観戦しちまってるな、と感じながら、
「止めるなら、早めに止めたほうがいいと思うけどな……」
一応、危惧することを呟きながら、戦闘の再開を見た。
吹き飛ばされたレオンハルトは、壁に激突しながらも、直ぐに立ち上がって相手を確認した。
腹の方に、鈍い痛みがある。あの光を喰らった結果だ。それも一発だけじゃなく三発ほど。
連続で撃てるのは反則だよなぁ、と思いつつ、
「それじゃ、こっちもやらせてもらうぜ!」
「…………!」
煙が晴れ、胸に多少の傷を作ったますぞえがこちらに駆けてくる。やはりまだ戦えるか、と喜びを感じながら、
「これは耐えられるか?」
剣を振る。その動きは一刀でありながら、二刀。一刀の軌跡でありながら二刀目が同時に振るわれる奇跡の剣撃。
それを両側から重ねるように、レオンハルトは剣を振った。
「…………!?」
ますぞえが、驚いたような気配を見せる。表情は動かず、声も出ていないがそんな雰囲気があるのだ。
一刀目は右手の螺旋状の槍で防ぐことに成功するも、二刀目は防げない。故に出来たのは、身体を捩りながら斬撃を浅く済ませようとするのみだが、
「ハハッ、どうした! 逃げるだけかよ!?」
守勢に回るというならこちらも攻めさせてもらう。
連続での剣の振りを、上下左右、様々な角度から撃ち込んだ。
「…………!」
「オラオラどうしたッ! やりかえしてみろよ!」
槍で何とかガードを行うますぞえだが、捌ききれない剣が、身体に傷を負わせる。思うのは、
……こいつの身体、意外と硬いじゃねぇか……!
剣の先から伝わる手応えは、少し鈍く、抵抗感が感じられるものだ。
ハニーの身体であるなら、その肉体は陶器のもので、弾力があって割れやすいもの。
しかしそれを何倍にも硬くし、弾力を強くした肉体は、やはり魔人というだけはあるものだ。弱点といわれる打撃であっても、これだと苦労するだろう。
だがこちらは剣士。斬撃が主体だ。相性は悪くない。
まぁ、それもどうでもいいことだが、と、レオンハルトは再びの同時斬撃を行おうとした。
「おら、もう一度行くぞ……!」
「…………!」
と、こちらが動きを見せた瞬間、相手も動きを見せた。
それは、ハニーフラッシュとは違う、右手を使った別の光のものだった。
すると不意に、
「!?」
身体が重くなり、剣を振る腕が止まった。
……何だ!?
同時斬撃が放てない。いや、放とうとすることが出来ない。
理解不能の何かをされた。そんな認識を覚えた瞬間だ。
「…………!」
前から動きが来た。
剣を振るえないこちらの隙を付いて、ますぞえが右手の槍を振り下ろしてきたのだ。
「! 急に動きが止まった……?」
ケッセルリンクは、レオンハルトの動きを見てそう口にした。
前方、攻勢に回っていた筈の彼の動きが、不意に停止したのだ。
しかし、身体そのものは止まっていない。彼の動きは健在だ。
その現象は、まるで、
「何かをしようとして止められた……?」
「うふふ、その通りです」
こちらの言った言葉に、ハニ子の応える声が来た。
ケッセルリンクは、戦闘から目を離さないままに、正面のハニ子に疑問をぶつけた。
「その通りとは?」
「はい、あれはますぞえ様が使う、“差し押さえ”という技です。その効果は、相手が使える技や魔法、スキル、行動を一時的に封印するもの」
「……なら、あれは――」
はい、とハニ子が頷いた。
「おそらく、何かをしようとして、その行動を“差し押さえ”られたのでしょう。ふふ、流石はますぞえ様です」
……ふざけた事しやがる……!
レオンハルトは、ますぞえの槍の一撃を咄嗟に防御しながら、内心で悪態をついた。
こちらの同時斬撃が放てない。おそらくは何かされたのだろう。直前の光が怪しい。
しかし理解していてもどうすることも出来ない、幸いにも他の行動が取れたことで防御はできたが、
「……っ、面倒な位置に……!」
「…………!」
咄嗟の防御の結果を見る。
こちらの魔剣が、相手の螺旋状の槍、その斜めから挟まるように突き抜けている。
それを力で抑えられ、剣を動かすことが出来ない。
だが、それを見たレオンハルトは一瞬で行動の判断を下す。絡め取られた形の剣を、
「ハハッ、そんなんで俺を抑えられると思うんじゃねぇぞ!」
「…………!?」
躊躇なく手放した。そのまま跳躍し、ますぞえの顔面目掛けて、
「食らっとけ!」
力を込めた蹴りを、横っ面にお見舞いした。
「…………!」
衝撃を受けたますぞえの身体が揺らぐ。そして宙から落下する間に、
「来い!」
螺旋の槍に抑え込まれた筈のオル=フェイルを手元に戻す。手元を離れて勝手に戻ってくる魔剣の特性を利用した形だ。
……無防備な身体に、一撃刻んでやる……!
故にそのまま、空いた身体に剣を振り下ろしてやろうと、その準備を終えた時。
不意にそれを見た。
「――あ?」
衝撃を受けて、揺らいだますぞえの身体。その上半身から生えている小さなハニーの物体がぼとぼとと剥がれ落ちる。
その物体は全て、爆発物で有名な“ぷちハニー”であり、
「……ッ!」
「…………!」
火薬の破裂。その轟音が奈落に鳴り響く。
宙で身動き出来ないレオンハルトは、地面に落ちた大量のぷちハニーの爆発に、ますぞえとともに巻き込まれたのだ。
大量のぷちハニーが弾け飛び、轟音とともに周囲が一瞬明るくなる。
レオンハルトとますぞえが、黒煙に飲み込まれたのを見て、スラルが叫んだ。
「レオンハルト……!?」
「た、大量のぷちハニー?」
ハンティが引き攣った顔で疑問の言葉を投げる。
すると、喧嘩から立ち直った二人の使徒、ブラッドとピットが向き直ってきた。
「ええ、ますぞえ様の身体から生えてくるあれは、全部ぷちハニーであります」
「ええ、ぷちハニーというのは、ますぞえ様の身体からしか生えてきません」
「えぇ……それじゃ、世間に出回るぷちハニーは……」
はい、と頷いた言葉と、それに続く言葉は二体同時のものだった。
「――私達が世間に卸しています」
「あんたらの仕業か!?」
「いやはや……ますぞえ様の身体から生えてくるものもぎもぎして売るだけで、結構な収入でしてね? 金のなる木を手にした気分ですよ、はははっ」
「恐縮です……最初は出来心だったのですが、結構需要もあってお金になるので定期的に売ってしまおうかと。さすがはますぞえ様です。これからもついていきます……!」
「あんたらそれでも使徒かっ!?」
言わざるを得ない。おおよそ使徒らしからぬ行動を許されてるハンティであっても、主の身体から生えたものを売って収入を得るのはどうかと思う。
というか、ぷちハニーが魔人の身体から生まれたものというのは、あまりにも衝撃の事実だ。頭が痛くなる。
そんな中、キャロルが前に出て、
「ということは、わたくしがいつも贔屓にしてる取引先の元締めですのね! いつもお世話になってますの! キャロルですわ!」
「おや、キャロル様でしたか。いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。こうして出会えたのも何かの縁。割引クーポンを差し上げます」
「ぷちハニー10個お買い上げ頂くごとに、一割の値下げとおまけに2個程付いてきます。大口取引先様限定のサービスですので、これからも何卒」
「超お得ですわ! この場で使いますの! とりあえず30個程!」
「では、今から収穫してきますので、少々お待ちを……」
「この場で買うなあ――!!」
「始祖様、少し落ち着いて……」
平然と取引を始めた三体の使徒を、息を切らしながらも何とかとっちめる。残念そうに肩を落とすキャロルや、舌打ちする埴輪使徒が煩わしい。
そんな中、ガルティアが軽い調子で言った。
「つうかレオンハルト、大丈夫なのか?」
と、同時。
煙が晴れ、そこには、
「――ク、クク……」
黒ずみながらも、赤い瞳を爛々に輝かせ、笑みを深くするレオンハルトがいた。
その変容に、思い当たる一行は、あ、と声を上げ、
……まったく。
よくそれを目にする機会のあるハンティは、頭を掻きながら、
「あ、あー……あれ、
「……レオンハルト!」
その視線を受けたスラルが、彼に向かって叫んだ。
「ハハッ――」
魔人レオンハルトは、大量のぷちハニーの衝撃を受けながらも、その場にしっかりと立っていた。
感じるのは喜悦。湧き上がる衝動。身体がぞくぞくと震える。
左手で前髪を掻き上げながら、
「なるほどな………大した能力だ。引き出しの多さも面白れぇ……!」
思う言葉は口に出る。
相手の能力は多彩。ハニー特有の絶対魔法防御。回避不能、絶対に攻撃が通るハニーフラッシュ。身体から生えてくる大量のぷちハニーは、迂闊に攻撃出来ない厄介さがある。
「身体能力も良い……身体は硬ぇし、パワーは予想以上だ。それでいて鈍くねぇし、技術だってある……」
手加減していたとはいえ、容易に剣を通さない肉体はよく出来ている。力はこちらに拮抗する程。
加えてあの螺旋の槍も中々に面白い。
「お前になら……試してもいいかもな……?」
右手に持った魔剣オル=フェイルを強く握り、疑問を飛ばす。
実力は上級魔人として申し分ない。故に、
「なあ、オル=フェイル……?」
自らの持つ魔剣に力を込め、語り掛ける。当然、返答はない。
しかし、何となくだが、剣も応えてくれる気がした。
その力を引き出す為にも、
「ハハ、なら――」
レオンハルトは構えを取り、本気を出す。
身体から上級魔人としての闘気と、達人としての剣気が混ざりあった赤黒いオーラが迸る。
それを全て、眼前の魔人――戦闘態勢に入ったますぞえにぶつけるように、
「ここからは本気だ……クク、精々愉しませてくれよなぁッ!!」
「…………!」
と、剣を振り上げた。
叫ぶのは、心に浮かんだ、力の言葉だ。
その予兆を感じ取り、魔剣の刀身が煌めき、
「――――」
言葉を口にしようとした、その時。
背後から、力を持った大声が飛んだ。
「こらあ――! いい加減、戦いをやめなさいっ!!」
「ッ!? スラ――っ!」
「!」
声を上げることは出来なかった。
その前に、身体に強制的な力が加わったからだ。スラルの言葉を聞いた途端、それが来た。その正体を、レオンハルトは、当然の如く知っている。
……絶対命令権か……!
魔王が持つ、魔人への強権。命令を強制的に従わせるその力を使われたのだ。
それを使われるのは二回目だが、この感覚は憶えている。
同時に、熱くなっていた頭が、だんたんと冷静になってきたところで、
「……レオンハルトー?」
「っ!? あ、す、スラル……!」
眼の前に、スラルが立っていた。笑顔を浮かべている。
しかし、その全身からは、怒気が立ち昇っており、
「ねぇ、レオンハルト……?」
「あ、ああ……な、何だ……?」
声が思わず震えた。
それはスラルの怒りと、その怒りの原因を頭で飲み込めてきたからだ。冷静な頭が、先程までの自分の行動を客観視して、何をしようとしていたかを理解する。
そして、理解したからこそ、レオンハルトは声を上げた。
「い、いや、その……ちゃんと手加減するつもりで――」
「――正座」
「あ、いや……だから――」
「正座!!」
「は、はっ!!」
「…………」
スラルの一喝に、膝を叩きつける勢いで正座の体勢を取る。
絶対命令権なのだろうか、隣では、ついさっきまで戦っていたますぞえまでも同じ様に正座していた。
それを目にしたスラルは、腕を組んで、こちらを見下すと、
「……レオンハルト。レオンハルトは何でいつも――」
と、説教を始めた。
……ああ、これ、長くなるな……。
自分が問題を起こした時の、いつものパターンとなったことで、レオンハルトはようやく、自分のしでかしたことを反省するのだった。
スラル「今回はますぞえの使徒が出てきたわね」
ガルティア「おお、設定だけの奴らな」
ケッセルリンク「原作だと全く出番のない名前だけの者は、意外と多いからな……」
ハンティ「使われてない設定も意外とあるよね……」
キャロル「致し方ありませんわ。そういったキャラが出る時は、大体独自の性格をしていますが、ご了承をお願いしますの。歴史上の人物は大体そうですし……」
レオンハルト「後に出てくるホーネットの使徒なんて沢山いるのに、何も解かんねぇからな……キャラが想像しにくい」
ラウネア「…………(そういえば、何気なく出てるけど、ハニ子っていつから――というかハニーって寿命どのくらいなのかな……)」