モンスターハンター転生~全てがリアルになった世界で~ 作:メンダコ民族
ごめんなさい
私は物心つく前からずっと鉄を打ってきた。父のように。
他人との交流は無い。話すより作業をしていたほうがずっとやりがいがある。
村の人間で私が知っているのは二人。私の父と母、村長だ。
私が産まれてから六年後のある日、四人目が出来た。その男は自分をオリーヴァと名乗った。
不思議な奴だ。
「クトゥナ起きてるかー!?オッハー!朝飯食べに来たぞー!」
うるさい。
強く、連続して戸を叩く音がする。
あいつだ。
ベッドから出て扉に向かう。寝惚け目を擦りながら戸を開ける。
「うるさいぞ。あさからなにごとだ。」
「飯食いに来たぞ!オラさっさと着替えて飯だ飯!早くその下着姿何とかしろ!」
「したぎ?なに、を……」
思考が少しの間止まる。その後自分の身体に目を向ける。
「みるなぁ!!」
勢いよく扉を閉める。
顔が熱くなっていく。
あいつに見られた!
「おっ!?どうしたどうした!?クトゥナの癖に羞恥心でも芽生えたか!?」
「うるさい!さっさと行け!」
「ははははは!お望み通りにお姫様!無礼かとは存じますが、一足お先に朝餉へと向かいます!」
「だまれ!」
そうしてあいつは扉から遠ざかっていった。笑いながら。
クローゼットから服を取り出し、着ていく。
(あいつにみられた!あいつに!)
どんどん顔が熱くなっていく。
母や父に見られても別になんともない。だがあいつは駄目だ、すごく顔が熱くなる。
こんなことは前にもよくあった。なぜなのかはよく分からないが、嫌な気持ちでもなかった。
着替え終わると扉を開けて食事に向かう。
そこには既に座って待機しているあいつがいた。
「……だと思うんですよ親父さん!どう思います!?」
「…ウム…」
「おっクトゥナやっとか!さっさと座れよ!」
遠慮など知らんとばかりに食卓にいるあいつ。
寡黙な父と何故ああも簡単に会話出来ているのか分からない。
「あらクトゥナ、顔が少し赤いわよ?大丈夫?」
まだ顔の火照りが収まっていなかったのか、母が座った私に声をかける。
「べつに…だいじょうぶだ…。」
「……あら?成る程…」
母の口がにやけた。
…こいつが帰った後、またよく分からないことを言われそうだ。
「何だまだ怒ってんのか?」
「おこってなどいない。」
「…そうか?ならいいや、この間……」
こいつが朝に食事に来た時、いつも騒がしくなる。
別に不快ではなかった。そしてもう少しこいつの傍に寄りたい、と思ってしまう自分が不思議だった。
───実を言うとオリーヴァは演技中で、いくら何でもデリカシーがなかったかとは思っている。
6歳に対してどんな態度で接すればよかったかなど、自分は6歳として適切に行動できているかなど、出来るだけ友好的な関係を築きたいので、細心の注意を払い、ひとりひとり見極めながら態度を変えているのでストレスが溜まったりする。緊張の連続である。
ただ相手の負の感情ばかりを気にしているので、好意にはまったく気づかなかったりする。
私は12歳になった。
相変わらずあいつは私の所によく来る。そのせいで普段の作業にあいつがちらつく。
あいつのことを考えると不思議な気持ちになる。
「ようクトゥナ、相変わらず精が出るな。」
「……これが私の仕事だ。」
こいつは音も立てずによく私の後ろに来る。
そのせいで驚いたため、よくからかわれた。
……心の奥底から喜びの感情が湧きだす。にやけそうな顔を抑えながら返事をする。
「なぁクトゥナ、今日、俺は話があるんだ。」
「……なんだ?」
村にモンスターが来たとき。そんな時と同じ顔だ。何故か、少し、見とれてしまう。
「俺はな、外に鉄を取りに行こうと思うんだ。」
「鉄だと?……行けばいいではないか。」
少し、不安な気持ちが生まれる。
だが狩人と行くのだろう。私から見てこいつはかなり頭がいいし、肝が据わっている。きっとこいつなら問題ないだろう。
「ああ、違う違う。一人で行くつもりなんだ、深夜に内緒で。」
「な、に?」
(こいつは、なにを、)
完全な不意打ちの言葉に一瞬思考を停止する。
それほど外は危険なのだ。普段の訓練をしている狩人ですら死は免れられない。そういう場所なのだ。
動揺した私に構わず、言葉を続けて来た。
「最近、モンスターが迷い混む事が多いだろ?だから武器が要るんだ。出来れば早急に。」
「ま、まさかモンスターに一人で挑む気が!?お前がそんなに短慮だとは思わなかったぞ!?」
「今じゃない。ただ実際の武器を持って訓練しないと意味がないんだ。」
村に迷い混むランポス。あれ以外にもいるのかもしれないが、モンスターというのは人間が集団でやっと相手に出来るモンスターだ。
一目見れば分かるのだ。鋭く尖った爪に、硬い鱗。高い跳躍力を有する肉体。
勝てるはずもない。
「だ、だが採掘ならお前が行かずとも!」
「村は常に鉄不足だ。それに12の子供の玩具に命を懸ける人間はいない。」
私はよく周りから、子供にしては落ち着いていると言われるが、こいつは昔から頭がいい。
こいつは蛮勇ではなく勝算があり、近い内にモンスターに挑むと言っているのだろう。
(だが、それでも…)
私はきっと、こいつが死んだら悲しい。だから…
「……駄目だ、お前は行かせない…」
「頼む!お前にしか頼れないんだ!」
「うぇ!?」
急にあいつは立ち上がり、私の手を握る。そのせいで変な声が出てしまう。
「は、はなせ!」
「いいや離さない!そして俺は!お前に武器を作って欲しいんだ!」
(私に?何故だ?どうして?私だけにか?)
頭が上手く回らない。顔はどんどん熱く、緊張で心臓が跳ねる。
「わ、わたし、だけにか…?」
「…? ああ!お前だけにだ!むしろお前がいい!お前じゃなければ駄目だ!」
少しの間の後、告白の言葉みたいだ、と自分で思い、さらに顔が熱くなる。
「わ、たしで、い、いの、か?」
「お前がいいんだ!お前のくれた装備で、お前を守りたい!ずっと一緒に(友達として)暮らそう!好きだ!(友達として)愛してる!」
こ、こいつは、いったい、
「な、な、な、にを」
「俺に!お前の武器を!作って欲しいんだ!頼む!」
「ひゃ!」
オリーヴァの両腕が私の身体を引き寄せ、抱き寄せる。
(もう、むりだ…)
羞恥でどうにかなってしまいそうだった。
だから、これはもう仕方ないだろう。
「わ、かっ、た…」
了承の意のかすれ声を絞り出した。
「本当か!?ありがとう!」
「わ、わかったから、は、なせ…!」
「ああ、悪かった…」
「あ……」
離れていくオリーヴァの体温に私は物寂しさを感じた。
だがもう一度抱き締めてくれなんて言えるはずもなかった。
「ありがとうクトゥナ…俺は採掘の為の準備を始めるから、鉄鉱石が集まるまで待っていてくれ!何日後かは分からないが、必ず集める!」
「わ、かった……待っている、オリーヴァ……」
走り去るオリーヴァに向けて声をかけた。
最後の声の大きさがしりすぼみになっていたが、きっと聞こえただろう、気づいただろう。
私の、精一杯の、好意は。