※この作品はR-18です。

スマブラ ALTER MEMORY   作:眼珠天蚕


原作:BlazBlue
タグ:R-18 真夏の夜の淫夢 スマブラ(淫夢)
スマブラにブレイブルーが参戦!
スマブラ要素はありません(錯乱)

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完璧なまでの理想の男・ラグナ=ザ=ブラッドエッジとの出会いは彼らの人生を大きく狂わせてしまった。
淫欲の谷間に墜ちていく
警官ノエル=ヴァーミリオン、郵便局員ニュー=サーティーン、実弟ジン=キサラギ……せめぎあう欲望と理性のはざま

王道少年マンガのようなハリハリとした銀髪、健康的な肌。見事に鍛えられた筋肉、均整の取れたプロポーション…。
完璧な理想のタイプと出会った時、人は己の欲望を抑えきれるか?

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スマブラ ALTER MEMORY

 ◆ ◆ ◆

 

 粘り着くような真闇。

 昂る鼓動。

 息を殺して静かに、しかし迅速に向けられる、カメラのレンズ。

 僅(わず)かな街灯の輝きをキラリと反射するレンズが映すのは、1人の男。

 その姿をデジタルカメラの液晶ディスプレイ越しに認めた"撮影者"は、「はぁう…」と湿っぽい昂った吐息を漏らす。

 直後、"撮影者"はグッと息を殺すと、興奮で震える指先でシャッターボタンに触れ、力強く押す。

 改造されたデジタルカメラは、無音でシャッターを降ろすものの、フラッシュだけは宵闇の中に閃いた。

 しかし、被写体の男は背を向けていたためか、距離が開いてためか、カメラのフラッシュには全く気づいていない。

 カメラのハードディスクに直ちに保存された画像データを確認した"撮影者"は、桜色の唇で再び「はぁう…」と蕩(とろ)けた吐息を漏らす。

 そして、愛おしそうに、唾液で濡れた唇で液晶ディスプレイに映る被写体の男に口づける。

 長い、長い接吻の後。"撮影者"は唾液が糸を引く唇と舌をディスプレイからゆっくりと離すと、ニヤリとほくそ笑むのであった。

 

 ――ストーカー 。

 忍び寄る、後をつけると言う意味の"ストーク(STALK)"から、"しつこくつきまとってくる人"のことを指す。

 "つきまとう"と言っても尋常なレベルではなく、待ち伏せ、尾行、夜昼構わず電話する、ゴミをあさるなど、自分が関心を抱いた相手を一方的且つ病的執拗さで追いかけ回す。その挙げ句の果てに、殺人にまで至るケースもある。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ニュー・サーティーン(ν13)は人工生命体である。わざわざ莫大な費用と時間をかけて生成された彼女は、何らかの目的があって生み出されたはずであった。

 しかし、ニュー自身はその目的のことは知らない。今更知ってもどうにかなるワケではないので、そもそも知りたいとも思わない。

 ただ、決して郵便配達などというチンケな目的のために生み出されたワケではない、ということは確信を持って言うことが出来る。

 ならば何故、現状のニューはそのチンケな目的を果たす役職である郵便配達員という立場に収まっているのだろうか。

 容易に想像できる答えがある。すなわち、創造主にとってニューは全くのナンセンスな欠陥品であるが、何らかの理由で廃棄するのも気が引けたので、とりあえず何でも良いから再利用させられた、というものだ。

 ニューは本来与えられるべき崇高な目的については何一つ情報を持ってはいないが、ともかく、現状の郵便配達員という立場に多大な嫌悪感を感じていた。

 だから彼女は、仕事時間中は出来る限り、作業をサボることにしている。

 そして今もその例に漏れず、階層都市カグツチの中層にある公園の片隅で、ぼーっと風景観賞をして時間を浪費している。

 「もう始まってるニャス!」

 「そんなぁ、まだダメですよぉ!」

 子供達が無邪気な声を上げながら、遊具の間を元気に走り回っている。子供達は突飛な行動をするので、見ていて飽きない。時間を潰すには恰好の見物である。

 「合体してるから大丈夫ニャス!」

 何かのテレビアニメか特撮の"ごっこ遊び"でもやっているのだろう。がしゃーんとか、しゃきーんとか、やたらと擬音語を連呼しながら戯れる子供達の姿が、とても微笑ましい。

 そんな光景からふと視線を外したのには、特別理由などない。単なる気まぐれとしか言いようがない。

 しかし、その気まぐれがニューの人生に大きな衝撃を与えることになる。

 

 ふと視線を向けた、公園のベンチ。そこには1組の男女が座っている。

 そのうちの女の方は、こちらに背を向けているのでどんな人物かは分からない。ただ金髪のツインテールと、宵闇のような漆黒のローブだけは、はっきりと網膜に焼き付く。とは言え、別段ニューの興味引くものはない。「ちょっと派手だな」程度の感想が胸中を過ぎったくらいである。

 しかし――男の方を目にした途端、ニューの全身に電撃的な衝撃が走る。

 マンガの主人公格のキャラクターを思わせる、ハリハリした銀髪。力強くも不思議な輝きを放つ、赤と緑のオッドアイ。冷たい鋭さを持ちながら、どこか柔らかな優しさを含む精悍な顔立ち。身を包んだ真紅のコート越しでもよく分かる、無駄なく引き締まった肉体。

 完璧な男性――そんな言葉が、ニューの脳裏を過ぎり、鼓動がドクンと高まる。

 (なんて、素敵な人なんだろう…)

 ドクンドクンドクン…と鼓動が狂ったように速まり、柔らかな双丘をプルプルと震わせる。全身を駆け巡る血液が頬を真っ赤に紅潮させる。加速した血液循環のために肺が酸素を激しく求め、呼吸が浅く早くなる。

 ニューは、初めて目にしたこの男に…外観以外の何一つ知らぬこの男に、深い深い恋心を抱いたのだ。

 男は、こちらに背を向けた金髪黒コートの女性と和やかに談笑している。滑らかに開閉する男の口内では、陽光を受けて純白の歯が輝いている。その様もなんとも素敵だ。

 ニューは、おとぎの国の風景を目にした幼児のごとく夢見心地で、ひたすらに男に視線を注ぐ。口が半開きになり、涎(よだれ)が口角を伝うのも全く気にならない。

 …しかし。やがてニューの恍惚の中に、冷たい不安の陰がムクムクと膨らんでゆく。

 その原因は、初めは全く意に介していなかったはずの、男の談笑相手の女だ。時と共に男への恋心が膨らむにつれて、この女は男にとって一体どんな存在であるのか、と疑問を浮かべる。

 男が常に顔を浮かべている、極々自然な笑みをみる限り、非常に親しげであることは確かだ。

 (…もしかして、恋人…なの?)

 訝(いぶか)しむニューは、品定めをするように女に鋭い視線を向ける。顔は相変わらずこちらを向けていないので、美人かどうかは確信がもてない。しかし、陽光の中で透き通ったハチミツ色に輝く金髪や、可憐な装飾が細やかに施された黒コートを見ていると、雰囲気だけでも品の良さがひしひしと伝わってくる。

 (…でも、可愛いとは限らないよ…!)

 ニューは自分に言い聞かせて、1人で大きく頷く。ここまで"顔立ち"にこだわるのは、ニューは自身の顔立ちに結構自信を持っているからだ。彼女の創造者は、多くの者がそう望むように、自身の作品を優美に、または可憐に作ろうと心がけてくれた。その甲斐あって、薄水色の長い髪も、蠱惑的な美しさに煌(きら)めく深紅の瞳も、幼子のような無垢さと瑞々(みずみず)しさを持つ童顔も、かなりの高い水準にある。郵便配達員などより、モデルをやっている方がよほど似合いそうな程だ。

 だからニューは、あの女よりも自分こそが"完璧な男性"には相応しい、と満足したいのだ。

 …だからといって、ニューがあの女の代わりに男の隣に座れるワケではなく、単なる自己満足の域を出ないのであるが。

 しかし、ニューを廃棄という憂き目に遭わせた世界は、非情である。彼女に自己満足という安らぎすら与えてくれない。

 男が、談笑相手の女と共に立ち上がる。その時、女がチラリと顔をこちらに向けた――そしてニューは、愕然とする。

 女は、美しい金髪、豪奢な黒コートに全くひけを取らぬ、凍り付くような美女であったからだ。身体が小柄な所為(せい)で幼い雰囲気が漂っているが、その顔立ちはそんな雰囲気を一気に払拭するような、"美の威厳"とでも言うような凄みに溢れている。高名な彫刻家が理想の女性像を刻もうとも、これほどの美女を作り出すことはできまい。

 男のにこやかな様子に対して、女はツンケンとした態度が目立つ。だが時折、ゾッとするような可憐な笑みをチラリと浮かべるのだ。

 (…そうだよね。あんなカッコいい人と釣り合う女の子だもん。ブサイクなワケ、ないよね…)

 ニューが大きく溜息を吐いている間にも、2人は連れだって公園を後にする。小柄な美女を従えて、住宅街の道路の中に姿を消してゆく、男。その有様にニューは、砂上の蜃気楼の光景を見た。

 求めて手を伸ばそうとも、絶対に掴めやしないのだ。

 (良い夢を見せてくれた、ってことで済ませよう…うん)

 胸中で呟き、気を逸らすように腕時計に目をやる。時計板は、公園を訪れてから随分と時間が経過したことを訴えている。そろそろ業務に戻らないと、本日のノルマを果たせずに会社から睨まれる羽目になる。

 ニューは気持ちが鉛の枷となってまとわりつく脚を断固とした気持ちで動かすと、公園の外に止めてあるスクーターに向かう。

 

 ――そう、この出会いは砂上の蜃気楼に過ぎない。…そのはずであった。

 しかし、非情であるはずの世界は、それまでの非情をニューに詫びるかのように、1つの奇跡をもたらす。

 

 陽はすっかりと西の空に沈み、辺りは宵闇の帳が降りていた。幹線道路は帰宅の途に着く自動車のヘッドライトによって賑やかに彩られているが、住宅地の道路となるとポツリポツリと疎らに設置された街灯が寂しく夜道を照らすだけであった。

 ニューは今、職場から借り受けたスクーターを駆って、後者の寂しい道路を走っていた。

 規定上の業務時間は過ぎていたが、昼間の公園でのサボリが過ぎたために、残業せねばノルマを果たせぬ状況に陥っていたのである。自業自得なのであるが、ニューは自省よりも嫌気の指す仕事に割く時間が増えたことへの不満で頬を膨らませていた。

 しかし、この苦痛の時間もようやく終わりを迎えようとしている。ニューが担当する配送物は、残り1つだけだ。この書留封筒さえ渡せば、苦痛からようやく解放される。

 これまでため込んできた疲労を、ふぅー、と長い溜息に乗せて吐き出した後に。ニューは薄く笑って、業務の終わりを歓迎するのであった。

 さて、ニューが向かったのは、マンションが立ち並ぶ、いかにもベッドタウンといった様相の地域である。

 「ここ…だね。うん、間違いない」

 スクーターを止めた眼前にあるのは、ちょっと年季の入った風貌の大きなマンションである。

 書留の表面を見て、配送先を今一度確かめる。…住所は確かに、ここで間違いない。目的の部屋は8階だそうだ。そして、宛名は"ラグナ=ザ=ブラッドエッジ"となっている。

 「なんか、凄い名前…。芸名みたいなものなのかな?」

 "血の刃(ブラッドエッジ)"などという物騒な苗字に、ニューは苦笑しながら小首を傾げたのであった。

 さて、ニューはサックリと仕事を終わらすべく、マンションの中へキビキビした足取りで入る。ここのマンションは古いためか、新興のマンションによくあるような住人がカメラと音声で来訪者を確認できるシステムがない。ニューは社交性に乏しい性格をしているので、こういったセキュリティゾーンがなく、余計な会話をしなくて済む構造は大歓迎であった。

 ニューはすぐにエレベーターに乗り込み、真っ直ぐに8階の目的地に向かう。

 マンションの内部は、外観相応に年季の入ったもので、飾りっ気のない質素なものである。灰色一色のコンクリートに囲まれた通路の所々には、風化の影響によるものか、クラックが幾筋も走っている。表面だけの影響であって、構造上には深刻な影響はないだろうが、見た目はあまり良いものではない。

 部屋の扉も、周囲のコンクリート同様、灰色一色の無愛想な金属製のものだ。このマンションのオーナーには、住人を集めるために外観に投資を行う、という思考はないらしい。住めれば良いだろう、という見下した態度が表れているような殺風景である。

 この詰まらない風景が疲労感を煽ったらしく、ニューは重く鈍くなった指先でノッソリとドアホンを押す。ドアホンは「ピ~ン…ポ~ン…」とネットリした呼び出し音を室内に響かせた。

 直後、室内からは近寄ってくるしっかりした足音が聞こえてくる。確固たる自信が自然と身に染み着いているような、力強い大股の足音だ。

 住人は足音の力強さをそのままに、ガチャリと鋭くドアノブを回すと、少し勢いづけてドアを開く。

 室内からの柔らかな白昼色の照明と共に現れた、住人の男性。その姿を目にしたニューは、思わずハッとなり、全身の毛が逆立つような衝撃に襲われる。

 柔らかな照明の中にゆらめく銀髪。照明の光と宵の影の両者にさらされ、神秘的な輝きを醸(かも)し出すオッドアイ。そして、失意の闇の中に光と共に光臨した神格を連想させるような、整った顔立ち。

 昼間、公園で見かけた"完璧な男性"が、目の前にいる!

 服装こそ、外にいる時のようなコートは羽織っておらず、くだけた感じのプリントTシャツを身につけているが、それがまたニューの心をくすぐる。薄いTシャツ生地は男の鍛え抜かれた胸板や腹筋をくっきりと浮かべ、なんとも言えない色気を放っている。

 (この人の名前…ラグナ=ザ=ブラッドエッジって言うんだ…)

 礼賛すべき神の名を初めて聞き知ったが如く、恍惚とした忘我の中でニューは胸中で呟く。

 ニューがしばらく無言のまま立ち尽くしていると、ラグナが怪訝げに眉根にしわを寄せる。

 「…何か、用か?」

 初めて耳にする、ラグナの声。それもまた、"完璧な男性"に似つかわしい、勇壮な雄々しさのある響きだ。声の中に男性のフェロモンでも含まれているのではないか、という程にニューの中の女性をキュンと刺激する。思わず、股間が軽くジワリと湿(しと)ってしまったほどだ。

 パンツに広がる生温かな湿り気に気が逸れて、ニューはこっそりと腰を振るう。まるで、股間をパンツ生地でさするかのように。とは言え、実際はパンツはブカブカではないので、股間との間に摩擦を生じさせることはできず、欲情を空回りさせるだけに終わってしまったが。

 「…なぁ、おい…用、あるんじゃないのかよ…?」

 ラグナが再び訪ねてくる。そこに含まれたイラ立ちのトゲによって、ニューの甘く膨らんだ恍惚が音を立てて破裂する。ハッと我を取り戻したニューは、人前で呆然とした姿をさらしたことに照れながら、手にしていた郵送物と、制服の胸ポケットにしまってあるボールペンを差し出す。

 「書留です。サインをお願いします」

 「ああ、分かった。

 …サインって、ここで良いんだよな?」

 「はい、お願いします」

 そんな軽いやりとりをすると、ラグナは部屋の壁を机代わりにして、受領証にサラサラとサインを書き込む。

 その間のニューは、ラグナの甘く猛々しい声と自分の声が交わった会話や、手渡した郵便物とボールペン越しに伝わってきたガッシリとした感覚を味わい、ニヘラ…と薄く笑って恍惚に浸っていた…が。すぐに表情を引き締める。

 業務中、しかも客を前にして気を抜くのは良くないことだ、という職務への義務感が生じたから…というワケでは、ない。

 昼間に公園で見た光景の中に存在した、ラグナの隣に寄り添っていた女性のことを思い出したからだ。

 あの人物は、ラグナにとって恋人なのだろうか。それとも、同僚や隣人、はたまた親戚といった単なる知り合いだろうか。はたまた、たまたまあのタイミングで知り合っただけの、通りすがりなのだろうか。

 そんな事実を確認したところで、ラグナにとってニューが特別な存在となるワケではない。それでもニューは、まるで自分が生来の婚約者であるかのように、ラグナの女性関係を深く洞察することを試みる。

 まずは、全開になったドア越しに見える部屋の様子を確認する。偏見極まりないが、ニューは女っ気のない男性ならば、その生活は無骨で繊細さがなく、飾りっ気もなければ整理整頓その他の家事もガサツだと決めつけている。その物差しで測ったラグナの部屋の様子は…彼女をひとまずほっとさせた。飾りっ気は全くなく、床は雑然というほどではないが小物が無造作に転がっているような状況だ。

 密かに安堵の溜息を吐いた…その直後、ハッと不安が鎌首をもたげる。現在の時刻を鑑みると、仕事から帰宅したてという可能性がある。ちらかっているのは、帰宅してすぐの状態だから、という可能性が十分にあり得る。

 こうなると、もう洞察だけでは安堵できない。確信が必要だ。

 ニューは後先など考えず、不安の払拭だけを念頭において、ほとんど無意識に言葉を口にする。

 「1人暮らし、なんですか?」

 郵便配達員にあるまじき唐突な問いかけだが、ラグナはサインをこなしながら嫌な顔をせずにサラリと答えてくれる。

 「ああ、そうだ」

 「彼女とか、いらっしゃらないんですか?」

 勢いのままに尋ねた、二問目。口にしてすぐ、ニューは後悔の念を抱く。初対面の人間に、合コンの場でもなくそんな話を尋ねるなど、あまりにも場違いで間抜けだからだ。

 案の定、ラグナはおかしな質問に対して、そっけなく即答する。

 「そんなん関係ないだろ」

 「そうですよね…ハハッ…」

 語尾の気の抜けた笑いは、ニュー自身に対する自嘲の笑みである。

 とは言え…ラグナのそっけない答えから、ニューは敏感にもいくつかの情報を拾っていた。

 まず、ラグナの声はそっけなくはあったが、決して"余計なお世話だ"といったような拒絶が含まれていないこと。ある種の余裕に裏打ちされた冷静さが感じ取れること。ここから、ラグナは女性の恋人に対する執着やコンプレックスがないことが導き出される。

 となると…昼間見た黒いローブの美女は、ラグナの彼女である可能性が高い。

 (やっぱり…そうだよね。こんなカッコいい人、女の人が黙ってるワケないもんね…)

 ニューはラグナに気づかれぬよう、小さく嘆息する。

 その頃丁度、ラグナのサインが終わった。見知らぬ相手であるニューに対し、当然ながら無感情な動作でサイン済の受領証を渡してくる。

 これを受け取ってしまえば、このラグナという"完璧な男性"との接点は終わってしまう。口惜しい名残惜しさに後ろ髪が引かれる。

 …だが、受け取らずにいるワケにはいかない。ニューは口角を堅く結び、唇の下で歯噛みしながら、おずおずと受領証を受け取った。

 紙から伝わってくる、ラグナの手の体温。それを知覚した瞬間、ニューの中に諦観にも似た悟りが浮き上がる。

 (見てるだけで終わるはずだった人と、こうやって言葉を交わせたんだもの。それだけでも、奇跡として歓迎しないとね)

 切なくも、光に満ちた想い。それがニューに、一夜のみの美麗な花を咲かす月下美人の笑顔を生み出してくれる。

 「それでは、失礼します」

 ニューは笑顔の残像をラグナの網膜に焼き付けさせながら、軽やかに踵を返して部屋を後にした。

 

 ラグナの部屋からスクーターへ向かう道中、ニューの足取りは軽かった。

 ラグナとの会話の機会を失ってしまったことは、確かに寂しくて口惜しい。しかし、彼が何処に住んでいるのか、という情報はしっかりと脳に刻み込んでいる。

 その知識が、ラグナと自分をつなぐ絆のように思えてならないのだ。

 (私は、あの人が何処に住んでるか知ってるんだ! いつでもあの人の元に近寄れるんだ! 会いに行けるんだ!)

 近寄るにせよ会いに行くにせよ、何か理由がなければ怪訝な顔をされるだけだとは思うが…そんな算段など余所において、ニューはひたすらに根拠の乏しい優越感に浸る。

 さて、これから職場に戻れば、本来必要ないはずの残業に従事したことについて、上司から厳しく叱責されることだろう。だが、そんなことは眼中にないといった様子で、ニューはスクーターに跨(また)がると、上機嫌に鼻歌を唄いながら夜道を職場に向かって疾駆するのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ラグナの朝は、早い。陽が昇らないうちに目を覚まし、ベッドから飛び出す。

 そんな生活を送っているのには、彼の仕事が原因にある。

 ラグナの仕事は、カグツチの最下層および周辺環境に生息する危険な存在『魔物』を排除することである。俗に『魔物ハンター』などと呼ばれる職務だ。

 魔物は魔素が濃くなる夜の時間帯になると、より凶暴に、より強靱になる。故に、陽のある朝昼の時間帯に交戦する方が低リスクだ。だからラグナ達魔物ハンターは、陽が空にある時間帯を最大限に利用しようとする。そのため、朝が自然と早くなるのだ。

 とは言え、この日のラグナはいつもより早起きである。日の出の時刻まではかなりの余裕がある。しかし、単に早く目が覚めた、というワケではない。ラグナの早起きには、確固たる算段がある。

 部屋の床の上に山のように盛り上げた衣類を大きなビニール袋の中に無造作に突っ込むと、自室を後にする。そうして向かった先は、マンションからかなり近い位置にある、24時間営業のコインランドリーだ。

 今日はラグナが週2回と決めている、洗濯をする日なのだ。夜間ではなく、わざわざ忙しい朝に洗濯を行うのは、昼間の日差しを利用したいからである。洗濯物はやはり、日差しで乾かすほうがいい匂いがするし、夜間の部屋干しは部屋の中に嫌な臭い染み着いてしまうので、なるべく避けている。

 コインランドリーに来たラグナは、出入り口に近い位置の洗濯機に持ってきた衣類を放り込み、鍵をかけてスイッチをオンにすると、鍵を羽織った真紅のコートのポケットに突っ込むと、サッサと施設を後にする。その手際の良さはとても慣れたものだ。

 (さて、朝飯でも買ってくるか)

 コインランドリーの建物に背を向けて、最寄りのコンビニへと足を運ぼうとして…ふと、足を止める。

 それは、単なる気紛れな行動ではない。確固たる"気配"に突き動かされた行動だ。

 (…視線…?)

 魔物ハンターを営んでいるラグナは、職業柄、周囲の気配に敏感である。朝焼けが始まり、うっすらと陽光が差し始めた路上を、狩人の鋭い眼光で素早く見渡す。

 背中に、ジットリとまとわりつくような視線を感じたと思ったのだが…巡らせた視界の中に入るのは、犬の散歩をするオジサンやら、ジャージ姿でジョギングをしている若い男しかいない。そして今、ラグナが感じている人の気配も、この2人のものしかない。

 (…気のせい…なのか?)

 胸中で独りごちながらも、ラグナは生じた疑問を容易には振り払えず、何度か視界を巡らせる。魔物ハンターの職務を果たしている時と同様の、神経をひどく研ぎ澄ませた状態で…。

 何故、こんな風に神経質なまでに気にかけているかというと…ラグナはコインランドリーを利用している際に、何度か洗濯物を盗まれているのだ。

 毎度鍵はキチンとかけているし、取り出す時も洗濯機に鍵がかかっているのは確認している。それでも、洗濯機の中からはパンツが全て盗まれている、という被害に遭っているのだ。

 警察に通報しようと思っているのだが、男がパンツを盗まれた、と届け出るのが何とも間抜けに思えてしまい、毎度見送ってしまっている。それに、ここ以外のコインラインドリーは結構遠いので、利用する気になれない。それで結局、盗難の被害に遭おうが、この施設を使い続けているのだ。

 (…今の視線が、オレのパンツを盗んでる変態野郎なら、ふん捕まえてボコボコにしてやるんだがな…)

 意気込みは良いものの、何度気配を探っても怪しい存在は知覚できない。

 (…気のせいってことか…)

 ラグナは安堵とも諦観ともとれる溜息を吐くと、これ以上の無駄な探索は打ち切り、スタスタとコンビニに向かうのであった。

 

 ――しかし。ラグナが最初に感じた気配は、気のせいなどではなかったのだ。

 

 ラグナの背が遠のいてゆく、その一方で…突如、古びた中層ビルの影から1人の男がヌルリと影のように現れる。

 ラグナとは対照的な爽やかな青色のコートに、朝日を受けてまぶしく輝く金髪。男性アイドルかと見紛うほどに整った顔立ち。

 しかし、その顔に浮かぶのは、悦に歪んだ狂気の表情。

 この男は、ラグナのコインラインドリーでの行動を、物陰から全て監視していたのだ。…いや、実際はその程度の話では済まない。彼は、ラグナが自室を出る時からずっと、ラグナの影のごとく彼の背後につきまとい、その一挙一動を網膜に焼き付け続けていたのだ。

 その不気味な行動が最も目を引くが、それと同等かそれ以上に驚嘆すべき点がある。それは、この男の気配を消す技術だ。

 魔物ハンターの実力者であるラグナの感覚は、非常に鋭敏である。どんなに自然の中に溶け込むことを得手とする野生動物も、彼の鋭敏な感覚の前には炙り出されてしまうのだ。

 そんな彼をしても、この男の気配は"気のせい"程度にしか感じられなかったのだ。

 この恐るべき男は、ラグナの姿が路上から見えなくならぬ内に、疾風のように素早い足取りでコインランドリーに進入する。そして、一直線に向かうのは勿論、ラグナが使用している洗濯機である。

 洗濯機は鍵がかかっている。使用者以外の人物が間違って中身を持って行かないようにという、コインランドリーの管理者の配慮に因るものだ。

 しかし、この程度の防御策は、この男には無意味である。

 男は鍵穴の側に手をかざすと、術式を発動したのだ。術式は速やかに効力を発揮し、鍵にガチャリを音を立てさせて、その堅固な封を解除する。その間、わずか2秒足らず。ベテラン軍人並の技量である。

 もはや用を為さなくなった洗濯機の蓋を男が開くと、洗濯機はピーッ、と異常を検知するアラームを鳴らして動作を停止する。洗濯槽には水でジャブジャブに濡れたラグナの衣類がごちゃ混ぜの状態で収まっている。

 男はひどく手慣れた手つきで濡れた衣類をかき分けて漁り、トランクスを取り出す。ビショビショに滴るそれをギュッと絞ると、青いコートの内ポケットに放り込む。

 これを3度繰り返すと、洗濯槽からはラグナのトランクスはすっかりと姿を消す。

 すると男は、用を終えたらしく、洗濯機の蓋をバチン、と勢いづけて閉ざした。そして鍵穴に手をかざして術式を発動させると、元のように蓋に鍵をかける。

 それから洗濯機の電源ボタンを押して一時停止状態を解除すると、洗濯機は何事もなかったかのようにブルブルと震えながら動き出した。

 洗濯機の動作音を背に受けながら、男は進入時のような疾風のような足取りでコインランドリーを後にする。

 出入り口のところで、新たに洗濯機を利用すべく建物内に入ってくる中年男性とすれ違った。

 その時、中年男性は思わずギョッとして足を止め、青色コートの男を横目で追う。

 そこには、恍惚と呼ぶにはあまりにも邪悪な、抜き身の刃の眩しすぎるきらめきのような狂笑が張り付いていたのだ。

 しかし、青色コートの男は中年男性の存在など露ほども気にかけず、コインランドリーから姿を消したのだった。

 

 その日の夜。

 仕事を終えて帰宅したラグナは、スーパーの惣菜を中心とした侘(わび)しい晩餐を終えると、空になった惣菜の容器などを初めとする家庭ゴミを一式を袋にまとめると、自室を出て宵闇の中へ出立する。

 ラグナは普段、帰宅後の夜間は出歩かない。先述したように朝が早い彼は、夜更けまで遊んでしまうと睡眠時間を削ることになり、日中の職務に支障をきたすからだ。

 しかし、例外が週に2度ある。それは、ゴミの収集日の前日だ。ゴミの集積所にまとめたゴミを出すために出歩くのである。

 実は、ラグナの住むマンションでは夜間にゴミを出すことを禁じられている。放火などを防ぐという防犯目的のルールであるが、ラグナはこれを一度も遵守したことはない。ただでさえ早くて忙しい朝の面倒事は洗濯だけで十分だからだ。マンションの管理組合の機嫌取りよりも、自分の生活のペースの方が大事である。

 ルール無視の引け目を全く感じていないラグナは、車のヘッドライトが疎らに行き交う車道脇を堂々とした大股で集積場に向かう。普段より少し早足なのは、サッサと面倒事を終えたいという態度の現れである。

 この道中のこと…夜道の寂しげな雰囲気に感化されたなのか、ラグナの胸中にふと、好ましくない思考が沸き上がる。

 別に、仕事への不満などではない。今の仕事は朝が早いのは難点ではあるものの、自分の性格と能力に合った転職だと考えている。

 それでは、何に対して"厭(イヤ)な想い"を抱いているかと言えば…今朝のコインラインドリーで、洗濯を終えた衣類一式を回収した時のことである。

 (今日も全部やられてたな…オレのパンツ…)

 眉根をしかめるラグナの表情は、憤りというよりも嫌悪の感情が強い。

 (やっぱり、そろそろ警察に行くべきだろうな…。パンツの補充代、結構財布を圧迫してるしな…。

 それにしても…パンツ泥棒のヤツ、一体何が目的でオレのパンツなんか盗んでるんだ…? 女モノじゃなくて、男モノの下着なんか盗んでも、金にならねぇだろうに…)

 そんなことを考えているうちに、ラグナはゴミの集積場に到着した。薄い金属製の上蓋が着いたゴミ集積箱を開き、ヒョイとゴミ袋を放り込む。

 ゴミ袋が箱の底に至り、ドサッ、と重い音を立てた、その時。ラグナの思考はあまりにも気色悪いことをする。

 (まさか…ホモ野郎がズリのオカズに使ってるとか…)

 あまりの気色悪さに、ラグナはぶるりと小さく身震いし、苦笑いを浮かべる。

 (バカな事考えてんじゃねぇよ…)

 ラグナは首を左右に振って気色悪い思考を振り払うと、踵を返して大股に夜道を引き返す。

 

 ――しかし、ラグナが一蹴した考えは、おぞましいことに的を得ていたのだ。

 

 ラグナの姿がゴミの集積場から遠のいてゆく一方、1人の男が物陰から姿を現す。街灯の中に美しく煌めく金髪を持ったその男は、今朝にコインラインドリーでラグナのパンツを奪った男と同一人物である。

 彼は集積箱の蓋を素早く、音を立てないように開くと、ラグナが放り込んだゴミ袋を取り出す。そして再び無音で蓋を閉めると、ゴミ袋を持って足早に集積所を去る。

 このおぞましき男が向かう先は…なんと、ラグナが住まうマンションである。

 ただし、この男が道中、ラグナにかち合うことはなかった。意図的にラグナとは異なるルートで、絶対にかち合うことのないタイミングと歩調で、マンションの入り口に向かったからである。

 男は、ラグナの行動や歩調といった身体特徴まで、詳細に把握していた。

 マンションに入った男はエレベーターに乗ると、ラグナが住む8階をまで昇る。それどころか、足音を立てずに疾風のような早足で通路を進むと、なんとラグナの部屋の前まで歩を進めたのだ。

 この構図だけを抜き出してみれば、ラグナのルール違反を咎めたマンションの同居人が、ラグナにゴミ袋を突き返しに来たようにも見える。

 しかし、男はラグナの部屋を通り過ぎると、彼のすぐ隣の部屋へと入って行ったのである。

 そう、このおぞましき男はなんと、ラグナのすぐ隣に住まいを構えていたのだ。

 

 ここで、この男の正体について言及しよう。

 彼の名は、ジン=キサラギ。元は世界的軍事組織『世界虚空情報統制機構(通称、統制機構)』において若くして少佐の階級を手にした天才であり、先年世界を騒がせた一大紛争『イカルガ内戦』で大きな功績を上げ、"英雄"と称されるほどの人物であった。

 しかし、イカルガ内戦が終了してほどなく、更なる昇進が約束されていたにも関わらず、それを袖に振って退役した。その理由は統制機構内での最大の謎の1つとされている。組織内で囁かれている噂が曰くには、過酷だったイカルガ内戦によって精神障害を被ったとか、昇進によって現場を離れることになるのを心底嫌ったとか、様々な憶測がなされている。しかし真実を知る者は、統制機構の上層部にすら存在しないだろう。

 ジンについては、もう一つ、重大な特徴について言及せねばならない。それは、ラグナの実の弟である、ということだ。とある事情から姓は異なっているものの、血を分けた立派な肉親である。ちなみに、生き別れの兄弟などではなく、お互いに面識があるどころか、未成年時代は日常生活を共にしてきた間柄である。

 そんなジンが、実の兄であるラグナのパンツを窃盗したり、ゴミ袋を回収したりして、一体何を企んでいるというのだろうか。

 

 ジンの部屋は、非常によく整理整頓されている。部屋は多数の収納が几帳面にキッチリと配置されており、質素なシートを敷いただけの床や、素っ気のない折りたたみ式テーブルの上には、出しっぱなしになっている物は何一つ見当たらない。

 この整然とした空間のほぼ中央に陣取ったジンは、ラグナのゴミ袋を正面に配置して座ると、堅く縛られた袋の口を器用に手早く解放する。

 埃臭さや生ゴミの悪臭などがジンワリと漂ってくる最中、一体何をするかと言えば…ジンは袋の中に躊躇(ちゅうちょ)なく手を突っ込むと、ゴミを1つ1つ取り出し、よくよく吟味し始めたのだ。

 弁当の容器やクシャクシャに丸めたダイレクトメールなどを取り出しては、矯(た)めつ眇(すが)めつして鋭い視線を存分に這わせた後、ポイポイと左右に振り捨ててゆく。整然としていた部屋の中は、あっと言う間に汚らしいゴミで埋め尽くされてゆく。

 ジンが特に念入りに吟味するのは、丸めたティッシュ屑だ。それを手にするとジンは決まって丹念にティッシュを展開し、その中身を確かめる。中に体毛などが入っていれば、丁寧に丸め直し、そっと自身の目の前に置く。他のゴミのようなぞんざいな扱い方をしないのは、これを保存するためだ。

 何を隠そう、ジンの部屋の収納物の大半は、ラグナのゴミから得たものなのである。

 広げたティッシュの中身がよく分からない場合、ジンはそれを鼻に当てて思い切り息を吸い込み、匂いを嗅ぐ。しかし、大抵は小首を傾げながらぞんざいにティッシュを丸め直すと、ポイと放り投げる。

 「これでもない…ちがう…これでもない…」

 ジンは譫言(うわごと)のように小さく呟きながら、時折小首を傾げる動作を見せつつ、ゴミを取り出し続ける。

 そんな最中のこと…ジンはとあるティッシュ屑をつかむと、まるで電撃にでも打たれたようにピタリと動きを止める。

 指先から伝わるパリパリとした感触に、ジンはゴクリと固唾を飲む。

 ゆっくりと丁寧に、割れやすい宝物を扱うかのような手つきで、ティッシュ屑を取り出し、広げる。

 そして、興奮で小刻みに震える手先でティッシュを鼻に運び、スゥーッと思い切り匂いを鼻腔に充満させる。

 途端に嗅覚を刺激する、生臭い香り。それは、精液の匂いだ。

 このティッシュ屑は、ラグナが自慰行為に及んだ際に、体液を処理したものなのだ。

 「ああ…兄さん…」

 常人ならば嫌悪の対象となる汚臭も、ジンにとっては恍惚を喚起させる馨(かぐわ)しき芳香であるようだ。精悍に整った顔立ちを泥細工のように蕩けさせ、うっとりと夢見心地に浸る。

 「兄さん…ああ、兄さんの香りが、僕の体の中を満たしていくよ…。兄さん…兄さん…」

 熱病に冒された病人のように、湿り気を含んだ火照った囁き声を上げながら、何度も何度も乾いたラグナの精の香りを楽しむ。生臭い香りが肺を充満する度に、香りが肺の袋を突き抜けて心臓を刺激しているかのように、鼓動が速まり興奮が高まってゆく。

 色白の顔が薔薇のごとき鮮やかな赤に染まり、興奮が最頂点に達した頃。ジンは右手をティッシュからは離すと、相変わらず精の香りを吸い込みながら、片手でカチャカチャとベルトとズボンのチャックをいじる。片手での作業とは言え実に手慣れたもので、数瞬後にはムックリと盛り上がった柄物のトランクスが露出した。

 このトランクスは、元々はラグナのものであった。コインラインドリーから窃盗した後、ジンは手に入れたトランクスを洗うことなく乾かすと、そのまま身につけているのだ。洗わないのは勿論、染み着いたラグナの香りや感触、体液などを損なわないためである。

 ジンはこのトランクスをもずり下げると、ガチガチに起立した男根を露出させる。包皮が全く亀頭を包んでいない、立派なズルムケの巨根だ。

 このいきり立った肉茎に輪を作った右手をあてがうと、シコシコとリズミカルに、そして暴力的に上下させる。

 「兄さんの香り…ああ、堪らない…兄さん…僕は…僕は…っ!」

 しごく度に鈴口からは湧水のようにカウパーが沸き上がり、肉茎を伝ってジンの右手をヌラヌラと濡らす。この粘液をも快感の一道具としたジンは、滑りのよくなった手つきでストロークを早め、さらに乱暴に肉茎をしごく。

 「兄さん…兄さん…!」

 蕩けていたジンの表情が、次第に切なげに緊張してゆく。右手を恋人とした自慰行為が、絶頂を迎えようとしているのだ。

 「ああ…っ!」

 妙に艶っぽい、熱を帯びた吐息と共に、ジンがデロリと溶けるような叫びを上げる。同時に、彼の肉茎の先端からは盛大に白濁がビュシュシュシュルルルルッ! と噴き出す。ジンの顎の高さまで噴き上がるその勢いは、淫欲というマグマの熱を帯びて解き放たれた間欠泉そのものだ。

 むき出しの木板の床や、うずたかく詰みあがったラグナのゴミの山などに、蛍光灯をうけて鈍く輝く白濁が広くバラ撒かれ、周囲に青臭い淫臭を染み着かせる。

 ジンはしばらく射精の余韻に浸っていたが、荒くなった呼吸が整ってくると、むき出しの股間だけを仕舞って周囲を汚した精液を片づけずに立ち上がる。左手には、ラグナの乾いた精がこびりついたティッシュ屑を持ったままだ。

 そしてジンが足を向けるのは、冷蔵庫である。

 途中、戸棚から小さなチャック付きの袋と付箋、そしてフェルトペンを確保する。冷蔵庫の真ん前まで歩みを進めたジンは、胡座をかいて座り込むと、付箋にフェルトペンで今日の日付を書き込むと、チャック付きの袋の表面に張り付ける。

 そして、チャック付きの袋を開くと、ラグナの使用済みティッシュをその中に慈しむような手つきで収納し、封をした。

 更にジンは、この袋を手にしたまま、冷蔵庫を開く。すると、その中に広がっていたのは…絶句するような不気味な光景である。

 3段に分かれている冷蔵庫の中には、勿論、食品も確保されている。ただし、真ん中の段だけは"別のもの"が山のように保存されていた。その"別のもの"とは…今さっき作ったような、ティッシュを納めた袋である。これがギュウギュウに詰め込まれているのだ。

 ジンがラグナのゴミを漁るのは、今回が初めてではないのである。ラグナがゴミを出す際には必ずゴミを持ち帰り、孤独な性処理に使用したティッシュを確保し、保存しているのだ。

 この胸糞悪いコレクションを目にしたジンは、うっとりと恍惚の笑みを浮かべると、桃色の吐息を放ちながらポツリと漏らす。

 「これでまた1つ、兄さんの欠片が集まったよ…」

 ジンは今回新たに作った袋をギュウギュウの中断に無理矢理押し込むと、クックックッ、と小さく声を上げて笑うのであった。

 

 ――ジン=キサラギ。世界に名を馳せる英雄であった彼は今や、肉親の同性に対して欲情を抱き、その肉体の欠片を集めては悦に浸るという、犯罪的な変態へと成り下がったのである。

 こんな彼の現状を聞き知れば、今尚ジンの功績を称え、尊ぶ統制機構の若輩たちは悲鳴を上げて泣き崩れることだろう。

 そんな他人の眼など露ほども顧みず、ジンは日毎、実兄に影のようにつきまとい、変態行為を繰り返し続ける。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ラグナ達、魔物ハンターの休日は大抵、暦通りには行かない。彼らはシフト制で動き、休日でも常に人員を当てるように活動している。というのは、魔物は人の都合通りに活動したり休んだりすることはないからだ。

 ラグナは、自ら好んでシフト休を平日にばかり当てる。休日は普通のサラリーマンたちがこぞって休むため、どこもかしこも人で溢れかえって煩わしいからだ。人が疎らな休日の方が、繁華街に遊びに出掛けようが、ゆとりを持って時間を楽しめる。

 今日はそんなラグナの休日だ。ラグナはお気に入りの赤のコートを羽織り、愛用の自転車に乗って繁華街を目指していた。彼のクールな外見と無骨な自転車という組み合わせは少し間抜けな印象を与えるが、ラグナ本人は自転車をとても気に入っている。原動機付きの乗り物よりも自由にどこでも入り込めて、しかも少ない労力で気持ちよくスピードを出せるからだ。

 ラグナは上機嫌に鼻歌を口ずさみながらペダルを漕いでいたが…路上を歩いてた一組のカップルを目にした途端、思わず鼻歌を止めた。代わりに、ぼんやりとした思考が脳裏を支配する。

 (そういえば…最近、"ウサギ"のヤツに会ってないな…)

 "ウサギ"とは、先日公園で一緒に時間を過ごしていた、金髪ツインテールの女性のことである。彼女の名は、レイチェル=アルカード。カグツチの上層地域に住まいを構える富豪のご令嬢である。

 ラグナとレイチェルでは、所謂"身分の差"が大きく、カグツチの常識では2人が交わることは考えられなかった。それが、魔物ハンターとそのスポンサーの娘ということで、ひょんなことから面識持ったのが、交友関係の始まりである。

 "交際"ではなく"交友"と表現したのは、ラグナ自身はレイチェルと恋仲であるとは考えていないからだ。確かに、予定が合う時は必ず連んで時間を過ごしているし、会っている時にはとても安らいだ気分を味わえている。しかし、色恋沙汰に発展するような関係ではなく、良くて親友の関係だ…と、ラグナ自身は考えている。

 そんなレイチェルと最後に会ってから今日までは、一週間も経過していない。それでも2人にとっては、長い期間である。というのも、普段は隔日程度の頻度で、どんなに些細な時間であっても顔を合わせているからだ。だから恋人でないと言えども、ラグナは楽しげなアベックの様子を見て、物寂しさを感じてしまったのだ。あんな風に2人で楽しく時間を過ごしたいな、と…。

 そんな風に思いを馳せていると、ラグナの脳裏に先日のレイチェルとの語らいが再生される。

 公園のベンチに並んで座り、携帯通信端末の小さなモニターを2人で覗き込んで、最近の街中の情報を見て巡っていた時のこと。とあるファッションショップのサイトを真剣な表情で眺めていたレイチェルは、モニターに写った1つの商品を指差すと、まるで王族のような高慢な振る舞いを演じながら語る。

 「ラグナ、私にこれを献上しなさい」

 それは、真紅の花びらと漆黒の葉をあしらった、バラの形のコサージュである。ラグナはそれを一目見て、ゴシックな衣装に身を包むレイチェルにはよく似合う、と確信を得た。

 もしもショップが手近な位置にあったならば、これを購入していたことだろう。作りが繊細な割には値段はリーズナブルで、ラグナの収入なら容易に手に入れられるものだ。しかし、入手を断念したのは、公園からショップのある繁華街までは、徒歩で行くにはかなり辛い距離があったからである。

 今、ラグナが向かおうとしている繁華街は、まさにそのショップが存在している地域だ。

 ("ウサギ"のヤツ、すごく欲しそうだったしな…。買っておいてやるか)

 そう胸中で独りごちながら、早くもコサージュをプレゼントした後のレイチェルの様子を想像する。普段はツンケンした態度を見せているレイチェルだが、本当に嬉しいときにはその堅い表情を和毛のように和らげ、可憐な笑みの花を咲かせる。その表情と普段の表情とのギャップに、ラグナはひどく心を惹かれるのである。

 (ちょっとしたサプライズって感じで渡せば、あいつ、きっとすごく嬉しがるに違いない)

 楽しげな想像に思わず頬が緩み、ニマニマと笑みが浮かぶ。気持ちが飛ぶように軽くなり、自転車をもっともっと速く飛ばしたいような、昂った気持ちになる。

 最上級の上機嫌に達したラグナは、鼻歌の音量を上げながら道路の角を曲がり、繁華街へ直通する道と合流する。この道路は線路と併走しているのが特徴だ。

 ラグナはペダルをグングン漕ぎながら、心地よく目的地へと向かう。

 

 …と、その時。

 「あ、そこの人、ちょっと止まってください!」

 突然、上機嫌な思考の中に、キビキビした呼び声が割り込む。

 

 (なんだよ…?)

 心地よさをバッサリと断たれてしまったラグナは、表情を一転して曇らせると、露骨な険悪さを宿した目つきで声の主を見やる。

 その途端…ラグナはハッとして表情から険を抜くと、すぐに自転車にブレーキをかけて停車し、サドルから降りる。

 こうも劇的に感情が変化したのは、声の主が女性警官だったからだ。

 青い大きなベレー帽に、これまた青を基調とした制服という姿は、カグツチの警官のトレードマークである。中でも特に女性警官の制服は、男性にとっては目のやり場に困るという意味合いでも、ひどく印象に残る。剥き出しになった肩、大きく開いた背中、そしてかなり丈の短いスカート。犯罪を取り締まる側の人間が、性犯罪を誘発しそうな挑発的な格好をしているのである。

 「何か用スか?」

 ラグナは口調に不機嫌さを残しながら尋ねつつ、女性警官の顔をのぞき込むと…再びハッとなって、ますます表情から険の気配が流れ落ちる。というのは、この女性警官がかなりの美人――というよりも"美少女"と表する方が似合う――だったからだ。

 ベレー帽からチラリとのぞく、フワリとした金髪の下には、花も恥じらうような清楚な童顔がある。その可憐さを前にして心が蕩けない男は、よっぽどのガチホモであろう。

 (まさか、アイドルの一日警察官だったりしてな…)

 冗談半分に訝(いぶか)しみながら、膨らみの未熟な胸元に目を這わせる。別にいやらしい目的があったワケではなく、正規の警官ならば、その位置に必ず名札付き印章を装着しているからだ。そしてこの女性警官も、他の警官の例に漏れず、しっかりと印章をつけていた。

 印章からは、この女性警官の名前、"ノエル=ヴァーミリオン"がよく見える。

 ノエルはラグナの自転車を眺めながら問い返してくる。

 「これは、あなたの自転車ですか?」

 「ああ、そうッスけど」

 「防犯登録はしていますか?」

 「防犯登録は…別に、してないッスけど…」

 こうラグナが答えると、ノエルは眉根にしわを寄せ、非難するように問い質す。

 「防犯登録してないんですか?」

 「ええ、まぁ…」

 ラグナは頬をポリポリ掻きながら答える。自転車の防犯登録は推奨されているとは言え、完全に任意のものだ。登録していないからと言って、警官に睨まれることはないはずなのだが…。

 「それは困りますね。

 ちょっとあなた、住所と名前を教えてもらえますか?」

 ノエルは制服の胸ポケットから手帳を取り出し、メモの準備を始める。完全に職務質問の体勢だ。

 (この女、新人なのか…? この程度で職質なんて、あり得ねぇだろ…)

 ラグナは密かに苦笑したが、ノエルに逆らうことなく質問に答えることにした。美少女だろうが新人だろうが相手は警官、ないがしろに扱うと公務執行妨害などと指摘されて、余計に時間を取られかねない。ここは素直に従った方が得策だと判断したのだ。

 「名前は、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。

 住所は、この階層の第27区画の…」

 マンションの自室の住所を正確に伝えると、ノエルはこちらをのぞき込むようにして新たな質問を浴びせる。

 「それは、1人暮らしなんですか?」

 (防犯登録に1人暮らしかどうかなんて、関係あンのかよ…)

 不満がチクリと胸の内を刺すが、やはりここは素直に従う。

 「はい、そうッス」

 さっくりと答えると、ノエルは律儀にその内容をメモる。その行動がどう見ても徒労としか思えなかったので、ラグナの苦笑いがますます大きくなる。

 そんなラグナの様子に逆襲するかのように、ノエルはキビキビした様子で三度目の個人情報探りを行う。

 「生年月日は?」

 (…だから、関係ねぇだろって)

 胸中ではしっかり突っ込みつつも、表面(おもてづら)では素直に、正確に個人情報を答える。

 この頃、道路を併走する線路上の踏切が、電車の接近を知らせるカンカンという警告音が発し始めた。

 (うるせぇな…)

 ノエルの質問にうんざりし始めていたラグナは、踏切の音を拒絶するように、耳の穴に小指を突っ込んで耳を掻く。

 そんな最中、ノエルの質問は更に続く。

 「職業は? 何をしてるんですか?」

 「職業は…まぁ、魔物ハンター」

 魔物ハンター、と繰り返しながらノエルがメモを取り終えると。次に桜色の可愛らしい唇の合間から発した言葉は、ラグナが全く予想だにしなかったものである。

 「通りでですね。あなた、なかなか良い体をしてると思いましたよ」

 ノエルが職務に堅くなっていた表情をフッと和らげると、さり気なくラグナの二の腕をコートの上からタッチしてくる。

 「…? ありがとうございます」

 誉められたことに一応は感謝を述べるものの、何故このタイミングでこんな話題が出るのか理解できず、ラグナは小首を傾げる。

 しかし、そんなラグナの様子などかまわずに、ノエルはこの話題を更に掘り下げる。

 「魔物ハンターってことは、結構トレーニングしたり、スポーツで体を鍛えたりしてるんですか?」

 ガタゴトと騒がしく電車が通り過ぎてゆく中で、ラグナは困ったように後頭部を掻きながら答える。

 「はあ…。スポーツはあんまりやらないッスけど、トレーニングはまぁ、一応…」

 「トレーニングは、自宅でやってるんですか? ジムに行ったりします?」

 「んー…腕立てとか腹筋、背筋なんかは日課って感じで、自室でやりますけど…。ジムには、休日にやることがないと、暇つぶしに行く感じスかね」

 「ジムでは、どんなトレーニングをしてます? ベンチプレスとかやったりするんですか?」

 「ベンチプレスは、あんまり…。ランニングマシンとか、エアロバイクでまったり過ごす感じスかね」

 「へぇー! そうやって、その肉体を保っているワケですか」

 ノエルは言葉遣いこそ警官らしい丁寧な物言いだが、もはやその雰囲気は完全にはしゃぐ女学生のそれである。可憐な童顔と相まって、並の男なら思わず顔を緩ませてしまいそうなノリだが…ラグナの顔は一向に緩まない。それどころか、時が経過するにつれて、表情に浮かべた怪訝の色が濃くなってゆく。

 というのも、ノエルが職務とは全く関係ないはずのこんな話題すら、逐一しっかりとメモに記録しているからだ。

 (…なんなんだ、この婦警…。オレのトレーニングの話なんて、報告書に記載するようなモンじゃねぇだろ…)

 ラグナの疑問を全く意に介さず、ノエルのノリは止まらない。電球にパッと灯りが点ったような、満面の笑みを見せながら、更に更に話を掘り下げようとする。

 「日課にしてるトレーニングがあるって言ってましたけど、毎日やってるんですか? いつごろやってるんです?」

 「仕事ある日なら、帰りが遅くない限り、いつもやってますけど…」

 (…もういいだろ)

 ラグナは留まる気配を見せない婦警の会話に対して、小さく溜息をつくと。ノエルの次の言葉が唇から滑り出すよりも早く、自らの言葉でノエルの舌に釘を刺す。

 「スンマセン、今急いでるんで。もう行っていいッスよね?」

 本題だったはずの防犯登録の話は、もはや遙か遠くに行ってしまった。今のやりとりは、単なる世間話に過ぎない。だから、こちらから会話を切っても問題ないだろう…そう判断しての発言であった。

 するとノエルは、開いた手のひらを口元に当てて、しまった、といった仕草を見せる。そして恥ずかしそうにペロリと舌を出して笑う。

 「すみません、話こんじゃって。もう行っていいですよ。

 ただし!」

 ここでノエルはキリッと顔を引き締め、人差し指を突き立てた右手をラグナの眼前に突きつけて、念を押す。

 「防犯登録、きちんとやってくださいね」

 「はい、わかりました」

 ラグナは即答すると、早々と自転車のサドルに跨(また)がる。

 このノエルという警官、非常に可愛らしいので見ている分には癒されるが、口を開くと魅力が半減する残念な美少女だ――ラグナはそう結論づけていた。

 ラグナはノエルに軽く頭を下げて見せると、早々とペダルを漕いでその場を後にする。漕ぎ出してからは、もう二度と、背後を振り返りはしない。

 しかし。

 1人その場に取り残されたノエルは、直線道路の遠方に向かって小さくなってゆくラグナの背を、じっと見つめている。

 いつまでも。

 いつまでも。

 いつまでも…。

 

 ――さて、この空間を一体、"何室"と名付けるべきであろうか。

 大人1人が立ったままの状態でやっと入り込めるような、狭い空間。四方は薄汚れた木製の壁で取り囲まれている。

 空間の中は、異様な臭いで満ちている。屎尿の気味悪い塩味が聞いた汚臭や、発酵したような酸味を含んだ饐(す)えた悪臭。それが強烈に混合したこの臭いは、汚れきった公衆便所を思わせる。

 しかし、この空間において一番特異な点は、臭いではない。――壁である。

 木壁の上には、写真がいくつもいくつも張られている。まるで、壁紙のような有様だ。これらの写真には、様々な場面が映されているが、そのいずれにも1つの共通点がある。それは、写真の中心を飾る被写体だ。

 その被写体とは、なんと、ラグナである。

 しかし、どの写真のラグナも、カメラに視線を向けてはいない。それどころか、全くカメラの存在を意識していないようで、ごくごく自然に顔をあらぬ方向へ向けている。これが1つ2つの写真なら、そういうピンナップ写真であると理解できるかも知れない。しかし、優に100を越えるような数の写真全てがこのような有様なのだから、どうにも違和感がある。

 しかし、この違和感には確固とした、おぞましい理由が存在する。それは…これらはすべて、盗撮による写真である、ということだ。

 そしてこの邪悪な写真に囲まれて、ハァハァと荒く桃色の吐息を吐き出している者がいる。

 カグツチの女性警官、ノエル=ヴァーミリオンである。

 彼女はこの異様な空間の主であり、これらの盗撮写真の撮影者でもある。

 警官の制服をまとったままのノエルは、剥き出しの肩を大きく上下させながら吐息を繰り返しつつ、壁中の写真を舐めるように視線を這わせる。美しい緑色の瞳には夢想の靄(もや)がかかり、頬はリンゴのように紅潮している。そして、だらしなく半開きになった口元からは、飢えた獣のように涎(よだれ)が筋を描いている。

 (ラグナ=ザ=ブラッドエッジ…ラグナさん…それが、あの人の名前…!)

 ノエルはこれまで、盗撮の被写体の名前を知らなかった。ある時に下層地域でラグナの姿を人目見て一方的に恋慕の情を抱き、地域巡回の職務をこなしながら彼の後を追い回しては、ひたすらにカメラにその姿を収め続けてきた。その無機質にして五里霧中な行為の中に、名前という一筋の光明がもたらされのだ。夜ばかりの国に住む住民が始めて朝日を見た時のような鮮烈な興奮が、ノエルの胸の内で暴れている。

 しかも、きらめく刺激の光明は、これ1つだけではない。

 (あの人と…言葉を交わしちゃった…! しっかりと顔を合わせて…息のかかる距離で…2人の息を絡めて…!)

 他の誰に対してでもない、まさにノエルに向けて放たれた一言一句であるという事実が、彼女の興奮の炎に激しい燃料を注ぐ。

 盲目の恋慕を抱くノエルは、勿論、ラグナがうんざりとしていたことなど全く関知していない。そもそも、彼を追いかけ回すという行為そのものが、ラグナの迷惑を一片も顧みない、自己満足でしかないのだから。

 「ラグナさん…私だけを見てくれた…ラグナさん…!」

 高まる興奮は、独り言を胸中に留まらず、口をついて闇の世界に放つ。だが、それだけでは到底、ノエルの魂魄に灯った欲情の炎は鎮まることなどない。

 ノエルは欲情に突き動かされるまま、丈の短いスカートをめくり上げて、純白のパンツ腰に勃起したクリトリスを、ジュクジュクと濡れた秘裂をいじり出す。

 「あ…はぁぅ…ラグナさぁん…」

 自身の指使いをラグナの愛撫のように妄想し、熱く湿った淫声を上げる。秘裂からジュワジュワと愛液が溢れ出してパンツをビッチョリと濡らし、腿へツツーッと淫液が幾筋もの流れとなって垂れる。

 「ラグナさぁん…もっと、もっとぉ…」

 濡れたパンツをズルズルとずり下げ、ビチョビチョに濡れた金色の茂みに覆われた女陰を露出させる。そして、身の内を焦がす昂った切なさを臀部にぶつけ、ガクガクと痙攣するように腰を振るう。

 一方で、ノエルの指使いは更にエスカレート。秘裂をなぞるだけであった指は、ズプゥッ、と膣内へと潜り込み、グニュグニュと自らの淫肉をかき混ぜる。

 「だめぇ…ラグナさん…はぁぅ…ラグナさん…そこぉ…」

 激しい自慰行為は、ノエルの思考の中ではラグナとの激しいセックスに置き換わっているようだ。まるで男の陽物を貪る妖女のように、更に更に激しく腰を振る。

 それからしばらく、ラグナの名を熱病に浮かされた重病人のように譫言(うわごと)とし繰り返し続けると…突然、ブルリ、と電撃を受けたように臀部が激しく震える。指を受け入れていた女肉がキュゥッと締め付けられ、切なく熱い衝動が股ぐらを煮立たせる。

 「ラグナさああぁぁん…っ!」

 ノエルは、この狭い異様な空間を激震させるような絶叫を上げて背をのけぞらせ、ガクガクと身体を震わせながら、オルガスムスに達する。

 この暴力的な快楽によって膀胱の緊張が蕩け、尿道を下って金色の排泄液がジョボジョボと放物線を描いて解き放たれる。

 噴水のような排尿はノエル自身の手を生温かくビッショリと濡らしつつ、床すれすれに張り付けられた1枚の写真に激突する。他の写真よりも2周りほど大きなそれには、アップで写ったラグナの精悍な顔立ちがある。魔物を狩る仕事に望む寸前の、覚悟と勇壮さに満ちあふれた表情だ。それはノエルのお気に入りのショットの1つである。

 この写真、ノエルの排尿を受ける前から汚れた黄土色に染まっていた。そう、ノエルは自慰の度に、この写真に対して尿や潮噴きをブッ掛けているのだ。

 …こうして排尿を終えたノエルは、未だ興奮冷めぬ荒い呼吸を繰り返しながら、新たな汚れを受けたラグナの写真をじっと見つめると…ニンマリと笑みを浮かべる。それは、法を守る警官ではなく、完全に狂気に支配された犯罪者の嗤(わら)いだ。

 (またラグナさんを、汚しちゃった…)

 申し訳なさではなく、背徳行為へ愉悦と恍惚による享楽の笑み。そのおぞましい楽しみを更に貪るかのように、ノエルは自身の尿にまみれた指を口元に寄せると、汚臭を放つそれをチュルチュルと舐め始める。

 汚らわしい塩気を味わいながら、ノエルの興奮が再び胸中で燃え上がる。尿と愛液で濡れた茂みから、更なる淫粘液がドロドロォ…と溢れ出す。

 (ダメ…今日は止まらないよぉ…ラグナさぁん…!)

 ノエルは再び臀部を激しく振りながら、指で女陰をいじくり回し、淫裂に指をグイグイと食い込ませ、オルガスムスを求める。

 ――こうしてノエルの変態的行為はいつまでも、いつまでも続き、深夜の闇の中へと溶け込んでゆく…。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 魔物ハンターの仕事を終えたラグナはその日、いつもよりもかなり遅く帰宅した。

 前述した通り、夜間の魔物との交戦は危険であることもあり、魔物ハンターの現場業務は日没と共に終わりを迎える。その後にやらねばならぬ仕事があるとすれば、報告書などの地味な事務仕事である。身体を資本とする魔物ハンターの諸兄にとっては苦手な業務であり、嫌々ながらのダラダラ残業になりがちである。

 しかし、今回のラグナの遅い帰宅は、これが原因ではないようだ。何より、弾んだ鼻歌を口ずさむほどに上機嫌なのだから。

 というのは、業務終了後、ラグナは久しぶりにレイチェルと時間を過ごせたからだ。

 

 仕事が終わり、最下層から帰路についた直後のこと。携帯端末にレイチェルからのメールが届いた。

 内容は、久しぶりに会いたいから、上層地区の行きつけのレストランに来て欲しい、とのこと。

 ラグナはすぐにレイチェルに通話し、了解の意を伝えると、足早に上層地区へと向かった。

 上層地区は上流階級の住まう土地だけあって、住宅地も繁華街も上品な雰囲気が漂っている。そして行きつけのレストランもまた、その例に漏れない。まるで映画のワンシーンに出てくるような豪奢な作りで、天井にはシャンデリアがぶら下がり、金色の刺繍が施された純白なテーブルクロスが掛けられた丸テーブルは中世の晩餐会を想起させる。

 この光景の中にしっくり来る衣装は、高価なスーツや燕尾服であろう。ラグナのラフな衣装は非常に浮いて見える。それでもレストランの店員はラグナを見ても顔をしかめることなく、にこやかな笑みで迎えるとテーブルへと案内する。店員たちは、ラグナの顔を見知っており、事情を万事了解しているのだ。

 それもこれも、今から会う女性親友、レイチェルの影響力に他ならない。彼女の口添えがなければ、相方がいくら上層地区の人間であろうと、ラグナは店から摘(つ)まみ出されていたであろう。

 さて、案内されたテーブルは、上層地区の美しい夜景が一望できる窓際に位置していた。そしてこのテーブルには、すでにレイチェルが席についていた。彼女はムスッとした露骨に不機嫌な表情で、窓の向こうの夜景を睨みつけていた。

 その不機嫌は、別にラグナに向けたものではない。それをしっかりと覚ったラグナは、後ろめたさを感じることなく、優しい笑みを浮かべると、わざと音を立てながら椅子を引いてみせる。

 するとレイチェルは、ハッと視線を夜景から外してラグナに向けると、ちょっとツンと気取った目つきで笑みを浮かべる。一見すると上から目線な嫌味を覚えてしまうような仕草だが、彼女の真紅の瞳の奥には柔和な安堵の輝きが灯っている。それをよく汲み取ったラグナは、イライラすることもなく、笑顔のまま席についた。

 「ごきげんよう、ラグナ。元気だったかしら?」

 ガラスのような澄んだ美しい声音でレイチェルが尋ねると、ラグナは自らの胸板を拳でトントンと叩き、ちょっとおどけた様子で答える。

 「見ての通り、ピンピンしてるよ。

 それより、お前のほうこそどうなんだ?」

 「…正直、あまり元気じゃないわね」

 レイチェルの顔に、再び不機嫌な曇りが宿る。ラグナもそれにつられて眉根にしわを寄せる、頬杖をついて問うた。

 「何かあったのか? 最近、連絡がなかったから、心配してたんだけどよ…。長風邪でも引いたか?」

 「心配してくれたの? 良い子ね、ラグナ」

 レイチェルがふっと笑みを浮かべる。その笑みは言葉通り、頼りになる弟を誉め称えるような表情である。

 実際、レイチェルはラグナより年上だ。背丈の差が大きいため、他人にはよく逆だと認識されがちであるが。

 年上とは言え、ラグナはレイチェルからの子供扱いを快くは思っていないが、今回は彼女の気持ちを慮(おもんぱか)って、抗議を口から出さないようにする。

 するとレイチェルは、ラグナから続きを促されるまでもなく、笑みを消してふくれっ面を作ると、己の不機嫌さの理由を愚痴として語り出す。

 「連絡をする暇がなかったのよ。というか、暇が出来ないように、ガンガンに予定を突っ込まれたのよ。

 私の父ときたら、どうしても私に企業経営を継がせたいらしいわ。私は全然興味がないというのに、興味のなさを見せつけるほど、父はムキになって私に仕事を手伝わせてくるのよ。

 通信端末も取り上げられてしまうし…ようやく今日、返してもらった…っていうか、無理矢理奪い返したのよ」

 レイチェルの家は富豪であると先述したが、単なる資産家ではなく、上層地区でも名の通った大企業の経営者の家系である。

 それはともかく。レイチェルの愚痴を聞いたラグナは、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、おどけた調子で答える。

 「お前は遊んでばかりの放蕩娘だもんな。少しくらい労働に勤しんでもバチは当たらないだろ」

 するとレイチェルは、ラグナのおどけに対して真っ向から不快感を浮かべて抗議する。

 「あんなもの、労働なんかじゃないわ。ただの身体拘束、拷問よ。

 起きてから寝るまで、ずーっと仕事の話ばかり。食事だって、父の取引相手との会食に同席させられて、安らぐ間なんて一瞬たりともなかったわ」

 必死に語るレイチェルだが、ラグナは彼女の言う"起きてから寝るまで、ずーっと仕事の話ばかり"というのは誇張だろうと判断する。レイチェルは不愉快なことを口にするときは、往々にして誇張する傾向にあるからだ。

 だからといって、ラグナはそのことを指摘してレイチェルの機嫌を損ねるような真似はしない。むしろ、その真逆の行為に及んだ。

 すなわち、隠し持っていたプレゼント用に包装された小さな箱を取り出し、テーブルの上に置いたのだ。

 「そんな、拷問みたいな労働を乗り切ったレイチェルお嬢様に、オレからのプレゼントだ」

 この流れは、レイチェルにとって全くの予想外だったのだろう。きょとんとした表情を作ると、真紅の瞳が箱に釘付けになる。

 「え…これは?」

 「前に会った時、お前言ってたろ? これを買え、ってさ。

 だから、買っておいたんだよ。あのコサージュ」

 「…ホントに?」

 レイチェルは素早くプレゼントに手を伸ばすと、丁寧に包装を解いて、無色透明なプラスチック製の箱を剥き出しにする。その箱の中には、真紅の花びらと漆黒の葉を持つゴシックな雰囲気のコサージュがあった。

 レイチェルの瞳がわっと開き、全面に出ていた不愉快さを押しのけて、大輪の花のような笑みが咲き誇る。一等星のようにキラキラと輝く瞳でしばらくコサージュを眺めたのち、素早くラグナに視線を向けると、珍しく興奮を含めた言葉を漏らす。

 「なんて良い子なのかしら、ラグナ…! 私の言葉を覚えてくれてただけでなく、私のために財布を開いてくれるなんて…!」

 この後に及んでも、お高く止まった様子で子供扱いしてくるレイチェルであったが…。

 「ありがとう!」

 お高い仕草も何もかもかなぐり捨て、極々自然な極上の笑みを浮かべ、無邪気な子供のように感謝を述べてくる、レイチェル。花も恥じらうようなその可憐さに、思わずラグナの頬が熱を帯びる。

 ――本当に、極々たまにしか見せない、天使の笑み。それを目にしたラグナは、親友の垣根を越えて、恋人同士という関係になりたいと考えてしまう。

 だが、ラグナはこれ以上の関係に進むように突っ込むことを避けた。振られるだけなら別に構わないが、今の関係が壊れてしまうのを恐れたからだ。

 ゆえにラグナは、「オレもちっとは気配り上手になっただろ?」と軽口を叩くだけに留めたのであった。

 その後、ラグナとレイチェルは、レイチェルの父の愚痴やら、ラグナの魔物ハンター業の冒険譚やらを語り合い、面白可笑しく時を過ごしたのであった。

 

 その楽しさの余韻のまま帰宅したラグナは、鼻歌を口ずさんだまま、服を脱ぎ捨て始める。

 今日のカグツチ中層地域は、蒸し暑い。太陽の光が直接入ってこない中層地域の擬似的な天候は、環境管理局が調整を行っているのだが、今日は担当者が居眠りでもしてるのか、というほど不快指数が高い。ちなみに上層地区はそんなことはなく、快適な温和な気候であった。

 ラグナは羽織ったコートだけでなく、Tシャツやズボンも脱ぎ捨てて、トランクス一丁のほぼ裸姿になる。1人暮らしの男だからこそできる、ズボラながら開放感に溢れた姿だ。

 ラグナの裸体は、英雄を模した大理石の彫刻のような無駄なく引き締まった鋼の筋肉に覆われている。

 この身体を惜しみなく世界に披露しながら、お気に入りの真紅のコートは部屋の隅のコートハンガーへ、その他の脱ぎ捨てた服はコインランドリーへ持って行くビニール袋の中にブチ込む。そして気温と、レイチェルとの晩餐で嗜んだアルコールで火照ったからだを、ベッドの上にドッカリと横たえた。コットンのシーツの感触が冷たくて気持ちいい。

 そのままラグナは、枕元に無造作に放り投げていたリモコンを取り上げると、テレビをつけて録画番組を再生する。

 再生された番組は、『マコトちゃんのやってやるっち!』と言う深夜番組である。内容は昨今のカグツチで人気急上昇中の人気アイドル、マコト=ナナヤが様々なチャレンジをしてみせるというバラエティ番組だ。チャレンジの内容は難易度が理不尽なほどに高いものばかり、失敗すると大抵はエッチな絵面になる。故に、男性視聴者から高い支持を得ており、ラグナもその例に漏れない。

 「はーい、マコト、行っくよー!」

 画面の中で元気良く手を挙げて宣言する、マコト。程良く鍛えられた肢体に抜群のプロポーションを持つ身体が、男心をくすぐってたまらない。特に、プルンプルンと躍るスイカにも形容できそうな大きさの乳房は、どんなスカした男の鼻の下も伸ばしてしまうだろう。更にマコトは、その乳房の南半球を露出しているような格好をいつでもしている。興奮しやすい者なら、鼻血を噴水のように噴いて卒倒することだろう。

 そんなマコトの身体には2つ、特異な点がある。それは、頭についたリスの形の耳と、臀部についた同じくリスの形のもふもふした尻尾である。彼女は"獣人"と呼ばれる種族なのである。

 この世界において、"獣人"という存在は差別の対象者として認知される。「畜生に近い存在」などと酷評され、人類扱いされずに、過酷な貧困環境に放り込まれることがしばしばだ。そんな彼らがテレビに映るなど、本来ならってはならない。

 その点から鑑みると、マコトは非常に異質な存在であるといえる。そして、あらゆる人種から人気を集める彼女は、獣人にとっては希望の象徴だ。

 ラグナはそんな背景もひっくるめて、マコトを応援している。

 今回のマコトは、スライムで満たされたプールの上にある平均台を渡るというチャレンジをやらされていた。途中、台がグラグラ動いたり、ボールが弾丸のように飛んできたりと、やはり達成難易度は非常に高い。何度もスライムプールに落ちては、「ヌルヌルするぅ~!」と身体についたスライムを気味悪そうにこすり落としている。

 当のマコトにとっては、仕事とは言え、かなり辛い状況であったであろう。しかし、ラグナを含めた視聴者の男性陣にとっては、素晴らしい目の保養に他ならない。

 「…やっぱカワイイよな、マコトちゃん…」

 ラグナがニヤけた声で独りごちた…その直後。

 「ああ~っと、これも惜しいぃ~! マコトちゃん、もう後が無くなってきたぞぉ~!」

 テレビモニターにドアップで映った番組司会者を目にした瞬間、ラグナの眉根が不機嫌に深いしわを刻む。

 上物の漆黒のスーツに、これまた漆黒の粋な帽子を目深に被った、狐目をしたヒョロリとした司会者。彼の名は、ハザマ。嫌味ったらしい言い回しと毒舌を持ち味としており、そこが何故か主婦層を中心にウケているようだが…ラグナは生理的に、この手の性格を嫌悪している。

 マコトがメインを張っているこの番組は大のお気に入りだが、司会者だけはどうにもいただけず、しばしばイラっとさせられる。

 「テメェなんかいいから、マコトちゃん出せよ!」

 こめかみに青筋を立てながら、ラグナが本気で怒りの声を上げると。その声が通じたかのように、場面がパッと切り替わると、機嫌を損ねさせてしまったお詫びと言わんばかりにセクシーなマコトのアップがモニター一杯に映る。

 身につけたきわどい水着の内側にまで入り込んだヌルヌルのスライムを、水着をたくしあげながらシャワーで流すマコトの姿が、惜しげもなくじっくりと放映される。ゴールデンタイムならば、即座に教育団体から苦情が入りそうな過激なシーンだ。

 豊満な胸を隠すビキニを持ち上げると、綺麗なピンク色をした乳輪の端がチラリと覗く。シャワーでびしょ濡れになった股間がアップになると、縦にくっきりと浮かびあがるスジと、その上でチョンと立ち上がったクリトリスの突起が見える。

 放送倫理委員会が騒がなかったのか、と疑問に思うより、ラグナの頭の中は湯気が立ちそうな興奮で一杯になる。

 (やべぇ…ムラムラしてきた…)

 こんな性的に過激なシーンを目にすれば、健全な男性ならば否が応でも反応してしまう。ラグナもまた、その例に漏れない。トランクスの中でムクムクと怒張が起き上がり、窮屈そうにテントを張る。

 そして、ビンビンに張りつめた肉茎の中心、尿道を貫くようなツンとした切なさが脳天にまで駆け抜ける。

 (…たまんねぇ…)

 ハァ、ハァ、と浅く早い呼吸を繰り返しながら、ラグナは素早く上体を起こしながらトランクスをずり下げる。すると、鍛え抜かれた素晴らしい肉体に相応しい、隆々とした立派なイチモツが露わになる。そんなイチモツを垂直に立たせるように胡座(あぐら)をかいてベッドの上に座り込むと、切なくピクピクと震える肉茎に右手を添え、リズミカルに上下させる。

 一方、モニターの中のマコトの姿が更に艶やかさを増す。スライムを一度徹底的に洗い流すために、入浴し始めたのだ。さすがに水着のままでの入浴であるが、湯の熱に火照って頬を蒸気させ、汗で濡れた髪が健康的に鍛えられた首にはりついている様子が、たまらなく色っぽい。

 (反則的な可愛さだなぁ…マコトちゃん…!)

 ラグナはゴクリと固唾を飲み下し、より一層激しく、イチモツを扱い始める。

 

 ラグナの痴態は、誰の目も入らぬ密室の中で、秘密裏に進行してゆく…はずであった。

 だから、ラグナは露ほども考慮してはいなかった――自身の痴態をじっくりと、ねっとりと覗き込まれているなどということを。

 

 "視線"は、ラグナの部屋のベランダから、カーテンの合間から亡霊のようにひっそりと息を潜めつつも、悪霊のような爛々(らんらん)とした眼光でラグナの痴態の一部始終を見つめている。

 この"視線"の主こそ、ラグナの隣室の住人であり、邪に堕ちた英雄、そしてラグナのおぞましき実弟であるジン=キサラギである。

 「ああ…兄さん…」

 ジンはラグナの痴態に対してうっとりとした熱を帯びた吐息を吐きながら、ゆっくりと身体を上下させる。この時、ジンの股間からはビンビンにそそり立ったイチモツが取り出されており、真っ赤に腫れ上がった亀頭をガラス窓に摺(す)りつけていたのだ。先端からヌルリと吹き出るカウパーの糸をガラスに残しながら、ひんやりした感触を楽しみつつ、スリスリと亀頭を擦り続ける。

 一方、ラグナの手淫行為は更にエスカレート。ペニスをシゴく腕の動きは更に激しく、乱暴なものになる。ガラス窓越しのためジンは聞き取ることができないが、ハァッハァッハァッ、と極短い熱い吐息を連発しながら、大きく肩を上下させて呼吸を繰り返す。興奮が段々と、絶頂に向かっている証拠だ。

 「兄さん…ああ、素晴らしいよ、兄さん…」

 ジンもまた、ラグナの興奮に呼応するように、行為をエスカレート。ヌパァ…とカウパーの太い糸を引きながら亀頭を窓から離すと、ビキビキに血管が浮き出た肉茎を右手で包み、激しくシゴき続ける。

 そして…ラグナの眺めているテレビモニターの中で、マコトが大股を開いて平均台の上を転がり、くっきりと女陰のスジを水着越しに見せつけた、その瞬間。

 「ヤベェッ!」

 ラグナは鋭く、切ない嬌声を上げたと同時に、近くにあったティッシュボックスから慌てて数枚のティッシュを取り出すと、いきり立ったイチモツに被せる。直後、ビュルビュルビュルッ、と先端から大量の精が噴出し、ティッシュの中で肉茎にからみつく。

 「ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」

 しばし続く強烈な射精に、ラグナは身体を小刻みに震わせながら、前傾姿勢で荒い肩呼吸を繰り返す。

 その絶頂姿を目にしたジンは、一瞬目を見開き、それからうっとりとした恍惚に目尻をだらしなく垂らす。

 「ああ…兄さん…イク姿も素晴らしいよ…!」

 蕩けた声を上げながら、ジンもまた達する。ドビュルルルッ、と吹き出す白濁は、ラグナのように遮るものもなく、一直線にガラス窓に放出される。激しい勢いで粘着した白濁は、汚らわしい飛沫をビチョビチョと飛ばす。

 「ハァ~、ハァ~、ハァ~…」

 ジンは恍惚の桃色に染まった長い吐息を吐きながら、ベチャベチャといまだに残滓をたれ流すペニスをそのままに、ラグナの姿を目に焼き付け続ける。

 …しばし、窓の内外で呼吸だけが響く惚けた白い時間が訪れる。

 先に動きを見せたのは、ラグナだ。絶頂の快楽が過ぎた後に訪れる、妙に冷静な思考にとりつかれたラグナは、キビキビとした動作でティッシュを丸めてゴミ箱へ無造作に投げ捨てる。そして手早くトランクスを上げてイチモツを隠すと、何事もなかったようにベッドで横になり、録画番組の続きを見るのであった。

 しかし一方で、ジンは自慰の快楽が過ぎた後も、冷静さが訪れることなく思考は熱を帯びて蕩け続けている。ラグナの精をくるんだティッシュの入ったゴミ箱をじぃーっと見つめると、狂人のように口角をつり上げ、掠れた呟き声を誰ともなしに放つ。

 「兄さん、ここに僕の欠片を残して行くよ。

 だから兄さん、僕は兄さんの欠片を必ず貰いに行くからね…」

 その言葉はつまり、ゴミ漁りの予告を意味している。

 そんな言葉を残した後、ジンは宵闇に溶け込むようなヌルリとした動きで音もなく動き出し、ベランダを伝って自室へと引き返してゆく。

 ガラスの上で未だにドロリと流れ落ちるジンの精が、邪淫の行為の残り香をいつまでもいつまでも、放ち続けるのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 それから、数日の時が流れた。

 その間のラグナの生活は、非常に充実したものであった。仕事では、上司にして師である獣兵衛を常に唸らせるほどの大成果を上げ続けていたし、プライベートでは、レイチェルとの甘く楽しい時間を存分に楽しんでいた。その一時一時を経るごとに、ラグナの身体には疲労が溜まるどころか、活力が満ちてゆくようだ。

 ラグナの出で立ちは、以前からも"完璧な男性"という言葉がよく似合うような、魅力に溢れたものである。今ではそこへ更に、爽やかな自信の輝きが加味され、その魅力は太陽のように輝かんばかりだ。その優しくも力強い光に当てられた女性たちは、彼に視線をチラリと向けずにはいられないほどである。

 一方で、おぞましき存在であるジン=キサラギとノエル=ヴァーミリオンもまた、ベクトルの方向はかなりアレだが、充実した生活を送っていた。

 前者はラグナの洗濯物やゴミを漁りを通じて、後者は盗撮を通じて、唾棄すべきコレクションを充実させていった。己の成果に恍惚となった彼らは、それぞれ自慰に勤しんでは、非生産的な悦楽を貪り、邪な笑顔を浮かべるのであった。

 そんな中…ただ1人、充実とは全く無縁の生活を悶々と送っている者がいる。

 人造生命体にして郵便局員の、ニュー・サーティーンである。

 

 これまでのニューの人生においての幸福の絶頂は、間違いなくラグナに直接書類を届けにいった時点である。その後は職場に戻った彼女には、上司からの厳しい叱責が待っていたが、それが全く苦にならないほどに彼女の心は浮き躍っていたものだ。

 それからしばらくは、ニューは再びラグナと出会えることを望み、それだけを人生の希望に抱いて、残酷なほどに無味乾燥な日々をなんとかやり過ごしてきたが…。

 待てども待てども、ラグナと接点を持てる瞬間はやってこなかった。

 それどころか、相変わらずサボリの多いニューへの怒りを爆発させた上司は、彼女の担当地域を変更。ラグナの住居を含む地域からはひどく遠い、辺境とも言える過疎地域に飛ばされてしまったのだ。

 これによって、ニューは唯一の人生の希望――ラグナとの再会を、失うような形となってしまったのだ。

 今、ニューに残されたのは、欠伸することすら億劫になりそうな単調さと、上司の冷酷なまでに厳しい視線だけである。

 (…私は、どうして生まれて来たんだろう…)

 自身が操るスクーターの音ばかりが空しく響く、廃村同然の閑寂とした過疎地域の中、何度そんな疑問を抱いたことであろうか。

 その破滅的な自問は日を追うごとに思考を圧迫するまでに膨らみ、ついには額がググッと押されるような奇妙な頭痛を覚えるまでに至ってしまう。明らかに、過度なストレスによる症状である。

 …そして、十数度と迎えた絶望的な朝のこと。

 (私…もう…限界だよ…!)

 制服を着込んでスクーターに跨(また)がり、いざ職場に向かおう…というところで、精神がけたたましい悲鳴を上げた。

 そして途端に激しく痛み出す、頭。

 ハンドルに額を押しつけて、しばらく伏す格好を取り、無為の時間を過ごすこと約10分。

 突如、ニューがバッと身体を上げる。その表情には凄みの効いた陰に染まっており、瞳にはギラギラとした反抗の輝きが灯っている。

 (…サボってやる! 今日一日丸ごと、サボってやる!

 普通にやっていても、どうせ怒られるんだもん! 今更無断欠勤して怒られたところで、何も変わらないよ…!)

 決意を固めたニューは、勢いよくスクーターのエンジンをふかすと、繁華街めがけて一直線に走り出したのであった。

 

 嫌悪感甚だしい職務を放棄した時の解放感ときたら、ニューにここ最近で最高の興奮をもたらした。

 上司から預かっていた緊急連絡用の通信端末をドブに放り込んだ時など、独りでケタケタと大笑いしてしまうほどテンションが上がった。

 しかし…繁華街に着いたものの、何をするか具体的に決めていなかったニューは、かなり途方に暮れる。サボりを繰り返して来たため、懐具合は非常に寂しく、おちおち遊ぶこともできそうにない。

 …仕方がないので、ウィンドウショッピングでもしながら、ブラブラと街中を歩き回ることにする。

 (…なんか、普段とやってることがあまり変わらないなぁ…)

 ハァ、とため息をつきながら、とある交差点の横断歩道を渡っていた、その時であった。

 彼女に、久々の奇跡が訪れる。

 

 向こう側からやってくる人混みの群に何気なく視線をやった、その瞬間…ニューの瞳がピタリと静止すると共に、満月のように丸くなる。

 限界まで拡張した瞳孔の中央に映っているのは、1人の男の姿。

 真紅のコートに、ハリハリとした銀髪。神秘的な輝きを湛えるオッドアイを持つ、精悍な顔立ち。――ラグナ=ザ=ブラッドエッジだ!

 

 ラグナの姿を認識した瞬間、ニューの鼓動がドクンと高鳴り、その衝撃に当てられたかのように横断歩道のど真ん中にも関わらず、ピタリと足を止めてしまう。

 じっくりと見つめる視線の先では、ラグナはニューのことなど眼中に入れず、ひたすら真っ直ぐ前を向いて、大股の足取りで横断歩道を進んでゆく。

 ニューは足を止めたまま、そんなラグナを眼で追い続けていたが。後ろからきたスーツ姿の男に、邪魔だ、とばかりに大きく舌打ちされたことでハッとする。前を向くと、青信号は点滅を始めていた。ニューはそそくさと早足で横断歩道を渡りきると、素早く振り向いて元来た方向を見やる。

 もとい、反対方向へ渡っていったラグナの姿を探す。

 人混みの中に辛うじてラグナの銀髪を見つけたが、彼はやはり後ろを振り向くこともなく、そのまま歩みを進めて後ろ姿を小さくしてゆく。

 ――消えてゆく。あの人も、私の前から消えてゆく。

 ニューの胸中に、とてもではないが耐えきれない、過酷な寂しさが沸き上がる。可憐な童顔は、今にも泣き出しそうな儚さに揺れ動き、実際に目尻には涙の滴が生成されている。

 (ラグナ…ラグナ…ラグナ…!)

 胸中で声を張り上げるが、ラグナの耳に届くワケもない。彼はそのまま曲がり角を曲がって、ついにすっかりと姿を消してしまった。

 途端に、ニューの胸の中で寂しさが爆裂する。無機質に行き交う人混みの中、ポロポロと涙をこぼすが、誰もニューのことなど気にかけてくれる人などいない。

 (なんて…なんて残酷なんだろう、この世界は…っ!)

 苦しい。苦しすぎる。この苦しみから、どうしたら抜け出せるだろうか?

 あの人なら…ラグナなら、苦しみから連れ出してくれるだろうか?

 …いや、彼は一瞥もくれずにどこかへ行ってしまった。手を差し伸べてくれるなど、あり得ない。

 …でも、あの人こそが、私にとっての唯一の希望だ。

 その希望が離れて行ってしまうからって、そのままみすみす逃がしてしまうのか?

 ――そんな受け身の姿勢は、もうおさらばするんだ!

 (私の希望が、ラグナが、私の方に近寄ってこないのなら…!

 私の方から、掴み取りに行くまで!)

 ニューはゴシゴシと乱暴に涙を拭うと、腕をどけて見開かれた眼には、ギラギラと燃え盛るような決意に満ちている。

 もう、ニューは立ち止まらない。立ち止まってなどいられない。

 それまでの静寂が幻であったかのように、疾風のような素早い足取りで、ニューは歩き出す。

 

 ニューはそのままスクーターの元へ向かうと、エンジンを全開にして一直線に"目的地"へと走り出す。

 "目的地"――それは、ラグナの自室である。

 ニューは腐っても郵便配達員である。道路や順路についてはプロフェッショナルだ。ラグナの住所とて、一度しか行っていないとは言え、バッチリ覚えている。特に、相手は恋い焦がれている憧れの人物なのだから、忘れようったって出来るものではない。

 業務時とは打って変わった真剣な態度で、迅速にして最短の道筋でラグナのマンションに到着する。エレベーターへ向かう足取りもキビキビしていて、まるでこれから採用面接にでも望むような勢いだ。

 同乗者のいないエレベーターで一気に8階まで進むと、迷うことなくラグナの部屋の前までたどり着く。少々古びた金属製のドアが、ニューの眼前にデンと待ちかまえる。

 何も考えずに、ドアノブに手を伸ばして、回してみる。…ガチガチ、と堅い金属音がして回りきらない。当たり前ながら、鍵がかかってるのだ。

 しかし、ニューは諦めない。

 口角をキュッと引き締めると、一気に力を込めてドアノブを回す。瞬間、人工生命体特有の剛力が発揮され、ドアノブはガギン、と悲しげな鈍い音を立て、歪んで外れる。するとドアは降参を告げるように、ギギィ、と鈍い音を立てながら自らゆっくりと口を開く。

 この時ほど、ニューは人工生命体として生を授かったことを感謝したことはなかった。

 もはや阻むものはなくなった。ニューは不法侵入という言葉を全く脳裏に浮かべず、迷いなく室内に進入する。

 以前訪れた時より、室内は片づいていた。あの時はやはり、ラグナは帰宅したばかりだったので、たまたま散らかっていただけのようだ。

 (ラグナのお部屋…! ラグナの匂いで一杯だ!)

 部屋の中央に立ったニューは、爽やかに森林浴でもするように、深い、深い深呼吸をする。スゥーッ、とあからさまな音を立てながら、鼻腔を、肺の中をラグナの残り香で一杯にする。

 「はぁー…ラグナ、いい匂いぃ…」

 誰ともなしにつぶやくニューの顔が紅潮しているのは、深呼吸の力みのためか。それとも、恋慕の相手の残り香に欲情したためか。

 昂(たかぶ)り続ける興奮に促されるまま、ニューはキョロキョロと部屋の中に視線を巡らす。何かもっと興奮出来るものはないかと、キラキラした瞳で探しているのだ。

 数瞬後、ニューの眼が止まったのはラグナのベッドである。

 「あれなら、ラグナの匂いがもっと一杯…!」

 ニューは足早にラグナのベッドに到る。ベッドは入ってすぐ寝れるように状態でキチンと整えられている。その掛け布団をめくると、フカフカした大きめの枕が露わになった。

 「ここで、ラグナが…! ああ…っ!」

 ニューはベッドに盛大にダイブし、枕をギュッと抱える。そして、埋(うず)めた鼻をスンスンと鳴らし、染み着いたラグナの香りを楽しむ。寝汗と男性特有の体臭が混じったその香りは、強烈なフェロモンとしてニューの脳天に突き抜ける。

 「ああ…ラグナぁ…」

 瞼がトロン、と夢見心地で垂れ下がる。頬の肉が融解するかと思うほどに弛緩し、口元がニヘラ、とだらしなく緩む。紅潮した頬の赤みが更に増し、瞳が欲情した雌の湿り気を帯びて潤む。

 「ラグナぁ…」

 譫言のように繰り返しながら、枕に身体を擦り付けて、更にラグナの香りを吸引する。吸い込めば吸い込むほど脳天に、そして股間に突き抜けてゆく、鋭く甘い刺激。

 その刺激に導かれ、ニューの右手がスルリと自らの股間に…薄い茂みに覆われた女陰の割れ目と、プックリと勃起した陰核に延びる。

 イヤらしく蠢く指が滑り込んだパンツは、すでに情欲の体液によってヌルリと濡れている。

 「ああ…っ、ラグナぁ…大好きぃ、ラグナぁ…」

 蕩けた桃色の譫言を繰り返しながら、モジモジと秘裂をいじり、陰核を摘まみ転がす。そうしながら枕に顔を、ベッドに身体をスリスリと擦(なす)り付ける。まるで、そこにラグナの逞しい裸体が横たわっているかのように。

 「んふっ、あふぅん、んあぅ…ラグナ、ラグナぁっ!」

 人差し指と中指の2本をグニュグニュと秘裂に差し込み、未だ健在な処女膜に触れながら胎内をいじり回すこと、約数分。普段から自慰行為などしないニューは、これまで経験したことのない電撃的快楽に飲まれ、容易に絶頂を迎えた。湿ったパンツの中で、ピュピュッ、と少量ながら勢いのよい潮が吹く。

 オルガスムスの電撃にさらされたニューは、クテッと全身から脱力し、浅く早い呼吸を繰り返しながらラグナのベッドに五体を投じる。

 「ラグナぁ…」

 恋慕の相手の名をぼんやりと口にした後、急激に意識を蝕む耐え難い眠気に身を委ね、ニューは重い瞼をゆっっくりと閉じる。

 すぅすぅと可憐な寝息を立てるニューを、ラグナの優しい残り香がふんわりと包んでくれていた。

 

 …そして時は過ぎ…太陽は西に沈んで、空が漆黒に染まりゆく時間帯となった。

 「ふぅー、今日は仕事してる時以上に疲れたなぁ…」

 誰ともなしもぼやきながら、ラグナはマンションのエレベーターに乗り込んで自室のある8階を目指していた。

 それまでラグナは何用で外出していたかと言えば、勿論、レイチェル絡みである。彼女からの頼みで、一緒に上層地域のショッピングモールで買い物をしていたのだ。とは言え、ラグナは何一つ買わず、延々とレイチェルの荷物持ちとしてこき使われてばかりだったのだが。だからこその「疲れた」というぼやきなのである。

 とは言え、今のラグナは語るほどには疲弊した様子でない。というのは、買い物終了後にレイチェルからご褒美として奢(おご)られたイタリアンが絶品だったからだ。その芸術的なまでの味わいに、疲れも苛立ちも吹っ飛んでしまうほどである。

 「"ウサギ"のヤツ、またあの店に連れてってくれねぇかなぁ」

 エレベーターの天井をなんとなしに見上げながら、そんな言葉を口にした途端。エレベーターは目的地に到達したことを告げる「チーン」という小さな音を立てる。

 ラグナは不安も悪寒も抱くことなく、極々自然な足取りでエレベーターを降りて、自室の方に足を向けると…。

 「…ん?」

 怪訝そうに眉根にしわを寄せながら、細めた視線で進行方向を睨む。宵闇のために薄暗い通路の奥の方に、室内から漏れていると思われる光が見えたのだ。

 「なんだ? 扉を開けっ放しにしてるなんて、不用心なこったな」

 この時点でラグナは、光が漏れている部屋が自室であるなどとは、露ほども考えていない。だから彼は、小首を傾げはしたものの、緒戦は他人事だと割り切って大股に歩き始めたのだが…。

 やがて、光との距離が詰まってくると、彼の顔に悪寒と焦燥の青色がサッと浮かぶ。

 「おい…あの光、俺の部屋からじゃねぇか!」

 驚愕のあまり思わず叫んだラグナは、雷撃のように床を蹴って疾風のように自室へと一気に駆け寄ると…絶句する。異常な剛力を受けてねじ曲がり、破壊されたドアノブを目にしたからだ。

 (盗みにしては、荒っぽいにも程があるだろ!)

 ドアの時点でこれなのだから、室内の状況が危ぶまれる。ラグナは儚げな様子で隙間を開いているドアを力強く開き、疾風の足取りで室内へ進入する。

 玄関の通路から室内を見やる。この位置からでは全体を把握することは出来ないが、見える範囲に限っては特に荒らされたような形跡はない。

 だが、安心はできない。

 小走りで通路を通り抜け、室内へと入る。一瞬、全く変化がないように見えてホッと溜息を吐きそうになったが…すぐに、それを飲み下す。

 ――居る! ベッドの所に、見慣れない奴が居る!

 郵便配達員の制服を着込んだ少女がベッドで俯(うつぶ)せになり、枕を抱えて顔を沈めている!

 「ラグナぁ…」

 少女はラグナの登場に全く気づいていないようだ、夢見心地な甘い声を上げて、馴れ馴れしくも自分の名前を呼び捨てで口にしている!

 「おい! テメェ、何やってんだよ、おい!」

 ラグナが電撃のように怒声を上げると、少女はようやく彼の存在を認識した。ビクッと身体を震わせると、一気に青ざめてゆく驚愕の表情でラグナを見つめる。額からはブワリと大粒の汗が噴き出し、その焦燥感の大きさを表しているようだ。

 「おい! どうやって人の家に買ってに入り込みやがったんだ!」

 ニューが人工生命体だとは知る由もないラグナは問いかけつつ、大股でニューの背後に回り込む。

 「ご、ごめんなさい!」

 悲痛な声をあげながらニューは謝罪しながら、枕を離してベッドから起きあがろうとするが…それよりも早く、ラグナがニューの背中からのし掛かり、彼女の動きを押さえ込む。

 「何やってたんだ、テメェ! 人の部屋の中に入ってよ、テメェ!

 おい、郵便屋! 聞こえてのか、おい、コラ!」

 ニューの腕を掴み上げ、背中に回してひねり上げようとするが…彼女の人工生命体特有の剛力が生み出す抵抗によって、なかなかうまくいかない。

 (なんだ、この女…! 小さいナリしてくる癖に、何て力だよ…!)

 悪戦苦闘しながらもニューの拘束をひたすら試みる、ラグナ。ニューは必死に身をよじって抵抗しながらも、「ごめんなさい、ごめんなさい!」と悲痛な声を上げ続ける。

 なかなか進展しない格闘に苛立ちを募らせたラグナは、煮えくり返った思いをぶつけるように、思い切りドスの効いた声をぶつける。

 「おい、金が目当てなんだろ、テメェ!? 残念だったな、オレは枕の下に財布を隠すほど単純じゃねぇんだよ!

 …くそ、この…じっとしてろ、テメェ! 逃げられねぇぞ、テメェ!」

 「違うの! ごめんなさい!」

 必死に訴えては身をよじり続けていたニューであるが…彼女の剛力よりも、生死を賭した修羅場を幾度もくぐり抜けたラグナの経験が、ついに勝る。グイッとニューの両腕を背中へ一気に絞り上げると、自らの腰から器用にベルトを外し、これを用いてニューの両手首を縛り付ける。

 それでも両足をバタバタさせて往生際の悪いニューに、ラグナはこめかみに青筋を浮かべながらコートのポケットまさぐり、通信端末を取り出す。

 「警察に通報してるからな、テメェ!」

 「ごめんなさい! それだけは…!」

 「ゴメンナサイじゃ済まねぇんだよ、テメェ! だから警察呼ぶって言ってんだよ! わかってんのか!」

 「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 なおも繰り返し訴えるニューであるが、ラグナの怒りに対しては火に注ぐ油でしかない。ラグナは片手で器用に端末を操作すると、警察への通話回線を開く。

 「あ、もしもし? もしもし?

 あ、スンマセン、あの、オレの部屋に、へ、変態郵便屋が入り込んでるんスけど! 不法侵入ッスよ、不法侵入!

 今、取り押さえてるんで、すぐ来てください! 住所は…」

 身体の下でモゾモゾと動くニューをグイグイと押し潰しながら、滞りなく通報を終える。通信端末をコートに戻すと、幼子のように儚げな涙粒を浮かべたニューに顔を突きつけ、目一杯凄みを効かせて語る。

 「通報したからな! ブタ箱に叩き込んでやるぞ、テメェ!」

 対してニューは答えることなく、溜めた涙をボロボロと零しながら、観念して目を伏せたのだった。

 

 一方、その頃…。

 婦警のノエル=ヴァーミリオンは、"警邏"という名目でラグナの自宅近くをウロウロと歩き回っていた。

 軽く100を越える数でラグナの盗撮写真を有する彼女であるが、ラグナの住所を知ったのは意外にも先日彼に職務質問をした時である。

 それまでのノエルは、仕事に出掛ける途中のラグナを待ち伏せしては、盗撮していたのである。ラグナは仕事に行く時は、いつも決まった経路を通るため、待ち伏せするのは容易なことであった。

 しかし、ノエルは今や、ラグナの住所を知った。そこで彼女はラグナの住むマンション周辺を入念に調べて土地勘を養い、更なるベストショットを残すべく試行錯誤を繰り返していたのだ。

 この時もまた、そんな疚しい努力のために足を動かしてたのだが…。

 そんな彼女の元に、本部の通信オペレーターから術式による通信が入る。

 「家屋への不法侵入事件が発生。被害者からの通報によると、加害者を現行犯逮捕したとのこと。住所は…」

 初めは聞き流していたノエルであったが、住所を耳にしてハッと面立ちを堅く引き締める。それは、ラグナの部屋の住所そのものであったからだ。

 ノエルはオペレーターの言葉が終わらないうちに、素早く通信に割り込んで応答する。他の警官に、この事案を対応されてはならない。この機会は、ラグナの部屋に合法的且つ自然に進入できる、またとないチャンスなのだから!

 「こちら、ノエル=ヴァーミリオン巡査です! 現在、事件現場の周辺を警邏していました! すぐに現場に向かいます!」

 普通、現行している事件の収拾に当たるの場合は、警官が2人1組で行動するのが基本である。予期せぬ事態の急変が発生した場合、1人では対応しきれない場合があるからだ。ゆえに本部は、ノエルの申し出にノーを突きつけるのが本筋であるはずだが…。

 「了解。ノエル巡査にこの件を任せます」

 本部はあっさりとノエルの申し出を了承する。そこには勿論、本部が納得するだけの事情がある。というのは、ノエルは可愛らしい外見に見合わず、非常に高い戦闘技術を有しており、本部からも高く評価されているからだ。一般人が現行犯逮捕できるような相手ならば、ノエル1人が対処しても十分がおつりが来るほどだろう――そう判断されたのである。

 事案の独り占めに成功したノエルは、その場で小躍りすると、ウキウキした軽い足取りで素早くラグナのマンションに向かう。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 「警察です!」

 自身の立場を高らかに名乗りながら、ドアノブが壊れて開きっぱなしの扉を体当たりで全開にし、ノエルはラグナの部屋へと進入する。

 (ここが、ラグナさんの部屋…!)

 部屋の内装や、染み着いたラグナの香りを楽しみたい衝動に駆られる。しかし、職務を放り出してしまうと、ラグナに冷たい視線を送られるどころか、本部に連絡されてしまうかも知れない。それは望むところではない。ノエルは欲望に必死に蓋をすると、努(つと)めて冷静に部屋の奥へ進む。

 現場はすぐに目に入った。ベッドの上で絡み合う2人――"絡み合う"とは言っても艶やかさは全くなく、男が女性郵便配達員を後ろ手に縛り付け、のし掛かっている。この構図だけを見ると、男の方こそ犯罪者のようにも見えなくはない。しかし、確認を取るまでもなく、ノエルは女性郵便配達員こそがこの部屋の異物であると認識する。なぜなら、男――ラグナがこの部屋の住人であることは、彼女には明白なのだから。

 ゆえにノエルは迷いのない足取りで2人も元に近寄ると、精一杯凄みを効かせた顔で――と言っても、生来の童顔のために迫力はかなり薄いが――女性郵便配達員、ニューを睨みつける。

 「婦警さん、こいつです!」

 ラグナに指摘されるまでもなく、ノエルは鋭い言葉をニューに突きつける。

 「あなたの目的は何ですか!?」

 「…ごめんなさい!」

 「物ですか!? お金ですか!?」

 「違います、ごめんなさい!」

 涙ながらに訴えるニューの姿は、狼に囲まれ悲哀に暮れる子羊を連想させる。並の警官ならば、氷の責任感の片隅に小さな同情心が芽生えたかも知れない…が、ノエルには通じない。

 (この女…私のラグナさんの部屋に押し入るなんて、羨ましい…もとい、許せないっ!)

 ごめんなさい、という謝罪ばかり連呼するニューにこれ以上問答しても埒が明かない。そう判断したノエルは、ラグナに顔を向けて状況確認する。…間近で見るラグナの顔に顔がニヘラと緩みそうになるが、勿論、そこはキュッと引き締める。

 「不法侵入とのことでしたけど、何か異常はありませんでしたか!? 荒らされていたりとか!?」

 「いや、異常は無かったンスけど…。

 こいつ、オレのベッドの上で、枕抱えてて…」

 「ベッドの上で枕を!?」

 「はい」

 「抱えて…!?」

 ノエルの言葉は確認の問いというよりも、怨嗟の悲鳴に近い響きが含まれている。

 (この女…! ラグナさんの汗の染み着いた枕を…! ラグナさんの香りを、弄んでたなんて…!

 私がやりたくてもやれなかったことを…!)

 胸中で憤怒を吐露していると、ラグナが唾棄するようにこう付け加える。

 「たぶん、変態だと思うンスけど…」

 ――変態。

 その言葉が思考に染み込むと、ノエルの憤怒の炎がガソリンをぶっかけられたように勢いよく燃え弾ける。

 (そうよ! こんな変態女がラグナさんを襲うだなんて…絶対に、許せない!)

 自らも盗撮ストーカーの変態であることを棚に上げ、ひたすらニューを憎悪するノエル。…人とは自分に都合の良いように世界を解釈する、業の深い生物なのである。

 何はともあれノエルは、職務を全うするため、そして神聖なるラグナの部屋から異物を排除するため、警官らしい勇ましい行動を取る。

 「とにかく、署に連行します!」

 「お願いします」

 ラグナがニューの上から身体をどかすと、ノエルが厳しい態度でニューの縛れた腕をグイッと引き上げる。

 「立ちなさい!」

 ニューは涙に暮れたまま、抵抗することなく従順にベッドから立ち上がる。

 「さあ、こっちに来なさい!」

 失意の前に力を失った幼子のようなニューの背中を小突き、ノエルはラグナの部屋から出るように急かす。ニューは俯いたまま、トボトボとラグナの部屋の外へと歩き出す。

 「あの、1人で大丈夫ッスか?」

 ノエルら2人がドアの外へと出る直前、ラグナはちょっと心配そうに尋ねる。警官が基本的に2人1組だということを知っていたし、何より童顔のノエルが纏う雰囲気が心許(こころもと)なさそうだったからだ。

 しかし、ノエルはラグナを安心させる言葉も口にせず、無言のままニューをグイグイと押し急かし、エレベーターへ向かって真っ直ぐ通路を進んでゆく。

 (まぁ…大丈夫なんだろうな)

 ラグナは後頭部をポリポリと掻くと、ドアノブの壊れたドアを静かに閉めて部屋の中に引っ込む。

 ――これで一つの騒動が終わった。

 …そのはずであった。

 

 街灯が寂しく灯る夜道を、ノエルはニューを連行して歩いていた。

 ラグナの部屋から押し出された後のニューは、不法侵入という大胆な行為を行ったとは思えぬほど儚い様子で、非常に従順であった。手錠をかける時も身じろぎ一つせず、涙を溜めたままの瞳をじっと伏せているだけ。こうして歩いて署まで連行している道中も、逃げ出す素振り一つ見せない。

 …もっとも、逃げ出す素振りを見せた瞬間、本部からも厚い信頼を受けているノエルの強力な戦闘体術が容赦なく発揮されるだけなのだが。その攻撃の前には、いくら恵まれた身体機能を持つ人工生命体の身であるニューとて、一溜まりもないであろう。

 とは言え、ニューが従順である理由は、ノエルの力に恐れをなしたから、というワケではなさそうだ。その切なく儚い、不安げな表情は、恐怖とは明確に違う感情を明示している。

 どんなにか弱い人間であろうと、犯罪を犯す時には、何らかの強い決意があるものだ。この妖精のような可憐さを持つ少女には、いったいどんな決意があったというのか。ノエルはそれを知りたくなった。

 だから、素直に疑問を口にする。

 「あなた、どうしてあんなことをしたんですか?」

 「…」

 ニューは答えない。俯いたまま、トボトボで無言で歩き続ける。

 しかし、この程度の拒絶ではノエルの膨らんだ好奇心は止まらない。

 「お金が目的じゃ、なかったんですよね?」

 するとニューは、発言さえしなかったが、ゆっくりと首を縦に振る。

 「それじゃあ、一体…何が目的で、不法侵入なんてことを?」

 そう尋ねている矢先…ノエルの頭に、幾つかの光景がパッパッと過ぎってゆく。

 "ベッドの上で枕を抱えていた"…"たぶん、変態だと思う"…そう発言していた、ラグナ。そして、悔しさや痛みによるものではあり得ない、儚く切ない涙を浮かべたニューの顔。

 その涙で潤んだ瞳が放つ光が内包する、熱っぽい夢見心地の炎の残り火。

 それらを頭の中で結びつけたノエルは、あっ、と思わず小さく声を上げて気づく。

 まさか、この娘も…。

 「まさか、あなた…あの人のことが、好きなの?」

 語尾の疑問符をゆっくりと口にする、ノエル。そのテンポに合わせるように、至極ゆっくりと、ちょっと羞恥に震えながら、ニューが首を縦に振る。

 ――そう、彼女は私と同じなんだ。

 ノエルは確信と共に同情の陰を顔に宿し、目を伏せる。

 そうだ、自分の立場に置き換えて考えれば、即座にわかったことだ。枕を抱えていたという時点で、すぐに気づくべきだったのだ。

 彼女もまた、遂げられぬ恋慕に悩み、苦しみ、その苦悩の果てに耐えきれなくなり、ついに行動に及んだのだ。

 物やお金などに興味なんかない。ましてや、ラグナ自身に危害を加えるつもりなんかもない。

 純粋に、ラグナという完璧な男性から、苦悩から抜け出す希望を…そこまで行かなくても、せめて一時の安らぎを得たくて、走っただけなのだ。

 同じ気持ちで盗撮ストーキング行為に走っているノエルには、痛いほどその気持ちが良くわかる。

 もう、先に感じた憤怒など消し炭も残らないほどに消えてしまった。同情、という名の冷水をぶっかけて…。

 (このまま、終わってしまっていいの…?)

 ノエルは自問する。警官としての職務を全うするならば、このままニューを連行することが正解だ。そしてそれこそが、人間社会における唯一の正解でもあろう。

 だが、その人間社会が作りだした、所謂"常識"という名の実体のない鎖が、自身を、そしてこの女性郵便配達員を苦しめているのだ。

 それに従い続けることに、今更何の意味がある?

 本当に手に入れたいものが目の前にあるのに、手を伸ばせないという生殺しの憂き目に遭うだけだというのに?

 (…そんなの、もう沢山です!)

 ノエルはギリリ、と歯噛みする。それは、理不尽な人間社会への反逆の狼煙(のろし)である。

 (いくら奉仕しても報いてくれない社会なのだから…欲しいものは、自身の力で手に入れるだけ!)

 黒い決意の炎が、ノエルの翡翠色の瞳にメラメラと灯る。

 そしてノエルは、胸中の激情に反するきわめて沈着冷静な声音で、ニューに語りかける。

 「こんなことが職場にバレたら、マズいでしょう?」

 「はい…」

 ニューは頷きながら、消え入りそうな小さな声で肯定する。実際は、マズいどころの話ではない。ただでさえ勤務態度に問題ありと評価されている身である。そこに無断欠勤の上での犯罪行為となると、懲戒免職も有り得るだろう。

 今の職場を辞めること事態には、何の抵抗もない。しかし、その結果として現状よりも酷い環境に身を置かなければならなくなることは望んでいない。

 しかし、自身の行為を振り返るほどに、望まぬ絶望を甘んじるしかない現実を突きつけられてしまう。ニューの目尻の涙粒が大きくなり、今にもこぼれそうになる。

 そこへ――ニヤリとほくそ笑んだノエルが足を止めてニューのか細い両肩を力強く掴むと、グイッと顔をこちらに向ける。

 ノエルの笑みは、他人の不幸をせせら笑うものではない。自身の身の内に棲む"悪意"が生み出す、歪んだ笑み。

 「それなら、私の言うことを聞きますか?」

 ノエルの言う"私の言うこと"が道理に反するものであることを、ニューは瞬時に理解する。今でさえ罪を犯した身の上であるのに、これ以上汚点を作ることは避けたいと、理性が激しく訴える。

 とは言え、この婦警の言うことを撥(は)ね除(の)けても、彼女の立場が良くなることは絶対にない。むしろ、婦警はニューの罪を誇大に報告し、罪を大きくして見せるかも知れない。

 それに第一、今更罪の1つや2つ加わろうが、ニューの末路は変わらないだろう。

 ならば…道理に反していようが、一縷の望みに掛けて婦警の策謀に荷担する方が、絶対に得だ。

 「…はい」

 ニューは涙をそのままに、ゆっくりと首を縦に振った。

 するとノエルはニィッとさらに笑みを大きくすると、ニューの背後に回り込む。そして、両腕を拘束している手錠を外す。

 両腕の自由を感じたニューは、まるで罪から解放されたかのような軽い気持ちになり、涙を弾き飛ばして子供のような笑顔を浮かべる。

 しかし、いつまでも自由を謳歌してばかりはいられない。

 「私に良い考えがあるんです。ついてきてください!」

 ノエルはニューの手をガッシリと握ると、彼女を引っ張って走り出す。元来た道をそのまま戻って…。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ニューを警察に突き出した後のラグナは、ベッドに五体を投げて頭の後ろで腕を組むと、ぼんやりと天井を見つめていた。

 その胸中に去来するのは、チクリとした痛みを伴う後悔である。

 犯罪者として突き出した――実際に不法侵入犯である――ニューの様子が脳裏に浮かび上がり、バツの悪い気分が襲ってくる。

 (あいつ…物にも金にも興味ないっつってたな…。実際、どこにも荒らされた形跡はなかったしな。

 それに、あの顔…折角の可愛い顔が台無しになるくらいの、辛そうな顔…。あいつ、何か止むに止まれぬ事情があったんじゃねぇかな…)

 ごめんなさい、ごめんなさい…と繰り返していたニューの顔が、視界一杯に思い出される。

 (話くらい、聞いてやれば良かったかもな…)

 しかし、もう警察に身柄を引き渡してしまった後だ。もうどうすることもできない。

 それに、相手はどんな背景があろうが、犯罪者であることに変わりはないのだ。

 しかし、あの涙は…。

 グルグルと思考のループが数回巡った後、ラグナはイラついた調子で「あああっ!」と叫ぶ。

 (もうなっちまったことは仕方ねぇだろ! 考えても意味のねぇことをグダグダ考えても、何にもならねぇだろ!)

 そしてラグナはベッド上でコロリと向きを変えると、テレビに視線を向ける。そして丁度腕の届く位置にあったリモコンを手に取ると、電源を入れる。

 ――そう言えば、昨晩の『マコトちゃんのやってやるっち!』を録画してたな。

 ラグナはウダウダした気分を変えるため、録画番組を再生しようとリモコンを操作する――。

 

 その、直後のことである。

 

 バンッ! 破裂するような大きな音が、室内に響き渡る。唐突すぎる出来事にラグナの身体はほんの一瞬ビクッと硬直するが、即座に身を起こして玄関の方角を見やる。

 今の音が、ドアを思い切り蹴り開いた音であることを瞬時に理解すると、相手の姿がまだ見えぬ間に舌打ちする。

 (今日はとんだ厄日だな、次々に変な奴らがオレの部屋に入って来やがる!)

 愛用の大剣は玄関に置いてある。侵入者に対処するためには、素手格闘しかない。ベッドの上で両腕を構え、侵入者を待つ…。

 そして、2人の侵入者の姿が見えた途端、ラグナは不覚にも驚愕のあまりに呆然としてしまう。

 (なんで、あの婦警と、変態郵便屋が一緒なんだ!?)

 犯罪を取り締まる側と、犯罪を犯した側。相容れぬはずの両者が、肩を並べている。しかも、犯罪者の方は手錠をかけれていない。

 何か職務質問で聞き忘れがあった、というような雰囲気ではない。眼前の両者はどう見ても、堅く手を組んで行動している!?

 状況が全く飲み込めず、唖然として身体が動かないラグナ。そこを好機とばかりに、ノエルとニューが疾風のごとくラグナに肉薄すると、左右から同時に襲いかかる。

 一気にベッドの上に引き倒される、ラグナ。その衝撃でようやく、ラグナの忘我の意識が覚醒する。

 「何だテメェら!」

 のし掛かってくる2人を振り払うべく、ラグナは激しく抵抗を始める。だが、ノエルもニューも見た目に反した実力の持ち主だ。百戦錬磨のラグナの身体能力を巧みにはねのけながら、強烈な剛力で着実に身体の自由を奪ってくる。

 (可愛い顔しやがって、何て馬鹿力だよっ!)

 胸中で舌打ちしているうちにも、痴女2人による拘束は着実に進んでゆく。

 「ちゃんと抑えてください!」

 警官のノエルが犯罪者のニューに指図する。その構図からラグナは、ノエルが法を守る側から転落し、罪を犯す側へと身を堕とした事を痛感する。

 (とは言え、オレを拘束するってのは、何が目的なんだよ!?)

 目的は未だ見えないが、本能が背筋に悪寒を走らせている。このまま屈服してはならない、恐ろしい結果が待ち受けている!

 「何すんだテメェ、放せこの…っ!」

 ラグナは未だ押さえつけれていない両足をバタバタと動かし、痴女2人の拘束を撥ね除けるための勢いを作ろうと試みる。それを鋭く察知したノエルは素早くニューへと視線を向けると、刃のように鋭く指示を飛ばす。

 「足、押さえてください!」

 ニューは頷きも見せずに素早く移動し、暴れるラグナの両足をガッチリと掴みにかかる。そこで人工生命体の剛力が遺憾なく発揮され、ラグナはまるで両足に鉛の巨大な足枷をはめらたような気分に陥る。

 「何だ、テメェら!」

 更に自由が制限されたラグナは、それでも燃え盛る抵抗心のままに、敵意をむき出しにした叫びをあげる。

 「どぉけ、このっ! やぁーめろっ、テメェ! ぬぅあぁぁっ、テメェら!」

 拘束は厳しいものの、ラグナは決して諦めない。魔物ハンターの職務中には、不定形の魔物から身体拘束を受けることだってある。そのまま諦めて食われることを待つようなラグナではないのだ。全身の筋肉を総動員し続け、状況打破への望みにしがみつく。

 しかし、痴女2人もまた、諦めない。決して誉められはしないが、不屈の闘争心でラグナの拘束を続ける。

 「抵抗しても無駄です!」

 ノエルが鬼気迫る凄んだ形相でラグナを睨みつけて脅すが、やはりラグナの心は折れない。

 「テメェら…! テメェら2人なんかに負けるワケねぇだろ、コラ!

 放せコラッ! はぁなせっ、このっ!

 郵便屋、このっ、放せっつってんだよっ!」

 ラグナは両足を掴むニューに意識を絞り、まずは彼女を引き剥がすことに集中することにした。と言うのは、ノエルの身体越しにチラリと見える彼女の、両目をギュッと瞑(つぶ)った、いかにも全身全霊という姿にこそ、付け入る隙を見つけたからだ。

 力だけなら、郵便屋のほうが断然強い。しかし、それだけだ。筋力任せの行動というものは、理論的な体術によってあっさり切り崩されることが多々ある。

 ラグナは巧みに緩急をつけながら足を跳ね動かしながら捻り、すこしずつニューの拘束からズルズルと抜け出してゆく。

 ニューはそれでも必死にラグナの両足にしがみつくが、顔を真っ赤にして踏ん張っても、拘束は完璧なものとはならない。ゆっくりと確実に、ラグナの足が抜けてゆく。

 「ニューさん!」

 負けそうなニューを鼓舞すべく、ノエルが名を叫ぶ。しかしそれは、ノエル自身の気を逸らしてしまう結果となった。

 そこを見逃すラグナではない。肘内するようなモーションでノエルの身体ごと腕を振るい、一気に上半身の自由の大半を取り戻す。

 「いい加減にしろよ、テメェら!」

 ずいぶんと取り戻した自由のために、幾分か余裕を取り戻したラグナは、ここに至って奥の手の発動にかかる。幼少期のとある事情から右腕に宿した『蒼の魔導書』の力を解放するのだ。その魔力を持ってすれば、いくら戦闘に長けた婦警であろうが、剛力の人工生命体であろうが、ひとたまりもない。

 「第666拘束機関解放…!」

 かけ声とともに、右手の甲に埋め込まれた宝玉状の機関が美しい青色の輝きを放つ。同時に、空間それ自体をビリビリと震わせるような、強烈な魔力の波動が発生する。

 この劇的な現象の前では、ノエルもニューも顔色を変えて、ピタリと身体の動きを止めてしまう。全身からは、ぶわりと冷たい汗が噴き出す。

 もう一声で、ラグナの『蒼の魔導書』は解放される。そして強力無比なその力を振るい、痴女2人を一瞬にして屈服させることだろう。

 

 ――だが、現実はそうはうまくいかない。

 

 「させないよ、兄さん」

 静かな、しかし狂気を帯びた男の声が、3人の絡みの中に滑り込んでくる。

 強烈な魔力の奔流の中においても、一際鮮明に、一際異質に鼓膜を震わす響きに、ラグナは勿論、痴女2人も声を失い、発言の主を見やる。

 発言の主は、全開になったベランダの窓を背にして立っている。少し赤みを帯びた月の光を受けるその男は、サラリとした金髪に青を基調とした衣装を身にまとった、凍り付くような美形である。

 ラグナはこの人物の登場もさることながら、全開になった窓にも驚きの念を抱く。

 (ちゃんと戸締まりしたはずだぞ!? なんで、窓が開いてンだよ!?)

 胸中の驚きは、思わず口をも開かせる。

 「何だテメェ、何でそっちから…」

 語りつつマジマジと第三の侵入者の顔を見つめたラグナは…ハッと目を見開く。彼の網膜が移した男の顔は、よく見知った――そう、幼い頃から記憶に染み着いた顔だったからだ。

 「ジン!?」

 ラグナは、実弟の名を呼ぶ。そう、この第三の侵入者こそ、ジン=キサラギである。

 ラグナは、ジンが隣室に住んでいるなど全然知らない。どころか、統制機構辞職以後のジンの消息を全く把握していなかったのだ。そんな実弟が突然、目の前に現れたのだから、その驚きはまさに晴天の霹靂である。

 ラグナの動揺をあざ笑うジンは、スッと右腕をラグナの方へ向けると、なにがしかの術式を発動させる。右手が蛍光色に輝いた直後、ラグナの『蒼の魔導書』の魔力が急激に低下。室内の魔力の乱流が一転して静寂となる。

 「あはぁ、兄さん…こうしてまた言葉を交わせるなんて…」

 今にも蕩(とろ)けそうな熱っぽい視線でラグナを見据え、ジンは邪悪な恍惚に震える声を出す。その所作がラグナの背筋にゾクゾクと氷点下の悪寒を走らせる。

 「な、なんでお前が、こんな所に…!? 一体、何しに…」

 一方、ノエルはジンの瞳の中で輝くギラギラした欲望の炎を見て取ると、瞬時に彼が自分と同類であると見て取る。そう認識した直後の行動は、あまりにも素早かった。

 「あなたは、こっちを押さえてください!」

 「お前なんかに言われなくても、やってやるよ!」

 ジンが青き風となって飛び出すと、ノエルに指示されたラグナの左半身に飛びつく。イカルガ内戦の英雄であるジンは体術に非常に長けている。ノエルよりも力強く、そして巧みで厳しい身体拘束を繰り出してくる。

 頼みの奥の手を失ったラグナであるが、やはり諦めはしない。魔物ハンターの職務の中でも、魔物が大量の仲間を呼んで襲いかかってくることはよくあることだ。だから、ラグナの頭の中には投降という選択肢は現れない。

 「どけっ、この…っ!」

 とは言うものの、口から出る抵抗の言葉は以前よりずっと苦しげだ。それに、体の暴れ具合も随分と鈍い。相手は本能に生きる魔物ではなく、理性を持った人間なのだ。この争い、ラグナには非常に分が悪い。

 鈍くなったラグナの動きに畳みかけるようにして、ノエルが威嚇の声を上げる。

 「3人に敵うワケないじゃないですか!」

 この状況下では的確すぎる正論である。しかし、ラグナは往生際悪く抵抗を口にする。

 「馬鹿野郎ッ、テメェ! オレは勝つぞ、テメェ!」

 しかしその言葉は慢心というよりも、ただの悪足掻きでしかない。

 「ひっくり返しますよ!」

 ノエルが号令をかけると、侵入者3人は息を合わせてラグナの体をひっくり返しにかかる。その協調性は、同一の目的を持つ者のシンパシーによるものなのかも知れない。

 「ゲホッゲホッ…! おあぁっ、やめろ! やめろ、コラ! ぬぅっああぁぁっ!

 テメェらの言う通りになんかなんねぇからなっ!」

 勇ましい言葉であるが、虚しいかな、ラグナはゴロリと俯せに返されてしまう。この強力な3人に掛かっては、ラグナは為されるがままの人形に等しい。

 「えーと、窓から入って来た方! ラグナさんの両手を後ろに持ってきてください! 私、縛りますから!」

 ノエルが指示を出すと、ジンは露骨に不愉快そうに眉を跳ね上げる。

 「僕にはジンという名前がある。

 それに、縛るだなんて非効率的だ。こうすれば、もっと簡単に、もっと完璧に…」

 ジンはラグナの両手を後ろに持ってくると、術式を発動させる。すると、ラグナの両手を青い光の帯がグルグルと巻き付き、微動だに出来ぬほどガッチリと拘束する。

 「ぬぅあ…!」

、術式の拘束によって痛みでも感じたのか、それとも自由を奪われた悲鳴なのか。ラグナが苦しげに悲痛な声を上げる。

 「ハァ、ハァ…!

 さぁー、これでもう、抵抗しても無駄ですよ!」

 「くっそ、退けよ、この…っ!」

 ラグナは身じろぎするも、腕の術式は全身の運動能力にも作用しているらしく、思うように体が動かない。

 「それじゃ、みなさん、ひっくり返しますよ…!

 それぇっ!」

 再び侵入者3人は息を合わせて、ラグナの体をゴロリとひっくり返す。恥辱に歪むラグナの表情を、ニヤニヤと恍惚に満ちた3人の視線が見下す。

 「やめろ…! 何すンだよ…っ!」

 自身を囲む気色の悪い桃色の視線を拒絶し、精一杯声を張り上げる。だが、体が動かない今の状態では威嚇の足しになるどころか、変態たちの心をくすぐる媚薬にしかならない。

 「ラグナぁ~…」

 脚を抱えていたニューが甘えた猫のような声を上げながら、ラグナのガッシリした太股にグリグリと顔をなすりつけてくる。そのまま貪るように全身し、ラグナの股間に顔を密着させると、男性の膨らみを頬でスリスリと刺激してくる。

 「やめろ、テメェ、どこ触ってんだ! どこ触ってんだよ、テメェ!」

 叫ぶラグナの声音には、こそばゆそうな笑いが含まれている。というのは、体を拘束する術式の影響により、丁度男性の中心の周辺が正座した後のようにチクチクと痺れているのだ。そこを接触されることにより、ゾワゾワとした緩やかな電撃にも似た刺激が喚起されたために、声音が震えてしまったのだ。

 そんな様子を――特にニューの動作を――見つめたノエルとジンが、悔しそうに、また羨ましそうに顔を歪める。しかし直後、2人はチラリと視線を交わして意志疎通をし、了承の合図として頷(うなづ)き合う。そして、2人は息をピッタリと合わせて同時に、ラグナの服を脱がしにかかる。

 「ほら、兄さん。見せておくれよ、兄さんの全てを…」

 「さあさあ、見せてください、ラグナさん…!」

 腕を拘束する術式の鎖は、非常に便利なことに、衣服が素通りする性質になっている。そのため、すんなりとまではいかないが、服が引っかかることもなく上着がはぎ取られてゆく。

 やがて露わになった頑強な上半身を、ノエルとジンはねっとりとした手つきで愛撫する。引き締まった大胸筋の感触を楽しんだり、乳首をつねり上げたり…挙げ句の果てには、ジンは乳首を舌でベロリベロリと舐め始める。

 「テメェ、ジン! テメェ、男の乳首なんて舐め回して喜んでんじゃねぇよ!」

 ラグナの抗議も何のその、ノエルもジンに倣って大胸筋に舌を這わせ始める。唾液がテラテラと輝く桃色の粘膜が、大胸筋をヌラヌラと這い回る。

 ハァ…ノエルは熱っぽく吐息すると、ゴクンと咽喉(のど)を鳴らして嚥下する。こうしてラグナの汗を、表皮の味を胃袋に収めると、ニンマリと笑って苦悶に歪むラグナの顔を見つめる。

 「思った通り、良い体していますね…!」

 「やぁめろ、クソっ…! テメェら、こういう変態行為が好きなのかよ、クズども…!」

 一方、ニューもまた上半身担当の2人に倣ってズボンを脱がせていた。今やラグナを覆うものは、股間のトランクス一丁のみである。

 このトランクスを見つめたニューは、ハァー…と桃色の溜息を長く吐いてから、紅潮しながらもサドっ気の強い見下した笑みを浮かべて語る。

 「ラグナぁ、何なのかなぁ、この派手はパンツは?」

 ニューが評する通り、ラグナのトランクスはかなり派手だ。黒と赤のコントラストが網膜に眩しい、骸骨と薔薇をあしらったゴシックパンク的なデザインのものである。実はこれ、ラグナの趣味ではなく、レイチェルからプレゼントされたものである。今日はレイチェルと会う日だったので、目には見えない部分ではあるものの、彼女から貰ったものを身につけていたのだ。

 だが、そんな事情を一々解説する義理などない。ラグナは舌打ちすると、怒りと嫌悪が燃え盛る視線でニューを射抜いて唸る。

 「いいじゃねぇかよ、オレの勝手だろ! テメェらにごちゃごちゃ言われたくねぇぞ!」

 しかし、そんな罵声も欲情の炎が燃え上がるニューには微風にすらならない。フフフ、とニューは楽しげに笑うと、トランクスの股間に顔を近づける。

 「もっとよく見せてよぉ、ラグナぁ」

 それからのラグナは、正に地獄と極楽の境界に立たされた。股間をニューの可憐な顔に擦(こす)られ、胸板や腹筋をノエルとジンに舐め回される。ゾワゾワと背筋を悪寒が走りっぱなしであるが…やがてその電撃が、脳の快楽中枢をジンジンと刺激し始めた。トランクスの中でラグナの男根がムクムクと立ち上がり始め、呼吸が荒く、桃色の湿り気を帯びてゆく。

 (クソっ、相手は変態どもだってのに…! 何でオレは、興奮なんかしちまってるんだよ…!)

 押し寄せる快楽の波はラグナの全身の筋肉をだらしなく弛緩させ、抵抗の意志を奪う。筋肉の緊張感が失せ、3人の変態の舌や頬を無防備に受け入れる。

 触れる筋肉の堅さの変化を感じた3人は、上気して真っ赤になった顔をもたげるて立ち上がり、まな板の上の鯉となったラグナを見下す。

 「さぁ、もう抵抗する意志もなくなったみたいですね!

 それでは皆さん、一緒に…」

 その場を仕切ろうと張り切って声を上げたノエルであったが、2人に号令をかけようとして絶句する。

 なぜならばニューもジンも、ノエルのことなど眼中に置かず、それぞれがそれぞれの欲望のままに服を脱ぎ出していたからだ。ジンはズボンを下着と共に脱ぎ捨てていきり立ったペニスを露出しているし、ニューは上着を脱ぎ捨てて女児用とも見まがうような可愛らしい薄水色のブラジャー姿になっている。

 「ちょ、ちょっと、2人とも!? 勝手に何をやってるんですか!?」

 狼狽(うろた)えた声を上げるノエルであるが、そうしている間にも2人はパッパッと手早く衣服を脱ぎ捨て、素っ裸になる。ジンもニューも無駄な肉のない、見惚れるような芸術的な肉体をしている。ノエルは思わずぽ~っとなって、2人の輝かしい裸に見入ってしまう。

 その隙に裸の2人は息の合った動きでラグナのトランクスを脱がせ、半ばにそそり立つ赤黒いズル剥けの男根を露出させると。

 「立たせるから、そっち持って…」

 「言われなくても、了解してるさ」

 2人はそう語り合うが早いか、ニューが前面から、ジンが背面からそれぞれラグナを抱えると、ベッドから引きずり下ろしてグッと持ち上げて立たせる。これで、ラグナはニューとジンというバンズに挟まれたサンドイッチ状態になる。

 「な、何すんだよ、このテメェら…」

 術式の拘束によって、ラグナの足下はおぼつかず、自力では直立できない状態だ。そんなフラフラな状況でも、彼は相変わらず強情に抵抗していたが…。

 ついに、彼の抵抗の障壁が瓦解する瞬間が到来する。

 

 「さあ、兄さんの初釜、僕がいただくからね…!」

 ジンが背後からねっとりと、粘っこい声でラグナの耳に熱い囁きを吹きかけた、その直後。ラグナの見事な大臀筋をメリメリと分けて、灼熱の剛直が侵入してくる。

 「ぬあぁ…っ、な、何してやがるんだ、ジン!」

 視線を背後に巡らすが、ラグナの視界ではジンの所業は確認できない。だが、見えずとも検討はついている。ジンが、いきり立った自身の肉茎をラグナの肛門めがけて、尻の割れ目の中に侵入させたのだ。

 「ああ…兄さんの暖かみが、僕に伝わってくるよ…。

 もっともっと、兄さんを僕に感じさせて…」

 「馬鹿野郎ッ、男同士で、兄弟同士で、そんなマネしてんじゃねぇよ…ッ!」

 そんな罵声を口にし終えた、その途端。ラグナの体がビクリッ、と雷撃に打たれたように震える。彼の肛門の入り口に、ジンの灼熱の先端が触れたのだ。ヌルリとしたカウパーの感触が尻から頸椎へとジンワリと染み込んでゆく。

 「行くよ、兄さん…」

 「や、やめろってンだよッ、テメ…」

 ラグナの言葉は、その途中から「あああああッ!!」という悲鳴に変化する。ジンの剛直が括約筋をメキメキと割りながら、体内に侵入してきたのだ。

 まるで焼けた鉄の棒でもブチ込まれているような痛み。実際、ラグナの肛門は欲情によって膨張したジンの太い肉茎に激しく擦られ、出血していた。加えて、直腸を直接なぶられる不気味な感触に、背筋を走る悪寒が止まらない。

 しかし…この背徳的にして淫堕な行為は前立腺付近の性感帯を着実に刺激し、ラグナに性的興奮をもたらす。彼の顔が赤に染まるのは肛門の苦悶に耐えているだけが原因ではない。半勃ちだったペニスもグングンと堅く伸び出し、亀頭を真っ赤に腫らす。

 そんな時だ。ニューが絵画の中の恋人がするような格好で、ラグナの胸板に身を寄せてきたのは。彼女の小振りながら形の良い胸が、ムニュリ、と柔らかくラグナの皮膚に押しつけられる。

 「ラグナ」

 ニューは天使のような笑みでニッコリと微笑み、見上げてくる。この動作だけならば、父に甘える子供のようにも見えなくもないだろう。だが、桜色の唇をペロリと舐める真紅の舌が、天使でも子供でもない、小悪魔的な妖艶さを演出する。

 「私とも、一緒になろう?」

 熱っぽい甘い吐息が、ラグナの乳首のあたりをくすぐった…その直後。ラグナはビンビンのペニスの先端に押し当てられた、ヌルリと濡れた肉の感触を知覚する。この感触の正体は言うまでもない…ニューの、女性器だ。

 「て、テメェもいい加減にしねぇと…」

 ラグナは口では抗議を述べていたが、その口調にはまるで覇気がない。可憐な少女が身を重ねてくるという淫靡な現実が、彼の男の本能をくすぐったのかも知れない。

 「…ん…はぁうぅ…」

 ニューが、ズニュゥリ、と女陰の肉壺でラグナのペニスを飲み込んでゆく。途中、ラグナの先端にコツリと処女膜の感触が当たるが…。

 「んんっ! んふぅっ!」

 ニューは自ら腰に力を入れて、ラグナの先端を処女膜に押し込み…そして、ブチュリ、と破壊する。

 「くふうぅぅんっ!」

 自ら招いた破瓜の痛みにニューが震え、ラグナの体にギュゥッとしがみつく。その身の苦悶を、ラグナの逞しい体に抱きとめてもらうかのように。

 しばらくニューは、ハァッハァッ、と子犬のような荒く素早い呼吸を繰り返している。

 「お、おい、テメェ…」

 苦しげな少女の様子にラグナは、前後から犯されてる身だというのに、気遣いの言葉をかけようとしたが。

 背後のジンがズンズンと暴力的なストロークを始めたのを口火に、歯を食いしばって言葉を飲んでしまう。

 「っぁ………ッ!」

 肛門を犯されるなど、勿論、初めての経験だ。ラグナはその強烈な痛楽に瞼をギュッと閉じ、ニューの細い肩を壊わさんばかりに掴み、プルプルと痙攣する。

 その時、ようやく破瓜の痛みから立ち直ったニューが、汗にまみれた顔でラグナを見上げると、再び天使の笑みを浮かべる。

 「苦しいんだね、ラグナ?

 でも大丈夫だよ。私がラグナのこと、気持ち良くしてあげるから…」

 そしてニューは、処女を失ったばかりだというのに、淫婦の如き激しく怪しい腰遣いで臀部を振るい始める。

 ニューの初々しい膣は堅く、狭く、湿り気も弱い。性感帯もまだまだ未熟で、ペニスの刺激から受けるのは快楽よりも苦痛の方が大きいだろう。実際、ニューの表情は悲痛なほどにしかめられている。噴き出す汗は火照りというよりも、冷や汗であろう。

 それでもニューは、激しい臀部の振りを止めたりしない。歯茎から血を噴き出すような勢いで必死に歯噛みしながら、より激しく、より妖艶に体を振るい続ける。

 激しい苦痛を超えてまで、ニューをそこまで駆り立てる衝動。それは、愛に他ならない。

 歪んだ形の片恋慕かもしれない。それでも、ニューのラグナに対する愛情は、紛れもない真実の概念だ。

 ゆえにニューは、自らの苦痛などいくらでも堪え、ひたすらにラグナに楽しんでもらえるよう、必死に奉仕を続けているのだ。

 「ラグナ…ラグナ…気持ち良い?」

 熱っぽい上目遣いでラグナのオッドアイをのぞき込む、ニューの真紅の瞳。その奥に灯る炎は、自己の全てを捧げようという健気な純朴さ。そんな視線を体を重ねている最中に注がれては、どんな男であろうと愛欲をそそられずにはいられないであろう。

 ――ただし、それが"極々普通の"セックスの在り方であるならば、だ。

 尻を容赦なく掘られているラグナは、ニューの愛すべき眼差しをろくに味わうことも出来ず、顔を歪めるばかりだ。

 これこそ正に、淫獄と呼ばれる窮地に違いない。――だが、窮地はここで終わらない。

 前後に逃げ場を失ったラグナを更に追いつめるべく、淫魔がまた1人、彼の間近に足を運ぶ。

 その淫魔の正体は、3人の変態のうちの残る1人。ノエルである。

 彼女の顔は、悔しさと恨めしさでしかめられ、全身がフルフルと小刻みに震えている。一同の場の流れを指揮しようとしたにも関わらず、ただ1人ハブられたことに只ならぬ憤りを感じているようだ。

 そんな彼女は、下半身に何も身につけていない。うっすらとした金色の茂みに覆われた秘裂が、ヌラリとした愛液の淫靡な輝きに光っている。

 「みんな…みんな…勝手なことばかりやって…っ!」

 怒りに顔を真っ赤にしながらラグナに詰め寄ると、地獄の快楽の渦の中で身動きが取れぬ彼の状態などお構いなしに、無造作に右腕をグイッと引っ張る。そして、自らの股間にピタリと当てる。

 「せめて、手マンだけでも楽しませてもらいます!」

 そしてノエルはラグナの手を自らの秘裂や勃起した陰核に擦り付けたり、指の先端を秘裂の内部にツプゥリと突き込んだりする。

 ノエルもニューと同様、男性と肉体関係を持ったことはない。しかし、彼女の膣はニューとは違い、堅さがなく、すんなりと柔らかくラグナの指を飲み込む。そして何より、胎内への侵入を阻む処女膜が存在しない。度重なる激しい自慰行為の中で、とっくに自らの所業で破いていたのだ。

 だからノエルは破瓜に苦しむこともなく、純粋に膣を犯される感触を楽しみながら、さらに快楽を貪ろうと躍起になる。

 「ほら、ラグナさん! 指を動かしてください! これじゃあ野菜相手にオナニーしてるのと変わりません!」

 独りで勝手に激しくズブズブとラグナの指を胎内に出し入れしながら促すが、ラグナが要望に応えることはない。

 今の彼は、誰かの言葉に耳を傾けたり、答えたりするどころではないのだ。

 前後だけでなく側面まで淫猥の渦にい飲み込まれ、灼熱の肉欲に身を焦がされ続けるラグナの思考は、ドロドロに溶けてしまっていた。今感じているのもが快楽なのか、それとも嫌悪感なのか、全く判断ができない。そもそも、思考するという行為がうまくできない。なんだか、本能のまま生殖行為に挑む原生生物へと成り下がった気分だ。

 快楽もなければ、苦痛もないその境地は、ある意味もっとも平穏な時間とも言える。なぶられる性感にただただ魂魄の全てを傾けるだけで済むのだから。

 しかし、そんな原生生物的平穏にも、ついに破局が訪れる。

 破局の始まりは、まずは肛門からだ。ズリュゥッと侵入したペニスは、これまでの中でもっとも深い位置に到達し、未開の直腸をギチギチと押し広げる。

 「んぐあぁっ!」

 たまらずラグナの本能は蕩(とろ)けた状態からの覚醒を促し、彼のオッドアイに意志の輝きが灯る。しかしそれは、果たして彼にとって幸であっただろうか。無感の混沌の渦の中にいた方が、よほど幸せだったのではないだろうか。

 そしてラグナの鼓膜に届く、極めて不快で業の深い、熱のこもった囁き。

 「ああ…兄さん、僕、もう…限界だよ…っ!」

 ジンの言葉は一転、キィンと鼓膜を痛める絶叫となる。

 「イクゥッ!」

 同時に、ドビュルルルゥッ! 直腸内のペニスが先端から大量の精を噴出する。直腸の絨毛(じゅうもう)の隅々に行き渡る淫猥な粘体は、内臓脂肪を貫通する鋭い快楽の針を前立腺、膀胱、そして睾丸へと突き刺す。

 途端、ラグナの陰嚢がブルリと震えたかと思うと。

 「ぬああああぁぁぁぁっ!」

 唾液が幾本もの銀糸を引く大口を開けて、ラグナが絶叫。同時に、ジンの腸内射精の勢いに押されるように臀部をニューにズニュリッと押し込み、初々しく堅く閉ざされた子宮口にゴツリと亀頭をぶつけると――。

 ドビュルビュルビュルルドビュルルルッ! ラグナの肉茎の先端が、一身に受けた快楽の灼熱によって生じたマグマが噴出するかのように、白濁を強烈に吐き出す。尿道を激流となって駆ける勢いに肉茎がビクンビクンと震え、ニューの膣内で暴れ回る。

 「ふぅあああぁぁぁんっ!」

 人生で初めて胎内に受ける男性の奔流が生み出す、凶悪なほどの快楽! 意識が根こそぎ刺激の閃光の中に吹き飛びそうになるのを、ニューはラグナの体に物理的にしがみついて耐える。それでも完全に抗しきれぬ快楽の暴力に、ニューは桜色の唇を大きく開いてひたすらに叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

 一方…叫びは別の方角からも上がっている。

 「んはあああぁぁぁんっ!」

 炎を上げるような熱を帯びた淫声の主は、ノエルである。ラグナが射精の際に体を震わせた時、ノエルの胎内に侵入していた彼の指がグニュゥリッと激しく動いたのだ。爪が膣壁に食い込み、性感帯に電撃的苦悦を深く、深く沈み込ませる。

 ビクビクと震えるノエルの女性器は、近隣の膀胱の筋肉を弛緩させると、プシャァァッ、と尿を勢いよく散布させる。ラグナの腕がみるみるうちに生暖かな金色の液体にグッショリと濡れる。

 4人がほぼ同時に絶頂を迎えた、色濃い桃色の時間が過ぎ去ると…次に訪れるのは、脱力した純白の時間である。部屋を満たすのは、4人の荒い息づかいだけ。重なる体はユラユラ揺れる程度で大きな動きはなく、悦楽の余韻にしがみつくばかりの無為の瞬間が連続する。

 そんな中、始めに動きを見せたのはジンだ。…しかし、それを"動き"と称するのは多少違和感があるかも知れない。脱力しきった彼は腰が砕け、ズルリとラグナの肛門から陰茎を引き抜きながら、漏れた体液がポタポタと落ちるフローリングの床に倒れ込んだのだ。仰向けに倒れた体のうち、股間だけが垂直に天を向いていたが、その怒張はかなり力を失い、傾きかけている。

 次に力つきたのは、ニューである。初めてのセックスによる絶頂を迎えた彼女は、あまりに強烈な衝撃のために真っ先に足腰が脱力し、ラグナの体にもたれてなんとか立っている格好を保っていたのだが。ラグナを支えるジンが倒れたことで酷くバランスを崩すと、ズルズルとラグナの体表を滑って床に倒れ込む。途中、彼女の顔近くを、彼女自身の体液でドロドロに濡れたラグナの肉茎が過ぎったが、それに反応する気力はない。鉛のような眠気に襲われ、それに誘われるままに体を床に横たえると、瞼を閉じる。

 そして最後に倒れ込んだのは、ラグナである。ジンが倒れた際に拘束術式が解除されたため、なんとか体を支えていたのだが…尻と股間の両方からジンワリ、ジンワリと後を引く炎熱のような快楽の余韻に遂に屈した。ドッカリと尻餅をつくと、そのまま大の字になって五体を投げる。

 ――だるくて、眠い。体がゼリー状に崩れたような気がする。意識が熱病のような濃厚な靄(もや)の中に沈んでゆく。

 ――眠ろう。ラグナは体を蝕む快楽の気だるさに導かれるまま、瞼を閉じようとした…だが。

 そんな彼の欲求を阻むかのように、1つの人影が彼の体を覆う。

 「まだ休むのは早いですよ、ラグナさん」

 にこやかな、しかし口調の端々にソワソワとした欲求不満のざわめきが宿る、少女の声。その主は、この場に存在する残りの1人、ノエルである。

 彼女だけ、性器同士の接触による悦楽を享受できなかったのだ。そのため他の3人に比べ、彼女の身を襲った衝撃は少ない。それどころか、全くの欲求不満状態で、体がピクピクとうずきまくっているのだ。

 「お邪魔な2人は寝ちゃったようですし。やっと2人っきりになれましたね、ラグナさん」

 ――オレも眠らせてくれ。ラグナは訴えたかったが、気怠(けだる)い舌はうまく回ってくれない。

 何も言葉を出せない状態につけ込んで、ノエルは意気揚々と上着を脱ぎながら、邪淫に大きく歪む妖艶な笑みをニンマリと浮かべる。

 「さぁ、それじゃあ…今度は私とヤる番ですよ」

 小振りな双丘を剥き出しにしたノエルは、総仕上げと言わんばかりに頭に被った帽子をバッと勢い付けて外す。その内からは、窓から差し込む月光に映えてハチミツ色に輝く金色の長髪が麦畑のようにサラリと広がる。

 女神の彫刻――と称するには胸囲が残念ではあるものと、妖精と称するのならばこれ以上似つかわしい人物はいないのではあるまいか。そんな神秘的で見事な曲線が、ラグナの眠気の中に鮮烈に飛び込んでくる。脳内の濃い靄が、サァッと音を立てて晴れ渡ってゆく。

 目を見開いたラグナが固唾を飲んで神秘的な裸体を注視していると。ノエルが悪戯っぽい笑みを浮かべながら、スッと身を屈める。そして彼女は、翡翠色の瞳をラグナの中心に留める。

 そこにあるのは、先の乱交ですっかりとヘバり、中途半端に縮んでヘニャリと傾いた男根である。

 ラグナは実は、この乱交の渦中に引きずり込まれるまでは、童貞であった。側を過ぎる女性が振り返るほどの魅力を持つ彼だが、恋愛に関しては非常に硬派な考え方を持っている。すなわち、真に愛する相手としか肉体関係は持たない、という生真面目な意識である。ゆえに、風俗で性欲を発散した経験もない。

 そんな彼が突如、前から後ろから責められたのだ。強烈な刺激はそのまま疲労となり、男根をいきり立たせる海綿体に血が巡らない状態だ。

 そんな疲れ果てたイチモツを見て、ノエルは拗ねて頬を膨らます。

 「こんな美少女の裸を前にして、なんで元気になってくれないんですか!?」

 (自分で美少女なんて言うなよ…)

 ラグナが胸中で苦笑していると、その念に同調するようにノエルがフッと笑む。そして、ハァー、と熱い息をイチモツに吐きかける。まるで、海綿体へ気力を吹き込むように。

 「でも、大丈夫ですよ。

 すぐに、元気にしてあげますから…」

 そう言い放つと、真紅の舌で桜色の唇をネトリと一舐めする。それは、これからのノエルの行動を暗示するものであった。

 直後、ノエルは太い銀糸の滴が垂れる舌を突きだしながら大きく口を開くと、更にフニャリと縮んでしまったラグナの肉茎に横からむしゃぶりついた。

 「んむぅ…」

 チュゥルル…湿った柔らかな暖かみが、ゾクゾクと肉茎の表面をさざ波立てるように広がる。

 「な…テメェ、そんなとこに、口を付けるんじゃ…」

 ラグナが引き留めを口にするが、それは快楽への抵抗というワケではなく、純粋にノエルへの気遣いだ。ラグナのイチモツは自身のカウパーや精液、そしてニューの体液にまみれ、生臭い異臭を放っている。それを口に含むなど、想像するだに身震いがする思いであったからだ。

 だが…ノエルは顔をしかめることも、えづくこともなく、桜色の唇と口内でチロチロ蠢く舌先で、ラグナの肉茎の汚れを丁寧に舐めとってゆく。

 実際には、ノエルとてまるっきり抵抗感がないワケではない。特に、別の女の体液を口にするなんて、平時であれば聞いただけでも胃がモゴリと暴れたであろう。

 それでも彼女が文句一つ、顔色一つ変えずに、淫靡に丁寧に肉茎を舐め回しているのは、ひとえに愛情によるものだ。

 その形が歪であろうが、愛であるという本質は変わらない。

 ヂュウゥゥ、と音を立てながらノエルの唇が陰嚢に達し、陰毛をかき分けながら睾丸を優しく舌で転がし始めた頃。ラグナのペニスを支配していた休眠欲が、ようやく性欲によって打倒された。ノエルの唾液でテラテラと輝く肉茎はビクビクと脈打ちながら雄々しく体積を増してゆく。

 やがて大樹のようにビンッと天を仰ぐと、ノエルは睾丸の愛撫から口を離し、うっとりと恍惚の表情でペニスをまじまじと見つめる。

 「ラグナさんのおちんちん…逞しくて、カッコいい…」

 その熱を帯びた台詞を吐くために開いた口を、そのまま亀頭に近寄せる。そして、鈴口に長い口づけを捧げると、そのまま唇を割って亀頭をチュルリと頬張る。

 「ん…ふぅ…っ」

 唇と肉茎の隙間から湿った呼吸を浅く早く繰り返しながら、ノエルは顔を上下に動かす。肉茎の表面を滑る唇の粘膜が、絡みつく舌の粘膜が、甘辛くじんわりと広がる快楽を股間から脳天へと運ぶ。

 「あぉあっ!」

 ラグナが間抜けな声を出して、ビクンと体を震わせる。ニューの初々しい肉壺は締め付けが強すぎて気持ちよいのか苦しいのか分かりにくかったが、柔らかく蕩けるノエルの口内は、その甘美な快楽がすっかりと味わえる。ペニスを包む全ての細胞が、甲斐甲斐しく奉仕してくれるという優越感に、鼓動が飛び出さんばかりに躍り狂う。

 やがて、欲熱にすっかりとだらけた陰嚢の内から、粘っこく重たい、煮立つマグマがグラグラと尿道を登り始める。ラグナは盛大な射精が近いことを覚り、その噴出の快感を想像して息を飲んだが…。

 突如、ノエルがヌパァッと口を開くと、フェラチオを止めてしまった。

 予想だにしなかった寸止めに、ラグナの顔が失意と、ぶつけようのないやるせなさに青白くなる。

 そんな表情の急変を楽しむように笑みを浮かべてみせたノエルは、スクッと立ち上がって両足を肩幅よりやや広く広げる。金色の茂みに覆われた女陰が、ラグナの位置から丸見えになる。

 「ようやく、元気になってくれましたね。

 ここからが本番ですから…ラグナさん、キンタマが空っぽになるくらい楽しんでくださいね」

 淫語を口にしているとは思えないほどの無垢な笑みを浮かべたかと思うと…ノエルは、ラグナが注視する女陰を更に見せつけるように自らの指を添えると、クパァ…と膣口を開いて見せる。テラテラと輝くピンクの胎内が、網膜に鮮烈に焼き付く。

 そのまま女陰を開いたまま、ノエルはゆっくりと腰を沈めてゆく。狙うは勿論、気力を取り戻してビンビンとそびえるペニスだ。

 自身の指で開発された膣が、ラグナの逞しい程に太いペニスをズニュゥルと咥え込む。

 「あ…あ…ああ…ああああ…」

 ラグナは自らのペニスが女性の胎内に埋もれてゆく様を呆然と見送りながら、快楽とも不安とも取れぬ震えた呻きを漏らす。

 やがて…。

 「くふぅ…ぅん」

 ノエルが濡れた声で囁き鳴いた頃。彼女の臀部はラグナの股間に接触し、膣はペニスの全てを覆い尽くしたのであった。

 そのままノエルは、身の内を埋めるペニスの感触を楽しむように、数秒感荒い呼吸ばかりを続けていた。しかしやがて、意を決してフッと鋭く吸気すると、ゆっくりと、しかし力強く腰を上下に振り始める。

 ヌチュ、ヌチュ、、ヌチュ…腰のストロークに合わせて、淫靡な粘水音がクレッシェンドをかけながら発される。

 ノエルの胎内はやはり、ニューに比べると堅さはなく、柔らかな女性器の感触を存分に楽しめる。ヌルヌルとぬめり、クニュクニュと襞に満ちた膣壁がペニスを艶やかに愛撫する感触は、ラグナの頬をみるみる内に上気させ、テンポの早い熱い呼吸を誘発させる。

 ――気持ち良い。腰がとろけてしまいそうなほどの快楽が、陰茎の中枢から臀部、そして脊椎へと浸透してゆく。

 しかし、気持ち良いのは確かなのだが、ラグナの性欲は何か物足りない、と厳しい指摘を脳裏で叫ぶ。

 その理由は明白である。ノエルの腰遣いの拙さだ。

 ノエルは処女を失ってはいても、本番行為はこれが初めてなのだ。自身の快楽を貪る方法には長けていても、どうすれば行為の相手が更に悦ぶのか、という命題については手探り状態である。

 あまり早く、荒く動いては、ガチガチに硬直したペニスの負担とはならないだろうか。かと言って、あまりゆっくり動いては、退屈ではなかろうか。

 ノエルは自らの快楽だけを貪ろうとする性欲に抗しながら、必死に頭を巡らせて自問しつつ、試行錯誤の腰遣いを繰り返す。

 「どう…ですか…? ラグナさん…気持ち良い…ですか?」

 顔を真っ赤にしながら、潤んだ瞳で尋ねる、ノエル。その瞳の内に揺れるのは、馬乗りになっている相手への気遣いと不安、そして慈愛である。

 自分の快楽だけ貪って、思う存分に喘ぎ狂いたいという願望の輝きもまた、少なからず見て取れる。しかしそれを必死に抑えているのは、相手への…ラグナへの、愛ゆえだ。

 ――この人を、私で悦ばせてあげたい。私がこの人で悦ぶのではなく――

 そんな健気な奉仕精神が手に取るように見て取れたラグナは…この一途な少女に対する愛しさが芽生えてきた。

 理性は冷静に、そして厳格に騒いでいる。「相手は犯罪者と共に、自分の欲求を満たすために、オレに襲いかかってきた相手なんだ。そんな感情を抱くのはどうかしている!」――と。

 理性の声に従うのが正解なのは分かっている。

 …それでも、ノエルの強い愛情は、そんな理性を吹き飛ばしてゆく。

 そして力強く根付き、枝を伸ばしてゆく愛しさが、ラグナの震える手をノエルの小振りな胸へとおずおずと伸ばさせた。

 ラグナの無骨な手のひらが、小さな膨らみを優しく、柔らかく押し包むと…。

 「あっ…」

 ノエルがピクンと体を震わせて背をのけぞらせると、腰の動きをピタリと止める。その唐突な変化にラグナは慌てて胸から手をどかす。

 「す、すまん! イヤだったか!?」

 オロオロと狼狽しながら問うと、ノエルもまた慌てて首を左右に振り、愛欲の涙に濡れる眼(まなこ)を羞恥で伏せながら答える。

 「い、いえ…そんなことはないです。むしろ、ラグナさんの方から私を求めてくれるのは、すごく嬉しいんですけど…その…」

 ノエルの顔がカァーッと炎のように赤みを増し、紅に染まった唇がパクパクと数回、空回りする。ラグナはノエルを傷つけたワケでないことを覚ってホッとしながらも、ノエルの抱く真の理由が気になって眉をひそめる。

 そんなラグナの視線をちょっと辛そうに受け止めながら、ノエルは消え入りそうな脆弱な囁き声で、ポツリと漏らす。

 「私…胸、小さいですから…。ラグナさんが触っても…その…気持ち良くないというか…物足りないというか…」

 そう、ノエルはあくまでラグナのことを気遣った上で、肉体関係の上では欠陥となりうる自身の部位を気にし、恥入ったのだ。

 そんな健気で、ちょっと間が抜けていて、そして献身的な様子が、ラグナの感情に更なる炎を灯す。

 (こいつ、可愛いな…)

 ラグナの頬が、思わずニヤリと緩む。

 その笑みがいやらしい形に歪まぬうちに、ラグナは口角をつり上げて穏やかさを演出すると、静かに首を左右に振る。

 「そんなことねぇよ。

 お前の胸、可愛いよ。形も肌も綺麗だし、乳首もピンク色で可愛いし。オレは…好きだぜ」

 以前、巨乳獣人アイドルのマコトに欲情していた男のものとは思えない言葉だが、純粋に本心だ。そもそも、直近まで童貞であったラグナは、巨乳だろうと貧乳だろうと、生の乳房をその眼で見たことがない。だから、貧乳についてこれまでどうのこうのと意見や感想を持てる身ではなかったのだ。

 今、実物を眼にして、ラグナは初めて貧乳に関する誠実な感想を抱く。――悪くない。

 むしろ、性交には野獣のように積極的でありながら、可憐な胸に対しては思春期の少女のように恥じらいを持っているノエルが、可愛くて仕方がない。

 「なぁ…もう一回、触ってもいいか?」

 猛然と火がついてしまったラグナの情欲は、可愛いノエルの羞恥をくすぐりたくて仕方がない。

 ノエルはしばらく視線を泳がせ、湯気が出そうなくらいに顔を深紅に染めていたが…やがて。

 「…ラグナさんが、お好きなら…いくらでも…」

 またも消え入りそうな声で、ノエルがゴニョゴニョと答える。

 その瞬間、ラグナの情欲が本格的に爆発した。

 再びスルスルと伸びる、ラグナの無骨な手のひら。それは柔らかく、優しくノエルの小振りな乳房を包み、モニュモニュと揉み回す。

 「んあ…っ」

 未だ腰を振れずにいるノエルが、熱い吐息でラグナの手の感触を楽しむ。その顔には羞恥と、そして愛する相手の欲求に答えている嬉しさが混じった、はにかみ笑いが浮かんでいる。

 その心底幸せそうな笑みを見たラグナは、情欲が囁くがままに、意地悪を働く。断りもなく、急にノエルの可愛らしいピンク色の乳首をギュウゥッとつまみ上げたのだ。

 「ひぃあっ!」

 ビクビクン、とノエルが身体を大きく上下に振って激しく反応する。その時、ギュムッと締まりが強くなった膣が、ラグナのギンギンにいきり立ったペニスをニュルリと愛撫した。

 (やべぇ…こいつ、本格的に可愛すぎる…!)

 視覚、触覚、そして股ぐらの性感でノエルの魅力を味わったラグナの情欲は、ペニスの増した硬度と同調するように、強烈な衝動が生まれる。

 ラグナはノエルの乳房を蛸の触手のようにしつこく弄びながら、グイッグイッと自ら腰を振り始める。腰の上で馬乗りになっているノエルは、ロデオ状態で汗に塗れた金色の髪を振り乱しながら、上下に大きく振れ動く。

 「ら、ラグナさん…っ! は、激しい…っ!」

 悲鳴というにはあまりにも艶やかな喚き上げる、ノエル。そこへラグナは、ニヤリと笑いながら責め文句を口にする。

 「おいおい、自分からオレに跨(また)がっておいて、激しいもなにもねぇだろ。

 オレにヤってもらいたかったんだろ? オレと楽しみたかったんだろ?

 それなら、ホラ…お前も一緒に、腰を振れよ…!」

 「ラグナさん…っ!」

 ラグナの声に対して答えるノエルの声には、感激の震えが混じっている。当然だ。この瞬間、一方的に恋慕していた相手に受け入れてもらえたのだから。

 「ラグナさぁんっ!」

 ノエルは叫びながら、自らも激しく上下に腰を振るう。臀部と臀部がぶつかり合うパンパンという淫靡な音が部屋の中に高く響き渡る。

 ノエルもそうだが、ラグナも性交経験のない人間だ。そんな二人の腰遣いは、傍目から見れば荒々しい獣性ばかりが目立つことであろう。

 だが、2人の世界からすれば、その荒々しさこそが、一片の欺瞞も混じらぬ、真なる互いの求め合いの証であった。

 「オラッ…オラッ…もっと、よがれよっ…!」

 「ラグナさん、ラグナさん、ラグナさあぁんっ!」

 性本能を剥き出しにしたラグナの高圧的な物言いにも怖じ気づくことなく、従順に求めに応じてノエルは精一杯喘ぎまくる。開閉する紅の唇の内側ではヌパァと唾液が幾筋もの銀糸をつくり、飛沫が桃色の吐息にのって激しく宙にばらまかれる。

 そんな唇を見たラグナは更なる欲情に燃え上がる。胸を揉み回していた腕をノエルの背中に回すと、グイッとノエルの身体を引き寄せる。快感にとろけたノエルの背筋は従順に、柔軟に倒れ込む。

 そこへラグナが首をもたげると、ノエルの喘ぎまくる唇を自らの唇で塞ぐ。

 「んむぅ…んむむぅ…」

 口を塞がれてなお、ノエルはラグナの腰の動きに突き動かされて喘ぐ。そんな喘ぎをかき消すように、ラグナは暴力的な舌をノエルの口腔に押し入れると、ネチャネチャと粘体生物の交尾のように絡ませる。

 ノエルは喘ぎたい衝動と舌の絡み合いの狭間で苦しげに呼吸していたが…やがて喘ぎを咽喉の奥へ飲み下すと、ラグナとの舌の絡め合いに集中する。唇もまたヂュクヂュクと音を立てながら、官能的に互いを求め合う。

 この最中にラグナは、ノエルの身体ごとゴロリと身体を回転させると、今度は彼がノエルの上に乗る形になる。そのまま二人は背中に回した腕で互いを激しく愛撫しながら、唇を吸い合い、腰をヌチュヌチュと蠢かす。

 ラグナの厚い胸板に、ノエルの小振りな双丘がムニュリと押しつけられる。吸い付くような乳房の柔らかさと、ツンとした勃起した乳首の堅さの向こうからは、破裂しそうなほどに高まった鼓動がドクンドクンと響きわたり、ラグナの胸板を揺るがす。

 手に取るように分かる、ノエルの興奮と至福。それがまたラグナの情欲に更に、更に油を注ぐ。

 プハァッ…2人が長い、長い接吻を解き、互いの合間をヌラリとつなぐ唾液の糸がプツリと切れたころ。ラグナは荒々しく上体を引き起こしてノエルの上になると、小振りな双丘をギュムッギュムッと揉み潰しながら、パンパンと臀部を振る。

 激しいペニスのストロークに、ノエルの女陰がたまらずにピンクの肉をめくれ上がらせる。

 ラグナは自らのイチモツが邪魔をしてその様子を実際に眼にすることはできなかったが、感触で如実に覚ると、意地の悪い笑みを浮かべてノエルに語る。

 「テメェのマンコ、ビラビラにめくれあがってるみたいぞ」

 指摘されたノエルはちょっと首を上げて男女の接合点を見やり、ラグナの言葉通りになっている自らの女陰を見て、羞恥と興奮で更に顔をカァーッと真っ赤にする。

 「このままだと、テメェのマンコ、オレのチンポでぶっ壊しちまうかもしれねぇな…!」

 意地の悪い追撃の言葉を語ると、ノエルはクテッと首を床に落とすと、ラグナの逞しい胸板に手を伸ばし、筋肉の隆起を撫で回しながら熱っぽく訴える。

 「壊してください…! 私のこと、ラグナさんのすごいオチンポで…!

 めちゃくちゃにしてくださいっ!」

 叫びながらノエルは、再び自ら腰を振る。激しいセックスは男女の接合点から互いの体液をヌラヌラと中空に飛ばし、ノエルの金色の茂みをネチャネチャに汚してゆく。

 …そして遂に、2人の狂愛は大輪の絶頂の花を咲かせる。

 「射精(だ)すぞっ! ぶっ壊れちまえっ!」

 「来てください、ラグナさぁんっ!」

 互いの叫びが重なり合った、その瞬間。

 ドビュルルルビュルビュルビュルビュルルルッ!

 ノエルの胎内でギチギチに膨張していたラグナの男根がドクンと震えたと思うと、その先端から濃厚な、極めて粘性の高い白濁が一気に噴出する。

 「ひゃああううぅぅんっ!」

 ビクビクと痙攣しながら、眼を見開いて叫ぶ、ノエル。その胎内ではラグナの大量の精液が膣を限界まで押し広げながら、ジャブジャブと子宮口を叩く。まるで子宮が炎と化したような灼熱と、脳天から天頂にまで及ぶような電撃的快楽が、全身の神経にくまなく襲いかかる。

 胎内のラグナのイチモツからの射精は、なかなか終わらない。ラグナは噴出の快楽をもっともっとと貪るように腰を振り、ノエルの胎内に精を押し込む、押し込む、押し込む。

 大量の精はついにはラグナとノエルの合間を押し分けて、ゴボゴボと泡立ちながら女陰から吹き上がるのであった。

 …たっぷり数分が経過したのち。ラグナの腰がようやく止まったころには、ノエルは火照り汗で濡れる五体をグッタリと床に投げていた。

 ラグナもまた、自らの激しい行為に荒い呼吸をハァハァと繰り返し、一気に噴き出していた汗をポタポタとノエルの腹部に落とす。腰に変な慣性がついてしまったようで、しばらく小さくカクカクと動かしていたが…ふぅー、と長く息をつくとピタリと腰を止め、ズルリとペニスをノエルの胎内から引き抜く。

 ペニスに引きずられた精が、ドロォリとノエルの内部から流れ出した。

 「可愛かったぜ、テメェ…」

 ラグナは未だ汗に濡れる顔に穏やかな笑みを浮かべると、瞼を閉じて快楽の余韻に浸るノエルの頬に口づけをしてやった。

 

 こうして性宴は幕を下ろした、かと思いきや…。

 ノエルの絶頂の叫びによって呼び覚まされたのだろうか。それまで快楽の衝撃に身をゆだねて眠っていた2人――ジンとニューが目を覚ますと、ゆっくりと身体を起こしたのだ。

 「兄さぁん…」

 「ラグナぁ…」

 2人は共に獣のように四つん這いになると、飢えた肉食獣のようにギラつき、発情した雌豹のように潤んだ瞳をラグナに向けてくる。

 ノエルとの激しい淫行は、この2匹の欲獣の本能を呼び起こしてしまったらしい。

 ラグナは彼らに目を向けて、苦笑する。

 正直、身体はひどく疲れている。己の精とノエルの愛液でヌルヌルに濡れたイチモツはゆっくりと縮み始めている。絶頂後特有の眠気が、再び鎌首をもたげている。

 しかし、ラグナは決して2匹の性獣を拒みはしない。

 ノエルと交わした激しい愛を経て、情欲に目覚めた今のラグナは、深く理解する。

 この2匹の性獣の瞳の奥にキラリと輝く一途な光――自分に対する、純粋無垢にして見返りを一切を求めぬ愛情を。

 それを受け入れることは、決して苦しいことでも、恐ろしいことでも、汚らわしいことでもないことを。

 むしろ、それに身を委ねることで、厳冬の中でも天頂の太陽に抱かれたような、躍動感溢れる熱い快楽の悦びを得られることを。

 それは拒絶するものではなく、両手を広げて歓迎して迎え入れるべきものなのだ。

 情欲と共に愛に目覚めたラグナは、2匹の性獣に対して大きく腕を広げ、逞しい胸板を晒す。

 「あいつとだけ、あんなに激しくヤるのは、確かに不公平だよな。

 テメェら、まとめてかかって来いよ。オレが、受け止めてやる」

 ラグナの身体から発される激しい愛の熱風に吹かれ、ジンとニューは陽を受けて夜に燦然(さんぜん)と輝く満月のように、パァッと顔を輝かす。そして、愛する主に向かって走り出す子犬のように、四つん這いのままバタバタと手足を動かしてラグナの胸に飛び込んでゆく。

 そんなラグナの背後で…。ぐってりと火照った身体を横たえていたはずのノエルも、ヨロヨロと上体を起こした。先刻に気をやるほどによがり狂っていたというのに、瞳には不屈の愛欲の炎を灯して、ラグナにすり寄ってくる。

 「ラグナさん…私だって、まだ終わりじゃありません…!」

 そんなノエルの闘志にも似た愛を見て取ったラグナは、フッと笑うと腕をより一層大きく広げ、ノエルの方にも伸ばす。

 「なら、お前も来いよ。

 まとめて相手してやる」

 「兄さん…!」

 「ラグナぁ…!」

 「ラグナさんっ!」

 

 ――そして3匹の性獣は、ラグナという雄々しき主に貪り群がる。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 それから4人は、どれだけの間、身体を交わし続けたことであろうか。

 ラグナにも情欲の炎が付いたことにより、行為は一層エスカレート。室内はむせかえるような淫臭が立ちこめる、濃厚な桃色の独壇場と化す。

 ジン、ニュー、ノエルの3人はラグナの身体を中心にして性行為を行うことは勿論、互いに身体を重ね合ってよがり狂いもした。

 ニューがラグナと、ノエルがジンと身体を重ねつつ、ニューとジン、ラグナとノエルとで官能的な接吻をヌチュヌチュと交わすシーンなど、乱交という短い言葉ではとても表し切れない情熱と卑猥さが漂っていた。

 途中、ラグナはジンに何度か尻を貸して掘られはしたが、さすがにこれだけは何度経験してもあまり気に入らないようで、やられる度にラグナは顔をしかめていた。だが、ニューやノエルの唇や陰部による愛撫によって、その小さな不快感は巨大な桃色に塗りつぶされていた。

 4人の身体は見る見るうちに白濁やら愛液やら唾液でベチャベチャヌルヌルになり、どの身体の間もネットリとした粘体の糸でつながっていた。

 「よし、イくぞ、テメェら…! しっかり、口で受けろよ!」

 「ああ、兄さん、たっぷり出してよ! 兄さんの欠片を!」

 「ラグナのとっても濃いザーメン、飲み込みたいよぉっ!」

 「ラグナさんの色で、私の舌を、体中を、染めてくださぁいっ!」

 「じゃあ、射精すぜ、テメェら!」

 ジン、ニュー、ノエルの3人の舌でベチャベチャに愛撫されていたラグナのイチモツは、ドクンと陰嚢を振るわせビクビクと陰茎を痙攣させると、盛大に白濁をぶっ放す。

 3人は舌を伸ばして降りかかってくる大量の精を受けるが、振りまかれる精は舌にとどまらず、3人の顔をベットリと生臭い白濁で汚す。

 十数秒の後、ラグナの男根はようやく勢いを失い、ビュクビュクと滴を垂らすだけとなる。そこへすかさずニューが舌を伸ばして亀頭を舐め回し、もっともっととせがむ。

 続いてジンもノエルも負けじと舌を延ばし、互いに頬を寄せ合って陰嚢を舐め回す。

 競って口での愛撫ばかりを始める3人を、やれやれ、という感じでラグナは見下すと。ちょっと飽き飽きした感じを醸し出しながら訴える。

 「そろそろマンコが欲しくなってきたな。ニューかノエル、どっちでもいいから、挿入させろ。

 残った1人は、オレとキスしろ。最高に濃厚でディープなヤツだ。

 ジンは、オレのケツをまた貸してやる。ガンガンに突いて来い」

 「私やるよ、ラグナ! ラグナのふっといオチンポ、下の口でくわえたいもん!」

 「…いいですよ、私、キスで。

 でも今度やる時は、ニューさん、私がラグナさんのオチンポをハメますからね!」

 「兄さん…嬉しいよ、僕を求めてくれて…! 僕は兄さんのためなら、いつでもこのイチモツ、ビンビンにするからね…!」

 

 ――こうして淫宴は更に濃厚に、更に淫猥に、いつまでもいつまでも続いてゆく――。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 淫魔が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する夜がようやく西へと去り始め、東の空が白み始めた頃。

 全裸のラグナは、独りでベッドの上で仰向けになり、頭の後ろで手を組んで天井に視線を投げていた。

 少し前にシャワーを浴びたので、全身をベチョベチョにぬらしていた体液はすっかり流れ落ち、馨(かぐわ)しい石鹸の香りがふんわりと逞しい身体から香り立っている。

 天井を眺めるラグナは、取り立てて何かを考え込んでいるワケではない。単にサッパリした身体の感触を楽しんでいるのと、お湯で火照った身体を涼んでいるだけだ。

 ふと、チラリとベッドの下に視線を向ける。するとそこには、未だ体液にまみれた2人分の裸体――ジンとニューが寝転がっている。彼らは、特に汚れた股間を隠しもせずに露わにしたまま、スゥスゥと穏やかな寝息をたてて眠り込んでいる。

 両手の指では数え切れないほどの回数の交接を繰り広げたのだ。いくら旺盛な性欲を持っていようと、さすがにスタミナが尽きたらしく、シャワーを浴びて身体を清める余裕もなく、眠り込んでしまったのだ。

 そして、彼らの身体の周囲、フローリングの床には、ネチャネチャとこぼれた体液が広がっている。

 この有様を見て、ラグナは苦笑する。

 (念入りに掃除しねぇと、染みになりそうだな…

 こいつらにも手伝ってもらうとするか)

 そんな事を考えていると、奥の方にある浴室の引き戸がカラカラと音を立てて開いた。そこから現れたのは、艶やかに濡れた金色の長髪を晒し、ツルリとしたスレンダーな身体をバスタオルでくるんだ、ノエルである。

 彼女は床に滑る体液を器用に避けながらヒタヒタと裸足でラグナのベッドに向かい、彼の隣に腰掛ける。彼女の重みでベッドがキシリと軋み、ベッドマットがへこむ。

 「バスルーム貸していただいてありがとうございます、ラグナさん」

 ノエルがニッコリと笑って礼を述べる。彼女もかなりの回数で身体をまぐわっていたが、警官という職業柄によるものか、結構タフのようだ。眠そうな様子も見せず、ラグナとの時間を楽しもうとしている。

 「風呂もシャワーも減るもんじゃないからな。

 ま、水道代はかかるけどな」

 寝ころんだまま答えるラグナの言葉には、意地の悪い冗談が含まれている。

 「なんなら、私が水道代、払いましょうか? これでも警官ですから、手取りは良いんですよ」

 ノエルも負けじとふてくれされることなく返してくる。そんなやりとりが楽しくて、ラグナはくつくつと声を漏らして笑う。

 しかしすぐに笑いを引っ込めると、ラグナはまた天井に視線を向けると、そのままノエルに尋ねる。

 「お前、これからどうするんだ? 今日、平日だしよ、これから出勤じゃねぇのか?

 オレは、昨日今日と連休だから、問題ねぇけどさ」

 「どうしましょうね」

 ノエルは肩をすくめ、舌をチロリと出し、困ったように笑う。とは言え、本当に窮しているというよりは、状況を楽しんでいるようにも見える。

 「まっ、上司にはうまく言い訳して、今日はお休みをいだたきますよ。

 さすがに、これからお仕事をこなせるだけの体力はありませんから」

 「で、オレの部屋で休むワケか?」

 またも意地悪な質問をしながら、ラグナがノエルに視線を向ける。するとノエルは、今度は質問をいなすことなくまっすぐに受け止めたようで、顔を哀願の色に染め瞳を潤ませて尋ねてくる。

 「…いけませんか?」

 両手を胸の前に組んでさえ見せるその様子は、オーバーな演技のように映るが…演技であろうとなかろうと、ラグナはその姿にドキンとときめきを抱かずには入られなかった。

 ――やっぱりコイツ、可愛いな。

 胸中で感想をつぶやきながらラグナは上体を起こすと…。

 「いつまででも居れば良いさ。お前さえ良けりゃ、な」

 そう言葉を口にすると、ノエルがきょとんとしながらも、頬をほんのりと赤く染める。

 そんな可憐な表情のノエルにラグナは顔を近づけると、ゆっくりと唇を重ねた。

 ノエルもラグナの口づけを受け入れ、トロンとした伏し目になりながら、ラグナの唇をンクンクと貪る。

 

 今、ラグナは夜を追いやりつつ昇る太陽と共に誓う。

 自身を一身に愛してくれた者たちを、一人残らず受け入れ、自分もまた愛そうと。

 きっかけは、歪(いびつ)な劣情であったかも知れない。

 しかし形はどうあれ、"愛"であることには変わりないのだ。

 その健気な愛情に応えてやりたい。

 そして、一緒に享楽を共有したい。

 今、唇を重ねているノエルとは勿論のこと。実弟のジンであろうと、薄幸の少女ニューであろうと。

 (そして、あいつとも…)

 ラグナの脳裏に浮かんだのは、ツインテールの金髪をした高貴な少女、レイチェルだ。

 情欲と愛情に目覚めた今のラグナには、分かる。ここにいる3人よりはもっと真面目な形はしているものの、彼女もまたラグナを強く、強く求めていることを。

 (全部、オレがこの腕で抱えてやるよ)

 その強い想いが伝わったのか、それとも想いを受け入れられたことに感激が極まったのか。情熱的な接吻を交わすノエルが、頬に一筋の涙を流す。その滴は爽やかな朝日を受け、キラキラと輝いている。

 窓の外では、小鳥たちの力強いさえずりが、新しい日の始まりを告げていた。

 

 ―了―


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