※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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魔軍参謀と魔王の料理

 ――決闘の翌日。

 

 魔王城の片隅では異常な光景が見られた。

 

「お、おい……あれ……」

 

「しっ! 馬鹿見るな! 殺されるぞ……!」

 

 それを見かけた魔物達は足早にそこから立ち去るか、遠巻きに様子を伺うかの二択。

 何故なら彼らの視線の先では、二体の魔人が顔を突き合わせていたからだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 魔人カミーラと魔人レオンハルト――二人の魔人四天王がそこにいた。

 お互いに視線を交えたまま無言で微動だにしない。いったいどうしたのだろうか。

 様子を伺う魔物隊長だったが、はっ、と気づいたように最悪の考えが心に浮かぶ。

 

「まさかレオンハルト様……カミーラ様まで斬り殺すつもりじゃ……」

 

「ええっ!? いや、そんなまさか……」

 

「ない、とは言い切れないだろう……? 先日の決闘での様子を見る限りでは、レオンハルト様は強い奴を斬るのがお好きみたいだからな……」

 

「……でも、流石にカミーラ様は無理、なんじゃないか? というかそれがマジならどうしようもないじゃねぇか。魔王様に報告するか?」

 

「いや、まだいいだろう。……もしお二方が戦い始めたら直ぐに逃げて報告しに行くべきだけどな」

 

 そんな魔物隊長らの会話が声を潜めて行われる。

 そして、件の魔人――レオンハルトは。

 

「…………」

 

 ――なんで俺の事ずっと見てんだ……?

 

 自分でも何故こんな状況になったか知らずにいた。

 

 

 

 数分前の事だ。

 疲労から回復して起床した後、俺はスラルに連れられて自分の部屋に案内された。

 中々に豪勢な造りの部屋で俺には持て余しそうであったが、魔人四天王専用の部屋らしい。

 

 そしてその際にしばらく待機、二時間後に部屋に来るようスラルに命令された。

 なので部屋の設備を確認したり、軽く身体を動かしたりして時間を潰した。

 約束の十五分前。俺はスラルの部屋に向かう為に部屋を出た。

 すると、隣から同じようにドアを開ける音が。誰かと思ってそちらを向いてみれば――

 

 そこには俺と同じ魔人四天王――カミーラが部屋から出てくるところだった。

 

「――――」

 

「――――」

 

 ピタリ、とお互いに動きが止まる。その顔には疑問がありありと見て取れた。俺も多分似たような表情をしているだろう。

 ……だがよく考えれば当然の話だ。先程スラルが、ここの部屋は魔人四天王専用の部屋だと言っていたのを思い出す。

 ならば、隣の部屋は当然カミーラしかいない。

 やがて向こうも同じ結論に至ったのか、少し気を取り直して外に出るとドアをガチャリと閉める。

 

 しかし何故かカミーラのその視線は俺を捉えたまま離さなかった。ここで俺が直ぐに――あっ、こんちはー! 今日からお隣に住むことになったレオンハルトですー。同じ魔人四天王としてよろしくおねがいしますねー、ではまた――と軽く自然に立ち去っていれば何も問題は無かっただろう。何か用でもあるのか? と、視線を合わせたまま相手の言葉を待ってみたのが間違いだった。

 

 それから数分の間ずっとこの状態。いつの間にか周りには魔物隊長や魔物将軍が遠巻きにこちらを見ている気配がする。

 いい加減に立ち去りたい。というか何でこんなメンチ切られてんだ? 特に理由は思いつかな――って、あっ。

 そういえば、昨日俺が殺した魔人はカミーラと同じドラゴンだった。

 

 ……もしやそれか?

 つまりカミーラは、よくもウチのドラゴンに手を出してくれたな? この落とし前はただじゃすまないぞ? と威嚇しているのか?

 だからこの視線か。確かに同族がやられたのなら怒るのは当然だろう。カミーラ姉さん怖いです。

 

 この状況を打破するにはどうすればいいんだ?

 

 ……謝るか?

 

 謝ったところで許してくれるかは知らんが、未だ威嚇で済ませてくれるあたりこちらの誠意ある対応を求めているのだろう。

 そう考えればこの沈黙も納得だ。被害者側が加害者に抗議してから謝るようでは反省しているとは言い難い。これは全面的に俺が悪い。

 それに出来る事ならばこれから少ない同族であり同僚になるカミーラとは、友好的とまではいかずとも普通に話せるくらいの関係になっておかねば居心地が悪い。

 ならばやることは一つ。大分時間を取らせた。俺は早速、ゆっくりと頭を下げた。

 

「……ふん……借り――」

 

「――悪かったな」

 

「を…………なに……?」

 

 何か言おうとしていた所だったようで被ってしまう。重ね重ね申し訳ない。俺は頭を一度上げて言葉を続ける。

 

「お前の同胞を殺しちまって悪かった。幾ら決闘とはいえやりすぎた。――本当にすまない」

 

「…………!」

 

 そして再度、頭を下げる。

 しかしカミーラは謝っても何も反応を返さず、何故か固まったままのようだった。やっぱり怒って――

 

「……くくっ」

 

 突如、頭上から声が聞こえた。笑ってる、のか?

 

「……くっ……ふぅ……頭を……上げるが良い」

 

「……! ああ……」

 

 最後に息を漏らすとカミーラは俺に頭を上げるように言う。何だったんだ今の笑いは。

 そして再び能面のような無表情に戻ったカミーラは俺を見据えて口を開いた。

 

「……貸しだ」

 

「貸し……?」

 

「そうだ……悪いと思ってるんだろう……? なら私の命令は聞けるな……?」

 

「! あ、ああ……! 勿論だ」

 

 俺はカミーラの問いかけに強く頷いた。

 

「ならいい……何かあれば呼ぶ……」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「私はもう行く……」

 

「ああ。本当に悪かったな」

 

「悪いと思ってるなら逆らおう等とは考えるな……悪いと思ってるなら、な……くくくっ……」

 

 そう言ってカミーラは含み笑いを続けたまま廊下の先に消えていった。

 

「……何だったんだ……?」

 

「カカカ、カミーラさんが笑った……」

 

「……あ?」

 

 気づけば近くになんか毛玉のような物体がいた。

 こいつ、いつからここにいた? カミーラの存在感が強すぎたのか、立ち去っていくまで気配が薄すぎて気づかなかった。

 

「ヒィ!? ごごごめんなさいっ!」

 

「……いや、別にいいが。お前は?」

 

 こんな弱そうな魔物も魔軍では働かされているのか? 流石に可哀想な気もするが。

 そんな事を考えていたら毛玉が自己紹介をし始めた。

 

「僕はケイブリスと言いましてですね……魔軍参謀で魔人四天王にもなられたレオンハルト様に挨拶をと思いまして、はい」

 

「そうかケイブリス――ケイブリス?」

 

 こいつケイブリスって言ったか?

 ……ケイブリスって、あのケイブリスだよな?

 俺は目の前の毛玉に目と口と手足を付けたような生き物をじっと見る。

 

「あああ、あの、何か粗相をしてしまいましたか……?」

 

 俺に視線を浴びせられたケイブリスと名乗る毛玉は怯えたように俺の様子を伺っていた。

 俺は思い出す。いや、イメージが強すぎて前世の記憶を思い出そうとしなければ思い出せない俺でもこいつの事は憶えている。この毛玉は魔人の中でも特に印象深い存在。

 

 ――最強の魔人、ケイブリス。

 魔人の中で最も強大な存在である魔人――の筈だ。

 ……そういえば、ケイブリスは昔は弱かったんだっけか?

 …………俺は流石に悩む。こいつはここで殺しておくべきか?

 このケイブリスの所為で未来の人類はめちゃくちゃ苦労させられた筈だ。こいつを殺しておけば色々と問題は解消されるのでは?

 

 いや、本来なら未来の事を憂うなんてやりたくないんだがな。未来に何があろうと俺の人生だ。多少情報を利用するならともかく、ここをこうすれば未来が変わる、なんて面倒な事はまっぴらごめんだ。

 そんな俺でも迷ってしまう程の重要人物。

 

 ――と、そこまで考え俺はふっと気を抜いた。

 

「……いや、別に何でも無い。ケイブリスだな。同じ魔人同士よろしく頼む」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 未来で酷い事をしたのかもしれないが、必ずしもそうなるとも限らない。

 今のこいつが俺に何かしたわけではないのだし、普通に仲良くしてやるのがいいだろう。

 

「そんなに畏まらなくてもいいからな? 俺は魔人四天王かも知れないが新参者だし」

 

「いえいえ! 実は僕、昨日の決闘を見てレオンハルト様のファンになりました! なので何かあれば仰ってください! 出来る限りは努力します!」

 

「あ、ああ。そうなのか」

 

「何か欲しいものはありますか? あっ、人間の女くらいなら僕でも攫ってこれますよ! へへへっ……!」

 

「……いや、今はいい」

 

 …………いや、こいつ……媚びへつらいすぎだろ……。

 集落の王だった時でもここまでへりくだる奴はいなかったぞ。

 

「あー……とりあえず今はスラル……魔王様に呼ばれてるからまた今度でいいか?」

 

「あっ……そ、そうだったんですね。えへへ……す、すみませんでした」

 

「おう……じゃあな」

 

「はい! 何かあればレオンハルト様のファンである僕をよろしくお願いします!」

 

 ……スラルの所行くまでに、大分精神消費したな。

 前途多難もいいところだ、と俺は改めてスラルの部屋に向かった。

 俺が立ち去る姿をケイブリスは小さい体で跳ねながら見送ってきていた。

 

 

 

 

 

「――遅い!」

 

「悪かったよ……」

 

 スラルの部屋に着くと、スラルは腰に両手を当てて怒っていた。

 俺は早々に遅刻を注意されてしまう。

 

「時間は守るのが普通でしょ! というより貴方は二時間前に約束した事も守れないの!?」

 

「う、ぐ……」

 

 今の言葉は心にぐさりときた。

 俺だって好きで遅刻した訳じゃねぇよ……。

 そう言いたいが、途中で他の魔人に会って話していたから遅れた、なんてくそみたいな言い訳、俺はしたくない。

 もっと早くに部屋を出とけって話だ。

 

「わ、悪かった……確かにこれは俺が悪い」

 

「む……」

 

 俺がスラルに頭を下げて謝ると、スラルは少しバツが悪そうにする。

 

「……もう。そんな普通に謝られると怒るに怒れないじゃない」

 

「……いや、そうかもしれないが俺が悪いしなぁ」

 

「あー、もう! そういう暗くなるの禁止! せっかくの歓迎会なんだから!」

 

「…………歓迎会?」

 

 疑問符を浮かべるように、ん? と首を傾げると、スラルは少し顔を背けながら説明してくれた。

 

「そうよ。貴方が魔人四天王、魔軍参謀に就任したし……それも兼ねての歓迎会よ」

 

「それは――」

 

 流石にそれは予想していなかった。決闘の後に一応労ってくれたしあれで終わりかと。

 というか魔王が魔人の為に歓迎会を開くなんて想像がつかない。その字面だけ見ると髑髏の盃でも持ち出しそうだ。

 

「あ、一応仕事の説明もあるけど……そっちはついでだから」

 

「あ? 仕事の説明? それってあれの事か?」

 

「そう――魔軍参謀としてのお仕事」

 

 ――それは決闘が終わった後の事。

 

 魔王スラルは魔軍の幹部である魔物将軍や魔物隊長を集めて通達した。

 

 ――魔軍全体の指揮と戦略、作戦立案を行う魔人を就ける。

 

 それが魔軍参謀だと魔王は言った。

 現在、魔軍の指揮系統はトップに魔王。その下に魔人とその使徒。その下に魔物将軍、魔物隊長、魔物兵となっている。

 だが実際にはこれは階級順であり、指揮系統が上手く機能しているとは言い難い。

 魔人は基本的にその個による強大な戦力が強みだ。その反面、軍の指揮は魔物将軍に劣る。

 そして何よりの問題は、魔人に魔物将軍が振り回されることにある。魔人には我が強い者が多い。魔物将軍に基本は任せていても、その提案を聞かないことも多い。

 魔物将軍も魔人には逆らえないし、天地がひっくり返っても命令することは出来ない。

 

 それなら同じ魔人――それも魔王直属の強い魔人に命令させればいいとスラルは考えた。

 魔王に逆らえないのは当たり前だが、それは階級の高い上級魔人――魔人筆頭や魔人四天王には同じ魔人でも差が生じる。

 例え渋々ではあっても命令は聞くだろうし、少なくとも魔物将軍が全てを動かそうとするよりはマシだ。

 なので魔軍参謀は魔人四天王や魔人筆頭を兼任――もしくはそれに準ずる強さを持つ魔人に務めさせる。

 魔人筆頭が魔人の代表のまとめ役で、魔人四天王が強さを基準にした幹部なら、魔軍参謀は魔軍全体のまとめ役であり魔人との折衝役。

 魔軍をこれまで以上に円滑に動かす為の職である。

 

「――めちゃくちゃ面倒そうだな」

 

「文句言わない。実際の仕事量はそんなに変わらないんだから。命令を沢山するってだけよ」

 

 言われてみればそうかもしれない。色々と小難しいが、要は偉い称号で魔人や魔軍に命令出来るってだけだ。

 だが、それは俺が無能ならめちゃくちゃになったりしないか?

 俺自身の失敗は全体の失敗に繋がりやすい。責任重大な職務だ。

 

「……考えるとやっぱ楽ではなさそうだな」

 

「う、そんな事はないと思うけど……」

 

 おい、なら俺の目を見て話せ。ひゅーひゅー息吐きやがって。口笛鳴らせてねぇぞ。

 視線を逸らして誤魔化そうとするスラルに俺は嘆息すると気持ちを切り替える。

 ま、規模がでかくなっただけでやることは人間の時と変わんねぇしな。

 俺はスラルの背後にある物に視線を向ける、とそれを指差して尋ねた。

 

「……それはもういい。それよりその後ろにあるものは、ひょっとして準備してたのか?」

 

「! ふふっ、気づいた? それじゃあ仕事の話は後にして――」

 

 スラルは少し下がるとテーブルの上に並べられた物をじゃん!と手を広げて紹介した。

 

「どう? 手料理を作ったわ!」

 

「いやまぁ、部屋に入ってきた時からチラチラ見えてたけどな……」

 

「――っっっ! そこは気にしないで……!」

 

 無理やりテンションを上げて恥ずかしかったのか、スラルの白い頬が少し赤くなる。恥ずかしがるくらいならやんなきゃいいのによ。

 

「でも、確かにこれはちょっといいな」

 

「! でしょう?」

 

「ああ、手料理なんて久しぶりだ」

 

 テーブルに所狭しと置かれた料理の数々は、どれもこれも美味しそうな匂いを漂わせている。

 

「オムライスにハンバーグに……おっ、へんでろぱ、それにこっちは俺の故郷の名物、焼き肉そうめんじゃねぇか」

 

「ん、一生懸命調べて作ったから……」

 

 なるほどな。これを作って待ってたのなら遅れた事を怒るのも無理はない。冷めたら美味しさも半減だ。正直、かなり嬉しい。手料理なんて食べたのは本当にガキの頃以来だ。

 魔王と手料理ってかなりミスマッチだが――いや、そういうのはいい。そんな無粋な事を考えるのは失礼だ。

 俺はスラルに向き直る。

 

「……あー、その……ありがとな?」

 

「む……別に大したことないけど?」

 

「いや、それでもだよ。どれも美味そうだな……食べてもいいか?」

 

 俺は近くにあったへんでろぱを食器と共に手に取る。俺、こかとりすの肉が好きなんだよなぁ。唐揚げにしても美味いし。

 

「ん……ちゃんといただきますって言ったらいいわよ」

 

「ああ、それじゃ――いただきます」

 

 そう言って俺はへんでろぱを口にした。

 …………あれ? 何か味が――――がぁぁぁッッ!?

 

 ――――瞬間。

 

 身体の内側が弾け飛びそうな衝撃を味わった。

 熱い、熱い、熱い!!!

 身体が作り変えられるような痛みを味覚から感じる。ていうかこの感覚何処かで――ッ!?

 俺は次の瞬間、それを思い出した。

 これは、あれだ。そう、魔人化した時の――

 

 ――俺は再び、魔人化を経験していた。

 

「――どう? 美味しい?」

 

「――――あ?」

 

「あ? じゃなくて! 美味しかったの?」

 

「………………」

 

 スラルの言葉で我に返る。

 俺はへんでろぱを持ったまま恐る恐るスラルに聞いてみた。

 

「……まさかとは思うがお前、料理に自分の血とか入れてないだろうな……?」

 

「!? し、失礼ね! そんなの入れるわけないでしょ!?」

 

「だよな……」

 

 さっきのは何かの間違いか……? と匂いを嗅いでみる。美味しそうなへんでろぱの匂いだ。

 一度へんでろぱを置き、今度は焼き肉そうめんを手に取る。

 香ばしい匂いが食欲を唆る。俺の故郷の料理で好物の一つだ。

 そしてゆっくりとそれを口に運ぶと。

 

「――――ッッッ!!??」

 

 今度はもっとダイレクトに衝撃が来た。

 ああ――身体が痛くて熱い。

 

 ――俺は三度目の魔人化を幻視した。

 

「なに? どうしたの?」

 

 俺の様子を不審に思ったスラルが首を傾げている。

 俺は焼き肉そうめんをテーブルに置くと、スラルに向かって叫んだ。

 

「まっっっっっっっっずい!!!」

 

「――――え?」

 

 スラルが思わず間の抜けた顔になる。

 それにも構わず俺はまくし立てた。

 

「お前の料理はどうなってんだ!? 俺、既に魔人なのにまた魔人化したのかと思ったぞ! 本当に変な物入れてるんじゃねぇだろうな!?」

 

「な!? そんなわけないでしょ!? それにマズいなんて……!」

 

「……なら食ってみろ。お前が美味しいって言ったら俺は床に頭擦りつけて足でも何でも舐めてやる。……マズいというかもっと恐ろしい何かだった気がするがな」

 

「…………」

 

 スラルが俺の本気度を感じ取ったのか自分の手料理を見て冷や汗を垂らす。

 スラルはおそるおそる、ゆっくりとへんでろぱを口に運び――

 

「――――っっっ!!!」

 

 表情が固まった。言わんこっちゃねえ。

 俺はスラルの顔の前でひらひらと手を振ってやる。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「――――あ」

 

 どうやら気がついたようだ。

 

「あれ……私は魔王なのに、魔王になったわ……」

 

 わけがわからない事を言うスラル。俺の苦しみを知ったか。

 

「とりあえずこの料理は無しだ。いいな?」

 

「う、うん……」

 

 スラルはまだ少し混乱しているようで、料理をチラチラと見ては手を差し出したりしていた。悪い事は言わないからやめとけ。

 

「……多分、調理途中に何か変な物が入ったんだろ。今回のは事故だ」

 

「多分そうよね……うん、うん。わかった、次はちゃんと作るわ」

 

「………………………………………………………………ぁぁ」

 

「声が小さすぎる!? もっと期待して!」

 

 正直、恐れしかない。

 というか今回のこれが事故だったとしても、次で駄目だったら――

 ……考えるのはやめておこう。それが懸命だ。

 

「コックにでも何か作ってもらおう」

 

「しょうがないわね……」

 

「ああ、その間さっき言ってた仕事の話してくれよ」

 

「……ふぅ、そうね」

 

 スラルは部屋の外に控えている魔物隊長に料理を持ってくるように伝えると、気を取り直してベッドに腰掛けた。

 

「さっきは魔軍参謀としての仕事って言ったけど……今回はどちらかと言えば普通に魔人としてやることと大差ないわ」

 

「魔人として……人間でも襲うのか?」

 

「一応軍は率いてもらうけど……貴方の仕事は、とある人間の相手よ」

 

「――人間?」

 

 俺は訝しげに眉をひそめる。その人間はわざわざ魔人を充てがわないといけない程厄介なのか?

 

「その人間とその人間が率いる集落は、これまで魔軍が何度も撃退されてるの」

 

「へぇ……」

 

 どうにも身に覚えのある話だな。ひょっとして何処も同じようなものなのか?

 俺は他の人間の集落の話を殆ど知らない。そういうのは長老達の仕事だったしな。何にしても少し面白そうだ。

 

「それで魔人にその人間を倒してもらって制圧する作戦か? 別に俺じゃなくてもいい気もするが」

 

「……駄目。出来れば上位の魔人じゃないと」

 

「俺が上位の魔人かはさておくとして、それは何でだ? それなりに強い魔人はいるだろ? そいつらでも――」

 

「――――倒されたの」

 

「…………は?」

 

「魔軍と一緒に何体かの魔人を送り込んだけど、それすらもその人間に倒されたのよ」

 

「! それは……」

 

 何だその無茶苦茶な話は……。

 スラルはその名を、俺が戦うことになるであろう人間の名を告げた。

 

「その男の名前は――――ガルティア」

 

 ――――獣の王と呼ばれた人間よ。

 

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