後、10話って言ったけど10話で終われるかな……
魔物界。
大陸の北半分を主な領土とするそこに、一つの町があった。
そこは魔物が住む町だ。
しかし、大陸西側に見られるようなツリー都市、自然を利用した町ではなく、人工的な面影が垣間見える町だ。
実際に人間の国にある様々な建造物や美しい物、娯楽などを参考にして作られたその町は現在、魔物界一の人気スポットであり、多くの魔物がその町を一目見ようと訪れる観光都市にもなっていた。
この町は魔人筆頭である魔人、レオンハルトが作らせたことから“レオンハルト・シティ”と名付けられ、魔物達の憩いの場となっている。
そこを訪れる目的の一つに、“デート”があった。
お洒落かつ賑やか、そしてどことなくロマン溢れる町の造りは、女の子モンスターにも人気で、なおかつデートに最適の場所である。そのため、他の多くの男の子モンスターが、意中の女の子モンスターの求愛の為、もしくは出会いを求めて訪れるのだ。
この町が出来てから、魔物の繁殖率が増えていることからもその人気ぶりは窺える。
そんな中、
「――ふーん?」
「――へぇ……」
「――わぁ……!」
「…………」
この町の噂を耳にした、四体の女の子モンスターがいた。
彼女達は、それぞれ別々に町に到着すると、その外観と雰囲気を見て感嘆の息を漏らす。
そこにいるのは、全て魔物。で、あるのに、町の雰囲気に剣呑なものは皆無だ。
ここならば己の使命は果たせる――と思っているのは実は少なく、目的もバラバラな四体は、何はともあれその町に足を踏み入れた。
「……あー……生き返る……」
その日、魔人レオンハルトは魔軍の遠征を終えて、町を訪れていた。
目的地は大通りにある大浴場。そこを貸し切り状態にして、レオンハルトは一人ゆっくりと湯に浸かる。大きく息を漏らしながら声を出し、思うのは、
……こういう時間は、貴重だな……。
一人で風呂に入ることなど最近はほとんど無い為、余計にそう思ってしまう。
大体はスラルと一緒に入るか、キャロルが背中を流すだ何だと言って一緒に入ってくるかの二択だ。
別にそれも悪くはないのだが、たまにはこうして一人でゆっくりしたくなる。
故にこの大浴場を貸し切りにして、今はゆっくりと過ごしている。大浴場は町でも人気のスポットであるため、少し悪い気もするが、一時間足らずで出る上、町の名前に自分の名前を使うことを許可したのだから許してほしい。
と、言うのも、町の名前をどうするか、と部下に案を募らせた際に、満場一致でレオンハルトという名前が相応しいと言われた。かなり困惑し、有り体に言えば嫌だったのだが、部下は是非そうするべきと盛り上がっていた為、渋々認めてやった。自分の権威をひけらかす様であまり好きじゃないが、権威を高める手段としては有用である、と頭の中でメリットを弾き出してみたものの、別にこれ以上権力を高めてもしょうがない、というか既に魔人としては最高位の権力があるのだからあまり意味はない、と、そこまで考えたが、それを言い出すとせっかく納得し掛けていた自分の判断に疑問が生じる為、考えるのを止める。
溜息を漏らしながら、
「……ま、今更考えてもしょうがないな……」
決まったものはしょうがない。受け入れよう。
幸いにも、しばらくは大きな仕事はないだろうし、少なくとも今日一日はゆっくり出来る。
足を伸ばし、浴槽の縁にもたれかかりながら、
「それにしても……やっぱりいい湯だな……これは……」
「んゆ……いい湯……眠くなる……」
「ああ……気持ちよくて眠りたくなってくるな」
「……すぴー」
「おいこら、風呂の中で眠るな。溺れたらどうする――って」
そこで気づく。
隣に、見知らぬ金髪ツインテの女の子がいた。身長130センチほどの小さな体躯。子供の様な見た目のそれは、気持ちよさそうに風呂に浸かっており、
「……お前、誰だ?」
そもそも何処から入ってきた? と、聞く。するとその少女は、眠そうな表情のまま、
「んー……セラクロラス……」
「セラクロラス、か。気配からして人間じゃなさそうだが……女の子モンスターか?」
「そう……」
どうやら女の子モンスターが迷い込んできたらしい。しかし、
……こいつ、俺に気づかれず、ここまで侵入したのか? だとしたら大したもんだが……。
と、少し感心してしまう。風呂で気を抜いていたとはいえ、誰かが入ってきたのなら気配で察せられるし、そもそも入り口は魔物兵が見張っている。
……変異種か? それとも……。
このような女の子モンスターは見たことがない。ならば、レアな存在かと思案してみるも、
「……レオンハルト、元気……?」
「ん……? ああ、元気だが……それがどうした?」
よく分からない質問をされてしまう。それを聞いてどうするのか、と聞き返すも、
「んぁ……元気なら……いい……」
「……? よく分からない奴だな……」
だが、特に害は無さそうだ。精神も子供っぽい様だし放置でも構わないだろう。貸し切りを終えて、開放する際にでも外に出すか、入りたいのであれば入らせておけばいい。
と、思い、再び湯に肩を浸からせたのだが、
「ふにゃー……レオンハルトー……」
「……何だ?」
またしても話しかけてくる。一応、魔人だというのに微塵も怯えた様子が見えないのは肝が据わっているのだろうか、というか、
「……俺、名乗ったか?」
「……んゆ、前から、知ってる……」
「知ってる……ん、いや、そうか」
よく考えなくても、自分の名前は色々と有名だ。魔軍の中でもそうだし、人間の間でも知り渡っていると聞く。
ならば名前くらい知っていてもおかしくないか、と思ったところで、衝撃の発言が来た。それは、
「……子作り、する?」
「…………は?」
……子作り?
何だ、それは、と困惑する。いや、意味は当然分かる。分かるが、
「……俺とお前が?」
「ん……前も、してくれた」
「…………は、はぁ?」
前も、という言葉にさらに困惑を重ねる。当たり前だが見に覚えのない事である。
そもそも、と、セラクロラスの身体を見て検討する。
「……いや、入らないだろ」
「ふに、頑張ればいける……」
「んー……キツい気がするんだが……」
まじまじと観察しながら首を捻る。
普通に怪我しそうだが、身体が丈夫であればいけるのだろうか。女の子モンスターだと言うし。しかし、だ。
「……だめ?」
「駄目っていうかな。そもそも何でしたがるんだ?」
「……本能?」
「……本能?」
そっくりそのまま聞き返すと、セラクロラスは眠そうにしながらも頷き、
「んゆ、レオンハルトなら……元気な子供、生まれる……」
「その確信は一体どこから……」
と、そろそろ頭が痛くなってきた頃。
入り口の方から声が聞こえた。
「うわっ、何だお前!? 今はレオンハルト様の入浴中だぞ!!」
「大丈夫。確認したらすぐに帰るから」
「い、いやいやいや! 駄目に決まってるだろう!?」
「……? あ、そっか。お風呂なら服も脱がないと駄目ね。――よいしょっと」
「そういうことじゃ――って、いきなり脱ぐなあ――!? って、ああ、そっちは!!」
と、騒がしいやり取りが聞こえてくる。一方は魔物兵だが、もう一方は女の声であり、
「……お邪魔します」
「あ?」
と、声とともに、入り口が開けられ、外から女が入ってきた。
今度は、赤いロングヘアーの美人だ。長身で均整の取れた身体つきをしている。こっちの方が好みだな。
とか思っていると、視線がこちらを捉えた。
「――あ、セラ」
「んにゅ……べーちゃんだ……」
どうやら知り合いであるらしい。風呂に浸かったまま、彼女の姿を見て言うセラクロラス。その状態を見て、相手は真顔のまま、
「べー、と呼ぶのはやめてって言ってるでしょ。それと……こんなところで魔人と何をしてるの?」
「んー……子作り」
「してねぇよ!」
誤解を招きそうな言葉を即座に訂正する。
しかし、赤い髪の女は、軽く息を吐いて、
「魔人と、ねぇ……確かに魔人相手でも孕むでしょうけど、出来れば純粋な魔物相手の方が……」
「んゆ……でも、前は、出来た」
「……前って何だ、前って。やってねぇよ」
訂正する。しかし、女は、
「前……なるほど、そういうことね」
何か勝手に理解した様に頷くと、
「……作ったことないし、一回くらい試してみるのもありかしら」
「んゆ? ……べーもする……?」
「……とりあえず、今は保留で」
「……おい、何勝手に話を進めてる。知り合いならこいつ連れて帰れ。魔物兵には俺の知り合いだって言っとくからよ」
「べーも、一緒に入る……?」
「……そうね。せっかく来たし……」
「いや、帰れよ! 耳付いてんのか!?」
言うと、相手は首を傾げ、
「え、でも……ここは公衆浴場だって」
「今は、俺の貸し切りなんだよっ!」
「ふにゃ……でも、レオンハルトは、入っていいって……」
「言ってねぇよ!? さっきから捏造してんな!」
「……仲良さそうね」
「節穴ぁ!! どこを見てそう思うんだ、ああっ!?」
「にゅう……レオンハルト。髪、洗って」
「洗う前に入ったのかテメェ! くそっ、さっさとそこに座れ!!」
「……仲良いの?」
「良くねぇよ!!」
石鹸でわしゃわしゃと泡を立てながら、レオンハルトは浴場に声を響かせた。
「……聖女の子モンスター?」
「そう。私やセラはそういった存在なのよ」
「んにゅー……」
結局、再び浴槽に浸かりながら、レオンハルトはベゼルアイと名乗る女の話を聞いた。
それは、彼女達が“聖女の子モンスター”なる存在であるという話で、
「後二人……四体の聖女の子モンスターがいるんだけど、私達の使命は、まぁ、有り体に言えば生んで増やすことなの」
「……繁殖ってことか?」
「ただの繁殖じゃないわ。私達はあらゆる種族と交配して、新しいモンスターを生み出すことが出来るのよ」
「……なるほどな」
だから子作りだの何だのと言ってきたのか、と、得心する。
こちらが頷いたのを見て、ベゼルアイは言葉を続けた。
「因みに、さっきセラが言っていたことは、多分嘘じゃないわよ」
「? さっき言ってたこと?」
ええ、とベゼルアイは頷き、
「貴方と子作りしたこと」
「…………は?」
再度、思考が停止する。そんなこちらに構わず、ベゼルアイは、
「私達はそれぞれ、司る能力があるのだけど、セラクロラスの場合は“時”なの。時のセラクロラス」
「……時」
だから、と言うように、
「セラは未来や過去が曖昧なの。精神が行ったり来たりしているらしいから」
「……つまりそれは――」
こちらの言葉を代弁する様に、ベゼルアイが、
「多分、未来でそういうことをしてきたのよ」
「……………………マジか」
「マジよ」
躊躇なく、そんな未来を突きつけられ、頭を抱える。
……未来の俺は一体何をやってるんだ……ロリコンにでもなったのか……?
確かに、最近はスラルのおかげで小さいのも悪くないな、と思えてきたが、さすがにこれは小さすぎやしないだろうか。いくら何でも鬼畜過ぎる気がする。あ、でも頑張ればいけると言っていたのだから、身体は無事なのだろう。ならば問題ないのか。
「……いや、駄目だろう」
「別にいいと思うけど。こっちは生むのが仕事だし」
「にゅー……」
「……よくやったもんだな、未来の俺……」
まだ半信半疑ではあるが、本気でそう思う。
というか、いくらスラルから他の人とのそういったことが半ば許されたとはいえ、さすがにどうかと思う。こいつ連れてスラルのところに行き、こいつとヤったから、と言ったら、スラルどころかケッセルリンクからも愛想を尽かされそうな気がする。どれくらい未来なのか知らないが、よくスラルは許してくれたもんだ、と、ある意味で感心する。
だが、
「……とりあえず、それはいいとして……何でここに来た?」
「男を探すため」
また簡潔な返答が来た。実に分かりやすい。
「つまり……この町に出会いを求めてきたってことか?」
「そういうこと。……まぁ、そのついでに、他の三体の気配もしたから、久し振りに会っておこうと思って。気配を辿っていったら、ここだったのよ」
「なるほどな……って、他の二体もいるのか……」
そう考えると何だか嫌な予感がしてくるのはどうしてだろう。こいつらの滅茶苦茶っぷりを見た所為か。
と、そこで、何となく疑問が降って湧いた。それは、
「……因みに、お前はどんな能力を持ってるんだ?」
「力よ」
「力?」
「そのまんまよ。“力”のベゼルアイ。力には自信があるわ」
「……それはどの程度だ?」
言うと、そうねぇ……、と、思案する様に辺りを見渡す。
そして何かを思いついた様にこちらを向いて、ベゼルアイは言った。
「……三分もあれば、この大浴場を平らに出来るわ」
「……それは凄いのか?」
微妙ね……、とベゼルアイが真顔で言う。どうやら上手い物差しが見つからなかったようだ。
しかし、だ。力と言われると興味が湧いてくる。なので軽く、
「それじゃ試しに――俺を全力で殴ってみてくれないか?」
言った言葉に、ベゼルアイは一瞬固まり、しかし気を取り直すと、
「……マゾ?」
「違うわ。……心配しなくても大丈夫だ。これでも魔人の中では強い方だからな。――ほら、ここ殴ってみろ」
言って、掌を見せるように軽く腕を上げる。手をひらひらとさせて、ここに撃て、と示すと、ベゼルアイは目を細め、
「……本当にいいの?」
「大丈夫だ」
「……なら」
声とともに、ベゼルアイは軽く腕を振りかぶった。そして、
「ベゼルアイぱーんち」
「――!」
瞬間、掌に衝撃が伝わる。
空気が振動で震え、湯船にまで波及するほどの力が伝わるが、足に力を込めて、浴槽の中で何とか踏ん張る。
しかしそれでも、足が引きずられる様に少し後退してしまう。それほどの力を受けたことで、掌には多少の傷みを感じる。
少し面白くなって、口の端が上がるのを自覚しながら、ベゼルアイの方を向くと、
「……へぇ、悪くないな。普段から素手で戦ってるのか?」
「急に悪い顔になったわね……。普段は、素手と大剣を使ってるわ」
「ほぅ……」
剣、という言葉に反応してしまうのは剣士の性だろうか。どうしても昂ぶるものを感じてしまう。故に、軽い気持ちで、
「どうだ? この後、軽く一戦――」
「……さすがに魔人と戦ったらどうなるか解らないし、遠慮しておくわ」
「……そうか。それは残念だ。気が向いたらいつでも声を掛けてくれ」
言って、再び湯船に浸かる。そそるものはあったのだが、嫌というなら仕方ない。今は捨て置こう。
と、思考した時、二つの面で思いつくことがあった。それは、
「……そういえば、他にも聖女の子モンスターが来てるんだったか?」
「ええ、そうよ」
ふむ、と頷き、頭の中に浮き出たある提案を喉に作る。それは、
「会いに行くって言ってたな。――俺もついて行っていいか?」
「……いいんじゃない?」
と、予想に反してあっさりと承諾したベゼルアイに意外を覚える。なので確認を取るように、
「いいのか?」
「いいも何も、ここ、貴方の町でしょ? なら断れないわ」
「……ま、そうかもだが……」
それに、とベゼルアイはこちらの横を指差し、
「セラもなんだか懐いてるし」
「んにゅー……?」
「……お前、またいつの間に」
気がつけば隣にいたセラクロラスに眉をひそめる。どうにも神出鬼没というか、気配を察知できない。何気に怖ろしいな、と思いながら、ベゼルアイの言葉を聞く。
「それに、いざとなったら強い魔物とか紹介してもらえそうだしね。あなた、魔軍参謀なんでしょ?」
「よく知ってるな……」
「有名よ? “決闘魔人”とか、“金髪灼眼の魔剣士”とか、“ドラゴンスレイヤー”とか“魔物界一のイケメン”とか、異名が沢山……」
「……何だその呼び名は」
ええ、とベゼルアイは頷き、その出本を告げた。
「この町のパンフレットに書いてあったわ」
……絶対、キャロルだな……!
内心、悶絶する思いで頭を悩ませる。後で訂正するように命令しておこう。
こちらがそんなことを考えていると、ベゼルアイは湯船から上がりながら、
「それじゃ、ガイドよろしくね。レオンハルト君」
「……それはいいが、何故、君付けなんだ?」
「? だって年下よね?」
「…………そうか」
「んにゅ……」
結局、それを訂正することもなく、レオンハルトは変人な二人――ベゼルアイとセラクロラスに付いていき、町にいるであろう聖女の子モンスターを探しに外に出た。
スラル「レオンハルトに近づく女の匂いがする……」
ガルティア「そういうのじゃない気もするが」
ケッセルリンク「しかし、レオンハルトとの子供か……」
キャロル「レオンハルト様の血を分けた存在なら、どんな子でも強く格好良く可愛いに決まってますわ!」
ハンティ「聖女の子モンスターだと、出来るのは魔物だけどね……」