※この作品はR-18です。

【NTR】奥手なエロゲー主人公の代わりにヒロイン全員攻略してみた   作:悠木仁

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第0.1話 風見唯

「――ん、――ちゃん!」

 

 真っ黒な暗闇の中、どこからともなく聞こえてくる少女の声。どこか聞き覚えのあるその声に釣られ、風見凪(かざみなぎ)の意識は覚醒した。鉛でも乗せてあるかのような、重い瞼をゆっくり開くと、目に映ったのは大きな瞳。眼球を動かし、少女の顔を舐めるように見渡す。視界いっぱいに広がる彼女の顔は、見慣れた家族のそれだった。

 

「おはよう、お兄ちゃん!」

 

 ベッドに横たわる男を兄(・)と呼ぶその少女は、満面の笑みを浮かべてそう言った。

 

「おはよう、唯(ゆい)」

「朝ごはん、できてるよ。冷める前に食べちゃって」

「ああ、すぐに行くよ」

 

 彼女――風見唯(かざみゆい)は、風見凪の妹である。真っ白な肌に、片側で結われた健康的な黒髪。家庭的で誰にでも優しい彼女は、凪の自慢の妹だ。

 凪はベッドから降りると、すぐさま着ていたパジャマを脱ぎ始める。すると、その様子を見ていた唯が取り乱した。

 

「ちょ、ちょっと! 私の前で着替えないでって前にも言ったでしょ!?」

 

 慌てて両手で目を覆う唯。しかしよく見ると、指の隙間からチラチラとこちらを覗き見しているのが分かった。嫌なのか大丈夫なのかはっきりしてほしいところだが、凪はぐっと言葉を飲み込んだ。

 

「おっと、悪い悪い。でも兄妹なんだし、別に気にしないけど……」

「だ、だめっ! 私が気にするから!」

「うん、そうか……なんか必死だな」

 

 数年前までは特に何も言ってこなかったのだが、最近はどうやらそういうこと(・・・・・・)に気を使い始めたらしい。思春期というやつだろうか。いつまでも子供だと思っていた彼女も、今年は高校受験を控える身だ。成長を嬉しく思う気持ちがある反面、どことなく寂しい。

 凪の発言を聞いた唯は顔を伏せ、小声でぽつりと呟く。

 

「兄妹だから困ってるのに……」

「……ん? 何か言ったか?」

「な、なんでもないっ! 先にリビングで待ってるから!」

 

 勢いよく部屋から飛び出す唯。階段を駆け降りる振動がここまで伝わってくる。

 

「女心はよくわからないなぁ……」

 

 1人残された部屋で溜息を吐き、凪は再びパジャマに手をかけた。

 

 

*** *** ***

 

 

 リビングへ入ると、長方形のテーブル上には豪華な食事が並んでいた。見渡すと、どれも手間のかかる料理ばかり。これが全て手料理だと言うのだから驚きだ。作ったのは当然母親――ではなく、妹の唯であった。昔から出張の多かった両親が2年前に家を出て以来、家事は全て彼女が行なっている。最近は、受験勉強で忙しいだろうと凪が手伝うこともあるが、それでも彼女がいなければ家が回らないだろう。

 凪は自分の席に着くと、顔の前で手を合わせ、愛妹と食材に感謝を述べた。

 

「いただきます」

「はーい、どうぞ!」

 

 テーブルに隣接するカウンター越しで唯が応える。制服の上に花柄のエプロンをつけた彼女は、余ったおかずを丁寧に弁当箱へと詰め込んでいた。黒色とピンク色の弁当箱が並んでいる。片方は凪のものである。以前、「貯金には余裕があるから学食でいい」と伝えたのだが、「お兄ちゃんにはバランスの良い食事をとってほしい」と断られてしまっていた。

 『お兄ちゃんが「美味しい」って言ってくれるだけで十分だよ!』

 毎朝大変な思いをさせて申し訳ない気持ちはあるが、あんなことを言われてしまっては引き下がらざるを得ないだろう。

 凪はふと箸を止め、咀嚼していた玉子焼きを飲み込むと、愛する妹へ感謝の言葉を口にした。

 

「美味しいよ、唯」

 

 突然の言葉に戸惑いを見せたが唯だったが、すぐに笑顔を取り戻し、満面の笑みで応えた。

 

「うんっ!」

 

 その表情はいつにも増して明るく見えた。

 

 

*** *** ***

 

 

 学校の支度を整えて玄関へ行くと、そこにはいつも通り(・・・・・)唯が待ち構えていた。彼女は左手を自らの腰に当てると、右手の人差し指を立てた。学校の教師を真似ているのだろう。

 

「ハンカチとティッシュは持った?」

 

 まるで母親のような問いかけに、凪は「持った」と答えた。

 

「学生証と財布――それと、今日は体育があったよね? 体操着も忘れちゃだめだよ?」

「あれ、そうだったか? すまん、取ってくる」

「もう……いいよ、私が取ってくるから。お兄ちゃんは他に忘れ物がないか確認してて」

「ああ、悪いな」

「いいよ、慣れたから」

 

 呆れたようにそう言い残し、唯は階段を登っていった。

 

「慣れたって……俺、そんなに忘れっぽいか? それに、他の忘れ物なんて…………あっ」

 

 凪は鞄をその場に置くと、無言で階段を登り始めた。

 

 

*** *** ***

 

 

 部屋の前に到着すると、なぜか扉が閉まっていることに気がつく。唯はどこへ行ったのだろうか。疑問に思いながらも、凪はガチャリとドアノブを回し、自らの部屋の扉を開けた。するとそこには――

 

「ふぅ……ふぅ……お兄ちゃんの匂い……すぅー……はぁー……むふふふ」

 

 兄の体操着に顔を埋めた妹の姿があった。

 体操着を取りに来たはずの唯が、なぜか恍惚の笑みを浮かべながら兄の体操着に顔を擦り付けていた。

 

「すんすん、洗う前もいいけど、洗った後の染み付いた香りもなかなか……むぐむぐ……えへへ……」

 

あまりの予想外かつ奇妙な光景に、凪はついたじろいでしまう。すると、引いた腕の肘が部屋の扉に衝突。ゴンッと鈍い音が部屋中に鳴り響いた。

 

「痛っ!! ――あっ」

 

 咄嗟に口を抑えたが時既に遅し。体操着から顔を離した唯とばっちり目が合ってしまう。

 

「「…………」」

 

 数秒間の無言。永遠に続くとも思われたその凍りついた空気を断ち切ったのは、顔を真っ赤に染めた唯の方だった。

 

「お、おおおおおおお兄ちゃん!? どどど、どうしてここに!?」

「いやー……ちょっと忘れ物を取りにだな。それより、今のは……」

「い、今のって……何のこと……かな……?」

「お前が俺の体操着の匂いを――」

「ぎゃーーーー!!」

「うおっ、危なっ!?」

 

 唯の叫びと共に飛んできた体操着を間一髪避ける凪。普段は穏やかな彼女にしては珍しい行動だ。

 

「ち、違うの! あれは、その……そう! ちゃんと洗えてるかチェックしてたんだよ!」

「それにしては随分熱心に嗅いでいたような……」

「〜〜っ!!」

 

 ついに目元に涙を浮かべ始めた唯。激情に駆られ、タンスの服を次々と引っ張り出しては凪の方へ向かって投げ始めた。

 

「お、おい! 危ないだろ!」

「知らない! 知らない知らない! お兄ちゃんの馬鹿! 変態! 覗き魔ーー!」

「変態はどっちだ――わぷっ」

 

 飛ばされた凪のパンツが彼自身の顔を襲った。

 その後、暴れる唯を宥(なだ)めるのに30分を要してしまい、2人揃って学校に遅刻するのであった。

 

 




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