魔王退治のご褒美にエリス様を娶った僕がアクア様に身も心も奪われる話 作:ブラックマンバ
第6話
さて、アクアが我が家に居着いて、もう1ヶ月も経ってしまった。
見事なまでの居候である。
僕はうんざりしてしまったが、初日であんな醜態を見られてしまっては、弱みを握られてしまったも同然であった。
エリスもアクアに対しては、どうしても弱腰になってしまってしまうようだ。
「あ、あの先輩、そろそろ天界に帰らないとまずいんじゃないですか?」
「あによぉ、今はバカンス中なのよぉ。それに、この世界でちょっと野暮用あるからさあ、それが終わったらすぐにでも天界に帰るわよ。だから、いいじゃないちょっとぐらい泊まらせてくれてもぉ。あんただってこんなところで新婚さんごっこでバカンス中じゃないの。ねえねえねえ、あんたばっかり下界で満喫してズルイじゃない!」
「新婚さんごっこって、わ、私は本気でっ旦那様のことを愛してるんですっ!」
「ひゅーひゅーひゅー、お熱いわねえ。あ、お酒切れちゃったから買ってきて頂戴」
「昼間っから酔っ払ってるんじゃない! あ、おい、なんだその目は、何か文句でも……」
「あっ! 旦那様、わ、私が買ってきますから!」
「あはは~いってらっしゃ~い、私が旦那様の相手してるからぁ~♡ ゆ~っくり買い物してきてね~」
「うわぁああ、エリスぅっ。頼むから早く帰ってきてくれぇ~!」
「はっ、はいぃ~!」
「ああっ、うちにあるもので宴会芸をやるなっていつも言ってるだろう! この酔っ払い!」
ところで……女神エリスは幸運の女神と言われている。
そして、エリスは買い物帰りに商店街のお祭りくじ引きを、うっかり回してしまった。
「おめでと~ございます~! 屋敷の奥さんクリス様! 1等大当たり! 1等大当たりでございます~!」
カランカランカラ~ン。
当たったのは、「温泉街アルカンレティア一週間の旅、一組三名様ご案内」。
「さぁ~っすがエリス、やるじゃない。丁度いいわねそれ。私、それでアルカンレティアに行って野暮用終わらせたら、天界に帰るから」
その言葉に、僕達は心の底からホッとした。明日にでも行こうかと、さっそく旅行の準備を始める。
「そうですか、それはよかった。エリス、旅行用カバンはどこに仕舞ったかな?」
「はい、あなた。今すぐにでも荷物を纏めてきます!」
「ふふふ、温泉旅行かぁ……
それを見つめるアクアの視線は、なぜかねっとりとした粘着質なもので、この旅行がただで終わるはずがないと、予感させるものだった。
◇◇◇
ところで、夜の生活の方はあれからずっとなかった。時折、エリスは口でしてくれたが、それで足りるはずもなく欲求不満でムラムラしっぱなし。
「ごめんなさい、私もあなたともっとしたいんですけど先輩が……」
あれから、アクアがそういうアプローチをしてくることは一切無く、僕がそういう視線を向けても、ニヤニヤと笑いながらお酒を飲むか、適当にかわしてどこかに消えて、夕方になってふらりと帰ってきて惰眠と飯を貪るばかりだった。
「なぁに? 私に何か用なの? くすくすくす、ちゃ~んと言ってくれないとわかんな~い♡ 台所にいるエリスに聞こえるような大声で言って欲しいなぁ~♡」
僕としてはヤりたい盛りなので、アクアがいないうちにエリスとセックスしたいのだが、丁度いいところでアクアが邪魔しにやってくる。
こいつまさか、からかうためだけに、ここにいるんじゃないんだろうな?
「あらあらあら、ごめんなさい、お取り込み中だったー? あ、私ちょっと酒場の方に行ってくるからお金ちょーだい♡」
「……」
「……」
黙ってお互いの服を着直すと、チッと舌打ちしながら脱衣所の外に出る。いっそのこと夜は、1階の客室に閉じ込めてしまおうかと思ったことが何回もあった。
夜の寝床でエリスを抱き寄せ、額を、頬を擦りつけ合う。
「なあ、エリス。アクアがアルカンレティアでいなくなったらさ、その……」
「あっ、すっごいえっちな顔してますね、ふふふ……わかりました。いっぱい、しましょうね」
お互いの吐息は熱くなり、瞳が潤んでいく。
窓から入る薄明かりでも、頬から耳まで真っ赤になっているのが分かる。
「ああ、あなた……」
これがいわゆるポリネシアンセックスというものだろうか? お互いに性的興奮を高め合うが、性器には一切触れずに何日もかけてそういう状態にしていく。最後に射精したのは何日前だったか。
「ん、ちゅ……ちゅ……あむ、んっ♡」
「エリス、んっ……ちゅっ……ちゅ」
軽く唇を頬につけて、口周りの柔らかさを楽しみ、胸いっぱいにエリスの匂いを吸い込む。エリスの細い腰を抱き寄せ、硬く熱くなったものをお互いに意識しながら口内を貪った。
「はふ、あ、んちゅっちゅっじゅるっちゅっ……ちゅぅうっ♡」
とろとろに熱くなった舌を絡ませて唾液を交換し、汚れた唇を舐めて綺麗にしてから再び音をたてながら吸い付き、お互いを興奮させる。
「はぁあ……♡ 好き、好きです……ああぁっ♡」
「僕もだよエリス、愛してる……! んっ!」
とろとろになるまで舌と舌を絡ませていくと、ぞくぞくぞくと背筋に快感が走る。アクアに声を聞かせてもかまわない、このままヤってしまえと、本能がざわめく。
「ぷはぁ♡ ああ、アルカンレティアでは本気を出させていただきますから、あんっ♡ 本当に楽しみにしていてくださいね、旦那様ぁ♡」
ああ、だけどもエリスが、ここまでやる気になってくれてるのは本当に珍しい。今、ヤってしまうのはもったいないのではないかと理性がブレーキをかける。
「……うん、いっぱいヤりまくろうな」
「ああ、旦那様……旦那様ぁ……んっちゅっ♡ ちゅぷっ♡」
こうして、お互いに興奮が冷めて眠気が訪れるまで存分にイチャついていた、旅行先での燃え上がるようなセックスの予感に胸躍らせながら。
◇◇◇
アクセルの街から往復約3日(車中泊)、アルカンレティアで3泊4日といった旅のスケジュールである。
急いで行くのなら割増料金を払って、テレポート屋でテレポートするのが一番早いのだが「やだー! せっかくの旅なのにそんなの味気なーい!」というアクアのワガママも有り、魔導バスの停留所へと足を運ぶ。
魔導バス、それは魔力で動くエンジンを積んだバスのことである。ひょっとしたらどこかにあるかもしれない石油を掘ればガソリンを精製できるかもしれないが、魔力という便利なものがあるんだからそれ使おうぜ! 出来た! というものである。もちろん異世界転生者が作った。
「ふええ、すっごいトゲトゲね……なにこれ、体当たりでもするの?」
「できないこともないけど、これは威嚇用かな」
「そうだね、そもそも近づけさせないのが魔導バスの基本方針だし」
道中のモンスター対策に(魔王軍が滅んだとはいえ残党はまだいるし、モンスターは当たり前のようにそこらにいる世界なのだ)バスに装甲板を張り付け、冒険者ギルドが雇った索敵手と魔法使いが上に乗って警戒する。近づくものあらば魔法で追い散らし、それでもダメならスピードを全開にして逃げる。
盗賊や魔王軍がバスを狙ってきたのなら、複数のバスで防衛陣形を敷いて、救難信号を出した後、徹底抗戦をする。僕も何度かそれに参加したことがある。
「あ、勇者殿じゃないですか! あれ? おかしいですな、名簿にはあなたのお名前はなかったはずですが……」
「それ、どっちの名簿だい? 今日はアルカンレティアまで旅行に行くんだ、客人扱いしてくれよ」
「おや、それは失礼しました。それにしても勇者様が乗ってくれるのでしたら、大船に乗った気持ちでいられますなあ!」
魔導バスの受付所で話しかけてくる人がいた、髭を生やした中年の男性。この受付所の責任者で、冒険者として何度かお世話になったこともある人物だ。
そして、僕の後ろにいる2人の女性に気がつくと、そっと囁いてきた。
「それにしても、王都の姫様との婚約を蹴って、盗賊の小娘と結婚すると聞いた時はバカなことをしたもんだと思いましたけど……あんな美しくなるとは思ってもいませんでしたよ」
そろそろ秋に入り、エリスはお出かけ用のチェック柄ワンピースにツバの広い帽子を被っていた、どこからどう見ても旅行中の若奥様の風体だ。エリスが盗賊だなんて気がつくのは、同業者でもよっぽどレベルの高い連中くらいだろう。
「しかも、勇者殿は新婚なのに、どうして女性が2人もいるんですかな? しかも、あの子もとびっきりの美人だ。両手に花で温泉旅行とか、嫉妬の呪いで殺されかねませんぞ」
いつもの青色のミニスカワンピースを着ているアクアは、僕達の視線に気がついたのか、にっこりと笑みを浮かべる。その女神の笑みに責任者さんは一瞬ぽかんとして、口笛をヒューっと吹く。
「ああ、勘違いしないでくださいよ、あの娘はクリスの先輩でアクアっていうんだけど、アルカンレティアに用があってね」
「アクア? ああ、アクシズ教の関係者でしたか、それはくわばらくわばら」
責任者さんは十字を切ると、すぐに納得してしまった。本当にどれだけなんだアクシズ教徒。
「それでは良い旅を、ああ一番いい席を取っておいたので期待しててくださいよ」
魔導バスに乗り込む。見た目はマッド○ックスか、メタル○ックスか、だが中は意外と広くて豪華だ。道交法など知ったことかとばかりの巨体にリクライニングシートが並べられ、内装も元の世界の夜行バスと大差ない。
ただ、夜行バスと違うのは、全ての窓に鉄格子が嵌まっており、いざとなったら窓に装甲板が降りてくるところだ。
一番いい席、というだけあって僕達には一番後ろのシート席が指定されていた。
「あ、私、窓側とーった! 私って酔っちゃうから! 絶対に酔っちゃうから! ね? いいでしょ? ねぇー!」
僕達は、それでいいよと苦笑いしながら席に着く。ただし酒は飲むなとしっかりと釘を刺しておいた。
窓側からアクア、エリス、僕、といった並びで座る。そういえばこうしてお客様として魔導バスを利用するのは初めてかもしれない。
「さあ! 出発よー!」
正午になって定刻通りに発車、乗車率は6割ほど。大型の魔導バスが5台、アクセルの街の門をくぐり抜けると、キャラバンとなって進んで行く。
アクアは目をキラキラさせながら鉄格子を掴み、丸窓からアクセルの街の郊外を眺めていた。
城壁の外は見事な田園地帯、そこを魔導バスは進んで行く。
やがて、アクセルの街の郊外にある名物が見えてくる。直径2kmの丸い溜め池が2つ、双子のようにくっついている。いや、もはや湖と言っていいだろう。
「わお、でっかい湖ー!
「ああ、なんでもここは昔、どえらいアークウィザードが魔王の軍勢と戦った時に出来たクレーターで、超絶級の爆裂魔法の爆心地なんだってさ。地形も変えてしまうような一撃で、いつの間にか川の水が入り込み、アクセルの街付近の農業用ため池にしてから、ここで日照りの被害はほぼ無くなったんだって」
と、座席の前の網に突っ込まれていたアクセル~アルカンレティアの観光案内パンフレットを読み上げる。
「へえ……それでなんて名前なの?」
「ああ、だからここは……」
恵みの池っていうんだ、と言うとアクアは腹を抱えて大爆笑しだした。あまりの馬鹿笑いに他の乗客からジロりと睨まれてしまう。ホントに何やってんだこいつ……
兎も角、こうしてアルカンレティアへの温泉旅行は始まったのである。